通常、株主であれば、「株式」は、いつでも自由に譲渡できるものです。
しかし、株式を発行する会社は、株式譲渡制限を設けることができるため、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」は、自由に譲渡はできなくなります。
また、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」に関しては、株式を買い取ってくれる第三者が出現することが稀であり、そもそも、売却すること自体が容易ではありません。
ただ、そのような場合であっても、一定の手続きを経ることにより、株主は、会社に対して、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の買取請求をすることができるのです。
しかし、株主が「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を会社に対して買取請求するためには、『株式譲渡承認請求・株式買取請求』を行って、『株価決定申立(株価決定裁判)』を行わなくてはいけないのですが、その手続や流れがとても複雑なのです。
「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の株主の中には、株式を会社に対して買取請求したいにも拘らず、どうしていいか分からないため、結局はそのまま放置してしまっている方も多くいらっしゃるでしょう。
そこでこの記事では、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を、会社に対して買取請求するための手続きである『株式譲渡承認請求・株式買取請求』『株価決定申立(株価決定裁判)』の手続や流れについて、徹底解説していきます。
- 1 売りたいけど売れない「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」
- 2 会社側と株主側の思惑や事情
- 3 譲渡制限株式の『株式譲渡承認請求』とは?
- 4 譲渡制限株式の『株式譲渡承認請求』の方法と流れ
- 5 譲受人(株式取得者)から『株式譲渡承認請求』を行う際の注意点
- 6 『株式譲渡承認請求』の流れ
- 7 ①『株式譲渡承認請求』を行う
- 8 ②取締役会(又は株主総会)の開催と決議
- 9 ③『株式譲渡承認請求』に対する決定内容の通知
- 10 ④会社または指定買取人による買取り
- 11 ⑤株式売買価格の協議・交渉
- 12 ⑥裁判所への『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立て
- 13 株式を売却できた場合でも税金に注意!
- 14 相続人に巨額の相続税が発生してしまう!
- 15 『株式譲渡承認請求・株式買取請求』と『株式買取請求権』とは全く違います
- 16 ダミーで株式取得者(譲受人)を設定してはいけない!!
- 17 専門性の高い株式譲渡承認請求・株式買取請求や株価決定申立(株価決定裁判)は弁護士へ依頼する
- 18 まとめ
売りたいけど売れない「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」
前述の通り、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」は、上場株式のように株式市場で売却することはできません。
また、前述のとおり、第三者に売却すること自体、容易ではありません。
第三者に売却するためにも、株主は、会社に対して、株式譲渡承認請求を行い、「取締役会」あるいは「株主総会」による承認を得る必要があるのです。
会社側と株主側の思惑や事情
譲渡制限株式の目的
なぜ会社は株式に譲渡制限を設けるのでしょうか、それには以下のような思惑や事情があります。
譲渡制限を設ける会社側の思惑や事情
①会社の乗っ取りを予防したい
通常の株式の場合、誰とでも自由に売買を行うことができます。極端な話、株主から株式を買い集めることができるならば、誰でも会社を乗っ取ることができる可能性があるのです。
しかし、株式に譲渡制限を設けていれば、会社が承認しない限り会社が望まない相手に対して、株式を売却することを阻止することができるようになります。
結果、会社の乗っ取りを防ぐことができるようになるのです。
②特定の人物に株式を集中させたい
譲渡制限株式ならば、会社の意図しない人物へ株式が渡るのを防ぐことができます。また、逆にいえば、特定の人物に株式を集中させることも可能となっています。
たとえば一族経営で、後継者のもとに株式を集中させ、会社経営者の存在を明確にすることもできるのです。
株式譲渡承認請求をするしかない!
