民事再生と会社更生の違いとは?メリット・デメリット、手続き・流れも徹底解説

会社の経営悪化に伴い、経営者自身の力だけでは回復不能な状態(倒産)に陥った場合、「法的整理手続」の実施を検討することが想定されます。この法的整理手続の中でも、会社を存続させながら債務整理を行う手法として「民事再生」および「会社更生」の2つが挙げられますが、いずれの手法を選択するのかは、会社の状況に応じて経営者が入念に検討することが大切です。

そこで本記事では、民事再生と会社更生の間に見られる違いや、それぞれのメリット・デメリット、手続きの流れなどを中心にわかりやすく解説します。

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民事再生と会社更生の違い

本章では、民事再生と会社更生それぞれの概要を紹介したうえで、これら2つの手法に見られる違いを整理してお伝えします。

民事再生も会社更生も法的整理手続

前提として、民事再生と会社更生は、いずれも法的整理手続(別名:法的倒産手続)の手法に含まれる点で共通しています。法的整理手続とは、法的手続きに従って裁判所の管轄下で倒産処理を図る手続きのことです。これに対して、法的手続きによらずに債権者と債務者の自主的協議によって倒産処理を図ることは、私的整理と呼んでいます。

法的整理手続を行うために用いられる具体的な手法としては、破産・特別清算が含まれる「清算型手続」と、民事再生・会社更生が含まれる「再建型手続」があります。

簡単に整理すると、清算型手続が会社の清算(不動産・機械など会社の財産を換金し、株主に対して会社の残余財産を分配すること)を目的とする手続きである一方で、再建型手続は会社を存続させながら、債務を減額して経営を再建することを目的に掲げた手続きです。

つまり、清算型手続では、裁判所の選任した破産管財人が会社に隠された資産がないか調査したり残っている資産を換価したりして、最終的に金銭を配当できる場合には債権者に配当を行ったうえで会社の法人格を消滅させます。これに対して、再建型手続では、裁判所の監督のもとで再生計画案(更生計画案)を立てて、債権者集会において債権者の同意(会社更生では関係人集会において債権者と株主の同意)を得た(計画案を可決した)うえで、それぞれの計画を実行することになります。再生計画案・更生計画案の可決要件は、それぞれ下表のとおりです。

種類 同意割合の要件
再生計画案 ・債権者の過半数(頭数)

・債権者の2分の1以上(議決権ベース)

更生計画案 ・更生債権者の2分の1超(議決権ベース)

・更生担保権者の下記の割合(議決権ベース)

-期限の猶予を定めるものに関しては3分の2以上

-減免等の権利変更を定めるものに関しては4分の3以上

-更生会社の事業全部の廃止を求めるものに関しては10分の9以上

・株主の過半数(議決権ベース)

なお、再生計画案が否決された場合もしくは債権者集会の期日が続行された場合で、債権者集会の第1期日から2カ月以内(その期間が伸長された場合には、その期間内)に再生計画案が可決されないときには、再生手続は廃止されます。一方で、更生計画案が否決された場合には、裁判所は関係人集会の続行期日を定めるか、会社更生手続を廃止して、破産手続に移行します。

以上のことから、民事再生と会社更生の間では、会社の再建を目的とする法的手続きである点は共通しているものの、いくつかの相違点もあるため注意しましょう(相違点の詳細は後述します)。

民事再生とは

民事再生とは、債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等によって、債務者の事業又は経済生活の再生を図る手続のことです。民事再生では、経済的に行き詰まった企業について、現経営者の主導(もしくは再生債務者代理人である弁護士が、再生債務者である会社との間で委任および準委任の関係をもとに主導する経営)のもとで会社債権者等の利害関係者の多数の同意のもとに再生計画を策定し、これを遂行することにより利害関係者の利害を適切に調整しつつ会社の事業の再建を図ります(DIP型)。

法人における民事再生には、主に自力再建型・スポンサー型・清算型・プレパッケージ型などの種類があり、それぞれの概要は下記のとおりです。

  • 自力再建型:民事再生が認可された後、自力で再建を図る方法
  • スポンサー型:スポンサー企業を選定し、資金援助を受けながら再生していく方法
  • 清算型:営業譲渡などにより受け皿会社に事業を移管し、旧会社を清算する方法
  • プレパッケージ型:事前にスポンサーと合意し、民事再生の申立てを行う方法

