M&Aにおける競業避止義務!

M&Aと競業避止義務

『競業避止義務』とは法律用語であるため、経営者の方でもなかなか聞きなれない言葉でしょう。

しかし、M&A契約などにおいて競業避止義務を規定することは、会社の利益を守ることに非常に重要ですので、決して無視はできません。

ただ、やみくもにM&A契約などにおいて競業避止義務を規定したとしても、適切な内容になっていなければ無効になってしまう可能性もあるため、理解を深めておく必要があります。

そこでここでは、競業避止義務の内容や注意点、判例、競業避止義務に伴う損害賠償責任などについて、徹底解説していきます。

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M&Aにおける競業避止義務とは?

『競業避止義務』とは、「一定の者が自己または第三者の為に、会社の事業と競争的な性質の取引をしてはならない」という義務です。また、簡単にいえば、競業避止義務は「会社の利益を損ねるような行為を禁止するもの」となります。

一般的な競業避止義務には、以下のような2つの概念があります。

①役員や従業員が会社の不利益になるような兼業などの競業行為を行うことの禁止
②会社の役員や従業員が退職した後に、競合他社に就職することを禁止することを定めている誓約書・就業規則の特約

たとえば、「役員や従業員が競合他社に雇用される」「役員や従業員が、兼業または独立をし、会社と競合する業務を行う」といった行為を取れば、会社の利益を不当に侵害してしまう恐れがります。

それらのトラブルやリスクを回避するために、役員や従業員には競業避止義務が課されるのです。

利益相反取引とは異なるもの

『利益相反取引』とはある取引において、一方は利益を得ると同時に、一方には不利益が生じることであり、競業避止義務と同様で自社の利益を損ねるような行為を禁止するものです。

両者の意味合いは非常に似ていますが、実際には、利益相反取引の場合は会社との取引や取引の条件などが該当することが多く、競業避止義務の場合は、競業行為に重きを置いているケースが多いです。

よって、利益相反取引と競業避止義務は、内容の異なるものとなっています。

M&Aにおける競業避止義務の条項

『M&Aにおける競業避止義務』は、M&Aの成約後に譲渡企業に課される競業禁止義務です。

たとえば、買収企業がM&Aを行う目的として、「企業価値向上のための事業拡大や、企業成長」などが挙げられますが、もし譲渡企業が譲渡後すぐに同様の事業をスタートしてしまった場合、買収企業がそのM&Aにおいて十分な成果を出せないばかりか、展開によっては大きな損失を被ってしまう可能性もあります。

そこで、M&Aが行われる場合には、譲渡企業に、M&A契約の中において、禁止条項として、「競業避止義務」を規定することが一般的となっているのです。

事業譲渡の手法をとる場合

事業譲渡の手法を取る場合は、会社法に、競業避止義務の規定があります。

『会社法21条』にて競業避止義務が明確に規定されています。

よって、もし譲渡企業と買収企業の間のM&A契約の中に競業避止義務が盛り込まれていない場合でも、譲渡企業は、やや狭いですが、同一の市町村と隣接する市町村の区域内では、「20年間同一事業を行ってはいけない」という競業避止義務を負うこととなるのです。また、特約を設けることにより、競業避止義務の期間を「最長30年」まで延長することも可能となっています。

従業員との競業避止義務契約は注意が必要

ここで、競業避止義務についてよく議論になるのは従業員との競業避止義務ですので、ここでかいつまんで説明します。

従業員との間で競業避止義務契約を締結する場合、「その従業員を競業避止義務契約の対象にすることの合理性」に注意しなくてはいけません。

たとえば、とあることで裁判に発展し、「競業避止義務契約の条項に、合理性が認められない」と判断されれば、それが原因となり、競業避止義務が無効と判断され、裁判に負けてしまう可能性もあります。

近年では、「従業員の持つ権利や自由は尊重されるべき」という考え方が一般的です。憲法に定められる「職業選択の自由」です。

よって、「その従業員に対し、競業避止義務を課す必要が本当にあったのか?」「適切な競業避止義務の期間が定められているか?」「競業避止義務を設ける理由は正しいのか?」など、様々な観点から競業避止義務を課すのに相当な理由があるのかが評価され、裁判所がその競業避止義務を無効だと判断する場合があるのです。

