近年、大企業だけでなく中小企業でもM&Aが多く行われるようになっています。
M&Aは、事業拡大や企業再編をする手段として用いられます。その際、どの種類のM&Aを選択するかは重要な問題となります。
そこで、この記事では、M&Aの種類と手法について、メリットとデメリット、事例などを交えて解説していきます。また、適切なM&Aを選ぶためのポイントやM&Aの専門家についても紹介します。
M&Aとは?
M&Aは「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」の略で、合併や買収で2つ以上の企業が1つになるという意味です。
M&Aは、「広義のM&A」と「狭義のM&A」の2種類に分かれます。
簡単に言うと、譲渡代金の支払いのある合併や買収のM&Aを狭義のM&Aと呼び、譲渡代金の支払いの無いM&Aを広義のM&Aと呼びます。
広義のM&Aと狭義のM&Aは以下のように分類されます。左→右で、目的→手段という関係になっています。
広義のM&A | 広義・狭義のM&A | 狭義のM&A | |
資本提携(広義) | 買収(狭義) | 株式取得 | 株式譲渡 |
第三者割当増資 | |||
株式交換 | |||
株式移転 | |||
事業譲渡 | |||
合併(狭義) | 吸収合併 | ||
新設合併 | |||
分割(狭義) | 吸収分割 | ||
新設分割 | |||
株式の持ち合い(広義) | |||
合弁会社の設立(広義) | |||
その他のM&A | |||
業務提携 | 共同開発・技術提携 | ||
OEM提携 |
狭義のM&Aとは?
一般的にM&Aとは狭義のM&Aのことを指すことがほとんどです。
狭義のM&Aは2つ以上の会社事業が1つになることを意味します。具体的には以下の3種類があります。
- 買収
- 合併
- 会社分割
狭義のM&Aの特徴は、譲渡代金や経営権が移転することです。買い手企業は譲渡代金を支払って経営権を得て、売り手企業は譲渡代金を得る代わりに経営権を失います。
M&Aの種類によっては、譲渡代金を株式で支払ったり、失う事業は一部の事業のみとすることも可能です。
広義のM&Aとは?
譲渡代金の支払いが無いM&Aは「広義のM&A」と呼ばれ、グループ会社内での再編や資本提携などが含まれます。企業同士の権利の移転や譲渡代金の支払いがなく、独自性を保ったまま行われます。
広義のM&Aには、以下のものがあります。
- 資本提携:対象となる会社の株を所有し、資金を援助する形。経営権は取得せず、企業間の協力関係を築くもの。資本提携をすることで、目標の達成や業務上の支援を目指す。
- 合弁会社(JV)設立:いくつかの企業が資本を出し合って(これを共同出資と言います)新しい会社を設立するもの。海外進出をする際に、現地企業との合弁会社を設立することもある。
- 株式持ち合い:いくつかの会社がお互いの株式を取得するもの。特別な契約があるわけではなく、通常の株式と同じように売買契約で行われる。友好関係にある企業同士で行われることが多い。
このようにM&Aの本来の意味である買収や合併が行われない場合でも、M&Aの1つとなります。
経営戦略の1つとしてM&Aが行われ、目的に応じた種類、手法があると考えてください。
その他のM&Aとは?