近年は、スポンサー型の再生を図るという前提で民事再生手続が申立てられている例や、再生手続中に自力再建型からスポンサー型に移行する例などが多く見られます。スポンサー型は、申立を行った企業に将来収益性の期待できる事業が残っているとスポンサーが判断し、再生計画の遂行のために必要な資金を援助する代わりに申立企業を買収する形式です。スポンサー選定の公平・適正を確保するために、広くスポンサー候補を募って入札により選定するのが一般的です。

スポンサー型のうち、申立前からスポンサー企業が決まっており、民事再生手続の開始後に資金を注入することを申立当初から予定しているものをプレパッケージ型と呼びます。プレパッケージ型の形式が取られる際は、大口債権者である銀行等の金融機関(メインバンク)が予め承諾しているケースが多く、場合によってはメインバンク主導でスポンサーや申立代理人となる弁護士の選定を進めることもあります。

とはいえ、プレパッケージ型の形式が取られる場合、入札によらずにスポンサーを選定することも多いことから、スポンサーの利益を重視するあまり企業価値と比較して低額な資金しか提供しなかったような場合に債権者が本来受けるべき配当を受けられないといったリスクが潜んでいます。

このことから、裁判所や監督委員は公平性を期するために、民事再生手続を申し立てた経緯やスポンサー選定の経緯・方法などを精査して慎重に対応するのが一般的であるほか、このような方式でのスポンサー選定を原則として認めない裁判所もあります。

民事再生の開始申立の要件

民事再生の手法は、下記のいずれかの場合に利用できます。

  • 破産手続開始の原因となる事実(支払不能・支払停止・債務超過のいずれか)が生ずるおそれのある場合
  • 事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済できない場合

また、民事再生の対象となる債務者は個人・法人を問わず、民事再生の対象となる債権者は金融機関や取引先です。

なお、下記のいずれかに該当する場合、裁判所から民事再生の開始決定が出されることなく棄却されてしまいます。
再生手続の費用の予納がないとき

  • 裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき
  • 再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき
  • 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき

また、たとえ裁判所から開始決定がなされた場合であっても、再生手続廃止・再生計画不認可又は再生計画取消しの決定が確定した場合、裁判所は職権で破産手続きに移行させることができます。

民事再生のメリット・デメリット

主なメリットは、会社を倒産させずに事業を継続できる点です。経営者や役員の変更が求められず、そのままの状態で済むため、引き続き現経営陣による再生が可能です。

また、弁済期間を最大10年(120カ月)まで延ばせることや、債権総額を減らせることなどもメリットです。ただし、債権総額を減少させるためには債権者の同意が前提となるため、無謀な再建計画を立てると不認可となるおそれがあります。

上記に対して、報道により社会的信用を失うことや、債務免除益課税(債務を免除されたことによる益金にかかる税金)がかかることなどがデメリットとして挙げられます。民事再生の手続きを取ることについて、官報・新聞・インターネットやテレビのニュースなどで報道されれば、取引先や仕入先などからの信用が損なわれるおそれがあります。

また、民事再生の実施に伴い、債務免除益課税として課される税金については、例えば、1億円の債務が1,000万円となり法人税率が40%だとすると、免除された9,000万円×40%で3,600万円の税金が課されます(ただし、過去7年間の損金との相殺が可能)。

民事再生の有名事例

これまでに民事再生法を適用した企業の一部として、近年の事例を中心に以下にまとめました。

  • 株式会社そごう(小売業、2000年申請、2003年再生手続き終了)
  • 奥道後国際観光株式会社(2012年1月16日に申請、株式会社海栄館の支援を受ける)
  • スカイマーク株式会社(航空会社、2015年1月28日申請)
  • 株式会社日本コンタクトレンズ(国内コンタクトレンズ製造の先駆、2016年11月16日申請)
  • 学校法人森友学園(2017年4月21日申請)
  • タカタ株式会社(自動車用安全部品製造大手、2017年6月26日申請)
  • 株式会社サニーTSUBAKI(食品スーパー、2018年6月28日申請、2019年に株式会社フジ・リテイリングとスポンサー契約を締結)
  • 株式会社サンセットコーポレイション(リサイクルショップのエンターキングを展開、2019年7月1日申請)
  • 株式会社レナウン(アパレル企業、2020年5月15日申請)
  • 株式会社サン宝石(装身具販売業者、2021年8月27日申請)

