M&Aの手法には、合併や株式譲渡、事業譲渡などさまざまありますが、そのうちの一つとして会社譲渡という方法があります。
経営者及び株主が、数あるM&Aの手法の中で会社譲渡を選択するのは、その企業の経営状況や業界の環境、メリット、デメリット、関係者の希望を考慮した上での結論であると言えます。
では、会社譲渡とはどのような手法で、その特徴はどのようなものなのでしょうか?今回は、会社譲渡について解説をします。
会社譲渡とは
会社譲渡とは、M&Aの1つの形態で、会社の経営権を丸ごと第三者に譲り渡すことを言います。具体的には、株式会社の株式を第三者に売却するのと同時に、併せて経営権もその第三者に引き渡してしまうということです。
その意味では、企業全体を完全に譲受先である第三者に引き継いでしまうという意味で、極めてシンプルな方法であるとも言えます。会社譲渡をした場合、基本的には、財務的にも債権債務や財産なども含めて、すべてそのままの状態で譲受先に引き受けてもらうということになります。
会社譲渡と株式譲渡や事業譲渡との関係性・違い
では、会社譲渡は、株式譲渡や事業譲渡とはどのように違うのでしょうか?
会社譲渡と株式譲渡との関係性
株式譲渡は、その名のとおり、譲渡するのは企業の発行した株式です。よって、株式譲渡は、譲渡側の企業の株主が、所有する株式を第三者に譲渡することを言います。
そして、譲渡側の企業の株主が譲渡する株式数が、経営権を掌握する割合である場合には、その株式譲渡は経営権の譲渡も伴うことになりますので、この場合の株式譲渡は会社譲渡と同じ意味になります。
経営権を掌握する割合に満たない株式数の株式の譲渡の場合は、経営権の譲渡は伴うことはありませんので、単なる株主がその所有する株式を譲渡することだけになります。この場合、株式譲渡と会社譲渡とは別の意味になります。
会社譲渡と事業譲渡の違い
事業譲渡は、譲渡の企業の株主が所有する株式の移転は伴わず、事業のみを譲受先に譲渡することを言います。
会社譲渡の場合には、譲渡の企業が行っている数ある事業全体を、基本的には事業の選択をすることなくすべて譲渡します。一方事業譲渡では、例えば、譲渡企業の事業の中で、不採算である事業を同業他社に売却することで、譲渡側も譲受側もメリットが得られるようなM&Aが実施できます。
会社譲渡を行う理由
企業がM&Aの手法の中で、会社譲渡を行う理由はどのようなことが考えられるでしょうか。最もシンプルな理由として、会社譲渡の最も大きな特徴である、会社を丸ごと譲渡できるという点が挙げられます。
例えば、その企業を創業したオーナー兼経営者が高齢となって、事業を引き継いでくれる人がいない場合に会社譲渡を行って、企業全体を譲り渡すことで、中小企業などが近年抱える後継者問題を解決することができます。
その他、会社譲渡を行った具体的な理由として「人手不足で、従業員が集まらず、仕事が回らなくなってしまった」、「大手企業との競争が激しく、経営が成り立たなくなってきた」、「海外の企業との競争も激しくなり、企業経営に行き詰まってしまった」などを挙げる経営者が多いようです。
会社譲渡のメリット
会社譲渡を行うメリットは、その特徴である会社を丸ごと譲受企業に引き継ぐことができるということから派生すると考えられます。
具体的には、以下のようなメリットが考えられます。
譲渡企業側 | 譲受企業側 |
|
|
それぞれについて、見ていきたいと思います。
会社の事業を後継者に引き継げる
メリットの一つ目は、会社譲渡を行う主な理由としても挙げた「事業を引き継いでくれる人がいない、後継者を見つけることができない」という問題を解消できることです。
会社譲渡を行うことで、経営者の希望どおり株主や経営者に現在の企業をそのまま引き継げるということですから、これは大きなメリットと言えます。
会社の事業を現状のまま譲渡できる
会社譲渡の場合、企業自体をそのまま譲受する企業が引き継いでくれるということですから、従業員の雇用もそのまま譲受する企業に引き継がれることになります。
この点も、既存の社員の雇用に対して責任感があり、従業員の雇用を守りたいと希望する経営者としては、会社譲渡を選択するメリットと言えるでしょう。
財務状況もそのまま譲渡できる
財務的にも、譲渡側の企業の資産や資本だけでなく、負債などもそのまま引き継がれます。企業が持っている負債もそのまま譲受先の企業に引き取ってもらえるということも、メリットとして挙げることができます。
