M&Aのリスクとは?買い手企業と売り手企業のリスクを詳しく解説

M&Aを実施して満足な結果を得られる確率は、7割弱といわれています。

反対から見れば、3割程度は期待した結果を実現できていません。

M&Aの成立に至らなかった場合を含めれば、失敗に終わる確率はさらに高くなります。

M&Aが失敗する原因の多くは、リスクを認識していないことに起因します。

そこで、この記事では、M&Aにはどのようなリスクがあるか詳しく解説していきます。

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目次

M&Aのリスクとは

M&Aを成功させるためには、リスクを認識して適切に対処することが欠かせません。

リスクとは、M&Aを失敗させる様々な原因です。

リスクには、M&A自体の成否に関わるものもあれば、実施後の経営に大きく影響するものもあります。

M&Aには必ずリスクがありますので、リスクについて理解を深めておくことが求められています。

M&Aの一般的リスク

M&Aのリスクには、買い手側または売り手側に特有のリスクの他に、双方が共通して念頭に置いておくべき一般的なリスクがあります。

ここでは、M&Aの一般的なリスクについて解説します。

手段の目的化

M&Aは、経営戦略を実現したり、円滑な事業承継を可能にしたりするための手段の一つです。

しかし、M&Aは多大な労力を必要とするプロセスですので、M&Aをすることのみで満足してしまい、目的化してしまう危険性があります。

M&Aによる影響や、その後にすべきことを想定して行動していないと、事後に困難に直面して失敗するおそれが生じます。

例えば、M&Aにより目指していたものと得られたものが異なっていたり、目的実現のためのコストが想定外に大きかったりするリスクがあります。

M&Aという手段が目的化しないようにするためには、まず目的を明確にし、目的を達成するためには何が必要となるのか、入念に検討しておく必要があります。

情報漏洩の危険

情報漏洩は、売却価格の低下や破談などにつながるリスクです。

情報漏洩は、会議室に資料を放置していたり、M&Aに関する会話を周囲に聞かれたりすることのような、情報管理の不徹底により生じます。

情報漏洩の影響は、対外的・対内的の両方で考える必要があります。

対外的には、売り手企業が金融機関にM&Aの計画を知られれば、融資を得るのが難しくなる結果、資金繰りが悪化する危険があります。

また、取引先に知られてしまえば、売却を考えている会社ということで、取引を減らされたり、打ち切られたりする可能性が生じます。

情報漏洩は、対内的にもリスクがあります。

M&Aの売り手側は、従業員に対して適切な時期に経営者から説明することが必要になりますが、その前に売却の事実だけを知られてしまうと、M&A後の将来への不安やモチベーションの喪失から、退職により人材を失う危険があります。

そうなると、買い手側から、必要な人材を欠くとして買取価格を下げられたり、M&Aが成立しなくなったりするおそれも生じます。

さらに、情報漏洩は、双方にとって損害賠償リスクにもつながります。

情報漏洩リスクに対処するためには、情報管理の徹底と、秘密保持契約の締結が重要です。

不適切な価格設定

M&Aの価格設定の考え方は、主として、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチの3種類があります。

マーケット・アプローチは、市場で成立している価格を基礎にします。

インカム・アプローチは、譲渡会社が将来生み出す収益に着目する考え方です。

コスト・アプローチは、現在の譲渡会社の企業価値をもとにするものです。

さらに、これらの3種類のアプローチが、類似会社比準法やDCF法、簿価純資産法などの細かい計算方法に分かれています。

これらの専門的な計算方法のメリット・デメリットを踏まえたうえで、最適な手法を選択してM&Aの価格を算出することになります。

このような詳細な評価プロセスを経ずに、思い込みなどで根拠なく価格を決めてしまうと、低すぎる価格により交渉が成立しなかったり、逆に高すぎる価格により損失を被ったりするリスクが大きくなります。

