M&Aにおいての株式譲渡は、M&Aの他のスキームに比べれば、手続きが簡素であるということが大きなメリットして挙げられます。
他のスキームと比べて、ということが大前提ではありますが、契約面、申請面では煩雑な手続きは省かれることにはなります。
ただ、大きなデメリットは、株式を取得するには多額な資金を用意しなければいけないところです。中小企業においても、保有株式の過半数と言えば数百万から数千万単位の資金を調達する必要もでてくるかもしれません。
しかし、過半数の株式を取得することで経営権を取得することが可能です。
今回は、この株式譲渡について、そもそも株式譲渡とは?ということから、メリット、デメリットを詳細にご説明していき、手続きの流れや契約書についての注意点についても弁護士が徹底的に解説していきます。
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株式譲渡をわかりやすく解説
この項目では、知っているつもりの「株式譲渡」について詳しく解説します。
「株式譲渡」について、おさらいも含めてご説明していきます。
株式譲渡とは?
簡単にご説明しますと、株主が法人(譲受希望企業)もしくは個人に自社の保有株式を譲渡する手続きということになります。この場合、過半数の株式を譲り渡すことで、会社の経営権が譲受先に移転することになります。
M&Aのスキームで、混同されやすいものに、事業譲渡が挙げられます。
株式譲渡というと、何かとこの事業譲渡と比較されるのですが、株式譲渡と事業譲渡の大きな違いは、株式譲渡の場合ですと、譲受先が、法人もしくは、経営者(個人)であり、それに対して事業譲渡は、譲渡先が法人のみであるということです。
会社は株主のもの、事業は会社のもの
事業譲渡は、事業を譲るわけですから、法人に譲ることはご理解いただけると思います。
株式譲渡は、過半数の株式を譲渡して経営権を得るということになります。
会社は株主のもの、事業は会社のものであるという考え方につながっていきます。
株の過半数を所有する株主になれば、会社の経営権を手に入れ、経営に関して大きな影響力を持つことになり、筆頭株主になるということは、会社そのものを手にいれるわけです。
つまり、過半数の株を購入するには様々な手続きは必要です(後の項目で手続きに関してはご説明します)株主総会での承認が必要とはなってきますが、そこをクリアすれば、過半数の株を購入することで、スピーディーに経営権を手に入れる手法となるのです。
株式譲渡を行うにあたり抑えておきたいポイント
株式譲渡とは何かをご理解いただい上で、次は、株式譲渡を行うべきかどうか、どこで判断するかをご説明していきましょう。
株式譲渡を行うかを判断するためのポイントは4つあります。
①株式譲渡する場合の譲渡範囲の認識
株式譲渡の場合は、経営権そのものの譲渡となるため、事業を区切って譲り渡すわけにはいかず、会社全体を譲り渡すことになります。
この会社全体を譲り渡すということを、忘れないでいただきたいのです。
この後、株式譲渡のメリットやデメリット、流れ、注意すべきポイントとご説明していくのですが、後述する記事を読んでいく際も、「会社全体を譲り渡す」ということを頭に入れておいていただきたいのです。
②株式譲渡にかかる税金を確認する
株式譲渡は消費税の対象にならないものの、譲渡益に対して20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)が課税されます。また、譲渡側企業の場合、対象企業が資産として、不動産を所有している場合には不動産取得税および登録免許税がかかることになります。
③雇用移転の同意
株式譲渡では、会社全体を譲渡することになるとお話しました。
法人はそのまま存続する形になるため、従業員に個別の同意を得る必要はなく、そのまま雇用を継続することになります。株式譲渡につていのメリットは、次項でまたご説明しますが、雇用などの契約を一つ一つ見直す必要がないというところが大きなメリットではあります。
④簿外債務を含む負債の状況は要確認
さきほど、比較した「事業譲渡」では簿外債務を引き継がないことが可能ですが、株式譲渡は簿外債務を含めた負債に関しても包括的に引き継ぐことになります。事業譲渡の場合は、譲渡の条件を取り決めるときに、簿外負債は引き継がないと明確にしておけば、引き継ぐ必要はありません。
ですから、株式譲渡を行う場合は、譲渡契約を行う時、すなわちデューデリジェンス(DD)の段階で、退職引当金、リース債務など現段階では帳簿に乗ってこないが、将来的には出現する可能性が高い負債(簿外負債)について、詳細に確認する必要が出てきます。その確認をしたうえで、譲渡条件を取り決める必要があります。
株式譲渡のポイントをおさらい
役所、法務局への変更登記が不要?!
