『株主間契約』は株主の協力を得ておきたい経営陣と、多数派株主や少数派株主などの、双方の要望を実現できる可能性がある取り決めです。
しかし、法的拘束力が弱いなどの欠点もあるため、上手く活用するためにもそれらの特徴を抑えておく必要があります。
そこでこの記事では、株主間契約の特徴やメリット・デメリット、定める事項や契約書を作成する際の注意点などの情報を弁護士が徹底解説していきます。
株主間契約とは
株主間契約とは、ある会社に対する複数の株主が、会社の運営のあり方等について合意を行うものであり、会社と特定の株主、もしくは複数の株主で契約を交わしていきます。
また、株主間契約は会社と特定株主との間においてのみ効力が生じるものであり、基本的に公序良俗(民法90条)に反しない範囲であれば、株主間契約で定める事項は会社と株主の間で自由に設定することができます。
よって、株主の事情に着目した内容を定めることも可能です。
たとえば、通常少数派株主(議決権割合が50%未満である株主)は、会社法上原則として、単独では株主総会の決議を成立させることができません。
そのため、どうしても会社運営において、自らの意向を反映しづらい立場にある少数派株主ですが、多数派株主と株主間契約を締結することができれば、少数派株主でも意向を通りやすくすることが可能となります。
勿論、少数派株主だけでなく、多数派株主や会社にとって有利に働く事項を盛り込むこともできます。
ただし、株主間契約もメリット一辺倒というわけではなく、柔軟に事項を設定できる反面、法的な立ち位置や効力が曖昧になったり、さらには、株主間契約の内容如何ではそれが会社に悪影響を及ぼす原因にもなりえるため、その点は留意しとかなくてはいけません。
株主間協定が締結されるタイミング
株主間協定が定められる場面はいくつかありますが、一般的には以下のようなタイミングが挙げられます。
株主間協定が締結されるタイミング
①複数の会社が新たに合弁会社を設立し、その会社の株主が対象となる合弁会社の運営や方針について決定する場合
②既に株式会社として設立している会社に対し、第三者が株主として後から参加する際に会社の方針運営等について必要な取り決めを行う場合
③会社の経営陣がインセンティブを目的として、少数割合の株式を保有している場合に、多数派株主による買取や譲渡などの株式の取扱いに関して、多数派株主と必要な取り決めを行う場合
株主間協定が締結されるタイミングは主に、株式会社が新たに設立される時か、もしくは会社の運営や方針に対し、新たな取り決めが必要となる時です。(ただし、上記③のように例外もあります。)
また、株主間協定を行うことで、株式会社側と株主側で会社に対する認識に相違がないかを確認できるメリットも生まれます。
ただし、株主間協定が締結するか否かで、株主間契約で規定される事項も異なってくるため、各事案における事情を十分に理解し、考慮した上で検討していかなくてはいけません。
株主間契約のメリットとデメリット
株主間契約には、以下のようなメリットやデメリットがあります。
株主間契約のメリット
○柔軟な事項の規定が可能
前述の通り株主間契約は、公序良俗(民法90条)に反しない範囲であれば、定める事項は会社と株主の間で自由に設定することが可能です。
たとえば、会社法309条1項では、「株主総会の普通決議事項に限っては、原則として多数派株主が可決できる」と定められているため、通常ならば、決議事項を通すためには多数派株主である必要があります。
しかし、株主間契約で定めることにより、少数株主の意見も反映することが可能となるのです。
また、資金調達に関する条項や配当に関する条項など、会社と株主の間で合意が取れるならば、双方に利益が出るように自由に設定することができます。
○株主総会決議や登記申請は不要
株主間契約はあくまで当事者同士の契約なので、株主間契約を締結する上で株主総会決議や登記申請は不要となります。
また、登記には「取引相手が予期しないリスクを被ることがないようにする」という意味があるため、誰でも閲覧することができるようになっています。
しかし逆にいえば、登記を行うということは、第三者にその内容が漏れてしまうリスクがあるということなのです。
ですが、登記申請が不要な株主間契約の場合は、そのように各内容が他に漏洩する心配がありません。
株主間契約のデメリット
○実効性が欠如する可能性
株主間契約のデメリットは、実効性が欠如してしまう可能性がある点です。
株主間契約はあくまで契約であるため、仮に契約相手が株主間契約に違反した場合でも、原則として違反を止める直接の手段はありません。
万が一、株主間契約を違反した場合は、その相手に対し違反金を請求することは可能です。
しかし、違反者が違反金を支払うことに何も問題ないと思っているならばそれまでですので、そこまで強い抑制力には期待できません。
株主間契約は、定款とは異なり明確な法的拘束力があるわけではなく、個々人の良識に依拠している一面があります。
よって、遵守するかはそれぞれの裁量次第となるため、逆にいえばいつでも破られてしまうリスクが伴っているのです。
