賃料は減額できる!?賃料減額請求権!

新型コロナウイルスの影響で日本経済の不況が指摘されています。日本社会はこれまで何度か不況の波に襲われ、その都度、会社の業績や個人の収入などを不安視する声が上がっていました。

経済状況の変化は、「物やサービスの相場」にも大きな影響を与えます。景気の良いときのサービスの契約内容が、社会情勢の変化により「つり合わない」という状況になってしまうことは珍しくありません。

代表的なものに「賃貸契約(賃料)」があります。地価や経営状況、社会情勢が上向きのときに結んだ賃貸契約が、情勢や状況の変化によりそぐわなくなってしまうのです。

賃貸契約の賃料が状況や相場につり合わない場合は減額できる可能性があります。

・賃料減額請求権とは

・賃料減額請求ができるケースとは

・賃料減額請求の方法と手続き

・賃料減額請求をするときの注意点

賃料の減額について、弁護士がポイントを徹底解説します。「相場よりテナントの賃料が高いのではないか」「住居の賃料が周囲より高いようだ」と悩んでいる方は、ぜひ参考になさってください。

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賃料減額請求権とは

賃料減額請求権とは「賃料を下げて欲しい」と請求する権利です。テナントや事務所、住居の賃貸契約を結んでも、契約時の賃料が社会情勢や周囲の賃料相場にそぐわないことがあります。

賃料は社会情勢や賃料相場、地価、開発状況、景気など、さまざまな要因で決定されるのです。そのため、社会情勢など賃料に影響を与える状況が変わってくると、過去に適正だった賃料が「高すぎる」と思える状況が出てきてしまいます。このようなときに住居やテナントなどの賃貸物件の賃料を「下げて欲しい」と請求する権利を、賃料減額請求権といいます。

賃料減額請求権は、借地借家法32条で認められている権利です。

第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

借地借家法では賃料の増額と減額の請求が借地借家法によって認められていることがわかります。

条文においては増額についても言及されていますが、借主側が増額を求めることは、当然ですがほぼありません。借主側にとって問題になるのは、主に賃料の減額請求です。

賃料減額請求はなぜ認められているのか

賃料減額請求によってオーナー側に賃料の減額を求めると、オーナー側の損になり嫌な印象を持たれてしまうのではないかと心配する方がいます。住居やテナントを借りている側としては、オーナーと揉めることや、貸主側に嫌われることは避けたいのが本音ではないでしょうか。

賃料減額請求は借りる側だけでなく貸す側にとってもメリットになる可能性があるのです。賃料減額請求権は借りる側と貸す側双方のために定められています。

賃料が高い場合、引っ越しを検討することもひとつの方法です。しかし、引っ越しは借主側に多大なマイナスがあります。店舗が狭い。事業拡大したい。賑わっているエリアに打って出て、ビジネスチャンスを掴む。今の住居は仕事や育児に立地が合っていない。このような理由から引っ越しを検討することは、決して悪いことではありません。むしろ、引っ越しがひとつの転機になることでしょう。

しかし、立地やテナントは文句なしなのに、賃料だけが相場と比較して高く不満である。このような状況では、借主にとって引っ越しはデメリットではないでしょうか。賃料以外に文句はないわけですから、わざわざ引っ越し費用を支出することの方がマイナスになる可能性があります。

オーナー側にとっても、引っ越しをされることによって賃料収入が減るわけですからマイナスです。家賃相場が高いのであれば、そのままの賃料で借り手を探しても、なかなか借り手が見つからない可能性があります。空き家や空きテナントになるのであれば、賃料についての折り合いをつけて、そのまま入居してもらっていた方が、オーナーにとってもメリットになる可能性が高いのです。

貸し手と借り手双方が状況や情勢に合わせてより良い内容を模索するために、賃料減額請求が存在しています。

賃料減額請求ができるケースとは

賃料減額請求は闇雲にできるわけではありません。「賃料が高い」という主観的な理由だけでは、賃料減額請求は基本的に認められないのです。「賃料が高い」という主観的な理由だけで賃料の減額請求ができてしまうと、世の中の不動産オーナーには多くの賃料減額請求が行われ、対応だけで疲れ果ててしまうことでしょう。

