役員従業員の処遇|株式譲渡契約書を逐条解説!

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株式譲渡契約書の逐条解説:役員従業員の処遇

M&A総合法律事務所のM&A契約書類のフォーマットはメガバンクや大手M&A会社においても、頻繁に使用されています。
ここにM&A総合法律事務所の株式譲渡契約書のフォーマットを掲載しています。
M&Aを検討中の経営者の皆様でしたらご自由にご利用いただいて問題ございません。
ただし、M&A案件は個別具体的であり、このまま使用すると事故が起きるものと思われ、実際のM&A案件の際には、M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。
また、このフォーマットはM&A総合法律事務所のフォーマットのうちもっとも簡潔化させたフォーマットですので、実際のM&A取引において、これより内容の薄いDRAFTが出てきた場合は、なにか重要な欠落があると考えてよいと思われますので、やはり、実際のM&A案件の際には、M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。

なお、詳細な解説につきましては、以下の弊所書籍「事業承継M&Aの実務」をご覧ください。

株式譲渡契約書の逐条解説:役員従業員の処遇

■■■第12条■■■■■■■■■■

第12条 (役員の処遇及び役員の選任)

1.       売主は、クロージング日をもって、_____氏をして、対象会社の代表取締役及び取締役を辞任させるものとし、_____氏及び_____氏をして、対象会社の取締役を辞任させるものとし、_____氏をして、対象会社の監査役を辞任させるものとする。

2.       買主は、対象会社をして、_____氏に対して、退職に伴い、役員退職慰労金として、金____万円を支給させるものとする。

2.       対象会社は、_____氏をして、辞任後も、買主が本件事業を円滑に遂行することができるよう、買主が要請する事項につき、合理的な協力をさせるものとする。

3.       _____氏以外の対象会社役員は、クロージング日以降も、当面は、同日以前と同様の役職及び処遇(報酬水準及び役員退職慰労金の水準を含む)にて、引き続き役員に在任するものとする。

第12条は、役員の処遇に関する遵守条項である。

(1) 事業承継M&A後の役員の在任及び退任

事業承継M&Aが行われた場合、多くの場合は、対象会社の役員は全員辞任し、買主が対象会社に新役員を指名して派遣することとなる。

ただ、事業承継M&Aの対象会社である中小企業、零細企業においては、役員も業務運営のための重要なスタッフであることが多く、また、中小企業、零細企業においては、事業運営に関する「暗黙知」が多く、形式知になっていないものが多く、買主が対象会社に対して新役員を派遣したとしても、新役員は対象会社の事業を円滑に運営することはできないことが多い。

事業承継M&Aでは、オーナーである売主個人がそのまま代表取締役になっているケースが多く、また、その奥様やご子息が役員になっているケースも多く存在する。また、古参の経営幹部が役員になっているケースも多く存在する。事業承継M&Aでは、オーナーである売主は、対象会社の株式を売却し、引退をしたい意向であることが多いが、引き続き業務に携わりたいという売主も少なからずいる。また、オーナーである売主が役員を退任するのであれば、その奥様やご子息も役員を退任することは自然であるが、ご子息は引き続き役員として残りたいという言う項を示すこともある。

事業承継M&Aが行われる理由にはいろいろあり、後継者不在だけが理由ではない。事業の将来の展望が描けないとか厳しい業界環境に鑑み経営力のある買主に売却したいという理由であることも多く、そのような場合、ご子息は引き続き業務には関与したいという意向の場合もあるのである。

本条は、オーナーである売主は代表取締役を退任するものの、古参の経営幹部は引き続き対象会社の役員に残るというケースを想定している。勿論、その古参の経営幹部の意向次第なのであるが、買主としては、経営幹部が対象会社の役員として残るということは、業務の引継ぎを懸念する必要もなく、事業承継M&Aに伴う、対象会社の企業価値の毀損も大きくないと思われることから、好ましいことともいえる。

