事業承継M&Aの概要と流れ及び留意点・法制度!

事業承継において、会社を第三者に売却する事業承継M&Aが行われることが多くなっています。親族以外の役員や従業員などに事業承継する場合も、M&Aの手法を使用することになります。この事業承継M&Aとは、株式譲渡による事業承継です。ただ、単に株式譲渡をするだけでは想定通りの事業承継が実現することはできません。事業承継に伴ういろいろなノウハウや法制度を使用する必要があります。ここでは、事業承継M&A(株式譲渡による事業承継)の概要及び流れ、留意点及び使用すべき法制度について解説してゆきたいと思います。事業承継M&Aを検討されている経営者にとっては必見です。

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○事業承継M&Aの概要と流れ及び留意点・法制度

前章では事業承継に使える方法3タイプとそれぞれ利用上のメリットやデメリットを見てきましたが、これから事業承継の時期を迎える会社経営者はこのうちどの方法を使ったらいいのでしょうか?

もちろんその会社の置かれている状況、経営者の事業承継に対する考え、後継予定者が家族内あるいは社内にいるかどうかでも判断は変わってきます。

しかし多くの会社で事業承継にマッチする適切な後継者がいなくなっているのは事実であり、一方で経営者の高齢化が進んでいるので、事業承継の準備のために使える時間は経営者にそう多く残されていないのが現状ではないでしょうか。

そこで使えるのがM&Aを使った事業承継です。

この章からはM&Aによる事業承継に焦点を当てて、どのような形で事業承継は行われるのか、M&Aの流れはどのようになっているのか、など詳しく説明します。

▲M&Aによる事業承継の基本は株式譲渡

日本の中小企業において、M&Aによる事業承継の基本は株式譲渡において行われています。

1990年代、親族内承継率が8割を超えていたときから比べると現在は5割を切るまでになっており、それに代わってM&Aによる事業承継率が上がってきていますが、やり方として株式譲渡による事業承継は変わっていません。

なぜなら会社をそのまま承継するには、株式譲渡による事業承継が最も適した手段だからです。

もちろん株式譲渡で会社をまるごと承継すれば、買収会社が簿外債務や偶発債務まで一緒に抱え込んでしまうリスクはあります。

しかしそれは重要な承継手続きのひとつであるデューデリジェンス(買収査定)で精査して極力排除すればいい話であり、株式譲渡がひとつの会社を丸ごと効率よく手に入れる方法であることには違いありません。

▲M&Aによる事業承継の流れ

ここでM&Aによる事業承継の流れ、あるいは手順について簡単に解説します。

なおこの基本的な流れは、社会的な事業承継の動向を見て経済産業省中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン」に沿って解説しています。

参照先:中小企業庁 事業承継ガイドライン

・STEP1…経営課題の見える化

M&Aで事業承継することを検討し始めた売却企業は、自社の現状を分析して経営課題の「見える化」をしっかり進めておかねばなりません。

「見える化」の具体的内容は以下のような項目です。

会社の資産内容、自社の強みや弱み、顧客関係、後継者の有無、株主の事業承継に対する意見、経営者の資産負債内容、株式の保有割合など。

これらをできるだけ書面で一覧にしておけば、自社の経営課題が浮き彫りになるので、M&Aの交渉に活かすことができます。

・STEP2…会社価値の向上(磨き上げ)

磨き上げというのは中小企業庁の事業承継ガイドラインでも頻繁に使われている言葉です。

要するに磨き上げとは、会社の強みや弱みをよく知って、それを社内に広く公知し、役員や従業員の協力を得て弱点の改善を図り、一方で強みを伸ばしていく、企業価値を向上させていくプロセスのことを言います。