不適切な価格設定のリスクに対処するには、公認会計士などの企業価値を評価できる専門家に相談することが必要になります。

買い手企業におけるM&Aのリスク

M&Aを行う際に、買い手企業には様々なリスクがあります。

簿外負債・偶発債務のリスク

簿外債務とは、貸借対照表に記載がない債務のことです。

例えば、未払いの残業代や社会保険料、計上漏れしている買掛金などがあります。

偶発債務とは、現状では債務として存在していないけれども、将来的に一定の事由が生じることを条件として、偶発的に発生する債務を意味します。

具体的には、損害賠償債務、連帯保証などがあります。

偶発債務も、簿外債務の一種といえます。

簿外債務や偶発債務は、M&A後に発覚した場合に、買い手企業が負担せざるを得なくなるおそれがあります。

また、見落としてしまうと、高すぎる買収金額を設定してしまうことにもなり得ます。

そのため、デュー・デリジェンスを行い簿外債務や偶発債務の存在を明らかにすることと、簿外債務・偶発債務が存在しないことを契約書の表明保証条項で確約させることが重要となります。

税務リスク

譲渡側企業が脱税を行っているリスクがあります。

単純な経理上のミスなどにより延滞税や減少申告加算税が課される場合だけではなく、架空の経費を計上したり売上の一部を隠蔽したりするような悪質な場合には、重加算税が課せられることがあります。

重加算税の税率は35%と非常に高く、大きな負担になります。

また、一度重加算税が課せられると、税務調査が頻繁に行われるようにもなります。

さらに、金融機関に認識されれば融資を受けるのが困難になり、資金調達にも大きな悪影響を及ぼします。

税務上のリスクについては、財務デュー・デリジェンスを行い、発見されたリスクを買取価格や表明保証に反映させるなどの対処が必要になります。

粉飾決算が行われているリスク

売り手の企業が粉飾決算を行っていると、本来よりも高くなった企業価値にもとづいて評価してしまうリスクがあります。

また、粉飾決算によって過大に納付した税金は、修正申告をしても還付が制限されるため、税負担が大きくなるおそれも存在します。

M&A後の粉飾決算発覚により企業イメージが傷つけられ、業績に影響する危険もあります。

粉飾決算がある場合に、買い手企業は売り手に対して責任を追求することができるのでしょうか。

この点について、判例には、買い手企業の責任で詳しく調査すべきであり、売り手側に積極的に情報を開示する義務はないとするものがあります。

つまり、買い手側が徹底的なデュー・デリジェンスを行ってはじめて責任を問い得るという考え方です。

粉飾決算のリスクに備えるためには、デュー・デリジェンスを尽くすことが重要になります。

資産の実在性に関するリスク

M&Aの実施について判断する際に、譲渡側企業の資産は重要な判断材料になります。

しかし、貸借対照表に計上された資産が、現実には存在していなかったり、計上された金額の実現が困難であったりする場合があります。

例えば、現金額や預金額が帳簿に合致していない場合や、すでに除却された資産が帳簿上に反映されていない場合などは、資産の実在性に疑いが生じています。

また、売掛金が不良債権化している場合なども、帳簿に計上された金額の実現が困難なため、資産の実在性が問題になります。

資産の実在性を確認するには、財務デュー・デリジェンスを行う他に、監査人が資産の現物を直接確かめる実査も有効です。

資産の実在性は、前提としていた資産額と実態が異なるというトラブルにつながるため、よく確かめる必要があります。

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評価損のリスク

評価損がある場合にも、会計帳簿上の額と実際の価値に相違が生じます。

例えば、商品が売れ残って長期間滞留している場合は、季節の経過や流行の終了などにより、販売価格が大きく下がることがあります。

また、有価証券が含み損を抱えている場合もあります。

評価損がある場合も、資産の実在性に疑いがある場合と同様に、実際の資産額が想定外に低くなるリスクがあるため、デュー・デリジェンスを行って明らかにする必要があります。

