売掛金の差押方法とメリット・デメリット!

ある取引先からの債権が回収できない、何度督促しても「お金がないから払えない」の一点張りで困っているときに、その取引先に多額の売上金が入金予定という情報を得ました。そんなときに役立つのが、売掛金の差押です。

売掛金を差し押さえることができれば、その売掛金の支払いを債権の回収として回収することができますし、その回収金が大きくなくても、取引先に差押通知が送付されますので、債務者の信用問題も大きくなるため、債務者としては差し押さえを撤回して欲しいと考えることは必定であり、債務者からの債権回収の和解申し入れが行われる可能性も高くなり、債権回収の可能性が非常に高まります。

この記事では、売掛金の差押とは、売掛金を差し押さえるメリット、売掛金の仮差押えについて、売掛金の差押や仮差押えの手続きについて解説します。

■■■ 目 次 ■■■

1.売掛金の差押とは

差押(さしおさえ)とは、債務者(借りた側)がお金を返さない場合に、債権者(貸した側)が貸した金額を回収できるよう、裁判所が債務者の財産を確保して売却できないようにする法的行為です。

差押というと、ドラマなどで家財道具に赤札を貼られるシーンを思い浮かべるかもしれませんが、差押は債権に対しても行えます。

債権とは、相手に対して金銭の支払などを請求できる権利です。債権のうち、売掛債権とは、販売した商品・サービスに対して代金の支払などを請求できる権利となります。売掛債権には、売掛金や受取手形などがあります。

つまり、売掛債権の差押とは、相手方がほかの会社に対して有している売掛金などを差し押さえる行為です。

たとえば、取引先Aへの債権100万円が回収できずに困っているとします。取引先Aは、取引先Bに対して売掛金200万円を有しています。こうしたケースでは、取引先Aがもつ売掛金200万円のうち100万円分を差し押さえることで、取引先Bから直接支払を受けることが可能なのです。

2.仮差押えと差押との違い

売掛金の差押は使い勝手のよい手法ですが、差押をするには「債務名義」(要するに裁判を行って判決を取るなどしておくこと)が必要です。

詳しくは後述しますが、債務名義の代表的なものには、裁判による確定判決があります。つまり、差押にあたっては基本的に裁判をする必要があるため時間がかかります。これに対して、差押よりも迅速に行える法的手段が「仮差押え」です。

仮差押えとは

仮差押えとは、裁判所の判決などの債務名義の獲得を待たずに、債務者の財産を「仮に」差し押さえできる、民事保全法に基づいた法的手段です。

「現金がない」と主張する取引先から債権を回収するために、売掛金を差し押さえようとして裁判を起こすとします。しかし、判決が出るまでに長いと1年以上かかるケースもよくある話です。その間に取引先が売上金を使ってしまえば、裁判で勝訴しても強制執行はできません。

このような事態に備えて、裁判を行う前に仮差押えをすることで、債務者は売掛先から売掛金の支払を受けられなくなります。ただし、仮差押えの時点では、債権者から第三者である売掛先への直接取立件は発生しないため、最終的には裁判などをする必要があります。

仮差押えと差押の違い

仮差押えと差押には、主には次の違いがあります。

仮差押えには債務名義が不要、差押には必要

仮差押えと差押との違いのひとつは、「債務名義」が必要か否かという点です。債務名義は、民事執行法第22条で次のように定義されています。

・確定判決

・仮執行の宣言が付された判決

・仮執行の宣言が付された支払督促

・強制執行許諾文言が付された公正証書

・和解調書

・調停調書など

代表的な債務名義は確定判決です。つまり、債権者が原告として裁判を起こし勝訴する必要があります。

裁判をしないで債務名義を得る方法としては、事前に相手先との間に公正証書を作成しておく方法などがあります。たとえば、2か月後に売掛金を確実に支払ってほしいとしましょう。支払わない場合は強制執行を行う旨の強制執行許諾文言を記載した公正証書を交わしておけば、裁判をしなくとも速やかに差押が可能です。

仮差押えには担保金が必要、差押には不要

仮差押えと差押の違いとして、ほかには担保金の有無があります。

仮差押えは、債務名義がない状態で、裁判所が「疎明」資料(裁判に必要な「証明」資料よりも低いレベル)をもとに命令を下します。そのため、実際の裁判で債権者が敗訴した場合などに、仮差押え期間中に債務者が被る損害を担保できるよう、債権者は担保金を積まなければ仮差押えができません。

