事業譲渡とは?メリットやデメリット、株式譲渡や会社分割との違いについて解説

  • 2022年1月20日
  • 2024年8月12日
  • M&A

M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略称であり、企業の合併と買収のことです。

このM&Aの手法の中には、吸収合併や新設合併等の企業の合併と、株式譲渡、新株引受、第三者割当増資、株式交換等の株式取得や事業譲渡や会社分割等の企業や事業の買収とがあります。

今回は、M&Aの手法の中でも事業の全部または一部を譲渡する「事業譲渡」について、その意義や特徴等を詳しく解説していきます。

また、事業譲渡のメリットやデメリット、株式譲渡や会社分割との違い、手続きや流れについても解説します。

目次

事業譲渡とは

事業譲渡とは、代表的なM&Aの手法の一つであり、譲渡会社が事業の一部または全部を譲受会社に譲り渡す行為のことをいいます。

ここでは、事業譲渡の特徴、事業譲渡を行うにあたっての注意すべき点、事業譲渡の種類について見ていきます。

事業譲渡の特徴

事業譲渡の特徴は、会社の事業全部ではなく、特定の事業を取捨選択して譲渡することができることです。

また、資産や負債についても、自由に譲渡することが可能です。

ここでいう事業とは、建物や在庫や社員や顧客等の有形資産だけでなく、知的財産やブランドや顧客リストや契約等の無形資産や、債務等の負債も含みます。

事業譲渡を行う対象事業の権利義務関係は、当事者間で個別に引き継ぐ必要があるのです。

そのため、譲渡会社の従業員との雇用契約も、譲渡会社と従業員の両方の同意が必要になります。

M&Aにおける事業譲渡は、中小企業にとってよく使われる方式です。

なぜなら、中小企業であればあるほど管理が十分行きわたっておらず、潜在債務がある可能性が払拭できないためです。

譲受会社は潜在債務を承継したくないため、事業譲渡が選択されるのです。

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事業譲渡を行うにあたって注意すべき点

事業譲渡を行うには、以下の点について注意が必要です。

  • 事業譲渡の対象事業を一つ一つ個別に手続きを行うため、手続きコストが膨らむ可能性があること
  • 債務の譲渡については、個々の債権者と個別に同意を得て切り替える必要があること
  • 事業譲渡の対象事業が非課税資産でない場合は、消費税が発生すること
  • 事業譲渡による従業員の転籍も、従業員と個別に同意を得る必要があること
  • 事業譲渡は対象事業ごとに個別承継を行う必要があり、合併や会社分割のような包括承継ができないこと
  • 事業譲渡の対象事業に不動産が含まれる場合は登記手続き、自動車や機械装置等は移転登録、債権は債権譲渡手続き、動産は引き渡しがそれぞれ必要となるなど、事業を構成する権利義務ごとに手続きが必要でありかつその手続きが異なること
  • 事業譲渡は、原則として株主総会の特別決議が必要であること
  • 事業譲渡による従業員の転籍の場合に、従業員が拒否をすると事業譲渡できない可能性があること
  • 不動産賃貸契約の事業譲渡の場合に、賃借人が変更になることにより継続して借りられなくなったり、賃料を値上げされたりする可能性があること
  • 同一市町村および隣接市区町村内で一定期間同種の事業を行うことができない競業避止義務が、会社法上で課されていること
  • 社内や社外での混乱や、会社の経営が傾いてしまうことを防ぐために、従業員や取引先に事業譲渡の情報が漏れないようにすること