非公開会社は、会社の意図しない相手への株式譲渡を阻止したいがため、発行する株式に譲渡制限を設けています。
そのため、株主は「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を譲渡したい場合には、会社に対して『株式譲渡承認請求』を行わなくてはいけません。
この場合、株主が株式譲渡承認請求を行っても、会社が「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の譲渡を認めないこともあるのです(というより、その可能性は高いでしょう)。
では、株主は、会社に対して、いつでも、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の株式買取請求をすることができるかと言えば、そうではありません。
株主は、合併・分割などの企業再編などに伴い株式買取請求権を行使することができますが、会社法上、平時の株式買取請求権は存在しないのです。
ただ、唯一、平時であっても、株主が、会社に対して、『株式譲渡承認請求』を行い、会社が『株式譲渡承認請求』を拒否した場合のみ、株主は、会社に対して、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の株式買取請求を行うことができるのです。
この場合、会社は、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を会社が買い取るか、もしくは会社が指定する者(指定買取人)に買い取らせるかを決定する必要が出てくるのです。
結果として、『株式譲渡承認請求』を行った株主は、仮に第三者に対する株式の譲渡が承認されなかったとしても、会社(もしくは会社が指定する者(指定買取人))に対して、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の買取を求めることができるようになります。
ただ、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の譲渡価格が、当事者間(譲渡請求者と会社または指定買取人)の協議で折り合わない場合は、裁判所で、『株価決定申立(株価決定裁判)』をしなくてはいけません。
これだけのハードルを越えなくては、株主は、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を、買い取ってもらうことはできないのです。
譲渡制限株式の『株式譲渡承認請求』とは?
『株式譲渡承認請求』とは、譲渡制限のある株式を譲渡しようとする株主(譲渡人)または株式取得者(譲受人)が、会社に対して、株式譲渡を承認するか否かの決定を請求することです。
『株式譲渡承認請求』を行い、会社から承認を得ることで、株主は、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を譲渡・売却することが可能となります。
譲渡制限株式の『株式譲渡承認請求』の方法と流れ
『株式譲渡承認請求』は、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の株主(譲渡人)または株式取得者(譲受人)が行うことができます。
ただし、その際には、以下の事項を明らかにしなくてはいけません。
○譲渡する株式の数
○株式を譲り受ける者の氏名または名称(株式取得者(譲渡人)からの請求の場合は、取得者の氏名または名称)
譲受人(株式取得者)から『株式譲渡承認請求』を行う際の注意点
譲受人(株式取得者)が「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の『株式譲渡承認請求』を行う場合、原則、株主(譲渡人)と共同でなくてはいけません。
実は、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を譲渡当事者の合意のみで譲渡する場合(株券不発行会社の場合)、会社法上、株式の善意取得や株券保有者の株主推定についての制度がありません。
そのため、間違いがないよう、株主(譲渡人)と譲受人(株式取得者)とが共同で、『株式譲渡承認請求』を行わなければならないのです。
ただし、全てのケースで、株主(譲渡人)と譲受人(株式取得者)とが共同で『株式譲渡承認請求』を行わなければならないというわけではありません。
例えば、譲渡人に対し承認請求を命ずる判決を証する書面を提供している場合や、株券を保有している場合など、間違いがないような場合では、譲受人(株式取得者)のみでも『株式譲渡承認請求』を行うことは可能です。
『株式譲渡承認請求』の流れ
①『株式譲渡承認請求』を行う
まずは、株主(譲渡人)や譲受人(株式取得者)が、会社に対して、『株式譲渡承認請求』を行います。
株式譲渡承認請求書
株主が会社に対し株式譲渡承認請求を行う場合、その会社へ提出しなければいけないのが「株式譲渡承認請求書」です。
「株式譲渡承認請求書」は、円滑に手続きを遂行していくために不備なく作成し、会社に対して提出する必要があります。
株式譲渡承認請求書の書き方
株式譲渡承認請求書には、以下の内容を記載します。
○申請日
○制限株式を発行している会社の名前、住所
○申請人(株主)の名前(名前の横に烙印)
○譲受人の氏名(または名称)
○譲渡しようとする譲渡制限株式の数
○会社が譲渡承認をしない旨の決定をする場合、当該会社または指定買取人がその当該株式を買い取ることを請求するときはその旨を記載
など