一方、差押では債権の存在が判決などにより確定しているため、担保金は不要です。

要するに、仮差押えができる状態なのであればした方が良いですが、確定判決を得ていない場合や担保金が用意できないような場合は、やむをえず、裁判を行って判決を取るなどしてから差し押さえることとなります。

3.売掛金の差押におけるメリット・デメリット

それでは、売掛金の差押におけるメリットとデメリットを押さえておきましょう。

売掛金の差押におけるメリット

売掛金の差押には、主に次のようなメリットがあります。

債務者の売掛先に直接取り立てができる

不動産や動産ではなく、売掛金を差し押さえるメリットは、債務者ではない第三者(債務者の売掛先)から直接取り立てができる点です。

たとえば、不動産の差押には、裁判所へまとまった額の執行予納金を納める必要があり、執行にも時間がかかります。売掛金などの売掛債権を差し押さえる場合は、裁判所から債務者への差押命令が届いた日から1週間ほどで、第三者である売掛先に直接請求が可能です。

債務者に大きな圧力をかけられる

売掛金の差押により、債務者には売掛先から収入が入ってこなくなります。財産が凍結されるため、資金繰りへの影響は絶大です。

さらに、債務者の売掛先に事情が伝わるため、債務者は売掛先から経営状況の説明を求められるなど窮地に立たされます。特に売掛先が大企業の場合は、差押や仮差押えが取引基本契約の解除事由になっているケースが大半です。

そのため、売掛金の差押は効果が絶大であり、これまで債権の支払をはぐらかしていた債務者も必死に対応してくる可能性が高く、有利な条件で交渉を進められます。

売掛金の差押におけるデメリット

一方、デメリットとして主に次の点が挙げられます。

債務者が破産した場合には債権を回収できない

差押をしても、債務者が破産や民事再生を行ってしまえば、差押は無効となり債権が回収できない点は大きなデメリットです。そのため、債務者が破産などに踏み切る前に支払を受けられるよう、交渉していく必要があります。

手間がかかる

差押は専門的な手続きを要するため、会社の経営者や担当者が独力で行うのは難しいです。しかし、法律の専門家であり差押の実務経験豊富な弁護士に依頼することで、このデメリットは回避できます。

4.売掛金の差押前に、仮差押えを行うメリット・デメリット

売掛金の差押前にあえて仮差押えを行うことで、差押のみでは得られないどのようなメリットが受けられるのか、デメリットはどのような点かを解説します。

売掛金の仮差押えにおけるメリット

売掛金の差押前に仮差押えを行うメリットは、主に次の点です。

差押よりも迅速な対応ができる

差押をするために債務名義を得ようとすれば、基本的には裁判が必要となり、前述したように長ければ1年以上の時間がかかります。判決が出る前に、債務者の財産が処分されてしまう可能性もあります。

これに対して、仮差押えは申立てから送達まで1週間程度のため、迅速な対応が可能です。債務者が入金した売上を使ってしまう前に迅速に確保できる点は大きなメリットといえます。

債務者に知られずに手続きできる

売掛金の仮差押えでは、債務者よりも先に売掛先へと仮差押えの決定が送付されます。つまり、債権者が債務者に悟られずに申立てができれば、債務者が仮差押えを知るのはその送達時です。このように、債務者が仮差押え前に財産を処分することが困難なシステムになっているのがメリットです。

仮差押えであっても十分な圧力となる

仮の差押であっても、売掛先に事情が伝わり債務者が支払を受けられないのは、十分なプレッシャーとなります。債務者にとっては収入が途絶えてしまうので、債権の支払に応じてきて裁判を回避できるケースもあります。

売掛金の仮差押えにおけるデメリット

一方、デメリットには次の点が挙げられます。

担保金が必要

前述したように、仮差押えは迅速かつ債務者に知られずに行える一方、債権者の主張が誤っていたときに債務者が受ける損害を補填するための担保金を、債権者が積む必要があります。

担保金は、請求額の3割ほどの金額を現金で用意し、裁判などが終わるまで預けることが必要です。そのため、資金繰りで困っている債権者にはハードルが高いのがデメリットです。

短期間で証拠を用意する必要がある

仮差押えは迅速に行えますが、短期間にまとまった量の証拠提出を求められるケースがあります。

5.売掛金の仮差押えにおける手続き

売掛金の仮差押えをするには次の手続きを踏みます。仮差押えの決定までにかかる標準的な日数は証拠などがしっかり揃っていてスムーズにいって5日程度です。

5−1.仮差押えの対象を調査

仮差押えを裁判所に申し立てるには、まず債務者のどの財産に対して仮差押えを行うのか調査が必要です。仮差押えは売掛債権・預金・不動産に対して行えます。給与や役員報酬・退職金についても行えます。

