アーンアウト条項とは?企業買収の価格合意に効果的な方法と実務上の論点を弁護士が解説します

  • 2022年4月4日
  • 2026年4月2日
  • M&A

M&Aの交渉において、最終局面で最も難航するのは買収価格の折り合いです。事業内容、経営陣の処遇、従業員の引き継ぎなどの条件では合意に達しているにもかかわらず、肝心の価格だけが折り合わずに破談になることもよくあります。

売り手が自社の将来性に強い確信を持つ一方、買い手はデューデリジェンスで収集した情報に基づいてリスクを保守的にとらえます。この構造的な評価の乖離(バリュエーション・ギャップ)を解消する手段として、欧米のM&A市場で長年にわたって活用されてきたのが「アーンアウト条項」です。

本稿では、アーンアウト条項の基本的な概念から、実務上の設計論点、売り手・買い手それぞれの利害得失、日本市場における現状、さらには会計・税務上の取り扱いまでを体系的に解説します。

目次

アーンアウト条項の定義と基本的な仕組み

まずアーンアウトの定義を紹介したうえで、アーンアウトの特徴である二層構造の仕組みや対価返還条項について解説します。

アーンアウトとは何か

アーンアウト(Earn-out)とは、M&Aにおいて買い手が売り手に支払う買収対価の一部を、買収後の一定期間における対象企業・事業の業績達成度に連動させて決定する仕組みのことです。

英語の「Earn-out」はファイナンスの専門用語であり、自らの努力によって「稼ぎ出す(Earn)」という行為とその「結果(Out)」を組み合わせた造語です。成果に基づいて最終的な対価が確定するという本質を端的に表しています。

二層構造の仕組み

通常のM&Aでは、クロージング(株式や事業の移転が完了する手続き)の時点で買収対価が確定し、一括で支払われます。これに対してアーンアウト条項を導入した取引(アーンアウト・ディール)では、クロージング時に支払われる「初期対価(Upfront Payment)」と、その後の業績達成を条件として支払われる「条件付対価(Contingent Consideration)」の二層構造を採用します。

具体例を挙げると、買収総額を10億円と見積もる案件で、クロージング時にまず6億円を支払い、残りの4億円については「買収後2年間のEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)が年間2億円以上を達成した場合に限り支払う」と約定するようなケースが典型的です。目標が未達であれば追加支払いは発生しません。

対価返還条項という選択肢

さらにアーンアウト条項では、業績が大幅に目標を下回った場合にはクロージング時に支払われた対価の一部を売り手から返還させる条項を設けることも可能です。

このように、業績の達成・未達に応じて追加対価を支払う・支払わない、あるいは既払い対価を返還するという柔軟な取り決めを総称してアーンアウト条項と呼びます。米国のM&A市場では古くから定着しており、特にプライベート・エクイティ(PE)ファンドによる買収やベンチャー企業の買収場面で広く活用されています。

バリュエーション・ギャップが生じる原因とアーンアウト条項の役割

売り手と買い手の評価の乖離(バリュエーション・ギャップ)はなぜ起きるのでしょうか。またバリュエーション・ギャップの解消においてアーンアウト条項はどのような役割を担っているのでしょうか。

根本原因は情報の非対称性

バリュエーション・ギャップは「高く売りたい、安く買いたい」という単なる感情の対立ではなく、構造的な情報の非対称性によって引き起こされます。

売り手は事業の内情に詳しいため、開発中の新製品、未締結ながら有力な大型案件、顧客との深い関係性といった定性的な情報を根拠として、楽観的な将来見通しを描く傾向があります。

一方で買い手は、デューデリジェンスを尽くしたとしても、買収後のキーマン離脱リスク、市場環境の変化、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の摩擦といった不確実性を完全には排除できないため、どうしても保守的な評価にならざるを得ません。

