取引上の地位が相手方よりも優越している地位を利用することにより、相手方に不利益となるように取引条件を設定して取引を実施することを「優越的地位の濫用」といいます。
この優越的地位の濫用は独占禁止法に抵触するため、本来は禁止されている行為です。
しかし、実際には取引上の力関係の違いにより、多々行われているのが現実なのです。
今回は、この優越的地位の濫用について詳しく解説し、実際に行われて困った場合にどのように対応すればよいのかについて詳しく解説していきます。
優越的地位の濫用とは?
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)では、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的としています。
その中で、取引上優越的地位にある業者が、取引先に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為を優越的地位の濫用といいます。
この行為は、独占禁止法の第 19 条(不公正な取引方法の禁止)及び一般指定第 14 号(優越的地位の濫用)に抵触するとされているのです。
優越的地位について
取引上優越的地位にあるかどうかは、以下の具体的事実を総合的に考慮して認定されます。
取引相手方の取引の当事者に対する取引依存度
取引相手方の取引の当事者に対する取引依存度とは、取引相手方が取引の当事者に商品や役務を供給する取引の場合に、取引先全体の売上高に対する取引の当事者からの売上高の割合で算出されます。
この場合、取引の当事者に対する取引依存度が大きいほど、取引の当事者と取引を行う必要性が高くなり、取引相手方にとって取引の当事者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障になるのです。
取引の当事者の市場における地位
取引の当事者の市場におけるシェアの大きさや、その順位等により取引の当事者の市場における地位が考慮されます。
取引の当事者のシェアが大きい場合やその順位が高い場合には、企業にとっては取引の当事者と取引することで取引数量や取引額の増加が期待できます。
その結果、取引相手方は取引の当事者と取引を行う必要性が高くなり、取引相手方にとって取引の当事者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障になるのです。
取引相手方にとっての取引先変更の可能性
他の事業者との取引開始や取引拡大の可能性や、取引の当事者との取引に関連して行った投資等が取引相手方にとっての取引先変更の可能性として考慮されます。
これらの他の事業者との取引を開始または拡大することが困難である場合や、取引の当事者との取引に関連して多額の投資を行っている場合には、取引相手方は取引の当事者との取引を行う必要性が高くなります。
そのため、取引相手方にとって取引の当事者との取引の継続が困難になることが、事業経営上大きな支障になるのです。
その他取引の当事者と取引することの必要性を示す具体的事実
取引の当事者との取引の額や、取引の当事者の今後の成長の可能性や、取引の対象となる商品また役務を取り扱うことの重要性や、取引の当事者と取引することによる乙の信用の確保や、取引相手方と取引の当事者の事業規模の相違等が、その他取引の当事者と取引することの必要性を示す具体的事実として考慮されます。
取引相手方が取引の当事者と取引を行う必要性が高くなるため、取引相手方にとって取引の当事者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障になる具体的事実は以下が考えられます。
- 取引の当事者との取引の額が大きい場合。
- 取引の当事者の事業規模が拡大している場合。
- 取引の当事者が取引相手方に対して商品または役務を供給する取引において、当該商品又は役務が強いブランド力を有する場合。
- 取引の当事者と取引することにより取引相手方の取り扱う商品又は役務の信用が向上する場合。
- 取引の当事者の事業規模が取引相手方の規模よりも著しく大きい場合。
優越的地位の濫用行為について
濫用行為とは、取引の当事者が取引相手方の自由かつ自主的な判断を阻害して、経済上の不利益を与えることをいいます。
具体的には、正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法2条9項5号イ、ロ、ハに該当する行為を行うことです。
この場合の取引する相手方に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為とは、現状で存在する商慣習に合致している場合でも行為が正当化されるとは限りません。
独占禁止法2条9項5号イ、ロ、ハに該当する行為とは、以下になります。
優越的地位の濫用行為(購入、利用強制)
継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
この規定の中での「当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務」とは、自己の供給する商品や役務だけでなく、自己の指定する事業者が供給する商品や役務も含まれます。
また、「購入させること」は、購入を取引の条件とする場合や、購入をしない場合に対して不利益を与えることだけでなく、購入を余儀なくさせていると認められる場合も含まれます。
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が商品又は役務以外の商品又は役務の購入を取引相手方に要請する場合、事業遂行上必要としなかったり購入を希望していないときであったとしても要請を受け入れざるを得ない場合は、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり優越的地位の濫用となるのです。
優越的地位の濫用行為(協賛金等の負担の要請、従業員等の派遣の要請、その他経済上の利益の提供の要請)
継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。)に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
この規定の中での「経済上の利益」の提供とは、協賛金や協力金等のすべての金銭の提供や、作業への労務の提供等のことをいいます。
協賛金等の負担の要請
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、取引の相手方に対し協賛金等による金銭の負担を要請する以下のケースは、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり優越的地位の濫用となります。