株式譲渡は会社の機関構成や株式数の変更ではないため、役所などへの手続きや法務局へ変更登記の申請は不要です。
大きな特徴として挙げられるのは、基本的には会社内部で完結することができるという点です。しかし、この届け出が不要、もしくは簡易的だというのは本当に基本的で書面上での話であり、実際に株式譲渡を社内で完結させようと思ったら、かなり税務面、会社法に精通した社員が存在する必要があります。会社法上では厳格な手続きが規定されているからです。
やはり、専門家の助けは必要ということになってきます。
株式譲渡のメリットとデメリット
【メリットは4つ】
譲渡企業のメリット①:会社経営の存続が可能
自分が持てるほとんどの時間を会社の経営につぎ込んできたわけですから、経営者にとって、会社をそのまま存続できるのは、大切なポイントではないでしょうか。株式譲渡は、会社をそのままの形で存続することができます。
譲渡企業のメリット②:株式保有比率を調整することができる
株式譲渡では譲渡する株式の比率を設定できるのです。保有比率を調整できますから、過半数を持って、経営権をすべて譲渡するか、三分の一以上で、株主総会においての特別議決権を単独で否決する権利を譲るかなどを選ぶことができます。
譲渡企業のメリット③:経営者個人にお金が入る
事業譲渡の譲渡金は法人すなわち譲渡企業にはいるのに対して、株式譲渡の譲渡金は株主(経営者個人)の手元に現金が入ってきます。これにより創業者利得を得ることでハッピーリタイアを実現ができます。次の事業を行う上での資金を作ることができます。
譲受企業のメリット④:許認可を引き継ぐことができる
事業譲渡と異なり、株式譲渡では会社をそのまま引き継ぐため許認可も引き継ぐことができます。ただし、役所への変更届などが必要とはなってきます。
譲受・譲渡企業の共通のメリット⑤税金面でコストを抑えることができる
消費税や印紙税、登録免許税が非課税であるため、余計なコストを抑えられます。株主が個人だった場合は、所得税、住民税あわせて20.315%の固定税率で分離課税が適用されるため、税金が比較的安く抑えられます。
株式譲渡が中小企業経営者にM&Aでよく行われる理由とは?
その理由として挙げられるのは、他のM&A手法と比べて手続きが簡単という点につきます。
他の手法では、特別決議や債権者保護手続きが必要となります。
時間がかかる上に、反対株主が多い場合にはM&A自体実行できないということも考えられます。昨今の非上場中小企業では、事業承継等の理由によりM&Aを実施することが増加傾向です。極力早くM&Aを完了する必要があります。
手続きが簡潔に完了する株式譲渡は、そんな非上場企業にとって最も活用しやすい手法となりました。
ただし、上場企業が株式譲渡を実施する際には、TOB(株式公開買い付け)と呼ばれる手続きが義務となるケースが大半です。このケースは、手続きが非上場会社のケースと比べてかなり面倒になると考えられます。
TOB(株式公開買い付け)は、会社が事前に「期間・株数・価格」を提示し株式を取引所に通さずに買うことを言います。
加えて税金の計算も、他のM&A手法と比較すると比較的簡単である点も理由の一つです。
つまり、税務や手続き面が簡単である点が、株式譲渡が非上場(中小)企業のM&Aで多用される理由です。
ただ、M&Aを活用する以上、税金や手続きが簡単でも様々な知識が必要になる場面があります。株式譲渡のメリットを最大限に活かすためにも専門家のサポートは不可欠です。
M&A総合法律事務所では、M&Aに関しても知識、実績が豊富なプロが在籍していて、手厚いサポートとアドバイスをさせていただきます。
【デメリットは2つ】
譲渡企業のデメリット①:経営者が保有する以上の株式を求められることがある
譲受企業から自身の保有割合以上の株式取得を求められた場合、株主が複数おり株式が分散している場合には、自己保有以外の株式を取りまとめた上で譲渡を行う必要があります。
譲受企業のデメリット②:負債や簿外債務を含めて引き継ぐ必要がある
事業譲渡と異なり経営権の承継となるため、対象企業そのものの財産状態に変更はなく譲受する資産を選別することができないため、負債や簿外債務を受け取るリスクがあります。
2つのデメリットを挙げてきたのですが、リスク回避のためにも是非、専門家のサポートを活用していただきたいと思います。
譲渡すべき株式のとりまとめ、また、負債や簿外負債を見極めるためのデューデリジェンス(DD)についても、株式譲渡のサポートに関して経験値が高い税理士、公認会計士、弁護士が在籍しているM&A総合法律事務所へご相談ください。
株式譲渡に関するあらゆるお悩みに対応させていただきます。
株式譲渡のメリットとデメリットをまとめてみた
冒頭や、前項メリットの項目でもお話しましたが、一般に株式譲渡による事業承継は比較的簡単に手続きができます。例えば下記のような項目が挙げられます。