その他のM&Aとしては、以下のものがあります。
- 業務提携:開発、製造、販売などを協力して行うもの。企業が互いに技術や人材などの経営資源を提供しながら、事業競争力の向上を目指す。例えば、技術提携、生産提携、販売提携など。
- OEM提携:企業のブランドを使用し、対象企業に委託して生産を行うもの。委託側は、設備投資などをせずに自社のブランド製品を扱える。受託側も委託側のブランド力を利用して自社の技術を周知させることができる。
このように、M&Aの範囲は広く、その種類も多様にあります。
そこで、ここからは、狭義のM&Aについて、その種類や手法、メリットとデメリット、そして、それぞれのM&Aの種類の成功事例について解説します。
狭義のM&Aの種類1「買収」
買収(Acquisitions)とは、ある企業が他の企業の経営権や事業の運営権を買い取るM&Aを言います。これにより、売り手側は譲渡代金を取得し、買い手側は経営権を取得します。
買収は中小企業において最も多く使われるM&Aの種類です。
買収には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
買収のメリット
- 買い手側:既に軌道に乗っている事業を取得できる。時間がかからずに自社を補強できる。既存事業の強化ができる。協業他社に対する優位性を確立できる。
- 売り手側:売却による利益を取得できる。会社の後継者不足を解決できる。事業継続や発展も期待できる。
買収のデメリット
- 買い手側:買収した事業の収益が低い場合がある。簿外債務や偶発債務の発生により多額の損失を被る恐れあり。
- 売り手側:経営者は経営権を失う。企業価値をアピールできなければ譲渡代金が低く見積もられる恐れあり。
買収については、さらに2つに分類することができます。
- 株式取得
- 事業譲渡
どちらにもメリット・デメリットがあり、目的に合ったものが選ばれます。
買収のM&Aの種類(1)株式取得
株式取得とは、企業が他の企業の株式を取得することでその経営権を獲得するものです。
買い手側は株式の過半数を取得して、売り手側の経営に関与することができます。
株式取得のメリットとデメリットは以下のようになります。
株式取得のメリット
- 買い手側:株式の取得割合が50%を超えると売り手側を子会社化できる。許認可を引き継ぎやすい。
- 売り手側:従来の企業形態を維持できる。負債なども買い手側に移転できる可能性あり。
株式取得のデメリット
- 買い手側:100%子会社化すると売り手側の負債や不振事業なども引き継ぐ必要あり。敵対的買収をする場合は売り手側の従業員から反感を買う恐れあり。売り手側の株主が多い場合は交渉に時間がかかる。
- 売り手側:株式の取得割合が100%の場合は事前に全株主の同意が必要。
株式取得のM&Aには、4つの代表的な手法があります。それは、株式譲渡、第三者割当増資、株式交換、株式移転というものです。以下、それぞれ詳しく解説します。
株式取得の手法①株式譲渡
株式譲渡は、ある企業が他の企業の株式を買い取る方法により経営権を取得する手法です。
買収によるM&Aの中で最も多く行われるのが株式譲渡です。手続きが比較的簡単であるため、特に中小企業では多く実施されています。
株式譲渡は、株式譲渡契約を締結し、買い手側が譲渡代金を支払った後、株主名簿の書換えをするという流れで成立します。
株式譲渡のメリット・デメリット
株式譲渡には、以下のメリットとデメリットがあります。
株式譲渡のメリット
- 買い手側:許認可や取引先との契約などを引き継げる。コストや時間をかけずに事業を拡大できる。役所などへの手続や変更登記の申請は不要で、手続きが比較的に容易。企業のブランドを得ることができる。
- 売り手側:経営方針を大きく変えずに存続できる。従業員の雇用契約を継続できる。株主は譲渡の対価として現金を受け取れる。事業譲渡よりも税金を抑えられ、手元に多くの現金が残る。
株式譲渡のデメリット