資金不足によるリスク

M&Aには多額の費用がかかります。

買収費用の他に、専門家報酬、納税費用などが必要となりますが、資金が不足していればM&Aを実行することができなくなります。

また、M&Aに多大な資金をつぎ込んだ結果、事業にあてる資金が不足するというリスクもあります。

一般に、自社の資金のみでM&A費用を支払うのは困難な場合が多いといえます。

そのため、外部からの資金調達を行うのが通例となっています。

資金調達には、主に増資と融資があります。

増資の中にも、株主割当増資、公募増資、第三者割当増資と、それぞれにメリット・デメリットが異なる手法が存在します。

融資は、主に金融機関から借り入れを行うことになります。

資金不足のリスクに備えるためには、日頃から信頼性の高い経営を行うとともに、金融機関と良好な関係を築くようにすることが重要です。

また、M&Aの実施にあたっては、最適な資金調達手法を専門家に相談することも効果的です。

株主の真正性に関するリスク

株式譲渡でM&Aをするためには、真正な株主から株式を取得する必要があります。

しかし、株主名簿上の株主であっても真正な株主ではないことがあります。

例えば、株券発行会社で株券の交付がなかった場合です。

株券発行会社では、株式を譲渡するために株券を交付することが必要です。

ところが、株券を交付していなかったり、そもそも株券が発行されていなかったりする場合は、株主名簿に譲受人の名が記載されていても、その者は株主になることができません。

歴代の株式取得者のいずれかが適法に株式を取得できていなければ、その後に取得した者も真正な株主になることができない危険があります。

M&Aにあたっては、真正な株主か確認するために、法務デュー・デリジェンスを尽くすことが求められます。

違法行為や不正行為のリスク

売り手の企業が、法令違反や不正行為を行っているリスクがあります。

例えば、贈収賄に関与している、談合を行っている、他社の知的財産権を侵害している、といった場合です。

また、品質偽装や、検査結果の改ざんなどの不正を行っている危険もあります。

これらが発覚すれば、M&A前に見込んでいた企業価値やブランド価値が大きく損なわれることになるだけでなく、巨額の賠償責任を負うリスクに発展する可能性もあります。

さらに、株主総会決議などの会社法上で必要となる手続きに違反していれば、M&A自体が無効になる危険もあります。

買い手側は、デュー・デリジェンスにより、違法行為や不正が存在しないか十分に調査する必要があります。

取引が打ち切られるリスク

M&Aをきっかけとして取引が打ち切られることがあります。

重要な取引先を失えば、M&Aは失敗に終わる確率が高くなります。

例えば、オーナーが築いていた取引先との個人的な信頼関係が失われる、担当者や契約条件の変更が取引先に悪印象を与える、といった原因で取引が打ち切られる危険があります。

特に、売り手企業の契約にチェンジオブコントロール(COC)条項がある場合、会社の支配権が移動すると契約を解除することが可能になるのでリスクが大きくなります。

取引先を失わないようにするために、M&A後にも取引を継続できるように契約書で誓約させる、クロージングの条件として取引を継続できることを求めるなどの対策が必要になります。

許認可を継承できないリスク

売り手企業が許認可を必要とする事業を営んでいる場合があります。

M&A後に許認可を継承できなければ、新規に取得するために時間と労力がかかります。

その間は許認可が必要な事業をすることができないことになり、損失となるおそれがあります。

許認可に関するリスクについては、法務デュー・デリジェンスにより、売り手側がどのような許認可を保有しているか、M&A後に継承できるか、どのような手続きが必要となるか、といった点を調査する必要があります。

PMIが失敗するリスク

M&Aが成功しても、それで終わりではありません。

経営方針や組織構造、人事労務の制度、業務内容、企業風土などの、様々な違いを持った企業が一つになって機能していくためには、統合のプロセスが重要となります。

もし統合に失敗すれば、M&Aに期待したシナジー効果の発揮ができなくなるリスクがあります。

M&Aの後に統合を行うプロセスをPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼びます。

このPMIは、M&Aの効果を発現させるための重要な過程です。

PMIが失敗するリスクを避けるためには、できるだけ早い段階から余裕を持って計画の作成に取り掛かることが重要です。

また、PMIの経験がある人材を集め、場合によっては外部の専門家を依頼することも必要になります。

労務トラブルが顕在化するリスク

買収した会社が、残業代を支払っていなかったり、社会保険に加入していなかったりすることがあります。

このような労務に関するトラブルが、M&A後に表面化するリスクには注意が必要です。

未払い残業代や社会保険の未加入などを考慮せずにM&Aを行えば、トラブルが発覚することで企業のイメージを損なうだけでなく、労働基準監督官から是正勧告を受ける可能性もあります。

