ビジネスデューデリジェンス(DD)とは、買収先の将来性やシナジー効果を調査・分析するプロセスです。ビジネスデューデリジェンス(DD)を行うことで、精度が高い事業計画の策定などが可能となることから、最終的なM&Aの成否を分ける重要性の高いプロセスとして位置づけられています。
そこで本記事では、ビジネスデューデリジェンス(DD)とは具体的にどのような調査・分析なのか、実施の目的や種類、役立つフレームワークなどと併せて解説します。
- 1 ビジネスデューデリジェンス(DD)とは
- 2 ビジネスデューデリジェンス(DD)の目的や実施する理由
- 3 ビジネスデューデリジェンス(DD)の重要性
- 4 ビジネスデューデリジェンス(DD)が不十分だったために問題が発生した事例
- 5 ビジネスデューデリジェンス(DD)の種類
- 6 ビジネスデューデリジェンス(DD)を行うタイミング
- 7 ビジネスデューデリジェンス(DD)を行う方法と流れ全9ステップ
- 8 ビジネスデューデリジェンス(DD)で活用できるフレームワーク
- 9 ビジネスデューデリジェンス(DD)を任せるべき人と必要な専門知識
- 10 ビジネスデューデリジェンス(DD)を行う時の注意点やリスク
- 11 ビジネスデューデリジェンス(DD)のまとめ
ビジネスデューデリジェンス(DD)とは
初めに、ビジネスデューデリジェンス(DD)の基本情報として、定義や英語表記、ビジネス以外のデューデリジェンス(DD)との関係性などを解説します。
ビジネスデューデリジェンス(DD)の定義
ビジネスデューデリジェンス(DD)とは、M&A対象企業がどのようなビジネスを行っているかを整理し、その企業がどのようにお金を稼いでいるか、どのような競争優位性があるか、どのような市場環境の中で活動しているかなどを調査・分析することです。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を財務・税務分野の調査と組み合わせて実施することで、M&A対象企業の過去の実績に基づいて未来の収益性を予測し、より正確なビジネスプランを立てられるようになります。
ビジネスデューデリジェンス(DD)は買収予定企業の未来を予測するための調査であり、その企業の競争上の利点、強みと弱みを分析し、どのようにしてこれらが自社と相乗効果を生み出すかを考察します。また、ビジネスデューデリジェンス(DD)では市場分析を通じて、外部環境から買収企業に及ぼされる影響を評価します。
財務や税務分野のデューデリジェンス(DD)は、過去の業績を基に買収企業の現状を理解することに焦点を当てています。一方で、ビジネスデューデリジェンス(DD)の主な目的は、将来の収益性を見極め、より具体的な事業計画の可能性を探ることです。
ビジネスデューデリジェンス(DD)の英語表記
ビジネスデューデリジェンス(DD)の英語表記は、「Business Due Diligence」です。「Due Diligence」は日本語で「当然の努力」と訳される言葉です。
上記の意味から転じて、M&Aの意思決定における当然の努力として問題点などを把握するために調査・分析するプロセスをデューデリジェンス(DD)と呼ぶようになりました。
そして、「Business」という英語を用いて、事業分野の調査を「ビジネスデューデリジェンス(DD)」と呼称するようになりました。
ビジネス以外のデューデリジェンス(DD)一覧
下表に、ビジネス以外のデューデリジェンス(DD)の代表例をまとめました。
名称 | 概要 |
法務デューデリジェンス(DD) | M&A対象企業における設立からの株主関係・組織の状況・取引先との契約関係・許認可・資産や負債・従業員の労働環境などを調査・分析し、法令遵守や訴訟などあらゆる法務面でのリスクの有無をチェックする。 |
財務デューデリジェンス(DD) | M&A対象企業や事業の財務の状況・リスク・課題を検討する。 一般的にM&A対象企業の過去の一定期間における業績・財政状態・キャッシュフローの分析を通じて、M&A取引案件の評価や投資意思決定に資する情報を集めることが目的。 |
税務デューデリジェンス(DD) | M&A対象企業に関して、過年度の税務申告書や税務調査に関連する資料を分析し、追徴課税の可能性の有無や繰越欠損金の発生状況などを確認することで税務リスクやスキームに影響する項目を調査する。 |
人事デューデリジェンス(DD) | M&A対象企業における労務管理や人材マネジメントのルール・仕組みと実態に関する情報、保有する人材に関する情報(例:人員構成、報酬水準やスキル・能力など)を収集・分析し、買収におけるリスクと機会を明確化する。 |
