少子化問題が深刻化しているにもかかわらず、保育園の数が足りないという問題も起きています。
子供の数が減っているのに、預かる場所も足りないというのです。
それに伴い保育士も不足している状態です。
今回は、このような深刻な問題を抱えている保育事業にスポットをあてて、保育園、幼稚園のM&Aでの事業承継についてお話していきます。
保育事業経営者がM&Aを検討する背景
保育園というところは、小さな子供を預かるところです。小さな命を預かっている現場です。
対応するのは、子供たちだけなく、保護者、行政との連携もあります。それだけプレッシャーの多い事業と言えるのではないでしょうか。そんな保育事業の経営者がM&Aを検討する背景はどうなっているのか?
3つの項目をご説明していきます。
保育事業にとっての厳しい現状
《少子化により事業内容が激変》
子供の数は減っているにも関わらず、保育所が足りなくて発生する「待機児童」の増加という矛盾が起こっています。
それはなぜかといいますと、共働き世帯の増加が要因なのです。
今までは、子供を出産すると女性は仕事を辞めて、家庭に入り専業主婦になる世帯が多かったですよね。
3歳までは自分で育てるというのが育児の主流でした。
ですから子供の数が多くとも、乳幼児などを預ける施設などはそんなに必要なかったのです。
しかし女性の社会進出が叫ばれている昨今は、臨月まで働いて、数か月で職場復帰を果たしている女性が数多く存在します。預ける乳幼児の低年齢化が起きてきたというわけです。
それなのに、0~2歳の低年齢児を預ける保育施設が全く足りていないという問題が起こっています。
乳幼児は増えるけど保育士が足りない現状
そしてもっと深刻な問題は、保育所自体の数も少ないのですが、乳幼児をケアする人員が全く足りていない現状です。
保育士自体が慢性的な人手不足状態なのに、新規に乳幼児ケアの専業スタッフを雇入れることは困難を極めます。
また、働く女性のためにも、夜遅くまで預かる必要も出てきています。それにも保育士の増員が必要となってきます。
保育所経営者の中には、待機児童は増加しているのに、保育士の雇用が追い付かなくて廃業を選ぶ方が少なくありません。
保育事業は新規参入が難しいのは本当?
開業しやすいと言われる認可外保育所の現状
厚生労働省が2017年に発表した「平成27年度認可外保育施設の現況とりまとめ」によると、認可外保育園の廃園件数は、全国で481か所となり全体の9%が廃園に追い込まれているのです。
その一方で、新設は465か所で新制度がスタートしてから新設より廃園が上回るという結果となっています。また、認可の施設、事業の移行件数は、944施設とこれは大幅に増加しています。
認可外保育園は、2015年から2016年にかけて945施設も減少しているのです。
実際に、認可外保育園のM&A案件も増加傾向にあると言われています。
開園して1年ほどで廃園しているケースも多く見受けられます。
保育事業はなぜ廃業に追い込まれるのでしょうか?
原因として一番に考えらえるのが、
経営が成り立たない、採算が合わない
ということです。認可外保育園は、助成金などはなく、保護者からの保育料だけ経営しなければなりません。認可保育園に比べて、保育料自体が高くなります。児童が集まりにくいという難点があります。
保育園といっても、保育事業サービスです。サービス業を経営するということは、そのサービスがお客様にとって、本当に価値あるものが提供できているか?その価値提供が継続できるかを追究することです。その価値を高めるためにも、どんな工夫をすればいいのかを参入する前に見極める必要があります
事前リサーチはとても重要
どんな事業でも同じですが、とくにこの保育事業には、この事前リサーチが大切です。
なぜなら子供を預かるという「人」が相手の商売だからです。簡単に廃園となってしまっては、子供にも保護者にも多大な迷惑をかけてしまいます。そうならないために事前リサーチが必要なのです。
まず、同業者へのヒアリングをするということはとても大切です。実際に運営している人から話を聞いて、参入における課題と問題点を明確にしていくことです。
これから保育園をやっていきたいという構想と現実との差を認識して、その差を埋めるための解決策を見つけることが失敗しない新規参入には必要なのです。
この事前リサーチを適格に行えば、保育園事業を成功させることにもなり、地域貢献にも役立てることができるということです。
保育事業を引き継ぐ「後継者」が不足している
このような保育事業の厳しい現状をふまえて、自分の子供に保育事業を継がせることに躊躇している経営者は多いと思われます。
また、そのような難しい家業を長年、目の当たりにしてきた引き継ぐ側からも、保育園を継ぎたくないと思ってしまうのは仕方ないことではないでしょうか。
しかしそこで廃業を選んでしまっていては、預かっている子供や保護者達に迷惑が掛かってしまいます。
保育事業を新しい事業として取り込みたいという企業は意外に多いのです。
すでに保育施設、園児、保育士がそろっているのですから、新しくすべてを揃える時間と資金と手間が省けるM&Aという手法で新しく保育園を経営したい方は多く存在します。
大切に育ててきた保育園を、熱意のある第三者へ引き継ぐM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。
次からの項目では、M&Aを成功させるポイントについてご説明していきましょう。
保育事業をM&Aでの事業承継を成功させるポイント
成功させるポイントは、大きく3つに分けられます。具体的にご説明していきます。
