詐欺破産罪とは?自己破産で財産隠しをすると罰せられ免責されなくなることも

自己破産をすると、債務を清算できるかわりに一定の財産を除いてすべての財産が処分されることはよく知られているところです。

そこで、財産隠しをして破産後の財産を増やそうとする破産者がいますが、このような行為は詐欺破産罪として罰せられるだけでなく、免責を受けられなくなって債務が残ることにもなります。

この記事では、詐欺破産罪とはどういう犯罪なのか詳しく解説するとともに、破産法上でやってはいけないことについても説明していきます。

この記事を読んで、自己破産を検討する際の参考にしてください。

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目次

詐欺破産罪とは

破産法には様々な破産犯罪が規定されています。

詐欺破産罪とは、破産犯罪の一つとして破産法265条に定められている類型です。

典型的な例では、いわゆる財産隠しを行うと債務者の財産を隠匿したとして詐欺破産罪になるおそれがあります。

債権者を害する目的で、債務者の財産を隠匿したり損壊したりすると詐欺破産罪に該当します。

破産手続きにおいては、破産者が財産隠しをして不当に財産を残そうとしたり、財産を損壊したりするようなことがしばしば生じます。

このような破産者の行為を放置すれば、破産債権者全体の利益が害されることになり、破産者の財産をできるだけ多く回収して破産債権者に平等かつ公平に分配するという破産手続の目的が達成されなくなってしまいます。

そこで、破産法では財産隠し等の一定の行為について、詐欺破産罪として処罰することで破産債権者の利益を保護し、破産手続が適正に実施されるようにしています。

その他の破産犯罪

破産法14章には破産犯罪が規定されています。

破産犯罪は、どのような利益を保護しているかによって以下の3つの類型に分けることができます。

①破産債権者の財産上の利益を保護するもの

・詐欺破産罪(265条)

・特定の債権者に対する担保の供与等の罪(266条)

②破産手続の適正な進行を保護するもの

・破産管財人等の特別背任罪(267条)

・説明及び検査の拒絶等の罪(268条)

・重要財産開示拒絶等の罪(269条)

・業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等の罪(270条)

・審尋における説明拒絶等の罪(271条)

・破産管財人等に対する職務妨害の罪(272条)

・収賄罪(273条)

・贈賄罪(274条)

③破産者の経済的再生の利益を保護するもの

・破産者等に対する面会強請等の罪(275条)

このように、破産法では詐欺破産罪以外にも多様な行為が処罰の対象になっています。

詐欺破産罪になるのはどのような行為か

どのような行為をすると詐欺破産罪になるのでしょうか。

ここでは、詐欺破産罪の要件について詳しく解説していきます。

行為の主体

詐欺破産罪の行為主体は、特に限定されていません。

個人としての債務者の他に、法人が債務者の場合の代表者等や、第三者も含まれます。

行為の目的と故意

詐欺破産罪が成立するためには、行為の目的として債権者を害する目的が必要になります。

債権者を害する目的とは、特定の債権者ではなく総債権者を害する目的を意味します。

また、詐欺破産罪の故意は、破産法265条に規定された行為を認識していることです。

行為の時期

詐欺破産罪で処罰される行為の時期は、破産手続開始の前後を問いません。

破産手続開始後の行為だけでなく、破産手続開始前にした行為も処罰されることに注意が必要です。

例えば、すでに返済困難に陥り自己破産をする可能性が高い状況を認識していながら財産隠しをしたり財産を損壊したりすると、詐欺破産罪に該当するおそれがあります。

破産手続開始の確定が必要

詐欺破産罪で処罰するためには、破産手続開始の確定が必要になっています。

裁判所が破産手続開始の決定をすると官報によって公告され、公告は官報に掲載された日の翌日から効力を生じ、2週間を経過すると破産手続開始の決定が確定します。

詐欺破産罪の未遂や過失は処罰されるか

未遂犯や過失犯を処罰するためには、特別に処罰する旨を定めた処罰規定が必要です。

しかし、詐欺破産罪では未遂や過失の処罰規定が用意されていませんので、未遂や過失では処罰されません。

財産の隠匿または損壊(破産法265条1項1号)