不動産デューデリジェンス(DD) | M&Aによる買収対象となる企業が所有する不動産について調査を行うプロセス。具体的には、不動産の所有権や土地の法的な権利、物件の評価、建物や設備の状態、リース契約、税務情報などの詳細な情報を集めて、不動産取引や投資におけるリスクを最小限に抑えるための情報を調査・分析する。
不動産デューデリジェンス(DD)では、不動産の現地調査も実施される。例えば、土地の形状や立地条件、周辺環境、交通アクセス、建物の状態や構造、設備の機能性、騒音や悪臭の問題、防犯性などを調査・分析する。 |
環境デューデリジェンス(DD) | M&A対象企業が保有する用地の環境面のリスク(例:土壌汚染リスクや排気廃水、遵法性など)を適正に評価し、M&Aにおける意思決定や価格形成に役立てるプロセス。 |
ビジネスデューデリジェンス(DD)の目的や実施する理由
ビジネスデューデリジェンス(DD)を実施する目的や理由として代表的なものは、以下の3つです。
- 対象事業の内容・将来性・シナジー効果・リスクを把握するため
- バリュエーションの妥当性をチェックするため
- M&A後の事業戦略・計画を修正するため
それぞれの内容を順番に詳しく解説します。
対象事業の内容・将来性・シナジー効果・リスクを把握するため
ビジネスデューデリジェンス(DD)は、企業の事業モデルや市場の動向を内部と外部の両方の視点から調査・分析するプロセスです。この調査・分析を通じて、M&A対象企業が直面している環境や将来性を理解し、M&A後のシナジー効果や実現可能性、さらには潜在的なリスクを明らかにできます。
また、ビジネスデューデリジェンス(DD)では、買収対象の競争力の根源を掘り下げて、市場内での立ち位置や戦略、自社とのシナジー効果を評価します。これにより、M&A後の戦略策定に必要な洞察を得られて、より効果的な統合プランを立てるための基盤を築くことが可能です。
バリュエーションの妥当性をチェックするため
ビジネスデューデリジェンス(DD)を通じて、M&A対象企業の内外の環境を詳しく調べることにより、当初実施していた買収価格の算定(バリュエーション)が妥当かどうかを見極められます。
内部・外部の視点からM&A対象企業の最新状況を把握することで、バリュエーションが現実に即しているか、価格を上方修正すべきか(または下方修正が必要か)を判断することが可能です。
さらに、ビジネスデューデリジェンス(DD)によって自社とのシナジー効果の具体的な内容やその実現可能性を評価することで、買収価格が適正かどうかをより正確に判断できます。その結果、当初の買収価格が不適切と判断された場合は、その価格を修正して交渉に臨むことになります。
M&A後の事業戦略・計画を修正するため
ビジネスデューデリジェンス(DD)によるM&A対象企業における収益性の調査は、M&A後の事業戦略や計画を見直すためにも重要です。
M&Aによって自社の販売網が広がったり、製造能力が増強されたりすると、こうした新しい状況に合わせた戦略の再構築が必要となるのが一般的です。
例えば、新たに獲得した販売網に最適な戦略は何か、新しい製造設備をどう活用して生産体制を整えるかなど、具体的な計画を策定する必要があり、その結果として収益性を含む事業計画も変更することが予想されます。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を行うことで、こうした事業戦略や計画の調整、新たな計画の策定に役立てることが可能です。
ビジネスデューデリジェンス(DD)の重要性
ビジネスデューデリジェンス(DD)は法律で義務付けられているわけではないですが、M&Aを成功させるためには欠かせません。取引の成否を客観的に評価し、より良い判断を下すうえで、ビジネスデューデリジェンス(DD)は重要なプロセスです。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を行うことの主なメリットは、以下のとおりです。
- 企業の実際の経営状況を客観的に理解し、適切なM&Aを実行できる
- M&A対象企業の見えない強みや弱点、将来性を明らかにし、総合的な評価が可能となる
- M&A対象企業の主張のみに依存せず、誤解や欺瞞のリスクを減少させられる
これらの利点から、ビジネスデューデリジェンス(DD)はM&Aの成功に不可欠なプロセスと言えるでしょう。
ビジネスデューデリジェンス(DD)が不十分だったために問題が発生した事例