当事者同士の自由裁量で、柔軟性を持つ設定ができる株主間契約ですが、その反面効力は決して強くないというデメリットも持っているため、位置的にはあくまで「定款のような、あらかじめ定められているルールを補強、または補完するためのもの」といった程度に考えておくことが望ましいです。
株主間契約に定める事項
一般的に株主間契約において、定められる代表的な事項には以下のようなものがあります。
株主間契約に定める事項
○出資比率に関する事項
出資比率に関する事項とは、たとえば会社に対しての各株主の出資比率を定める事項や、会社が新株等を発行する場合に各株主が新株等を引き受けることができる旨の事項です。
具体的な出資率に関して、対象となる株主が実際にどのくらいの比率で出資を実施するかを定めます。(本株式会社の持ち株出資比率は、40%をA社、残りの60%をB社とするなど)
また、新株発行時や新株予約権を発行した際に、既存株主の持ち株比率の希釈化が発生するのを防止できるよう、新株や新株予約権の発行、または株式の処分や付与を実施した際には、あらかじめ持ち株比率ごと引き受けるように設定していきます。
希釈化の防止に関する事項を設定することにより、仮に株主数が変動したとしても、株式の持ち株比率の希釈が発生することを防止することが可能となるのです。
○機関設計に関する事項
ここで指す機関とは「取締役」や「監査役会」のことであり、会社における取締役会・監査役等の有無等に関する事項となります。
また、株式会社の重要な機関の一つに「運営委員会」がありますが、運営委員会の対象となる意思決定の内容や構成員、手続き方法なども決定していきます。
○役員の選任・解任に関する事項
株主間協定では各株主が、会社の取締役や監査役をそれぞれ何名ずつ指名・解任できるかを定めることができます。
通常、株主ごとに選任や解任に関する力が偏ってしまうと、会社にとって不利益となってしまうケースが多いです。
かといって会社法では、少数派株主は「多数派株主の合意がなければ、希望している取締役や監査役を指名できない」と規定されています。
そこで、株主間契約で予め、「会社の取締役は◯名として、そのうちの◯人をA社、◯人をB社が指名できる」というように決めておくのです。
そのように定めておくことで、少数派株主と多数派株主の間の偏りを限りなく少なくすることが可能となります。
ただし、いくら指名できる権利を得たとしても、そもそも多数派株主は株式の過半数を有しているため、取締役や監査役を解任されてしまうかもしれません。
よって、解任を防止するためにも、「A社が選任した役員はA社のみが解任を行うことが可能であり、B社も同様に自社で選任した役員のみを解任することができる」などという旨を株主環契約にて定めておく必要があります。
○重要事項の承認(拒否権)に関する事項
会社法309条1項では、「株主総会の普通決議事項に限っては、原則として多数派株主が可決できる」と定めています。
これは、決議事項を通すためには多数派株主である必要があり、少数派株主の意向を通すことは非常に困難であることを意味しています。
そこで、株主間契約にて、会社の運営に関する一定の重要事項については、「株主の事前承認が必要」という旨を定めるのです。
そうすることで、たとえ少数派の株主であったとしても、意向を反映させることが可能となります。
また、具体的な株主間協定で対象とする重要事項は、主に以下のような例があります。
・定款の変更
・剰余金の処分方法
・事業計画や資本政策に関する予算案の承認
・自己株式の取得や処分
○資金調達に関する条項
会社の運営上資金調達が必要になった際に、株主がこれに協力する旨の事項です。
通常株主は、資金を出資する側の役割を担っているものですが、合弁会社の設立に伴う新事業の立ち上げなどを行う際には直接資金調達を実施するケースもあり、そして株主間契約では、その際に各株主が行う資金調達の比率などを決定していきます。(基本的に、資金調達の金額は出資率に応じて決定される)
またその他にも、出資割合の算定方法や、出資の具体的な手続き等に関する取り決めも行われます。
ただし、これらの株主間契約はあくまで合弁会社の設立に伴う新事業の立ち上げなどを行う場合などで適用されるのであって、既存事業に対して会社自身が独立して資金調達を実施する大半のケースでは、株主間契約は適用されません。
よって、対象会社の状況に応じて、株主自身が資金調達の実施可否を判断する必要があります。
○配当に関する事項
剰余金の配当方法や、水準等に関する事項です。
会社法454条3項に規定されているように、「株主の持ち株比率に応じて、配当金の金額が変動する」といった会社法上認められる効果を定めるに過ぎない場合のほか、株主間契約では、配当性向まで定めるケースもあります。
○株主が保有する株式の譲渡に関する事項
株主が保有する株式の譲渡に関する事項には以下のようなものがあります。
・先買権
先買権とは、先買権を持っている株主が保有する株式を第三者へ譲渡をする際に、そのほかの先買権を持っている株主へ優先的に譲渡できる権利となります。
