M&Aや事業整理で会社分割を行う際は、手続きの仕上げとして登記申請する必要があります。分割手法により登記申請時の必要書類や手配に違いが生じるため、事前に手続きの全体を想定しておくことが大切です。
本記事では、会社分割(吸収分割・新設分割)の基礎知識と手続きの流れとともに、登記方法について解説します。
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【基礎知識】会社分割の手法
会社分割には「吸収分割」と「新設分割」の2種類の手続きがあり、登記申請の煩雑さに違いがあります。まずは基礎知識として、会社の分割手法を簡単に解説します。
【用語解説】
分割会社:事業を切り離す会社
承継会社(または新設会社):切り離された事業を承継する会社
吸収分割
吸収分割とは、分割会社の特定の事業だけを切り離し、原則として権利義務ごと承継会社へと移転させる手続きです。
吸収分割の対価は株式・金銭のいずれかで受け渡し可能であり、不良事業の整理やM&A取引など幅広く活用されています。
新設分割
新設分割とは、承継会社を新設し、その上で分割会社から特定事業を移転させる手続きです。吸収分割と異なるのは、分割対価を株式と金銭の両方で受け渡ししなければならない点・承継会社の新設登記が必要になる点の2つです。
会社分割の効力発生までに行うべきことが増え、登記申請の難易度もやや高いのが特徴です。
会社分割登記までの流れ
会社の分割登記は「効力発生日」の2週間以内に行わなければなりません(会社法923条)。
当初決めた効力発生日までの間に、関係者の利益保護(下記③)・株主総会での承認(下記④)を済ませる必要があり、登記完了までの丁寧なスケジュール作成が必須です。
【参考】会社分割登記の流れ
- 会社分割契約書の作成・取締役会の承認
- 株主&債権者への公告
- 関係者の利益保護
③-1:債権者の異議申述(期限:④の1ヶ月前)
③-2:反対株主による買取請求(期限:⑤の20日前から前日)
③-3:従業員や労働組合との協議(期限:④の2週間前の日の前日)
- 株主総会での承認
- 会社分割の効力発生日
- 会社分割登記(②もしくは④から2週間以内)
- 事後開示(効力発生日から6ヵ月間)
【要注意】吸収分割と新設分割の手続きの違い
吸収分割と新設分割の間では、必要な登記の種類に加えて登記期限・効力発生日が異なります(下記表)。採用しようとする分割手法に合わせて計画を立てなければなりません。
比較項目 | 吸収分割 | 新設分割 |
必要な登記の種類 | 吸収分割による変更登記 | 新設会社設立の登記 吸収分割による変更登記 |
登記期限 | 当事会社間で取り決めた効力発生日から2週間以内(会社法923条)。 | 後章①~⑤の一番遅い日から2週間以内 |
登記申請者 | 当事会社の各代表取締役 | 当事会社の各代表取締役 |
登記申請先 | 承継会社の本店所在地の登記所 | 新設会社の本店所在地の登記所 |
効力発生日 | 当事会社間で取り決めた効力発生日 | 新設会社の設立登記日 |
新設分割の登記期限
新設分割の場合は、下記①~⑤のうち一番遅い日が登記期限の起算日になります。スケジュールに誤りが起きやすいため、事前確認を徹底しましょう。
【新設分割の登記期限】
- 株主総会の決議日
- 種類株主総会の決議日(必要とする場合)
- 反対株主への通知・公告から20日を経過した日
- 新株予約権者への通知・公告から20日を経過した日
- 債権者保護手続きの終了日
【吸収分割】登記方法・必要書類
吸収分割の登記では、承継会社・分割会社の両方で下記書類を準備し、承継会社の本店所在地の管轄法務局で申請を行います。
登記期限(当事会社間で取り決めた効力発生日から2週間以内)を過ぎると100万円以下の過料が乗じるため、注意しましょう。
【承継会社側】必要書類一覧
- 変更登記申請書
- 吸収分割契約書
- 株主リスト(※株主名簿との違いに注意/詳細は後述)
- 資本金の計上証明書
- 分割契約承認時の株主総会議事録
- 登録免許税の算出根拠を示す書類
(以下は必要に応じて準備する書類)
- 債権者保護手続きの関連書類
…公告のコピーおよび催告証明書など
