株式買取請求権の公正な価格とは?!

株主の利益に重要な影響を及ぼす一定の行為が行われる場合、反対株主は会社に自分が保有する株式を買い取るよう請求することが可能(株式買取請求権)となっています。

ただし、株式買取請求権を行使することができても、その株式買取価格についての協議が会社との間で整うケースは非常に少ないです。

会社は安く買いたい、株主は高く売りたいという思惑がある以上、当然といえば当然でしょう。

よって、株式買取請求権が行使された多くのケースでは、裁判所に対して価格決定の申立てが行われ、裁判所の合理的な裁量によって「公正な価格」にて買取価格が決定する運びとなります。

しかし、この公正な価格についての具体的な価格の算定方法については定めがなく、また、下級審による決定の内容についても、必ずしも一致してはいません。

そして、それが会社と株主の間で株式買取価格の協議が整わない原因にもなっています。

株式買取請求権を行使する上で「公正な価格」とは非常に重要なキーワードですが、その情報や内容について把握している方は非常に少ないです。

そこでこの記事では、そんな株式買取請求権の「公正な価格」について、M&A弁護士が徹底解説していきます。

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・株式買取請求権の「公正な価格」とは?

元々、旧商法において、株式買取請求権にかかる株式買取価格は、「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」と定められていました。

しかし、平成18年施行の会社法において、単に「公正な価格」と改められたのです。

そして、その趣旨につきましては、「企業再編等に反対した株主に投下資本の回収の機会を与えるに際し、企業再編が為されなかった場合の経済状態を保証するだけではなく、企業再編によるシナジー(相乗効果)を適正に反映させ分配するという機能が付加されたもの」とされています。

・株式買取請求権の「公正な価格」の意義

株式買取請求に係る「公正な価格」の意義につきまして、平成23年4月19日の「株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(楽天対TBS株式買取価格決定申立事件)」にて、最高裁は以下のように見解を示しています。

【株式買取請求権の「公正な価格」の意義についての裁判所の見解(楽天対TBS株式買取価格決定申立事件)】

①反対株主は、吸収合併や吸収分割、または株式交換が行われた際に会社法785条2項所定の株主は、吸収合併消滅株式会社、吸収分割株式会社または株式交換完全子会社に対し、自己の有する株式を「公正な価格」で買い取るよう請求することが可能である。

②株主は、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為に反対し、会社からの退出の機会を与えられ、また、退出を選択した株主には、吸収合併等がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保される。

さらに、吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生ずるならば、反対株主に対してもこれを適切に分配し得るものとすることにより、反対株主の利益を一定の範囲で保障することにある。

上記が、反対株主に「公正な価格」での株式の買取りを請求する権利が付与された趣旨である。

③裁判所による買取価格の決定は、客観的に定まっている過去のある一定時点の株価を確認するものではない。

また、裁判所において、上記の趣旨に従い「公正な価格」を形成するものであり、会社法が価格決定の基準について格別の規定を置いているわけでもない。

よって、その決定は,裁判所の合理的な裁量に委ねられているものと解される。

④上記(②参照)の趣旨に照らせば、吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合には、増加した企業価値の適切な分配を考慮する余地はない。

よって、吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければ、その株式が有したであろう価格(「ナカリセバ価格」)を算定し、これをもって「公正な価格」を定めるべきである。

⑤消滅株式会社等の反対株主が株式買取請求をすれば、消滅株式会社等の承諾を要することなく、法律上当然に反対株主と消滅株式会社等との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じ、消滅株式会社等には、その株式を「公正な価格」で買い取るべき義務が生ずる反面、反対株主は、消滅株式会社等の承諾を得なければ、その株式買取請求を撤回することができないことになる(会社法785条6項)。

このことからすれば、売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずる時点であり、かつ、株主が会社から退出する意思を明示した時点である株式買取請求がされた日を基準日として、「公正な価格」を定めるのが合理的である。

仮に、反対株主が株式買取請求をした日より後の日を基準として「公正な価格」を定めるものとすると、反対株主は、自らの意思で株式買取請求を撤回することができない。

さらには、株式買取請求後に生ずる市場の一般的な価格変動要因による市場株価への影響等当該吸収合併等以外の要因による株価の変動によるリスクを負担することにもなる。

また、上記決議がされた日を基準として「公正な価格」を定めるものとすると、反対株主による株式買取請求は、吸収合併等の効力を生ずる日の20日前の日からその前日までの間にしなければならないと定められているため(会社法785条5項)、上記決議の日から株式買取請求がされるまでに相当の期間が生じ得てしまう。