事業譲渡の方法

事業譲渡には、以下の2つの方法があります。

譲渡会社の事業のすべて譲渡する「全部譲渡」

譲渡会社の事業の一部門を切り離して譲渡する「一部譲渡」

事業譲渡のメリット

M&Aの手法の中で事業譲渡を選択することは、譲渡会社と譲受会社の両社にとって様々なメリットがあります。

ここでは、譲渡会社のメリットと譲受会社のメリットのそれぞれについて見ていきます。

譲渡会社のメリット

M&Aの譲渡会社にとって、事業譲渡を選択することにより様々なメリットが考えられます。

事業譲渡における譲渡会社のメリットを詳細に見てみると、以下のようになります。

特定の事業だけを譲渡することができる

譲渡会社のメリットの一つは、特定の一部の事業を指定して譲渡することが可能であることです。

譲渡会社内で継続したい事業はそのまま残して、譲渡したい事業のみを切り出して譲渡することができます。

譲渡会社が複数の事業を展開している場合などは、メインとなる事業に絞って企業価値を高めたいケースもあるかもしれません。

そのような特定の事業だけを譲渡して得た利益を、会社の資金として他の事業に投資できれば、二重のメリットにもなります。

また、他の事業に投資することにより、事業の根幹がしっかりして、経営の立て直しにもつながるのです。

負債があっても譲渡先を見つけやすい

M&Aの中でも会社全体を譲渡の対象とする株式譲渡では、会社に負債があった場合には負債も合わせて引き継ぐことになるため、譲受会社が嫌がり譲渡が成立しない可能性があります。