- 買い手側:望んでいない会社の負債も引き継ぐ必要あり。一部の事業のみの売却はできず、すべての事業含んだ会社を売却しなければならない。多額の買収資金が必要となる。
- 売り手側:会社名義の個人資産も買い手側に譲渡されるため、それらを買い戻す必要あり。負債や不振事業があると譲渡価格が減額される可能性あり。
株式譲渡の種類
ほかにも株式譲渡には株式の取得方法によって「TOB」や「MBO」と呼ばれる手法があります。
- TOB:株式公開買付のことで、不特定多数から株式を購入する手法。
- MBO:会社の従業員や役員がM&A代金を集め株式を購入する手法。会社のことを熟知している人物が後継者となるので、事業承継のM&Aならばメリットがある。
株式取得の手法②第三者割当増資
第三者割当増資(新株引受とも言います)とは、ある企業が新株を発行し、指定された企業がそれを引き受ける権利としてお金を支払う手法です。
売り手側は資金調達の目的で行い。買い手側は相手方企業に対する支配力強化の目的を行うことが多いです。また、敵対的買収の防衛策にもなります。
第三者割当増資のメリット・デメリット
第三者割当増資にもメリットとデメリットがあります。
第三者割当増資のメリット
- 買い手側:TOB規制の適用を受けずに経営権を獲得できる。対象企業の経営に対して影響力を持てる。企業価値の向上が期待できる。
- 売り手側:返済義務なく資金を調達できる。資金調達をして事業拡大や信用力を強化できる。業務提携や資本提携がスムーズに行える。株式の譲渡ではないため譲渡税は発生しない。
第三者割当増資のデメリット
- 買い手側:売り手側の株式全部を取得することはできない。既存株主の存在により、完全な経営権を掌握することはできない。経営権を掌握するためには多額の資金が必要。
- 売り手側:経営陣の持ち株比率が低下し、影響力も低下する。資本金が増加するため増税のリスクあり。
株式取得の手法③株式交換
株式交換とは、対価として新株を発行し、相手方企業の株式と交換するという手法です。
売り手側は買い手側の子会社となります。買い手企業は資金を用意する必要がないのが特徴です。
株式交換のメリット・デメリット
株式交換のメリットとデメリットは以下の通りです。
株式交換のメリット
- 買い手側:多額の資金を用意しなくても経営権を獲得できる。買い手側の株式価値が高い場合には現金による買収よりも低価格で買収できる可能性あり。売り手側の会社が子会社となるため、着実にグループ化を進められる。売り手側の株主の3分の2以上の賛成で売り手側企業を完全子会社化できる。
- 売り手側:買い手側が上場企業の場合は交換された株式の株価上昇による利益を得られる。一定の要件を満たせば売却益に税金がかからない。買い手側の株式を得ることで買い手側企業の経営に参加できる。統合プロセス(PMI)の負担が小さい。
株式交換のデメリット
- 買い手側:売り手側の株主が新たに加わるため既存株主の持ち株比率が希薄化する。買い手側の株主構成も変化する。売り手側の負債も引き継ぐ必要あり。
- 売り手側:買い手側が上場企業の場合には1株当たりの利益が減少して株価下落のリスクあり、買い手側の株価が低いと割高の買収になる可能性あり。株主総会決議や反対株主からの株式買取り請求への対応などの手続が煩雑。株式の現金化が難しい。
株式取得の手法④株式移転
株式移転とは、会社を新設し、売り手側の株式の全部を新設した会社に取得させる手法を言います。新設会社が完全親会社、売り手側が新設会社の完全子会社となります。
主に、グループ再編や経営統合をする際に株式移転の手法が用いられます。
株式移転のメリット・デメリット
株式移転のメリットとデメリットは以下のようになります。
株式移転のメリット
- 本社の機能を親会社に統合できれば、子会社の間接費や管理コストを大幅に削減できる。
- 多額の資金がなくても親会社の傘下に入れる。
- 会社を新設することで複数の会社が法人格を維持したまま経営を統合できる。
- 統合プロセス(PMI)の負担が小さい。
株式移転のデメリット
- 子会社間の連携が進まない場合には経営統合の効果が出ない。
