顧問契約書に何を定めるか 業務の範囲、報酬、解約及び秘密保持の条項の読み方

顧問弁護士を置くことを決め、法律事務所から顧問契約書の案文を受け取った経営者の方、又は管理部門の御担当者からの御相談をいただきます。案文はおおむね2枚から4枚で、条項の数もそれほど多くありません。しかし、その短い書面のどこを読めば、毎月支払う金額に対して何が返ってくるのかが分かるのかは、この種の書式を見慣れていなければ判断の難しいところです。本記事は、顧問契約書という1通の書面に何が定められ、どの条項をどう読むかという点に限って整理したものです。

先に最も重要な点を申し上げます。顧問契約書をめぐって後から食い違いが生じるのは、条項の文言そのものではなく、月額の顧問料に含まれる業務と、別に費用が生じる業務との境目です。この境目は、案文の1か所にまとまって書かれていることがほとんどありません。業務の範囲の条項、報酬の条項及び追加業務の条項という3か所に分かれて書かれていますので、この3か所を並べて読まなければ境目は見えてきません。

もう1つ確かめていただきたいのが、終わり方です。顧問契約は、始めるときよりも終えるときに手間が生じます。契約の期間、更新の方法及び解約の予告期間は、署名の前に必ずお読みください。以下、業務の範囲、報酬、時間の取扱い、追加業務、解約、秘密保持、利益相反及び反社会的勢力の排除の順に、条項ごとの読み方を申し上げます。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

顧問弁護士という同じ主題であっても、決めなければならない事柄は段階ごとに異なりますので、次のとおり頁を分けています。

案文が届いたとき、最初に開いていただきたい3つの条項

顧問契約書は、法律上は委任又は準委任の契約です(民法第643条、第656条)。受任者である弁護士は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法第644条)。契約書に書かれていない事柄も、この一般の規定によってある程度は補われます。逆に申しますと、契約書で決めておくべきなのは、一般の規定では決まらない事柄に限られます。

業務の範囲の条項には、何を頼めるのかが書かれています

ここに書かれていない業務は、月額の顧問料の対象外であるという前提で案文は作られています。「法律相談に応じる」とだけ書かれているものもあれば、相談、契約書の確認、書面の作成、社内研修と項目を並べているものもあります。項目が並んでいるほうが、後の食い違いは生じにくくなります。

報酬の条項には、月額に含まれる範囲が書かれています

月額の金額だけを見て終わりにせず、その下に置かれた但書を読んでください。「ただし、次の業務については別途協議のうえ費用を申し受ける」という形で範囲外の業務が列挙されているのが通例であり、この列挙が負担を左右します。

期間及び解約の条項には、どのように終えるのかが書かれています

委任は各当事者がいつでも解除することができるのが原則ですが(民法第651条第1項)、契約書で予告の期間を定めることは可能であり、実務上はほとんどの案文が予告の期間を置いています。ここを読まずに署名しますと、必要がなくなってからも数か月分の顧問料が生じます。

業務の範囲 「一般的な法律相談」という文言だけでは範囲は定まりません

業務の範囲の条項でよく見られるのが、「一般的な法律相談に応じる」という表現です。この一文だけでは、何が一般的で何が一般的でないのかを後から決めることになり、決め方を定めていない以上、必ず双方の理解が食い違います。次の4点を書き加えていただくと、範囲は具体的になります。

相談の方法と、応答までの期間を書き込む

電話、電子メール、面談、オンラインの会議のうち、どの方法を用いるか、また電子メールによる照会におおむね何営業日以内に応答するのかを書きます。応答までの期間の定めがない案文は珍しくありませんが、実際の使い勝手はここで決まります。

契約書は「確認」か「作成」かで作業量が大きく異なります

既にある案文を読んで意見を述べる業務と、白紙から条項を組み立てる業務とでは、要する時間が大きく異なります。月額の顧問料に含まれるのはどちらなのか、また1か月あたり何通までなのかを書き分けてください。通数ではなく分量で定める例もあります。