また、ブランド力、技術力、顧客基盤など「のれん」にかかわる真の価値は、実際に経営を行ってみなければ判明しない部分が大きといえます。将来の収益性も一定期間後の実績によって初めて客観的に評価できるといえるでしょう。

「見立ての答え合わせ」の構造が価格交渉を動かす

アーンアウト条項は、上述したような「時間が経たなければわからない不確実要素」を契約上の仕組みで管理する手段として発展してきました。

売り手の見立てが正しければ追加対価が支払われ、買い手の見立てが正しければ追加支払いは発生しないという公正な構造があるからこそ、行き詰まった価格交渉を前進させる原動力となるわけです。

したがって、さまざまな取引条件ではほぼ合意に達しているにもかかわらず、将来性の評価だけに乖離が残っている場面では、アーンアウト条項を導入することで最終合意への道筋をつけることが可能です。

アーンアウト条項が有効に機能する4つの典型的シナリオ

どのような案件にもアーンアウト条項が適しているわけではありません。実務上、特にアーンアウト条項の活用が有効とされる4つの類型を挙げます。

スタートアップ・ベンチャー企業の買収

現時点での営業利益は赤字または微増にとどまるが、数年後の急速な成長(Jカーブ的な業績拡大)を見込んでいる案件です。過去の財務諸表に基づくDCF法やマルチプル法では売り手が納得する価格を算出できないため、将来の業績に対価を連動させるアーンアウトが価格交渉の出口となります。「現在の赤字と将来の成長性」というスタートアップ特有のトレードオフを、アーンアウトという仕組みが橋渡しするわけです。

バイオ・創薬・ディープテック企業の買収

特定の臨床試験(治験)のクリア、特許取得、規制当局(日本ではPMDA、米国ではFDA等)による承認取得が価値の源泉となる案件です。達成の有無が明確に判定できるため、マイルストーン型のアーンアウトとの親和性が高く、承認取得というYes/Noで判定できる条件は解釈争いも生じにくい点で優れています。

事業再生フェーズの企業の買収

不採算部門の切り離しや構造改革の直後で回復の兆しはあるものの、現時点のEBITDAが依然として低水準にある場合、再建の成果を後払いで評価するアーンアウトは一つの合理的な方法となりえます。

キーマン依存度の高いサービス業の買収

創業者や特定の営業職・技術職の属人的なスキルで収益が維持されているビジネスでは、買収後の当該人物の離脱が企業価値を大きく毀損するリスクがあります。アーンアウト条項の支払い条件に当該人物の在籍要件を組み込むことで、買収後の継続的な経営関与を促す強力な手段として機能します。

実務における契約設計の要点

アーンアウト条項の成否は、条項そのものの設計精度に大きく左右されます。特に「業績指標(KPI)の選択」「支払額の算定モデル」「評価期間の設定」の3つが重要です。

業績指標(KPI)の選択

業績指標(KPI)の選択では、財務指標と非財務指標があることと、指標設計の原則を押さえておきましょう。

財務指標と非財務指標

財務指標の代表例はEBITDA、営業利益、売上高、純利益などです。

指標の選択にあたっては売り手と買い手の利害が対立しやすくなります。たとえば、売り手は買い手による費用操作の影響を受けにくい「売上高」などの上位指標を好むのに対して、買い手は実態利益を示す「営業利益」や「EBITDA」を好む傾向があります。

業種の特性に応じて、ユーザー数(DAU/MAU)、解約率(チャーンレート)、契約件数、重要顧客との契約締結、特定のライセンス取得、製品開発のマイルストーン達成などの非財務指標が採用される場合もあります。バイオ製薬業界における規制当局の承認取得や、SaaS企業における月間アクティブユーザー数などが実務上の典型例です。

指標設計の原則

単一の指標に依存せず複数の指標を組み合わせる設計も有効です。たとえば「売上高と営業利益の両方を達成した場合に満額を支払い、一方のみ達成の場合は減額する」といった段階的な設計が考えられます。いずれにせよ重要な原則は「指標の定義を可能な限り具体的かつ客観的に規定すること」です。指標の定義が曖昧なままだと、評価終了後の紛争の火種となるので注意しましょう。

