
アーンアウトとは、M&Aの買収対価の一部を、買収後の一定期間の業績に連動させて後から支払う仕組みのことです。クロージング時に対価の全額を払い切らず、目標の達成度に応じて残りを支払うかどうかを決めます。
M&Aの交渉では、事業内容・経営陣の処遇・従業員の引き継ぎといった条件で合意に達していながら、買収価格だけが折り合わずに破談になることがあります。売り手が自社の将来性に確信を持つ一方で、買い手はデューデリジェンス(買収前の調査)で得た情報をもとにリスクを保守的にとらえるためです。
この評価の開き(バリュエーション・ギャップ)を埋める手立てとして、欧米のM&A市場で長く使われてきたのがアーンアウト条項です。本稿では、仕組みと計算方法、契約設計で決めるべきこと、国内の開示事例、会計と税務の取り扱いまでを解説します。
アーンアウト条項の設計や、提示された条項案の確認でお困りではありませんか。
アーンアウト条項は、指標の定義や評価期間の定め方によって、受け取れる金額が大きく変わります。当事務所はM&A契約書の作成・確認から、契約後の紛争対応までを取り扱っています。
- 1 アーンアウトとは(買収対価を業績に連動させる仕組み)
- 2 バリュエーション・ギャップが生じる理由とアーンアウトの役割
- 3 アーンアウトが向いているM&Aの4つの場面
- 4 アーンアウト条項の設計で決めること
- 5 利益相反を防ぐコベナンツ(誓約条項)
- 6 ロックアップ条項とリーバー規定
- 7 売り手・買い手それぞれのメリットとデメリット
- 8 アーンアウト条項が使われた国内M&Aの事例
- 9 アーンアウトをめぐる紛争と予防
- 10 日本市場での普及状況と今後
- 11 アーンアウトの会計処理(日本基準とIFRSの違い)
- 12 アーンアウト対価にかかる税金
- 13 アーンアウトに関するよくある質問
- 14 アーンアウト条項の設計とトラブル対応は当事務所へ
アーンアウトとは(買収対価を業績に連動させる仕組み)
通常のM&Aでは、クロージング(株式や事業の移転が完了する手続き)の時点で買収対価が確定し、一括で支払われます。アーンアウトを導入した取引では、この支払いが二段構えになり、後半部分は買収後の業績が判明してから金額が決まります。
アーンアウトの意味と語源
アーンアウト(Earn-out)は、買い手が売り手に支払う買収対価の一部を、買収後の一定期間における対象企業・対象事業の業績達成度に連動させて決める仕組みを指します。日本語での定訳はなく、「業績連動型の後払い」「条件付きの追加対価」と説明されることが一般的です。
英語のEarn-outは、自らの努力によって稼ぎ出す(Earn)という行為と、その結果(Out)を組み合わせたファイナンスの用語です。成果に基づいて最終的な対価が確定するという性質を、そのまま言い表しています。
初期対価と条件付対価の二層構造
アーンアウトを導入した取引は、クロージング時に支払われる固定対価(いわゆるアップフロント・ペイメント)と、その後の業績達成を条件として支払われる条件付対価の二層構造になります。条件付対価は、日本基準では「条件付取得対価」、IFRSでは contingent consideration と呼ばれます。
最大の買収対価を10億円とする案件を例にすると、クロージング時に固定対価6億円を支払い、残る4億円については「買収後の2事業年度でEBITDA(利息・税金・減価償却費等の控除前利益)がそれぞれ2億円以上となった場合に限り支払う」と約定するかたちが典型です。目標が未達であれば追加の支払いは発生せず、支払総額は6億円にとどまります。EBITDAの中身についてはEBITDAの計算方法を解説した記事もあわせてご覧ください。
対価返還条項と逆アーンアウト
業績が大幅に目標を下回った場合に、クロージング時に支払った対価の一部を売り手から返還させる条項を置くこともできます。追加で払う方向ではなく、払い過ぎた分を取り戻す方向に働くため、逆アーンアウト(リバース・アーンアウト)と呼ばれることがあります。
追加で支払う型と返還させる型は、いずれも業績等に連動する条件付対価の仕組みとして扱われます。米国のM&A市場では古くから定着しており、プライベート・エクイティ(PE)ファンドによる買収やベンチャー企業の買収の場面で広く使われる手法です。ファンドが買い手となる案件の特徴は、投資ファンドによる買収の記事で解説しています。
価格調整条項との違い
アーンアウトと混同されやすいものに、価格調整条項があります。両者は調整の対象となる時点が異なります。
| 項目 | 価格調整条項 | アーンアウト条項 |
|---|---|---|
| 調整の対象 | クロージング時点の純資産や運転資本など、過去から現在までの実態 | 買収後の一定期間の業績という、将来の結果 |
| 目的 | 契約時の前提と実際の財務状態のずれを埋める | 将来性の評価の開きを埋める |
| 金額確定の時期 | クロージング後まもなく(数か月以内が一般的) | 評価期間の終了後(1年から3年後) |
| 争いの中心 | 会計処理の当否・基準日時点の数値 | 目標達成の可否・業績が低下した原因 |
価格調整条項は、契約時に想定していた財務状態とクロージング時点の実態がずれた場合に、そのずれを対価に反映させるための仕組みです。詳しくはM&A契約書の価格調整条項の記事で解説しています。両方の条項を併せて置くこともでき、その場合はどちらの調整が先に行われるかを契約で定めておく必要があります。
