- 1 株式譲渡方式と事業譲渡方式と会社分割方式の比較
- 2 株式譲渡方式と事業譲渡方式と会社分割方式の比較の解説
- 3 法定性質
- 4 意思決定機関
- 5 反対株主の株式買取請求権
- 6 買収対価
- 7 商業登記手続
- 8 株式譲渡の資産の承継 第三者対抗要件・負債の承継
- 9 事業譲渡の資産の承継 第三者対抗要件・負債の承継
- 10 株式譲渡と事業譲渡の債権者保護手続
- 11 株式譲渡の契約の承継
- 12 事業譲渡の契約の承継
- 13 会社分割の資産の承継 第三者対抗要件・負債の承継
- 14 ①株式譲渡 ②事業譲渡 ③④会社分割・債権者保護手続
- 15 契約の承継
- 16 従業員の引継ぎ
- 17 許認可
- 18 前提条件 表明保証・遵守条項・補償責任
- 19 競業避止義務
- 20 簿外債務
- 21 税制・消費税・登録免許税・不動産取得税
- 22 瑕疵ある株主
- 23 契約書
- 24 デューデリジェンス(DD)
- 25 税制
- 26 消費税
- 27 登録免許税
- 28 不動産取得税
- 29 まとめ
株式譲渡方式と事業譲渡方式と会社分割方式の比較
なお、詳細な解説につきましては、以下の弊所書籍「事業承継M&Aの実務」をご覧ください。
株式譲渡 | 事業譲渡 | 会社分割 | 会社分割 (現金交付型) | |
法的性質 | 売買契約 | 売買契約 | 組織再編行為 (法2条29号(吸収分割)、30号(新設分割)) | 組織再編行為 (法2条29号(吸収分割)) |
意思決定機関 | ― | 株主総会の特別決議 (法467条1項) (例外:簡易譲渡及び略式譲渡の場合は不要) | 株主総会 の特別決議 (法783条795条804条) (例外:簡易分割及び略式分割の場合は不要) | 株主総会 の特別決議 (法783条795条) (例外:簡易分割及び略式分割の場合は不要) |
反対株主の 株式買取請求権 | ― | 有り (法469条) (簡易譲渡の場合はなし) | 有り (法785条797条806条) (簡易分割の場合はなし) | 有り (法785条797条) (簡易分割の場合はなし) |
対価 | 現金対価 | 現金対価 | 現金対価 (会社分割は株式対価) | 現金対価 |
商事登記手続 | 必要なし
| 必要なし | 必要あり | 必要あり |
資産の承継 | 手続不要
| 個別手続 必要 | 手続不要 | 手続不要 |
第三者対抗要件 (債権譲渡通知) | 不要 | 必要 (確定日付ある債権譲渡通知承諾必要) | 必要 (確定日付ある債権譲渡通知承諾必要) | 必要 (確定日付ある債権譲渡通知承諾必要) |
負債の承継 | 手続不要 | 個別承継 (相手方の個別の同意必要) | 手続不要 | 手続不要 |
債権者保護手続 | なし | なし | 会社法上の手続規定あり 官報公告及び個別通知 怠った場合、連帯債務となる | 会社法上の手続規定あり 官報公告及び個別通知 怠った場合、連帯債務となる |
契約の承継 | 手続不要 (各種契約の相手方の同意不要。 ただし、COC条項の場合を除く) | 個別承継 (相手方の個別の同意必要) | 包括承継 (各種契約の相手方の同意不要。 ただし、COC条項の場合を除く) | 包括承継 (各種契約の相手方の同意不要。 ただし、COC条項の場合を除く) |
従業員の引継ぎ | 包括承継 (従業員の個別の同意不要) | 従業員の個別の同意必要 雇用契約承継型又は解雇新規雇用型 | 分割計画・分割契約の内容によるが、労働承継法の適用がある | 分割契約の内容によるが、 労働承継法の適用がある |
許認可 | 承継される | 再取得が必要 ※再取得まで事業停止の場合あり | 再取得が必要 (承継される業種もある) ※再取得まで事業停止の場合あり | 再取得が必要 (承継される業種もある) ※再取得まで事業停止の場合あり |
前提条件 表明保証 遵守条項 補償責任 | 契約書に明記する必要あり | 契約書に明記する必要あり | 契約書に明記する必要あり | 契約書に明記する必要あり ※法定の会社分割計画書・会社分割契約書には明記がないことに注意 |
競業避止義務 | 生じない | 当然生じるが不十分 | 生じない | 生じない |
簿外債務 | 当然承継
| 基本的に不承継 | 工夫により 基本的に不承継が可能 | 工夫により 基本的に不承継が可能 |
税制 | 譲渡損益が発生 | 時価取引として譲渡損益が発生 | 税制非適格:時価取引として譲渡損益の発生 | 税制非適格:時価取引として譲渡損益の発生 |
消費税 | 課税なし | 課税あり。ただし、課税財産のみ | 課税なし | 課税なし |