- 子会社の数が多ければ株主数の変動も大きくなり、手続きが煩雑になる。
買収のM&Aの種類(2)事業譲渡
事業譲渡は、買い手側が対価を支払って、売り手側の不動産、人材、取引先、ノウハウなどの事業を取得する手法です。
すべてを譲渡するだけでなく、事業の一部を選択して譲渡することも可能です。すべて譲渡するのを「全部譲渡」一部を譲渡するのを「一部譲渡」と呼びます。それぞれの特徴は以下の通りです。
- 全部譲渡:譲渡会社は解散するわけではないが、譲渡対象の事業と同種の事業を行うことができなくなる(競業避止義務)。譲受会社はそれまでの定款所定の目的の事業を行っても、定款の内容を変更してもよい。
- 一部譲渡:当事者間で自由に譲渡対象となる事業を定められる。売り手側は残す事業と譲渡する事業の選別と集中を図ることができる。買い手側は望む事業のみを譲り受けることが可能。
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡には以下のメリットとデメリットがあります。
事業譲渡のメリット
- 買い手側:一部の事業のみを引き継げるためその事業の成長につなげやすい。会社分割や合併とは異なり簿外債務を引き継がなくてもよい。必要な事業のみを買収することが可能。
- 売り手側:事業売却による資金調達ができる。不採算事業を売却できれば経営の効率化や立て直しが可能。負債があっても譲渡先が見つかりやすい。特定の事業を売却するだけなので法人格や主力事業を手元に残せる。売却益を獲得できる。
事業譲渡のデメリット
- 買い手側:事業にかかる許認可は承継できないため改めて許認可申請を行う必要あり。事業譲渡は事業に関する売買であるため売買の資金を準備する必要あり。消費税が課されるなど税負担が大きい。
- 売り手側:株主総会の特別決議が必要なため手間と費用が掛かる。事業の取引先や従業員の契約先が買い手側に代わるため手続きが煩雑。競業避止義務により譲渡した事業と同種の事業を行えない。
狭義のM&Aの種類2「合併」
合併は、複数の企業を1つにまとめるという手法です。
合併によるM&Aは手続きの負担が大きく、主に大企業の中で使われます。また、完全に1つの会社になるので、合併する企業の企業文化が近いことが望まれます。
合併のメリット・デメリット
合併にもメリットとデメリットがあります。
合併のメリット
- 合併する会社のノウハウを生かすことができれば、生産性の向上やコスト削減ができる。
- 各企業の持つ技術などが共有されてシナジー効果が期待できる。
- 買収資金は不要。
合併のデメリット
- 買収によるM&Aよりも手続きが煩雑。
- 合併後の組織が肥大化すると意思決定などが複雑になる。
- 合併する会社の企業文化の違いが大きいと摩擦が起こりやすい。
- 合併すると消滅会社の負債や簿外債務も引き継ぐ必要あり。
- 対価の株式が非公開の場合はその株式の現金化が困難。
合併の種類
合併にも2つの手法が存在します。
- 吸収合併
- 新設合併
それぞれ説明していきます。
合併のM&Aの種類①吸収合併
吸収合併は、合併する企業に吸収される形で、合併される企業の法人格ごと失う手法です。合併される会社を「消滅会社」、合併後に残る会社を「存続会社」と呼びます。
吸収合併のメリット・デメリット
吸収合併には以下のようなメリットとデメリットがあります。
吸収合併のメリット
- 事業に必要な許認可を承継できる。
- 存続会社は消滅会社の権利義務を承継できる。
- 消滅会社の繰越欠損金を引き継げるため税金の優遇を受けられる。
吸収合併のデメリット
- 企業文化の違いから軋轢が生まれやすい。
- 法的リスクや簿外債務なども引き継いでしまう。
- 存続会社と消滅会社の取引先が重複していれば、トータルの収益が減少する恐れあり。
合併のM&Aの種類②新設合併
新設合併とは、複数の会社が新しく法人格を設立し、その会社に権利義務を承継する手法です。
参加するすべての会社の法人格が失われ、新しく新設された会社に権利や義務が引き継がれます。