しかし、事業譲渡では、譲渡対象とする事業のみを選択して譲渡することができます。

そのため、譲渡会社に負債がある場合であっても、事業譲渡では譲受先が見つかる事業のみを譲渡することができますので、譲渡できる可能性が高くなるのです。

特に、不法行為債務、残業代、労災債務、訴訟債務、製造物責任、粉飾決算、問題社員等の潜在債務は、すべて残して資産だけを譲渡することも可能です。

また、特定の事業を譲渡対象とすることで、その譲渡代金で負債を支払うこともできます。

一部を譲渡することにより会社が存続できる

事業譲渡は会社全体を譲渡するのではなく、特定の事業のみ指定して譲渡するM&A手法のため、会社は存続することができ引き続き経営を行うことができます。

また、特定の事業を譲渡した譲渡代金を投資資金として、同じ法人格で新たな事業を始めることもできます。

他にも、会社は引き続き存続したい希望があるものの、後継者不足等の問題のために事業の縮小が必要になった場合にも、事業譲渡は有効的な方法と言えるのです。

譲受会社のメリット

M&Aの譲受会社にとっても、事業譲渡を選択することにより様々なメリットが考えられます。

事業譲渡における譲受会社のメリットを詳細に見てみると、以下のようになります。

特定の事業だけを譲り受けることができる

事業譲渡は譲り受けたい一定の事業を指定できるM&Aの方式のため、譲受会社にとっては経営戦略に基づいた必要な事業のみを譲り受けることができます。

そのため、利益が見込める事業や、強化したい事業や、研究開発を進めたい事業等に絞って譲り受けることもできますので、効率的な会社や事業の成長が期待できるのです。

また、譲渡会社の従業員に対しても、譲受会社にとって必要な優秀な人材に絞って譲り受けることも可能です。

他にも、事業譲渡は会社全体を譲受するのではなく、特定の事業の一部のみの譲受のため、デューディリジェンスの負担が少なくて済むこともメリットの一つです。

負債や不要な資産は譲り受けなくてよいこと

株式譲渡では会社全体を譲り受けるため、譲渡会社に負債や不要な資産があった場合でも、すべてを引き継がなければねりません。

しかし、事業譲渡の場合は、特定の事業の一部のみ譲り受ければよいため、負債や不要な資産は引き継ぐ必要はありません。

そのため、譲受会社では、自社にとって必要な将来性のある事業のみを選択して譲り受け、自社にとって不必要な負債や資産は譲り受けなければよいのです。

特に、不法行為債務、残業代、労災債務、訴訟債務、製造物責任、粉飾決算、問題社員等の潜在債務だけを、譲り受けないようにもできます。

償却資産やのれん代を償却することで節税ができること

事業譲渡では、のれん相当額(営業権)や償却資産を譲受会社の損金として計上することができます。

また、これらの損金として計上した金額については、非課税となるため節税することができるのです。

事業譲渡におけるのれんとは、会社を譲受する際に支払われる取得原価と譲渡会社の時価純資産価額の差額のことをいいます。

資産として計上されたのれんは、効果が及んでいる期間を算出し、最大20年以内で定額法を用いて減価償却をします。

簿外債務等のリスクを最小化することができること

事業譲渡は一定の資産や負債等の事業のみを譲受する方式のため、譲渡会社が潜在債務を保有していたとしても引き継ぎリスクを最小化することができます。

事業譲渡のデメリット

M&Aの手法の中で事業譲渡を選択することは、譲渡会社と譲受会社の両社にとって、メリットだけでなく様々なデメリットもあります。

ここでは、譲渡会社のデメリットと譲受会社のデメリットのそれぞれについて見ていきます。

譲渡会社のデメリット

M&Aの譲渡会社にとって、事業譲渡を選択することにより様々なデメリットが考えられます。

事業譲渡における譲渡会社のデメリットを詳細に見てみると、以下のようになります。

債権者や従業員の同意が必要

譲渡会社と譲受会社の事業譲渡が合意に至ったとしても、手続きを進めるためには経営者だけではできません。

債務や従業員も承継するためには、債権者や従業員と個別の同意を得る必要があります。

但し、債務や従業員を承継しない場合には、その債務の債権者や従業員の同意は必要ありません。

従業員を事業譲渡する場合は、一人一人の従業員の同意が必要になりますので、場合によっては手続きに時間がかかってしまいます。

また、債権者や従業員の合意ができない場合は、事業譲渡の契約が行えなくなる可能性もあります。

株式譲渡に比べて時間がかかる

事業譲渡は、債務や従業員や取引先等の譲渡するすべての事業に対して一つ一つ同意を得る必要があります。

そのため、譲渡する事業が多ければ多いほど、手間と時間とコストがかかるのです。

一方、株式譲渡は会社全体を譲渡するM&A方式のため、比較的手間や時間やコストがかからないことが特徴です。

手続きが複雑

事業譲渡は、譲渡するすべての事業に対して一つ一つ個別に手続きを行わなければなりません。

事業譲渡を行うためには、様々な事業に対しての手続きが必要なため、手続きが複雑になります。

例えば、不動産の登記手続き、自動車や機械装置等の移転登録、債権譲渡手続き等の手続きが必要です。

また、従業員には一人一人に承諾を得る必要があります。

譲渡会社が多くの事業を抱えていて、多くの事業を譲渡する場合は、その分手続きが増えますので負担も大きくなるのです。

事業譲渡後は同一市町村区域内で同一事業ができない

会社法21条では、事業譲渡を行った後の20年間は、譲渡会社は同一の市町村や隣接する市町村の区域内において、譲渡した事業と同一の事業を行うことができないと規定されています。

そのため、事業譲渡を行う場合には、同一の市町村、隣接する市町村で今後同一の事業を行うことがないかどうかを慎重に検討する必要があります。

事業譲渡益に法人税がかかる

事業譲渡により譲渡会社が譲渡代金を受け取ると、事業譲渡益に対して法人税や住民税等の税金が課せられます。

株式譲渡益課税が20%程度なのに対して、法人税となると33%程度の税金が課せられるのです。

但し、譲渡会社に繰越欠損金が多くある場合や、事業譲渡による創業者や取締役等の退職金を損金として計上できる可能性があります。

そのため、事業譲渡を行って譲渡代金を受け取った方が、譲渡全体の税負担が軽くなることもあるのです。

一方、株式譲渡によるM&Aの場合は、譲渡会社の株主が、譲受会社に株式を譲渡して得た株式譲渡益に対して課税されることになります。

株主が個人の場合は、譲渡所得に所得税が課されることになります。

契約移転の承認が得られない場合は手間と時間がかかる

事業譲渡を行うためには契約移転の承認を得る必要がありますが、承認を得る作業に手間と時間がかかるという点もデメリットになります。

但し、その契約だけ除いて譲渡することもできますし、一旦譲受会社が譲渡会社から下請けすることで、継続的に契約移転の交渉をすることで事業譲渡が可能になります。

譲受会社のデメリット

M&Aの譲受会社にとっても、事業譲渡を選択することにより様々なデメリットが考えられます。

事業譲渡における譲受会社のデメリットを詳細に見てみると、以下のようになります。

株式譲渡に比べて時間がかかる

株式譲渡は譲渡会社全ての株式を譲渡することで会社の経営を承継させるという手続きのため、比較的分かりやすい手続きで、手間と時間がかからなく済みます。

一方、事業譲渡は、個別財産の所有権や事業に紐づく契約先全てと新たに契約を結ぶ必要がありますので、手間と時間がかかります。

手続きが複雑

事業譲渡を行った後に、資産や負債の名義変更、移転登記、各種契約の再契約、許認可の再取得、売上債権や売上債務の処理等を行う必要があり、複雑且つ煩雑な手続きが多いです。

