第二会社方式とは?内容と手続の流れ!

「第二会社方式」による企業再生は、債務が膨らんでいるものの何とか事業継続したいと考えるときの手段のひとつです。債務者自身・金融機関・それ以外の債権者の当事者全員にとってメリットの多い方法ですが、手続きにあたっては留意点も存在します。

第二会社方式の仕組み・これから手続きを始めようとする法人オーナーが注意すべき点について、会社経営の当事者各視点から解説します。

【この記事で分かること】

第二会社方式による事業再生とは?

第二会社方式とは、債務が膨らんだ法人から収益性の高い事業(=Good事業)のみ切り離し、別会社(以下「第二会社」または「新会社」)に移転する手法です。債務の膨らんでいる事業(=Bad事業)の残された旧会社は、特別清算や破産といった法的整理により処理を行います。

なぜ第二会社方式が選ばれるのか(他の企業再生手法の短所)

債権カットしながら企業再生を目指す方法として、従来通りの私的整理もしくは民事再生(法的整理)が考えられます。各方法には以下のようなデメリットが存在し、事業継続を強く意識するオーナーにとって最良の方法とは言い難いものでした。

私的整理のデメリット…

債務者側:債権者全員の同意が必要になる・保全処分がない

債権者側:公平性に不安がある・税務上の処理が不明瞭

民事再生(法的整理)のデメリット…

債務者側:経営陣の意思を反映させられない・事業価値が損なわれる

債権者側:債務免除による対価が少ない

私的整理・法的整理共通のデメリット…

事業継続に集中できず、Good事業の将来性を損ねるリスクがある

私的整理は裁判所を通さない交渉であり、債務者か一部の債権者にとって一方的に都合のよい内容になる危険があります。債権者の全員一致が大前提となり、反対する債権者がいれば時間のロスは避けられません。再生がままならず、そのまま破産・特別清算等の手続きに進む可能性も十分あります。

かといって民事再生では、法人のブランド力の著しい低下は避けられません。裁判所の公告等を通じ、クライアントにも会社の財政状態が伝わってしまうからです。

法人オーナーに「債券カットしたきれいな状態で後継者に会社を譲りたい」といった思惑があるなら、なおのこと法的整理は好ましくありません。

第二会社方式とは、債務者側には「手続きにおけるイニシアティブと事業価値保全」・債権者側には「Good事業による対価」の両方を一定レベルで約束するものです。当事者全員で協力関係を築き、スムーズに債権カットにたどり着けることこそ、第二会社方式が選ばれる理由です。

第二会社方式による事業再生のスキーム

Good事業移転先となる第二会社は新設するのが一般的です(分社型新設分割)。法人オーナーは資金提供を受け、Good事業のある新会社の株主=企業再生に協力するスポンサーとなります。

【分社型新設分割】一般的な事業再生スキーム-

  • X会社(旧会社)がY会社(第二会社/新設)から株式交付を受ける
  • X会社のGood事業をY会社へ移転させる
  • Y会社のスポンサー企業がX会社からY株を買い取る
  • X会社は解散し、清算または破産を行う

事業再生ファンドの存在を背景に、②の段階で「Good事業ではなくBad事業を移転させる」という逆の手法も増えています。左記の手法では、スポンサー=事業再生ファンドは改良の見通しがある事業を格安で入手でき、Good事業だけが残る旧会社ではオーナーが経営に集中できるという利点があります。

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第二会社方式のメリット

企業再生の手法として第二会社方式を選んだ時、具体的には次のようなメリットがあります。債務者側・債権者側・事業継続の基盤となる第二会社側の3者の視点から順に解説します。

メリット1:第二会社方式は新旧会社ともに損金計上が可能になる

債権カット(債務免除)に成功すると、次なる問題として「債務免除益課税」が挙げられます。第二会社方式では、Bad事業が残される旧会社・Good事業を継続する新会社の両方で、次のように損金を生んで債務免除益を相殺することが出来ます。

旧会社(Bad事業)

会社分割または事業譲渡に伴い、資産を第二会社に譲渡する際に損金を創出することが出来ます。法的整理を行う際には、さらに期限切れ欠損金※1の計上が可能です。

ほとんどの中小企業で債務免除益の大半を相殺できるため、とりたてて問題が起きることはありません。

※1:期限切れ欠損金とは(法人税法116条3項・117条2項)