・従業員や勤務体系もそのまま引き継ぐことができるというメリットがあります。
これは大きなメリットになりますね。
そして一方、デメリットとして挙げられるのは、
・株式譲渡によって会社の負債も引き継がなければならないという点です。
もう少しメリットとデメリットについて深堀してみましょう
おさらいになりますが、株式譲渡においての、株式の売買は後継者がお金を支払って株式取得するという方法となります。この点は、メリットにもデメリットにもつながっていくと言える、複雑なポイントで、この部分は株式譲渡をする上において、十分留意していただきたいと思います。
メリットとデメリットが背中合わせというのはどういうことか?
『贈与や相続で譲渡する場合と違い、他の法定相続人ともめる心配が少なくなるので、後継者の地位が安定する』という大きなメリットがあります。
このメリットを享受するためには、
『株式を買い取るために後継者が多額の資金を準備しなければならいない』というデメリットもあるのです。
しかし、贈与による株式譲渡ですと多額の資金を用意しなくてもよいということにはなります。すなわち贈与ですと、株式譲渡の最大のデメリットである、多額の資金調達は必要なくなるのです。
贈与による株式譲渡のメリットとデメリット
贈与による株式譲渡は、後継者が株式を取得するための資金を準備する必要はありませんが、基礎控除額を越えると贈与税を支払わなければなりません。
贈与に関しては2つの課税方式があり、年間110万円まで非課税とする暦年課税と、相続が発生したときに贈与財産と相続財産を合算して再計算する相続時精算課税があります。この場合の非課税額は2500万円です。贈与税の基礎控除額は、相続税に比べれば少ないという特徴があります。
その上に、一度相続時精算課税にしてしまうと暦年課税に戻すことはできないので、どちらを選択するか慎重に検討しなければ損をしてしまう可能性があります。
相続は、贈与と同様、後継者が株式取得のための資金を準備しなくてよいことがメリットですし、相続税は贈与税よりも基礎控除額が大きいため税金面の負担が少ないこともメリットです。
しかし、相続の場合は、前述しています通り、法定相続人の間で相続争いが起きやすく状況によっては後継者の地位が不安定になってしまう可能性があるという大きなデメリットもあります。
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株式譲渡の手続の流れ
メリット・デメリットの項目でもお話していますが、株式を譲渡するためにはまず、譲渡する株式が譲渡制限を設けているかどうかを、会社の定款や登記簿謄本で確認する必要があります。中小企業では、譲渡制限を設けているところが多いです。
譲渡制限を設けている場合、会社の承認を得なければなりません。会社の承認とは、つまり取締役会が設置されているなら取締役会での承認、取締役会が設置されていないなら株主総会での承認ということになります。
中小企業の場合は、社長=筆頭株主という場合が多いでしょうし、役員などの経営陣、株主は親族で固めているところも多いと思われます。
そのため根回しがしやすく、話が通しやすいということは考えられます。
①取締役会もしくは、株主総会において譲渡する株式数、相手の氏名などについて承認請求
↓
②承認が得られたら譲渡契約書を作成
↓
③会社に株主名簿の書き換えを依頼
↓
④その後、株主名簿記載事項証明書の発行を会社に依頼
↓
⑤この株主名簿記載事項証明書交付をもって手続き完了
という流れになります。
株主総会が承認機関の場合の必要書類一覧
株式譲渡承認請求書
株主総会招集に関する取締役の決定書
臨時株主総会招集通知
臨時株主総会議事録
株式譲渡承認通知
株式譲渡契約書 *
株式名義書換請求書
株主名簿
株主名簿記載事項証明書交付請求書
株主名簿記載事項証明書
株式譲渡は実に多くの書類が必要だということがお分かりいただけるのではないでしょうか。株主、役員を身内で固めている、また役所での審査がある手続きでは無いからと言って、簡単に作れる書類は一つもありません。
会社オーナーである株主の変動を伴う手続きですから、作成しなければならない書類も多く、また、ミスが許されないのも大きな注意ポイントです。
金額的なこと、経営権といった権利が絡んできますので、ミス、行き違いがあった場合、後で訴訟に発展することもあり得ます。
なお、中小企業というのは、上場していないので、株価決定が非常に煩雑にはなります。
株式の譲渡は時価で行われますが、価格の決め方は複雑で適正価格かどうかの判断がつきにくいことがあります。また、株式譲渡には法律知識や税務知識も必要です。
これに関しては、顧問契約をしている税理士に依頼することになかと考えられます。帳簿から価格を割り出しますので、財務状況を把握している顧問税理士なら株価を割り出すことは可能でしょう。
