秘密保持義務|株式譲渡契約書を逐条解説!

株式譲渡契約書の逐条解説:秘密保持義務

M&A総合法律事務所のM&A契約書類のフォーマットはメガバンクや大手M&A会社においても、頻繁に使用されています。
ここにM&A総合法律事務所の株式譲渡契約書のフォーマットを掲載しています。
M&Aを検討中の経営者の皆様でしたらご自由にご利用いただいて問題ございません。
ただし、M&A案件は個別具体的であり、このまま使用すると事故が起きるものと思われ、実際のM&A案件の際には、M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。
また、このフォーマットはM&A総合法律事務所のフォーマットのうちもっとも簡潔化させたフォーマットですので、実際のM&A取引において、これより内容の薄いDRAFTが出てきた場合は、なにか重要な欠落があると考えてよいと思われますので、やはり、実際のM&A案件の際には、M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。

⇒M&Aトラブルでお困りの方はこちら!

なお、詳細な解説につきましては、以下の弊所書籍「事業承継M&Aの実務」をご覧ください。

株式譲渡契約書の逐条解説:秘密保持義務

■■■第19条■■■■■■■■■■

第19条 (秘密保持義務)

1.       売主及び買主は、①本契約の交渉過程に関する情報、②買収監査の過程に関する情報、及び③本契約の当事者に関する情報、又は④対象会社に関する情報を、__氏が対象会社の代表取締役及び顧問を退任した後3年が経過するまでの間、自ら依頼した弁護士、司法書士、監査法人、公認会計士、税理士、フィナンシャルアドバイザー等の本条と同等の秘密保持義務を負担する外部専門家以外の第三者に開示してはならない。ただし、次の各号に定める情報については、この限りではない。

(1)  情報開示者から提供を受けた時点において既に保有していた情報

(2)  情報開示者から提供を受けた時点において既に公知となっていた情報

(3)  正当な権利を有する情報開示者以外の第三者から守秘義務を負うことなく合法的に取得した情報

(4)  法令により開示が義務付けられた情報

(5)  行政機関、司法機関又は証券取引所から開示を要請された情報

(6)  第三者に開示することについてその都度文書により情報開示者の承諾を得た情報

2.       前項の規定にかかわらず、クロージング日以降は、対象会社に関する情報は承継会社の保有する情報とみなされ、売主は、秘密保持義務を負担するとともに、買主は、秘密保持義務を解除される。

3.       本条における義務は、解除・失効等の原因の如何を問わず、本契約の効力が失われた後も有効に存続する。

第19条は、秘密保持義務に関する遵守条項である。

(1) 事業承継M&Aと秘密保持の重要性

事業承継M&Aにおいては、M&Aが成立する前に、事業承継M&Aの情報が流出することで大きな問題が生ずることが多い。

すなわち、事業承継M&Aの情報が流出し、対象会社の従業員が知ることになった場合、対象会社の従業員は、買主が対象会社のオーナーになった後を恐れて、一致団結し、対象会社の経営陣と交渉し、事業承継M&Aを取り止めるよう働きかける可能性も高い。特に、医療法人や介護事業会社など、人手不足の業界で、かつ、健康保険の点数が在籍している看護師の人数により変動してくるような従業員の重要性が高い業種や、そうでなくても、建設事業会社やサロン事業会社においても、従業員が、事前に、事業承継M&Aの動きを察知し、事業承継M&Aの阻止に動くことはままあり、そのような場合、事業承継M&Aを否応なく中止せざるを得ないこともある。

また、従業員が、買主はハゲタカ企業だと考え、事業承継M&Aが実行された場合、従業員は大量に解雇されるらしいとの噂がまことしやかに流れ、今後の雇用の継続に不安を持ち、次々と退職することも生ずることがある。

特に、医療法人や介護施設など、従業員の資格により、許認可や保険の点数が変動するような事業を行っている場合、対象会社の従業員が退職してしまうことによる企業価値の毀損は著しく、そういう企業でなくても、今日の人手不足の時代において、建設業や運送業など労働集約的な事業を運営している会社においては、従業員が大量に退職してしまうことは企業価値を著しく毀損する。

また、従業員がライバル企業やユニオン(合同労組)などに相談する結果、ライバル企業やユニオン(合同労組)などに対象会社の秘密情報が漏れ、ライバル企業やユニオン(合同労組)などが従業員をけしかけ、事業承継M&Aを拒否したり、ユニオン(合同労組)の介入を招き、ユニオン(合同労組)が対象会社の経営陣と団体交渉を要求し、事業承継M&Aを断念させるのみならず、事実上、対象会社の経営陣を追放し、ユニオン(合同労組)が対象会社を事実上支配してしまった事例も存在する。