会社の譲渡益を享受できる
会社の事業が拡大していくにつれて株の価値も上がるので、会社譲渡を行う企業の株主としては、価値が大きく引き上がった株式を売却することになります。
もちろん、譲受企業との譲渡価格の交渉にもよりますが、特に企業に含み益やのれん代などがあるような場合には、単なる株式の売却額に利益を載せた額の譲渡益を享受できることが多いです。
新規事業へ進出できる
単一の事業を展開している企業が、リスク分散や成長を目指して事業領域を広げることは少なくありません。ただし、新たな事業に進出する場合、自社のリソースだけで事業を立ち上げるには多くの時間がかかるほか、従業員の育成や必要なノウハウ・技術の構築が求められます。
M&Aを活用して、既にその事業を展開している企業を取得することで、譲渡企業の持つノウハウや技術力、さらには市場シェアを取り込むことができるため、スムーズに事業を展開することが可能になります。
事業展開の時間短縮ができる
M&Aを実施することで、譲渡企業が持つ有形資産だけでなく、従業員、取引先、顧客、技術力、ノウハウ、ブランド力といった無形資産も引き継ぐことができるので、事業展開への時間短縮につながるでしょう。
また、譲渡企業が有していた市場シェアをそのまま引き継ぐことができるので、短期間でシェアを拡大することも期待できます。自社では保有していない技術やノウハウを獲得することで、競争力を強化できる点も譲受企業にとって大きなメリットといえるでしょう。
同業他社への譲渡で規模の拡大やシナジー効果が期待できる
同業の他社への売却などの場合には、譲受企業側としても、規模の拡大やシナジー効果によって同業種の業界内でのプレゼンスが上がるというメリットを受けられる可能性もあります。
会社譲渡のデメリット
会社譲渡をした場合には、デメリットもいくつか考えられます。
譲渡企業側 | 譲受企業側 |
|
|
これらについて見ていきたいと思います。
譲渡会社の経営者などが業務上拘束される可能性がある
会社譲渡をした後、譲渡側の株主及び経営者が譲受先によって事業に関して拘束される可能性があるということです。事業に関して拘束される理由としては、2種類考えられます。
1つは譲受先の企業が当面、買取った会社の事業状況を原状のまま継続することを希望することによる拘束です。譲受先の企業としても、まずは現状の事業状況を継続して、得意先や雇用関係を維持したいという考えになることは、よくあることです。そのため、譲渡会社の経営者などが一定期間に譲受先の企業へ在籍して業務にあたるケースが多いです。
なお、このような取り決めを「キーマンロック条項」といい、期間は3年程度に設定されるのが一般的です。
2つは逆に、譲渡した会社の事業について、譲渡側の経営者に対して、一定期間は同一地域で事業を行わないことを約束させられる可能性もあります。これは、これまでの会社のしがらみを清算したうえで、経験を生かして、新たに同じ事業をすることで旧会社の競業会社ができることは、譲受側の企業が望むことではないからです。
このように、譲渡に対して、譲渡会社の事業についての一定の拘束がかかる可能性があるということは、会社譲渡のデメリットと考えられます。
条件が合わず決裂する可能性がある
会社譲渡は、会社の売買ということですから、当然、決裂する可能性があるということも考えられます。
会社譲渡を行う場合には、譲受側の企業に対しては、財務諸表や資産台帳、登記簿など、すべて開示をしたうえで交渉を行うことになります。
さらに、M&A専門業者などの支援を受けて実際の資産やコーポレートガバナンス、訴訟になる可能性のある問題がないかなどのデューデリジェンス(DD)を行うことになります。そして、会社譲渡の対象となる企業の売買価格を決めるわけですが、その方法も、単純に売買時の時価で判断するのか、将来の利益予測まで想定して価格を決めるのか、など、合意に至らない可能性も孕んでいます。
このため、最終的に譲渡契約の合意に至らないという可能性があります。
煩雑な手続きが必要
前述した通り、会社譲渡の価格を決めるだけでも、財務諸表や資産台帳、登記簿などの確認、そのうえでデューデリジェンス(DD)の実行があり、また、譲渡を意思決定するためには、譲渡側も譲受側も双方の会社の中で、取締役会や株主総会の特別決議による意思決定手続きなどが必要となります。その上で、会社法で定められている会社譲渡の手続きに従って、取引先などに対する周知の手続きも必要です。このように煩雑な手続きを行わなければならないということも、デメリットの一つと言うことができると思います。