ただ、税理士においてもM&Aに関する経験値が高い方なら問題ないのですが、実際に会社の売却、買収の知識はあるのですが、経験値がほとんどない税理士も存在はします。
株価について、適正価格を計上してもらうこと、これは売り手側にも、買い手側にとっても重要なことです。
買い手側は、適正価格での取引を可能にすることで、その後の会社経営を継続する上でも大きなメリットになります。
株式を譲渡する売り手側にとっては、適正価格を計上してもらい、買いたたかれることなく、十分な資金を手元に残すことができるのです。
この株価、つまり金額の設定は、買い手と売り手の間ではかなり交渉が難航することがあります。直接交渉は避けるべきことです。買い手と売り手の間に、専門家である弁護士が入ることは不可欠です。M&Aにおいてこの交渉の場に、専門家を同席させることは必要です。M&Aに精通した弁護士、税理士を依頼して、スムーズに交渉してもらうようにしましょう。
ビジネスにおいて、お金だけでなく、この時間というのも非常に大切です。
専門家の介入により、最短で、希望通りの価格で株式譲渡を完了させることが可能です。
また、中小企業の事業承継において株式譲渡は一般的な方法だとお話しています。
しかし、誰を後継者にするのか、どのような方法で株式を譲渡するのかについても慎重に検討する必要があります。
親族に譲渡する場合は、親族の間でもめ事が発生してしまう可能性もあります。また、譲渡の方法によっては税金の面で大きな負担になる場合もあります。
あらゆるトラブルが想定されるのです。
事業承継は、思い立ってすぐ実行できるものではなく、長期的な計画を立てて進めていく必要があります。
株式譲渡契約書の注意点
【株式譲渡契約書とは?】
一言で言えば、
「株式を譲渡したり、譲渡を受けたりする場合に作成するのが株式譲渡契約書」となります。
冒頭1の項目、株式譲渡とは?のところでも、株式会社では経営権はすべて株式に集約されるということをお話してきました。
つまり、「会社を第三者に譲り渡すには株式を譲渡すればよい」これがまさに株式譲渡契約の意味となります。株式譲渡契約では何株をいくらで譲渡するのかが最重要項目なのです。
そしてこの契約内容を記しているのが、株式譲渡契約書です。
譲渡契約を行う際に気を付けていただきたいのは、株式譲渡の交渉をしている過程においても、会社は常に活動を続けているということです。
経営活動を行っているということは、状況も刻一刻と変わり続けています。
そのため、契約書を作成するには、株式譲渡を行うにあたっては一定時点を区切って、どういう状態であれば契約で定めたとおりの取引が実行できるのかという条件を織り込む必要がでてきます。
これは、たとえばマイホーム購入する際、住宅ローン資産が通ることを前提条件にして住宅を購入する契約を結ぶことがありますね。この契約形態に似ています。
売主と買主では情報量に差があります。売主は自社のことを当然熟知しており、そのせいでともすれば買主が不利な状態に置かれるおそれもあります。
たとえば、決算書には載っていない借入金や、例えば、従業員から未払いの残業代を求められているなどが挙げられます。
このようなものを売主は把握しているけど、それを買主に言わないでいる負債がある場合、そのことを買主は知らないとすれば、それはあまりにもアンフェアな取引です。
そこで、現在および将来の事実関係や法律関係に関する情報の正確性について、売主が責任を持つという趣旨の条項を契約に入れる場合があります。
つまり、今、売主が会社の状況について説明していることはすべて事実で、もし契約後に説明した以外のことが判明した場合、売主に責任があるという一文を契約書に謳っておくということです。こうした条項を「表明保証」と言います。表明保証の例としては、たとえば、「提供された決算書が正確なものであって簿外負債などが存在しないこと」、「従業員との間に労使紛争などなく、未払い残業代などもない」、「重要な資産について適切に所有権を有していること」などがそれにあたります。
表明保証を契約に織り込んでおけば、リスク回避は完璧なのか?というとそうでもありません。株式譲渡契約が締結されたことを良いことに、取引を実行するまでの間に売主が経営に関して熱を失って、今までとは違った経営を行い、会社の価値が下がってしまうといったこともありうるのです。
そこで取引が完了するまでの間、売主が経営に支障なく、事業価値をさげることもなく会社を運営する義務を「誓約事項」として契約に取り入れることも可能です。
また、取引実行日までに改善してほしい項目を「誓約事項」とすることもあります。これを、「(株式譲渡の)実行条件」とか「クロージング条件」などと呼びます。
株式譲渡に関してもデューデリジェンス(DD)(買収監査)は不可欠!