根本的に、「従業員の権利は法的に守られるものであり、たとえ使用者という立場であっても、従業員が本来持つべき権利を侵害する行為は正しいものではない」ということを認識し、合理性のある競業避止義務契約を締結していかなくてはいけません。

取り扱いの異なる取締役と一般の従業員

同一会社の社員の中でも、一般の従業員と取締役とでは、以下のように競業避止義務の取り扱いが異なってきます。

【一般の従業員と取締役との競業避止義務の取り扱いの違い】

一般の従業員の場合

一般の従業員は、会社との労働契約を締結する際に「精力集中義務」を負っているため、通常はこの精力集中義務の中に競業避止義務が含まれていると考えられます。

しかし、実際に法律で従業員による競業が禁止されているわけではないため、競業避止義務を明確にするためにも、会社は従業員に対して「競業避止義務に関する誓約書を書かせる」または「就業規則で競業避止義務を規定する」というケースが多くなっています。

取締役の場合

取締役は、通常一般の従業員よりも立場が強く、その分機密を含めた会社の内部事情に精通しています。

また、経営の手腕や知識も有しているため、その取締役が、自社が行っている事業と同様の営業を行えば、ノウハウや顧客の流出、従業員の引き抜きなどというような損害を被る可能性が高くなります。

そのようなリスクを回避するためにも、取締役が自己または第三者のために自社が行っている事業、もしくは将来的に計画のある事業に関する取引を行う場合には、「取締役会から承認を得ることが必要」と会社法にて規定されています(会社法356条第1項)。

これは、取締役が所属している会社と同じような営業を行うための必須事項であり、この義務のことを競業避止義務としています。

競業に該当するケースとは?

では、競業に該当するケースとは、どのようなものがあるのでしょうか。
たとえば、自らの勤務する会社が行っている事業の内容や展開地域が被ってしまうようなケースでは、競業に該当する可能性は非常に高くなります。

また、今現在は展開されていない事業でも、既にその計画が立ち上がっている事業ならば、競業と認められる可能性は十分にあるでしょう。

取締役の場合は、取締役が自らの勤務する会社が行っている自己や第三者のための取引や、商品や市場が競合する取引を行うことなどが競業行為とみなされてしまいます。

「介入権」は行使できない

「介入権」とは、取締役の得た経済的利益を会社に移転させることのできる旧商法の規定であり、過去には、競業避止義務を違反した取締役に対して、その権利を行使することも可能でした。

ただし、これはあくまで旧商法の規定であり、「損害額の推定と効果があまり変わらない」ということから、現在の会社法では削除されているので注意が必要です。

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競業避止義務の判例

競業避止義務の違反は、決して珍しいことではありません。事実、様々な企業で発生し、裁判に発展した事例も多くあります。M&A総合法律事務所でも、M&A契約の競業避止義務に違反した事例を多く取り扱っています。

ここでは、実際に起きた裁判の判例をご紹介していきます。

競業避止義務の判例

フォセコ・リミデッド・ジャパン事件

フォセコ・リミデッド・ジャパン事件は、昭和45年の事例です。

フォセコ・リミデッド・ジャパンは、金属鋳造の際に使用する各種冶金副資材の製造販売を業とする会社でした。

フォセコ・リミデッド・ジャパンには、昭和33年に入社し、昭和44年に退社するまで本社研究部で製品品質管理を行っていた顧客Aと、昭和33年に入社し、昭和40年まで本社研究部で技術に関与、さらに昭和44年に退社するまで、大阪支社鋳造部本部で技術知識を有する販売員として製品販売業務に従事していた顧客Bがいたのですが、両名がフォセコ・リミデッド・ジャパンを退職した直後に競合他社の役員に就任したことが、「競業避止義務に違反する」として裁判となりました。

顧客Aと顧客Bは、フォセコ・リミデッド・ジャパンと以下の趣旨の契約(本件特約)を締結していました。

○雇用契約存続中、終了後を問わず、業務上知りえた秘密を他に漏洩しないこと
○雇用契約終了後満2年間フォセコ・リミデッド・ジャパンと競業関係にある一切の企業に直接にも、間接にも関係しないこと