バリュエーション・ギャップが生じる理由とアーンアウトの役割
売り手と買い手の評価の開きは、「高く売りたい、安く買いたい」という感情の対立ではなく、双方が持つ情報の量と質の違いから生まれます。この構造を理解しておくと、アーンアウトがどこに効く仕組みなのかが見えてきます。
根本にある情報の非対称性
売り手は事業の内情に詳しいため、開発中の新製品・未締結ながら有力な大型案件・顧客との深い関係性といった定性的な情報を根拠に、将来を楽観的に見通す傾向があります。
これに対して買い手は、デューデリジェンスを尽くしたとしても、買収後のキーマン離脱リスク・市場環境の変化・PMI(M&A後の統合プロセス)の摩擦といった不確実性を完全には排除できません。どうしても保守的な評価にならざるを得ないわけです。法務面での調査の進め方は法務デューデリジェンスの記事をご参照ください。
ブランド力・技術力・顧客基盤といった「のれん」にかかわる価値は、実際に経営してみなければ判明しない部分が少なくありません。将来の収益性も、一定期間後の実績によって初めて客観的に評価できます。企業価値の算定手法については企業価値評価の記事とM&Aの相場の記事で扱っています。
見立ての答え合わせという構造
アーンアウト条項は、時間が経たなければ分からない要素を契約上の仕組みで扱う手立てとして発展してきました。
売り手の見立てが正しければ追加対価が支払われ、買い手の見立てが正しければ追加の支払いは発生しません。どちらか一方に有利とは限らない構造があるからこそ、行き詰まった価格交渉を前に進める力になります。
さまざまな取引条件ではほぼ合意に達しているのに、将来性の評価だけに開きが残っている場面では、アーンアウト条項が合意に向けた選択肢になります。
アーンアウトが向いているM&Aの4つの場面
どのような案件にもアーンアウトが適しているわけではありません。過去の財務数値だけでは価値を測りにくく、かつ達成・未達を客観的に判定できることが、導入の前提になります。この2つが揃う典型は、成長の途上にある企業・承認や許認可が価値を左右する企業・再建の途上にある企業・特定の人物に収益が依存する企業の4つです。
スタートアップ・ベンチャー企業の買収
現時点の営業利益は赤字または微増にとどまるものの、数年後の急速な成長を見込んでいる案件です。過去の実績に倍率を掛けるマルチプル法では価値を捉えにくく、将来のキャッシュフローを予測して現在価値に割り引くDCF法でも、成長の途上にある企業は予測の不確実性が大きくなります。そのため、将来の業績に対価を連動させるアーンアウトが価格交渉の出口になります。
現在の赤字と将来の成長性というスタートアップ特有の落差を、アーンアウトという仕組みが橋渡しするわけです。この分野の売却についてはベンチャー企業のM&AでのEXITの記事もご覧ください。
バイオ・創薬・ディープテック企業の買収
特定の臨床試験(治験)のクリア・特許取得・規制当局の承認取得が価値の源泉となる案件です。医薬品であれば、日本ではPMDAの審査を経た厚生労働大臣の製造販売承認、米国ではFDAの承認がこれにあたります。
達成の有無が明確に判定できるため、マイルストーン型のアーンアウトとの相性が良好です。承認取得のようにYes/Noで判定できる条件は、解釈をめぐる争いも生じにくくなります。
事業再生の途上にある企業の買収
不採算部門の切り離しや構造改革の直後で回復の兆しはあるものの、現時点のEBITDAが依然として低水準にある場合があります。
このような案件では、再建の結果を後払いで評価するアーンアウトが合理的な方法の一つとなります。ただし再建の成否には買い手側の関与も影響するため、指標の設計をとくに丁寧に行いましょう。
キーマン依存度の高いサービス業の買収
創業者や特定の営業職・技術職の個人的な力量で収益が維持されているビジネスでは、買収後にその人物が離脱すると企業価値が大きく損なわれます。
アーンアウト条項の支払い条件に当該人物の在籍要件を組み込むことで、買収後の継続的な経営関与を促すことができます。この設計は、ロックアップ条項と組み合わせて使われるのが通例です。
アーンアウト条項の設計で決めること
アーンアウト条項の成否は、条項そのものの設計精度に大きく左右されます。決めるべきことは、業績指標(KPI)の選択・支払額の計算方法・評価期間の3つです。いずれも売り手と買い手の利害が正面から対立する項目であり、どこかを曖昧にしたまま契約すると、評価期間の終盤で争いの種になります。
業績指標(KPI)の選び方
指標の選択では、財務指標と非財務指標のどちらを使うか、そして選んだ指標をどこまで具体的に定義するかが問題になります。
財務指標と非財務指標
財務指標の代表例は、EBITDA・営業利益・売上高・純利益です。
指標の選択では売り手と買い手の利害が対立しやすくなります。売り手は買い手による費用操作の影響を受けにくい売上高などの上位の指標を好むのに対し、買い手は実態の利益を示す営業利益やEBITDAを求めます。
業種の特性に応じて、ユーザー数(DAU/MAU)・解約率(チャーンレート)・契約件数・重要顧客との契約締結・特定のライセンス取得・製品開発のマイルストーン達成といった非財務指標が採用される場合もあります。バイオ製薬業界における規制当局の承認取得や、SaaS企業における月間アクティブユーザー数がその例です。
指標を定める際の原則