支払額の算定モデル

追加対価の算定モデルは大きく3つの類型に分けられます。

オール・オア・ナッシング型(二値型)は、「営業利益が3億円を達成すれば1億円を支払い、1円でも下回ればゼロ」という設計です。シンプルな反面、目標値の直前での数値操作(利益の前倒し計上や費用の先送り)を誘発しやすいという問題があります。

ステップ型(階段型)は、「3億円達成なら5,000万円、4億円達成なら1億円」と段階を設けることで、売り手のモチベーションを持続させつつ、目標達成への一点集中リスクを軽減できます。

リニア型(傾斜配分型)は、「(実績利益-基準利益)×倍率」のように業績の達成度合いに応じて連続的に対価を算出するモデルで、最も公平性が高いとされます。ただし、計算式や上限額(キャップ)・下限額(フロア)の設定が複雑になるため、契約書の起案には高度な専門知識が要求されます。

評価期間の設定

アーンアウト条項における評価期間の設定では、「期間の長短」と「アクセラレーション条項の有無」をチェックしてください。

短期設定が望ましい理由

評価期間は1年から3年に設定されるのが一般的であり、できるだけ短く設定することが望ましいとされています。期間が長くなるほど、経済環境の悪化、法規制の変更、競合環境の急変といった外部要因が業績達成の可否を左右する確率が高まるからです。売り手の経営努力とは無関係な要因で評価が歪む可能性が増大する点に注意しましょう。

再売却を見据えたアクセラレーション条項

また、未決済のアーンアウト条項の存在は、買い手が対象企業を第三者へ再売却する際の障害になり得ます。この問題への対処として、支配権の移転が生じる際にはアーンアウトの残額の一定部分を売り手に一括支払いする旨の「アクセラレーション条項」を契約に組み込む手法が実務上採用されます。買い手の再売却時の機動性を確保しつつ、売り手のアーンアウト対価消失リスクを緩和できる有効な設計です。

利益相反リスクの制御:コベナンツの実務

アーンアウト期間中、売り手は業績指標の数値を最大化して追加対価を得ようとし、買い手はそれを抑えて追加支払いを回避しようとします。双方のインセンティブが正反対に働くため、放置すれば相手方に不利な数値操作が横行するリスクがあるわけです。

これを防ぐ手段がコベナンツ(誓約条項)です。「評価期間中に何をしてはいけないか・何をしなければならないか」を契約上明確に定めることで、双方が公正な条件のもとで評価を受けられる環境を整えることができます。

売り手側の数値操作対策

売り手が陥りやすいのは、アーンアウト終盤に向けて売上を前倒しで計上したり、本来その期に計上すべき費用を翌期以降へ先送りしたりすることで、見かけ上の業績を引き上げる行為です。

これを防ぐため、「買収前から継続してきた会計方針を変更しないこと」と「通常の事業運営(Ordinary Course of Business)の範囲を逸脱しないこと」を義務として契約に盛り込みます。

買い手側の利益圧縮対策

買い手が意図的に業績を悪化させる手口としては、大きく二つのパターンがあります。

一つは、対象会社に対して不当に高額なグループ管理費を配賦したり、本来なら対象会社に入るはずの受注を系列会社へ誘導したりすることです。もう一つは、対象会社の重要な人材を親会社側へ異動させることで事業の収益力を意図的に低下させるケースです。

前者への対策として、「アーンアウトの業績計算においてはグループ共通費を控除する前の利益数値を用いる」と明記することが一般的です。

後者を含めた経営介入全般に対しては、設備投資・採用・主要顧客との契約変更など対象会社の業績に直結する重要事項については買い手の事前承認を必要とする一方、日常的な営業活動については売り手の裁量に委ねるという「権限の線引き」を契約上明確化しておく手法が有効です。