債権者を害する目的で、債務者の財産(相続財産の破産では相続財産に属する財産、信託財産の破産では信託財産に属する財産。以下、詐欺破産罪では同様です。)を隠匿し、または損壊する行為は詐欺破産罪にあたります。

隠匿とは、財産を隠して所在不明にし、破産管財人によって発見されるのを困難にすることを指します。

また、損壊とは、損傷するなど財産的な価値を減少させる一切の行為です。

破産後のために財産を隠しておいたり、財産を残せないからといって破壊してしまったりする行為は、隠匿や損壊にあたります。

なお、詐欺破産罪は過失では成立しませんので、故意に財産を隠したり壊したりする行為が処罰の対象となり、不注意で財産をなくした場合や傷つけてしまった場合などは罰せられません。

財産の譲渡または債務負担の仮装(破産法265条1項2号)

債権者を害する目的で、債務者の財産の譲渡または債務の負担を仮装する行為も処罰されます。

例えば、架空の売買をして財産を第三者に譲渡したかのように見せかけたり、実際は借りていないにもかかわらず借入れをしているように装ったりする行為などが該当します。

財産の現状を改変する行為(破産法265条1項3号)

債権者を害する目的で、債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為も詐欺破産罪にあたります。

ここに規定されているのは、物理的に損壊すること以外の方法で財産の経済的な価値を減少させる行為です。

例えば、更地上に建物を建てたり廃棄物を置いたりして、土地の価値を減少させる行為があります。

財産の不利益処分または債権者に不利益な債務の負担(破産法265条1項4号)

債権者を害する目的で、債務者の財産を債権者の不利益に処分し、または債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為をすると詐欺破産罪になります。

破産法265条1項2号では仮装をした場合が定められていましたが、ここでは現実に行われた財産の処分や債務の負担が債権者の不利益になる場合が処罰の対象となっています。

例えば、著しく低い価格で財産を売却したり、高利貸しから借入れをしたりする行為が該当します。

正当な理由がなく、債務者の財産を取得し、または第三者に取得させる行為(破産法265条2項)

債務者について破産手続開始の決定がされたこと、または保全管理命令が発せられたことを認識しながら、債権者を害する目的で、正当な理由がなく債務者の財産を取得したり、第三者に取得させたりする行為も処罰されます。

行為の時期について、2項では破産手続開始の決定後または保全管理命令の発令後に、それらの存在を知りながら債権者を害する目的で行為をすることが要件になっています。

そのため、破産手続開始の決定前、または保全管理命令の発令前に債務者の財産を取得したりする行為は、2項では処罰されません。

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詐欺破産罪の刑罰

詐欺破産罪の刑罰は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金で、懲役と罰金の両方を科されることもあります。

なお、一定の条件を満たしている場合は執行猶予が付くこともあります。

また、両罰規定がありますので、法人の代表者などが詐欺破産罪の行為をしたときは、行為者本人の他、法人などにも罰金刑が科されます。

ここで実例を見てみましょう。

平成30年3月16日の東京地方裁判所判決です。

この事件は、重要文化財7点(7億9,600万円相当)を博物館に寄託していた被告人が、破産手続開始決定後に、博物館から送られてくる郵便の送付先を配偶者宛にしたり、破産管財人から文化財について尋ねられた際に所在がわからない旨の虚偽の回答をしたりして、財産隠しをしようとしたものです。

この例では、結果として懲役3年、執行猶予5年の判決が出ています。

詐欺破産罪の協力者はどうなるか

詐欺破産罪は行為者自身が処罰されるのはもちろんのことですが、協力者も処罰される可能性があります。

破産法265条1項4号では、債務者の財産を債権者の不利益に処分することや、債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為が規定されています。