単一の指標に頼らず複数の指標を組み合わせる設計も有効です。たとえば「売上高と営業利益の両方を達成した場合に満額を支払い、一方のみ達成の場合は減額する」といった組み立て方が考えられます。
いずれの場合でも重要なのは、指標の定義を可能な限り具体的かつ客観的に規定することです。「営業利益」と一言で書くだけでは、どの会計方針で、どの費用を含めて計算するのかが定まりません。定義が曖昧なままだと、評価期間の終了後に紛争の火種となります。
支払額の計算方法
追加対価の計算方法に、法令や会計基準の定めた分類はありません。ここでは実際の契約で使われている設計を便宜上4つに分けます。どれを選ぶかによって、売り手の行動と買い手の負担の読みやすさが変わります。
| 計算方法 | 考え方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 閾値超過型 | 目標値を超えたか否かで支払いの有無が決まる | 単純で分かりやすい反面、目標値の直前で数値操作を誘発しやすい |
| 段階型 | 達成水準ごとに支払額を階段状に設定する | 売り手の意欲が持続しやすく、一点集中のリスクを抑えられる |
| 利益分配型・売上連動型 | 実績値に一定の割合を掛けて連続的に算出する | 公平性が高い一方、上限額や下限額の定め方が複雑になる |
| マイルストーン達成型 | 承認取得や契約締結など、事象の発生で判定する | 判定が明快で解釈の争いが起きにくい |
閾値超過型
「営業利益が3億円を達成すれば1億円を支払い、1円でも下回ればゼロ」という設計です。閾値を上回った分だけを対象とする「(実績営業利益-基準営業利益)×一定率」というかたちもあります。
実績営業利益4億円・基準営業利益3億円・掛け率30%であれば、(4億円-3億円)×30%=3,000万円が追加対価となります。単純である反面、目標値の直前での利益の前倒し計上や費用の先送りを誘発しやすい点に注意が必要です。
段階型
「営業利益3億円の達成なら5,000万円、4億円の達成なら1億円」というように、達成水準ごとに支払額を刻む設計です。
閾値をわずかに下回っただけで受取額がゼロになる事態を避けられるため、売り手の意欲を評価期間の最後まで保ちやすくなります。買い手にとっても、支払額の見通しを段階ごとに把握できる利点があります。
利益分配型・売上連動型
「評価期間中の累計純利益×一定率」「年間売上高×一定率」のように、実績値そのものに割合を掛けて算出する設計です。3年間の累計純利益が10億円で掛け率が50%であれば、追加対価は5億円となります。
達成度合いに応じて連続的に金額が動くため公平性は高いものの、上限額(キャップ)や下限額(フロア)の定め方が複雑になります。計算式そのものが交渉の対象となるため、契約書の起案には踏み込んだ検討が求められます。
マイルストーン達成型
医薬品の承認取得・特許の登録・特定の大口顧客との契約締結といった事象の発生を条件とする設計です。「承認取得時に40億円、未取得ならゼロ」というように、判定が明快になります。
数値の計算を伴わないため会計処理をめぐる争いが起きにくい一方、事象が「いつ」「どの範囲で」発生したとみなすかの定義は、やはり契約で詰めておく必要があります。
評価期間の決め方
国内のM&A解説では、評価期間を1年から3年程度とする例が多いとされています。期間の長短と、期間中に会社が転売された場合の取り扱いの2点を押さえておきましょう。
期間の長さを決める考え方
評価期間は、対象事業の業績や開発の節目を測れる長さと、外部要因の影響が増えるリスクとのつり合いで決めます。期間が長くなるほど、経済環境の悪化・法規制の変更・競合環境の急変といった外部要因が、業績達成の可否を左右する確率が高まります。
売り手の経営努力とは無関係な要因で評価が歪む可能性が増える点に注意しましょう。3年を超える期間を提示された場合は、その期間が必要な理由を確認しておくことをおすすめします。
再売却に備えるアクセラレーション条項
未決済のアーンアウト条項があると、買い手が対象企業を第三者へ再売却する際の障害になり得ます。
この問題への備えとして、支配権の移転が生じる際にはアーンアウトの残額の一定部分を売り手に一括して支払う旨のアクセラレーション条項を組み込む方法があります。買い手の再売却時の機動性を確保しつつ、売り手が対価を失うリスクを緩めることができます。
なお、条件の骨格は最終契約書の起案前に、意向表明書やタームシートの段階で握っておくと後の交渉が進めやすくなります。前段の書面については意向表明書(LOI)の記事とタームシートの記事で解説しています。株式譲渡の枠組み全体は株式譲渡契約書(SPA)の記事をご参照ください。
利益相反を防ぐコベナンツ(誓約条項)
アーンアウト期間中、売り手は業績指標の数値を最大化して追加対価を得ようとし、買い手はそれを抑えて追加の支払いを避けようとします。双方の動機が正反対に働くため、放置すれば相手方に不利な数値操作が生じかねません。
これを防ぐのがコベナンツ(誓約条項)です。評価期間中に何をしてはいけないか、何をしなければならないかを契約上明確に定めることで、双方が公正な条件のもとで評価を受けられる環境を整えます。コベナンツという条項の一般的な意味と使われ方はコベナンツを扱った記事で解説しています。
売り手による数値の前倒しへの備え
売り手が陥りやすいのは、アーンアウト期間の終盤に向けて売上を前倒しで計上したり、本来その期に計上すべき費用を翌期以降へ先送りしたりして、見かけ上の業績を引き上げる行為です。