例えば、M&Aや第三者への事業承継では、買主が公認会計士や監査法人に依頼して、対象会社のデューデリジェンス(DD)(企業精査)を実施することは不可欠です。そして、そこで検出された問題点などを取引の実行日までにクリアにしてもらうこともできます。さらに、取引実行後の「誓約事項」を契約に入れることも考えられます。
店舗を所有している企業との株式譲渡する際の注意点
店舗を所有している企業と契約する際に気を付けたいのが、チェンジオブコントロール(COC)条項付きの不動産賃貸借契約を交わしている場合です。
株式を譲渡した後も店舗経営するために、賃貸している店舗に対する賃貸契約はどうなるのかを事前に確認することや、取引実行後の事項としては、売主に対して「競業避止義務」を課すことが挙げられます。COC条項は、株主が変わった際に貸主が賃貸借契約を解約できるなどの制限をつけることを指し、競業避止義務は、会社を買主に引き渡してから同じ業種のビジネスを始めないことを指します。
会社全体を譲り渡すのが株式譲渡契約ですから、これらのこまごまとして契約もきっちりと契約書の条項に盛り込んでおく必要があります。
以上のことから、株式譲渡実行日においても表明保証の内容が正しいこと、誓約事項に定められた義務を履行していることが必須です。
また、契約には、上述のような表明保証や誓約事項が守れなかった場合の補償および損害賠償の方法などについても定めておくこともできます。
しかしながら、売主の義務やその不履行があった場合の補償ないし損害賠償があまりに大きな金額や補償内容となってくると、今度は売主にとってリスクが高くなってきて、株式譲渡契約そのものを白紙に戻すなんてことにもなりかねません。
賠償金額や期間に一定の制限を設けるなど、バランスの取れた契約内容になるよう注意しておかなければいけません。
契約条項にどんなことを付け加えるべきか?このような契約上大切なことは、専門家のアドバイス、サポートが不可欠となります。
契約書作成に関しては、会社法に精通した弁護士をアドバイザーとして依頼することがお勧めです。
株式譲渡の場面では以下のような、さまざまなトラブルが多いです
トラブル例1:譲渡を受けたが実はあとで売主が株主でなかったことが判明した
トラブル例2:譲渡後に従業員から会社に残業代請求があり、法律通りの残業代を支払えば事業が成り立たないことが判明した
トラブル例2は、M&Aの契約ではかなり多く見受けられます。大体デューデリジェンス(DD)の段階で、簿外負債は判明するのですが、見落としてしまって帳簿には現在載ってこない負債、つまり将来に起こる負債のある企業を買収してしまうというリスクです。
また、株式譲渡の場合は、事業譲渡と違って一部を譲りうける、負債に関しては引き継がいないという契約ができません。株式譲渡契約を締結するなら負債ごと受け入れなければいけません。ですから契約を行う前に、これらの負債を見つけておかないといけません。
これは「負債があれば株式譲渡できない」ということではないのです。その負債以上に価値ある企業でしたら、株式譲渡契約を結ぶ企業は多く存在します。
ただ、契約する前に、簿外負債についても隠さず買い手に伝えておかなければいけません。
この簿外負債を隠して契約締結して株式譲渡を完了してしまうと、契約後に訴訟に発展する場合が多くあります。
訴訟となれば、多くの時間とお金を使わなければいけません。
この簿外負債は、隠すことも、隠されるのも、大きなリスクへと繋がりますので、お気を付けください。
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株式譲渡契約書を作成るためのチェックポイントをおさらいしましょう
株式譲渡契約書を作成する前に最低限確認するポイントは3つ
ポイント1:
株券発行会社かどうか
ポイント2:
譲渡制限の有無
ポイント3:
株式譲渡の目的