譲渡代金に消費税かかかる

譲受会社が事業譲渡による事業を譲り受けて譲渡代金を支払う際に、消費税がかかります。

但し、消費税がかかるのは、土地を除く有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、のれん代等の課税対象資産になります。

一方、土地、有価証券、債権等の非課税対象資産には、消費税はかかりません。

従業員との再契約が必要になる

譲渡会社の従業員との契約は、事業譲渡後改めて再契約が必要になります。

そのため、譲受会社との再契約を選ばずに、離職を選択する従業員もいる可能性があります。

譲渡会社の事業の主力だった従業員が、離職を選ぶケースも考えられますので、事前に従業員との交渉を進めておく必要があるのです。

再契約以外の契約方法では、三社合意で従来の雇用契約をそのまま承継させることも可能です。

再契約の場合は、契約条件を変更することもできますが、承継の場合は契約条件は変わりません。

従業員以外の取引先についても、三社合意で従来の契約をそのまま承継させることができます。

事業譲渡と株式譲渡

事業譲渡以外のM&Aの代表的な手法の一つとして、株式譲渡があります。

事業譲渡と株式譲渡には、それぞれ異なった特徴があり、メリットもデメリットもあります。

また、譲渡会社や譲受会社の状況によっても、事業譲渡と株式譲渡のどちらを選択した方がよいかが変わってきます。

ここでは、事業譲渡と株式譲渡との比較や、状況ごとにどちらを選択した方がよいのかを考えていきます。

株式譲渡とは?

株式譲渡とは、譲渡会社の株主が保有する株式を、譲受会社に譲り渡すことにより会社の経営を承継させる方法です。

株式を譲渡する対価として、譲渡会社の株主は譲渡代金を得ることになります。

株式譲渡は、M&Aを行う中小企業の多くが利用する手法です。

事業譲渡と株式譲渡との違い

ここでは、M&Aの方式である事業譲渡と株式譲渡の違いについて見ていきます。

権利、義務、契約上の地位の移転

事業譲渡では、権利や義務や契約上の地位の移転については、個別承継になります。

そのため、譲渡会社から譲受会社に移転する権利、義務、契約上の地位ごとに同意が必要です。

一方、株式譲渡では、権利や義務や契約上の地位の移転は株式の移転による包括承継になります。

事業ごとではなく、会社全体が譲受会社に移転する形です。

手続きに関する手間

事業譲渡は、譲渡される事業の全ての契約先から同意を得る必要があるため、契約が多ければ多いほど手続きの手間がかかります。

一方、株式譲渡では、株式の移転が基本的な手続きのため、比較的簡易で済みます。

そのため、手続きが迅速で簡易な株式譲渡が選択されることが多く、会社全体の譲渡が不可などの株式譲渡が困難な場合に、事業譲渡が選択されることが多いです。

労働契約に関する取扱い

従業員に対する雇用契約について、事業譲渡の場合は承継されません。

移転後も引き続き雇用する場合は、個別に新たに雇用契約を結ぶ必要があります。

一方、株式譲渡では、特に手続き不要で雇用契約が引き継がれます。

機関決定の違い

事業譲渡を行う場合、譲渡会社は原則株主総会の特別決議による承認手続きが必要になります。

但し、例外として、譲渡する資産の帳簿価額が自社の総資産の1/5を超えない場合や、譲受会社が自社の特別支配会社である場合は、株主総会の特別決議による承認が必要ありません。