(2) 事業承継M&Aと事業の引継ぎと顧問契約

また、オーナーである売主は代表取締役を退任するとしても、対象会社の業務の引継ぎに協力する義務が規定されることが一般的である。事業承継M&Aにおいては、対象会社はまさにオーナーである売主個人とイコールであることも多く、売主であるオーナーでなければ業務遂行することができないことも多く存在する。また、事業承継M&Aに伴い、突然、オーナーである売主が対象会社から居なくなってしまい、業務遂行にも関与しないということになれば、対象会社の事業運営の混乱は必至である。

また、対象会社の従業員の見地からも、オーナーである売主が対象会社からいなくなってしまうことは非常に大きなストレスとなる。中小企業、零細企業においては、従業員は、オーナーである売主が採用した従業員ばかりであると思われ、事業承継M&Aに伴い、対象会社からオーナーである売主が居なくなったら、これを契機に、退職する従業員が続出する可能性もあり、新オーナーである買主に忠誠心の低い従業員が、未払残業代の請求や不正行為を行うこともある。オーナーである売主が対象会社から居なくなってしまうと突然、従業員のモラールが低下し、効率的な業務運営が困難になる可能性もある。そのような場合、対象会社の企業価値は著ししく低下し、買主の想定する株式譲渡価格の前提が崩れてしまうのである。

そうであるからこそ、株式譲渡契約書では、通常、売主に対して、当面の間の、業務の引継ぎに協力する義務を規定することが多く、また、単に業務の引継ぎに協力する義務を規定するだけではなく、実際に、対象会社がオーナーである売主と顧問契約を締結し、当面の間、顧問として、対象会社から顧問料を支払いつつ、業務の引継ぎに協力をしてもらうこととするケースも多く存在する。

すなわち、オーナーである売主が、事業承継M&Aに伴い、対象会社の役員を退任した後、無償で業務の引継ぎに協力して頂けるとはなかなか思えない。オーナーである売主は、事業承継M&Aを行って引退したかったのである。買主としては、オーナーである売主と顧問契約を締結して、顧問料を払ってでも、なんとか売主から買主への業務の引継ぎを円滑に行いたいと考えることが多い。すなわち、買主としては、業務の引継ぎが円滑に行えず、対象会社の企業価値を毀損してしまっては、買主の想定する株式譲渡価格の前提が崩れてしまうため、このような方法により対象会社の企業価値の維持を図るのである。

(3) 事業承継M&Aと一般役員の処遇

また、第3項は、その他の一般の役員の処遇について規定している。

事業承継M&Aにおいて、その他の役員が在任を希望している場合、売主からその役員の在任の継続の申し入れがある場合があるし、買主としても、明らかに不要な役員であればともかく、そうでないのであれば、事業の円滑な引継ぎのために、在任を継続して頂いたほうが、対象会社の企業価値を毀損する可能性は低くなる。

売主としても、事業承継M&Aの後、対象会社に残される役職員のその後については、非常に気になる事項である。売主としても、事業承継M&Aという自分の勝手で、その後、対象会社に残される役職員が幸せになったのか不幸になってしまったのかは心残りなのであることが多い。売主としては、対象会社に残された役職員には幸せになって欲しいものである。そのため、売主からは、買主に対して、対象会社に残された役員の役員報酬や役員退職慰労金の水準についても、当面は、少なくとも現状維持して欲しいという希望が強く出されることが多い。対象会社の業績により役員報酬や役員退職慰労金は変動してしかるべきものであることから、対象会社に残された役員の役員報酬や役員退職慰労金の水準について、永久に保証してほしいとは考えないまでも、当面は、維持してほしいと考えるのである。