これらの3つのポイントを押さえたうえで、株式譲渡契約書に必要な項目についてご説明します。
株式譲渡契約書の主な記入項目
記入項目について、つぎの5項目が挙げられます。
①譲渡合意
②譲渡代金の支払い方法
③株式の名義書換
④表明保証
⑤契約解除
これらの項目について、一つずつご説明していきましょう。
①譲渡合意
株式取引の主な内容を記載する項目が譲渡合意となります。どの会社のどのような株式をどのような条件で何株式譲渡するかを記載することになるのですから、この項目がなければ株式譲渡契約書は始まらないといっても過言ではありません。譲渡合意の内容は契約締結前までに決定しますが、契約締結する当事者間の認識に違いが生じる場合もあります。双方の認識のずれにより、株式譲渡契約が白紙になることがないとは言い切れないのです。
そのような事態を避けるためにも、譲渡合意において譲渡の対象となる株式を特定しておき、契約書に謳っておくのは必須であるといえます。
②譲渡代金の支払い方法
支払い方法の項目には、譲渡にかかる代金と支払い期日、そして株式譲渡人の振込口座などを記載します。
なお、現金での直接支払いを行う場合など、振込口座の記載が必ずしも必要ない場合もあります。
無償譲渡の場合には、支払う方法の項目を省略してください。
③株式の名義書換
この項目は、譲渡契約成立後に株式名義の書換え請求を確実に行うために必要な項目です。
基本的なことなのに、意外に忘れてしまうことも多く気を付けたい項目でもあります。
株式譲渡の手続きは、株式発行元(対象会社)の株主名簿に記載される名義を変更することで完了します。
そして、株券の不発行会社においてその手続きをしてもらうには、基本的に譲渡人と譲渡人が共同して請求しなければいけません。
譲受人としては、万が一、名義書換について譲渡人の協力を得られない場合には、裁判手続きにより、名義書換請求を命じる確定判決などを得て単独で行わなければならなくなるので、そのようなリスクを回避するのに役立ちます。
また、譲渡制限会社においては、株式の譲渡について対象会社の承認が必要となるため、譲受人としては、この承認が確実になされることを確保する必要があります。そこで、当該手続きを譲渡人に行わせることを株式譲渡契約書に規定することが考えられます。
④株式譲渡に関する表明保証
表明保証条項には、譲渡人が譲受人に対して、ある特定の事項が真実かつ正確であることを表明し保証する旨を記載します。
例えば、株式譲渡にかかる株式の所有者が譲渡人でない場合や、開示された対象会社の資産状況が実際とは異なっていた場合など、不測の事態が生じることで譲受人が思わぬ損害を被らないようにする役割を担うものです。株式譲渡契約書では最も重要な項目です。
株式譲渡の目的や内容その他の事情によって表明保証する内容が変わるので、必ずこの表明保証を記載するべきという事項はありません。なお、代表的な表明保証事項としては、以下のような内容が挙げられますが、これらに限りません。
表明保証内容の例
譲渡人が取引をする株主の所有者であること
開示された対象会社の直近の財務内容に間違いがないこと
対象会社の計算書類に記載されていない負債(簿外負債)がないこと
対象会社の事業内容に法令違反がないこと
対象会社が従業員の雇用に対して法律違反をしていないこと
対象会社の発行済株式総数が○○株であること
⑤契約解除
契約解除は、どのような場合に契約の解除を認めるか(解除由事)を記載する項目です。
一般的には、相手方の契約違反が解除事由となることを明記するほか、当該契約違反に対して契約解除とともに被った損害賠償の支払い義務もあわせて記載することがあります。
他方で、表明保証違反については、損害賠償の支払い義務を規定するのみで、解除事由にはしないという例も多く見られます。表明保証違反を解除事由とするかどうかは重要な事項ですので、相手方と交渉の上で慎重に決めることが必要です。