事業譲渡の譲受会社は、株主総会の特別決議は原則として不要です。

但し、譲渡会社の全事業の譲渡等、株主総会の特別決議が必要な場合もあります。

株式譲渡の譲渡会社は、株主総会の特別決議は原則として不要です。

但し、親会社が重要な子会社の株式の過半数以上を譲渡する場合は、株主総会の特別決議が必要です。

株式譲渡の譲受会社は、株主総会決議は不要で、一般的には取締役会決議などを実施するケースが多いです。

譲渡会社の株主等への対応

事業譲渡の場合、譲受会社から譲渡代金を受け取ります。

この場合に譲渡代金を受けとるのは譲渡会社であり、株主は譲渡代金を直接受け取ることはできません。

一方、株式譲渡の場合は株式が譲渡されるため、株主が株式の譲渡代金を受け取ることになります。

事業譲渡を行った方が良いケース

譲渡会社と譲受会社の状況により、事業譲渡と株式譲渡のどちらを行った方がよいかが決まってきます。

ここでは、事業譲渡を行った方が良いケースについて見ていきます。

譲渡会社が経営破綻をしていたり、負債が多い場合

譲渡会社が経営破綻の状態や負債が多い場合は、株式譲渡による会社全体の譲渡は難しくなります。

なぜなら、譲受会社が譲渡会社の債務を引き継がなければならいからです。

そのため、経営破綻の状態や負債が多い会社の譲渡は、事業譲渡により利益の見込める事業のみの譲渡が現実的です。

必要な事業のみ継続して行いたい場合

譲渡会社の経営戦略や後継者問題解決のために、事業の一部を手放して必要な事業のみ継続して行いたい場合は事業譲渡がよいでしょう。

また、譲渡会社が複数の事業を持っていてメイン事業と関連のない事業を手放したいと考えている場合も、事業譲渡により経営環境がよくなる場合もあります。

事業譲渡により必要な事業以外を譲渡して得られた譲渡代金を、必要な事業への投資や新しい事業を起こすために利用することもできます。

事業譲渡であれば、法人格の継続利用ができるのです。

譲受会社が必要のない資産や債務を引き継ぎたくない場合

事業譲渡であれば譲受会社は特定の事業を選択して買収することができますので、必要のない資産や債務を引き継ぐリスクを減らすことができます。

譲受会社の買収する資金が少ない場合

譲受会社に譲渡会社全体をM&Aにより買収する資金が十分でない場合や、できるだけM&Aによる買収資金を抑えて特定の事業のみを買収したい場合には、事業譲渡の利用が最善方法です。

株式譲渡を行った方が良いケース

ここでは、株式譲渡を行った方が良いケースについて見ていきます。

ファンドによる買収

譲受会社がPE( プライベート・エクイティ)等のファンドである場合は、M&Aにより買収した譲渡会社を成長させてから譲渡して利益を得ることが目的となります。

そのため、株式譲渡により会社全体を保った形での買収が、最善の方法です。

譲渡会社の従業員数が多い場合

従業員数が多い譲渡会社と事業譲渡を行った場合、譲受会社と譲渡会社の全ての社員との間で新しい労働契約が結ぶ必要があります。

そのため、事業譲渡では、従業員が多ければ多いほど手間がかかります。

一方、株式譲渡では、会社全体を移行する方式のため、譲渡会社の社員との間の新しい労働契約は必要ありません。

事業譲渡と会社分割

事業譲渡、株式譲渡の他にもM&Aの代表的な手法の一つとして、会社分割があります。

事業譲渡と会社分割には、それぞれ異なった特徴があり、メリットもデメリットもあります。

ここでは、会社分割とはどういうものなのかや、事業譲渡と株式譲渡との違いについて考えていきます。

会社分割とは?