登録免許税 | なし | 軽減措置なし | 軽減措置あり | 軽減措置あり |
不動産取得税 | なし | 軽減措置なし | 軽減措置あり | 軽減措置あり |
瑕疵ある株主 | 当該株式の譲渡が無効 | 株主総会の帰趨に影響ある場合 事業譲渡の株主総会が無効 かつ事業譲渡が無効 | 会社分割については同右 株主総会の帰趨に影響ある場合 子会社株式譲渡の株主総会が無効 かつ子会社株式譲渡が無効 | 株主総会の帰趨に影響ある場合 会社分割の株主総会が無効 かつ会社分割が無効 ただし、提訴期間は6ヶ月 |
契約書 | 一般的 | やや複雑 | 手続書類もあり複雑 簿外債務遮断のためには要工夫 | 手続書類もあり複雑 簿外債務遮断のためには要工夫 作成できる弁護士僅少 |
DD | 広範
| 限定可能 | 限定可能 | 限定可能 |
※本表で引用する法文は特段の記載がない限り会社法による。
株式譲渡方式と事業譲渡方式と会社分割方式の比較の解説※事務所内勉強会議事録より M&Aのスキームで典型的なものとしては、株式譲渡方式と事業譲渡方式と会社分割方式があるということはご存じだろうと思っているんですけど、このスキームが各々どういう特徴があるかを今日は説明しようと思います。 まずは、1つめのスキームが株式譲渡方式です。株式譲渡は、買収対象は事業の全部となります。対象会社を子会社化する。買主が会社であれば対象会社を子会社化をする。その買収対価は、その会社の株主が受領する。売主が自分で受領する、売主が個人だったら自分に入ってくる、売主が会社だったら会社に入ってくるということになります。 次に多い会社分割方式。会社分割をして株式譲渡をするというパターン。売主の中に特定の対象事業があるわけです。対象事業を会社分割する。売主が一部の事業を会社分割により切り出して子会社化するということで、対象事業を切り出して対象会社ができる。それは会社分割ですよね。その対象会社の株式を買主に譲渡するというのが株式譲渡。そのときに売主が現金で譲渡対価をもらう。これが会社分割方式で、会社分割してそれを株式譲渡するという、会社分割譲渡型のスキームです。 次のスキームが単純会社分割型。単純に会社分割で、売主が売主の中にある対象事業を、直接、買主の方の中に入れてしまう。ほとんど事業譲渡方式と同じです。事業譲渡方式と同じなのですけれども、それを会社分割でやるという単純会社分割型がある。買収対象は事業の一部。買主と事業が一体化して、売主が買収対価を受領する。事業譲渡方式とほとんど何も変わらない形です。 割合としては、①株式譲渡型と②事業譲渡型、③会社分割譲渡型、④単純会社分割型と4つありますが、世間的な割合はどれぐらいでしょう。 この①株式譲渡型と③会社分割譲渡型で世間的に8割超えていて、その中でも③会社分割譲渡型はイメージとしてはその中でも1割ぐらい。残りのかなりの部分、おそらく世間的に行われている非常に小さいM&Aは②事業譲渡型が多いと思うのですけれども、いわゆる②事業承継型ぐらいだと非常に小さいものばかりというわけではないので、そんなに②事業譲渡型はないです。②事業譲渡型はたしかにそのうちの半分ぐらい。 ④の会社分割型は私の経験ではこれまでに10件もやったこともないので、かなり希少価値が高い案件と思います。佐藤信祐公認会計士先生が言うには、最近④単純会社分割型が非常に増えていて、④単純会社分割型でやっているケースが全体の3割ぐらいいっているようなことを言っていたので、もしからしたらこういうのが今後本当は世間的には増えているのかもしれないということです。 ちょっと中を見てみますと、黄色を付けた欄がありますが、黄色を付けた欄が手続きが複雑なのです。パッと見ると①株式譲渡型のところの黄色がいちばん少ないです。だんぜん少ないので、だから一般的には①株式譲渡型が行われるという関係にあるということです。それに比べると、②事業譲渡型、③会社分割譲渡型、④単純会社分割型はちょっと面倒くさそうじゃないですか。こんなに多く注意点が存在する。今日はその中身を説明しましょう。 法定性質まず、法的性質としては、株式譲渡は売買契約だと。事業譲渡も売買契約です。会社分割は売買契約ではなくて組織再編行為ということになりますので、会社法の条文に沿って手続きを履践しないといけない。ですので手続きとしては複雑です。 意思決定機関次の「意思決定機関」については、株式譲渡方式は特に書いていない。しかし、売主が株式会社であれば、株式譲渡はもちろん重要な財産ですから、重要な財産の処分については取締役会決議が必要。また、たとえばある会社で子会社だった場合。非常に大きな子会社の株式譲渡の場合。最近の会社法改正で、親会社の株主総会決議。