- 協賛金等の負担額、算出根拠、使途等について、取引の相手方との間で明確になっていないことにより、取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合。
- 取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、取引の相手方に不利益を与えることとなる場合。
従業員等の派遣の要請
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、取引の相手方に対し従業員等の派遣を要請する以下のケースは、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり優越的地位の濫用となります。
- どのような場合に、どのような条件で従業員等を派遣するかについて、当該取引の相手方との間で明確になっていないことにより、取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合。
- 従業員等の派遣を通じて取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、取引の相手方に不利益を与えることとなる場合。
- 取引の相手方に対し、従業員等の派遣に代えてこれに相当する人件費を負担させる場合。
その他経済上の利益の提供の要請
協賛金等の負担の要請や従業員等の派遣の要請以外であっても取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、取引の相手方に対し正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる以下のケースでは優越的地位の濫用となります。
- 正当な理由がないのに、取引の相手方に対し発注内容に含まれていない金型等の設計図面、特許権等の知的財産権、従業員等の派遣以外の役務提供その他経済上の利益の無償提供を要請する場合であって、取引の相手方が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合。
- 無償で提供させる場合だけでなく、取引上の地位が優越している事業者が取引の相手方に対し、正常な商慣習に照らして不当に低い対価で提供させる場合。
優越的地位の濫用行為(受領拒否、返品、支払遅延、減額、その他取引の相手方の不利益となる事項)
取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
受領拒否
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、取引の相手方から商品を購入する契約をした後で正当な理由がないのに当該商品の全部又は一部の受領を拒む場合であって、当該取引の相手方が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり優越的地位の濫用となるのです。
返品
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる以下のケースでは優越的地位の濫用となります。
- 取引の相手方に対し取引の相手方から受領した商品を返品する場合であって、どのような場合にどのような条件で返品するかについて当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合。
- その他正当な理由がないのに取引の相手方から受領した商品を返品する場合であって、取引の相手方が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合。
支払遅延
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる以下のケースでは優越的地位の濫用となります。
- 正当な理由がないのに契約で定めた支払期日に対価を支払わない場合であって、取引の相手方が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合。
- 契約で定めた支払期日より遅れて対価を支払う場合だけでなく、取引上の地位が優越している事業者が一方的に対価の支払期日を遅く設定する場合や、支払期日の到来を恣意的に遅らせる場合
減額
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる以下のケースでは優越的地位の濫用となります。
- 商品又は役務を購入した後において、正当な理由がないのに契約で定めた対価を減額する場合であって、取引の相手方が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合。
- 契約で定めた対価を変更することなく商品又は役務の仕様を変更するなど、対価を実質的に減額する場合。
その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定等
取引上の地位が取引相手方に優越している取引の当事者が、取引の相手方に対し一方的に著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって、取引の相手方が今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり優越的地位の濫用となるのです。
この判断に当たっては、以下を勘案して総合的に判断します。
- 対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法。
- 他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか。
- 取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか。
- 通常の購入価格又は販売価格との乖離の状況。
- 取引の対象となる商品又は役務の需給関係等。
まとめ
このように独占禁止法では、優越的地位の濫用により正常な商慣習に照らして取引の相手方に対して不当に不利益を与えることを禁止しています。
優越的地位の濫用により独占禁止法に抵触した場合は、排除措置命令や課徴金納付命令の対象になります。
もしこのような優越的地位の濫用により不当に不利益を与えられた場合は、毅然として対応して公正取引委員会に相談や告発するなどして取引の是正を求めることができますので、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談ください。