会社更生とは

会社更生とは、会社更生法にもとづく裁判手続です。会社更生では、経済的に行き詰まった株式会社について裁判所の選任した更生管財人の主導のもとで、会社債権者等の利害関係者の多数の同意の下に更生計画を策定し、これを遂行することで、利害関係者の利害を適切に調整しつつ会社の事業の再建を図ります。こうした特徴から、民事再生を「DIP型」の法的整理手続と呼ぶのに対して、会社更生を「管理型」の法的整理手続と呼んでいます。

会社更生は株式会社のみが利用できる強力な手続きで、無担保債権者のみならず担保権者や株主の権利などを制約し、更生計画でこれをカットすることが可能であるほか、合併・減増資など会社の組織再編行為も簡易に行える点が特徴的です。

会社更生の開始申立の要件

会社更生の開始申立の要件および対象となる債権者は、前述した民事再生の要件と同じです。ただし、会社更生の対象となる債務者は株式会社のみです。

会社更生のメリット・デメリット

会社更生の主なメリットとしては、民事再生同様に、会社を存続させながら大幅な債務の減額を実現できる点にあります。また、広く会社関係者の権利の調整を行い抜本的な再建を図ることができる点や、従業員の雇用が確保される点なども、会社更生のメリットです。

他方、会社更生では、DIP型会社更生(会社更生手続において、会社更生手続を申立てた会社の役員等が管財人または管財人代理となる場合)を除いて経営者や株主がその地位を失う点や、申立てから更生計画の認可まで約1年から2年程度かかる点などがデメリットとして挙げられます。

会社更生の有名事例

これまでに会社更生法を適用した企業の一部として、近年の事例を中心に以下にまとめました。

  • 株式会社穴吹工務店(マンションディベロッパー。2009年11月24日申請、2013年3月に更生手続を終了し、同年4月に株式会社大京の子会社となる)
  • 株式会社日本航空(持株会社、国内最大の航空事業者、2010年1月19日申請)
  • 株式会社ウィルコム(PHS通信事業者、2010年2月18日申請)
  • 株式会社武富士(消費者金融業、2010年9月28日申請)
  • 小野ホールディングス株式会社(小野グループの中核企業、2012年1月21日申請)
  • 日東通信機株式会社(通信機器メーカー、2017年5月31日申請、2018年5月8日にTCSホールディングス株式会社の完全子会社となり、2018年7月31日に会社更生手続終結)
  • 日本海洋掘削株式会社(海洋掘削事業者、2018年6月22日申請)
  • 株式会社ヤマニシ(東北最大規模の造船会社、2020年1月31日申請)
  • 株式会社F-Power(新電力大手の電気事業者、2021年3月24日申請)
  • イセ食品株式会社・関連会社のイセ株式会社(鶏卵販売の最大手、2022年3月11日申請)

ここまでの説明を踏まえて、以降の項では、民事再生と会社更生の相違点を5つの基準に分けて解説します。

経営陣の取り扱い

民事再生手続を選択する場合、経営陣の交替は必須とされていません。裁判所・監督委員の指導・監督はありますが、従来の経営陣によって再生手続を進めていくのが通常です。また、民事再生手続の場合、株主構成の変動も必須とされておらず、株主の地位にも変動が生じません(ただし、減資された場合は、株主の地位を失うことはあり得る)。

これに対して、会社更生手続を選択する場合、経営陣の交替が必要となるのが原則です。加えて、会社更生では、更生計画案によって100パーセント減資が行われて、株主に変動が生じるのが通常です。

担保権を実行できるかどうか

民事再生の場合、担保権付債権は別除権(債務者が破産や民事再生を申立てた場合に、それらの手続きによらずに優先的に返済を受けられる権利のこと)として取り扱われるため、担保権者は手続外で担保権を実行して債権の回収を図ることが認められています。ただし、民事再生の場合でも、再生債務者の申立てにより別途保全処分として担保権実行についての中止命令が発令された場合は、例外的に担保権の実行が制限されます。

これに対して、会社更生では、担保権付債権も更生担保権として手続内に取り込まれることになるため、担保権者であっても手続外で優先的な債権回収を図ることができません。

とはいえ、実際的には、民事再生の場合、担保権付債権は原則として自由に行使できることから、再生債務者は100%返済の義務を行う必要があるため、担保権付債権からすると担保権付債権はカットの対象(再生債務者の債務が免除されること)にはなりません。また、会社更生の場合でも、担保権付債権は更生担保権として手続内に取り込まれるものの、実際に債権がカット(更生債務者の債務が免除)されることはほとんどない点を把握しておきましょう。