また、先買権は株式に付加される譲渡制限条項と非常に近いものがありますが、会社定款である譲渡制限条項と比較すると、先買権はあくまで「その権利を持っている株主が優先される」という取り決めのようなものであるため、両者を比較すると先買権のほうが若干軽いものとなります。
通常先買権は、創業者や経営陣など、重要なポストにいる株主が持つことが多いものです。
しかし、会社の成長ステージや内情次第では、それら以外の株主に先買権を付与する事例もいくつか存在するため、その限りではありません。
さらには、先買権の内容についても様々であり、たとえば先買権の一部行使を認めるのか、一度先買権の行為をしなかった株式に対して再度適用することを認めるのかなど、定める内容は会社の事情によって大きく異なってくることがあります。
・コール・オプション/プット・オプション
コール・オプションとは、一定の事由が生じた場合に、相手方に対してその保有する株式を自らに売り渡すよう請求できる権利です。
反対にプット・オプションは、一定の事由が生じた場合に、相手方に対して自らが保有する株式を買い取るよう請求できる権利となります。
コール・オプションやプット・オプションを行使できる事由は様々です。
たとえば、ありがちな事由としまして、「相手が株主間契約に違反した場合」や「株主間契約が終了した場合」「会社の業績が一定の目標数値に到達しない場合」などがあります。
また、コール・オプションやプット・オプションを設定するならば、買取価格をどのように設定するかも重要なポイントです。
買取価格をどのように設定するかはそれぞれの会社によって異なってきますが、たとえば以下のような決め方があります。
・財務諸表等に依拠した純資産の金額を基準とする純資産方式
・相続税財産評価基本通達に規定される類似業種比準価額方式
・将来の収益予想等に依拠した収益還元方式やDCF(Discounted Cash Flow)方式
など。
また、上記の手段によって買い取り価格を算出したあとにその価格をそのまま設定するか、もしくは上記の手段で算出した価格の中で最も高い価格か、低い価格のいずれかを設定するなど、そのバリエーションは様々です。
ただし、この点は、コール・オプションやプット・オプションを行使する側、あるいは行使される側のそれぞれの帰責性が考慮された上で、有利な価格等の条件が設定されるケースが多く見られます。(たとえば、相手方の債務不履行や、またはそれを理由とする契約解除に至った場合に、オプションを行使する側に有利な価格等の条件が設定されるなど)
しかしその一方で、必ずしもいずれかの当事者に帰責性があるとはいえないケースでは、お互いに中立的な価格等の条件が設定されることも珍しくありません。
結局のところ、オプション行使の事由次第ではオプション行使時の効果(買取価格等)が異なってくるため、コール・オプションやプット・オプションを行使できる事項を統一せず別々の異なる事項を設定するなど、その時々で変わってきます。
株主間契約書の作成における注意点
株主間契約の契約書を作成する場合、いくつか注意点があります。
まず、それぞれの立場を尊重したうえで、利益を享受できるようにするために事項等を定める必要があるという点です。
もし株主、あるいは会社のいずれかの利益に偏ったものでは公平性に欠けますし、仮に会社側に有利に定めてしまうと株主に不利益が生じるリスクがあり、逆に株主に有利に定めれば会社の自由経営が阻害されてしまう可能性があります。
また多数派株主と少数派株主同士でも、双方に利益があるものに設定を行っていく必要があります。
勿論、多数派株主の方が多く出資している分、議決権は多数派株主が優遇されるのは当然かもしれません。
しかし、少数派株主の中にも積極的に経営に携わりたいという方もいらっしゃいますし、多数派株主や少数派株主といった枠組みは関係なく、それぞれの意見が反映できる体制こそ最も健全な体制だといえます。
個人の利益に固執せず、お互いの利益を追求していくことが株主間契約を定めていく上で重要なポイントとなります。
- 弁護士へ相談することにより円滑に株主間契約を定められる
株主間契約は当事者同士で締結していくものですが、実際のところ、全くの平等に定めていくことは大変難しく、すんなりと締結できるほうが珍しいほどです。
そこでおすすめなのが、専門家である弁護士へ相談する方法です。
当事者だけではなく弁護士を間に入れることで、法的知識を駆使した助言や両者の意見を汲んだ提案、サポートなどを行ってくれるため、より円滑に株主間契約を定めていくことが可能となります。
まとめ
『株主間契約』は、公序良俗に反しない範囲である限りは会社と株主の間で自由に事項等を定めることが可能であるため、柔軟性が高く簡易的に設定することができます。
拘束力がどうしても弱くなってしまうデメリットはありますが、株主間契約を上手く活用すれば、株主や会社にとって、双方にメリットを生むことが可能となります。
ただし、お互いの意見を通したい当事者同士で契約を締結することは中々困難を極めるため、事項の設定や株主間契約をスムーズに締結したい場合には、是非とも専門家である弁護士へ相談することを検討していただきたいところです。