M&Aに成功するためには、M&A戦略を策定する必要があります。
しかし、M&A戦略と言われてもどのように策定すれば良いのかわからないという方も多いでしょう。
しかも、売り手側と買い手側では戦略のポイントも異なります。
そこで、この記事ではM&A戦略や重要性、策定方法などについて詳しく解説していきます。
M&Aを検討している企業の経営者の方は、参考にしてください。
M&A戦略とは
M&A戦略とは、企業が合併や買収(M&A:Mergers and Acquisitions)を行う際に策定するべき包括的な基本方針のことです。
企業が事業拡大や競争力向上、新規事業参入などで短期間で大きな成果を挙げるためには、M&Aが非常に有効な手段として挙げられますが、M&Aには高いリスクが伴います。
しかし、M&A戦略をしっかりと策定することで、M&Aのそういったリスクを大きく削減することが可能です。
適切なM&A戦略の策定と実行は、企業の成長や競争力向上を促進し、長期的な成功につながる可能性が高まります。
企業価値の向上や市場シェアの拡大、新たなビジネスチャンスの創出など、持続的な発展にもつながることでしょう。
ただし、M&A戦略を策定する際は、事業目標や競争状況を十分に理解したうえで、企業の長期的なビジョンや戦略目標と連携させなければなりません。
また、市場環境や競合他社の動向を的確に把握し、タイミングや条件を見極めることも重要です。
さらに、経営陣や従業員の意識統一やコミュニケーションも重要であり、関係者全体で戦略の実現に向けて取り組むようにしましょう。
M&A戦略が重要な理由
M&A戦略は、企業の成長や発展に寄与し、競争力を維持・向上させるために重要です。
適切な戦略がなければM&Aの失敗リスクが高まり、企業に悪影響を及ぼしかねません。
ここでは、売り手側と買い手側のM&Aの重要性について詳しく解説するのでM&A戦略を考える際の参考にしてみてください。
売り手側におけるM&A戦略の重要性
売り手側においては、自社の価値や強みを明確にし、適切な買い手を見つけることがM&Aを成功させるために重要です。
そのためには、自社分析やマーケティングを通じて競合他社との差別化や買い手が求めるポイントを把握し、戦略を立てることが必要になります。
また、適切なタイミングでの売却や買い手に対する情報開示のバランスも重要な要素です。
売却のタイミングに失敗すると売却額が想定よりも少なくなりかねません。
このような失敗をしないためにも、M&A戦略を立案するようにしてください。
買い手側におけるM&A戦略の重要性
買い手側においては、以下のようなさまざまなシナジー効果を狙うことがM&Aの成功するためには重要です。
- 販売チャネルの拡大による販売シナジー
- 共同調達による生産シナジー
- 技術やノウハウの共有によるイノベーション促進
上記のようなシナジー効果があるM&Aを成立させることで成功する可能性が高くなります。
とはいえ、すべてのシナジー効果が狙える企業を買収するのは非常に困難です。
したがって、どのシナジー効果を狙うかを明確化し、戦略を立てる必要があります。
M&A戦略策定方法
M&A戦略策定の方法は以下のとおりです。
- 自社分析を実施する
- 目的を明確にする
- 市場調査を実施する
- M&A戦略を具体化する
- 対象企業のリストを作成する
- 相手先企業へ打診をする
上記の策定方法について詳しく解説するので参考にしてみてください。
自社分析を実施する
M&A戦略を策定するうえで、まず行うべきなのが自社分析になります。
徹底的な自社分析を行うことが、M&Aにおける戦略策定において極めて重要であるためです。
自社の強み・弱みや市場環境を把握することで適切な戦略を立てるための土台を作れます。
なお、自社分析では以下の内容を調査するのが一般的です。
- 自社の製品やサービスの競争力
- 財務状況
- 組織構造
- 企業文化
- リソースや人材の状況
上記の内容を詳細に調査し、現状の把握と将来の見通しを明確にすることで、自社の価値を再認識し目的を明確にしてからM&A戦略を策定していきましょう。
目的を明確にする
M&Aの目的を明確にすることも重要です。
目的が明確でないと、適切な戦略を立てられず、M&Aの効果が十分に発揮できません。
M&Aの効果を明確にするためにも、M&Aの目的を明確にするようにしましょう。
例えば、M&Aの目的には以下の内容が考えられます。
- 事業の拡大
- 新市場への参入
- 技術・人材の獲得
- コスト削減
- リスク分散
- 企業価値の最大化
上記の中から目的を明確にすることで、優先順位などが明確になり、後の戦略立案や実行が円滑に進めることが可能です。
市場調査を実施する
自社分析を実施して決めた後、詳細な市場調査を行い、具体的にどのような形でのM&Aが可能か、どのような買収・売却先が考えられるかを検討します。
具体的に調査する内容は以下のとおりです。
- 業界の動向
- 競合他社の状況
- 市場規模
- 成長率
- 市場シェア
- セグメント別の競争状況
なお、市場調査を行う際は、政治・経済の動向や法律・規制の変化など、外部環境の影響も考慮して実施する必要があります。