さらに補足情報を加えると、民事再生および会社更生において、再生債務者に対する再生手続開始前の原因に基づく財産上の請求権のことを「再生債権」、更生債務者に対する更生手続開始前の原因に基づく財産上の請求権のことを「更生債権」と呼び、これらの債権を有する債権者のことをそれぞれ「再生債権者」「更生債権者」と呼びます。再生債権者および更生債権者は「一般債権」に該当し、原則として再生計画および更生計画の定めによらなければ弁済を受けることができません。

これに対して、国税等の租税債権や民法・商法等により一般の優先権が認められている債権(労働債権など)は「一般優先債権」と呼ばれます。一般優先債権は、民事再生および会社更生の手続外で随時弁済を受けられるため、債権カットの対象にはなりません。

再生債権および更生債権は、原則として再生計画および更生計画の定めによらなければ弁済を受けることができず、また再生計画および更生計画は前提として再生債権者・更生債権者の同意がないと可決されないことから、再生債権者・更生債権者に多めに返済する計画を立てなければならず、結果として再生債権者・更生債権者には全額返済しなければなりません(もっとも、再生計画・更生計画において特定の債権者のみを優遇するなど債権者間の公平さを害することは許されません)。

ちなみに、再生債権者および更生債権者の再生債権および更生債権を弁済できない場合(一般優先債権のような優先債権者や担保権のみにしか返済できないような場合)は、再生計画および更生計画が否決されてしまうことから、民事再生および会社更生の手続を取ることができず、破産手続に移行することになります。

株主の権利に対して制限があるかどうか

民事再生の場合、株主の権利は変更されません。これに対して、会社更生では、更生計画において株主の権利の変更に関する事項を定めなければなりません。そのため、会社更生の場合、会社が債務超過の場合を除いて、株主も更生計画の決議で議決権を有します(同法第166条第1項)。

手続きを利用できる主体

民事再生手続は、個人・法人のいずれも適用対象とされており、法人に関してはどのような種類の法人でも適用対象となるほか、個人に関しては個人再生と呼ばれる簡易化された手続も用意されています。

これに対して、会社更生手続の適用対象は株式会社のみで、個人や株式会社以外の会社(合同会社・合資会社など)、会社以外の法人などは適用対象外です。

なお、法的要件ではないものの、会社更生法は倒産によって社会的な影響を与えかねないほどの大企業の再建を図るために設けられている制度です。そのため、事実上、会社更生法は大企業しか利用できないほど複雑かつ厳格な手続となっているため、中小企業の場合は民事再生手続を利用するケースがほとんどです。

手続きの遂行者

民事再生手続と会社更生手続は、いずれも裁判所の関与によって手続が進められます

とはいえ、民事再生では、裁判所によって監督委員が選任され、その監督委員が手続の指導・監督を行うものの、実際に民事再生の手続および経営を進めていくのは債務者である会社(もしくは再生債務者である会社との間で委任および準委任の関係にある「再生債務者の代理人弁護士」)であるのが通常です。民事再生の場合であっても、裁判所の判断によって例外的に再生管財人が選任されるケースもあります。

これに対して、会社更生の場合、会社更生の手続および更生債務者である会社の経営を進めていくのは、更生債務者ではなく、裁判所によって選任された更生管財人です。ただし近年は、例外的に会社更生でも更生債務者の代理人弁護士が会社更生の手続きおよび更生債務者である会社の経営を進めていくこともあります。その場合は、更生債務者が手続を進めていくのと同様の状況になります。

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民事再生と会社更生の手続きや流れ

最後に、民事再生および会社更生の手続きを行う際に取られる基本的な流れを、5つのステップに分けて解説します。

なお、ここで紹介する手続きの内容はあくまでも大まかなものであり、手続きのすべてが網羅されているわけではないため、実際に民事再生および会社更生の手続きを行う際は、弁護士に相談したうえで詳細なプロセスを確認してください。

また、民事再生および会社更生の手続きを行う際は、あらかじめ弁護士に相談・依頼し、裁判所に提出する書類を準備する期間が求められる点にも注意しましょう。

手続開始の申立・決定

民事再生(会社更生)の手続開始の申立は、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所で行います。なお、再生手続開始の申立については、債務者である会社自身だけではなく債権者も行うことが可能です。これに対して、会社更生の申立権者は下記のとおりです。