これを防ぐため、買収前から続けてきた会計方針を変更しないこと、通常の事業運営(Ordinary Course of Business)の範囲を逸脱しないことを義務として契約に盛り込みます。会計方針については、変更する場合に買い手の事前同意を要する旨まで定めておくと、判断の基準が明確になります。
買い手による利益圧縮への備え
買い手が意図的に業績を悪化させる手口としては、大きく2つのパターンがあります。
1つは、対象会社に対して不当に高額なグループ管理費を配賦したり、本来なら対象会社に入るはずの受注を系列会社へ誘導したりすることです。もう1つは、対象会社の重要な人材を親会社側へ異動させ、事業の収益力を意図的に低下させるケースです。
前者への備えとして、アーンアウトの業績計算においてはグループ共通費を控除する前の利益数値を用いる旨を明記しておきます。
後者を含めた経営介入全般に対しては、権限の線引きを契約上はっきりさせておく方法が有効です。設備投資・採用・主要顧客との契約変更など対象会社の業績に直結する重要事項については買い手の事前承認を必要とする一方、日常的な営業活動については売り手の裁量に委ねる、というかたちです。
ロックアップ条項とリーバー規定
アーンアウトは業績に対価を連動させる仕組みですが、業績を作るのは人です。前経営者やキーパーソンが買収直後に離脱してしまえば、事業の収益力は低下し、業績目標の達成可能性が根本から損なわれます。どれだけ丁寧にKPIを設計しても、測定の前提となる事業の担い手がいなければ意味をなしません。
ロックアップ条項の役割
M&Aにおけるロックアップ条項(キーマン条項)は、前経営者や重要人材に対して買収後2〜3年程度の継続勤務を求める取り決めです。アーンアウト対価の支払い条件に支払日時点での在籍を組み込むことで、当人には業績目標を達成して対価を最大化しようとする経済的な動機が生まれます。
また、事業に精通した旧経営者が評価期間中も経営に関与し続けることは、買い手が恣意的に業績を低く操作する行為への牽制としても働きます。
グッドリーバーとバッドリーバー
ロックアップ条項を設けても、評価期間中に離職が起きることはあります。その際に受給権をどう扱うかを事前に定めておかないと、解釈の争いが紛争に発展します。そのための備えがリーバー規定(Leaver Provision)です。離職の理由に応じて、グッドリーバーとバッドリーバーを区別する定め方があります。
| 区分 | 該当する離職理由 | 受給権の扱い |
|---|---|---|
| グッドリーバー | 死亡・傷病・会社都合解雇など本人の意思によらない離職 | 受給権を維持するか、在籍期間に応じた按分額を支払う |
| バッドリーバー | 競合他社への転職・懲戒解雇・自己都合による早期退職 | 未確定の追加対価の全部または一部を失権させる設計が考えられる |
リーバー規定がなければ、正当な理由で退職した人が対価を失い、悪意ある離職者が利益を得るという不公正が生じかねません。ロックアップ条項と一体で設計して初めて、意図したとおりに働く仕組みになります。
売り手・買い手それぞれのメリットとデメリット
アーンアウトは、将来の不確実性を売り手と買い手で分け合う仕組みです。そのため、一方にとっての利点が他方にとっての負担になるという裏表の関係にあり、どちらの立場から見るかで評価が反転します。
| 立場 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 売り手 | 一括売却より高い最終対価を得られる可能性がある/破談を避けて合意に至りやすい | 対価全額を即時に受け取れない/最終的な受取額と入金時期が確定しない/ロックアップに伴う負担 |
| 買い手 | 将来収益性のリスクを分担できる/クロージング時の支払額を抑えられる | 契約設計が複雑になり費用と時間がかかる/業績が上振れすると想定外の支払いが生じる |
売り手側のメリット
売り手にとっての利点は、成長の見込みに自信がある場合に、一括売却より高い最終対価を得られる可能性がある点です。買い手が保守的な価格しか提示できない案件でも、アーンアウトを受け入れることで合意に至りやすくなります。
ロックアップ条項との組み合わせにより、前経営者には業績を伸ばして対価を最大化しようとする経済的な動機も生まれます。
売り手側のデメリット
売り手にとっての負担は、対価全額の即時受領ができないことと、最終的な受取額と入金時期が確定しないことです。前経営者が次の事業や個人の資金計画を立てている場合、この不確実性は実質的な制約となります。
ロックアップ条項が設けられた場合は、売却後も経営責任を継続して負うこととなり、買い手との経営方針の対立に伴う心理的な負担が生じやすくなります。
他方で、前経営者が完全に離脱した場合には、買い手が意図的に費用を前倒し計上して業績指標を悪化させ、追加の支払いを避けるのではないかという懸念が残ります。
買い手側のメリット
買い手にとっての利点は、将来収益性という不確実なリスクを売り手と分担できる点にあります。
業績目標が未達であれば追加の支払いは発生せず、契約によっては対価の返還を受けることもできるため、高値づかみのリスクが軽くなります。
クロージング時の支払額を抑えることで資金繰りの柔軟性も確保でき、追加の支払いが発生する頃には対象企業からのキャッシュフローが積み上がっているため、事業の収益から対価を賄うかたちを取りやすくなります。