また、調査対象は、必ずしも同じ業界の市場だけとは限りません。
異なる業界とのM&Aを検討する場合は、他の市場を広範囲に調査する必要があります。
その際は、業界に関する知識や前提となる情報が少ないため、業界の将来性や商流などの調査項目が増えることに注意が必要です。
調査に時間がかかるかもしれませんが、十分なリサーチを行うようにしてください。
M&A戦略を具体化する
M&Aの方向性が定まってきたところで、SWOT分析を深めたり、詳細なデータに基づいた分析を行ったりしながら、M&Aの目的実現に向けた戦略を具体化していきます。
具体的なアクションプランや責任者、期限を設定することで、戦略の実行をスムーズに進めることが可能になるでしょう。
なお、M&A戦略の進捗管理や達成状況の評価も重要です。
M&Aは必ずしも想定通りに進むとは限らないため、戦略の見直しや改善が必要になる可能性があります。
このため、定期的なミーティングやレポートを通じて戦略の見直しや改善を行い、目標の達成に向けた取り組みを継続的に行うようにしましょう。
対象企業のリストを作成する
M&Aの目的と戦略に適合する相手先企業の候補をリストアップします。
リスト作成時には、以下の内容をまとめて再度M&Aをすべき企業なのかを検討することが重要です。
- 財務状況
- 事業規模
- 組織文化
- 技術力や知財
- 市場地位
上記のような要素を考慮し、最も相性の良い企業を選びます。
ちなみに、リストは最初に作成したものを随時更新し、新たな情報が入るたびに見直すことが重要です。
相手先企業へ打診をする
リストからアプローチする方法が決まったら、以下の方法で相手先企業へ打診します。
アプローチ方法 | 具体的な内容 | メリット | デメリット |
直接アプローチする | 自社の意向を直接相手企業に伝え、具体的な提案を行う | 仲介手数料などがかからない | 相手企業との信頼関係が構築できていないと失敗する可能性が高まる |
M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)を介してアプローチする | 専門家を介して、相手企業への打診や交渉を行う | 仲介者が適切なタイミングや方法でアプローチを行い、効率的に交渉を進めることが期待できる |
|
M&Aマッチングサービスを利用してアプローチする | オンラインプラットフォームを利用して、相手企業とマッチングし、交渉を行う | 多くの企業とのマッチングが可能で、選択肢が多い | 本当に相性が良い企業なのかを判断するのが難しい |
上記の方法の特徴をよく理解して自社にとって最適な方法を選ぶようにしてください。
なお、複数の方法を組み合わせてアプローチを行うことも効果的です。
M&A戦略の成功要因
M&A戦略が成功する要因として「効果的なデューデリジェンス(DD)を行う」などが挙げられます。
成功要因を理解してM&Aの成功率を向上させましょう。
徹底したデューデリジェンス(DD)を実施する
M&A戦略の成功には、徹底したデューデリジェンス(DD)が欠かせません。
デューデリジェンス(DD)は、以下の視点から対象企業を調査する重要なプロセスです。
- 財務
- 法務
- 税務
- 技術
- 人事
上記の視点から対象企業を詳細に調査することで、潜在的な問題やリスクを特定できます。
このため、デューデリジェンス(DD)を通じて、M&A後に予期せぬトラブルやリスクの防止が可能です。
なお、適切にデューデリジェンス(DD)を実施することで対象企業の真の価値を把握し、適切な価格での取引を実現することもできます。
効率的な統合プロセスを構築する
効率的な統合プロセスを構築することは、M&A成功のための重要な要素です。
統合のプロセスに問題が生じると従業員が退職するなど、M&A後の会社経営に大きな障害が発生しかねません。
このため、両社の企業文化や組織構造を考慮したうえで適切な組織設計を行うことが重要です。
ちなみに、統合をスムーズに行うためには、以下の内容が重要になります。
- 情報共有
- 意思決定のプロセスの最適化
- コミュニケーションの効率化
- 従業員のモチベーション向上
- リーダーシップの強化
上記を実践することで円滑な統合プロセスが実現でき、M&Aによるシナジー効果を最大限に引き出すことが可能です。
売り手側のM&A戦略のポイント
売り手側のM&A戦略では、自社の価値と魅力を明確にすることが重要です。
そのためには、自社の強みや競争優位性、将来性を分析し、それらをアピールできるストーリーを構築することが求められます。
また、買い手側にとって魅力的な企業になるため、事業の成長戦略や競争力向上策を実施し、買い手側からの評価を高めることも重要です。
このように、理想的な売却先候補を効果的に探すためには、戦略的なマーケティング活動やネットワークを活用することが必要になります。
買い手側のM&A戦略のポイント
買い手側のM&A戦略では、M&Aの目的に応じて戦略を策定し、対象企業とのシナジー効果を最大限に引き出すことが重要です。