最終的に、裁判では「フォセコ・リミデッド・ジャパンの競業避止義務契約に設けられていた競業制限が合理的である」と判断され、競業避止義務契約が認められました。

また、競業避止義務契約が認められた理由としましては、フォセコ・リミデッド・ジャパンの競業制限は2年間と短期間であったうえに、在職中に機密保持手当があったこと、さらには、フォセコ・リミデッド・ジャパンの事業が特殊であり、制限の対象が狭かったことが挙げられます。

三晃社事件

三晃社事件は、昭和52年の事例です。

あるとき、三晃社の従業員が退職を申し出たため、会社は就業規則(退職金規程)に基づいて、自己都合で退職した場合の計算方法で算出した退職金を支払いました。

しかし、退職金を支払った後に、自主退職をした従業員が就業規則に反して、競合他社に入社していたことが発覚しました。

会社の就業規則(退職金規程)には、「一定期間内に同業他社に就職をしたときは、退職金の支給額を自己都合で退職した場合の2分の1とする」と定めていたため、三晃社はその従業員に対し、受け取った退職金の半額の返還を請求して裁判を起こしました。

裁判の行方としましては、最初は「三晃社が請求した退職金半額返還は損害賠償を予定した約定である」と判断されたため、名古屋地裁で請求棄却されました。

しかし、名古屋高裁、および最高裁では、「会社が就業規則(退職金規程)で、同業他社に就職した社員に支給する退職金の支給額を、一般の自己都合退職の場合の半額と規定することは、退職金が功労報償的な性格があることを考慮すれば、合理性がないとは言えない。

すなわち、この退職金の規定は、同業他社に就職したことにより、勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利が一般の自己都合退職の場合の半額しか発生しないという趣旨で設けられたと考えられる。」
と判断され、判決は取り消されたのです。

この件に関する三晃社の退職金半額返還請求は、従業員の再就職の自由を不当に拘束するものであるため、合理性がある措置とはいえないでしょう。

しかしその反面、退職金半額返還請求自体が労働基準法に反しているわけでもありません。
退職金が功労報償的な性格があることを考慮し、就業規則(退職金規程)に反する再就職を行ってしまった以上、勤務中の功労の価値は減殺されてしかるべきものと考えられるためです。

東京リーガルマインド事件

東京リーガルマインド事件は、平成7年の事例です。

もともと東京リーガルマインドの司法試験担当専任講師をしていた伊藤真が、独立して伊藤塾を新規開塾した際に、LECとの間で締結されていた競業避止義務に関する契約(就業規則等)の効力につき争いが起こり、裁判まで発展しました。

この裁判では、「そもそも、東京リーガルマインドの競業禁止特約に代償措置がない」「禁止の内容や程度が必要最低限のものではなかった」などといったことが原因となり、最終的には裁判所に競業避止義務違反が認められず、請求棄却という結果となりました。

ウェブサイト売買における競業の差止め

平成29年に、ウェブサイト売買における競業の差止め、損賠賠償判決が下されました。

この事例は、原告がファッションのECサイトにかかる事業を被告会社より譲り受けた後すぐに、被告会社が新たに競合ECサイトを立ち上げた行為が競業避止義務に該当するかというものです。

最終判決では、「原告は被告から事業を譲り受けたのであり、被告は当該事業を譲渡した後に同一の事業を行っている」ということが認められ、被告は原告に生じた損害の賠償が命じられました。

また、この件の原告の会社は、被告の会社とM&Aの契約を締結する際に競業避止義務を規定していませんでしたが、『会社法21条』に基づき、裁判所から競業避止義務違反が認められました。

しかし、これは決して「競業避止義務がM&Aの契約条項に入っていなくても、常に差止め請求、損害賠償請求が認められる」ということではありません。

むしろ、競業避止義務がM&Aの契約条項に盛り込まれていないことが敗訴の原因となる可能性も大いに考えられるため、裁判となることを防ぐためにも、競業避止義務はしっかりと規定しておくべきなのです。