買主としてもそこまで言われたら受けざるを得ない。ただ、その役員が不祥事を起こした場合などはそうはいかないため、役員報酬や役員退職慰労金の保証は全面的には受け入れられない。また、その役員の待遇を未来永劫維持することは自然ではありませんし不合理であり、また、経営環境が変わったのなら役員の待遇も変わらざるを得ない状況ともいえる。そのため、役員が在任を継続する期間については、当面とすることが多く、また、待遇の維持についても当面としつつ、不祥事や懲戒事由が発生しない限りとか、善管注意義務違反のない限りとか、経営環境に変動のない限りとか、例外事由を規定することもある。

ただ、役員というものは、オーナーから経営責任を問われるべき立場なので、従業員と比較してこのような身分保障が規定されることは多くはないように思われる。対象会社の旧役員としても、新オーナーの下で、引き続き、役員を継続したいかどうかは明らかではない。

(4) 一般役員の在任と退任

ただ、対象会社の旧役員としては、事業承継M&Aの後も、役員として在任を継続するのであれば、役員報酬や役員退職慰労金などの水準その他の条件を維持してもらうことは前提であることが多く、そのためにも、株式譲渡契約書には、本条のような、対象会社に残された役員の役員報酬や役員退職慰労金の水準の維持に関する規定が規定されることが多い。

また、株式譲渡契約書の当事者には役員は含まれないことが一般的であり、株式譲渡契約書に第3項のような規定を規定したとしても、役員個人には、在任を継続する義務もなく、事業承継M&Aが行われた後に直ちに退任してしまうことも可能である。さらに、株式譲渡契約書の当事者に役員が含まれていたとしても、役員にも、憲法で保障された職業選択の自由があるため、役員個人に対する在任を継続する義務は限定的に解釈されることとなり、事業承継M&Aが行われたのち直ちに役員退任してしまっても、その役員個人の責任追及をすることは困難なことも多い。

ところで、筆者らに相談が多い事例としては、事業承継M&Aに伴い、オーナーが変更になるが、新オーナーの下、自分の役員としての身分や待遇は継続されるのか、悪化してしまわないか、というものがある。

株式譲渡契約書には、通常、この第12条のような規定が盛り込まれることが多いことから、オーナー(売主)に対して、そのような規定が盛り込まれているか、買主から役員に対して直接そのような身分や待遇を保証する誓約書のようなものを差し入れてもらえないかと、申し入れてみてはどうかアドバイスすることや、事業承継M&Aに伴って、クロージング後の役員としての在任の継続を条件に、売主と交渉し、売主に対して、買主から、対象会社の役員に対して、身分や待遇を保証する誓約書のようなものを差し入れることを申し入れるなどすることもある。

(5) キーマン(重要な役員)について

なお、買主が売主に対して、特定の役員について、在任させる義務を課すことは可能であるが、第3項は、売主の義務として規定されているものに過ぎず、役員に対して、直接、義務を負わせるものではないため、役員が第3項に違反して退任してしまっても、売主の責任追及をすることはできない。

他方、事業承継M&Aが行われたのち直ちに役員が退任してしまう結果、対象会社の企業価値が毀損されることはあると思われるが、対象会社の企業価値が毀損されることが可及的に防ぐため、株式譲渡契約書に、いわゆるキーマン条項(特定の重要な役職員が当面対象会社を退任・退職しないことや退任・退職させないことを規定する条項)を規定することにより、事業承継M&Aが行われたのち直ちに役員が退任してしまった場合、売主に対して、表明保証違反に基づく損害賠償請求・補償請求ができるようにすることが可能である。

■■■第13条■■■■■■■■■■

第13条  (従業員の処遇)

買主は、クロージング日における対象会社の全従業員(嘱託を含むものとする。以下「対象会社従業員」と総称する)の雇用を、当面、維持するものとする。また、買主は、対象会社従業員の処遇(給与水準及び退職金の水準を含む)について、懲戒事由が無い限り、当面は、不利益に変更しないものとする。