会社分割とは、譲渡会社が譲渡の対象となる事業に関する全部または一部を分割して、譲受会社に譲り渡すM&Aの方式です。

会社分割には、他の会社に吸収させる「吸収分割」と、新設した新しい会社に承継させる「新設分割」の2種類があります。

会社分割では、譲渡する事業を個別にではなく、丸ごと譲渡することが特徴です。

手続きが簡素で法人格を譲渡できるという株式譲渡のメリットと、必要な事業のみを選択できるという事業譲渡のメリットの両方を兼ね備えたM&A手法になります。

事業譲渡と会社分割との違い

ここでは、M&Aの方式である事業譲渡と会社分割の違いについて見ていきます。

権利、義務、契約上の地位の移転

事業譲渡も会社分割も事業の一部を譲渡する点は同様ですが、事業譲渡の権利や義務や契約上の地位の移転については個別承継になります。

そのため、建物、在庫、社員、顧客等一つ一つの事業ごとに同意が必要です。

一方、会社分割では、権利や義務や契約上の地位の移転は、譲渡する事業を丸ごと譲渡する包括承継になります。

手続きに関する手間

事業譲渡は、譲渡される事業の全ての契約先に対して同意を得る必要がありますので、比較的手間がかかります。

一方、会社分割は契約も全て引き継ぐことができる包括承継となるため、個別の同意は不要です。

雇用契約に関する取扱い

事業譲渡の場合は、従業員に対する雇用契約は承継されません。

そのため、引き続き雇用する場合は、新たな雇用契約を個別に結ぶ必要があります。

一方、会社分割は、個別の同意なく雇用契約が承継されます。ただ、労働契約承継法に基づき従業員が異議を出すことができるなど従業員の保護制度が規定されています。

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事業譲渡の流れ

ここでは、事業譲渡によるM&Aを行うための流れを見ていきます。

ニーズが発生して検討を行う

譲渡会社は、財政難等の理由や、メイン以外の事業をしたいなどのニーズが発生した場合に、事業譲渡の検討を行います。

一方、譲受会社は、事業の規模の拡大や新規事業の参入等のニーズが発生した場合に、事業譲渡の検討を行うことになります。

事業譲渡の準備を行う

事業譲渡の検討を始めたら、譲渡会社、譲受会社ともに、相手先を探す準備を行います。

譲渡側会社の準備

譲渡会社は事業譲渡の相手先をスムーズに探すために、一般的には金融機関、仲介業者、税理士、M&Aプラットフォーム等のM&A仲介者と契約をします。

また、譲渡会社は、譲受先の条件の絞り込み等も行います。

その後で、事業の概要や売上や従業員数や取引先などを纏めて資料を作成し、M&A仲介者を通じて事業譲渡の交渉先を募るのです。

譲受側会社の準備

譲受会社も、相手先を探すために決算書三期分等の準備を行います。

また、相手先となりうる会社のリストを作成して、一社ごとにその可能性を検討していきます。

交渉を開始する

譲渡会社にとっては譲受候補が、譲受会社にとっては譲渡候補が見つかったら、秘密保持契約を結んだ上で基礎情報が開示され、交渉が開始されます。

譲受会社は、開示された基礎情報を分析して、事業譲渡の実現性を検討します。

また、譲渡会社も、候補である譲受会社の基礎情報を確認して事業譲渡の実現性を検討していきます。

経営者同士の面談を行う

譲渡会社と譲受会社双方の交渉が進んで事業譲渡の実現性が高まった場合、経営者同士のトップ面談が行われます。

ここでお互いの協力関係を築くことができれば、さらに事業譲渡の実現性が高まるのです。

基本合意書の締結を行う

経営者同士の面談が終わったら、実際に事業譲渡によるM&Aを進めていくという基本合意の締結を書面で行います。

基本合意書の締結後は、独占的交渉権の付与や買収監査の実施等のスケジュールを明確化していきます。

買収監査(デュー・ディリジェンス)を行う

買収監査では、譲渡会社が譲渡する対象事業に対する実態調査が行われます。

買収監査を行うことにより、基礎情報だけではわからない実態を把握することができることと、事業の正しい価値を算定することができます。

取締役会による決議を行う

事業譲渡は取締の業務運営に関する基本的事項のため、譲渡会社側では事業譲渡に関わる取締役会による決議が必要です。

この決議が終了した場合、事業譲渡日程表や事業譲渡覚書等を作成して、代表取締役が株主総会の承認を得ることを条件として、事業譲渡契約の締結になります。

事業譲渡契約の締結を行う

事業譲渡契約書には、会社法上の記載事項に関する取り決めはありません。

一般的には、譲渡の内容、対価、支払い方法、譲渡日、従業員の引き継ぎ等が記載されます。

株主総会を行う

株主総会の特別決議は、譲渡会社、譲受会社それぞれで以下の場合に必要とされます。

事業の全部の譲渡の場合、または事業の重要な一部であり譲渡対象資産が譲渡会社の総資産の5分の1超の場合は、譲渡日の前日までに株主総会の特別決議が必要になります。

譲り受ける事業が譲渡会社の事業の全部である場合で、交付する財産が譲受会社の純資産の5分の1超である場合は、株主総会の特別決議が必要になります。

株主へ事業譲渡の通知を行う

事業譲渡の効力発生日の20日前までに、株主への通知もしくは公告を行わなければなりません。

反対株主が株式買取請求手続を行う