また、潜在的にトラブルを抱えた従業員は十分な活躍を期待できなくなるという点で、M&Aの効果を阻害する要因にもなりかねません。

さらに、未払い残業代等は、簿外債務として財務面で会社経営に予期しない悪影響となるおそれがあります。

このようなリスクを避けるためには、労務トラブルの存在をデュー・デリジェンスの段階で十分に調査することが必要です。

虚偽の情報開示が行われるリスク

売り手側の企業が虚偽の情報を開示したり、不利益な事実を隠したりするリスクがあります。

虚偽の情報や不十分な情報にもとづいてM&Aを進めてしまうと、適正な買取価格を設定することができなかったり、M&A後に不測の損害が生じたりするおそれがあるだけではなく、最悪の場合は破綻状態にある企業を取得してしまう危険もあります。

裁判になった例では、売り手企業は、虚偽の事実をことさら告げた場合に責任を負うことは別として、不利益な事実を積極的に開示する義務まではないとするものがあります。

買い手側の企業は、デュー・デリジェンスの徹底により、虚偽情報や情報不足から生じるリスクを低減することが重要です。

不利益な契約が存在するリスク

譲渡側の企業が、不利益になる可能性のある契約を結んでいることがあります。

例えば、特殊な商慣習により、納期に間に合わなかった場合には代金の数倍の賠償を求められるといったものです。

このような不利益契約は、会計書類のどこにも記載されていないことから、気づかずに承継してしまうと、想定外の大きな損害につながるリスクがあります。

不利益な契約の存否については、積極的に調査して明らかにすることが重要です。

組織文化の違い等による退職のリスク

M&Aによる目的を達成するためには、優秀な人材の獲得が不可欠です。

しかし、異なる組織文化を持つ組織が一つになり、新たな経営陣を迎え入れることで、売り手企業側の優秀な人材が、組織文化の違いに困惑したり経営陣や買い手企業側から送り込まれた従業員と対立したりして、パフォーマンスの低下や最悪の場合は退職につながるリスクがあります。

このような人材喪失のリスクに備えるためにも、M&A後を見据えたPMIにより、円滑な統合を進めることが重要です。

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売り手企業におけるM&Aのリスク

M&Aの売り手企業にとってもリスクは存在しますので、ここで見ていきましょう。

損害賠償リスク

M&A後のトラブルから、損害賠償が必要になるリスクがあります。

例えば、伝えなかった簿外債務や偶発債務が事後に明らかになった場合などです。

このような場面では、責任の所在をめぐって買い手企業と紛争になることもありますし、最悪の場合はM&Aで売却することによって得られた利益以上の賠償義務を負うおそれもあります。