事業承継を行う目的は明確にする
事業承継の大きな目的は後継者に事業を引き継いでもらうということです。
しかし、その引き継ぐものが、親族、社内から選抜することができないから、M&Aという手法を使うわけですよね。
社外の第三者へ引き継ぐこと、そうまでしても事業を継続させる目的は何か?ということです。
保育園の場合は、通ってくる子供たち、保護者のため、そして地域のためではないでしょうか。
せっかく大勢の卒園生を排出してきた保育園を、自分の代で閉めてしまうことなく、新しい世代に引き継いでもらうためです。
この目的をきっちり決めておかないと、後からやはりやめておけばよかったとM&Aを後悔することにもなりかねません。
譲れない条件を設定する
保育園は、保育事業サービスだとお話しました。
保育園を第三者へと事業承継したとしても、従来と変わらないサービスを提供してもらうことはきっちり条件に盛り込んでおかなければなりません。また、従業員である保育士の雇用継続と待遇改善も必要です。
この条件をきっちりと設定しておかないと、M&Aが完了するころには、園児や保育士がすべていなくなってしまっているという事態にもなりかねないからです。
そのようなことが起こらないように、サービスの質の向上、保育士の雇用継続など譲れない条件はしっかり設定しておきましょう。
準備は早めにとりかかる
M&Aを検討して、完了するまでには少なくとも1年はかかるとみておいてください。
案件化して、トップのヒアリングを行い、基本同意があって、そしてデューデリジェンス(DD)となって最終的な契約締結までで約半年程度はかかります。
それまでに、資料を整理したり、事前準備に半年は見ておいてほしいのです。全体として1年は要します。
経営者は不死身ではありません。いつかはリタイアする日が来るのです。
その日が来る前にあわてないためにも、日ごろから財務、労務、契約関係の書類の整理とすぐに見ることができるようにしておいてください。
保育事業をM&Aで事業承継することのメリットとは?
ここでは、もう少し突っ込んでM&Aを活用することでメリットについてご紹介していきます。
現金の獲得
譲渡対価として現金が残るということは、このM&Aを活用する大きなメリットと言えます。
自営業者に退職金というものはありませんから、大切に育てた事業を譲渡して受け取る現金は退職金がわりとなります。
経営に関するプレッシャーから解放される
これも特筆すべきメリットです。
従来の事業承継では、「個人連帯保証」と「株式の相続」という最大の難所を乗り越える必要がありました。
個人保証というのは、経営者が事業資金を金融機関から借り入れるときに、自宅などを担保に入れることと、会社が借入金を返済できなくなったら、経営者が個人で返済するという連帯保証を結んでいるということです。
経営者が健康で、バリバリ頑張っていたらいいのですが、病気になったりして経営を続けることができなくなったら、そして業績も悪くなってきたりしたら・・・。この連帯保証を子供に引き継がせるのに抵抗があるという経営者は非常に多いのです。
また、「株式の相続」は、親族が相続すればいいのですが、役員や社員に事業承継する場合は、株式を買い取ってもらう必要があります。
日本の中小企業の場合は、ほとんどが株主=経営者というオーナー経営が主流ですよね。
ですから、会社の株の過半数を買い取る必要がでてくるのですが、多額な資金が必要になります。
借入金のない黒字経営となると、その株価は高額になりますから、個人資金が少ない会社員では買い取るのはとても難しくなってきます。
これらの「個人連帯保証」と「株式の相続」について一挙に解決できるのが、このM&Aでの事業承継なのです。社外の第三者である経営者に買い取ってもらいますから、資金不足の心配はありません。
このことから、売却先を選ぶときは、経営状態が良くて、資金力のある企業に買い取ってもらうということも気をつけるべきポイントです。
従業員を解雇しなくても良い
保育士が不足しているといっても、新しい職場をあっせんするというのは、意外に大変です。
事業を廃業してしまっていては、廃業手続きに伴い、この従業員の新しい職場を探すという作業も必要となってきます。
M&Aで事業承継を行った場合は、事業承継の条件として、保育士の雇用継続と待遇改善を盛り込んでおくことで、再就職先を新しく探す必要はなくなります。
保育士にとっても慣れ親しんだ職場で仕事をし続けることができて、その上待遇もアップされますから離職してしまうという心配もなくなります。
まとめ
今回は、保育事業のM&Aについてお話してきました。
保育事業を経営しているのはほとんどが中小企業と言われています。
大変な中小企業の事業承継を一気に解決できるだけではなく、新しい経営者の下で、今まで一生懸命頑張ってきた会社がさらに大きく飛躍できること、これこそが中小企業経営者にとってM&Aを選ぶ大きな理由ではないでしょうか。
弁護士法人M&A総合法律事務所の強み
弁護士法人M&A総合法律事務所では、これまでに200件以上ものM&A案件・株式譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡・資本業務提携・グループ内組織再編案件を取り扱っており、M&Aに関する高い専門性と豊富な経験がございます。
また、M&A総合アドバイザーズには、M&A総合法律事務所・M&A総合会計事務所が併設されています。弁護士・公認会計士・税理士とも協働してM&Aに対応いたしますので、ここでも信頼と安心が違います。
介護業界のM&Aにおいても、非常に数多くの実績がございます。