遺言書の内容に不満の場合

遺言書は亡くなられた方がこの世に残す最後の手紙であり、その遺志は基本的に最大限に尊重されるべきものです。

適切に作成された遺言書は法的な効果が認められ、遺族の方々を一定の力で拘束することになります。

とりわけ遺産の分配に関する内容については各相続人の利害を鋭く対立させることもあり、遺族間のトラブルの火種になることも多いです。

本章では自分にとって納得しづらい内容の遺言となっていた場合、どのような対処方法があるか見ていきます。

すでに納得できない遺言書が出てきて困っている方はもちろん、近いうちに相続が予定されている方も予備知識としてぜひ参考になさってください。

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■相続人が遺言書の内容に不満を感じるケースは意外と多い

不思議と「私の父は私に不利な遺言は書かないはず」などと無意識に考えている方が多いように感じますが、その期待と実際の遺言内容がかけ離れてしまうケースもよく見かけます。

・相続人の生前に介護など生活の世話をしていたのに、他の相続人の方が遺産の取り分が多く指定されていた

・父が入院中、自分以外の相続人予定者Aと相談し遺言書を用意していたが、その内容がAに有利な内容となっていた

・自分が利用できない実家の共有持ち分を指定された

・交流のない見知らぬ人物に遺贈の指定がされていた

・自分の取り分が予想外に少なく気落ちしている

よくある例を挙げてみましたが、自分が受け取れる遺産の額が少ない、あるいは受け取る遺産の種類について不満を感じた場合、どのような対処法が考えられるか見ていきます。

■遺言書の内容に不満なら遺言の無効を主張できないか検討する

遺言書は法的な効果を持つと同時に関係者を一定の力で拘束力する作用があるものですから、かなり厳格な作成ルールが定められています。

法律で決められたルールに沿わない方法で作られた遺言書は、内容の全部または一部が無効となることがあるので、必要に応じて遺言の有効性を争うことができます。

以下のようなケースで遺言の全部または一部について有効性を争える可能性があります。

①形式要件を具備していない

自筆証書遺言では法で定められた以下の形式を満たさなければなりません。

・遺言者本人が自筆で全文を書く

・作成日時を正確に記す

・氏名を明記する

・印鑑を押印する

・訂正する場合はルールに従って行う

近年法律が変わり財産目録については自筆でなくともよくなりましたが、上記の形式要件は一つでも満たしていないと遺言が無効となります。

②本人以外に代筆された

事故や病気などで遺言者に手の震えなどがあり自筆することに不安があると、誰かに代筆をお願いすることも考えられます。

しかし自筆証書遺言は遺言者本人の意思を確実に反映させる必要があるので、他人による代筆は認められず、代筆された遺言は無効となります。

手の震えを補助するために親族が添え手をして作成された遺言書が無効とされた判例もあるので、類似の事例の場合は争う余地があります。

③認知症などで遺言能力がない状態で作成された

事故で脳に損傷を受けたり認知症などの病気で判断能力が落ち、遺言能力がない状態で作成された遺言は無効となります。

④複数の遺言書がある

遺言書は何度も作り変えることが可能なため、前の遺言書を破棄していない場合、複数の遺言が残されることもあります。

その場合、基本的には新しい遺言が有効となりますが、新旧の遺言内容で抵触するものがある場合は、旧遺言の内容が取り消されたと解します。

⑤偽造・変造された可能性がある

遺言書の筆跡が本人のものではないなど偽造、変造された可能性がある時はこれを主張して遺言の有効性を争うことができます。

裁判上では筆跡だけでなく遺言内容など多方面の事情を考慮して有効性の判断がなされます。

なお、公正証書遺言によって作成された遺言は無効とされる可能性がかなり下がりますが、過去には無効と判断された例もあります。

公正証書遺言の作成要件となる証人の用意や口述筆記など、手続き上の要件を満たしていない場合は無効を主張できる可能性があります。

■遺言書の内容に不満なら遺産分割協議を試みる

遺言書がある場合でも、相続人全員の同意があれば遺産分割協議を行って遺言内容とは違った取り決めをすることも可能です。

ただし一人でも協議に反対すれば遺産分割協議自体ができませんし、協議はできたとしても話し合いがまとまらなければやはり遺言が優先されます。