本章では、ビジネスデューデリジェンス(DD)の実施が不十分だったために問題が発生したと考えられる事例として、以下の3つを紹介します。
- 丸紅によるガビロンに対するM&A
- パナソニックによる三洋電機に対するM&A
- キリンホールディングス株式会社によるスキンカリオールに対するM&A
それぞれの事例を読んで、ビジネスデューデリジェンス(DD)の重要性について改めて認識しておきましょう。
丸紅株式会社によるガビロンに対するM&A
2012年、総合商社大手の丸紅株式会社は事業拡大を図って、約2,800億円の買収金額でアメリカの穀物会社ガビロンを買収しました。丸紅株式会社は、ガビロンを含むアメリカ国内の複数の地点での穀物集荷事業を手掛けるとともに、中国をはじめとするアジア市場での販売網を広げることを目指し、買収を行いました。
しかし、買収後に丸紅株式会社の想定通りのスケジュールでシナジー効果が得られなかったことが影響して、1,000億円と巨額な金額だったガビロンののれん代によって500億円もの減損損失を出してしまいました。
本件M&Aでは、ビジネスデューデリジェンス(DD)を徹底し、期待できるシナジー効果を十分に分析・検討できていれば、これほどまでの減損損失を防止できた可能性があると考えられています。
参考:東洋経済オンライン「丸紅、「減損1200億円」を招いた2つの誤算」
パナソニック ホールディングス株式会社による三洋電機株式会社に対するM&A
2009年、パナソニック ホールディングス株式会社は6,600億円の資金を投じて、三洋電機株式会社を買収しました。買収資金のうち5,180億円はのれん代に充てられています。しかし、M&Aの実施後わずか2年で三洋電機株式会社の企業価値は半分近くまで下落し、のれん代のうち2,500億円を減損処理しています。
パナソニック ホールディングス株式会社の財務担当取締役発表によると、三洋電機株式会社の企業価値下落の原因は、主力製品だった民生用リチウムイオン電池の事業価値が、円高などの市場環境の悪化により大きく損なわれたためだとされています。
本件M&Aでは、ビジネスデューデリジェンス(DD)における外部環境分析を徹底し、円高によるリスクを十分に把握できていれば、膨大なのれん代を算出することなく、これほどまでの減損損失を防止できた可能性があると考えられています。
参考:東洋経済オンライン「パナソニックの大誤算、三洋買収で巨額損失」
キリンホールディングス株式会社によるスキンカリオールに対するM&A
2011年11月にキリンホールディングス株式会社は、ブラジルのビール企業「スキンカリオール」を3,000億円で買収しました。当時、ブラジル市場は年間10%の成長が期待されていましたが、景気の悪化とベルギーのビール会社との価格競争により苦戦しました。
結果として、2015年12月の決算でキリンホールディングス株式会社のブラジル事業「ブラジルキリン」は、1100億円の減損損失を記録し、473億円の赤字が発生しました。
その後、2017年6月にブラジルキリンはオランダのビール大手、ハイネケングループに770億円で売却されました。この買収の失敗の要因は市場調査、つまりは外部環境分析の不足と考えられています。
参考:BusinessJournal「キリン、“脱ビール”鮮明、海外M&A巨額損失で…投資ファンドが健康事業撤退要求」
ビジネスデューデリジェンス(DD)の種類
一言にビジネスデューデリジェンス(DD)と言っても、いくつかの種類に細分化されています。本章では、ビジネスデューデリジェンス(DD)の代表的な種類として、以下の5つを紹介します。
- コマーシャルデューデリジェンス(DD)
- オペレーショナルデューデリジェンス(DD)
- ITデューデリジェンス(DD)
- サステナビリティデューデリジェンス(DD)
- ガバナンスデューデリジェンス(DD)
それぞれの概要や特徴を順番に詳しく説明します。
コマーシャルデューデリジェンス(DD)
コマーシャルデューデリジェンス(DD)は、M&A対象企業・事業を取り巻く市場環境、競争環境、顧客動向の軸からビジネス面での強み・弱みや機会・脅威を把握し、売上に対するリスクやポテンシャルや買収後に想定されるシナジーなどを分析するプロセスです。
下表に、具体的な分析項目を簡潔にまとめました。
分析項目 | 概要 |
市場環境 | M&A対象企業が所属する業界の過去から未来にかけての市場の変遷やトレンド、業界の成長を促進する要因などが企業の将来の業績にどのような影響を与えるかを分析する |
