事業譲渡における法務デューデリジェンス(DD)の範囲の限定方法!

事業譲渡スキームにおける法務デューデリジェンス(DD)のスコープの限定

まず、株式譲渡方式の場合は、買主は対象会社を法人ごと承継することから、法人に関する権利義務についても、法務デューデリジェンスを行う必要があるが、事業譲渡方式や会社分割方式では法人に関する権利義務はデューデリジェンスする必要はない。例えば、対象会社の資本金や株式の状況、定款その他の社内規則、親会社や子会社に関する権利義務、役員に関する権利義務など、すべてデューデリジェンスが必要ないのである。

また、事業承継M&Aの対象会社の事業を構成する権利義務は、一般的には、資産・負債・契約・従業員・許認可である。

株式譲渡方式の場合は、買主は、対象会社とともに、これらの対象会社の資産・負債・契約・従業員・許認可のすべてを承継することとなるのに対して、事業譲渡方式や会社分割方式の場合、買主が承継すべき資産・契約・従業員・許認可について、「対象事業」に関連する資産・契約・従業員・許認可に限定されるのみならず、譲渡の対象を、個別に、特定の資産・負債・契約・従業員・許認可に限定することができ、簿外債務・などの負債を一切承継しないこととすることも多い。

したがって、株式譲渡方式の場合は、資産・負債・契約・従業員・許認可すべてについて、デューデリジェンスを行う必要があるところ、事業譲渡方式や会社分割方式においては、対象事業に関連する資産・契約・従業員・許認可のみについて、かつ、買主の選択した特定の資産・契約・従業員・許認可のみについて、法務デューデリジェンスを行うことで足りる。

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事業承継M&Aのスキーム(事業譲渡スキーム)と簿外債務の承継

また、事業承継M&Aの対象会社となるのは、主として、中小企業・零細企業であり、管理がしっかり行われておらず、多様な簿外債務を負っている可能性が高い。

実際に、著者らに相談のあったケースでは、事業承継M&Aを行ったところ、後日、従業員に対する未払い残業代が発覚して、〇〇万円支払うこととなったとか、販売した製品に欠陥があり、〇〇万円補償しなければならなくなったとか、某社からのクレームがありそれが訴訟に発展し、〇〇円損害賠償せざるを得なくなったとか、仕入先への買掛金を数年間滞納しており、〇億円の負債があることが発覚したなど、例を挙げだすと枚挙に暇はない。

事業譲渡方式や会社分割方式では、負債を承継対象から外すことができるため、このような簿外債務をすべて承継対象から除外することもできるのである。事業譲渡や会社分割を受けた会社は、法的には、そのような簿外債務から完全に切り離される。

事業譲渡方式・会社分割方式と簿外債務の承継

この点、簿外債務の中には、法的に切り離すことができても、事業譲渡を受けて事業を継続する以上、事実上、やむを得ず承継せざるを得ない簿外債務も存在する。

例えば、学習塾事業において、受講生から多額の受講料を前受金として受領していたが、まだ講座はほとんど進んでいなかった(債務を履行していなかった)場合、事業を継続するためには、そのブランドを信頼してすでに受講料を払い込んでしまったそのような受講生を救済する事実上の必要もあり、また救済することにより顧客である受講生を維持する事実上の必要もあり、その前受金債務を事実上承継し、そのような受講生に対してもサービスを提供せざるを得ない。エステサロンなどにおいても同様であり、顧客から多額のコース料金を前受金として受領していた場合、事業譲渡を受けて事業を継続するためには、事実上、そのような顧客に対してもサービスを提供せざるを得ないことが多い。

しかし、そのような債務も、買主としては、法律上は引き継がないことができるのであり、何らかの対応をすることにより、事実上やむを得ず引き継ぐことを避けることもできる。例えば、前述の学習塾やエステサロンの例としては、すべての前受金債務を承継するのではなく、一部だけに限定することも可能な場合がある。英会話のNOVAが経営破綻した際に、承継会社は、その前受金債務をすべては承継しておらず一部だけ承継したはずである。

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事業承継M&Aのスキームと具体的な法務デューデリジェンス(DD)のスコープ

下記表は、M&A総合法律事務所の事業承継M&Aにおける買主から売主に対するM&A資料開示リクエストリストの内容であるが、事業承継M&Aにおいて、株式譲渡方式の場合は、売主から、下記表の資料すべての開示を受け、これらすべての資料と情報について法務デューデリジェンスを行うのであるが、事業譲渡方式や会社分割方式の場合は、下記表の事業譲渡方式・会社分割方式のところに「〇」印又は「△」印がついている資料の開示をのみ受け、これらの資料と情報をデューデリジェンスすることで足りる。