M&Aにおける競業行為に対する損害賠償請求

競業避止義務を違反した場合、その違反した従業員、または取締役に対して会社は損害賠償請求を行うことが可能となっています。

上記でご紹介しました、平成29年のウェブサイト売買における競業の差止め、損賠賠償判決のように、会社に生じた損害賠償や、裁判では棄却されましたが、三晃社事件のように退職金を損害賠償として請求するケースもあります。

ただし、競業避止義務違反は認められることが多いものの、損害賠償請求はすべてがすべては簡単に認められるわけではありません。

競業避止義務の違反と相当の因果関係がある損害の立証は難しい

競業避止義務の違反に対する損害賠償請求が認められにくい原因には、「競業避止義務の違反と、相当の因果関係がある損害の立証は難しい」という点が挙げられます。

なぜならば、損害を立証する場合、競業避止義務を違反した従業員や取締役が、どれほどの利益を損失したかを正確かつ具体的に把握しなくてはいけないのです。

また、通常、損害は、逸失利益として金銭に換算されて評価されるのですが、たとえば、従業員の引き抜きや顧客を奪われた損害額を換算するためには、人材の流動性や市場の動向などといった事柄を踏まえたうえで合理性のある算定を行う必要があるため、全ての損害が金銭として数値化できるとは限りません。

そのほかにも、会社に、競業により、逸失利益が発生したと見られてる期間については、会社が競業避止義務の違反によってどれくらいの期間悪影響を被ったか、どれくらいの期間でその悪影響から回復できたかが検討されますが、その範囲が必ずしも明らかではないことが多いのです。

しかし、会社において、競業避止義務違反により損害が発生したことは確かなのであり、損害賠償請求はすべてがすべてが認められないにせよ、相当な因果関係の存在が認められる部分もお送りますので、諦める必要はありません。

M&Aにおける退職後の競業避止義務の効力とは?

会社は従業員・取締役の再就職先に制限をかけることで(競業避止義務の規定)、自社の利益を守ろうとします。

しかし、本来憲法では、自ら行う職業を選択・決定する自由権が定められているため、いくらかつての使用者といえども、厳密な制限をかけることは認められないのです。

かといって、競業避止義務を規定しなければ、競業の影響で自社が損害を被ってしまう可能性もあります。

そこで、職業選択の自由を過剰に侵害しない範囲で競業避止義務に関する条項を規定することにより、ある程度効力を持たせることが可能となります。

ただし、就業規則が曖昧なもの、非合理なもの、競業避止義務の効力が及ぶ期間があまりに長く設定されているもの(一般的には1~3年程度に設定されることが多い)などは、裁判からも認定されないですし、競業避止義務の効力に期待することはできません。

ですので、退職後の競業避止義務は、会社独自に合理的かつ具体的な条項を設ける必要があります。

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M&Aにける競業避止義務は弁護士のアドバイスが必要!

前述の通り、競業避止義務とは色々と込み入ったものです。

よって、法に詳しくない方の独断では、状況に適した対応を取ることは大変困難となります。

また、競業避止義務を規定する場合は、その合理性をちゃんと意識して設定しなくては十分な効果は期待できません。

そこでおすすめなのが、専門家である弁護士へ相談を行い、アドバイスを受けることです。
弁護士は法律のプロフェッショナルであるため、合理性の伴う競業避止義務契約の設定を行うことが可能であり、さらには、万が一訴訟に発展したとしても、交渉から裁判までしっかりとバックアップを行ってくれます。

ただし、弁護士にも得意、不得意な分野があるため、もし弁護士へ相談する場合には、M&Aに豊富な知識と経験を持つ事務所を選定することを推奨します。

まとめ

競業避止義務は、正しく定めることができれば会社にとっての不利益を回避することが可能となります。

ただし、非合理な競業避止義務を規定しても無効になる可能性が高く、十分な効果には期待できません。

ですので、競業避止義務に関する条項を規定する場合は、合理性や具体性、妥当性を持った内容とすることが重要となります。

勿論、競業避止義務は複雑ですので、中々困難を極めるかもしれません。
そのような場合には、専門家である弁護士の力を借りて、有事の際にしっかりと効果を発揮できる競業避止義務を規定していきましょう。

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