例えば、既存事業の強化や関連事業への進出、新規事業の開拓などの目的がM&Aを実施することで達成されるかをよく検討する必要があります。
シナジーが発揮できないと多額の費用を支払ってM&Aを実施した意味がありません。
このため、特に買い手側がM&Aを検討する際は、徹底したデューデリジェンス(DD)を実施するようにしてください。
なお、対象企業を選定する際には、以下の項目を慎重に検討することをおすすめします。
- 対象企業の事業ポートフォリオや技術
- 市場シェア
- 組織文化
上記の項目などを詳細に分析し、自社の目標との適合性を見極めるようにしてください。
M&A戦略の事例
M&A戦略を実践し、M&Aに成功した事例を3つ紹介します。
- ZOZOとヤフーのM&A事例
- ココカラファインとマツモトキヨシホールディングスの経営統合事例
- 資生堂とGiaranの事例
上記の事例について詳しく解説するので参考にしてみてください。
ZOZOとヤフーのM&A事例
2019年9月、インターネット企業のヤフーが、ファッションECサイト「ZOZO」を運営するZOZO株式会社をTOB(株式公開買付け)により買収することが発表されました。
この買収により、ヤフーはZOZOの豊富なファッションアイテムや顧客基盤を活用して、自社のEC事業の拡大を目指しています。
また、ZOZOはヤフーとの連携により、新たな事業展開やイノベーションを加速することができると考えられており、双方にとってタイミングの良いイグジットと言えるでしょう。
ココカラファインとマツモトキヨシホールディングスの経営統合事例
2019年には、ドラッグストア業界の大手企業であるココカラファイン株式会社と株式会社マツモトキヨシホールディングスが、経営統合を行う基本合意を締結しました。
この経営統合により、両社は相互のノウハウやリソースを活用し、効率的な事業運営や競争力の強化を目指しています。
また、市場環境の変化に対応し、さらなる事業拡大が実現できました。
資生堂とGiaranの事例
資生堂株式会社は、AI技術を活用したデジタル化粧品の開発を行うGiaran社を買収しました。
この買収により、資生堂の化粧品に関する製造技術とGiaran社のAI技術が融合し、顧客の美容ニーズにより緻密に対応できる製品やサービスが開発されることが期待されています。
また、シナジー効果により、資生堂は競争力をさらに高め、世界中の顧客に美容ソリューションを提供することができるようになりました。
M&A戦略策定の注意点
M&A戦略を策定する際の注意点を理解しておかないと失敗するリスクが高くなります。
失敗しないためにも以下で解説する注意点についてよく理解するようにしてください。
M&Aが本当に最適な選択肢か慎重に検討する
M&Aの検討においては、「M&Aありき」の考え方で進めることは危険です。
魅力的に見えるオファーに安易に飛びつくことも避けなければなりません。
安易にM&Aを行うと効果的なシナジーが得られず多額の資金を流出してしまい、企業価値が低下したり、想定よりも安価な金額で自社を売却したりする事態に陥る可能性が高いです。
そのため、M&Aが本当に企業の目的や戦略に適合するのか、他に適切なアプローチがないかを十分に検討し、M&Aを選択する理由を明確にすることが重要です。
M&Aが成功する確率やリスクも十分に考慮して、慎重に判断を行ってください。
節税対策を意識して取り組む
事業譲渡によるM&Aでは、法人税や消費税が課されることが一般的です。
そのため、節税対策を検討することも重要になります。
とはいえ、節税は専門家でないと判断が難しいことも多いので、M&Aの専門家や税務アドバイザーと連携し、税負担を最小限に抑える方法を検討してください。
適切な節税対策によってM&Aの負担を軽減し、より効果的な取り組みが可能になります。
M&Aのリスクやデメリットを十分に理解しておく
M&Aには、予期しないリスクやデメリットが伴うことがあります。
例えば、想定していたシナジー効果が発揮できなかったり、統合がうまくいかず社員間で対立が生まれ社員が他社へ移ってしまったりといったリスクです。
M&Aを検討する際には、こうしたリスクやデメリットを十分に理解し、対策を講じることが重要になります。
具体的には、M&Aの知識が豊富な専門家に相談することでシナジー効果が発揮できない事態を防ぐことができるでしょう。
また、統合がうまくいかず社員間で対立が生じるリスクに対処するためには、両社の社員が協力し合い、一体感を醸成するための取り組みや研修プログラムを実施する方法をおすすめします。
このような対策を行い、リスク管理体制を整えることで、M&A後のトラブルや損失を最小限に抑えることができます。
まとめ
M&A戦略は、企業の成長や事業拡大を目指す上で重要な要素です。
買い手側と売り手側それぞれの視点で戦略を立て、効果的なデューデリジェンス(DD)や統合プロセスを行うことで、M&Aによるシナジー効果を最大限に引き出すことができます。
しかし、M&Aにはリスクも伴うため、適切な戦略策定とリスク管理が必要です。
そのためにも、この記事で解説した内容を参考にして成功するM&A戦略を策定するようにしてください。