- 債権者を害する恐れがないことを証する書類
…異議を述べた債権者がいる場合のみ必須。弁済金受領書などを提出
- 資本金計上証明書
…分割対価として株式を発行し、分割会社に受け渡す場合
- 分割会社の登記事項証明書・印鑑登録証明書
…分割会社の主たる事業所所在地を管轄する登記所と申請先が異なる場合
- 委任状
…司法書士等に依頼する場合
【分割会社側】必要書類一覧
- 変更登記申請書
- 分割会社の代表取締役の印鑑証明書
※その他の添付書類は
【新設分割】登記方法・必要書類
新設分割でも同じく、下記書類を収集して承継会社の本店所在地の管轄法務局で申請を行います。
新設分割の登記においては、新設会社側で「定款」「代表取締役の選定に関する書類」「役員の就任承諾書」をすべて添付しなければならない点に要注意です。
【新設会社側】必要書類一覧
- 新設分割計画書
- 定款
- 代表取締役の選定に関する書類
- 役員の就任承諾書
- 株主リスト(※株主名簿との違いに注意/詳細は後述)
- 分割計画案承認時の株主会議議事録
- 登録免許税の算出根拠を示す書類
(以下は必要に応じて準備する書類)
- 債権者保護手続きの関連書類
…公告のコピーおよび催告証明書など
- 債権者を害する恐れがないことを証する書類
…異議を述べた債権者がいる場合のみ必須。弁済金受領書などを提出
- 資本金計上証明書
…分割対価として株式を発行し、分割会社に受け渡す場合
- 分割会社の登記事項証明書・印鑑登録証明書
…分割会社の主たる事業所所在地を管轄する登記所と申請先が異なる場合
- 委任状
…司法書士等に依頼する場合
【分割会社側】必要書類一覧
- 変更登記申請書
- 分割会社の代表取締役の印鑑証明書
※その他の添付書類は
【共通の注意点】株主リストと株主名簿の違い
平成28年以降、分割登記の際には「株主リスト」の提出が求められるようになりました。
株主名簿とは記載すべき内容が異なるため、作成時は違いに十分注意しましょう(下記表)。
比較項目 | 株主名簿 | 株主リスト |
共通点 | 株主の氏名又は名称 株主の住所 その株主が保有している株式の数 | |
相違点 | それぞれの株式の取得日 保有している株券番号 | 議決権数 議決権数割合 |
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会社分割登記でかかる手数料
分割登記の際は、新設分割・吸収分割共通で「①登録免許税」「②官報公告の掲載料金」の2種類の費用が最低でも生じます。
登録免許税
登録免許税については、分割手法によりで計算方法が異なる点に注意しましょう。
吸収分割時の登録免許税
吸収分割の際の登録免許税は、分割会社と承継会社で以下のように異なります。
承継会社については、会社種類・社員の加入有無によって金額に違いがあることに留意しましょう。
【吸収分割時の登録免許税】
分割会社:一律3万円
承継会社:下記いずれか
合名会社・合資会社…一律3万円(社員加入があった場合は4万円)
合同会社・株式会社…承継により増加した資本金×0.7%(下限3万円)
新設分割時の登録免許税
新設分割の際の登録免許税は、新設会社が合名会社または合資会社であった場合の金額が3万円にとういつされます。
【新設分割時の登録免許税】
分割会社:一律3万円
新設会社:下記いずれか
合名会社・合資会社…一律3万円
合同会社・株式会社…承継により増加した資本金×0.7%(下限3万円)
官報公告の掲載料金
官報公告の掲載料金は、1回あたり4万円~8万円と幅があります。
1行あたり3,589円(税込/2020年2月時点)となり、文字数や行数により変化します。
異議を述べられる債権者への公告は個別に行う必要があるため、高額化の予測は十分立てておく必要があるでしょう。
詳細は全国官報販売協同組合の掲載料金ページで確認可能です。
まとめ
会社分割の登記申請は複雑です。期限までに登記できない場合は過料があることも踏まえ、計画案作成の段階から入念に準備を進めるべきでしょう。
登記までの全体の流れについて、当事企業の両社とも弁護士・司法書士・税理士などのバックアップを受けることをおすすめします。