磨き上げの作業を効率よく進めるためにも構成員で業務にかかる各マニュアルを整備していくのも重要な要素です。

このように日頃から意識して企業価値を上げる努力をしておくと、M&Aにおいて会社を高い値段で譲渡できる可能性が上がってきます。

・STEP3…M&A事業承継計画の策定

会社として磨き上げに努力する一方で、事業承継計画を作っておくことを忘れてはなりません。

もちろん親族や役員・従業員に対する承継の場合でも計画を練っておくことは大事ですが、M&Aで事業承継するときは、自社を買収しようとする相手が自社とまったく関係ない他社だけに、事業承継計画をきちんと作っておくことはより重要です。

また事業承継計画を自社単独で作るには専門的すぎてあまりに無理があるので、その場合はMAアドバイザーや顧問弁護士、公認会計士等専門家の協力が必ず必要になります。

・STEP4…M&A実行

上記のプロセスが終了するといよいよM&Aによるマッチングの開始です。

売却希望企業と買収企業のニーズがそのままそっくり合致することなどまずありません。

交渉の過程では、両社とも最終的合意に向けいろいろ妥協を強いられる場面もあることでしょう。

そのためには仲介役を果たすMAアドバイザーも含め、M&Aの当事者である両社とも忍耐を要し、M&Aが決着を見るためには早くて6ヶ月から1年くらい、時にはそれ以上の期間が必要となります。

・STEP5…PMIの実施

M&Aが決着し事業譲渡が成功したとしても企業活動に終わりはありません。

買収企業には、譲渡企業を社内に取り込んだ後も引き続き、シナジー効果を活かして会社を発展させていく課題が待ち受けています。

そのために行う一連の作業のことをPMIと言います。

PMIとはPost Merger Integrationの略で、M&A成立後の会社としての統合プロセスのことを言います。

M&A実施後、もし買収企業が統合化に失敗すると、逆に企業価値が低下するほか、取引先離反による成長の鈍化、社員のモラルやモチベーションの低下、優秀な社員の社外流出などを招いてしまいます。

そのためPMIでは、買収企業と譲渡企業の垣根を越えた企業文化の融合を図り、的確なマネジメントを図ることで、一日も早く一体化を進めていく必要があります。

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○事業承継M&Aにおける株式譲渡の方法と問題点

ここでいったんM&Aによる事業承継の話題を横に置いて、事業承継における株式譲渡の方法と問題点について触れておきたいと思います。

M&Aによる事業承継が増えていると言っても、まだ事業承継全体のなかではその利用率は3~4割に過ぎません。

依然として親族内承継や親族外承継で事業承継も行われており、その主たる手段は株式譲渡です。

そこでこの章では3つの事業承継タイプにおいて、それぞれ株式譲渡を利用した場合の問題点について解説します。

▲親族内承継で株式譲渡M&A

親族内承継で株式譲渡した場合、一番の問題点は後継者となる子息や娘が相続または贈与で引き継ぐとき、相続税や贈与税を全額払えるかという点です。

この点がネックとなり多くの中小企業経営者が親族内での事業承継を断念し廃業を選択しています。

会社の業績が上向きで利益を出し続けていると、内部留保も増えて株式の時価評価はどんどん上がってきます。

そのタイミングで事業承継のタイミングを迎えてしまうと、企業の中には、後継者が相続税や贈与税を払えないケースが多発し、親族内承継で事業承継を失敗してしまうことが起こるのです。

したがって中小企業経営者が親族内で事業承継を行うつもりなら、日頃から時間を掛けて贈与時や相続時に後継者が税金を払えるよう、資金対応も含めてしっかり株価対策を行っておかねばなりません。

税金をできるだけ払わず後継者に自社株を引き継ぐ対策としては、たとえば株式贈与(生前贈与)で暦年課税制度を利用する方法があります。

これは経営者が生きている間、毎年子供に対して110万円までの資産を贈与することでその全額を非課税にできる制度のことです。

そうすれば時間はかかりますが、暦年贈与を繰り返すことで税金を払わず合法的に経営者の持ち株を後継者に移すことができます。

相続時精算課税制度を使って税金対策

また相続時精算課税制度を使って税金対策する方法もあります。

これは経営者が子供に生前贈与する際、最高2,500万円まで非課税で贈与できるという制度です。

また贈与額が2,500万円を越えたら超過分に対して20%の贈与税がかかります。

これは経営者が生きている間に一度に多額の相続財産を後継者含みの特定の子供に譲渡できるという意味では大変便利な制度ですが、一方経営者の死後、その贈与分も含めて改めて相続財産として再計算されるという面があることも知っておかねばなりません。