紛争解決メカニズムの整備

コベナンツをいくら精緻に設けても、算定結果の解釈をめぐる争いは起こり得ます。「売り手の言う数字」と「買い手の言う数字」が食い違ったとき、どちらが正しいかを当事者間だけで解決しようとすると交渉が泥沼化します。

そのため、あらかじめ独立した公認会計士事務所などの中立的な第三者が最終的な裁定を行うプロセスを契約に明記しておくことが不可欠です。評価の判断を属人的なやり取りに委ねず、客観的なルールに落とし込んでおくことがアーンアウト設計の要諦のひとつです。

ロックアップ条項とリーバー規定の連動

アーンアウトは業績に対価を連動させる仕組みですが、業績を作るのは人です。前経営者やキーパーソンが買収直後に離脱してしまえば、事業の収益力は低下し、業績目標の達成可能性が根本から損なわれます。どれだけ精緻にKPIを設計しても、測定の前提となる事業の担い手がいなければ意味をなしません。

この問題を防ぐための方法がロックアップ条項(またはキーマン条項)です。

ロックアップ条項:アーンアウトの実効性を担保する仕組み

ロックアップ条項は、前経営者や重要人材に対して買収後2〜3年程度の継続勤務を求める取り決めです。アーンアウト対価の支払い条件に「支払日時点での在籍」を組み込むことで、当人には業績目標を達成して対価を最大化しようとする経済的なインセンティブが生まれます。

また、事業に精通した旧経営者が評価期間中も経営に関与し続けることは、買い手が恣意的に業績を低く操作する行為への牽制としても機能します。

このようにロックアップ条項は、アーンアウトを「価格の取り決め」として機能させるための実効性の担保なのです。

リーバー規定:離職が起きたときのルールを明確にする

ロックアップ条項を設けても、評価期間中に離職が起きることはあります。その際「受給権をどう扱うか」を事前に定めておかないと、解釈の争いが紛争に発展します。そのための備えがリーバー規定(Leaver Provision)です。

リーバー規定は離職の理由によって「グッドリーバー」と「バッドリーバー」の2つに区分します。

グッドリーバー(Good Leaver)とは、死亡・傷病・会社都合解雇など本人の意思によらない離職を指します。この場合はアーンアウト受給権を維持するか、在籍期間に応じた按分額を支払うのが通例です。

バッドリーバー(Bad Leaver)とは、競合他社への転職、懲戒解雇、自己都合による早期退職などを指します。この場合は受給権を全額喪失させることが一般的です。

リーバー規定がなければ、正当な理由で退職した人が不当に対価を失い、悪意ある離職者が利益を得るという不公正が生じかねません。リーバー規定は公正なインセンティブ設計を維持するための安全弁であり、ロックアップ条項と一体で設計されて初めて有効に機能します。

売り手・買い手それぞれのメリットとデメリット

売り手側のメリット

売り手側の最大のメリットは、成長ポテンシャルへの自信がある場合に一括売却より高い最終対価を得られる可能性がある点です。アーンアウトを受け入れることで合意しやすくなり、業績の実現によってはより高い対価を手にする可能性があります。

ロックアップ条項との組み合わせにより、前経営者には「より良い業績を上げて対価を最大化させる」という強い経済的インセンティブも生じます。

売り手側のデメリット

売り手側のデメリットは、対価全額の即時受領ができないことと、最終的な受取額と入金時期が確定しないことです。前経営者が次の事業や個人の資金計画を立てている場合、この不確実性は実質的な制約となります。