買い手側のデメリット
買い手にとっての負担は、契約設計が複雑になることによる取引費用の増大と、業績が想定を大きく上回った際の追加支払いです。
また、ロックアップ条項により前経営者が引き続き経営に参画する場合、アーンアウト指標の短期的な達成に偏った経営判断(研究開発費の削減・必要な人材採用の先送りなど)が生じ、中長期的な企業価値の向上が犠牲になるおそれもあります。
提示されたアーンアウト条項が自社にとって不利な内容になっていないか、確認しておきたい方々へ。
指標の定義・評価期間・コベナンツの有無によって、売り手と買い手のどちらに有利な条項になるかは変わります。当事務所では、M&A契約書の内容確認と修正のご相談を承っています。
アーンアウト条項が使われた国内M&Aの事例
アーンアウト条項は上場企業の適時開示資料にも登場し、指標・上限額・在籍要件といった条件の骨格を読み取ることができます。以下で取り上げる3件は、いずれも公表されている開示資料に基づくものであり、当事務所が関与した案件ではありません。
マネックスグループによるコインチェックの買収
マネックスグループは2018年4月6日、コインチェックの全株式を取得して完全子会社化することを公表しました。取得価額は3,600百万円です。
あわせて条件付対価の合意がなされており、開示資料では「今後3事業年度の当期純利益の合計額の二分の一を上限とし、一定の事業上のリスクを控除して算出される金額が追加で発生する可能性があります」と説明されています(マネックスグループ「株式取得によるコインチェック株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」2018年4月6日)。
3事業年度という評価期間と、累計純利益の2分の1という上限を組み合わせた利益分配型の設計です。事業に不確実性が大きい局面での買収において、上限を設けることで買い手の負担を読みやすくしています。
AViCによるSpicaの買収
AViCは2026年1月27日、TikTok LIVEのライバーマネジメント事業を営むSpicaの株式取得を公表しました。取得価額は普通株式1,500百万円にアドバイザリー費用等の概算額80百万円を加えた1,580百万円です。
開示資料によれば、アーンアウト対価はSpica社の売上高実績に応じて段階的に支払われ、売上高が20億円に達し、かつ現株式所有者が継続して対象会社の取締役の地位にあることを条件に、最大3億円が支払われる設計です(AViC「株式会社Spicaの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」2026年1月27日)。
売上高という指標に段階型の支払いを組み合わせ、そこに在籍要件を重ねた設計です。売上高を指標に選ぶことで買い手による費用操作の影響を受けにくくしつつ、在籍要件で人材の流出に備えるという、2つの狙いを1つの条項に収めています。
ワンキャリアによるライトローズの買収
ワンキャリアは2025年8月21日、大学生活支援アプリシステムを運営するライトローズの株式取得を公表しました。取得価額は相手方の意向により非開示とされています。
開示資料では、業績等の達成度合いに応じて条件付取得対価(アーンアウト対価)を株式取得の相手先に支払う合意がなされていること、この仕組みには買い手側のリスクを軽減するとともに対象会社に対する動機づけの効果があることが説明されています(ワンキャリア「株式会社ライトローズの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」2025年8月21日)。
ライトローズは2022年8月の設立で、開示の時点では設立から約3年です。過去の財務数値の蓄積が乏しい企業の取得において、将来の業績を対価に反映させる設計が採られたものと読み取れます。
事例から読み取れる設計上の着眼点
3件はいずれも、将来の成長性に評価の重心がある案件です。過去の実績で価格を決めにくいからこそ、判定を先送りする仕組みが選ばれています。
他方で、条件の書きぶりには差があります。マネックスグループの事例では「一定の事業上のリスクを控除して算出される金額」という文言が置かれており、控除の対象と算定方法が争点になり得る構造です。AViCの事例では在籍要件が明示されているため、取締役を退任した場合の扱いを別途定めておかなければ、退任の経緯をめぐる争いにつながります。
開示資料に載るのは条件の骨格だけであり、実際の契約書ではこれらの点が詳細に定められているはずです。自社の案件で条項を作る際も、公表されている枠組みをそのまま真似るのではなく、控除項目や離職時の扱いまで書き込んでおく必要があります。
アーンアウトをめぐる紛争と予防
アーンアウトは、対価の確定を将来に先送りする仕組みである以上、確定の場面で当事者の主張が食い違う可能性を初めから抱えています。コベナンツを丁寧に設けても、算定結果の解釈をめぐる争いは起こり得ます。どのような場面で揉めるのかを知っておくと、契約の段階で備えを置きやすくなります。
争いになりやすい4つの場面
アーンアウトをめぐる争いは、おおむね次の4つのかたちで現れます。
| 争点 | 典型的な主張の対立 | 契約段階での備え |
|---|---|---|
| 算定結果の食い違い | 売り手の計算した数値と買い手の計算した数値が一致しない | 指標の定義・計算式・使用する会計方針を条項に書き切る |