賃料減額請求は、以下のようなケースで行うことが可能です。

1.土地や建物の租税など負担の増減があった

2.土地や建物の価格の上昇または下落があった

3.その他経済事情の変化があった

4.近隣の建物の賃料と比較して不相当である

状況が変化したり、周囲と比較して「不相当(明らかに高いなど)」であったりする場合に賃料減額請求が可能だということです。

たとえば、同じ建物内にまったく同じ間取で、間取り内の条件もほぼ同じアパートの一室があったとします。自分が借りているアパートの一室と隣のほぼ同条件の一室には、賃料の差が数万円もある。このようなケースでは、賃料の減額が認められる可能性があります。

また、周囲の同条件のよく似たテナントの相場より賃料が不相当に高いなどの場合は、賃料減額請求が認められる可能性があるのです。

問題になるのは、最初から相場より高いことを知っていて契約を結んだケースです。このようなケースでも賃料減額請求が認められる余地があるのかが問題になります。

周囲の相場より高いことを知っていて契約を結んだ場合も賃料減額請求自体は可能ですし、オーナーが応じる可能性もあるのです。ただし、最初から相場より高いことを知って契約したわけですから、減額してもなお周囲より賃料が高いという結果になることも少なくありません。

相場より賃料が高いことを知って契約した場合は、引っ越しなど他の方法も比較しながら賃料減額請求を検討する必要があります。

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賃料減額請求の方法と手続き

賃料減額請求は必ず裁判で行わなければいけないわけではありません。裁判外で行使できる請求権になります。賃料減額請求の手順は次の通りです。

1.オーナーに賃料の減額を申し入れる

2.オーナーと賃料の減額についての協議

3.賃料について協議がまとまらなければ調停を行う

4.調停がまとまらなければ裁判を行う

手順①賃料減額の申し入れ

最初に行うのはオーナーに対する賃料減額の申し入れです。賃料減額の申し入れの後に減額についての協議を行うことになります。

手順②賃料減額についての協議

賃料をどのくらい減額するのか。オーナー側が減額請求を承諾するのか、協議の上で決めるのが一般的です。

協議の際には、「適正な賃料がいくらなのか」が問題になります。

適正な賃料の算定方法は2つです。

ひとつは、簡易的な方法。固定資産税を使って賃料を算定する方法で、賃料改定などのときに使われる計算方法になります。この計算方法は「公租公課倍率法」と呼ばれ、賃料減額請求の際にもひとつの目安として使われることがあるのです。もうひとつの方法は、士業などの専門家に依頼して、相当な賃料を調査・算定してもらう方法になります。

簡易的な算定方法である公租公課倍率法は、賃料減額請求をすべきか検討している段階でも役立ちます。簡易的な算定法で相当な賃料額を算出し、専門家にさらなる専門的な調査や鑑定、計算を依頼するか決めることも可能です。オーナー側と協議するときの賃料の資料にもなります。

資料をもとに第三者(弁護士など)を間に入れて協議し、話し合いがまとまればこの時点で解決です。

手順③賃料減額請求協議がまとまらない場合は調停をする

賃料額が決まらない。オーナー側が賃料減額に応じない。協議が決裂した。このような場合は、協議で決めることが難しいため、裁判所の調停で賃料の減額について協議することになります。

賃料減額請求では調停前置主義が採用されているため、いきなり裁判をするのではなく、まずは調停をすることになるのです。

賃料減額請求の話がこじれた場合、「賃料はいくら払えばいいのか」が問題になります。賃料減額請求時の賃料額については、「賃料減額請求をするときの注意点」で詳しくお話しします。