第13条は、従業員の処遇に関する遵守条項である。

(1) 事業承継M&Aと従業員の処遇について

売主としては、事業承継M&A後の従業員については、非常に気懸りである。すなわち、売主の勝手により、事業承継M&Aによって、従業員を含む対象会社が他人に売却されてしまうのである。売主としては、そのような従業員から恨まれないか心配をする者が多い。また、事業承継M&Aにおいて、売主にとって、従業員は、それまで一緒に会社の経営で苦楽を共にしてきた仲間である。売主としては、そのような従業員の今後を見届けたいという思いと、事業承継M&Aにより買主の従業員となった後も従業員には幸せになってもらいたいと願う思いが強いのである。

そこで、売主としては、M&Aの後、買主に対して、株式譲渡契約書に、対象会社の従業員の処遇を保証する旨の規定を、盛り込むことを要求することが多い。

ただ、買主としては、対象会社の従業員に対して、不当な仕打ちをする意図はなく、かつ、従業員の処遇についても、特段後退させようとする意図はないものの、もし対象会社の業績が悪化した場合などにおいてまで、対象会社の従業員の処遇を保証しなければいけないというのは困ると考えることが一般的である。また、買主としては、対象会社の従業員の処遇を保証するとしても、未来永劫、現状の処遇を保証するというわけにはゆかない。

そこで、株式譲渡契約書において、従業員の処遇を保証する規定がなされることが多いものの、その従業員の処遇の保証については、多くの場合は、期間制限がなされる。1年とされることもあれば、2年とされることもあれば、「当面」とされることもあり、おそらく、「当面」とされることが最も多いものと思われる。では、「当面」とは、何年程度のことを言うのかということが問題となるが、これは人により解釈は様々である。1年という人もいれば、2年という人もいれば、半年程度という人もいれば、3ヶ月程度という人もいる。

ただ、ここで重要なのは、従業員の処遇の保証について、明確に期限を設定しないことである。すなわち、従業員の処遇の保証について、2年との期間制限を設定した場合、買主は2年経過の翌日に従業員の処遇を大幅に悪化させることが可能となるのであるため、売主としては、明確に期限を設定することも心配でならない。勿論、「当面」という玉虫色の文言を使用されるのも心配でならないと思われるが、買主が、設定された期間の経過を根拠に、従業員の処遇を大幅に悪化させることを正当化することを避けることができるのではないかと思われる。

なお、従業員の処遇の保証の期間について、「当面」と設定された場合は、当事者の合理的意思としては、従業員の処遇の大幅な変更のためにはそれなりの期間が必要であり、小規模な変更であればそれほど期間は必要がないなど、経済合理的に解釈すべきであると思われる。

(2) 事業承継M&Aと従業員の処遇の変更について

その他、そもそも、日本の労働法制下において、従業員を解雇したり処遇を大幅に変更したりすることは非常に難しい。日本の労働法制下において、従業員を解雇したり処遇を大幅に変更したりできる場合は、それなりの理由がある場合であり、そのような場合は、買主としては、従業員の処遇の保証を継続できない事由が存在する場合であり、そのような事由が存在するのであれば、従業員の解雇や処遇の大幅な変更が認められてしかるべきである。

したがって、第13条では、従業員に就業規則規定の懲戒事由に該当するような行為が認められる場合は、従業員の解雇や処遇の変更を認める例外を規定している。

ところで、筆者らに実際に相談の多いケースでは、事業承継M&Aに伴い、オーナーが変更になるが、新オーナーの下、自分の雇用や待遇は継続されるのか、悪化してしまわないか、というものがある。筆者らとしては、株式譲渡契約書には、通用、この第13条のような規定が盛り込まれることが多いことから、オーナー(売主)に対して、そのような規定が盛り込まれているか、従業員に対して直接そのような待遇を保証する誓約書のようなものを差し入れてもらえないかと、申し入れてみてはどうかアドバイスすることや、事業承継M&Aに伴って、未払残業代の存否を確認することや、労働時間管理の不正確性などを根拠に、売主と交渉し、売主に対して、買主から、対象会社の従業員に対して、待遇を保証する誓約書のようなものを差し入れることを申し入れるなどすることもある。

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