遺言書で有利な事実が書かれている相続人が協議に反対すれば実現できないということです。

また以下の場合も遺産分割協議に制限がでます。

①遺言で禁止される場合

遺言書では5年を超えない範囲で遺産分割協議を禁止することができるので、遺言者による指示があればその間は遺産分割協議ができません。

②遺言執行者が選任されている

遺言書では遺言執行者を定めることができます。

遺言執行者は遺言内容を実現させることを職務とし、相続人は遺言執行者の仕事を妨げることはできないとされています。

そのため遺言内容とは異なる内容を取り決める遺産分割協議も基本的にはできなくなります。

ただし、協議の内容について遺言全体の趣旨と相違ないと遺言執行者が判断すれば、遺言執行者の同意のもとで有効な遺産分割協議が可能になります。

③包括遺贈がされている

特定の財産についてではなく、「遺産の三分一」などの指示による包括遺贈がされている場合、包括受遺者は基本的に相続人と同様の地位を取得します。

遺産分割協議への参加権があるので、協議をするのであれば包括受遺者の同意も必要になります。

また包括受遺者が相続開始から3ヶ月以内に遺贈の放棄について手続きを取らない場合、遺言が優先されることになるので注意が必要です。

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■遺言書の内容に不満なら特別受益や寄与分の主張ができないか検討する

被相続人の生前に、生活費や結婚資金などで贈与を受けている相続人がいる場合、援助された資金を特別受益とみなして当該相続人の相続分を減らせる可能性があります。

特別受益を主張できる場合、特別受益者が得た贈与財産を相続財産に組み戻して法定相続分を算定します。

特別受益者の相続分が減る一方で、他の相続人の相続分を増やす作用があります。

また遺言に不満を感じている本人が、被相続人の生前にその財産の維持・増加に特別な貢献(寄与)をしていた場合、寄与分を主張することができます。

寄与分を主張できる場合、相続発生時点で有する相続財産から寄与分の額を控除したものを相続財産とみなします。

寄与者は自身の相続分に、上記で控除した寄与分を加えた額を取得できます。

実際のケースでは特別受益や寄与分について認めたがらない相続人の反対にあうため、認めさせるには弁護士の助力が必要になることが多いです。

■遺言書の内容に不満なら遺留分侵害額請求を検討する

多くのケースで検討できるのが遺留分の請求です。

遺留分とは相続人のうち配偶者、子(代襲相続人含む)、直系尊属だけに認められるもので、遺言によっても侵すことのできない最低限の遺産の取り分をいいます。

遺留分は遺族の生活保障の意味もあり、不公平な遺言内容となっていた場合でも遺留分を主張して保障された最低限の取り分を確保することができます。

遺留分を考えるにあたっては遺留分権利者全体に割り当てられる総体的遺留分と、実際に相続人個々人が受け取れる個別的遺留分を分けて考える必要があります。

総体的遺留分は直系尊属のみが相続人となる場合は遺産の三分の一まで、それ以外の場合は二分の一までです。

総体的遺留分を各相続人の法定相続分で分配したものが個別的遺留分となります。

個別的遺留分をケース別にまとめると以下のようになります。

相続人の組み合わせ相続人各人の遺留分
配偶者のみ配偶者二分の一
配偶者と子二人配偶者四分の一
各子それぞれ八分の一
配偶者と父母配偶者三分の一
父母それぞれ十二分の一
配偶者と兄弟姉妹配偶者二分の一
兄弟姉妹兄弟姉妹は遺留分無し
父母のみ父母それぞれ六分の一

遺留分を主張するには、他の相続人等に対して「遺留分侵害額請求」を行わなければなりません。

証拠の残る方法で行わないと時効の問題があることと、もし裁判になる場合に不利になる可能性があるので、通常は内容証明郵便を用いて行います。

遺留分侵害額請求は相続発生から1年以内に行わないと時効により請求権が消滅してしまうので注意してください。

またあくまで請求できる権利であり、自動的に適用があるわけではないので、自らが能動的に動いて相手方に請求しなければならないことに留意しましょう。

遺留分をできるだけ効果的に主張していくには、請求を掛ける対象となる基礎財産の額をできるだけ大きくし、相対的に自分の取り分を増やすのが効果的です。

請求を掛ける対象となる財産を「遺留分額算定の基礎となる財産額」のように表現しますが、この算定を正確に行うことは素人の方には難しく、乏しい知識で進めると不利になってしまいます。

