シフト制労働者の雇用管理について所定労働時間や社会保険・雇用保険などのポイントを解説

シフト制の労働者は、通常の労働者とは異なった雇用管理が必要になる部分がありますので、厚生労働省が発出した留意事項を中心に、シフト制労働者の雇用管理についての注意点をまとめました。

シフト制とは

シフト制とは、労働日や労働時間が一定しておらず、1週間や1ヶ月といった一定の期間ごとに作成されるシフト表などにより、具体的に働く日や労働時間が定まる労働の形態を指します。

シフト制は、労働の日時が固定されておらず、柔軟に働く日や時間を設定できることから、労働者と使用者の双方にメリットがあります。

その一方で、使用者が一方的に労働日を極端に少なくしたり、反対に労働者の意に反して多くの労働日を設定したりすることで、トラブルに発展することも少なくありません。

シフト制労働者が増えている社会経済的背景

シフト勤務が増加しているのには、社会経済的な理由があります。

まず、少子高齢化による影響があげられます。

日本の生産年齢人口は戦後増加の一途をたどり、平成7年には8,726万人のピークに達しました。

しかし、その後は減少を続け、平成27年の国勢調査では7,728万人と、20年間で約1,000万人の生産年齢人口を失っています。

また、人口に占める高齢者の割合が増加していることも労働者不足の一因となっています。

このように、社会全体が労働者不足になっている中で労働力を確保するために、シフト制勤務の需要が高まりました。

シフト制であれば、柔軟に労働条件を設定できるので、フルタイムの勤務を求めない労働者であっても労働力として活用することが可能になります。

また、バブル崩壊後の1990年代からは日本経済の成長が停滞し、企業は非正規社員を増やすことで正社員を削減することにより人件費を圧縮するなどの施策を推し進めて来ました。

シフト制を採用することで、必要なときに労働力を確保できることから、人件費削減の観点からも必要性が高まりました。

さらに、営業時間が長い業種が増加していることも影響しています。

具体的には、コンビニエンスストアやスーパーマーケットといった小売業、レストランやファストフードといった飲食業があげられます。

高齢化と関連して、介護サービスの需要が高まっていることもシフト制勤務の必要性に繋がります。

高齢者の増加により介護施設も増えましたが、24時間体制の介護施設も多くあります。

このような長時間の労働力を必要とする介護サービスでは、シフト制を採用しなければ労働者を確保することが困難です。

労働者の価値観の多様化や、ワークライフバランスの重視から、従来の働き方にとらわれず、多様な働き方を望む人が増えていることもシフト制勤務の必要性としてあげられます。

以上のように、使用者と労働者の双方の必要性から、シフト制で働く労働者が増加しています。

シフト制労働契約の締結に関する注意点

労働者とシフト制の労働契約を結ぶ際に注意すべき点をまとめます。

明示する必要がある労働条件

労働条件をあいまいにしたまま労働契約を結ぶと、トラブルに発展するおそれがあります。

労働法では、トラブルを予防するために、必ず明示することが求められる労働条件と、定めた場合には明示が必要になる労働条件が規定されています。

明示が必要な労働条件

①契約の期間

②有期の労働契約を更新する際の基準

③就業の場所・従事する業務

④始業や終業の時刻、休憩、休日、休暇など

⑤賃金の決定・計算の方法、支払いの時期・方法など

⑥退職(解雇事由も含む)

⑦昇給

これらの労働条件は、必ず明示しなければなりません。

さらに、昇給を除く事項は、書面を交付する必要があります。

ただし、労働者が希望すれば、書面の代わりに電子メール等の電子的な方法で明示することもできます。

定めた場合に明示が必要になる労働条件

①退職手当

②賞与など

③労働者が負担する食費や作業用品など

④安全衛生

⑤職業訓練

⑥災害補償や業務外の傷病扶助

⑦表彰や制裁

⑧休職

これらの労働条件は、定めを置いた場合には明示する必要があります。

特に留意すべき事項

始業や終業の時刻と休日に関しては、特に留意する必要があります。

シフト制であっても、労働契約の締結時点で始業や終業の時刻が確定している場合は、その時刻を書面で明示しなければなりません。

具体的な方法は、確定している労働日ごとに始業や終業の時刻を明示する方法のほか、労働条件通知書などの書面には原則的な始業および終業の時刻を記載し、同時にシフト表を交付するといった方法があります。

