裁判所の株式売買価格の裁判例(Y興業事件)!

M&Aの株式の売買では、買主と売主がそれぞれの考えのもとで「株式売買価格」と「なぜその算定に至ったのか」を提示します。売主と買主の協議で決める旨、会社法に定められているのです。

会社法第144条 第141条第1項の規定による通知があった場合には、第140条第1項第2号の対象株式の売買価格は、株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定める。

会社法で定められている通り、株式売買価格は買主と売主の協議で決めます。しかし、株式売買価格の算定方法は種々あるため、買主と売主が株式売買価格や株式価格の算定方法を巡って揉めることも少なくありません。M&Aにおいて株式売買価格で揉めた場合は、最終的に裁判所の判断を仰ぐことになります。

株式売買価格決定の参考として、「y興業事件」をご紹介します。y興業(株式の買主)等と申立人(株式の売主)の間で株式売買価格の協議がまとまらなかったため、株式売買価格の決定を裁判所にゆだねた事例です。

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y興業事件(株式売買価格の裁判例)の概要

1 y興業が申立人から買い取るT株式会社の普通株式18万1450株の売買価格の決定を求める。

2 T株式会社が申立人から買い取るT株式会社の普通株式18万1450株の売買価格の決定を求める。

申立人はT株式会社株式の株式を所持していました。T株式会社の株式には譲渡制限の定めがあります。

申立人は株式譲渡の申請を行いましたが、T株式会社は譲渡を認めませんでした。そのため、申立人は譲渡承認及び譲渡承認をしない場合の指定買取人への株式買取を請求。T株式会社は自らが買取するとともに、y興業を指定買取人に指名する旨を申立人に伝えました。

y興業(買主)とT株式会社(買主)、株式売買価格決定の申立人(売主)は株式売買価格決定のために協議しました。しかしy興業(買主)とT株式会社(買主)、株式売買価格決定の申立人(売主)の間で協議がまとまらず、株式売買価格が決まりません。

第144条

2 株式会社又は譲渡等承認請求者は、第141条第1項の規定による通知があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。

会社法の条文にしたがい、「y興業(買主)と株式売買価格決定の申立人(売主)の株式売買価格」と「T株式会社(買主)と株式売買価格決定の申立人(売主)の株式売買価格」の算定を裁判所に求めました。

y興業事件(株式売買価格の裁判例)の対象株式のデータ

*少数株主の保有株式数

36万2900株(発行済株式総数の約18.9%)

少数株式の代表取締役がかつて代表会社の役員であった

*支配株主の保有株式数

y興業(裁判の相手方、買主)47万4780株(発行済株式総数の約24.73%)

議決権割合約37.75%

対象会社の代表取締役の親族グループ

議決権割合約19.71%

y興業と対象会社の代表取締役の親族グループで議決権割合が合計約57.46%の過半数になる。

y興業事件(株式売買価格の裁判例)のT株式会社の会社データ

発行済株式総数が192万株の不動産賃貸を主たる業とする株式会社であり、定款に株式譲渡制限が規定され、その旨の登記がなされている。

4件の不動産を所有し、賃料収入を得ている。

y興業事件(株式売買価格の裁判例)の争点と当事者の主張

y興行事件において裁判所で解決すべき問題点は「T株式会社の株式の売買価格はいくらか」という点です。

T株式会社の株式の売買価格はいくらかという点については、当事者の間で主張が分かれています。

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y興業事件(株式売買価格の裁判例)の申立人側の主な主張や株式価格算定

本件株式の売買価格は、1株3149円である。

本件株式の評価に当たっては、Tが資産管理会社としての特質を有していること、本件が実質的には同族の有力株主からのTの資産の分割あるいは精算を求めるものであることから、時価純資産法によって評価すべきである。仮に純資産法のみによることが不適切であるとしても、時価純資産法及びDCF法の両方に重きを置いて算定すべきである。

配当還元法を採用すべきではない。

株式売買価格決定の申立人(売主)は「T株式会社の株式1株について3149円の価格をつけるべきである」と主張しました。また、申立人は、T株式会社の株式売買価格を算定する際に「時価純資産法という方法を使うべきである」とも主張しました。

時価純資産法とは、貸借対照表に記録された純資産を時価に引き直し、同じく時価に引き直しを行った負債を差し引いて評価する方法です。

時価純資産法は帳簿に記録された数字をベースに計算を進めるため、「なぜこの計算結果になるのか」と相手側の問い合わせがあっても、「帳簿の数字をベースにしています」と帳簿類を見せることで確認可能なので、証明しやすく、客観性のある方法のひとつとしてメリットがあります。

しかし、時価に引き直すというプロセスがあるため、時価への引き直しの際に、実際の資産との間に乖離が生じるリスクがあるのです。このリスクについては、時価純資産法のデメリットとしてもよく指摘されています。

株式売買価格決定の申立人(売主)は時価純資産法を使って株式価格を決定すべきだと主張。時価純資産法だけで算出することが方法のデメリットなどの点から不適切だと思われる場合は、時価純資産法とDCF法の両方を使って算定すればいいだろうとも主張しました。

DCF法は、会社の将来的な価値を重視して計算する方法です。会社が将来的にどのくらいの価値を生み出すのかを予想して計算に含めるところに特徴があります。時価純資産法とよく比較される方法がDCF法です。

y興業事件(株式売買価格の裁判例)の相手方の主な主張や株式価格算定

相手方(買主)はT株式会社とy興行です。

T株式会社とy興行それぞれに主張があります。

T株式会社の主張

本件株式の売買価格は、1株1903円ないし2326円である

時価純資産法は、一時点における会社の純資産を基礎に株価を評価するものであり、会社の存続を前提としない清算価値を表すものであるから、事業継続中の会社の株価評価には不適切である。