株式分散するのを防いでおく

そのほか、親族内承継で株式譲渡を使う場合、経営者が意識しておかねばならないことは、株式譲渡ではできるだけ株式分散するのを防いでおくと言う点です。

中小会社によっては経営者の判断で多くの親族に株式を分散して持たせておくことがよくあります。

普通の親なら全ての子供に均等に会社の株式を持たせたいと思う親心はわからないわけではありません。

しかしこの状態を放置したまま経営者がなくなると、死後、会社内で誰が後継者になるか、その覇権をめぐって兄弟姉妹間での争いが起きることもあります。

親としての感情は別において、経営者が特定の子供を後継者にしたいなら、やはり自分が生きている間に分散していた株式を買取り、できるだけ多く後継者に株式を集中して承継するべきだと思います。

会社の後継者の経営権をできるだけ強め、他の親族や株主のクーデターを防ぐためにも、経営者は自社株承継問題には無関心であってはいけないのです。

▲親族外承継で株式譲渡M&A

親族外承継で株式譲渡を検討する場合、一番の問題は会社内に経営者が後継者に指名できるほどの有能な役員・従業員がいるかどうかということでしょう。

しかしこの章は親族外承継で株式譲渡をする場合の株式に関する問題点の解説なので、すでに社内に後継者に指名できる役員や従業員がいるという前提で話を進めます。

親族外承継で株式譲渡を検討する場合の問題点とは、その後継候補が経営者の保有する株式を全額買取りできるだけの自己資金を十分確保できるかどうかという点です。

親族内承継でも指摘しましたが、会社の業績が良くて利益も出て長期間その状態が続いていると、株式譲渡のタイミング時にはその株式評価が相当高くなっているはずです。

それでは後継候補が自分で買い付け資金を用意できず株式譲渡計画が頓挫してしまう可能性が高くなります。

そのため経営者としては、親族外承継で株式譲渡するつもりなら、日頃からできるだけ意識して株式評価が下がるよう株価対策しておかねばなりません。

たとえば株式評価を引き下げる対策として、役員退職金支払い、不動産購入、生命保険加入、などがあります。

これらの手段は全て会社が保有している現金を社外流出させる方法なので、結果的に自社株の評価が下がり、後継者が株式を買いやすくなることにつながってきます。

また会社の高収益の部門があれば分社化するなども株価対策としては効果的です。

とにかく自社株の評価ができるだけ下がっているタイミングを待って引き継ぐのが親族外事業承継ではベストです。

経営者は日頃から意識して株価対策をやっておいて下さい。

▲M&A事業承継としての株式譲渡M&A

M&A承継で株式譲渡する場合、親族内・親族外承継のときとは全く事情が異なってきます。

なぜかというと、事業承継する相手が身内でなく全く資本関係のない他社だからです。

こうなると譲渡企業としたら経営者は自社をできるだけ高く売りたいだろうし、逆に買収企業としたらできるだけ安く買いたいと思うのが普通です。

そのためにも譲渡する側としたら売却時の株式評価はできるだけ高く維持しておきたいと考えるのが本音でしょう。

ただし問題はそう都合良く買収企業が見つかるかどうかという点があります。

また仮にうまく見つけられたとしても、自社の思うように高く買ってくれるとも限りません。

M&Aはあくまで相対交渉なので、会社評価の基本的な付け方はあるとしても、それはあくまで参考値に過ぎず、最終結果は色々な要素を相互に検討して売却額(購入額)が決まると言うことになります。

そういう点ではM&A承継で株式譲渡する場合、自社株の動向や相続税・贈与税の有無をあまり気にせず事業承継が進められる点が大きなメリットだといえます。

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