この場合、始業および終業の時刻について、「シフトにより決定する」などの記載をするだけでは足りませんので注意が必要です。

労働契約を結ぶ時点で休日が確定している場合であれば、休日を明示しなければなりません。

また、休日が具体的に定まっていない場合は、休日の設定に関しての基本的な考え方などを書面に明記しておきましょう。

シフトの作成や変更のルール

使用者がシフトを一方的に決定することは、労働トラブルを予防する観点からは望ましくありません。

そこで、労働法上で必須になることではありませんが、労使で話し合って、労働契約にシフトの決定についてのルールを盛り込んでおくことが考えられます。

シフトの作成

シフトの作成について、労働者から事前に意見聴取を行うことや、確定したシフトの通知期限や通知方法についてのルールなどを設定します。

シフトの変更

一旦確定したシフトを変更するには、労使の合意が必要になります。

そこで、シフトの期間が始まる前に労働日や労働時間を変更する場合の申出の手続きや期限、シフトの期間が始まった後に労働日や労働時間を変更あるいはキャンセルする場合の手続きや期限をルール化することが考えられます。

 労働日や労働時間の設定

シフトの設定に労働者の希望を反映するためのルールを合意して盛り込むこともあります。

例えば、一定期間内の労働日数や労働時間数の目安、一定期間内の最大の労働日数や労働時間数、一定期間内の最低労働日数や最低労働時間数などを定めることが考えられます。

就業規則の作成

1つの事業所で常時10人以上の労働者を使用している場合、使用者は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

就業規則には、始業および終業の時刻や休日などについて定める必要がありますが、それらが労働者の職種や勤務の態様によって異なる場合は個別に定めなければなりません。

そのため、シフト制労働者について、始業・終業の時刻や休日などを「シフトにより定める」といった記載があるだけでは、就業規則の記載として足りません。

シフト制の場合は、就業規則で基本的な始業・終業の時刻や休日についての定めを置いたうえで、「具体的にはシフトで定める」などと記載することは認められています。

シフト制労働者を就労させるうえでの注意点

シフト制労働者を実際に労働させる際には、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。

労働時間

シフト制の労働者でも、1日8時間、1週40時間の法定労働時間の上限は守る必要があります。

法定労働時間を超える労働をさせる必要がある場合には、いわゆる36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。

労働時間に関して、近年、注目すべき裁判例が出されました。(シルバーハート事件、東京地裁令和2年11月25日)

この事件では、所定労働時間や所定休日を雇用契約書に記載しておらず、単に「シフトによる」との手書きの記載があるだけでした。

そして、ある時期を境に、1日もシフトを入れない月があるなど、労働者のシフトが大幅に削減されたために訴訟になりました。

結論として、裁判所は、合理的な理由のないシフトの大幅削減は、シフトの決定権限の濫用に該当して違法になり得るとして、不合理に削減された勤務時間の賃金を請求し得るとの判断をしています。

このように、シフトの削減が紛争になる場合があるので十分に注意する必要があります。

休憩

1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上の休憩時間を労働時間の途中に与える必要があります。

休憩時間は完全に労働から離れられる時間を意味しますので、労働の指示を待っている時間(手待時間)や、電話対応などで実際に労働した時間は休憩時間に含まれません。

したがって、これらの時間を除いた休憩時間を、6時間超または8時間超の労働時間に応じて与える必要があります。

なお、休憩時間は連続して与えるほかに、分割して与えることもできます。

年次有給休暇

シフト制の労働者が、雇い入れの日から継続して6ヶ月勤務し、全労働日の8割以上出勤している場合は、法定の日数の有給休暇を与える必要があります。

なお、6ヶ月未満の雇用契約を更新した結果として6ヶ月以上になった場合にも、6ヶ月継続して勤務したことになります。

年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与える必要があります。

年次有給休暇の付与日数について、シフト制労働者は1週間の所定労働日数の特定が困難な場合があるので問題になります。

この点について、通達では有給休暇付与の基準日直前の実績を考慮して算出してよいとされていますので、1年間の勤務実績を年間の所定労働日数とみなして有給休暇を付与することができます。