事業譲渡の効力発生日の20日前から前日までに反対の意思を表明した株主等は、譲渡会社または譲受会社に対して公正な価格で株式の買取りを請求することができます。

効力が発生する

事業譲渡契約は、事業譲渡契約書に明記された全ての手続きが完了するか、所定の期間経過後に効力が発生します。

事業譲渡の手続き

ここでは、事業譲渡に必要な手続きについて見ていきます。

臨時報告書の提出を行う

事業譲渡契約が締結された場合、金融商品取引法の要件に該当する有価証券報告書の提出義務がある会社は、臨時報告書を内閣総理大臣に提出する必要があります。

株主総会で承認される

取締役会で株主総会の招集、日程等を決議して、株主総会で事業譲渡契約書の承認を受けます。

公正取引委員会への届け出を行う

株主総会で事業譲渡が承認された場合、事業譲渡手続きは完了します。

但し、独占禁止法の要件を満たす国内売上高合計額が200億円を超えるような譲受会社は、公正取引委員会への事業譲渡届出書を提出する必要があります。

事業譲渡にかかる費用

事業譲渡にかかる費用は、主に事業譲渡金額と税金です。

ここでは、事業譲渡にかかる事業譲渡金額と税金について見ていきます。

事業譲渡金額の算出

事業譲渡金額は、事業時価純資産+営業権(のれん代)で算出することができます。

営業権は、一般的に事業譲渡後の2~5年の期間に期待できる収益として算出されます。

事業譲渡にかかる税金

事業譲渡を行った場合、譲渡会社と譲受会社の双方に税金が発生します。

事業譲渡には優遇税制がありませんので、税負担が大きくなる可能性も考えられます。

譲渡会社にかかる税金

事業譲渡により譲渡する課税資産に対して、10%の消費税がかかります。

譲渡資産には課税資産と非課税資産があり、課税資産に消費税がかかります。

また、譲渡した事業の譲渡価格から譲渡資産の簿価を引いた譲渡益に、33%程度の法人税がかかります。

譲受会社にかかる税金

事業譲渡により譲り受けた事業の中に不動産がある場合は、不動産の評価額に対して4%の不動産所得税がかかります。

また、不動産の登記書き換えの際に、譲り受けた不動産の固定資産税評価額に登録免許税2%がかかります。

事業譲渡を行う際のポイント、注意点

ここでは、M&Aにおける事業譲渡を行う際のポイントや注意点について見ていきます。

商号の継続利用

M&Aによる事業譲渡後に、譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合は、譲受会社は譲渡会社の債務の弁済義務を負わなければならないとされています。

一方、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して弁済の請求をすることができるとされています。

但し、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用されません。

個別財産の所有権や契約上の地位の移転手続

事業譲渡は、株式譲渡や会社分割のような包括承継ではないため、個別に個別財産の所有権の移転手続および契約上の地位の移転手続が必要です。

個別財産の所有権や契約上の地位の移転手続が必要になるのは、以下の事業等になります。

  • 売掛金
  • 受取手形
  • 動産
  • 不動産
  • 買掛金
  • 支払手形
  • 契約上の地位
  • 知的財産権
  • 従業員

譲渡会社の注意点

M&Aによる事業譲渡を行った譲渡会社は、譲渡の対価と譲渡対象の簿価純資産の差額から譲渡損益が計上されます。

計上された譲渡損益は、その他所得と合算されて法人税課税の対象です。

譲受会社の注意点

M&Aによる事業譲渡を行った譲受会社は、譲渡された資産および負債について、個別に時価で受け入れる必要があります。

また、事業譲渡の対価と事業に係る時価純資産の差額を、資産調整勘定または差額負債調整勘定として計上し、5年で均等償却します。

事業譲渡の成功事例

2021年に帝人ファーマ株式会社が、事業譲渡により、武田薬品工業株式会社の2型糖尿病治療薬4製品の販売事業を1,330億円で取得しています。

武田薬品工業は、製薬ポートフォリオを多く保有していて、新しい薬品を作ると特許のある期間で売上を大きく稼ぎ出します。

このように、譲渡会社と譲受会社の意向が一致する場合には、事業譲渡が成功する可能性は高くなるのです。

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事業譲渡の失敗事例

事業譲渡が失敗する例として、譲渡事業に関わる従業員が継続雇用を希望しない場合等があります。

事業譲渡では譲渡会社の従業員と新たに契約する必要がありますので、中心的な役割りを果たしていた従業員が契約を拒否した場合は、事業譲渡が失敗してしまう可能性があるのです。

まとめ

このように、M&Aによる事業譲渡には、様々なメリットもデメリットもあります。

譲渡会社と譲受会社の両社にとって、事業譲渡を行うかどうかを判断することはとても難しいことです。

M&Aによる事業譲渡を考えている場合、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。

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