手順④賃料減額請求調停で決着がつかなければ裁判をする

賃料減額請求が調停でも決着しなかった場合は、裁判をすることになります。裁判上で資料などを出し合い、判決をもらうことによって賃料減額請求が決することになるのです。

なお、すでにお話ししましたが、オーナーとの賃料減額請求の協議で話がまとまっていれば、調停や裁判をする必要はありません。

賃料減額請求をするときの注意点

オーナーに対して賃料減額請求を行うときは、次のポイントに注意が必要です。

1.協議の際の関係悪化に注意が必要

2.賃料減額請求の効果の発生時期

3.賃料減額が確定するまでの賃料額

4.減額される賃料についての注意点

賃料減額請求協議の際の関係悪化に注意が必要である

賃料減額請求はオーナーに協議への協議の申し入れからスタートします。最初はオーナーと話し合い、話し合いがまとまらなければ調停や裁判に移るのです。

賃料減額請求は、請求さえすれば絶対的に賃料の減額が認められるわけではありません。オーナーという人間との交渉ですから、態度や言葉は非常に重要です。

交渉相手になるオーナーは、協議の話の方向性や言葉、態度などによっては「賃料減額に応じたくない」と徹底抗戦の構えを見せることがあります。また、賃料額についてはオーナー側にも額についての言い分があるでしょう。

一方的に「相場より高い」と強く出たり、オーナーの言い分や意見を一切聞かなかったりして賃料減額請求の協議を進めてしまうと、まとまる話し合いもまとまらなくなってしまいます。協議によって良好だったオーナーとの関係に亀裂が生じる可能性もあるのです。話し合いで解決できたのに、言葉や態度によって調停に発展してしまうケースもあり得ます。

「オーナー側の意見もしっかり聞く」「その上で減額の理由を感情的にならず伝える」「主張を押し通すことではなく、オーナーと合意することが重要である」。以上の3つの念頭に、賃料減額請求を進めましょう。

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賃料減額請求の効果の発生時期はいつか

賃料減額請求の効果が出るのは「話し合いがまとまってから」だと思われがちですが、実は違います。賃料減額請求については、賃料減額請求の意思表示が相手に到達したとき(内容証明郵便などが到達したとき)に効果が発生するのです。

ただ、効果は発生していても、この段階で減額後の適正な賃料まで決まっているわけではありません。協議や調停、裁判などで適正な賃料が決定したら効果発生(意思表示が到達したとき)に遡って、決定した賃料への改定が行われたことになります。

賃料減額が確定するまでの賃料額はいくらか

賃料減額請求後は賃料をいくら払えばいいのかが問題になります。賃料減額請求時の賃料については、借地借家法に以下のように定められているのです。

第三十二条

3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

賃料減額請求時の賃料については、具体的な賃料額が決まるまで「相当と認める額」を払えばいいことになっています。しかし、この「相当と認める額」が問題です。

たとえば、隣のビルのテナントと間取りや設備などほぼ同じ条件だったとします。

隣のビルのテナントの賃料は50万円。周囲の同タイプの賃料相場を調べても、おおむね50万円前後でした。現在80万円の賃料を払っていて、賃料減額請求をするとしたら、「相当と認める額」として50万円払えばいいのでしょうか。勝手に相当と認められる額を決めてしまっていいのでしょうか。

これについては「従前の賃料額」を相当額として扱うルールです。従前の賃料額が80万円なら、基本的に80万円支払う必要があります。その上で、減額請求後に賃料額が確定したら、清算するという流れになるのです。

相当と認める額とは、賃料減額請求者が「相当だと考える額」ではない。従前の賃料額である。この点に注意が必要です。

賃料減額請求される賃料についての注意点

賃料減額請求の際の減額後の賃料についても注意が必要です。たとえば、周辺の同条件の賃料相場が50万円だったとします。現在80万円の賃料を払っていて賃料減額請求をした場合、当然のように周辺相場まで賃料が下がるわけではありません。

周辺の賃料や賃料相場などはあくまでひとつの資料です。賃料については相場や利回り、社会情勢、事例の比較など、さまざまな資料や算定法を用いた上で決まります。周辺の同条件の物件の賃料が50万円だからといって同じ額まで下がるわけではありません。注意してください。

最後に

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、事業者などの収益が不安定な状況になっています。収入が減ったからといって即座に賃料減額請求に繋がるわけではありませんが、状況が変わったときは事業や家庭の支出状況を見直してみる良い機会かもしれません。

ひとつの機会として、テナントや住居の賃料が周囲の賃貸物件と比較してどうなのか、確認してみてはいかがでしょうか。そして、賃料が同条件の物件などと比較して不相当だとわかった場合は、賃料減額請求を検討してみてはいかがでしょう。

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