譲渡後に簿外債務などが発覚する可能性がある
さまざまな手続きや確認をしたうえで、会社譲渡が行われた場合であっても、譲渡後に簿外負債が判明してしまうという可能性があります。このようなことが起これば、あらかじめ対応方法を定めていたとしても、実質上、これらの解決のためにさまざまな手続きや合意が必要となるほか、契約違反と指摘されて譲渡企業側が損害賠償を受けるおそれがあるため、デメリットとして考えられます。
また、発覚した簿外債務については譲受企業側が負担することとなるため、その額が大きければ経営に影響をおよぼすおそれがある点もデメリットになります。譲受企業はデューデリジェンスを丁寧に行い、リスク回避に努めることが重要になります。
従業員のモチベーションが低下する可能性がある
M&Aが実施されると、譲渡側企業の従業員と譲受側企業の従業員が一緒に業務を進めることになるので、新たな労働環境や企業文化に適応できず、従業員同士で摩擦が生じる可能性も否定できません。このような状況に陥ると、従業員のモチベーションが低下し、結果として離職につながるリスクが生じることがあります。
シナジー効果が発生しないリスクがある
譲受企業が買収を決定する際には、M&A後にどの程度の効果が得られるかが重要な判断材料となります。M&Aの成果を最大化するためにはシナジー効果を発揮することが欠かせませんが、短期間で期待どおりのシナジー効果が得られるケースは少ないのが実情です。
譲受側は、リスクを十分に認識し、慎重にM&Aを進めることが求められます。
会社譲渡による企業売却価格の算定方法
会社譲渡による企業売却価格の算定方法としては、大きく次の3つの方法が知られています。
- コストアプローチによる算定方法
- インカムアプローチによる算定方法
- マーケットアプローチによる算定方法
中小企業では、企業売却価格の算定方法としてコストアプローチ法が主に使われる傾向があります。その理由は、そもそも中小企業と比較できるような同業種で同規模の上場企業を見つけるのが困難なことからマーケットアプローチは難しく、同様に中小企業の場合は将来の収益の見込みをつけるインカムアプローチを取ることも困難であるためです。
もっとも、大企業の場合や、比較できる事例があるような場合には、コストアプローチでは測れない実際の企業価値を反映できるという考え方から、インカムアプローチ法やマーケットアプローチ法が取られることが多いです。
会社譲渡に必要な費用
会社譲渡を行う際に必要となる費用は、大きく分けて、株式を売却することによって発生する税金と専門家に支払う相談や業務執行の費用があります。
税金関係の費用
会社譲渡を行うための株式の売却による税金としては、譲渡所得に対する税金と株式をまとめるために発生する税金があります。
なお、中小企業などでは、相続などによって株主が親族などに分散している場合があります。この場合、株式を直接譲受企業に売却するときには、それぞれの株主が所得税及び住民税を支払うことになります。もっとも、売却に先立って、親族間で株式のやり取りをした場合には、その金額に対して相続税や贈与税がかかるということが考えられます。
専門家への相談や業務執行のための費用
会社譲渡を行う際には、弁護士、M&A仲介専門会社、公認会計士や税理士などの専門家への相談料や業務執行費用も発生します。
まず、弁護士については、M&Aに強い弁護士や弁護士事務所であれば取り扱ってくれる場合が多いです。報酬額は、それぞれの弁護士や弁護士事務所によって違っていますが、一般的に着手金、成功報酬という報酬体系を取っている場合が多いです。
また、譲受先を見つけるためにM&A仲介専門業者に仲介を依頼した場合には費用がかかります。報酬額については法律などで定められたものはありませんが、どの業者も着手金、中間報酬、成功報酬という報酬体系を取っているというのが一般的です。
その他、会社譲渡を得意としている公認会計士や税理士も存在します。会社譲渡を行うにあたっては、企業価値の算定、支払い税金の計算やデューデリジェンス(DD)による資産や負債の評価などの専門分野にも関係するからです。
会社譲渡時の引き継ぎ