これらの場合には、必然的に財産処分の相手方や不利益な債務の債権者という協力者が存在しますので、破産法では処罰の対象になっています。

事情を知りながら、265条1項4号の行為の相手方となった者は、行為者と同様に処罰されます(265条1項柱書後段)。

さらに、265条2項で財産隠しなどの協力者が処罰される場合もあります。

2項では、債権者を害する目的で正当な理由なしに債務者の財産を取得したり第三者に取得させたりした場合が規定されています。

ここでは、債務者と直接の取引をして財産を取得する場合だけでなく、債務者と第三者との間を仲介する形式で財産隠しに協力する場合も処罰対象に含まれています。

詐欺破産罪が発覚した場合

詐欺破産罪が発覚した場合は、以下のような重い制裁を受けることになります。

・刑事罰を受ける

・免責を受けられなくなる

・否認権を行使される

ここでは、それぞれについて詳しく解説していきます。

刑事罰を受ける

詐欺破産罪に該当する事実が発覚すると、刑事裁判で有罪の判決が下されるおそれがあります。

詐欺破産罪で有罪になると、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科という重い処罰がされます。

免責を受けられなくなる

自己破産をすると、最終的に免責を受けることで債務を消滅させることができますが、一定の免責不許可事由が存在するときは免責を受けられません。

財産の隠匿や損壊、不利益処分等の行為は免責不許可事由となっていますので、詐欺破産罪に該当する行為が免責不許可事由にも当たることがあります。

例えば、財産隠しは詐欺破産罪になりますが、財産の隠匿として免責不許可事由にもなり免責されない可能性があります。

なお、免責不許可事由があっても、裁量免責により一切の事情を考慮して裁判所が免責を許可することができます(破産法252条2項)。

しかし、詐欺破産罪に該当する行為は違法性の強いものであるため、裁量免責がされる可能性は非常に低くなります。

免責を受けた後に詐欺破産罪が発覚した場合は、免責の取消しをされる可能性があります(破産法254条1項)。

 否認権を行使される

詐欺破産罪の行為には、取引を内容とするものが含まれています。

詐欺破産罪が発覚すると、破産管財人は否認権を行使してこのような取引によって流出した破産者の財産を取り戻そうとします。

否認権が行使されると取引の効果が失われ、相手方は取得した財産を返還しなくてはいけなくなります。

また、一定の条件を満たす場合には、取引の直接の相手方だけでなく、その後に財産を取得した者に対しても否認権が行使されることがあります。

このように、詐欺破産罪の行為は取引の相手方や転得者にも影響します。

自己破産中にやってはいけないこと

自己破産の最終的な目的は、免責を得て債務を免れることにあります。

しかし、一定の免責不許可事由に該当すると免責を受けられなくなるおそれがあります。

また、詐欺破産罪に該当してしまうこともあります。

主に次のようなことをしてしまうとどうなるのでしょうか。

・財産隠しや財産の不利益処分

・不当な債務負担

・偏頗行為

・浪費やギャンブル

・詐術による信用取引

・帳簿の隠滅等

・虚偽の債権者名簿を提出

・調査協力義務に違反

・管財業務の妨害

・7年以内の免責取得

・破産手続上の義務に違反

ここでは自己破産中にやってはいけないことについて解説します。

免責不許可事由とは

免責不許可事由とは、該当した場合に免責を受けられなくなる行為のことです。

破産法252条1項では11の免責不許可事由を列挙し、そのいずれにも該当しない場合に裁判所は免責許可の決定をすると定めています。

免責不許可事由の一つにでも該当する場合は、免責を受けられなくなる可能性があるので注意が必要です。

  財産隠しや財産の不利益処分(破産法252条1項1号)

財産隠しや財産の不利益処分等の不当な破産財団価値の減少行為は、免責不許可事由になります。

財産の一部を申告しないこと、財産を家族等の他人名義に変更すること、預貯金を引き出して隠したり他人名義の口座に移したりすることなどの財産隠し行為をすると、免責を受けられなくなるおそれがあります。

また、債権者を害する目的で、財産を廉価で売却するなどの不利益処分をすることも許されません。

行為の時期は、破産手続開始の前後を問いません。

破産手続開始前の財産隠しなども免責不許可事由になります。

財産隠しや財産の不利益処分は、詐欺破産罪にも該当するおそれがあります。

不当な債務負担(破産法252条1項2号)

破産手続の開始を遅らせる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担する行為や、信用取引で買い入れた商品を著しく不利益な条件で処分する行為は、不当な債務負担として免責不許可事由になります。

破産が迫った債務者であっても、破産を免れるために高利貸しから法定の上限金利を超える利率で借入れをしたり、クレジットカードで購入した商品を廉価で換金して現金を得ようとしたりしてはいけません。

偏頗行為(破産法252条1項3号)