そのライバル企業としても、これを好機とし、対象会社の従業員を引き抜きにかかったり、取引先の不安をあおり、取引先を対象会社から剥がそうとすることも多い。

特に、従業員が、事業承継M&Aの動きを察知し、ユニオン(合同労組)などの企業に敵対する労働組合に駆け込み、ユニオン(合同労組)などを会社に導き入れ、事実上、これらに会社を支配させたり、ユニオン(合同労組)とともに従業員が会社を支配し、経営陣を追い出し、事業承継M&Aが頓挫することも、しばしば生じている。

そうでなくても、事業承継M&Aの情報が流出することにより、取引先や金融機関などとしては、対象会社の経営悪化による身売りかと勘繰ることもあり、対象会社は、取引先や金融機関などとの取引の継続に関連し、痛くもない腹を探られることとなる。その結果、取引先や下請先なども対象会社の経営に不安を持つなどして取引を停止したり、事業に協力しなくなるなど、対象会社の企業価値を毀損することとなる。

そうであるからこそ、事業承継M&Aにおいては、売主と買主は、事業承継M&Aの検討に入る時点で、秘密保持契約書を締結することが一般的である。

(2) 秘密保持契約書と株式譲渡契約書

この点、事業承継M&Aにおいて、案件検討段階において、すでに秘密保持契約書を締結している場合、株式譲渡契約書において、改めて、秘密保持義務を規定する必要はないとも思われがちである。

実際に、株式譲渡契約書に規定される秘密保持義務よりも、秘密保持契約書に規定される秘密保持義務のほうが、一般的に、規定が充実しており、秘密情報の返還義務・廃棄義務や、再委託者に対する秘密保持義務賦課義務、秘密保持義務違反時の損害賠償条項など、秘密保持義務が網羅的に規定されていることが多い。

ただ、事業承継M&Aにおいては、必ずしも、売主と買主が、直接、秘密保持契約書を締結するのではなく、売主側M&A仲介業者と買主側M&A仲介業者が従前より秘密保持契約書を締結しているところに、売主と売主側M&A仲介業者及び買主と買主側M&A仲介業者が、それぞれ秘密保持契約書を締結することで、売主から買主まで秘密保持義務を連続させ、実質的に、売主と買主が秘密保持契約書を締結しているのと同様の状態にすることも多い。

また、株式譲渡契約書には、株式譲渡に関連する合意内容は株式譲渡契約書自体に規定されているものが全てであり、その他の合意は失効する旨を定めた完全合意条項が規定されていることが多く、当事者間において株式譲渡契約書以前に合意がされた秘密保持契約書については、完全合意条項により効力が失効させられることも多く存在する。

そのような場合、株式譲渡契約書においては、秘密保持義務が改めて規定することが必要である。

(3) 秘密保持義務の秘密情報の範囲及び秘密保持義務者の範囲

また、秘密保持義務の対象である秘密情報の範囲については、売主と買主の株式譲渡の当事者に関する情報のみならず、株式譲渡に関する交渉過程全般に関する情報、及び、買収監査の過程全般に関する情報、さらには対象会社に関する情報も含み、すなわち、事業承継M&Aに関する過程において取り扱われた全ての情報が対象となるべきものである。

ただし、当事者といえども、事業承継M&Aについて、弁護士やフィナンシャルアドバイザーなどの専門家には情報を開示して相談する必要があることから、そのような専門家については秘密保持義務の対象外となっている。

この第19条においては、秘密保持義務の規定は簡潔なものとなっているが、フィナンシャルアドバイザーといっても、自称アドバイザーのような業者も非常に多く、弁護士、司法書士、監査法人、公認会計士、税理士とは異なり、法令上の秘密保持義務を負っていないフィナンシャルアドバイザーを、すべてこの第19条で秘密保持義務の対象から外すことは行きすぎかもしれない。したがって、秘密保持義務の対象から外すフィナンシャルアドバイザーなどに対してはは、第19条と同等の秘密保持義務を賦課することを前提に開示可能とする規定も多い。

また、売主や買主の親会社やグループ会社などを、秘密保持義務の対象から外すことも多く行われる。親会社やグループ会社などを、秘密保持義務の対象から外さない場合、その都度、相手方の承諾を取得する必要が生じてしまうため、実務的ではない。