会社譲渡は、譲渡側の企業と譲受側の企業が売却価格に合意をして、株式を譲渡すれば成り立つというように考えられますが、会社譲渡がおこなわれた際の引き継ぎにおいては、いくつか注意を要する事項があります。
ここでは、従業員の引継ぎ、許認可の引継ぎ、取引企業への通知、取引金融機関の合意について取り上げます。
従業員の引継ぎ
会社譲渡を行う際に、経営者として最も気になることの1つが従業員の雇用です。譲渡側の企業の経営者としては、会社譲渡後もこれまで会社に尽力してくれた従業員については、できるだけ雇用が継続されることを希望することが多いです。このような場合には、譲渡企業は会社譲渡の条件として、従業員の雇用の継続を条件とすれば、基本的には雇用が継続されることになります。
許認可の引継ぎ
会社譲渡の場合、基本的には許認可は引き継がれないというのが通常です。業種によっては、許認可が引き継がれないと会社の業務が行えないということになるので、譲渡側の企業は自社の許認可について洗い出し、会社譲渡が完了するまでにそれらの許認可を取得するよう、譲受先に手続きを進めてもらう必要があります。
取引企業への通知
取引企業への通知も会社譲渡後に譲受企業がスムーズに経営を継続するためには必要な手続きです。譲渡の企業のこれまでの製品などを継続して製造したり、取引を継続したりするためには、まずは取引企業との関係を継続することを希望するのが一般的です。
このため、特に譲渡前の取引企業との関係の継続を希望する場合は、譲渡企業と譲受企業は協力して取引企業へ通知して、これまでの取引関係の継続を依頼するなどの関係構築をしておく必要があります。
取引金融機関との合意
会社譲渡の場合、譲渡側の企業の借入金などの債務についても一切譲受先の企業に承継されることになります。債務の承継のためには、貸主の承認が必要となりますから、取引金融機関には、会社譲渡についてあらかじめ合意をしておく必要があります。
この手続きを行って、合意を得ておかないと、最悪の場合、繰り上げ返済を要求され、会社経営が厳しくなることがあり得ます。もちろん、譲受企業の取引金融機関で借り換えが可能であれば、問題とはならないと考えられます。
会社譲渡の流れ
会社譲渡を行うにあたっては、一連の手続きを行う必要があります。大まかに言えば、以下の流れで進みます。
①社内でM&Aの実施の検討
まずは、社内でM&Aの実施について検討を進めることが必要になります。
経営者が会社譲渡を決断したとしても、すぐに具体的な手続きに移ることはできません。目的を達成するためには、どのような方針で譲渡を進めていくのかを明確にし、十分に計画を立てる必要があります。
②専門家との契約
次に、会社譲渡の仲介をしてもらう弁護士事務所や仲介会社、公認会計士または税理士などの専門家との契約を行います。
自ら譲渡先の企業を見つけている場合などについては、弁護士事務所や公認会計士または税理士などに依頼をする方が、都合が良い場合もあるでしょう。
一方で、全く譲渡相手先企業の目星もついていないような場合には、仲介会社を通じて譲渡先企業を探すということが効率的である場合もあると思います。最近は、M&Aのマッチングを、インターネットを利用して行っている仲介会社もありますので、これらのサイトを有効利用するということも良いと思われます。
③譲渡先の企業の選定
専門家との契約を締結した後は、譲渡相手先企業の候補を選定します。
会社譲渡を進める理由や目的を明確にしながら、理想的な譲渡先を具体的にイメージすることが大切です。目的や希望条件を専門家にしっかりと伝えることで、それに適した候補を紹介してもらえるでしょう。
④トップ面談の実施、譲渡先企業との合意
譲渡先企業の候補が決まれば、双方の企業の経営者同士によるトップ面談を実施して、譲渡先候補の企業と具体的な売却価格や譲渡のための諸条件を交渉することになります。
会社譲渡価格の決め方は、前述のとおり、大きく分けて、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチがあります。これらのいずれかの方法によって譲渡企業と譲受企業が納得できる価格を定めます。さらに、従業員の継続的な雇用や社名やブランド名の継続、経営者や主要な社員が一定期間会社譲渡後も譲渡される会社に継続して残るなど、お互いに希望する条件を出し合い、合意をして、譲渡契約内容を決めます。