「債務免除された事業年度終了時点の前年度以前の繰越欠損金」から「青色欠損金+災害欠損金」を控除した金額を指します。

新会社(Good事業)…

旧会社を特別清算で処分する場合、新会社が持っている旧会社株に何らかの価値が生じる可能性・新旧会社が共同事業を行う可能性は、共にゼロです。こうした会社の分割方式を「非適格分割」と呼び、資産調整勘定※2を用いることが出来ます。

※2:資産調整勘定/会計上ののれんとは(法人税法62条8項)

非適格分割時に交付される旧会社株について「時価純資産」と「交付時の対価」の差を算出したものです。実質的には、新会社での資産調整額=旧会社の解散年度における青色欠損金となります。

私的整理では「企業再生税制」を適用した上での損金計上が認められていましたが、平成30年に廃止されています。したがって、令和元年(2019年)現在以降の企業再生において債務免除益を相殺できる手段は「法的整理」のみです。

第二会社方式では、事業継続の重荷となる部分=つまり旧会社だけを法的整理に任せることで、税務上の恩恵を受けることが出来るのです。

メリット2:第二会社方式は債権者側の不良債権リスクを低減できる

債権カットするにあたっては、債権者側でも「寄附金課税(法人税法22条)」が原則発生します。法人税法第37条に基づき、債務免除額=無償の供与=寄附金という解釈がなされるからです。

第二会社方式では、同条文に設けられた特例措置により寄附金課税は発生しません。

メリット1と同様に、法的整理ならではの税務上の利点です。

債務超過の状態にない債務者に対して債権放棄等をした場合でも、寄附金課税を受けない場合はあるのでしょうか。

一般的に、債務超過でない債務者に対して債権放棄等をした場合でも、営業状態や債権放棄等に至った事情等からみて経済合理性を有すると認められる場合には、債権放棄等による経済的利益の供与の額は、寄附金の額に該当しないものとして法人税法上損金算入が認められます。

引用:国税庁「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」(リンク

国税庁の説明する「経済的合理性(=債権放棄する上でのやむを得ない事情)」とは特別清算や破産手続きを指します。旧会社が解散してしまえば、債権回収の見込みはほぼゼロです。債権カットに合理性が生まれ、無償の供与ではないので損金算入できるという考えになります。

第二会社方式では、旧会社の清算または破産という裁判上の手続きを経ることで、債権者側の損金算入も認められるのがメリットです。

メリット3:第二会社方式はスポンサーの信用を得やすい

事業移転におけるスポンサーの協力には理由があります。

第一に挙げられるのは、旧会社に残されている「信用保証協会の保証付き制度融資」の債務が完全に免除される点です。

私的整理の場合、左記制度融資の債権カットに応じてもらえたとしても、保証協会から債務者に対する求償権がなお残されます。求償権が存在する限り、金融機関から融資を受けることは困難です。スポンサーによる援助以外に資金調達する方法がなく、結局事業継続に挫折してしまう可能性があります。

第二会社方式では、特別清算により信用保証協会の求償権も免除可能です。債権者が安心して第二会社に対する再生支援を行える、良い信用状態を作ることができるのです。

その上で、Good事業の社会的価値がほとんど損なわれないこともポイントとなります。

風評被害をほとんど受けないことで支援が集まり、事業継続により新しい価値を創出することも可能でしょう。第二会社の株主候補者にとって魅力的な展望です。

こうしたストーリーを編めることで、スポンサーや利害関係者が「事業の再スタート」に協力しやすくなるのです。

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第二会社方式の留意点(デメリット・リスク)

第二会社方式を選択するにあたって、最も大切なのはスキーム作りです。権利関係や雇用整理の予定に合わせて、Good事業の移転方法を取り決めなければなりません。

さらに、再生手続きの透明性を維持することも重要です。近年では不誠実な「抜け殻式」の事業再生に第二会社方式が用いられているとして、債権者が法廷に訴え出るケースもあります。

課題1:第二会社方式の際に会社分割or事業譲渡のどちらで切り離すのか

Good事業を第二会社に移転するにあたり、会社分割・事業譲渡のどちらで実施するのかが問題となります。それぞれの手続きのメリットとデメリットを押さえた上で、専門家と相談しながら企業再生スキームを作成しましょう。

会社分割のメリット&デメリット

会社分割の性質は「包括承継」です。

許認可・権利関係・契約(従業員やクライアントとの間で交わされたもの)をまるごと引き継げるため、再手続の手間がかからないことがメリットです。税制面でも、登録免許税・不動産取得税については「中小企業等経営強化法」による軽減措置が受けられるほか、第二会社に対する消費税も初年度は課せられません。