また、この第19条においては、当事者がすでに保有していた情報や公知であった情報、さらには当事者が第三者から適法に入手した情報などは、秘密保持義務の対象から外しているが、これも秘密保持義務としては一般的である。

(4) 事業承継M&Aのクロージング後の秘密保持義務

また、秘密保持契約書は、主として、売主が買主に対して売主や対象会社の情報を開示する場合の秘密保持義務を規定するものであり、事業承継M&Aがクロージングした後のことまではあまり想定していないことが多い。

売主としては、対象会社を買主に売却した以上、対象会社とは特段の利害関係はなくなるものの、売主は対象会社の事業を運営してきたのであり、対象会社の情報を大量に保有している。売主が、対象会社の情報を秘密保持せずに、ライバル企業などに流出させたりするような場合、対象会社の企業価値は著しく毀損する。

すなわち、株式譲渡契約書における秘密保持義務としては、株式譲渡がクロージングする前、買主が対象会社の事業に関する情報を開示することを禁止することは当然のことであるが、株式譲渡がクロージングした後、売主が対象会社の事業に関する情報を開示することを禁止することまで含むように規定する必要がある。

その他、従業員であるならともかく、オーナー経営者や取締役は、対象会社との間で、特段、秘密保持義務を締結していないことが多く、株式譲渡契約書に対象会社の情報に関する秘密保持義務を規定しない限り、対象会社の情報の流出を防止することができない可能性も存在する。

(5) 秘密保持義務の期間

また、秘密保持義務の期間も重要である。

秘密保持義務の始期であるが、通常は、特段記載しないため、株式譲渡契約書の締結と同時に効力を発生する。

問題は秘密保持義務の終期であるが、筆者らの経験則的には、2年や3年にすることが多いように思われるが、対象会社の事業においては、2年や3年では情報の重要性が消滅しない場合は、秘密保持義務の期間が2年や3年程度では短いものと思われる。また、特段、終期を定めないことも多い。

また、その秘密保持義務の期間であるが、どの時点を起算点として計算するべきかについても一考が必要である。すなわち、旧オーナー経営者が、事業の引き継ぎのため、当面、対象会社に役員として在任する場合や顧問として業務を受託するような場合、秘密保持義務の期間は、その任期が終了してから計算を起算すべきであるし、旧オーナー経営者本人でなくても、旧オーナー経営者の関係者である役員などが在任している場合は、その者が退任するなどしてから秘密保持義務の期間の計算を起算すべきであろう。

その者が対象会社に在任などしている限り、売主である旧オーナー経営者は、対象会社の情報をアップデートすることができるのであって、その情報のアップデートが終了した時点から情報の陳腐化が始まるのであるから、秘密保持義務の期間の計算の起算は、その時点からスタートすべきだからである。

(6) 秘密保持義務の存続条項

また、本条第2項は、秘密保持義務の存続条項である。

すなわち、株式譲渡契約書が解除その他の理由により終了してしまった場合、株式譲渡契約書が失効するのであるから、この秘密保持条項も失効するとなると、解除などの時点で、直ちに、秘密保持条項が失効してしまうこととなる。本来であれば、株式譲渡のクロージングから2年か3年継続するべきであった秘密保持義務が直ちに失効してしまうことは明らかにおかしい。また、株式譲渡契約書の解除などは一方当事者の意思で行うことができるケースが存在するのであるから、一方当事者の意思で、株式譲渡のクロージングから2年か3年継続するべきであった秘密保持義務が直ちに失効してしまうことは明らかにおかしい。

したがって、株式譲渡契約書の秘密保持条項には、存続条項も併せて規定されるのである。

■■■第20条■■■■■■■■■■

第20条  (対外公表)

売主及び買主は、公表の時期及び内容について事前に合意することにより、本契約の締結の事実及びその内容を公表することができる。ただし、金融商品取引法、証券取引所規則等により必要とされる場合において、あらかじめ相手方に時期・内容・方法を通知した上で、合理的な範囲内で公表を行う場合は、この限りではない。

第20条は、対外公表に関する規定である。

(1) オーナー経営者と対外公表

第19条に基づき、売主及び買主は、秘密保持義務を負うが、売主としても、買主としても、事業承継M&Aを公表する必要がある場合がある。

売主のオーナー経営者としては、必ずしも、事業承継M&Aを公表したいわけではないことが多い。オーナー経営者としては、事業承継M&Aは、自分の引退であり、積極的には公表したくないというのが一般的であろう。