競争環境 | 対象企業の競合について概要、ビジネスモデル、市場シェア、戦略、新規参入企業の動きなどを分析し、対象企業が業界内でどのような位置を占めているか、その成功の要因とその持続可能性を評価する |
顧客動向 | M&A対象先として検討している企業の製品やサービスを選んでいる顧客がどんな理由でそれを選び、その理由が時間とともにどのように変わっているかを理解することを目的とした分析であり、M&Aの対象となる企業が顧客のニーズ変化に適切に対応しているかを評価する |
オペレーショナルデューデリジェンス(DD)
オペレーショナルデューデリジェンス(DD)は、買収に伴うビジネスの運営面でのリスクやコスト削減の機会を早期に見つけ出し、将来のコスト計画の実現可能性を評価する過程です。この分析を通じて、事業価値の評価や交渉プロセスにおいて重要な情報を集めます。
主な分析項目は、下記のとおりです。
- M&A対象企業の商流、バリューチェーン、および業務フローを分析し、経営資源の配置が最適かどうかを検討する
- 事業の主要業績指標の妥当性と、これらの指標を用いて定期的にモニタリングし、迅速な経営改善の有無を評価する
- 製造プロセスの稼働率や効率を検討し、最適化の余地があるかどうかを確認する
- 将来の成長計画を支えるために、生産能力の増強や追加投資が必要かどうかを評価する
- 計画された売上成長を支えるための組織構造や人員計画が適切かどうかを検討する
- 統合時やその後に予想される一時的または継続的な追加支出の規模を把握する
ITデューデリジェンス(DD)
ITデューデリジェンス(DD)は、M&A対象企業の買収後に想定外のIT投資・コストが発生するリスクや対象会社の事業継続における懸念事項を把握するためのプロセスです。 ITの評価と評価結果を基にしたIT統合計画を策定し、企業のM&Aや事業再編の価値最大化を目指します。
サステナビリティデューデリジェンス(DD)
サステナビリティ・デューデリジェンス(DD)とは、ポートフォリオや個別資産の実際および潜在的なESGリスク(環境や地域・社会、企業倫理などに関連して複合的に発生するリスク)を特定・評価・管理するプロセスです。
ESGリスクに対するアプローチはポートフォリオの長期的な評価に影響を与える可能性があるため、M&Aによる買収にあたって重要な検討事項の一つとなります。
ガバナンスデューデリジェンス(DD)
企業におけるガバナンスとは、簡単に言うと健全な会社経営を行うために必要とされる企業自身による管理体制のことです。ガバナンスデューデリジェンス(DD)は、M&A対象企業のガバナンスが買収側企業のガバナンスの基準と同等、もしくはそれ以上なのか調査・分析するプロセスです。
分析の結果、M&A対象企業のガバナンスレベルが買収側以下だった場合、経営統合後のリスク要因となるためテコ入れが必要となり、それをコストと見立てて買収額に反映させていきます。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を行うタイミング
M&Aにおいてビジネスデューデリジェンス(DD)を実施するタイミングは、基本合意契約を締結した後で、なおかつ最終合意契約を締結するまでの間となるのが基本です。実務上、基本合意契約の締結から1か月程度が大まかな目安になります。
デューデリジェンス(DD)にはまとまった費用・時間がかかるため、なるべく早く済ませたいと考えてしまいがちですが、実施するタイミングが早すぎると「会社が潰れるのではないか?」などのあらぬ噂が流れて社員・取引先に動揺が広がるおそれがあります。
とはいえ、デューデリジェンス(DD)を実施するタイミングが遅すぎると、せっかく見つけた相手側企業が別の買手によって買収されてしまう可能性もあります。デューデリジェンス(DD)を成功させるためには、早すぎず遅すぎずないタイミングを見極めることが重要です。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を行う方法と流れ全9ステップ
本章ではM&Aにおける買収側を基準に、ビジネスデューデリジェンス(DD)の進め方を以下の流れに沿って解説します。
- 専門家に依頼する
- 調査内容を決定する開示請求を行う
- 開示請求を行う
- 相手側に対してヒアリングを実施する
- 外部環境分析を行う
- 内部環境分析行う
- シナジー項目を抽出する
- シナジー効果の定量評価や実現可能性の検証を行う
- 事業計画を修正しバリュエーションに反映させる