⑤デューデリジェンス(DD)の実施、会社譲渡契約の締結
具体的な譲渡契約の内容が決まった後、譲渡先企業がデューデリジェンス(DD)で資産や会社の状況を確認して問題ないようであれば、正式に譲渡契約を結ぶこととなります。
⑥経営権の受け渡し
この譲渡契約締結後又は並行して、従業員への説明、取引先への通知、取引金融機関の合意、プレスリリースなどを行って、経営権のスムーズな受け渡しを行います。 これらの手続きを経て、会社譲渡が行われることになります。
会社譲渡に必要な社内手続き、書類
会社譲渡の大まかな流れは上記のとおりですが、会社譲渡のためには、社内手続きや、下記の必要書類の作成や提出などが必要となってきます。
- 株式譲渡承認請求書
- 臨時株主総会招集通知書
- 臨時株主総会議事録
- 取締役会議事録
- 株式譲渡承認通知書
- 株式譲渡契約書
- 株式名義書換請求書
- 株主名簿
- 株主名簿記載事項証明書交付請求書
- 株主名簿記載事項証明書
これらの必要書類について、社内手続きの流れにあわせて説明していきます。
①株式譲渡承認請求書
まず、会社譲渡にあたっては、最終的に株式の譲渡を伴いますので、株式譲渡される株式について、譲渡制限の有無を確認します。株式に譲渡制限がない場合には、譲渡側と譲受側の合意によって問題なく株式を売却できますが、株式に譲渡制限がある場合には、株式の譲渡のためには、譲渡の承認のための手続きを踏む必要があります。
株式に譲渡制限がある場合、株式を譲渡しようとする株主は株式譲渡承認請求をしなければならないので、会社に「株式譲渡承認請求書」を提出する必要があります。
株主から株式譲渡承認請求書が提出されると、取締役会設置会社においては取締役会で、取締役会が設置されていない会社においては株主総会で株式譲渡の是非を判断します。なお、取締役会設置会社でも株式譲渡の判断は株主総会で行うと決められている場合には、株主総会での判断になります。
②臨時株主総会招集通知書、臨時株主総会議事録、取締役会議事録、株式譲渡承認通知書
会社としては、この株式譲渡承認請求書の提出を受けて、取締役会の開催または臨時株主総会の開催の手続きが必要となります。
取締役会または株主総会での株式譲渡承認の是非の判断についてですが、譲渡側の場合、会社譲渡を決める経営者側がすべてまたは、ほぼすべての株式を持っていることが前提ですので、通常、株式譲渡は承認されることになるはずです。ただ、必要な手続きとしては、この行為を行う必要があります。この際、「臨時株主総会招集通知書」、「臨時株主総会議事録」、「取締役会議事録」、「(株主に対する)株式譲渡承認通知書」の作成が必要となります。
③株式譲渡契約書
次に、譲渡企業と譲受企業との間で、売却価格などの合意が見られれば、会社譲渡のための契約書の作成が必要となります。会社の譲渡は、実際には株式の譲渡によって行われますので、「株式譲渡契約書」を作成します。
この株式譲渡契約書には、売却価格のほか、会社譲渡にあたっての諸条件、具体的には譲渡側としては、従業員の雇用確保、社名またはブランド名の維持、譲受側としては、旧経営者や中心となる社員の会社経営の持続など、会社譲渡の交渉においてお互いに希望し、合意をした内容を盛り込む必要があります。
④株式名義書換請求書、株主名簿
会社譲渡の契約書を交わして、実際に株式の譲渡契約が成立した後に、譲受側企業は、会社に対して「株式名義書換請求書」を提出して、「株主名簿」の記載を変更してもらうように求めます。これは、会社法第130条1項に“株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。”と定められているからです。
⑤株主名簿記載事項証明書交付請求書、株主名簿記載事項証明書
最後に譲受側企業は、会社に対して「株主名簿記載事項証明書交付請求書」を提出し、会社は「株主名簿記載事項証明書」を発行します。これは、株式名義の書き換えが行われたということを譲受側企業が確認するための行為です。
これまで見てきた通り、会社譲渡のためには、その手続きに沿って適切に書類の作成をする必要があります。
会社譲渡を成功させるためのポイント
会社譲渡をうまく進めるためには、いくつかのポイントがあります。これらの項目について、しっかり押さえておくことで、会社譲渡が最終的に成功であったと評価される可能性が高まります。そのポイントについて見ていきたいと思います。