オーナー経営者については、事業承継M&A完了後、それを聞きつけた、金融機関や証券会社、親族・友人など、さまざまな人物が近づいてくるのであり、金の無心に来る者も多いと聞く。また、オーナー経営者からは、事業承継M&A後、非常にリスクの高い金融商品に投資をしたとか、プライベートバンカーにほとんど資金を預けてしまったとか、長年話をしたことがなかった親族が急に親しそうにやってきたなどの話はよく聞くところである。

(2) 事業の引継ぎと対外公表の重要性

半面、売主としては、事業承継M&Aに伴い、買主に対して、対象会社をスムーズに引き継ぐ必要があり、オーナー経営者が退職した後も、対象会社が取引先や金融機関などとスムーズに取引を継続することができるよう、取引先や金融機関などに対して、事業承継M&Aについて報告を行う必要はあろう。

また、特に、その取引先や金融機関などとの間の契約書に、いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)(M&Aについて、その取引先や金融機関などの事前承諾を必要とする義務や、その取引先や金融機関などに事前報告・届出又は事後報告・届出を行う義務を規定する条項)が存在していた場合は、対象会社としては、その取引先や金融機関などに対して、契約上の義務として、その事業承継M&Aについて、情報開示をすることが必要となる。

実務的には、そのような取引先や金融機関などに対しては、担当者と面談をして、事業承継M&Aの概要を報告したり、少なくとも事業承継M&Aの概要を説明した通知書を郵送することとなる。

さらに、買主としては、事業承継M&Aの後、対象会社と協働し、相乗効果(シナジー)を生んで、買主及び対象会社の競争力を向上させたいと考えているところであり、事業承継M&Aにより、対象会社が買主のグループ企業になったことや、対象会社の経営方針について、対外的に情報開示を行い、アピールをしたいところである。また、この事業承継M&Aの情報開示が契機になり、取引先や金融機関などとの取引に新しい展開が生ずる可能性もある。

これは、特に、買主が上場会社の場合、顕著である。上場会社の経営陣としては、継続的に自社の業績を向上させ、株主に対してアピールし、株価の維持向上に努めるプレッシャーを受けているところ、事業承継M&Aを行ったということは、自社の株価向上に大きく資する行為であり、株主に対して、大きくアピールしたいと事項であろう。

(3) 対外公表される情報の管理の重要性

なお、この対外公表される情報(事業承継M&Aに関する情報)については、第19条に基づき、秘密保持義務が課されており、対外公表のためには、相手方当事者の承諾が必要なのである。

買主としては、その通知書の内容に、真実と相違する事実が記載されている場合、情報開示されたくないのは勿論のこと、開示されたくない事実が開示されてしまうことを避けたい。例えば、買主としては、事業承継M&Aの取引金額・取引条件や対象会社の今後の経営方針などは開示されたくない場合が多い。すなわち、情報開示した内容によっては、取引先や金融機関などが、それを買主や対象会社の公約と捉え、それを前提とした取引を要求してくることもあり、また、情報開示した文言によっては、買主や対象会社が、それにより外部に対して、事実上の約束をして義務を負うものや、文言によっては、法律上の義務を負うこととなる可能性もある。

買主としては、売主が、事業承継M&Aについて、取引先や金融機関などに対して、情報開示する場合は、その内容について、事前に確認を行い、必要に応じてその内容について修正を求めることが必要である。

(4) 法令上の対外公表義務がある場合もある

なお、上場会社が買主となる事業承継M&Aでは、金融商品取引法や証券取引所規則によって、適時開示義務が規定されている。この適時開示義務は、法令上の義務であることから、第20条ただし書きにおいては、相手方に対して、事前通知を行った上で、合理的な範囲内で公表することができることが規定されている。

⇒M&Aトラブルを解決する方法を見る!

お問い合わせ   

この記事に関連するお問い合わせは、弁護士法人M&A総合法律事務所にいつにてもお問い合わせください。ご不明な点等ございましたら、いつにてもお問い合わせいただけましたら幸いです。

    ■対象金額目安

    ■弁護士相談料【必須】

    ■アンケート

    >お気軽にお問い合わせください!!

    お気軽にお問い合わせください!!

    M&A相談・株式譲渡契約書・事業譲渡契約書・会社分割契約書・デューデリジェンスDD・表明保証違反・損害賠償請求・M&A裁判訴訟紛争トラブル対応に特化した弁護士法人M&A総合法律事務所が、全力でご協力いたします!!

    CTR IMG