一方で、第二会社は簿外債務まで承継してしまうことに注意を要します。

【参考】簿外債務とは

その名の通り、貸借対照表に現れない債務のことを指します。

「節税のため利益を小さく見せようとする企業の努力」が簿外債務の代表格で、将来発生するかもしれない保証債務や退職金債務も含まれます(=偶発債務)。

中小企業のほとんどが簿外債務を抱えていると言われており、企業再生を目的とするM&Aでは「後から発覚した多額の簿外債務」が支援者を失望させてしまうトラブルもあります。

会社立て直しの円滑化を考えると、簿外債務の承継を拒めないのは、会社分割における重大なデメリットと考えられます。旧会社で会計士の協力を得ながら企業価値評価(デューデリジェンス)を正確に把握し、事業譲渡または「Bad事業の移転」という逆の方法も視野にいれる必要があります。

事業譲渡のメリット&デメリット

事業譲渡の性質は「個別承継」です。

許認可・権利関係・契約を第二会社が引き継ぐにあたって、それぞれ経営陣による再手続や契約相手の個別了承を得なければなりません。また、税制面での優遇もありません。

手間と時間・金銭的コストが余分にかかってしまうのは、事業譲渡の見逃せないデメリットです。

その一方で、簿外債務については「譲渡契約内で承継しない旨を指定しておける」というメリットがあります。移転させたGood事業の将来の価値を低下させないために、コストに目をつむって事業譲渡を選ぶという手も考えられます。

課題2:第二会社方式の際に関係者の抵抗に遭う可能性

第二会社方式では「旧会社での債務に付着する権利を第二会社で無断使用している」「旧会社を放置したまま事業継続している」というケースが散見されます。

手続きに漏れがあり利害関係者の信頼を裏切ってしまった場合は、以下のように訴えを提起されてしまう可能性があります。

会社法に基づく分割無効の訴え

会社分割による企業再生を行った場合、その6ヵ月以内であれば利害関係者より「会社分割無効の訴え」を提起できます(会社法828条1項5~12各号)

無効が認められるケースを過去の判例から分析すると、次の通りです。

【会社分割無効の訴えが認められるケース】

  • 会社分割に関する契約書が適切に取り交わされていない
  • 旧会社・新会社の資本金等が違法に計上されている
  • 新会社での事業継続に必要な許認可取得等の手続きが行われていない
  • 従業員と雇用契約に関する協議がほとんど履行されていない

見落としがちになるのが④のケースです。

企業再生にあたり、当然雇用整理も必要になるでしょう。会社分割無効の訴えは社員も提起できることに留意し、主張のすり合わせをしっかり行っておくことが大切です。

ここに含まれないケース以外でも、次のような会社分割無効の判例があります。

パチンコ店の営業許可を巡る判例【東京高裁平成21年9月30日】

…第二会社に風営法許可のみ承継させたケースです。許認可だけの譲渡は、旧会社法での会社分割の定義である「営業の全部または一部」の承継ではないとされ、無効が認められました。

第二会社方式による企業再生は、ヒト・モノの移転について十分な処置をとっているという“実質”が必要です。便宜上行う処理については、関係者の理解が得られるよう努力しなければなりません。

民法に基づく詐害行為取消権の行使

旧会社の処分等がおざなりになると、債権回収または放棄の目途が立たない債権者は不安定な立場に置かれます。この点について「民法424条に基づく詐害行為取消権」を認めた重要判例があります。

新設分割設立株式会社にその債権にかかる債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。

引用:最高裁判決平成20年10月12日判決文

詐害行為取消権が行使された場合、企業再生によりカットされたはずの債務を第二会社が果たさなければなりません。事業継続どころか破産を避けられない状況に陥ります。

企業再生の際は、利害関係者全員が状況を把握できるよう透明性のある手続きを心がけなければなりません。

まとめ

債務カットをした上で事業継続を望むなら「債務だけを旧会社に残して清算し、新しい会社で事業の再スタートを切る」という方法があります。

第二会社方式と呼ばれるこの手法は「事業価値」「企業再生における債務者の主導権」「利害関係者への対価」のすべてを一定レベルで約束できる点が魅力的です。

【第二会社方式による債権カットのメリット】

  • 新旧会社ともに債務免除益を損金で相殺できる
  • 債権側も免除額=損金として計上できる
  • 事業価値保全・経済的信用力回復の両方が叶う(スポンサーの協力が得やすい)

第二会社方式の成功の要は、最適な再生スキームと手続きの透明性です。権利や人的資産の全体像を把握し、会計士や弁護士の助言を得ながら再生方針を固めましょう。

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