ここで注意しておかなければいけないのは、『株式譲渡承認請求』をする際に、株式譲渡承認請求を拒否する場合には会社(又は会社が指定する者)がその株式を買い取るよう『株式買取請求』もしておかないといけないということです。この『株式買取請求』をしていない場合、会社に、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を買い取る義務は発生しませんので、会社は、『株式譲渡承認請求』に対して拒否をすれば、そこで手続きが終わってしまいます。
②取締役会(又は株主総会)の開催と決議
『株式譲渡承認請求』を受けた会社は、取締役会(取締役会を設置していない会社の場合は株主総会)において、この『株式譲渡請求』を承認するかを決めなくてはいけません。
「取締役会設置会社」が『株式譲渡承認請求』を受けた場合は、「取締役会」を開催し、株式譲渡を承認するかを決議します。
他方、『株式譲渡承認請求』を受けた会社が「非取締役会設置会社」であった場合は、会社は、臨時株主総会を開催し、株式譲渡を承認するか決議することとなります。
ただし、定款で特別の定めをしておくことも不可能ではありません。
例えば、取締役会設置会社であったとしても、定款に「株主総会が承認機関となる」旨の規定がある場合は、会社は、臨時株主総会を開催し、株式譲渡を承認するか決議することとなります。
③『株式譲渡承認請求』に対する決定内容の通知
通常、『株式譲渡承認請求』が行われた場合、株式譲渡承認請求を行った者(株主(譲渡人)や株式取得者(譲受人))に対してその結果を通知するのは「2週間以内」に行わなければならないものとされています。
もし仮に2週間が過ぎてしまった場合、会社は「株式譲渡の承認の決定をしたもの」とみなされてしまうためです。「みなし承認」です。
ただし、この2週間という期間は、株式譲渡承認請求を行った者(株主(譲渡人)や株式取得者(譲受人))と会社が合意することで変更することも可能となっています。
④会社または指定買取人による買取り
会社が『株式譲渡承認請求』を承認しなかった場合、会社は、会社自身が株式を買い取るのか、それとも株式を買い取る指定買取人を指定するのかを決定する必要があります。
会社自身が株式を買い取る場合、会社は、株主総会にて株式を買い取ること、そして買い取る株式数を決議しなければいけません。
会社が取締役会設置会社であったとしても、ここでは、株主総会を開催し、特別決議を行わなくてはいけません。
そして、会社自身が株式を買い取る場合は、自己株式の取得になるため、いわゆる「財源規制」が適用されることとなります。会社の資本に剰余金がないと買い取ることができないのです。
指定買取人が買い取る場合、取締役会設置会社は取締役会決議にて、取締役会非設置会社は株主総会にて特別会議を行い、株式を買い取る指定買取人を指定することとなります。
その後、会社は、株式譲渡承認請求を行った者(株主(譲渡人)や株式取得者(譲受人))に対して、以下の2点を通知しなければいけません。これが、『株式買取通知』です。
○会社又は指定買取人が株式を買い取る旨
○会社又は指定買取人が買い取る株式数
この『株式買取通知』ですが、会社自身が株式を買い取る場合は、株式譲渡承認を拒否する通知から「40日以内」に、指定買取人が買い取る場合は、株式譲渡承認を拒否する通知から「10日以内」に、行わなければいけません。
なお、株式譲渡承認を拒否する通知のあと、「40日以内に会社が買い取るか」もしくは「10日以内に指定買取人による買取の通知」を行わなかった場合にも、「会社が譲渡の承認の決定をしたもの」となってしまいます。ここでも「みなし承認」です。
※「みなし承認」となる場合
まとめると、以下のケースでは「みなし承諾」となってしまうため、会社としては、特に注意しなくてはいけません。
○株式譲渡承認請求から2週間以内に通知を行わない場合
○株式譲渡承認請求を拒否する通知後、40日以内に会社が買い取る旨の通知か、もしくは10日以内に指定買取人による買取の通知を行わない場合
※暫定株式売買価格の供託も必要
また、特に注意が必要なのは、会社が、この『株式買取通知』を行う際には、法務局に対して、暫定株式売買価格を供託し、その供託を証明する書面をも同封して、株式譲渡承認請求を行った者(株主(譲渡人)や株式取得者(譲受人))に交付しなければいけないことです。
暫定株式売買価格は、その会社の直前の決算期における決算書の「純資産価格」に株式比率(株式譲渡承認請求がなされた株式の比率)を乗じた金額です。すなわち、簿価純資産価格です。簿価純資産価格は、会社によっては、非常に高額となるため、そもそもその金額を法務局に供託することなど不可能な会社も少なくないと思います。また、この「40日以内」「10日以内」といった非常に短い期間において、銀行から借り入れることは非常に困難でしょう。
しかし、株式譲渡承認を拒否する通知のあと、供託を証明する書面を同封して、「40日以内に会社が買い取るか」もしくは「10日以内に指定買取人による買取の通知」を行わなかった場合、「会社が譲渡の承認の決定をしたもの」(「みなし承認」)となってしまうのです。
※株主総会招集手続き及び株主総会の開催も必要
また、会社が、会社自身が株式を買い取る場合は、この『株式買取通知』を行うためには、株主総会招集手続き及び株主総会の開催も必要です。
会社としては、この「40日間」という短い時間の中で、株主総会招集手続きを行い、株主総会の開催も行うというのは、普通に考えれば、事務作業としてはギリギリで非常にあわただしい事務作業なのではないかと思います。特に、株主総会招集通知は、株主総会の会日の1週間前には発送しなければいけません。会社の株主構成をどうするべきなのかなどということを考え巡らす時間はないでしょう。