下記表を見るだけでも、事業承継M&Aにおけるデューデリジェンスの負担との関連では、株式譲渡方式よりも事業譲渡方式や会社分割方式のほうが、大幅に負担が軽いことが明らかである。

なお、下記表の「〇」印は原則として開示を要請する資料、「△」印は対象事業に関するもののみ開示を要請する資料、「×」印は原則として開示を要請しない資料である。

【M&A資料開示リクエストリスト】

株式譲渡方式事業譲渡方式
会社分割方式
I.法人・組織
1.定款×
2.商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書及び全ての閉鎖登記簿謄本)×
3.会社概要(社史、事業内容及び経営状況の概要を示す資料、広報用パンフレット等)×
4.取締役会及び経営会議等の組織・機関に関連する説明資料×
5.営業所、事務所、事業所、倉庫等の拠点のリスト×
6.社内規程(株式取扱規則、取締役会規程、職務分掌規定等)×
7.株主総会議事録(過去3年分)×
8.取締役会議事録(過去3年分)×
9.経営会議議事録その他重要な会議の議事録(過去3年分)×
10.監査役の監査報告書(過去3年分)×
11.合併、事業譲渡・譲受、株式交換・株式移転、会社分割、増資・減資の一覧表(過去の全てのもの)、及びこれに関連する全ての契約・書類×
12.資本提携契約、業務提携契約、経営指導契約、技術援助契約等
II.株式・株主  
1.株主名簿の写し×
2.過去における株主の変遷を示す資料×
3.株式に付着する権利制限(質権・譲渡担保等。あれば)を示す資料×
4.株券の写し×
5.過去における株券の発行状況を示す資料×
6.過去における新株発行に関する契約書×
7.過去における自己株式の買受に関する契約書×
8.対象会社と株主との間で締結された契約書×
9.株主間契約書(もしあれば)×
10.新株予約権その他の潜在株式(もしあれば)の発行状況を示す資料×
11.従業員持株会(もしあれば)の状況を示す資料×
12.親会社グループ会社の一覧及び概況資料×
13.親会社及びそのグループ会社との関係の詳細を記載した資料×
14.親会社及びそのグループ会社との取引リスト、当該取引に関する契約×
15.親会社及びそのグループ会社との借入・保証・担保その他の財産上の取引に関する契約×
16.親会社及びそのグループ会社との間のその他の全ての契約
17.親会社及びそのグループ会社のグループ規定で対象会社に適用のあるもの×
III.人事・労務  
1.組織図
2.役員名簿・役員様の経歴に関する資料×
3.役員の権限分掌を示す資料×
4.役員報酬(賞与を含む)・退職慰労金の決定方法及び支給状況を示す資料(役員の報酬等を決定した株主総会議事録、役員報酬規定・役員退職慰労金規定を含む)×
5.対象会社と役員との間で締結された契約書(もしあれば)×
6.従業員の構成(正社員、パート及び派遣の別、年齢構成、勤続年数、給与水準、事業所ごとの所属人数等)を示す資料
7.就業規則(正社員、パート及び派遣の別ごとに)
8.給与規程
9.退職金(退職年金)規程
10.従業員及び退職者の秘密保持及び競業禁止に関する規程又は契約書
11.出向契約書
12.労働協約(もしあれば)
13.労使協定(いわゆる三六協定等)
14.労働組合の状況を示す資料
15.労働基準監督署から指導を受けた場合は是正報告を含めた資料一式
16.労働基準監督署に提出し、又は同署から受領した資料(申告書、届出書、是正勧告書、指導票等)
17.労災事故の履歴及び内容を示す資料(過去3年分)
18.役員・従業員が関与した不祥事・クレーム等に関する資料(過去3年分)
19.懲戒処分の履歴及び内容を示す資料(過去3年分)
20.従業員の解雇・退職等の状況に関する資料(過去3年分)
21.労使紛争の履歴及び内容を示す資料(過去3年分)
22.時間外勤務の実態及び残業手当の支払状況を示す資料(残業時間の管理方法、未払残業代の有無及びその金額)
23.安全管理体制の概況を示す資料
IV.資産(知的財産権以外)  
1.所有不動産のリスト
2.所有不動産の登記簿謄本
3.所有不動産に関して締結した契約書(賃貸借契約書、抵当権設定契約書等)
4.不動産売買に関する契約書(過去2年分)
5.賃借不動産のリスト
6.賃借不動産の登記簿謄本(もしあれば)
7.賃借不動産に関して締結した賃貸借契約書その他の契約書