それぞれのステップで行われる内容を具体的に紹介しますので、ビジネスデューデリジェンス(DD)を実施する際の参考にしてください。
専門家に依頼する
ビジネスデューデリジェンス(DD)の実務を担う専門家は、法務や財務・税務分野の専門家に比べて数が限られているため、スムーズにM&Aの計画を進めていくためには早めの依頼が必要です。依頼が遅れると全体のスケジュールに影響を及ぼす可能性があるので、余裕を持って専門家に相談しましょう。
また、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンス(DD)の実績があるコンサルタント・専門家を選ぶことも大切です。すべてのコンサルタント・専門家がビジネス分野でのデューデリジェンス(DD)の経験を持っているわけではないため、慎重に選択しましょう。
調査内容を決定する
専門家に依頼後、次はデューデリジェンス(DD)の調査内容や範囲を決める段階です。ビジネスデューデリジェンス(DD)の範囲は広く、多くの項目をカバーするため、中小企業のM&Aにおいて全てを詳細に調査することは現実的ではありません。
そのため、ビジネスデューデリジェンス(DD)の実施前に、M&Aの目的や対象となる企業の特性、規模に応じて、何を重点的に調べるのか優先順位を設定します。専門家の意見を参考にしながら、どの調査項目を重視するかを決めていきましょう。
開示請求を行う
次に、M&A対象企業に対して、前ステップで決定した調査項目に基づいて必要な資料の開示を依頼します。開示を求める資料には、貸借対照表や損益計算書など、企業からこの時点でまだ提供されていない書類が含まれます。
相手側に対してヒアリングを実施する
次のステップでは、M&A対象企業の経営者やマネジメント層の人間に直接会ってヒアリングを行います。このヒアリングは、自社のスタッフが担当することもあれば、弁護士などの代理人が行う場合もあります。
ここでのヒアリングの主な目的は、経営者やマネジメント層の人柄や企業の文化・理念など、数字では表せない要素や資料だけでは得られない情報を深く理解することにあります。
外部環境分析を行う
ここからは専門家と協力して、M&A対象企業から提供された資料やヒアリングから得た情報などに基づき、対象企業のビジネスに関する入念な調査・分析を行っていきます。
外部環境の分析では、M&A対象企業が直面しているビジネス・市場・競争の状況を詳しく調べていきます。外部の要因は自社単独では対処が難しいものが多いため、M&A対象企業にどのような影響が及んでいるのかを入念に把握したうえでM&Aを実施することが重要です。
外部環境を分析する際には、5フォース分析やPEST分析などのフレームワークを用いることが一般的です。これらの分析方法を通じて、買収対象の企業がどのようなビジネスチャンスやリスクに直面しているかを明らかにします。外部環境分析に使うフレームワークについて、詳しくは後述します。
内部環境分析行う
内部環境の分析では、M&A対象企業の価値を評価し、その結果が買収交渉にどのように影響するかをチェックします。具体的には、M&A対象企業が提供する商品・サービスの強み、および競合と比較したときの優位性を洗い出しますが、ここで重要なのは自社の強みと対象企業の内部資源をどのように組み合わせることができるのか理解することです。
内部環境を分析する際によく使われるフレームワークには、VRIO分析やバリューチェーン分析などがあります。これらの方法を用いて、M&A対象企業の内部資源が持つ競争優位性や価値を明らかにします。内部環境分析に使うフレームワークについても、詳しくは後述します。
シナジー項目を抽出する
M&Aの実施過程で、シナジー効果(M&A対象企業の強みと自社の強みが合わさることで生じる相乗効果)を評価します。シナジー効果とは、両社の組み合わせにより単独の企業では得られない大きなメリットが発生する現象のことです。
上記と合わせて、M&Aによる買収が引き起こす可能性のある負の影響(ディスシナジー効果、アナジー効果)についても検討します。これらの効果を明らかにすることで、M&Aが成功につながるかどうかをより正確に評価できるようになります。
シナジー効果の定量評価や実現可能性の検証を行う
シナジー効果やディスシナジー効果を調査・分析した後は、それらを具体的な数値に落とし込んで実現可能性を評価します。具体的には、M&Aによる買収に伴う売上増加やコスト削減の可能性を分析し、これらのシナジー効果を定量化していきます。