特定の債権者に対して債務の弁済をしたり担保を供与したりするような偏頗行為も、その債権者に特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的があると認められれば、免責が受けられなくなります。

親戚や知人に対して優先的に返済をすることなどは、債権者平等の原則に反し、不当な偏頗行為になるので避ける必要があります。

浪費やギャンブル(破産法252条1項4号)

浪費または賭博その他の射幸行為は、免責不許可事由です。

高価なブランド品の購入、風俗通い、キャバクラ通い等の浪費行為や、競馬・競輪やパチンコ等のギャンブル行為が該当します。

また、株式投資やFX取引等も射幸行為に含まれると考えられています。

詐術による信用取引(破産法252条1項5号)

破産手続開始原因があることを知りながら、その事実がないと誤信させるために詐術を用いて信用取引により財産を取得することは、免責不許可事由です。

返済ができないことを知っていながら、資産や収入があるかのように金融機関を騙して誤信させ借入れを行うと、詐術による信用取引に当たる可能性が高いと考えられます。

帳簿の隠滅等(破産法252条1項6号)

業務や財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅・偽造・変造することが免責不許可事由となっています。

対象となる帳簿や書類は、決算書、確定申告書、出納帳、売上帳等が代表的なものです。

これらの書類を意図的に隠したり改ざんしたりすることは免責不許可事由となりますが、帳簿をうっかりしてつけ忘れていた場合などは不許可事由になりません。

虚偽の債権者名簿を提出(破産法252条1項7号)

破産者は、債権者名簿や債権者名簿とみなされる場合の債権者一覧表を提出する義務がありますが、虚偽の債権者名簿等を提出すると免責が不許可となります。

意図的に債権者の一部を名簿に記載しなかったり、存在しない架空の債権者名を記載したりすることが該当します。

なお、過失によって債権者を記載しなかった場合は免責不許可事由とはならず、その債権者だけが非免責債権になります(破産法253条1項6号)。

調査協力義務に違反(破産法252条1項8号)

破産手続きで裁判所は自ら調査を行うことができるほか、破産管財人に調査をさせることができます。

破産者はこれらの調査に協力する義務がありますが、調査を受けた際に説明を拒んだり虚偽の説明をしたりして不誠実な態度を取ることは、免責不許可事由となります。

管財業務の妨害(破産法252条1項9号)

不正の手段により、破産管財人・保全管理人、破産管財人代理・保全管理人代理の職務を妨害すると免責不許可になります。

例えば、管財人が財産の引渡しを要求しているにも関わらず、正当な理由なく引渡しを拒んだりすることなどが妨害に該当します。

7年以内の免責取得(破産法252条1項10号)

破産手続きにより破産者が免責を受けると、債権者の利益は大きく害されることになります。

また、頻繁に免責を受けることは、破産者が真に経済的に再生することを妨げるおそれがあります。

そこで、以前に受けた免責許可決定が確定した日から7年間は、新たに免責を受けられないことになっています。

また、給与所得者等再生における再生計画認可決定が確定した日から7年間も免責を受けられません。

さらに、給与所得者等再生や小規模個人再生でハードシップ免責を受けた場合は、そのハードシップ免責にかかる再生計画認可決定が確定した日から7年間も、免責の許可が得られません。

破産手続上の義務に違反(破産法252条1項11号)

破産法で定められた、破産者の説明義務(40条1項1号)、重要財産の開示義務(41条)、免責についての調査に協力する義務(250条2項)、その他の義務に反すると免責を受けられなくなります。

例えば、債権者集会で求められても破産に関する説明をしなかった場合、重要な財産を記載して開示するための書類を提出しなかった場合、裁判所や破産管財人の調査に協力しなかった場合などが該当します。

裁量免責とは

破産者について免責不許可事由に該当する事実がある場合でも、裁判所は一切の事情を考慮して免責を許可することができます(破産法252条2項)。

これを裁量免責といいます。

免責不許可事由がある場合でも、悪質性が低いときは裁量免責が認められる可能性があります。

実際のところ、2020年の調査では96.85%に免責許可が出ているのに対し、免責不許可は2000年の調査以降1%未満で推移しています(日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」)。