また、ロックアップ条項が設けられた場合は、売却後も経営責任を継続して負うこととなり、買い手との経営方針の対立に伴う心理的負担が生じやすくなるかもしれません。

一方、前経営者が完全に離脱した場合には、買い手が意図的に費用を前倒し計上して業績指標を悪化させ、追加支払いを回避するのではないかという懸念が残ります。

買い手側のメリット

買い手側の最大のメリットは、将来収益性という不確実なリスクを売り手と分担できる点です。

業績目標が未達であれば追加支払いは発生せず、場合によっては対価の返還を受けることもできるため、高値づかみのリスクが大幅に軽減されます。

クロージング時の支払額を抑えることで資金繰りの柔軟性も確保でき、追加支払いが発生する頃には対象企業からのキャッシュフローが積み上がっているため、実質的に事業の収益から対価を賄う形が整います。

買い手側のデメリット

買い手側のデメリットは、契約設計の複雑化によるトランザクションコストの増大と、業績が大幅に上振れした際の想定外の追加支払い発生リスクです。

また、ロックアップ条項により前経営者が引き続き経営に参画する場合、アーンアウト指標の短期的な達成に偏重した経営判断(研究開発費の削減、必要な人材採用の先送り等)が横行し、中長期的な企業価値の向上が犠牲にされるリスクも生じます。

日本市場における現状と課題

アーンアウト条項は欧米では一般的な手法として定着していますが、日本での活用は依然として限定的です。アーンアウトが広がらない理由を説明します。

普及を阻む三つの要因

最大の要因は、実績と先行事例の不足です。参照できる事例が限られることで、売り手・買い手双方がアーンアウトの導入に慎重になります。実際にアーンアウト・ディールを手がけた経験を持つM&Aアドバイザーや弁護士も相対的に少なく、具体的な事例に基づく助言を受けることが難しい状況です。

契約の複雑化に対する抵抗感も無視できません。日本企業には「契約はシンプルに完結させたい」という文化的傾向が根強く、KPIの選定・目標値の設定・算定方法・評価期間中のコベナンツといった追加的な取り決めへの忌避感が普及の妨げとなっています。

前経営者の関与をめぐる文化的な差異も要因に挙げられるでしょう。米国では買収後も前経営者がロックアップに基づき一定期間経営に関与し続けることが一般的ですが、日本では買収後に買い手のマネジメント体制へ速やかに移行するケースが多いとされます。前経営者が不在のままアーンアウトが評価される場合、売り手には「買い手に恣意的に経営指標を低く誘導されるのではないか」という不信感が生じやすく、これが導入への心理的障壁となるのです。

変化の兆しと今後の展望

以上のような背景はあるものの、少しずつ状況は変化しつつあります。スタートアップM&Aやクロスボーダー案件の増加に伴い、アーンアウト条項の活用事例が着実に積み上がっているからです。

今後は、将来価値の評価が難しいスタートアップ企業の買収においてアーンアウトの価値調整機能が有効に働くことが認識され、専門家の経験蓄積とともに日本市場での普及が加速していくことが見込まれます。

会計処理:日本基準とIFRSの決定的相違

アーンアウト条項付きの買収では、将来の支払額が確定していない対価をどのタイミングでどのように帳簿に載せるかが問題になります。日本基準(J-GAAP)と国際財務報告基準(IFRS)では、この処理方法が根本的に異なります。採用する基準によって毎期の利益の見え方が変わるため、M&Aの検討段階から会計への影響を把握しておくことが重要です。

日本基準:確定してから計上する

日本基準の考え方はシンプルです。「まだ払うかどうか決まっていないものは、確定するまで帳簿に載せない」という発想です(企業結合会計基準第27項第1号)。

具体的には、クロージング時点では初期対価だけを取得原価として計上し、のれんを算出します。その後、業績目標の達成・未達が判明した時点で、追加対価が確定すればのれんに上乗せし、改めて償却計算を行います。

のれんは最長20年で規則的に償却されるため、追加計上された分はその残存期間にわたって少しずつ費用化されます。会計処理が「買収時」と「アーンアウト確定時」の二段階になることが特徴です。