このプロセスでは、シナジー効果の実現可能性を深く理解し、その実現のために必要な施策を特定します。こうしてまとめられた情報をM&Aによる買収後の統合計画(PMI計画)に組み込み、成功に向けたロードマップ作成に繋げていきます。
事業計画を修正しバリュエーションに反映させる
シナジー効果やディスシナジー効果を数値化し、その実現可能性を評価した後は、得られた情報を基に事業計画を更新し、バリュエーションに反映させます。
このときに特に注意すべきは、シナジー効果による事業計画の改善をそのまま買収価格に上乗せしないことです。シナジー効果を買収価格に完全に含めてしまうと、自社が享受すべきメリットを前もって支払うことになり、もしシナジーが期待通りに発生しなかった場合、不利益を被るリスクがあります。
ビジネスデューデリジェンス(DD)で活用できるフレームワーク
本章では、ビジネスデューデリジェンス(DD)の実施にあたって役立つフレームワークとして、以下の5つを取り上げます。
- 5フォース分析
- PEST分析
- SWOT分析
- VRIO分析
- バリューチェーン分析
それぞれのフレームワークの概要や特徴を順番に解説します。
5フォース分析
5フォース分析は、M&A対象企業が直面する潜在的な脅威を、以下5つのカテゴリーに分けて詳細に分析する手法です。
- Entry(新規参入):新しい競争者が市場に参入しやすいかどうか。
- Rivalry(競合):既存の競合企業間の競争の程度
- Substitutes(代替品):顧客が容易に他の製品やサービスに切り替えられるか
- Suppliers(供給者):供給者が価格や取引条件を左右できる力
- Buyers(購入者):顧客が価格交渉やサービスの質を決定できる力
後述するPEST分析が企業外部のマクロ環境を広く評価するのに対し、5フォース分析では企業が直面する具体的な脅威に焦点を当てます。
PEST分析
PEST分析は、企業が直面する外部環境を広範囲にわたって評価する手法で、その名前は以下の4つの分析領域の頭文字から取られています。
- 政治的要因(Politics):政府の政策、法律の変更、政治的安定性など、政治環境によるビジネスへの影響
- 経済的要因(Economics):経済成長、インフレ率、為替レートなど、経済状況が企業活動に与える影響
- 社会的要因(Social):人口統計、生活様式の変化、消費者の傾向など、社会的変化による影響
- 技術的要因(Technology):新技術の発展、研究開発の動向、技術革新による市場や業界への影響
PEST分析により、企業は外部環境の広範な要素を体系的に理解し、それらが事業にどのように影響するかを評価できます。PEST分析は企業戦略の策定やリスク管理に役立ち、より狭い範囲での競争分析を行う5フォース分析と補完的に使用されます。
SWOT分析
SWOT分析は、M&A対象企業の内部および外部環境を総合的に評価するために広く使用される手法です。SWOT分析は、企業の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つの要素に焦点を当てています。
- 強み(Strengths):企業の内部に存在するポジティブな要素や競争上の利点
- 弱み(Weaknesses):企業の内部に存在する制限や不利な要素
- 機会(Opportunities):企業の外部環境に存在し、利用することで成長や利益をもたらす可能性のある要素
- 脅威(Threats):企業の外部環境に存在し、事業へのリスクや損失の可能性を高める要素
SWOT分析を通じて、販売・生産戦略、主要な取引先、販売方法、仕入れ、製品開発・財務・経理状態などの内部要素を評価するのと同時に、経済動向、市場の変化、競合他社の戦略などの外部要素も検討します。
このように、SWOT分析は企業がM&Aによる買収を行う際に、M&A対象企業の将来性や利益創出の可能性を総合的に評価するための有力なフレームワークです。
VRIO分析
VRIO分析は、対象企業の経営資源が市場でどれくらいの価値なのかを評価する内部環境分析手法です。VRIO分析は、企業が市場でどのように差別化されるか、そしてその差別化が持続可能かどうかを理解するのに役立ちます。VRIOは以下の4つの要素から成ります。
- Value(経済価値):企業の資源や能力が市場に価値を提供し、収益を生み出すかどうか
- Rarity(希少性):その資源や能力が市場で珍しい、または他に類を見ないものかどうか
- Inimitability(模倣困難性):競合他社がその資源や能力を容易に模倣できないか、模倣には高いコストがかかるかどうか