新設合併のメリット・デメリット
新設合併にもメリットとデメリットがあります。
新設合併のメリット
- 対等な立場での合併になり平等なM&Aができる。
- 事業統合によりブランド力や開発力の向上などのシナジー効果を期待できる。
- 合併対象企業のすべての権利義務を新設会社に引き継げる。
新設合併のデメリット
- 法人格を新しく立ち上げるため手続きが煩雑。
- 契約関係の再締結や株主への説明が必要なため、時間と労力がかかる。
- 許認可や免許などを引き継げない。
- 多額のコストがかかる。
狭義のM&Aの種類3「会社分割」
会社分割では、企業が会社の一部を子会社化し、その子会社が売買の対象となります。
会社事業の一部を取引するので事業譲渡に近い感覚を覚えるかもしれませんが、会社分割では、事業ではなく法人格を扱うため、その手続きや契約条件などが異なります。
会社分割は会社事業の集中と選択の場面で使われる手法です。売り手企業は自らの会社を分割し、採算の取れない事業を売却、収益の高いコア事業を残す場合が多いです。
会社分割の種類
会社分割には2つの種類があります
- 吸収分割:売りたい事業を企業から分割し、それを他の企業に承継する手法
- 新設分割:新しい法人格を新設し、そこに分割した事業を承継する手法
それぞれの特徴は以下の通りです。
- 吸収分割:分割した事業の譲渡対価を株主が受け取る場合と事業の譲渡対価を会社が受け取る場合がある。
- 新設分割:分割して得た譲渡対価や株式を元会社の株主が得る場合と分割した子会社の譲渡対価を元会社が受け取る場合がある。前者は、事業の後継者が複数いる場合や、事業を独立させ兄弟会社を設立する場合に用いられる。後者は、後継者の為に経験を積ませる場合などによく用いられる。
会社分割のメリット・デメリット
会社分割のメリットとデメリットは以下の通りです。
会社分割のメリット
- 会社の権利義務を包括的に承継できる。
- 従業員や取引先との契約を結びなおす必要がない。
- 会社の持つ特殊な権利や資格、ブランドもそのまま売却できる。
- 会社分割することにより経営の立て直しや効率化を図れる。
- 他のM&Aの手法よりも税負担が軽い。
会社分割のデメリット
- 承継するのに許認可が必要な場合もある。
- 包括的に承継するため簿外債務などが発生する恐れあり。
- 上場会社の場合は手続きの関係で手間と費用がかかる。
適切なM&Aを選ぶためのポイント
ここまで狭義のM&Aの種類を紹介してきました。それぞれのM&Aにはメリットとデメリットがあるため、適切なM&Aを選ばなければなりません。
そこで、ここからは適切なM&Aを選ぶためのポイントを紹介します。
目的を明確にする
M&Aは売り手と買い手の目的が一致したときに達成されます。そして、それぞれの目的ごとに適切なM&Aの種類と手法も存在します。
そこで、目的を明確に設定することが重要となります。たとえば、以下のような目的が考えられます。
- 売り手側:事業承継対策、創業者利潤の獲得、事業の選択と集中、企業再生など
- 買い手側:既存事業の規模の拡大、新規事業の獲得、人材や技術の確保など
したがって、どの目的を達成するためにM&Aを実施するのかをまず検討しましょう。
目的別の適切なM&Aの種類と手法
目的別に適切なM&Aを選定しましょう。たとえば、以下のように考えられます。
売り手側の目的
- 企業の後継者がおらず事業継続が困難・・・買収(特に株式取得)・合併・分割などのM&Aで事業継続を目指し、従業員の雇用を守る。
- 経営を再編し効率化を目指したい・・・事業譲渡や会社分割で会社を再編するM&Aを目指す。
- 経営から退き、現金にしたい・・・主に株式譲渡によるM&Aを実行し、株式を高く売れる戦略を立てる。
- 不採算事業から撤退したい・・・事業の一部譲渡によるM&Aを実行し、不採算事業を他の企業に売る。
- 迅速・容易に経営権を移転したい・・・手続きが容易な株式譲渡によるM&Aを実行する。
- シナジー効果を追求したい・・・合併によるM&Aを実行し、企業統合を図り、シナジー効果を追求する。