国際財務報告基準:見積もって先に計上する

国際財務報告基準の考え方は日本基準と対照的です。「将来払う可能性があるなら、今の時点で見積もって先に計上する」という発想です(IFRS第3号第39項)。

具体的には、買収日の時点でアーンアウト対価の見込み額(達成確率を加味した期待値)を算出し、それを負債として計上した上でのれんを確定させます。

その後、実際の業績が見込みとずれて、業績が予想より良く追加支払額が増えた場合、差額はのれんの修正ではなくその期の「損失」として処理されます。

逆に業績が予想を下回り支払額が減った場合は、差額が「利益」として計上されます。

この点が直感と逆に感じられやすい部分です。業績が好調であるほど費用が発生し、業績が不振であるほど利益が出るという構造になるため、財務諸表の数字だけを見ると実態と逆の印象を与えることがあるかもしれません。

両基準の違いが実務に与える影響

両基準の最大の違いは、のれんが変動するかどうかです。日本基準ではアーンアウトの確定にあわせてのれんが増減しますが、国際財務報告基準ではのれんは買収時に固定され、事後の変動は損益として処理されます。

以上の通り、同じ取引であっても、採用する基準によって各期の利益水準やのれん残高が大きく異なることに注意してください。上場企業や海外投資家への説明においては、この差異が財務分析に影響を与えることもあります。アーンアウト条項付きのM&Aを検討する際には、契約設計と並行して会計アドバイザーとのすり合わせが不可欠です。

税務上の注意点:譲渡所得か給与所得か

アーンアウト対価の会計処理と並んで見落とされがちなのが、売り手(個人株主の場合)にとっての税務リスクです。受け取るお金の性格を税務当局がどう判断するかによって、税負担が大きく変わります。

原則:株式譲渡所得として約20%の課税

アーンアウト対価が「株式を売った代金の一部」と認められる場合、株式譲渡所得として申告分離課税が適用されます。税率は約20.315%(所得税・住民税合計)です。これが売り手にとって最も有利な課税形態です。

リスク:「賞与」と見なされると最大約55%の課税

問題が生じるのは、税務当局がアーンアウト対価を「株の売却代金」ではなく「買収後に働いたことへの報酬(賞与)」と判断した場合です。この場合、給与所得として総合課税の対象となり、他の所得と合算した上で最大約55%(所得税・住民税合計)の税率が適用されます。税負担が最大で約2.7倍になるリスクがあります。

賞与と見なされやすい状況として代表的なものは2つあります。1つは、対価の算定根拠が事業全体の業績ではなく、売り手個人の働きぶり(役職や労働時間など)に基づいている場合です。もう1つは、株式を持っていない従業員にもアーンアウト対価が配分されるなど、株主としての持分比率と対価の配分比率が一致していない場合です。

リスク回避のための設計ポイント

賞与とみなされるリスクを避けるためには、①対価の算定根拠を個人の労務ではなく事業全体の業績指標(売上・EBITDAなど)に明確に紐付けること、②アーンアウトの配分比率を株主持分比率と一致させることが基本的な対策となります。

また、万が一給与所得と認定された場合の追徴課税を売り手と買い手のどちらが負担するかについても、契約に明記しておくことが望まれます。

まとめ

アーンアウト条項は、将来の不確実性を前提とした合理的なリスク配分の仕組みであり、バリュエーション・ギャップを理由に破談の危機にあるM&A案件を合意に導く強力な手法です。

単なる価格交渉のテクニックではなく、売り手と買い手が「対象事業の将来的な成功」という共通目標に向かって経済的なリスクを分担しながら歩む、一種のパートナーシップ契約としての側面も持ちます。

ただし、その設計には高度な専門知識と緻密な条項起案が求められ、設計を誤ればクロージング後の深刻な紛争を招きかねません。M&Aに精通した弁護士や公認会計士が連携して案件ごとの最適解を導き出すことが必要です。

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