対象となる会社の範囲 子会社及び役員個人をどう扱うか

顧問契約の当事者は契約書に記名した会社です。子会社、関連会社、代表者個人及び役員個人の相談は、当然には含まれません。グループの会社からも相談をしたいのであれば、対象となる会社を別紙で列挙してください。

訴訟、労働審判、M&Aは通常は範囲外です

訴訟手続の代理、労働審判の対応、M&Aに関する契約書の作成及びデュー・ディリジェンスの遂行は、月額の顧問料の範囲外とされるのが通例です。要する時間が事案ごとに大きく異なり、月額の中に収めることができないためです。範囲外であることを前提に、そのときの費用の決め方を先に書いておくほうが実務的です。

報酬の条項 月額に何が含まれ、何が含まれないのか

受任者は、特約がなければ報酬を請求することができません(民法第648条第1項)。逆に申しますと、報酬に関する事柄は特約によって自由に定めることができます。だからこそ、条項の読み方が重要になります。

月額の顧問料と時間制報酬との関係

顧問契約の報酬は、次の3つの型に大別されます。案文がどの型であるかを最初に見分けてください。

内容確認すべき点
定額のみ月額の定額で範囲内の業務に対応する業務の範囲の条項の書きぶり
定額と時間制の併用範囲外の業務は時間制報酬で計算する1時間あたりの単価と割引の有無
時間の枠付き定額に一定の時間を含め、超過分を加算する上限の時間数と繰越しの可否

実費、日当及び消費税の取扱い

印紙代、登記事項証明書の取得費用、郵便料金、交通費といった実費は、報酬とは別に生じます。遠方への出張がある場合には、日当の定めの有無も確認してください。金額が消費税を含むのか含まないのかも、必ず明記されているべき事柄です。期間によって報酬を定めたときは受任者は期間の経過後に請求することができるとされていますので(民法第648条第2項)、前払とするのであればその旨を書いてください。

当事務所の場合 月額の定額と、時間制報酬の割引

顧問料の水準については様々な数値が語られていますが、業務の範囲の異なる契約の金額を並べても判断の材料にはなりません。当事務所の定めを申し上げますと、顧問契約は月額の定額(消費税別途)であり、簡易顧問の月額70,000円から特別顧問の月額1,000,000円まで5つのプランを設けています。顧問契約を締結いただいている場合、弁護士の時間制報酬による請求はプランに応じて15パーセントから30パーセントの割引となります(特別顧問は固定です)。ただし、実費、事務手数料、スタッフの費用及び事前の預り金は割引の対象ではありません。また、顧問業務は随時の指導及び助言(口頭、電話、電子メール又は面談によるもの)であり、契約書の作成、具体的な紛争への対応及び訴訟への対応は含まれず、別途となります。弁護士費用の詳細は弁護士費用一覧を御覧ください。

時間の取扱いと、追加の業務が生じたときの手続

顧問契約が実際に機能するかどうかは、時間に関する定めで決まります。ここが曖昧なままですと、依頼する側は遠慮して連絡をしなくなり、受ける側は範囲を超えていると感じるという、双方にとって不本意な状態になります。

時間の上限を定める型と、定めない型

1か月あたりの対応時間の上限を定める型では、上限の時間数と、超過した場合の単価が書かれます。上限を定めない型では、業務の範囲の条項によって実質的な限度が画されます。上限を定める型のほうが、超過したかどうかが数字で分かります。

使わなかった時間を翌月に繰り越せるかどうか

上限を定める型では、当月に使わなかった時間を翌月以降に繰り越すことができるかどうかを定めます。繰越しを認める旨の定めがなければ、繰り越すことはできないという扱いになります。認める場合でも、繰り越せる期間を3か月までとするなどの限度を置く例が多く見られます。

追加の業務は、着手の前に書面で合意する手順にしておく

範囲外の業務が生じたときに、誰が、どのような方法で追加の費用を合意するのかを条項に書いておいてください。「あらかじめ見積りを提示し、書面又は電子メールによる承諾を得たうえで着手する」という一文があるだけで、請求書を見てから驚くという事態は防ぐことができます。逆に、この一文がない案文は、着手の後に費用の話が出てくる可能性を残しています。