- Organization(組織能力):企業がその資源や能力を最大限に活用し、戦略的な目的を達成するための組織構造、プロセス、システムを持っているかどうか
VRIO分析を通じて、M&A対象企業が持つ独自の強みや市場での競争優位性、その優位性がどの程度持続可能かを深く理解できるようになり、買収後の戦略計画や可能性あるシナジー効果をより明確に見極めることが可能です。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、企業がどのように価値を創造しているかを理解するための内部環境分析ツールです。バリューチェーン分析は経済学者マイケル・ポーターによって考案され、企業の活動を「主要活動」と「支援活動」の2つに区分して、それぞれの活動がどのように価値やコストを蓄積しているかを見つけ出します。
「主要活動」とは製品やサービスの製造から顧客への配送、そしてアフターサービスまでのプロセスを指し、以下の活動を含みます。
- 購入と物流:原材料の調達と製品への加工前輸送
- 製造:製品の作成やサービスの提供
- 出荷と物流:完成した製品の配送
- マーケティングと営業:製品の販売促進
- サービス提供:顧客サポートとアフターサービス
「支援活動」とは主要活動を支える管理や基盤となる活動で、以下を含みます。
- 経営管理:全体の戦略計画や財務管理
- 技術開発:研究と製品開発
- 人事管理:採用、研修、労務管理
- 調達:資材やサービスの購入
バリューチェーン分析を通じて、M&A対象企業の各部門がどのように相互作用して全体の価値を高めているかを評価し、企業全体の価値創造プロセスを深く理解できるようになり、M&A後の統合プロセスや潜在的な価値向上の機会をより明確に特定できます。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を任せるべき人と必要な専門知識
本章では、M&A実施にあたってビジネスデューデリジェンス(DD)を誰に任せるべきなのか、調査・分析のプロセスを進めるために具体的にどのような専門知識が求められるのかなどについて解説します。
ビジネスデューデリジェンス(DD)はコンサルタント(外部専門家)に任せるべき
結論からお伝えすると、中小企業を対象とするM&Aであっても、ビジネスデューデリジェンス(DD)は外部のコンサルタント・専門家に依頼することが望ましいです。
ビジネスデューデリジェンス(DD)が十分に行われないと、M&A成立後に長期にわたってリスク要因となり得ます。後々大きなトラブルに発展させないためにも、外部のコンサルタント・専門家への依頼を検討しましょう。
ビジネスデューデリジェンス(DD)におけるコンサルタントの役割
外部のコンサルタントや専門家にビジネスデューデリジェンス(DD)を依頼することの大きな利点は、業界固有の環境や特性に関する深い理解と経験、M&Aに特化した専門知識を活用して、M&A対象企業の外部および内部環境を正確かつ客観的に分析できるようになることです。
さらに、M&A後の事業計画や戦略に焦点を当てたビジネスデューデリジェンス(DD)を実行できるため、買収を検討する側は最終判断を下す際に信頼できる第三者の意見を参考にできます。
効率的にコスト・時間・労力を節約するため、M&Aを行う際には外部のプロフェッショナルへのビジネスデューデリジェンス(DD)の依頼を考えてみると良いでしょう。
ビジネスデューデリジェンス(DD)をコンサルタントに依頼する際の費用
ビジネスデューデリジェンス(DD)を外部のコンサルタント・専門家に依頼した場合、依頼する作業の範囲や調査する企業の大きさに応じて費用が変わりますが、大まかな目安として数十万円から数百万円程度で依頼することが可能です。
依頼内容などを工夫することで費用を抑えることも可能ですが、結果として必要な情報を得られなければビジネスデューデリジェンス(DD)を実施する意味がなくなるため、信頼できる専門家に相談しながら業務範囲を決めましょう。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を行う時の注意点やリスク
ビジネスデューデリジェンス(DD)を進める時は、以下の注意点を把握しておきましょう。
- 外部専門家に依頼し社内外での協働体制を構築する
- M&Aの規模に応じて重点的に調査する項目を絞り込んでおく
- 情報管理体制を構築し情報漏洩を防ぐ
それぞれのポイントを順番に解説しますので、自社でビジネスデューデリジェンス(DD)を実施する際にお役立てください。