| 買い手の経営介入 | グループ共通費の配賦や受注の付け替えで利益が圧縮されたと売り手が主張する | 共通費控除前の数値を用いる旨と、重要事項の事前承認の範囲を定める |
| 未達の原因をめぐる争い | 外部環境の悪化か、買い手の経営判断かで見解が分かれる | 外部要因による調整の可否と、その判定方法をあらかじめ定める |
| 在籍要件の解釈 | 退任が本人の意思によるものか会社都合かで評価が分かれる | リーバー規定でグッドリーバーとバッドリーバーの範囲を具体的に列挙する |
いずれも、契約書の文言をどこまで詰めていたかで結論が変わり得る争点です。条項を作る段階では抽象的な表現でも問題なく読めてしまうため、争いが起きて初めて定義の粗さが問題になります。
第三者算定人による裁定の取り決め
売り手の言う数字と買い手の言う数字が食い違ったとき、どちらが正しいかを当事者間だけで解決しようとすると交渉が長期化します。
そのため、あらかじめ独立した公認会計士事務所などの中立的な第三者が最終的な裁定を行う手続を契約に明記しておく方法が採られます。裁定を求められる事項の範囲・第三者の選任方法・費用の負担・裁定の効力(最終的なものとするか否か)まで定めておくと、争いが生じた際に手続がすぐに動きます。
表明保証違反との関係
アーンアウトの未達が、売り手の表明保証違反に起因する場合もあります。買収前の財務数値に誤りがあった、開示されていない債務が存在したといった事情が、評価期間中の業績を押し下げることがあるためです。
この場合、買い手はアーンアウトの支払いを拒むだけでなく、表明保証違反に基づく補償請求を行うことが考えられます。売り手から見れば、追加対価を得られないうえに損害賠償の請求も受けるという二重の負担になります。表明保証と補償の仕組みについては表明保証と補償条項の記事で解説しています。
アーンアウト条項と補償条項の関係を契約でどう定めるか(補償額をアーンアウト対価から差し引けるかなど)も、あらかじめ決めておきたい論点です。
アーンアウト対価の支払いをめぐって相手方と見解が分かれている方々へ。
当事務所は、M&A契約書の作成・確認に加えて、表明保証違反・損害賠償請求・M&Aに関する訴訟や紛争への対応を取り扱っています。状況をお伺いしたうえで、取り得る手立てをご説明いたします。
日本市場での普及状況と今後
米国のプライベートM&Aでは、成約案件の一定割合でアーンアウトが用いられているという調査があります。一方、日本については利用率を示す網羅的な統計が見当たらず、公表される事例も限られます。背景には、参照できる先行事例の少なさと、契約に対する考え方の違いがあります。
普及を阻む3つの要因
1つ目は、先行事例の不足です。参照できる事例が限られることで、売り手・買い手の双方が導入に慎重になります。指標の決め方や揉めたときの解決手段について、実際の案件をもとにした助言を受けにくい状況もあります。
2つ目は、契約が複雑になることへの抵抗感です。契約をできるだけ簡潔にまとめたいという意向があると、KPIの選定・目標値の設定・計算方法・評価期間中のコベナンツといった追加の取り決めは敬遠されます。
3つ目は、評価期間中に誰が経営を担うのかという問題です。買収後に前経営者が速やかに退く設計にすると、売り手は自分が関与できない期間の業績で対価が決まることになります。買い手に恣意的に経営指標を低く誘導されるのではないかという不信感が生じやすく、これが導入への心理的な壁となります。
変化の兆し
こうした背景はあるものの、状況は少しずつ変わりつつあります。スタートアップのM&Aやクロスボーダー案件の増加に伴い、活用事例が着実に積み上がっているためです。
また、行政の側でも最終契約をめぐるトラブルへの目配りが強まっています。中小企業庁は2024年8月30日に中小M&Aガイドラインを第3版に改訂し、最終契約に定めた事項の不履行等のトラブルが発生している実態を踏まえて、当事者間でトラブルに発展する可能性があるリスクとその対応策の解説を追記しました。ガイドラインがアーンアウトを名指ししているわけではありませんが、対価の支払いが将来に及ぶ設計では、この不履行のリスクが同じように問題になります。
将来価値の評価が難しいスタートアップ企業の買収において、アーンアウトが持つ価格調整の働きが認識されるにつれ、これを取り扱う弁護士や会計士の経験も積み上がっていきます。国内での活用が今後さらに広がることが見込まれます。
アーンアウトの会計処理(日本基準とIFRSの違い)
アーンアウト条項付きの買収では、将来の支払額が確定していない対価を、どのタイミングでどのように帳簿に載せるかが問題になります。この処理方法は、日本基準(J-GAAP)と国際財務報告基準(IFRS)とで根本的に異なっており、採用する基準によって毎期の利益の見え方が変わります。M&Aの検討段階から会計への影響を把握しておきましょう。
日本基準は確定してから計上する
日本基準の考え方は、まだ払うかどうか決まっていないものは確定するまで帳簿に載せない、というものです。
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(最終改正 平成31年1月16日)第27項(1)は、条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価を追加的に交付するまたは引き渡すときには、その交付または引渡しが確実となり、時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれんを追加的に認識するまたは負ののれんを減額すると定めています(企業会計基準委員会「企業結合に関する会計基準」)。