このように、統計上は免責を得られる可能性が高くなっていますが、具体的な事情のもとで免責を受けられる可能性があるかについては、弁護士に相談してみることをおすすめします。

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自己破産中でもできること

自己破産中であってもできることはあります。

ここでは、以下について詳しく解説します。

・賃貸借の契約

・年金の受給

・生活保護の受給

・家族のカード利用

また、受給した年金などの財産は自己破産をしても残すことができるのか、という問題もあります。

そこで、以下の点も含めて解説をしていきます。

・受給した年金や生活保護費はどうなるか

・賃貸の敷金はどうなるか

・生命保険の解約返戻金はどうなるか

賃貸借の契約

自己破産中でも賃貸借契約をすることは可能です。

しかし、保証会社が信用情報機関を利用して信用情報を調査することがありますので、自己破産によって信用情報機関の事故情報に登録されることで不利になることがあります。

年金の受給

自己破産をしても、公的年金を受け取ることはできます。

国民年金や厚生年金、共済年金等の公的年金の受給権は差押禁止財産ですので、自己破産をしても破産財団に属することはなく換価処分もされません。

私的年金の中で、企業年金は自己破産をしても受給できます。

企業年金には、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金、厚生年金基金などがありますが、これらも公的年金と同様に差押禁止財産になっています。

私的年金の中には、個人年金もあります。

個人年金の、iDeCo(個人型確定拠出年金)、国民年金基金は差押禁止財産になっていますので、自己破産をしても受給することができます。

一方で、民間の保険会社等と年金保険の契約をしている場合には、裁判所により異なりますが、解約返戻金の合計が20万円を超えるときは原則として解約されることになりますので、年金を受給できなくなる可能性があります。

生活保護の受給

自己破産をしても生活保護は受給できます。

生活保護の受給権も年金と同様に差押禁止財産になっていますので、自己破産によっても処分されません。

また、自己破産をすることで生活保護の受給を停止されたり、額を減らされたりするようなこともありません。

家族のカード利用

自己破産をすると、既存のクレジットカードは全て解約されます。

自己破産後は、信用情報機関により5年から7年間の間は事故情報が登録されますので、破産者はその間は新たにカードを作ることができません。

もっとも、自己破産をしても家族名義のクレジットカードには影響しませんので、家族がカードを使い続けることはできます。

受給した年金や生活保護費はどうなるか

年金や生活保護を受給する権利そのものは、自己破産をしても破産管財人によって処分されませんので受給ができます。

しかし、受給した年金や生活保護費が、一定額以上の現金や預貯金として残っている場合には、破産手続きで処分される可能性があります。

現金の場合は、総額が99万円を超えると、超えた部分が対象になります。

預金の場合は、預金残高の総額が20万円を超えると、超えた部分が処分されます。

賃貸の敷金はどうなるか

賃貸借契約をしていると、通常は敷金を差し入れて、賃貸の終了時に未払い家賃やクリーニング代を引いた上で残った敷金を返還してもらうことになります。

敷金を返還してもらえる権利を敷金返還請求権といいますが、これは差押禁止財産ではありませんので、原則としては破産管財人が賃貸借契約を解除して敷金を回収することになります。

しかし、敷金を回収するために賃貸借契約を解除するとなると、破産者が住まいを失い経済的に再生するのが困難になってしまいますので、各地の裁判所によっても異なりますが、居住している不動産については敷金返還請求権を自由財産として扱う運用がされています。

そのため、自己破産をしても、賃貸借契約を解約されて家を明け渡さなければいけなくなる可能性は低いと考えられます。

生命保険の解約返戻金はどうなるか

生命保険を解約すると、解約返戻金が受け取れることがあります。

この解約返戻金を受け取れる権利を、解約返戻金請求権といいます。

解約返戻金請求権は差押禁止財産ではありませんので、原則としては破産管財人が換価処分することになります。

しかし、自己破産のために常に生命保険を解約しなければならないとすると、持病や年齢によっては将来的に再加入するのが困難な場合もあり、破産者にとって厳しすぎる結果になるおそれがあります。