にもかかわらず、上記決議の日以降に生じた当該吸収合併等以外の要因による株価の変動によるリスクを反対株主は一切負担しないことになり、相当ではない。

よって、会社法782条1項所定の吸収合併等により、シナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に、同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は、原則として、当該株式買取請求がされた日における「ナカリセバ価格」をいうものと解するのが相当である。

⑦反対株主が株式買取請求をした日における市場株価は、通常、吸収合併等がされることを織り込んだ上で形成されているとみられる。

このことを踏まえると、同日における市場株価を直ちに同日のナカリセバ価格とみることは相当ではなく、ナカリセバ価格を算定するに当たり、吸収合併等による影響を排除するために、吸収合併等を行う旨の公表等がされる前の市場株価を参照してこれを算定することや、その際、上記公表がされた日の前日等の特定の時点の市場株価を参照するのか、それとも一定期間の市場株価の平均値を参照するのか等については、当該事案における消滅株式会社等や株式買取請求をした株主に係る事情を踏まえた裁判所の合理的な裁量に委ねられているものというべきである。

また、吸収合併等を行う旨の公表等がされた後株式買取請求がされた日までの間に、当該吸収合併等以外の市場の一般的な価格変動要因により、当該株式の市場株価が変動している場合に、これを踏まえて参照株価に補正を加えるなどして同日のナカリセバ価格を算定する際についても、同様である。

⑧吸収合併等により企業価値が増加も毀損もしないため、当該吸収合併等が消滅株式会社等の株式の価値に変動をもたらすものではなかったときは、その市場株価は当該吸収合併等による影響を受けるものではなかったとみることができる。

よって、株式買取請求がされた日のナカリセバ価格を算定するに当たって、参照すべき市場株価として、同日における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることも、当該事案に係る事情を踏まえた裁判所の合理的な裁量の範囲内にあるものというべきである。

株式買取請求権の「公正な価格」は「ナカリセバ価格」と「シナジーを反映した価格」で構成される

すなわち、組織再編行為等が行われた際の株式買取請求権の「公正な価格」につきましては、一般的に、組織再編行為により企業価値が増加する場合には、シナジーを反映した価格を基礎とし、逆に企業価値を毀損する場合には、組織再編行為の決議がなければ有していたであろう価格(「ナカリセバ価格」)を基礎として算定すべきとされて、株式価値は客観的価値(「ナカリセバ価格」)と株価上昇の期待権(シナジーを反映した価格)により構成され、株式買取請求権に基づく株式買取価格については、そのいずれか高い方を採用すべきであるとするものです。

このような、「公正な価格」について、株式価値は客観的価値(「ナカリセバ価格」)と株価上昇の期待権(シナジーを反映した価格)により構成され、株式買取請求権に基づく株式買取価格については、そのいずれか高い方を採用すべきであるとする「公正な価格」の基本的な考え方については、2009年のTBSの持株会社化にあたり、楽天がTBSに対し株式買取請求権を行使し、その買取価格を巡る争いが勃発した「楽天対TBS株式買取価格決定申立事件」の裁判において、最高裁において採用され、また実際に、多くの裁判例がこの見解を採用しています。

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・まとめ

会社法が施行されたことで、今現在では吸収合併、吸収分割や株式交換など、株主の利益に重要な影響を及ぼす一定の行為について、反対株主は「公正な価格」で株式の買取りや取得することを会社に請求できる権利(株式買取請求権)が認められています。

また、これまでの裁判例を見てみれば、「公正な価格」について、客観的価値(「ナカリセバ価格」)と株価上昇の期待権(シナジーを反映した価格)により構成される点について、裁判上の考え方が確立されつつああります。

ただし、「公正な価格」について、不明瞭な点が多いことも事実です。

たとえば、客観的価値(「ナカリセバ価格」)の算定方法については事例ごとに相違が生じているケースもありますし、期待権の概念(シナジーを反映した価格)につきましても、明快にされているとは言い切れません。