なお、株式譲渡承認請求を行った者が株主(譲渡人)の場合には、その株主(譲渡人)にも、この株主総会招集通知は届きます。株主(譲渡人)は、利害関係者として、会社による株式の買取に関する議案については、議決権行使はできないと思われますし、この株主総会に出席するか否かは自由ではないかと思います。
※株券発行会社の場合は株券の供託も必要
また、会社が株券発行会社の場合、株式譲渡承認を請求した者については、株券を供託することが必要です。
ですので、株主(譲渡人)は会社から予め株券を発行して交付しておいてもらう必要がありますし、株式取得者(譲受人)は株主(譲渡人)に会社から予め株券を発行して交付しておいてもらい、株式譲渡の際に、しっかり、株券を受領しておかないといけないのです。
株券を発行していない会社であっても、株券不発行会社の場合もあれば、株券発行会社が、単に、株券を発行するのが面倒くさいからということで作成していないだけの場合もあります。株券を発行するのが面倒くさいからということで作成していないだけの場合であっても、株券発行会社であれば、株式譲渡承認を請求した者については、株券を供託することが必要です。株券発行会社か株券不発行会社かというのは、実際に株券を発行しているかどうかで決まるのではなく、定款や登記の記載によって決定しますので、しっかり、定款又は登記簿を確認しなければいけません。
また、株券発行会社であっても、株券を作成するのには時間がかかりますし、株主(譲渡人)や株式取得者(譲受人)が株市域譲渡承認請求しようとするのを妨害するため、会社に要求してもなかなか株券を作成してくれないことが多くなっています。時には、株券を作成するまで3-4ヶ月待たせたり、株券の作成を拒否するため、裁判をせざるを得なくなることもあります。ですから、『株式譲渡承認請求』をしてから、会社に株券の作成を要求しても遅いですので、『株式譲渡承認請求』の前に、必ず、株券の作成を要求し、株券の交付を受けてから、『株式譲渡承認請求』を行う必要があります。
株券の供託は、前述の『株式買取通知』の受領から「1週間以内」に行わなければいけません。これを行わなかった場合、会社は、『株式買取通知』を解除することができるのです。すなわち、手続きがそこで終わってしまいます。
また、株券の供託は、日本銀行に行わなければいけません。法務局ではないのです。一般の供託手続きとは異なった特殊な手続きの供託なのです。そのため、それまでに供託を行ったことがある人であったも、日本銀行にしっかり手続きを確認してから行う必要があります。時間がかかるのです。しかも、「1週間」しかありません。
⑤株式売買価格の協議・交渉
これらの手続きを踏まえて株式譲渡承認請求を行った者(株主(譲渡人)や株式取得者(譲受人))から会社または指定買取人に譲渡される株式の株式売買価格は、原則として、株式譲渡承認請求を行った者と会社または指定買取人との間の協議によって決められます。
また、株式売却価格については、以下のような株価算定方法があります。
○純資産方式
○収益還元方式
○DCF法
○配当還元方式
○類似業種比準方式
〇取引事例方式
〇類似会社比例方式
など
株式譲渡承認請求を行った者と会社や指定買取人などの当事者が合意した場合、その株式売買価格で株式の売買が行われます。
ただし、株式譲渡承認請求を行った者(株主(譲渡人)や株式取得者(譲受人))と会社や指定買取人などの当事者とが合意しそのまま株式売買が行われるケースは非常に稀であり、実際には当事者の間で株式売買価格に関する協議・交渉が整わないケースがほとんどです。
よって、非常に高い確率で、裁判所に対して、『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立が行われます。
⑥裁判所への『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立て
当事者の間で株式売買価格の協議・交渉が整わなかった場合、当事者は裁判所への『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立を行うことができます。
裁判所への『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立を行った場合、裁判所は、株式譲渡承認請求時における会社の資産状態やその他一切の事情を考慮した上で、株式売買価格を決定します。
また、当事者の間で株式売買価格の協議・交渉が整わず、かつ、『株式買取通知』から「20日以内」に、裁判所への『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立てを行わなかった場合には、会社が法務局に供託した供託金額(簿価純資産価格)が、株式売却価格として確定します。
ですので、会社が法務局に供託した供託金額(簿価純資産価格)が、株式売却価格として確定してしまうことが困る場合、すなわち、株式売却価格が供託金額(簿価純資産価格)になってしまうことに不満な当事者は、裁判所へ『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立てを行う必要があるのです。
株主(譲渡人)や譲受人(株式取得者)が株式売却価格として供託金額(簿価純資産価格)は低すぎると考えた場合、会社または指定買取人が株式売却価格として供託金額(簿価純資産価格)は高すぎると考えた場合、その当事者は、裁判所へ『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立てを行わない限り、その不満とする供託金額(簿価純資産価格)で確定してしまうのです。ですので、供託金額(簿価純資産価格)に不満な当事者は、裁判所へ『株価決定申立(株価決定裁判)』の申立てを行う必要があるのです。
株式を売却できた場合でも税金に注意!