なお、初回の年次有給休暇付与は6ヶ月後ですので、基準日直前6ヶ月の勤務実績を2倍した日数を、年間の所定労働日数とみなして計算に用います。

有給休暇の賃金については、以下の3つの計算方法があります。

①所定労働時間の労働をした場合の通常の賃金

②平均賃金

③健康保険法の標準報酬日額

通常の賃金を採用した場合は、有給休暇を取得した日に対応する賃金を支払う必要があります。

例えば、シフト表で8時間の労働時間が設定された日に有給休暇を取得した場合は8時間分の賃金を支払い、4時間に設定された日に取得した場合は4時間分の賃金を支払うことになります。

平均賃金は、労働基準法に定められた平均賃金の計算方法による方法です。

健康保険法の標準報酬日額を採用するためには、労使協定を結ぶ必要があります。

この方法では、健康保険法の標準報酬月額の30分の1(標準報酬日額)が有給休暇取得時の賃金となります。

休業手当

使用者の責に帰すべき事由により、シフト制労働者を休業させた場合には、休業手当として平均賃金の60%以上を支払う必要があります。

ただし、不可抗力による休業の場合は、休業手当を支払う義務を免れます。

一般的に不可抗力と認められるためには、以下の2つの要件をいずれも満たす必要があります。

①原因が事業の外部から発生した事故であること

②通常の経営者としての最大の注意を事業主が尽くしても、避けることができない事故であること

安全衛生管理

シフト制労働者に対しても、安全衛生教育や、健康診断の実施などの安全衛生管理をする必要があります。

シフト制労働契約の終了に関する注意点

シフト制労働者の労働契約の終了については、解雇や雇止めなどで注意しなければならない点があります。

解雇

有期労働契約を締結しているシフト制の労働者は、やむを得ない事由がなければ解雇することができません。

期間の定めがない場合は、客観的合理性と社会通念上の相当性が必要になります。

実際に解雇する場合には、すくなくとも30日以上前に解雇予告をするか、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うかしなければなりません。

雇止め

一定の場合には、シフト制の労働者を雇止めすることができなくなります。

具体的には、以下のいずれかに該当し、使用者による雇止めに客観的合理性と社会通念上の相当性が認められない場合は、労働契約法により、従前と同じ労働条件で労働契約が更新されます。

①有期労働契約が過去に反復更新されていて、雇止めをすることが解雇をすることと社会通念上で同視できる場合

②有期労働契約が更新されると労働者が期待することに、合理的な理由がある場合

また、3回以上有期労働契約が更新されている労働者や、雇入れ日からの継続勤務期間が1年超になる労働者を雇止めする場合は、契約満了日のすくなくとも30日以上前に雇止めの予告をしなければなりません。

期間の定めのない労働契約への転換

有期労働契約の更新が繰り返し行われた結果、契約期間が通算して5年を超えると、労働者は、期間の定めのない労働契約を締結するように申し込めるようになります。

労働者からの申し込みがあった場合は、期間の定めのない労働契約が成立します。

シフト制労働者の雇用保険や労災保険に関する注意点

シフト制労働者は雇用保険や労災保険が問題になることが多いので注意しましょう。

雇用保険

労働者が、以下の2つの要件をいずれも満たすときは雇用保険の被保険者になります。

①週所定労働時間が20時間以上

②31日以上の継続雇用が見込まれること

①について、例えば「1週間の最低労働日数3日、1日の最低労働時間7時間」などと、労働日や労働時間の設定についての基本的な考え方が定められていれば、それに基づいて週所定労働時間を判断します。

そのような定めがない場合や各週の労働時間に大きな差異がある場合などは、1ヶ月の平均労働時間を算出して判断します。

具体的には、1ヶ月に87時間以上の勤務が見込まれる場合は要件を満たします。

以下のようにして1ヶ月87時間は算出されます。

365日(年の日数)÷7日(週の日数)=約52週(年間の週数)

20時間(週所定労働時間)×52週(年間の週数)÷12ヶ月=86.66時間

したがって、1ヶ月に87時間以上の勤務が見込まれるシフト制労働者は、雇用保険に加入する必要があります。

②について、31日以上の雇用が見込まれるのは、以下のいずれかに該当する場合です。

・期間の定めがない場合

・31日以上の雇用期間になっている場合

・31日未満の雇用期間だが、更新される場合があると書面で明示されている場合

・31日未満の雇用期間であり、かつ、更新される場合が明示されていないが、同様の契約で雇用された労働者の中に、31日以上の雇用実績がある場合

労災保険

労災保険は、シフト制の労働者であっても加入する必要があり、労災保険の給付を受けることができます。

シフト制労働者の社会保険に関する注意点

シフト制労働者が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する際の要件をまとめました。

シフト制労働者が、以下の2つの要件のいずれかに当てはまる場合は、社会保険の被保険者になります。

①同一の事業所で同様の業務に従事する正社員と比較して、週の所定労働時間と月の所定労働日数の双方が4分の3以上になっている場合(パートやアルバイトなど)