売り手企業側としては、簿外債務の有無や損害賠償に発展しそうなトラブルの有無を明らかにし、買い手側に明確に伝えることが求められます。

また、事後に損害賠償請求をされるリスクを低減するために、表明保証保険に加入することも有効です。

顧客喪失のリスク

M&Aは、特に譲渡側企業の顧客に不安を与える傾向があります。

M&Aが行われると、従来のサービスや保証が維持されるのか、不利な条件変更があるのではないかなど、既存の顧客は強い不安を覚えることになります。

M&Aに大部分のエネルギーを奪われて顧客への配慮が疎かになると、商品やサービスの品質を維持することができなくなり、顧客離れにつながるリスクが大きくなります。

また、買い手側の企業を良く思わなかったり、売り手側企業の経営状態に疑念を抱かれたりして、顧客離れが進むおそれも無視できないものです。

競合する他社が、M&Aを顧客争奪の機会と捉えて、攻勢を仕掛けてくるおそれもあります。

顧客喪失の危険に対処するには、既存顧客との信頼関係の維持・構築を重視し、適切な時期にM&Aについて伝え、コミュニケーションを十分に図るようにすることが大切です。

企業文化が破壊されるリスク

M&Aは、それまで別個に存在していた企業を一つに結びつけるものです。

そのため、異なる企業文化を持った売り手企業に対して、買い手側の経営方針やシステムを強制すると、長年育まれてきた企業文化が破壊される危険が生じます。

そうなると、従業員が本来の力を発揮できなくなったり、退職により人材を失ったりすることにもなりかねません。

M&Aの後に無理なく統合を進めるために、PMI計画を立てて、着実に実行する必要があります。

従業員のモチベーションが低下するリスク

M&Aは従業員にも大きな影響を与えます。

統合がうまくいかなければ、売り手側の従業員と買い手側の従業員で対立が生じる、新しい経営陣と従業員で対立してしまう、新たな制度に反発が生じる、などにより従業員のモチベーションが下がる危険性があります。

従業員のモチベーションが下がってしまうと、業務の改善に取り組もうとしなくなり、従来の非効率な業務の進め方に拘泥するようになったり、実力のある従業員が退職してしまったりするリスクにつながります。

従業員のモチベーションを下げないようにするには、無理に統合を進めようとするのではなく、時間をかけて丁寧に統合することが求められます。

また、待遇の改善や適切な人事制度の導入を検討する必要もあります。

M&Aの後に対策を考えるのではなく、事前に専門家とともに対策を練ることで、効率的な統合が可能になります。

M&Aを成功させるためのリスクマネジメント

M&Aを成功させるためには、リスクを認識したうえで、それに対処していく必要があります。

ここでは、M&Aのリスクマネジメントのポイントを紹介していきます。

M&Aの目的を明らかにする

M&Aを成功させるためには、まず目的を明らかにする必要があります。

M&Aには、シナジー効果を実現する、経営の規模を大きくし規模の利益を得る、事業の多角化を目指す、進んだ技術やコンテンツを獲得する、などの多様な目的が考えられます。

目的が曖昧なまま取り組めば、目的実現のために最適なM&A案件を見つけ出すことが困難になります。

そうなると、M&Aが失敗に終わるリスクは高くなるといえます。

M&Aに際しては、目的を明確化し、戦略的に取り組むことが必要です。

目的とリスクに応じたM&A方法の選択

M&Aの手法は多岐にわたります。

例を挙げると、合併、会社分割、株式譲渡、株式引受、株式交換、株式移転、事業譲渡などがあり、それぞれの手法について、メリットの他にデメリットもあります。

具体的にどのようなM&A方法を採用するかは、目的と許容できるリスクに応じて異なってきます。

例えば、会社全体を承継してよいのであれば、株式譲渡で買収を行うことも考えられます。

一方で、債務やリスクをできるだけ引き継ぎたくない場合には、事業譲渡で限定的にM&Aを行うことも考慮すべきです。

このように、最適なM&A方法は具体的事情により異なりますので、目的とリスクに応じたM&A方法を選択することは、M&Aを成功に導くためのポイントになるといえます。

入念なデュー・デリジェンスの実施

M&Aにはリスクが伴いますので、デュー・デリジェンスを行うことで対象企業の現状を詳しく調査します。

売り手企業から提供される情報は限られているため、買い手企業は、デュー・デリジェンスでリスクの存在や企業の価値を事業、財務、法務、税務などの様々な観点から分析し、情報を収集する必要があります。

デュー・デリジェンスにより、財務状況、簿外債務の存否、企業価値、経営組織や事業内容、シナジー効果、コンプライアンス、訴訟になりそうな要因の有無、ITシステムなどの多岐にわたる項目について分析し、対象企業について正確な情報を収集することができます。

買い手側は、デュー・デリジェンスで集めた情報を、M&Aにふさわしい対象企業か判断する材料にするだけでなく、企業価値の評価に反映させ、買収価格を修正することにも利用します。

また、指摘された問題点やリスクを、クロージングまでに売り手企業側に対処してもらったり、将来的に問題が発生した場合に備えて契約条項に反映させたりすることができます。