「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を会社又は指定買取人に売却できた場合の課税関係は複雑ですので、油断できません。
「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を指定買取人に売却した場合は、株式等の譲渡所得等に対する申告分離課税ですので、税率は合計20.315%です。
株式譲渡に伴う税金としては、みなさん、この株式譲渡益課税がすぐに思いつくでしょう。
しかし、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を会社に売却した場合は、株式譲渡益課税ではないのです。
「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を会社に売却した場合は、その株式売却価格の一部は、配当とみなされ、配当所得として、他の所得と総合課税され、最高で50%(所得税率45%・住民税率5%)の税率で課税されるのです。株式売却価格の一部がどの程度かは、会社によって違いますが、創業来、長年の間、配当をあまり実施せずに、会社に利益をため込んできた会社であれば、株式売却価格のほとんどが配当とみなされるものと思われます。すなわち、最高税率50%ですので、税金で半分持っていかれてしまいます。
ただ、配当とみなされるからと言っても悪いことばかりではありません。例えば、株主(譲渡人)や譲受人(株式取得者)が法人の場合、会社からその法人が配当を受領するということとなるわけですが、法人税においては、配当金は「益金不算入」になる可能性があります。すなわち、配当金が、その法人の利益として評価されず、株式売却価格を受領してもそもそも課税が発生しない可能性もあるのです。
そのような状況を見越して、株主(譲渡人)としては、法人である譲受人(株式取得者)に株式を譲渡してしまい、みなし配当課税(最高税率50%)を回避する株主も多いようです。
また、会社は、株式売却価格の20%相当額を、所得税が源泉徴収として控除し、納税することが求められていますので、株主(譲渡人)や譲受人(株式取得者)が会社から受領することができる株式売却価格ですが、それは株式売却価格の全額ではありません。ただ、よく決算において、確定申告すれば清算してもらえます。
相続人に巨額の相続税が発生してしまう!
前述のとおり、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」に関しましては、株式を買い取ってくれる第三者が出現することが稀であり、これを売却すること自体が容易ではありません。
しかし、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」であっても、容赦なく、相続税はかかってきます。
「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を株価算定すると、想定外に巨額になっていることが多く、簿価純資産価格が10憶円ある会社は、株価もそれくらいある可能性もあり、その場合の相続税は4億円位になる可能性もあります。
そのような巨額な相続税ですが、相続をされるご子弟は、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を売却できない限り、納税は不可能ではないでしょうか。破産せざるを得ないのではないでしょうか。しかし、相続後、会社は、ご子弟から「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」を買い取ってくれるのでしょうか?