8.その他、使用している不動産に関する契約書
9.所有する主要な動産(機械設備、備品等)のリスト(固定資産台帳等)
10.所有する主要な動産(機械設備、備品等)に関して締結した契約書(賃貸借契約書、質権設定契約書等)
11.賃借又はリースしている主要な動産(機械設備、備品等)のリスト
12.賃借又はリースしている主要な動産(機械設備、備品等)に関して締結した賃貸借契約書・リース契約書その他の契約書
13.主要な動産(機械設備、備品等)に関するメインテナンスに関する契約
14.保有する株式その他の有価証券及び金融資産、出資金、会員権を記載した資料×
V.知的財産権  
1.保有する商標権その他の知的財産権(もしあれば)のリスト
2.保有する商標権その他の知的財産権(もしあれば)に関して締結した契約書(ライセンス契約書等)
3.ライセンス(もしあれば)を受けている商標権その他の知的財産権のリスト
4.ライセンス(もしあれば)を受けている商標権その他の知的財産権に関して締結したライセンス契約書その他の契約書
5.知的財産権に係る紛争の履歴及び内容を示す資料(過去5年分)
6.営業秘密(顧客情報を含む)についての資料・管理方法・規則
7.情報システムの概要・関連契約・問題点を示した資料
VI.貸付及び借入並びに保証及び担保  
1.借入及びその返済の履歴を示す資料×
2.借入に係る契約書(金銭消費貸借契約書・銀行取引約定等)×
3.借入の担保に係る契約書(抵当権設定契約書等)×
4.貸付(グループ会社、役員及び従業員に対するものを含む)及びその回収の履歴(相手方、金額、回収時期、貸倒れの有無等)を示す資料
5.貸付に係る契約書(金銭消費貸借契約書等
6.貸付の保証・担保に係る契約書(保証契約書・抵当権設定契約書等)
7.デリバティブ取引の有無・概要を示す書類×
8.保証、保証予約、経営指導念書、その他の偶発債務に関する書類×
VII.取引契約  
1.主要事業についての一連の事業・取引の概要を記載した資料
2.主要取引先(仕入先、販売先、委託先を含む)のリスト
3.主要事業ごとに取引の基礎となっている取引基本的契約及びその関連契約
4.販売先との取引基本契約書等の取引に関する契約
5.仕入先との取引基本契約書等の仕入に関する契約
6.納入先との製造受託基本契約書等の取引に関する契約
7.業務委託契約、業務受託契約、製造委託契約、商品共同開発契約
8.運送契約などの物流・倉庫等に関する契約
9.アフターサービス・品質保証に関する契約
10.秘密保持契約
11.その他の重要な契約書
VIII.許認可  
1.事業に必要な許認可のリスト
2.許認可の取得を証する書面
3.許認可の停止、取消等(もしあれば)の履歴及び内容を示す資料
4.許認可の所轄官庁に提出し、又は同署から受領した資料(申告書、届出書、警告書等)
5.所轄官庁から指導・調査・検査・勧告等の概要を示した資料
6.業界団体等への加入状況を示した資料
7.事業活動に対して適用される重要な法規制に関する説明資料
IX.環境問題  
1.営業所・事務所・事業所等における環境問題の内容を示す資料(もしあれば)
2.環境問題に関して所轄官庁に提出し、又は当該官庁から受領した資料(過去3年分)
3.廃棄物・有害物質の産出・処分に関する資料
X.訴訟・紛争  
1.係属中の訴訟及び訴訟となるおそれのある紛争の内容、現状及び見込を示す資料(訴状その他の訴訟書類及び内容証明郵便を含む)
2.取引先からのクレームの履歴及び内容を示す資料(過去3年分)
3.その他のクレームの履歴及び内容を示す資料(過去3年分)
X.法令遵守(コンプライアンス)
1.法令遵守及び法令違反の是正(内部通報等)に関する社内体制を示す資料
2.個人情報の保護に関する規程
3.個人情報の保護に関する社内体制を示す資料
4.法令遵守に関する(内部)監査報告書(もしあれば)
5.法令違反に関して所轄官庁その他の公的機関から受けた指摘、勧告等(もしあれば)の履歴及び内容を示す資料(過去5年分)
XII.保険   
1.加入している保険(火災保険・PL保険を含む)の概要が分かる資料
XIII.その他   
1.税務申告書(過去3年分)
2.決算書(過去3年分)

なお、詳細な解説につきましては、以下の弊所書籍「事業承継M&Aの実務」をご覧ください。

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