M&Aのリスクを軽減するためには、入念にデュー・デリジェンスを行うことが求められます。

適正な価格を設定する

M&Aの価格設定は、企業価値を反映した適正なものにする必要があります。

譲渡側が、会社の価値よりも高い価格を希望すれば売却は困難になり、低すぎる価格を設定すれば損になります。

反対に、譲受側が高すぎる価格でM&Aを行えば費用対効果が下がり、低すぎる価格を提示すれば買収が成立しなくなるリスクがあります。

希望する価格でM&Aを行うためには、適正価格を把握したうえで交渉を行うことが重要です。

契約条項を完備させる

M&Aの最終契約書に盛り込まれることの多い条項で、特に注意を要するものには、表明保証条項、誓約条項、補償条項などがあります。

表明保証条項

表明保証条項は、契約当事者間で、一定の事項の真実性・正確性を表明し、保証する条項です。

表明保証条項は、責任の分担を明らかにし損害賠償の範囲を定めることにもつながるため、重要性の高い条項になっています。

表明保証の対象は広範囲にわたります。

ごく一部を例示すると、契約を締結し履行する権限があること、反社会的勢力と関係していないこと、計算書類が正確であること、簿外債務や偶発債務がないこと、未払い賃金がないこと、訴訟や紛争がないこと、事業のための許認可等を適切に取得していること、などがあります。

表明保証の内容は、一般的なものだけでは足りません。

デュー・デリジェンスの結果として明らかになったリスクや課題を、表明保証条項に反映させる必要があります。

そのため、表明保証条項は、具体的な事情に応じて残さず記載することが重要です。

誓約条項

誓約条項は、当事者がクロージングまでに果たすべき義務や、クロージング後の義務を定める条項です。

クロージングまでの義務の一例としては、非公開会社の株式譲渡のために必要となる承認手続きを行うことや、デュー・デリジェンスで判明した問題点に対処することなどがあります。

また、COC条項がある場合に、M&A後も取引を継続できるようにすることを誓約することもあります。

クロージング後の義務は、例えば、売り手企業が競業避止義務を負うことなどが挙げられます。

誓約条項も、一般的な条項だけではなく、具体的な事情に応じたものにすることが重要です。

補償条項

補償条項は、表明保証が真実・正確でなかったり、契約上の義務に違反したりした場合に、生じた損害を賠償することを定める条項です。

補償条項は、損害賠償を求める根拠になるため重要なものです。

ここまでで、M&Aの最終契約書に記載されることの多い条項について見てきましたが、契約書の条項は膨大なものになり得ます。

M&Aのリスクに備えるため、契約条項が完備できるようにするには、専門家に依頼することをおすすめします。

必要書類を整備する

M&Aを円滑に行うためには、特に譲渡側において、各種の必要書類を整備しておく必要があります。

例えば、株主名簿や各種の議事録などを欠いていれば、円滑にM&Aを進めることは難しくなり、最悪の場合は破談になるリスクもあります。

必要書類については、日頃からきちんと用意しておきましょう。

PMIを重視する

M&Aを完了させただけでは、その効果を発揮することができません。

別個の組織として存在していた複数の企業を有機的に結びつけ、シナジー効果を生じさせ、会社の業績に反映させていくには、M&A後の統合プロセス(PMI)が重要になります。