情報漏洩への注意
会社譲渡を行うにあたって、細心の注意を払いたいのが、情報の漏洩です。不正確な情報が漏洩すると、従業員や取引先に不要な不安感を与えることになり、貴重な人材が流出したり、重要な取引先との関係が悪化したりする可能性もあります。このようなことにならないように、会社譲渡を決意した場合には、できるだけ速やかに、かつ情報共有は必要最小限に抑えた上で話を進めることが肝要です。また、いずれ会社譲渡を考えているような場合は、最適な譲渡先を見つけるために、普段から情報収集しておくことも重要です。
自社の基本情報の把握
譲渡側としては、自社の強みや弱み、財務諸表や従業員数などの基本情報を把握しておくことも重要です。また、売却価格や従業員の継続雇用、取引先との関係維持、社名やブランド名の維持など、会社譲渡をする際に、譲渡側として譲受側の企業に対して、何を希望し、重要視するのかということについてもよく考慮しておくことが必要です。
企業価値を上げる
譲受企業は、譲渡企業に潜むリスクを慎重に評価する傾向があるため、企業としての強みを伸ばすだけでなく、弱点を補う努力も重要です。特に、利益率の改善を図ることで、譲受企業にとって魅力的な会社として映る要因となるでしょう。
また、会社譲渡に向けた準備を進める際には、長期的な計画を見直すことが必要です。長期計画は譲渡までに完了できない可能性があるため、短期的な計画に切り替えるか、必要に応じて計画そのものを中止する判断も検討しましょう。このように調整することで会社譲渡の前に決算をスムーズに完了させることができ、計画の成果を譲受企業に示すことで好印象を与えることが期待できます。
譲渡先への正確な情報開示
自社の基本情報を把握した結果、できれば譲渡先に伝えたくない情報が含まれる場合もあるかもしれませんが、隠したりごまかしたりせず、正確に伝えることが不可欠です。
隠蔽した情報は、デューデリジェンスの過程でほとんど明らかになります。また、仮にそのままM&Aが成立しても、後に発覚した場合には損害賠償請求を受ける可能性が高まり、企業の信頼を失う結果にもなりかねません。
譲渡先の企業に正確かつ誠実に情報を正直に伝える姿勢を持つことが重要です。
譲渡後の拘束の確認
会社譲渡の契約を行う際に、譲受側の企業が継続した安定経営を続けることを目的として、「キーマンロック条項」を入れることを求めてくる可能性があります。この場合には、「キーマンロック条項」の対象となった人材については、会社譲渡された企業に一定期間拘束されることになってしまいます。経営者がこの条項の対象となると、新たな事業を起こすことができなくなってしまうこともあり得ます。
よって、このような条項を結ぶのかどうかということも譲受側の経営者としては、会社譲渡をうまくまとめる際のポイントとなります。
簿外債務の存在の確認
譲受企業側として注意を要するポイントの1つは、簿外債務などが会社譲渡後に発覚する可能性があるということがあります。これを避けるためには、デューデリジェンス(DD)を綿密に行うことが重要です。典型的な簿外債務としては、未払いの残業代や買掛金、債務保証や賞与や退職金の引当金不足、訴訟リスクなどがあります。会社譲渡後でも、簿外債務が露見した場合には、会社譲渡自体が解消となることもあります。
上記のようなポイントを押さえた上で、会社譲渡の手続きを進めることが、会社譲渡を成功させるために必要となってきます。
会社譲渡の成功事例
では、会社譲渡の成功事例を見ていきたいと思います。会社譲渡は、譲渡側から見れば会社譲渡である一方、譲受側からすると会社買収と言えます。それぞれの事例では、譲渡側及び譲受側の買収の意図が興味深い事例があります。それらに注目しながら見ていきたいと思います。
DHCのオリックスへの会社譲渡
2023年1月31日付で、オリックスはDHCの株式譲渡が完了して子会社化したと発表しました。DHCは化粧品、サプリメントの販売で有名な会社で、オリックスは経営の多角化とDHCが持つ化粧品やサプリメントの主要な顧客の獲得をグループのメリットとして評価したものと思われます。
一方、DHC側は、大株主である創業者で会長兼社長が高齢になってきていて、適正な事業継承を考えていたということがあります。これらのお互いのニーズがマッチして会社譲渡が行われたという事例です。
DeNAによる横浜ベイスターズの買収