契約の期間、更新及び解約 終え方から先に決めておく

顧問契約は、会社の状況が変われば見直すべきものです。見直すことを前提として、終え方の条項を読んでください。

自動更新の条項は、日付を当てはめて読む

「期間は令和8年4月1日から令和9年3月31日までとし、期間の満了の1か月前までに当事者のいずれからも申出がないときは、同一の条件でさらに1年間更新されるものとする」という条項があるとします。この場合、令和9年3月31日をもって終えるためには、令和9年2月28日までに申出をしなければなりません。暦に書き込むべき日付は、契約の満了日ではなく、申出の期限の日です。

解約の予告期間も、日付を当てはめて読む

「各当事者は、3か月前までに書面により通知することにより、本契約を解約することができる」という条項の場合、令和8年11月30日をもって終えたいのであれば、令和8年8月31日までに通知を発しなければなりません。通知の方法が書面に限られているときは、電子メールでは足りないと解される余地がありますので、方法も条項のとおりに行ってください。

不利な時期の解約と損害の賠償

委任は各当事者がいつでも解除することができますが、相手方に不利な時期に解除したときは、やむを得ない事由があった場合を除き、相手方の損害を賠償しなければならないとされています(民法第651条第1項、第2項第1号)。案件の途中で一方的に打ち切る場合には、この規定が問題となり得ます。もっとも、予告の期間を定めた条項に従って解約するのであれば、通常はこの問題は生じません。

終了した後の記録の取扱いと引継ぎ

受任者は委任事務の処理により受け取った物を委任者に引き渡す義務を負いますが(民法第646条第1項)、写しの保管の期間や次の弁護士への引継ぎは、契約で定めておくほうが円滑です。

秘密保持、利益相反及び反社会的勢力の排除

この3つは、顧問契約書の後半に並んで置かれる条項です。形式的なものと受け取られがちですが、実際には最も重い意味を持ちます。

秘密保持は、契約がなくても弁護士が負っている義務です

弁護士及び弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負います(弁護士法第23条)。秘密を漏らす行為には刑罰の定めがあり(刑法第134条第1項)、訴訟において証言を拒むことも認められています(民事訴訟法第197条第1項第2号)。弁護士職務基本規程にも秘密の保持に関する定めが置かれています。顧問契約書の秘密保持の条項は、義務を新たに作り出すものではなく、その範囲と期間を確認するためのものです。

秘密として管理していることが、会社の側にも求められます

会社の情報が法律上の保護を受けるためには、会社がその情報を秘密として管理していることが前提となります。不正競争防止法第2条第6項は、営業秘密を、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものと定めています。弁護士に資料を渡す際にも、社内で秘密として扱われていることが分かる形で管理してください。

利益相反の条項 受任できない事件があることを前提とする

弁護士は、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件などについて、職務を行うことができません(弁護士法第25条第1号から第3号まで)。この制限は顧問契約によって解除されるものではありません。したがって、顧問契約書には、利益相反により受任できない事件が生じ得ること、そのような場合には受任を辞退することを確認する条項が置かれます。「顧問契約を結んでいるのに断られた」という不満は、この条項を読んでいれば生じません。

反社会的勢力の排除の条項

企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)以降、取引の基本となる契約書には反社会的勢力の排除の条項を置くことが定着しています。表明及び保証の内容と、違反があった場合に無催告で解除することができる旨を確認してください。この条項は、顧問契約書に限らず、自社の取引の基本契約書にも同様に置かれているべきものです。

なぜ法律事務所の案文は、このような書き方になっているのか

案文を読んでいますと、範囲を限る文言が多いと感じられるかもしれません。これには理由があります。理由が分かれば、どこは交渉できてどこは交渉できないのかの見当がつきます。

理由の1 月額の中で処理することができる業務の量には限度があるため

顧問料は、毎月おおよそ同じ程度の業務量が生じることを前提に決められています。訴訟や大型の取引が入りますと、1件で通常の数か月分の時間を要し、他の顧問先への対応が滞ります。範囲を限る文言は、他の依頼者に対する義務を果たすための仕組みでもあります。