事業譲渡の会社法の条文に1項加わって、株式総会の特別決議が必要になりました。 また、②の事業譲渡方式は、当然、事業譲渡ですから株主総会の特別決議が必要。ただ、その下で例外のところに線が引いてありますが、簡易譲渡、非常に小さな会社、非常に小さなといっても総資産の20%以下の事業の譲渡は特別決議が不要。略式事業譲渡、親会社など特別支配会社に対する事業譲渡の場合も株主総会の特別決議が不要。会社法467条1項や467条の3の2、4の2あたりに追加されたのです。 また、③会社分割譲渡型はもちろん特別決議が必要です。最後の④単純会社分割型でももちろん必要。会社分割について株主総会の特別決議が必要となります。 反対株主の株式買取請求権次は、反対株主の株式買取請求権ですが、これは株式譲渡方式には存在しない。子会社の場合は存在する。事業譲渡方式の場合は存在する。会社分割方式の場合は存在する。 その他の④単純会社分割型の場合も存在する、反対株主の株式買取請求権が存在する。株主の状況についてデューディリジェンスすると思うのですが、最初のデューディリ報告書の最初の項目が株式や株主についてです。なぜかと言うと、こういうところで、もちろん株式譲渡方式の場合は株式自体を譲渡するのだから株式が重要なのが当たり前。そうではなくて、事業譲渡方式の場合も株主の状況によっては揉め事が生じる可能性があるので、この点は確認、調査をする必要があるということになります。 買収対価買収対価の方に移りますと、①②③④とも全部現金が対価となります。③会社分割譲渡型の方法では新設分割をすることとなり、新設分割の際は現金交付型ではなく株式交付型ですので、現金対価の下に「会社分割は株式対価」と書いてありますが、ほかは全部現金対価です。 商業登記手続次の商業登記手続ですけれども、株式譲渡は必要ない。ただ、よくやるのは、最後にクロージングしたあとに役員の変更で登記をする。買収したら旧役員に辞めてもらって新しい役員を投入するというのが通常なので登記をする必要があるのですが、株式譲渡自体には登記は必要ない。 ②事業譲渡方式の場合も必要ない。事業が移るだけで役員は売主に置いていきますので、役員の変更登記も必要ない。 会社法上必要となる手続きや書類は、会社法に書かれているのですが、登記に必要な書類は、商業登記法・商業登記規則の規則に書かれていて、登記のためにさまざまな添付書類が必要となります。商業登記通達に添付書類が書かれていて、その通達に書かれているものを添付しないと登記が通らないという事情があります。 非常に書類が多い。よく相談で、「これやっちゃったんですけど、この書類がないんですという場合はどうすればいいんでしょうか?」と言ったら「登記通りませんからやり直しです」ということになります。皆さんもお客さんにアドバイスするときに、会社法だけ読んでアドバイスして最後に登記が通らなかったと言われないように気をつけてください。 株式譲渡の資産の承継 第三者対抗要件・負債の承継次は、資産の承継です。資産の承継としては、株式譲渡方式は、全部承継するのだから個別の手続きは不要です。対象会社の中にある机やテレビや椅子といったもの、不動産を承継するのに手続きは不要です。株式譲渡方式の場合は、対象会社ごと移るから不要なのです。 次の第三者対抗要件ですが、不要です。対象会社が保有しており、株式譲渡方式では対象会社を取引するのですから、対象会社が持っている不動産を改めて登記する必要はないです。債権譲渡通知もする必要ない。負債も手続き不要でくっついてくる。対象会社を取引するのですから、そうなるのです。 事業譲渡の資産の承継 第三者対抗要件・負債の承継事業譲渡方式は、個別の資産の承継について個別手続が必要。どういうことかというと、事業譲渡契約があれば、対象事業の中にある不動産の承継自体はそのまま効力が発生する。不動産の譲渡の効力発生要件は、意思表示ですよね。動産も意思表示だけでよかったですよね。株式は、株券が対象事業の中に入っていたら、株券は交付が必要となるのですね。債権が対象事業の中に入っていたら、債権譲渡も意思表示で移転しますね。 第三者対抗要件のところいきましょう。第三者対抗要件が必要。そうしないと売主の債権者に差し押さえられてしまうのです。売主の財政状態が悪くなった場合、差し押さえられてしまうということになるので、事業譲渡方式の場合、対象資産について、1つずつ対抗要件を取得しないといけないのです。不動産だったら登記。 動産だったら引渡し、指図による占有移転なり、占有改定なりしなくてはいけない。債権の場合は確定日付ある債権譲渡通知が必要なので、公証役場に行ってハンコをもらって来ないといけない。確定日付まではなかなかとらないですよね。対抗要件は後で良いのではないかと言っている間に、差し押さえられている人もいるので、手続きとして必要です。 