外部専門家に依頼し社内外での協働体制を構築する
M&Aにより同業他社の買収を考えている際、買収側企業がM&A対象企業に対してビジネスデューデリジェンス(DD)を行うことがありますが、このプロセスを効果的に進めるには対象業界の深い理解、外部環境の広範な知識、ビジネスデューデリジェンス(DD)やM&Aに関する経験が必要です。
そのため、前述したように、外部のコンサルタント・専門家の協力を得ることが、M&Aによる買収成功の鍵となります。特にM&Aによる買収で異業種からの新規事業進出を目指す場合には、M&Aに関する専門知識が欠かせません。
ビジネスデューデリジェンス(DD)はM&A後の事業戦略や計画に直結するため、ただ外部の専門家に任せるのではなく、買収後の管理や運営に携わる予定の社内スタッフも積極的に関与させることが大切です。外部専門家と社内チームが協力し合うことで、より包括的で実行可能な事業計画を策定できます。
M&Aの規模に応じて重点的に調査する項目を絞り込んでおく
ビジネスデューデリジェンス(DD)を全面的に行うには多くのコスト・時間がかかるため、重要な項目に焦点を当てて調査することが望ましいです。M&A対象企業の事業性質や成長段階、業界の状況を考慮して調べるべき重要項目を選び、優先順位を決めて調査範囲を絞ります。
次に、ビジネスデューデリジェンス(DD)にあたってどの資料を取得する必要があるかを項目ごとに判断します。このプロセスを効率的に進めるには、M&A対象企業の事業に関する深い理解と、ビジネスデューデリジェンス(DD)やM&Aに関する広範な経験が求められます。そのため、専門家と連携して、M&A対象企業について、どの項目を調査し、どの資料を要求するかを決めることが推奨されます。
情報管理体制を構築し情報漏洩を防ぐ
ビジネスデューデリジェンス(DD)の過程では、M&A対象企業から提供される機密情報の管理が重要であるため、資料を安全に保管し調査するデータルームが設けられます。データルームは、企業内部や外部の会議室もしくはインターネット上の仮想空間として設置されることもあります。
特に個人情報を含むデータは、個人情報保護法に従った取り扱いが必須です。通常、第三者への情報提供には本人の同意が必要ですが、合併・会社分割・事業譲渡のように企業が統合する場合は、本人の同意やオプトアウト手続きを経ることなく買い手企業に個人データを承継でき、デューデリジェンス(DD)の実施時においても個人データの提供が認められています。
とはいえ、ビジネスデューデリジェンス(DD)の実施時など事業承継の交渉段階で個人データを提供する際には、データの利用目的や安全管理、交渉が不成立に終わった場合のデータの取り扱いなどに関する詳細を契約で定めておく必要があります。
なお、M&A対象企業がM&A実施後も独立した法人として存続する場合は、本人の同意やオプトアウト手続きを経ることが基本です。
ただし、ビジネスデューデリジェンス(DD)(企業調査)は、一般的に関係者間で秘密に行う必要があり、対象者の同意を得たり、オプトアウトの手続きを実施したりすることは、実際には難しいため、個人データを含む資料を提供する場合は個人データの部分を削除・加工して匿名化するなどの対応が必要です。
ビジネスデューデリジェンス(DD)のまとめ
ビジネスデューデリジェンス(DD)は、買収対象となる企業の事業やその将来性に関して調査・分析することです。調査範囲は非常に幅広く多岐にわたるため、適切に実施するためにはビジネスデューデリジェンス(DD)に精通する外部専門に依頼する必要があります。
ビジネスデューデリジェンス(DD)を依頼する専門家は、実績の豊富さで選ぶのがおすすめです。日本ではM&A自体の件数が少ないため、コンサルティング会社や公認会計士であっても、十分なスキルを持っていないケースが珍しくありません。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、10年来、M&Aを取り扱ってきたM&Aの弁護士がM&Aの法務・業務に対応しており、これまでに300件以上ものM&Aの案件に関与してきました。
弁護士法人M&A総合法律事務所のデューデリジェンス(DD)は、M&Aのアドバイザーとして多数の成約実績を有する弁護士および公認会計士が担当し、統括しております。法的トラブルを避けながらM&Aの実施を適切に判断したい場合には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談ください。