クロージング時点では初期対価だけを取得原価として計上し、のれんを算出します。その後、業績目標の達成・未達が判明した段階で、追加対価が確定すればのれんに上乗せするという二段構えの処理になります。
追加で認識するのれんは、企業結合日に認識されたものと仮定して計算します。そのうち追加認識する事業年度以前に対応する償却額および減損損失額は、過年度の決算を修正するのではなく、追加認識した事業年度の損益として処理します(同注4)。
のれんは、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法によって規則的に償却されます(同第32項)。追加計上された分も、この残りの期間にわたって費用化されていきます。
国際財務報告基準は見積もって先に計上する
国際財務報告基準の考え方は日本基準と対照的で、将来払う可能性があるなら今の時点で見積もって先に計上する、というものです。
IFRS第3号「企業結合」第39項は、取得企業が条件付対価の取得日の公正価値を、被取得企業との交換で移転された対価の一部として認識しなければならないと定めています。買収日の時点で条件付対価の公正価値を測定し、それを負債または資本として計上したうえでのれんを確定させることになります。公正価値の測定では、達成確率を織り込んだ将来キャッシュフローの現在価値など、市場参加者の視点に立った手法が用いられます。
その後、実際の業績が見込みとずれた場合の処理は同第58項によります。負債に分類された条件付対価は各報告日に公正価値で再測定され、その変動は純損益として認識するのが原則です。業績が予想より良く追加支払額が増えれば差額はその期の損失となり、予想を下回って支払額が減れば差額は利益として計上されます。なお、資本に分類された条件付対価は事後に再測定せず、その決済も資本の中で処理します(同第58項)。
この点は直感と逆に感じられやすい部分です。業績が好調であるほど費用が発生し、業績が不振であるほど利益が出るという構造になるため、財務諸表の数字だけを見ると実態と逆の印象を与えることがあります。
両基準の違いが決算に与える影響
両基準の最大の違いは、のれんが変動するかどうかにあります。日本基準ではアーンアウトの確定に合わせてのれんが増減しますが、国際財務報告基準では取得日後の事象による公正価値の変動はのれんを修正せず、負債に分類されている場合は損益に反映されます。
ただし、取得日の時点で存在していた事実や状況について新たな情報を得た場合は別です。この場合は測定期間(最長1年)の調整として取得日の金額が修正され、のれんも変動します。
同じ取引であっても、採用する基準によって各期の利益水準やのれんの残高が大きく異なります。上場企業や海外投資家への説明においては、この差異が財務分析に影響を与えることもあります。アーンアウト条項付きのM&Aを検討する際には、契約設計と並行して公認会計士とすり合わせておきましょう。
アーンアウト対価にかかる税金
会計処理と並んで見落とされがちなのが、売り手(個人株主の場合)にとっての税務の問題です。受け取ったお金の性格を税務当局がどう判断するかによって、税負担が大きく変わります。しかもこの点は現在も裁判で争われている領域であり、契約書の書き方が結論に影響し得ます。
なお、以下は一般的な税務情報の提供を目的とするもので、個別案件の税務相談や申告の判断を行うものではありません。具体的な所得区分や申告の時期・方法については税理士にご確認ください。当事務所では、必要に応じて税理士等と連携して対応いたします。M&A全般の税金の枠組みはM&Aの税金の記事で扱っています。
譲渡所得と雑所得で変わる税率
アーンアウト対価が株式を売った代金の一部と認められる場合、株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税が適用されます。税率は20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%の合計)です(国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」)。売り手にとって税負担が軽くなる扱いです。
ここで気をつけたいのは、雑所得と判断されたからといって直ちに総合課税になるわけではない点です。株式等の譲渡による所得は、譲渡所得・事業所得・雑所得のいずれに区分される場合でも申告分離課税の対象となります。争点になるのは、受け取った金銭がそもそも株式等の譲渡による所得といえるかどうかです。
株式等の譲渡による所得とは認められず、総合課税の雑所得として扱われた場合には、他の所得と合算したうえで最高税率が55.945%(所得税・復興特別所得税45.945%と住民税10%の合計)に達します。同じ金額を受け取っても、区分の判断ひとつで手取りが大きく変わるわけです。
このほか、一時所得と扱われる余地も議論されています。一時所得は、総収入金額から収入を得るために支出した金額と特別控除額(最高50万円)を差し引いて計算し、その2分の1を他の所得と合算します(国税庁「No.1490 一時所得」)。総合課税の雑所得よりは負担が軽くなります。
課税される年がいつになるか