  • 株式会社(債務者)
  • 資本金の額の10分の1以上に当たる債権を有する債権者
  • 総株主の議決権の10分の1以上を有する株主

手続開始の申立から開始決定までの間に、債権者が強硬に債権回収を行う可能性があることから、実務上、裁判所は弁済禁止の保全処分を発令します(会社更生の場合、合わせて保全管理人の選任も行われます)。その後、裁判所は倒産の手続きに精通した弁護士を監督委員に選任するのが通常で、債務者は財産の処分・借入などについて監督委員の同意を得なければなりません。

手続開始の申立を受けた裁判所は、手続開始の原因があると認めた場合、その他の形式要件が充足されていることを確認したうえで手続開始を決定します(会社更生の場合、併せて更生管財人が選任されます)。

「再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき」など一定の場合、手続開始の申立は棄却されることもあります。なお、手続開始の申立から開始決定までの期間は、通常2〜4週間程度です。

債権調査

手続開始の決定と併せて、裁判所によって、債権者が会社に対して有する債権を届け出るための債権届出期間が定められます。債権者が再生手続に参加するためには、裁判所が定める期間内に債権届出を行うことが必要です。

民事再生の場合、申立人(再生会社)は、裁判所に対して財産価額の評定・財産状況の報告を行うほか、債権届出があった債権の認否を行い、その結果を裁判所に提出します。

再生計画・更生計画案の提出

債権届出期間の満了後、裁判所の定める期間内に、再生計画案(会社更生では更生計画案)を裁判所に対して提出します。

これらの計画案を提出するのは、原則として民事再生では再生債務者(会社)、会社更生では更生管財人です。なお、民事再生の場合は債権者、会社更生では更生会社、債権者および株主も計画案を提出することが可能です。

再生計画案・更生計画案の決議・認可

民事再生では債権者の決議に、会社更生では債権者と株主の決議に付されます。それぞれの計画案を可決するためには、下記を満たす必要があります。

種類 同意割合の要件
再生計画案 ・債権者の過半数(頭数)

・債権者の2分の1以上(議決権ベース)

更生計画案 ・更生債権者の2分の1超(議決権ベース)

・更生担保権者の下記の割合(議決権ベース)

-期限の猶予を定めるものに関しては3分の2以上

-減免等の権利変更を定めるものに関しては4分の3以上

-更生会社の事業全部の廃止を求めるものに関しては10分の9以上

・株主の過半数(議決権ベース)

計画案が可決された場合、当該計画案が法定の要件を充足していることを確認したうえで、裁判所が再生計画・更生計画の認可を行います。申立から認可までには、5か月程度の期間がかかるのが一般的です。

再生計画案の記載事項

ここで参考までに、再生計画案の基本的な記載事項として下記の項目を紹介します。

  • ①再生債権に対する権利の変更条項
  • ②共益債権および一般優先債権の弁済に関する条項
  • ③不足額が確定していない別除権者の権利に関する定め
  • ④住宅資金特別条項

①については、再生債権の元本ならびに開始決定日以降の利息・遅延損害金の免除率を記載します。権利変更後の金額が最低弁済額を下回らないように、債権額の免除率を設定する必要があります。免除率の計算式は下記のとおりです。

  • (確定再生債権額-計画弁済総額の最低弁済額)÷確定債権額×100

例えば、計画弁済総額の最低弁済額が100万円、基準債権額が300万円である場合、免除率は66.667%です。

  • (300万円-100万円)÷300万円×100≒66.66%

割り切れない場合は、小数点以下3桁で切り捨てます。再生手続開始決定日以降の利息・遅延損害金については、全額免除するのが通例です。

②については、公租公課や給与債権などの一般債権や共益債権の支払い方法を定めます。実務上、支払方法は原則として随時支払いとされますが、滞納分の支払方法について事前に弁済協定が締結されている場合は、弁済協定の内容を個別に記載しましょう。個人事業主が事業継続のためにリース料を支払っている場合は、事前に債権者と弁済協定を結び、その内容を記載します。

③については、別除権を有する再生債権者がいる場合(以下に具体例を列挙)に、別除権者の権利に関する定めを記載します。

  • 住宅ローンが残っているが住宅資金特別条項を利用しない場合
  • 所有権留保付きの車のローンがある場合

別除権者は、別除権行使後の担保不足額が確定しない限り、弁済が受けられないため、再生計画案に別除権行使による不足額が確定した場合の再生債権者としての権利行使について適格な定めを設ける必要があります。