②正社員と比較して4分の3未満であっても、下記の5つの要件をすべて満たす場合

(ア)週所定労働時間が20時間以上

(イ)賃金が月額88,000円以上

(ウ)1年以上の継続使用が見込まれる

(エ)学生ではない

(オ)従業員数が501人以上の企業に勤務している、または、500人以下でも労使合意がある

①について、1週間の所定労働時間が周期的に変動する場合は、その周期で平均して週所定労働時間を算出します。

また、所定労働時間が1ヶ月を単位として定められている場合は、以下の式で週所定労働時間を求めます。

1ヶ月の所定労働時間×12ヶ月÷52週(年間の週数)=1週間の所定労働時間

所定労働時間が1年を単位として定められている場合は、以下の式によります。

1年の所定労働時間÷52週(年間の週数)=1週間の所定労働時間

雇用契約書などでは1週間の所定労働時間が20時間未満と定められていても、実際には恒常的に1週間に20時間以上の労働をしていることがあります。

この様な場合は、連続した2ヶ月の労働時間が週20時間以上で、翌月以降も週20時間以上労働しているか、あるいは週20時間以上の労働が見込まれるときは、実際の労働時間が週20時間以上になった月の3ヶ月目から被保険者になります。

例えば、4月と5月の労働時間が週20時間以上となった場合は、条件を満たせば6月1日から被保険者となります。

②(ウ)について、期間の定めがない場合や1年以上の雇用期間の場合は、1年以上の継続使用が見込まれるとして扱われます。

1年未満の雇用期間であっても、下記のいずれかの場合は、同様に継続使用が見込まれるとして扱われます。

・雇用契約書や労働条件通知書などの書面で、更新されることが明示されているか、更新される場合があることが明示されている場合

・同じ事業所の、同様の契約で雇用された労働者の中に、1年以上の雇用実績がある場合

シフト制労働者に対する社会保険の適用拡大について

令和4年10月から、短時間労働者に対する健康保険と厚生年金保険の適用が拡大されます。

アルバイトやパートの労働者が、新規に被保険者になる場合があるので注意が必要です。

改正点は、適用される事業所の規模と、勤務期間の2点です。

事業所の規模は、被保険者総数が常時500人超から、常時100人超に引き下げられます。

また、令和6年10月からは常時50人超にさらに引き下げられます。

(改正前)被保険者総数が常時500人超

(令和4年10月から)被保険者総数が常時100人超

(令和6年10月から)被保険者総数が常時50人超

勤務期間は、1年以上の継続使用の見込みから、2ヶ月超の継続使用の見込みへと引き下げられます。

勤務期間については、令和6年10月の変更はありません。

(改正前)1年以上の継続使用の見込み

(令和4年10月から)2ヶ月超の継続使用の見込み

改正までに、被保険者に該当する者の有無を確認し、新たに被保険者になる労働者には説明を行うようにしましょう。

シフト制労働者に関するその他の注意点

シフト制の労働者についても、労働者の募集や待遇の面で注意する点があります。

労働者の募集

労働者を募集する際には、労働条件を明示することが必要です。

また、募集の際に明示した労働条件を、労働契約の締結までに変更した場合は、変更した内容を明示しなければなりません。

労働条件を明示する際には、できる限り詳細かつ具体的に記載するように配慮することが求められます。

均衡待遇

シフト制の労働者が、有期労働契約であったり、パートタイマーであったりする場合があります。

その場合、シフトを減らしたときの手当の支払いや通勤手当などについて、正社員と比較して不合理な待遇差が生じないようにする必要があります。

まとめ

この記事ではシフト制の労働者を雇用する際の注意点について見てきました。

シフト制労働者は、一般の正社員の雇用管理とは異なる特殊性がありますので、トラブルを避けるためには労働法の専門家に関与してもらうことをおすすめします。

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