債権者保護手続きとは
会社分割などの組織再編行為(合併、株式交換、会社分割)や資本金の額の減少などの際に、その結果、債権の弁済に影響が出る可能性のある債権者を保護するために行われる会社法上の手続きです。
通常、債権者保護手続きには、1ヶ月の期間が必要だとされます。すなわち、会社分割などの組織再編行為(合併、株式交換、会社分割)や資本金の額の減少などが効力を発生するためには、最低、この1ヶ月の期間が必要となります。
しかし、実務上は、それ以上に時間がかかります。
債権者保護手続きに必要な手続きは、具体的には、官報公告と個別通知です。
個別通知をするためには、債権者の名前と住所を確認し、送付先リストを作成するところから始まって、通知書の印刷や封緘作業、そして発送作業と言うことで、実務上の作業期間が必要となります。
またそれ以上に厄介なのは、官報公告です。
官報公告は原稿を官報取扱所に入稿してから掲載されるまでに1週間くらいかかります。
また官報公告や個別通知には、当事会社の直近の財務諸表に関する情報を掲載する必要があります。直近の財務諸表とは当事会社が2社とも決算公告を行っていればその決算公告の官報の号数と頁数を掲載すればよいのですが、決算公告を怠っている会社は、この債権者保護手続きの際の官報公告及び個別通知の中に要約貸借対照表を掲載する必要があります。中小企業の場合は、決算公告をしている会社はほとんどないと思いますので、これは一大事です。
官報公告に要約貸借対照表も掲載する場合は、原稿を官報取扱所に入稿してから掲載されるまでに2週間くらいかかりますし、通常の官報ではなく、号外の官報に掲載されることとなるため、それ以上かかる可能性もあります。
また、そもそも、要約貸借対照表は通常の貸借対照表とも異なります。会社計算規則に作成方法が規定されており、作成はそれほど難しくないとされますが、税理士先生に作成いただいた方が無難です。
また、債権者保護手続きの官報公告及び個別通知は、債権者異議催告通知と言われ、債権者に対して、会社分割などの組織再編行為(合併、株式交換、会社分割)や資本金の額の減少などに異議がある場合は、返済や担保提供をしますので申し出てくださいと言う手続きです。ですので、異議を述べてくる債権者がいる可能性もあり、その場合、その債権者に対する対応にも事実上の時間がかかります。なお、実際は、異議を述べてくる債権者がいたとしても、その債権者の債権の返済可能性に悪影響が無い限りは、特段の対応をする必要はなく、債権者から異議があっても、その債権者の債権の返済可能性に悪影響が無いとの上申書を法務局に提出すれば、会社分割などの組織再編行為(合併、株式交換、会社分割)や資本金の額の減少などの登記変更は可能です。
以上、債権者保護手続きを行う場合の留意点について述べてきましたが、実は、新設分割で新設会社を設立する場合、債務を新設会社に承継させないのであれば、債権者異議手続きは必要が無いのです。新設分割をしたとしても分割会社は、引き続き、新設会社の株式を100%保有し続けるのだから、分割会社の資産に悪影響はないのだからということで、債権者保護手続きが不要とされています。
しかし、詐害的会社分割の場合のように、分割会社は不良債権の塊なのに、新設会社は一切負債が無いピカピカの会社となり、新設会社が第三者へ譲渡されてしまうような場合は、債権者に悪影響があるので債権者保護手続きが必要なのではないかという議論もあります。
しかし、この点の法改正は実際は行われることはなく、やはり、セオリー通り、新設分割をしたとしても分割会社は、引き続き、新設会社の株式を100%保有し続けるのだから、分割会社の資産に悪影響はないのだからということで、債権者保護手続きが不要と言うことになっているようです。
ただ、最近は、詐害的会社分割の場合、債権者は詐害行為取消権を行使することができ、分割会社に対しても債権を請求してゆくことができますので、詐害的会社分割については、そちらの制度で対応すればよいということで、債権者保護手続きについて改正がおこなわれることはなくなったのだろうと思います。
いずれにしろ、会社分割などの組織再編行為(合併、株式交換、会社分割)や資本金の額の減少などにはこのような機関が必要になり、M&Aにおけるスケジュール上のボトルネックとなりますので、会社分割などの組織再編行為(合併、株式交換、会社分割)や資本金の額の減少などを伴うM&Aを行う場合は、M&A弁護士においては、スケジュールマネジメントが重要になってきます。