売掛金を差し押さえるには、債務者がどの売掛先に対してどういった内容の売掛金を有しているのかといった情報が必要です。必須ではありませんが、金額や支払時期についての情報を得られれば有利となります。たとえば、月末に入金予定とわかれば、その付近に仮差押えの決定が送付されるよう計画を立てることも可能です。

5−2.仮差押えの申立て

仮差押えの対象となる売掛金について調査を終えたら、仮差押え申立書と必要な疎明資料を、裁判所の担当部へと提出し、裁判官との面接日時を予約します。申立てが午前中なら、最短で翌日に面接の予約が可能です。

5−3.裁判官との面接

申立書提出から裁判官との面接までの間に、申立ての要件や不備についてチェックされ、書類の補充などを求められることがあります。問題がない場合は、担保金についての決定事項が裁判官から口頭で伝えられます。

5−4.担保金を法務局へと供託

裁判官が決定した担保金を、法務局に供託します。振込も可能ですが、その場合は法務局に供託の申請を行う分、少し時間がかかるので、急ぐ場合は現金の持ち込みが確実です。

5−5.仮差押えの決定・送達

法務局へと担保金を供託し、午前11時までに裁判所へと供託正本の写しを提出すると、当日17時に仮差押の決定が発令されます(11時以降の提出は翌日17時)。

売掛金における仮差押え決定の発令時には、まず売掛先に仮差押えの決定が送付され、その後で債務者本人に仮差押えについて送達されます。

5−6.第三債務者からの陳述

仮差押えの決定が売掛先(第三債務者)に送付されると、売掛先は、債務者に対する買掛金の有無とその金額を回答します。この回答によって、仮差押えの対象となる売掛金は実在したか、金額はいくらだったかが把握できます。

売掛金の仮差押えに必要な担保金の目安

仮差押えに必要な担保金の目安は、仮差押えの目的物(不動産など)と「被保全権利」によって異なります。被保全権利とは、仮差押えによって保全(保護)されるべき権利のことです。

売掛金の仮差押えについては、目的物は「債権その他」、被保全権利は「貸金・賃料・売買代金・その他」になり、担保金の基準は請求金額の10〜30%となります。

6.売掛金の差押えにおける手続き

債務者が有する売掛債権の差押をするには、次の手続きを踏みます。

6−1.債務名義を取得する

前述したように、差押は仮差押えとは異なり、債務名義が求められます。そのため、裁判で確定判決を得るなどの準備期間が必要です

6−2.差押えの申立て

債務名義を取得したら、裁判所の担当部に次の資料を提出します。

・債権差押命令申立書

・債務名義の正本

・債務名義の送達証明書

・資格証明書(債務者・債権者・第三債務者のいずれかが法人の場合)

・収入印紙(1通あたり4,000円)と郵便切手

6−3.債権差押命令の発送・差押の実行

申立てが受理されると、裁判所から債務者と第三債務者に債権差押命令が郵送された後、差押が行われます。

まとめ

取引先からの債権を回収できずに困っている場合、効果的なのが売掛金の差押です。債務者ではなく、第三者である債務者の売掛先に対して直接取り立てができるため、回収の可能性も上がる傾向があります。

差押には債務名義が必要なため、裁判をする時間と手間が生じます。そこで、裁判の前に仮差押えを行えば、1週間程度と迅速に対応ができ、売掛先にも決定が送付されるため、債務者にプレッシャーを与えることができます。

売掛金の差押において重要なのは、取引先がどこにどのような売掛金を有しているのかの調査です。そのため、常日頃から取引先がどのような手段で収入を得ているのか、アンテナの感度を上げて情報を入手しておく必要があります。

差押・仮差押えにおいては、このような調査や、仮差押えの申立て時に必要性を疎明するなど、専門的な知識が求められ、一般人が独力で行うのは困難です。債権を確実に回収するためには、差押の専門家である弁護士に依頼し、有効な戦略を相談するのが早道です。

債権回収に関するご相談は、当事務所にいつにてもお問い合わせください。
ご不明な点等ございましたら、いつにてもお問い合わせいただけましたら幸いです。

お問い合わせ・無料法律相談