2011年11月4日にDeNAによるプロ野球球団の横浜ベイスターズの買収が行われました。DeNAは、インターネット関連会社で、スマートフォン用のゲーム開発・配信や電子商取引サービスを行う会社で、日本プロ野球界や地域社会への貢献と自社のブランド価値・知名度の向上を目的として横浜ベイスターズの買収を行いました。買収当時はまだまだDeNAという会社の存在が有名ではありませんでしたが、DeNAが世間に知られるきっかけとなった会社譲渡の事例であると考えられます。
前述のオリックスも、知名度のアップ、広告宣伝を目的として1991年に阪急ブレーブスを買収しています。
ローソンによる成城石井の買収
2014年10月31日、コンビニエンスストア経営会社のローソンが高級スーパーの成城石井を買収しました。この会社譲渡の目的は、ローソン側としては成城石井を傘下に入れることでの業績拡大、成城石井というブランドによるイメージの向上、そして、自社のロジスティックや販売分析ノウハウを成城石井の運営にも反映させることで更なる収益向上を目指したものと考えられました。
この会社譲渡はロジスティックの効率化などのシナジー効果が得られた好事例として知られています。
ソフトバンクグループによる買収事例
ソフトバンクグループはM&Aを繰り返してグループ全体を大きくしている企業として有名です。その拡大の歴史の中でも会社譲渡を受けることによって、事業拡大を繰り返してきました。
2004年には、日本で携帯事業を展開していたイギリスのボーダフォンの日本法人の買収を行い、日本の3大携帯電話会社の一角を担うという大きな会社譲渡を受けました。
また、2005年にはダイエーからプロ野球球団のダイエーホークスを買収し、その知名度向上や宣伝効果、プロ野球界への貢献というイメージアップを図りました。
その他にも、参加企業であるYahooによるファッションイーコマース会社のZOZOの実質的な買収などを通じて、弱かったイーコマース事業の強化や収益向上を図るなどのメリットの享受を得ています。
楽天による買収事例
楽天ももともとはイーコマースの会社であったところから、さまざまな会社譲渡を受けるなどのM&Aを繰り返してグループ拡大を図り、今や楽天経済圏と呼ばれるような商業圏を作るほどになりました。
2004年に楽天はあおぞらカードを買収し、現在の楽天カードによるカード事業拡大の基礎としました。さらに2013年にはアイリオ生命保険を完全買収し、楽天生命保険として、楽天グループの生命保険部門としました。
また、2014年にはサッカーのヴィッセル神戸を買収し、グループとしてのシナジー効果、イメージ戦略や知名度や好感度アップを図りました。
会社譲渡ではない方法でも、楽天は経済圏拡大を図り、プロ野球球団の楽天イーグルスの設立やイーバンク銀行の連結子会社化による楽天銀行への移行など、楽天経済圏の拡大のためにM&Aを活用していることがうかがえます。
中小企業の創業者による会社譲渡
これまで説明してきたような有名な企業だけでなく、中小企業の会社譲渡も最近では非常に多く行われています。中小企業の創業者による会社譲渡も大きく2種類があり、長年経営をしてきた創業者が高齢になって引退をすることに伴う会社譲渡とスタートアップ企業の創業者が別の新たな事業の起業を行うためにバイアウトする会社譲渡が目立ちます。
いずれの場合も、中小企業が持つノウハウや技術を、それを必要としていたり、弱点としている企業が買収したりすることによって、事業継承やシナジー効果の創出、新たな事業の創設など、会社譲渡が社会の活性化や効率化に貢献しているということは否定できません。
まとめ
今回は会社譲渡について解説しました。会社譲渡は譲渡側からすると、現在の会社をそのまま売却できる手段であり、後継者が見つからない創業者などにとっては、自分が大切にしてきた会社を存続させることができるという大きなメリットがあります。
また、譲受側からすると、自社の足りない部分にノウハウや強みがある企業を譲受することによって、自社で習得したり、組織したりするのであれば、とんでもなく長い期間を要する取り組みが瞬時に手に入る手段でもあります。
ただ、会社譲渡を適切に行うためには、相手方の選定や適正価格の算定、各種の手続き、デューデリジェンス(DD)など、普段は行うことがないさまざまな専門的な手続きを行う必要があります。必要に応じて専門家を活用するようにしましょう。