④については、住宅ローンが残っていて自宅を残したい場合に、住宅資金特別条項を定める必要があります。住宅資金特別条項とは、住宅ローンについて、例外的に元本・利息・遅延損害金を含めた全額の支払方法を変更(返済の繰り延べ・リスケジュール)する制度のことです。住宅資金特別条項は、住宅ローンの支払額をカットするのではなく、住宅資金特別条項の適用によって期限を猶予してもらうための制度です。

再生計画・更生計画の遂行

再生計画・更生計画が裁判所により認可された場合、計画の内容に沿って債権者に対する計画弁済が行われます。

このうち、民事再生の場合、再生計画が確定した後、債務者は弁済など計画の遂行に着手します。再生計画の履行が完了した場合もしくは再生計画認可決定確定後3年経過した場合、再生手続が終結する決まりです。

他方で、会社更生の場合、更生計画案にもとづき更生管財人が経営の立て直しや債務の弁済を行っていきます。最終的に債務の弁済が終了もしくは終了することが確実と裁判所が認めた場合、裁判所により更生手続の終結決定が出され会社更生は終了します。これとは反対に、裁判所が認めなかった場合には更生手続が廃止されて、会社の清算である破産手続に移行する流れです。

以上、民事再生と会社更生の手続きや流れを紹介しましたが、民事再生については、再生計画が可決され、その計画の一環として事業譲渡が行われることもあります。事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を他の会社に対して売却することです。

民事再生手続下の対象会社は、以下の要件を充足する場合に、裁判所の許可を経ることで、対象会社における株主総会特別決議なしに事業譲渡を行うことができます。

  • 再生手続開始後の事業譲渡であること
  • 事業譲渡が再生債務者の事業の再生のために必要であること
  • 再生債務者が債務超過であること(簿価ではなく実質的に判断される)
  • 事業譲渡が当該事業の継続のために必要であること

裁判所は、以上の要件充足性を判断して許可の可否を決めますが、その前提として債権者から意見聴取も行います。また、会社更生においても、民事再生と概ね同様の要件及びスケジュールの下、裁判所の許可を経ることで対象会社の株主総会決議なしに事業譲渡を行うことが可能です。

民事再生および会社更生の手続にかかる日数

東京地方裁判所が示している標準的スケジュールによれば、民事再生の申立から再生計画認可までの期間は約5か月間とされています。これに対して、会社更生の手続きでは1年間ほどの期間がかかることから、民事再生は比較的スピーディーな手続の進行が想定されます。

民事再生にかかる費用

民事再生には、裁判所への予納金・弁護士費用・収入印紙などその他雑費といった費用が発生します。このうち、予納金の額は下表に示したとおり、負債総額によって変動します。

弁護士費用の具体的な金額は依頼先によって変動しますが、少なくとも予納金と同程度の金額は必要になることを念頭に置いておきましょう。

負債総額 予納金
5,000万円未満 200万円
5,000万円以上1億円未満 300万円
1億円以上5億円未満 400万円
5億円以上10億円未満 500万円
10億円以上50億円未満 600万円
50億円以上100億円未満 700万円
100億円以上250億円未満 900万円
250億円以上500億円未満 1,000万円
500億円以上1,000億円未満 1,200万円
1,000億円以上 1,300万円

会社更生にかかる費用

会社更生の場合、手続きが複雑である点や、比較的規模の大きい会社を対象とする点などから、かかる費用が高額です。

会社更生では、まず収入印紙および切手代として6万円程度の費用がかかります。求められる予納金の額については裁判所によって異なるものの、おおよそ2,000〜5,000万円程度の費用がかかることを認識しておくと良いでしょう。

上記に加えて、会社更生では、弁護士費用として200万円以上の着手金がかかり、ここに報酬金の支払いも加算されます。

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まとめ

民事再生と会社更生は、いずれも法的整理手続の手法に含まれる点で共通していますが、主に下記の4点に違いが見られます。

  • 担保権を実行できるかどうか
  • 株主の権利に対して制限があるかどうか
  • 手続きを利用できる主体
  • 手続の遂行者

自社の状況に適している法的整理手続を経営者自身で判断するのは非常に難しいです。会社の再建を目指す場合には、破産しか選択肢がなくなってしまう前に、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。

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