理由の2 利益相反により受任することができない事件が生じるため

弁護士法第25条の制限は当事者の合意で外すことができません。あらかじめ「すべての事件を引き受ける」と書くことができない以上、案文は留保を伴う書き方にならざるを得ません。

理由の3 期間の定めがないと、体制を組むことができないため

顧問契約は、会社の事業の内容、社内の体制、過去の紛争の経緯を弁護士の側が理解して初めて機能し、理解には数か月を要します。最低の期間や更新の定めは、その期間を確保するために置かれています。短い期間で試したいという御希望があれば、あらかじめお伝えください。別の組み立て方を検討します。

いま確認していただきたいこと

  • お手元の案文について、業務の範囲の条項、報酬の条項及び追加業務の条項の3か所に付箋を貼り、3か所を並べてお読みください。含まれる業務と含まれない業務の境目が読み取れるかどうかを確かめます。
  • 契約の期間、自動更新の申出の期限、解約の予告期間の3つの日付を、暦に書き込んでください。書き込むべきは満了日ではなく、申出の期限の日です。
  • 直近の6か月間に社内で生じた法律に関する問い合わせを書き出し、その一覧が案文の業務の範囲に収まるかどうかを確かめてください。
  • 子会社、関連会社及び役員個人からの相談を含める必要があるかどうかを決めてください。
  • 疑問の残る条項に印を付けたうえで、署名の前にお電話ください。署名の後に条項を変えるには、双方の合意が必要になります。

よくあるご質問

顧問契約書の条項は、こちらから修正を求めてもよいのでしょうか

差し支えありません。顧問契約書は当事者の合意によって定めるものであり、法律事務所が示す案文は出発点にすぎません。特に、業務の範囲、対象となる会社、応答までの期間、追加業務の合意の手順については、御要望を伺ったうえで書き換えることが通例です。他方、利益相反に関する条項のように法律上の制限を確認するにとどまる条項は、変更することができません。

月額の顧問料のほかに費用が生じるのは、どのような場合ですか

業務の範囲の条項に含まれない業務を御依頼いただく場合と、実費が生じる場合です。当事務所の顧問業務は随時の指導及び助言であり、契約書の作成、具体的な紛争への対応及び訴訟への対応は含まれません。これらは別途の費用となり、時間制報酬による場合はプランに応じた割引が適用されます。ただし、実費、事務手数料、スタッフの費用及び事前の預り金は割引の対象ではありません。

秘密保持契約書を別に取り交わす必要はありますか

弁護士は法律上の秘密保持の義務を負っていますので(弁護士法第23条)、別の書面がなければ保護されないというものではありません。社内の規程により取引先と秘密保持契約書を取り交わすこととされている会社もありますので、その場合には別に取り交わしても差し支えありません。二重の定めとなるときは、どちらが優先するかを明記してください。

おわりに

顧問契約書は、毎月の費用を定める書面であると同時に、社内でどこまでを自ら判断し、どこからを外に相談するのかという線引きを定める書面でもあります。条項を1つずつ当てはめて読んでいただければ、その線引きが自社の実情に合っているかどうかが見えてきます。合っていないと感じられたのであれば、そこが交渉すべき箇所です。

案文をお持ちのまま迷っておられるのであれば、条項ごとに読み方を御説明いたします。他の事務所の案文でも差し支えありません。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

顧問契約書の条項に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間:8:00~21:00(土日祝含む)

出典

弁護士法第23条(秘密保持の権利及び義務)、第25条第1号、第2号及び第3号(職務を行い得ない事件)

民法第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第646条第1項(受取物の引渡し等)、第648条第1項及び第2項(受任者の報酬)、第651条第1項及び第2項第1号(委任の解除)、第656条(準委任)

刑法第134条第1項(秘密漏示)

民事訴訟法第197条第1項第2号(証言拒絶権)

不正競争防止法第2条第6項(営業秘密の定義)

弁護士職務基本規程(秘密の保持及び利益相反に関する定め)

企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律、各都道府県の暴力団排除条例

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