所得区分は、いつ課税されるかにも直結します。
譲渡所得に含めると判断され、譲渡の時点で権利が確定していたと扱われる場合、収入すべき時期は株式の引渡しがあった年になるのが原則です。納税者の選択により、譲渡契約の効力が発生した日の属する年とすることも認められています(所得税基本通達36-12)。追加対価を実際に受け取る前に納税が必要となる可能性があり、後になって受取額が見込みと異なった場合には、更正の請求などの手続を検討することになります。
雑所得として扱う場合は、支払いが確定した年分の所得となります。受け取った年に課税されるため資金の手当てはしやすい一方、総合課税となるときは他の所得と合算されるため税率が上がりやすくなります。
契約設計でできる備え
株式の譲渡代金の一部であるという性格をはっきりさせておくことが、区分をめぐる争いを避ける方向に働きます。契約段階で置いておきたい備えは次のとおりです。
- 対価の計算根拠を個人の労務ではなく事業全体の業績指標に紐付ける
- アーンアウトの配分比率を株主の持分比率と一致させる
- 株式を持たない従業員への配分と混在させない
- 追徴課税が生じた場合の負担者を契約に明記する
とくに、対価の算定根拠が売り手個人の働きぶり(役職や労働時間など)に基づいている場合や、株式を持っていない従業員にも配分される場合は、株式の譲渡代金とは別の性格を持つものと見られやすくなります。在籍要件を条件に加えるロックアップとの併用は、この観点からも検討が必要です。
買い手側の取り扱い
買い手側では、追加の支払いが株式取得の対価と評価される限り、原則として株式の取得価額に反映されます。売り手側で雑所得と扱われたことだけを理由に、買い手側で当然に損金へ算入できるわけではなく、支払いの原因に基づく個別の判断が必要になります。
売り手と買い手で異なる前提に立って申告すると、いずれかが否認されるリスクが残ります。契約交渉の段階で、双方の税務上の取り扱いをすり合わせておきましょう。
アーンアウトに関するよくある質問
アーンアウトをめぐる疑問は、用語としての意味・契約条件としての設計・受け取ったお金の税金という3つの層に分かれます。それぞれについて要点を短くお答えします。
アーンアウトとはどういう意味ですか?
M&Aの買収対価の一部を、買収後の一定期間の業績に連動させて後から支払う仕組みのことです。クロージング時に一定額を支払い、残りは目標の達成度に応じて支払うかどうかが決まります。
アーンアウトの日本語訳は何ですか?
定訳はありません。文脈に応じて「業績連動型の後払い」「条件付きの追加対価」と説明されます。会計基準の用語では、日本基準は「条件付取得対価」、IFRSは「条件付対価(contingent consideration)」という呼び方をします。
評価期間はどれくらいが一般的ですか?
多くは1年から3年です。期間が長くなるほど外部環境の変化が業績に影響するため、売り手の側から見ると短い方が有利に働きます。
目標が未達なら追加対価はゼロになりますか?
計算方法によります。閾値超過型では目標をわずかに下回ってもゼロになりますが、段階型や利益分配型であれば達成度合いに応じた金額が支払われます。契約書でどの方式が採られているかを確かめておきましょう。
逆アーンアウトとは何ですか?
業績が目標を大きく下回った場合に、クロージング時に支払われた対価の一部を売り手から返還させる取り決めを指します。追加で支払う通常のアーンアウトとは、お金の流れる向きが逆になります。
中小企業のM&Aでもアーンアウトは使えますか?
使えます。ただし、評価期間中の業績を誰がどう管理するかがはっきりしない案件では、目標の達成可否をめぐって争いになりやすくなります。売り手が経営から完全に離れる前提であれば、指標の選び方とコベナンツの設計をとくに慎重に検討する必要があります。
受け取った対価にかかる税金はどうなりますか?
株式の譲渡代金の一部と認められれば譲渡所得として20.315%の申告分離課税、そうでなければ雑所得として総合課税の対象となります。判断は契約の内容によって分かれており、裁判でも争われている論点です。申告の際は税理士・公認会計士に確認しておきましょう。
アーンアウト条項の設計とトラブル対応は当事務所へ
アーンアウト条項は、将来の不確実性を前提に売り手と買い手でリスクを分け合う仕組みであり、評価の開きを理由に破談の危機にあるM&A案件を合意に導く手立ての一つです。単なる価格交渉の技法ではなく、双方が対象事業の将来に向けて経済的なリスクを分担しながら歩む契約という側面も持っています。
もっとも、その設計には契約面と会計・税務の双方にわたる検討が必要で、定義や手続を詰めきれないままクロージングを迎えると、評価期間の終了後に深刻な争いを招きかねません。指標の定義・計算式・評価期間・コベナンツ・リーバー規定・第三者算定の手続、そして所得区分をめぐる税務上の備えまで、契約書の文言に落とし込んでおくことが要点になります。
当事務所は、M&A相談・株式譲渡契約書・事業譲渡契約書・会社分割契約書・デューデリジェンス・表明保証違反・損害賠償請求・M&Aに関する裁判や紛争トラブルへの対応を取り扱っています。アーンアウト条項の設計、提示された条項案の確認、対価の支払いをめぐる相手方との交渉のいずれについても、状況に応じた対応をご説明いたします。
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