譲渡制限株式を相続する場合、その株価に対して「相続税」がかかってくるのですが、その価格次第では巨額な相続税が発生する可能性があるのです。
通常の株式ならば税金が発生したとしても、売却をすれば問題は解決できるかもしれません。
しかし、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の場合は、譲渡することも叶わないのです。
そのため、場合によっては、「巨額な相続税が発生し、相続した株式を売ることもできない」というように、八方塞になってしまうこともあります。
素人からすると、税金や譲渡制限株式などは耳の痛くなる問題です。
そのような状況になった場合には、できるだけ早く専門家である弁護士へ相談し、問題の解決に当たったほうがいいでしょう。
『株式譲渡承認請求・株式買取請求』と『株式買取請求権』とは全く違います
「株式買取請求権」という法律用語を聞いたことがある方も多いと思います。
一見すると、「株式買取請求権」と「株式譲渡承認請求・株式買取請求」は似ているようですが、実際には要件や趣旨、効果が全く異なるものとなります。
ここでは、「株式譲渡承認請求・株式買取請求」について解説してきました。
「株式買取請求権」とは、正確には、『反対株主の株式買取請求権』と言います。
ここで解説してきた「株式譲渡承認請求・株式買取請求」とは全く別のものなのです。
会社法上、合併・分割などの企業再編などに伴い、その企業再編などに株主総会で反対する株主は、株式買取請求権を行使することができますが、その他の場合、株式買取請求権は行使できないのです。すなわち、会社法では、平時においては、株式買取請求権は存在しないのです。
この点、よく勘違いして、「兎に角、株式買取請求権を行使したい」と法律事務所に相談に来る方がいますが、会社法では、平時においては、株式買取請求権は存在しないのです。
株式買取請求権は平時には行使できない
企業再編時などにおける株主総会決議で、議案に反対した際に行う買取請求を「反対株主の株式買取請求」と言います。
反対株主の株式買取請求は、限られた状況でだけ認められる請求権です。そのため、それに該当しない状況では行使できないケースもあります。
反対株主の株式買取請求が認められるのは、主に以下のような状況です。
【株式買取請求が認められる状況】
○事業の譲渡等を行う場合(譲渡資産額が20%を超える場合)
○募集株式の発行を行う場合
○合併や会社分割、株式交換や株式移転というような企業再編を行う場合
○株式に全部取得条項を付す場合
○株式の併合を行う場合(スクイーズアウトの場合)
など
ただ、『株式譲渡承認請求・株式買取請求』は、株主であれば誰でも会社に対して請求を行うことが可能です。
しかし、ここで解説したように、複雑な手続きを経る必要があるのです。
ダミーで株式取得者(譲受人)を設定してはいけない!!
また、さらに重要なことですが、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の株式取得者(譲受人)が存在していないと、株主(譲渡人)は、そもそも『株式譲渡承認請求』すら行うことはできません。
この「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の株式取得者(譲受人)が存在していないにも関わらず、ダミーで株式取得者(譲受人)を設定して、『株式譲渡承認請求』を行ったら、その株主(譲渡人)は「詐欺罪」でしょう。ダミーで株式取得者(譲受人)を設定することは決して行ってはいけません。
専門性の高い株式譲渡承認請求・株式買取請求や株価決定申立(株価決定裁判)は弁護士へ依頼する
株式譲渡承認請求や株式買取請求は、少なからず法的知識が必要となります。
また、株式の譲渡が承認されたとしても、その株式売買価格が当事者の間で合意されるのは稀であるため、ほとんどのケースで『株価決定申立(株価決定裁判)』が行われます。
会社は、株式譲渡承認請求や株式買取請求、株価決定申立(株価決定裁判)などの際には、弁護士を立てるケースがほとんどです。
法のプロである弁護士が相手では、素人だけの力だけではとてもじゃないですが、有利に交渉していくことは難しくなります。
無事に、そして円滑に株式を譲渡、売却するためにも、できるだけ早いうちにこちらも、株式譲渡承認請求や株式買取請求の取り扱いの専門家である弁護士に依頼したいところです。
弁護士もしっかりと選定しましょう
いくら専門家である弁護士といっても、全てを専門としているわけではありません。
弁護士にも得意、不得意はあります。
そのため、株式譲渡承認請求や株式買取請求を専門としている弁護士をしっかりと選定しなくてはいけません。
過去に、株式譲渡承認請求や株式買取請求の案件を豊富に取り扱った実績のある弁護士に依頼することを推奨します。
まとめ
株主にとって、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」をどのように譲渡や売却を行うかは非常にやっかいな悩みです。
しかし、しっかりと手順を踏むことで、会社や指定買取人などに「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の譲渡や売却を行うことはできるのです。
ただし、手続きや書類の作成、交渉などは専門的知識どうしても必要となってきます。
そのため、「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」の売却の可能性を少しでも上げるためにも、株式譲渡承認請求や株式買取請求はプロである弁護士に依頼したほうがいいでしょう。
「少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式」は、保有しているだけで巨額の税金などが発生してしまう可能性があります。
そのため、できるだけ早く弁護士への依頼を検討し、処理していきたいところです。