DCF法の方が事業継続中の会社の株価評価には適している。

本件においては、DCF法によるべきである。

T株式会社は、1株あたり1903円ないし2326円の株式売買価格にすべきだと主張しました。申立人は株式売買価格の算定には時価純資産法が適切だと言いましたが、T株式会社側は申立人の計算方法の選択は不適切だと言っています。

また、T株式会社株式の売買価格の算定には、DCF法が最も適しているので、DCF法を用いるべきだと主張。DCF法で計算すると、T株式会社が主張する株式売買価格になると言うのです。

前述したように、DCF法は会社の将来に着目して計算する方法です。T株式会社がDCF法を使用した理由は、T株式会社の「事業内容(不動産賃貸業)」と「解散が予定されているわけではない」という事実からになります。

y興業の主張

本件株式の売買価格は、1株2067円である。

T株式会社は、継続企業として将来継続的に一定の収益を獲得することが期待されている。さらに、T株式会社は、不動産賃貸業を主たる事業としており、その収支予測は比較的容易であるといえ、DCF法の問題点であるフリーキャッシュフローの予測の確実性も高い。

時価純資産法は、会社の有する資産から負債の額を控除した純資産を基準に評価する方法であるが、DCF法と異なり、解散時の分配価値を示すものであり、T株式会社のような事業を継続している企業の株式価値を算定する方法としては相応しくない。

株式価値を算定するにあたっては、DCF法が最も妥当といえる。

y興行も時価純資産法は今回の株式売買価格の算定には不適切だと言っています。T株式会社と大体同じで、「事業内容(不動産賃貸業)」や「解散が予定されているわけではない」という点から、株式売買価格の計算にはDCF法が妥当だという主張です。

ここで注目したいのは、DCF法が妥当だと言っているT株式会社とy興行の株式売買価格が大きく違っている点になります。

T株式会社とy興行はDCF法、要は同じ方法を使うことが妥当だという主張は重なっているのですが、計算結果はまったく違います。これは、別に珍しいことではありません。

DCF法は将来に着目する方法です。将来を正確に予想することは、まず無理です。また、将来予測は、計算する人によって違ってきます。同じように「DCF法を使うべきだ」と主張しても、算定プロセスや将来の見積もりによって計算結果が違ってくるのです。

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y興業事件(株式売買価格の裁判例)の判例概要・株式の算定方法

y興業の株式価格については、以下のような裁判所の判断がありました。

【判旨概要】

相手方らが申立人から買い取るT株式会社の普通株式36万2900株の売買価格を1株につき2460円と定める。

配当還元法と収益還元法を採用し、各手法による算定価格を加重平均して算定するのが合理的である。

【判旨】

単純な少数株主にとっての株式の価値は、配当還元法による1株300円である。他方、完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値は、収益還元法による1株3500円を基礎とするべきである。以上の検討を総合的に勘案すると、申立人は外形的には少数株主であるが、経営に影響を与える可能性も残されているから、配当還元法による評価額1株300円に20%、収益還元法による評価額1株3000円に80%のウェイトを置いて評価するのが適切である。そうすると、本件株式の平成22年7月1日現在の評価額は1株2460円(300×0.2+3000×0.8)となる。

収益還元法による価格3000円を80%、配当還元法による価格300円を20%の割合で加重平均すると、本件株式の価格は、1株2460円(3000×0.8+300×0.2)となる。

以上によれば、本件株式の売買価格を1株につき2460円と定めるのが相当である。

y興業事件(株式売買価格の裁判例)の判旨概要について

y興行事件の株式売買価格の算定には「配当還元法と収益還元法を使う」が裁判所の判断です。ふたつの方法を採用した上で、配当還元法と収益還元法で算定した株式売買価格を加重平均すると「株式売買価格は1株2460円になる」が裁判所の出した結論になります。

y興業事件(株式売買価格の裁判例)の判旨について

裁判所はなぜ「配当還元法と収益還元法を使う。その上で加重平均する」という結論を出したのでしょう。

裁判所の結論には、「少数株主にとっての株式の価値」と「完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値」が関係しています。

「少数株主にとっての株式の価値」と「完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値」は異なり、少数株主にとっての株式の価値は配当還元法により1株300円になります。対して完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値は、収益還元法による1株3500円。株主の属性によって価値が変わってくるという判断です。

申立人は対外的には少数株主です。ですが、会社の経営や支配に影響を及ぼす可能性のある株主でもあります。少数株主に支配権を持つ株主の側面が一部混ざっているのです。T株式会社とy興行については、支配権を持つ株主であると判断しています。以上の点を考慮して「配当還元法と収益還元法を使って、その上で加重平均する」という結論です。

ディスカウントについては、非流動性ディスカウント(市場価格が存在しないことによる減価)が考慮されています。

最後に

株式売却価格の算定については、裁判所は事情や資産状況を考慮した上で決定することになります。y興行事件では、少数株主や支配権を持つ株主といった事情が考慮され、結論に反映されているのです。

株式売却価格の算定結果は、ケースによって異なります。似たようなケースでも結論は違ってくるため、y興行事件と株式算定を同様に考えることはできません。しかし、M&Aを行う上での参考になるはずです。

M&Aで株式売買価格の算定が必要になったときに、知識として役立てていただければと思います。

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