PMIを軽視すると、組織の弱体化や失望した人材の流出、業務の非効率化などの悪影響が生じるリスクがあります。

PMIに注力することは、M&Aを成功させるためのポイントになります。

まとめ

この記事では、M&Aに存在するリスクについて見てきました。

M&Aのリスクは、様々なトラブルを生じる危険性があります。

M&Aを成功させるためには、弁護士や公認会計士といったリスクへの対処に優れた専門家のサポートを得ることをおすすめします。

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コラム:敵対的買収が行われるリスクと買収防衛策

合意の上で実行される通常のM&Aの他に、敵対的買収が行われることがあります。

敵対的買収とは、対象企業の支配などを目的として、被買収会社の経営陣の合意を得ずに行われる買収です。

敵対的買収が行われると、企業イメージが傷つく、業績に悪影響が生じる、従業員が退職してしまう、などの様々な危険性が生じます。

敵対的買収が行われやすい企業の特徴は、一般に下記のようにまとめられます。

・真似することが難しい独自性のある技術やコンテンツを有している

・財務状況が健全である

・株価が割安で、株主の構成が安定していない

・買収防衛策を採用していない

敵対的買収のリスクを軽減するためには、買収防衛策を採ることが考えられます。

買収防衛策は多数ありますが、ここでは一般的なものを簡単に紹介します。

ライツプラン

ライツプランは、ポイズン・ピルとも呼ばれる買収防衛策です。

ライツプランは、敵対的買収者以外の者が行使できるという条件付きの新株予約権を利用することで防衛を図るものです。

敵対的買収をしようとする者が現れた場合に、株主に対して新株予約権が発行されますが、買収者は新株予約権を行使できないので持ち株比率を高めることができず、結果として買収をすることができなくなるという仕組みです。

黄金株

黄金株とは、拒否権付種類株式の通称です。

黄金株が発行されている場合は、株主総会の決議事項について、株主総会決議の他に、黄金株を有する株主を含む種類株主総会の決議が必要になります。

黄金株は非常に強力なため、通常は1株しか発行されません。

そのため、黄金株を経営者自身や友好関係にある株主が保有すれば、敵対的買収者が現れても、役員の選解任や、合併、会社分割などが行えず、買収を阻止することが可能になります。

クラウン・ジュエル

クラウン・ジュエルは、買収の危険がある場合に、会社にとって最も価値のある資産や事業部門を手放すことで会社の価値を下げ、買収側の意欲を削ぐことで会社を守る手法です。

会社にとって最も価値のある資産や事業部門を、王冠に嵌め込まれた宝石(クラウン・ジュエル)に例えています。

クラウン・ジュエルは、意図的に会社の価値を下げるため、買収防衛のためであっても、取締役としての責任を追求されるリスクがあることには注意が必要です。

ゴールデン・パラシュート

ゴールデン・パラシュートは、役員の退職金を高額に設定しておく手法です。

対的M&Aが行われると、既存の経営陣は一新されるのが通例です。

しかし、ゴールデン・パラシュートが採用されていると、解任される役員に支払われる退職金が高額になるため、会社から多額の資金が流出し、買収コストが増大します。

これにより、買収によるメリットが低下するために買収意欲が低下します。

COC(チェンジオブコントロール)条項

COC条項とは、M&Aなどの理由で会社の支配権に変動が生じる場合に、その支配権の変動を理由として契約を解除できるようにする条項です。

被買収会社にとって重要な契約にCOC条項が盛り込まれていると、敵対的買収者が会社の支配権を獲得した場合でも、取引先が契約を解除することで被買収会社の価値が下がるリスクが生じるため、買収の魅力が下がることになります。

マネジメント・バイアウト

マネジメント・バイアウトは、経営陣が会社の株式を取得することを意味します。

マネジメント・バイアウト後に株式の非公開化を行えば、敵対的買収者は株式を買い集めることができず、買収を諦めざるを得なくなります。

第三者割当増資

第三者割当増資は、買収の危険が生じた場合に、友好関係にある企業に新株を引き受けてもらう方法です。

第三者割当増資により、既存株主の持ち株比率は下がり、友好企業の持ち株比率は上がるので、敵対的買収を抑制する効果があります。

ホワイトナイト

ホワイトナイトは、敵対的買収の危険がある場合に、それに対抗して、自社にとって友好的な関係にある者に買収してもらう手法です。

近年では、2019年にコクヨがぺんてるを買収しようとしたことに対抗し、プラスがぺんてる株の友好的な取得を行った例があります。

買収防衛策のまとめ

買収防衛策には、これ以外にも様々な手法があります。

また、それぞれメリット・デメリットがありますので、具体的にどのような買収防衛策を採用するかは専門家に相談して決定するようにしましょう。

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