そのため、解約返戻金の合計額が20万円を超えない場合は、生命保険を解約しないとする運用がされています。

したがって、解約返戻金の総額が20万円までは、自己破産をしても生命保険を残すことができます。

なお、例えば解約返戻金7万円の生命保険が3つある場合には、総額で21万円になりますので、3つとも全て解約されることに注意が必要です。

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詐欺破産罪にならずに財産を残す方法

財産を残したいと考えても、財産隠しなどをしてしまうと詐欺破産罪になり制裁を受けることになります。

一方で、詐欺破産罪とはならずに財産を残す方法がありますので、ここで説明します。

自由財産とは

自由財産とは、破産をしても手元に残すことができる財産のことで、主として以下のものがあります。

・破産手続開始の後に新たに取得した財産(破産法34条1項)

・99万円以下の現金(破産法34条3項1号)

・差押禁止財産(破産法34条3項2号)

・自由財産の拡張がされた財産(破産法34条4項)

・破産管財人が破産財団から放棄した財産(破産法78条2項12号)

差押禁止財産には、差押禁止債権と、差押禁止動産があります。

差押禁止債権には以下のようなものがあります。

・給料、賃金、賞与、退職金の4分の3相当額(給与や賞与が44万円を超える場合は、33万円までが差押禁止になります。)

・国民年金・厚生年金等の公的年金受給権

・確定給付企業年金受給権

・確定拠出年金受給権

・中小企業退職金共済受給権

・小規模企業共済受給権

・生活保護受給権

差押禁止動産は以下のようなものです。

・生活に欠くことのできない衣服、寝具、家具、台所用具、畳、建具

・1ヶ月の生活に必要な食料・燃料

・実印その他の印

・仏像、位牌、その他の礼拝・祭祀に必要なもの

・公表していない発明または著作

・義手や義足等

・職業に欠くことのできない器具その他の物

破産管財人が破産財団から放棄した財産も、自由財産となります。

財産価格に比べて処分にかかる費用が高額になるなどの理由で、破産管財人が裁判所の許可を得て一部の財産を破産財団から放棄することがあります。

こうして破産財団から放棄された財産は、自由財産として扱うことができます。

これらの自由財産は自己破産によっても処分されず、手元に残すことができます。

自由財産の拡張

自由財産には、本来的に自由財産として定められているものの他に、裁判所が自由財産として認めたものも含まれます(破産法34条4項)。

これを自由財産の拡張といい、拡張された財産についても自由財産として残すことが可能です。

自由財産の拡張を認める基準は各地の裁判所で異なっています。

一例として、東京地方裁判所の自由財産拡張基準では、以下のような財産については、自由財産の拡張の申立てをしなくても自由財産として扱われることになります。

・合計して残高が20万円以下になる預貯金

・合計して見込額が20万円以下になる生命保険の解約返戻金

・処分の見込価格が20万円以下の自動車

・支給見込額の8分の1相当額が20万円以下になる退職金債権

・支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える場合の退職金債権の8分の7

・居住している家屋の敷金債権

・電話加入権

これらの財産以外については自由財産拡張の申立てをすることになりますが、現実的には自由財産の拡張が認められるのが難しい場合が多くあります。

任意整理・個人再生

任意整理とは、裁判外で弁護士が債権者と交渉することで将来の利息や遅延損害金を減額してもらい、3年から5年ほどの期間で債務を返済していくものです。

個人再生とは、裁判所から再生計画を認可する決定を得て債務を大幅に縮減した上で、3年ほどかけて残りの債務を返済していく手続きです。

個人再生は負債の総額が5,000万円以下でないと利用できませんが、債務を大きく減らせる利点があります。

任意整理や個人再生は、自己破産とは異なり債務を返済していく必要がありますが、家や自動車などの財産を残せる場合があるというメリットがあります。

自己破産・任意整理・個人再生には、それぞれメリット・デメリットがありますので、弁護士にアドバイスを受けるとよいでしょう。

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まとめ

この記事では、詐欺破産罪の要件と刑罰、財産隠しをするとどうなるか、自己破産でやってはいけないことには何があるかといったことについて検討してきました。

自己破産を考えるときは、具体的に何が許されて何が許されない行為なのか難しく感じることがあるかもしれません。

自己破産は免責という大きな効果を得られる可能性がある反面、要件が厳しくなっていますので、借金問題にくわしい弁護士と相談して手続きをすることをおすすめします。

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