買い手側の目的
- 短時間で業務拡大し、シェアを拡大したい・・・迅速に実行できる株式譲渡によるM&Aを実行する。
- 特定の事業のみ取得したい・・・事業の一部譲渡や吸収分割を行い、即戦力となる特定の事業を取得する。
- 新規事業を始めたい・・・新設合併や新設分割により新規に事業を展開できる。
- シナジー効果を得て、業務の改善を図りたい・・・合併や他社との業務提携(広義のM&A)を目指す。
このように、M&Aの種類と手法は目的によって選定されます。M&Aによって達成したい目的、会社事業としての着地点はどこなのか、それらをM&Aの実行チームで共有することが大切です。
なお、M&Aの種類と手法を選定する際は、それぞれのM&Aのメリットだけではなく、デメリットにも着目する必要があります。デメリットが大きくて目的を達成できなければ意味がないからです。
M&Aの種類と税金の種類
M&Aの種類の中には税金がかかるものもあります。選定するM&Aによっては税負担が軽くなるものもあるため、M&Aの種類と税金の関係についても確認するのが良いでしょう。
- 株式譲渡:売り手側には取得した対価に対して税金が発生する。個人には所得税、住民税、復興特別住民税が発生し、法人には法人税が発生する。
- 株式交換:適格株式交換の場合、基本的に税金は発生しない。しかし、非適格株式交換の場合は、完全子会社とその株主に税金が発生する場合もある。
- 株式移転:適格か非適格かで税金の計算方法が異なるものの、両方の場合に税金が発生する。
- 事業譲渡:売り手側については法人税や消費税が発生し、買い手側には消費税、登録免許税、不動産取得税が発生する。
- 吸収合併:適格吸収合併の場合は消滅会社の繰越欠損金を引き継げるため、税制で優遇される。一方、非適格吸収合併の場合は譲渡益に対して税金が発生する。
目的別M&Aの事例
M&Aを成功させるためには、実際に成功した事例と失敗した事例を確認することは有益です。
そこで、以下では、いくつかの成功事例と失敗事例を紹介します。
事業拡大の成功事例
広告業のA社(年商約4億円)は「会社の成長と従業員の将来の為」という目的でM&Aの受け入れ企業を探したところ、同じ広告業のB社(年商約8億円)とマッチングし、株式譲渡のM&Aが成立しました。この時、B社には「新しい地区へ進出したい」との目的があり、両社の目的が一致しました。
この事例では、売り手側も買い手側も「事業拡大」という同じ目的を持っていたため、スムーズにM&Aを実行できたと考えられます。
事業拡大の失敗例
中小規模の不動産会社を経営していたAさんに対し、仲介会社から「6億円でM&Aできます」という提案がありました。相手方企業は「事業拡大」の目的でAさんの会社を買収しようとするものでした。
交渉は難航し、Aさんは4億円で会社を売却しました。しかし、M&A後、企業文化の違いによりAさんの会社で働いていた従業員は退職していきました。
この事例では、Aさんは従業員を守ろうとしましたが、Aさんの会社と買収後の会社との企業文化の違いが大きかったため、従業員が退職したと言えます。
このように、M&Aではむやみに事業拡大を試みる会社とマッチングすることもしばしばあります。そこで重要なのは優秀な仲介業者の選択と、企業文化のミックスがうまく行くか見極めることです。
コア事業への集中の成功事例
ライザップグループは積極的なM&Aを繰り返し、80社以上の子会社を抱えていました。対象とする業界は多岐にわたり、健康食品、化粧品、アパレルなど国内事業を中心としたものです。
そのうちの一つが「ぱど」であり、フリーペーパーを発行する会社でした。しかし、ライザップは「ぱど」の株式を取得後、2年で売却しています。
当初、ライザップは事業を拡大し、獲得したノウハウを新規事業に当てはめて経営を改善するという手法をとっていました。そして、黒字化しない事業がある場合には、すぐに撤退し、コア事業への集中を図るようになりました。