相続発生時に有する一般的な相続財産に加えて、生前になされた贈与や、すでに売却されてしまった財産についても相続財産に組み入れて計算することができる余地があり、弁護士は可能な限り遺留分の基礎財産を増やして依頼人の遺留分を増やすことができます。

■遺言書の内容に不満の場合その他検討すべきこと

他にぜひ調査したいのが遺言書の記載から漏れた財産の存在です。

遺言書を作成してから年月が経つうちに、財産の構成が変わったり、新たな財産を取得することもあります。

本来ならば遺言書を作り変えるのが理想ですが、頻繁な作り変えは面倒なので放置されることも少なくありません。

その場合、遺言書の記載から漏れた相続財産が存在することになり、その財産については相続人同士で遺産分割協議が必要です。

協議がまとまらない場合は法定相続分で分割することになりますが、遺言に不満を持つ相続人の取り分増加につながる可能性があるので、漏れの無いように財産調査をしましょう。

■遺言書の内容の不満を話し合いで解決できない場合

遺言書に記載された内容に不満があって、当事者同士でその解決を試みる場合、どうしても相続人同士の利害が対立するため家族間の中が悪くなったり、臨むような解決から遠のいてしまうことが多くなります。

その場合、裁判所の調停や審判というシステムを利用して話し合いを試みることもできます。

調停では話し合いがまとまるように調整してくれる調停委員が間に入り、当事者の利害を考えながら事案の落としどころを探っていきます。

調停は遺産分割調停によるものと遺留分侵害額の請求調停の二つが考えられますが、遺産分割調停による場合はもし話し合いがまとまらない場合、審判によって自動的に一応の決着が図られます。

ただし審判に不満がある場合は最終的に裁判で争うことになります。

遺留分侵害額の請求調停による場合、話し合いがまとまらなければ審判を経ずに裁判に移行して争うことになります。

どちらにしても、調停や審判は時間がかかり、裁判となった場合は解決までにより長期間を要します。

遺言内容に不満がある場合でも、時間的、手間的な負担を避け、また家族間の軋轢を避けるためにも当事者同士でできるだけスムーズな解決を目指したいものです。

■弁護士なら裁判外でスムーズな解決を目指せる

当事者同士ではどうしても互いの利益が直接的に鋭く対立します。

誰だって「お金を寄越せ」と言われたら良い気分はしませんし、法律に関する素人同士では「本当にそんな権利があるのか」と疑われることが多く、請求を受ける側は基本的に相手を拒絶することになります。

弁護士が間に入れば、法律や裁判例などを用いて効率的に説明ができるので相手の納得を引き出しやすく、心理的な拒絶感を持たれることも少ないため話し合いをスムーズに決着させることが可能です。

直接的な利害の無い第三者的な立場で間に入ることで、裁判外でスムーズに話し合いをまとめることができるのでぜひ弁護士の活用を考えましょう。

もし話し合いがまとまらず調停などを利用することになっても、弁護士はそのまま依頼人をサポートすることができます。

事情を知っている弁護士のサポートがあれば、調停を有利に進めることが可能です。

■まとめ

本章では遺言書の内容に不満がある場合に考えられる対処法について複数見てきました。

主に遺産の取り分について不満があるケースを想定して見てきましたが、遺言の有効性を争う以外にも特別受益や寄与分を主張したり、遺産分割協議を試みることが可能です。

しかし往々にして当事者同士での話し合いはまとまらないことが多く、その場合は法律で保障されている遺留分を主張するのが確実です。

遺留分の算定においては専門家が入ることでより多くの遺留分を取り戻すことができる他、当事者同士の摩擦を避けて相手の納得を引き出すことができるので遺留分に詳しい弁護士をぜひ活用しましょう。

当事務所では初回の相談については、遺言の内容に不満を感じている方はぜひお気軽にご相談くださいませ。

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