拡大しすぎた事業を売らなければいけないのは失敗だったかもしれませんが、ライザップの成長はM&Aを有効に使っている成功例とも言えるでしょう。
事業承継の成功事例
年商数億円ほどの不動産管理業の創業者社長Cさんが高齢により引退しました。「従業員のために」とM&Aを決意し、コア事業を残して、同じ地域の大手不動産管理会社のD社に売却しました。地区がほぼ同じで、お互いのことをよく知っていたため、統合作業(PMI)は成功し、高いシナジー効果を得ることができました。
Cさんは、「創業した会社は残したい」と希望し、事業の一部譲渡という手法により元の会社を残して引退しました。元会社のブランドやノウハウは小規模なまま生かされ、売却益は数年を掛けてCさんに還元されました。
事業承継の失敗事例
創業者から引き継いだ事業は後継者にも高い能力が求められます。その有名な例として挙げられるのは大塚家具でしょう。
創業者の大塚勝久氏は業界のトップを走る先駆者でしたが、娘の久美子氏に経営権の争いで敗れ、勝久氏は長男の勝之氏と「匠大塚」を創業しています。
「匠大塚」は高級家具の販売ノウハウを生かし、百貨店業界と手を組み成長しています。対して大塚家具は赤字が続き、家電量販店のヤマダHDの子会社(新株引受による買収)になりました。
事業承継のM&Aでは、その事業そのものや数字だけでなく、会社の理念や文化をしっかりと引き継ぐ必要があります。
M&Aの専門家の種類
M&Aには様々な種類と手法があります。それぞれのM&Aにはメリットとデメリットがあり、目的や戦略によって適切なM&Aの種類と手法を選定する必要があります。
また、M&Aを実行する上で秘密漏洩やデューデリジェンスの問題などにも直面します。
そこで、自社だけでM&Aを実行するのが難しいと感じたときは、専門家に相談するとよいでしょう。
簡単にM&Aの専門家の種類について説明します。
M&A仲介業者
M&A仲介業者とは、M&Aの仲介を専門とする会社のことです。売り手企業と買い手企業との間に入って、対象企業の選定からM&Aの成立までサポートします。
M&A仲介業者は独自のデータベースを持っていることが多いため、マッチングしやすいです。そのため、主に中小企業に向いています。
FA(ファイナンシャルアドバイザー)
FAは、財務アドバイザーのことを言い、たとえば、投資銀行や証券会社、経営コンサルティング会社などがこれに該当します。
FAは、M&Aの仲介ではなく、売り手又は買い手の一方の立場に立ってM&Aをサポートします。主に大規模のM&Aや上場企業同士のM&Aを扱うことが多いです。
弁護士
弁護士は、契約締結などの法的な手続き、法務デューデリジェンスの実施などの法務に関する面をサポートします。
M&Aの対象企業の法的リスクを評価するときなどは弁護士に相談するとよいでしょう。
また、秘密漏洩を防ぐ際にも、弁護士に契約書の作成を依頼することが必要になります。
税理士
税理士は、税金や財務に関するサポートをします。
税務デューデリジェンスや税制優遇措置を受けるための手続、節税対策なども税理士に相談するとよいです。
公認会計士
公認会計士は、会計と財務を専門とします。対象企業を会計面でチェックしたり、財務面でサポートしたりします。
また、M&Aの対象企業を探す際に企業価値の評価をするのも公認会計士です。
主に財務分析や簿外債務に関する調査が必要な時は公認会計士に相談するとよいでしょう。
その他の専門家
その他にも以下のような専門家がいます。
- 中小企業診断士:ビジネスデューデリジェンスやM&A後の経営統合をサポートする。
- 社会保険労務士:人事デューデリジェンスをサポートする。
まとめ
この記事では、主に狭義のM&Aの種類について解説しました。
「買収」「合併」「会社分割」それぞれの種類と手法を理解しておけば、会社や個人の目指す目的に向かって、何を選択していけばいいのか見えてくるはずです。
M&Aを検討する際は、それぞれのメリットとデメリットを比較して、目的と照らし合わせて考えられると、成功しやすいでしょう。
ご自身で検討するのが難しい場合には、ぜひ、専門家に相談してみてください。