負債の承継、負債を承継するためには、債務者が変わるということは債権者にとっては大変なことですから、免責的債務引受の場合は、特に重要です。重畳的債務引受だったら必要ないです。重畳的債務引受の場合は問題ないですけど、免責的債務引受の個別同意を取らないといけない。契約も同様であり、契約の承継は個別承継だから、相手方の個別の同意が必要ということになります。 株式譲渡と事業譲渡の債権者保護手続次は債権者保護手続が必要かという話ですが、これは株式譲渡方式も事業譲渡方式も、必要ではない。必要ではない代わりに事業譲渡方式の場合はそれより厳しい手続きである個別の同意が必要だということです。株式譲渡方式の場合は、否応なく、債務が承継されてしまうので、そもそも必要ないのです。 株式譲渡の契約の承継この機会にもう1つ言っておきますと、株式譲渡方式の契約の承継のところで「手続不要」と書いてある。 たとえば、賃貸借契約などをイメージしていただければわかるのですが、賃貸借契約などでよくありますが、通常賃貸人が無断転貸をするとか無断で賃借権の無断譲渡をすると解除になる。法律上もそうであり、契約書にも書いてある。それでここを脱法しようと考える人が出てくる。賃貸借契約を譲渡したり無断転貸や無断譲渡をすると解除になるのだったら、賃貸借契約をしている法人ごと譲渡してしまえばいいのではないかという人が出てくる。 例えば、その土地を借りている法人を反社会的勢力に譲渡してしまう。そうしたら実質的にその法人を持っている反社会的勢力はその土地を使えることになる。けれども、そんなことが許されていいわけがない。したがって、賃貸借契約書には、対象会社の支配権が変更した場合に契約が解除になる条項が多くの契約書に入っているということになります。 そういう条項が私の認識だと、世間一般にデューデリジェンス(DD)に出てくる契約書の3分の1強ぐらいに条項が入っている。特にしっかりした会社や、賃貸借契約や金融機関との契約についてはまず間違いなく入っている。 具体的にはどういうことかというと、事前にM&AM&Aをして支配権が変わるような場合には、事前に承諾を取ってくださいねと。承諾がない場合は契約違反ということで解除できる、という規定が入っているということになります。そうなった場合に解除されてしまうという点で契約が承継できないかもしれないということで、M&Aの際にはデューデリジェンス(DD)が必要なのです。報道されていたケースでは、10数店舗ぐらい中華レストランを経営している会社をM&AM&Aをしたら、10店舗ぐらいがこれに引っかかって解除になってしまって潰れたみたいなのがあった記憶ですが。 Change of Control条項については、事前承諾を求められる場合はちゃんと事前承諾の取得という手当をしなければならないですけれども、事後報告だったらあとで報告すればいい。事前報告でもちゃんと報告しなくてはいけないですけど、事後報告だったらあとでのんびり報告すればいいということになるので、事前承諾などが必要な場合というのは非常に重要ということになります。 事業譲渡の契約の承継これよりも事業譲渡方式の場合は厳しくて、契約の承継に個別同意が必要。当然、事前移個別同意を取る必要がある。個別同意を取って初めて契約が承継されるのですから、事業譲渡方式では同意取得作業が大変です。 会社分割の資産の承継 第三者対抗要件・負債の承継次は、会社分割方式ですが、個別資産の承継手続は不要です。なぜ手続きが不要なのかということですが、これはもちろん、先ほどの非常に煩雑な会社法に基づく会社分割手続をとるからです。だから手続きが不要。ただ、それだけでは十分ではありません。 すなわち、対抗要件は別途取らなければ十分ではないのです。第三者対抗要件が必要。ですので、不動産・動産は、会社分割に伴い移るのですけれども、それに対抗要件を、すなわち、不動産なら登記をしない限りは、売主の債権者から差し押さえられてしまう可能性がある。 債権譲渡の場合は、債権譲渡通知を送って、かつ通知書には確定日付をとっておかないとい、売主の債権者から差し押さえられてしまう。確定日付ある債権譲渡通知承諾が必要なのです。会社分割の際に、確定日付ある債権譲渡通知まではあまりとられていない、世間的に会社分割をみると、会社は、会社分割手続だけやって疲れ果てて終わっている。 負債の承継につきましても、会社分割は、いわゆる事業譲渡は個別承継といわれて、会社分割は包括承継という言葉を使われるというのを聞いたことがあるかもしれませんが、会社分割手続で包括的に権利義務、資産、負債、契約関係、従業員などの権利関係が包括的に移るということで、包括承継、事業承継は1つずつ個別に手続きをしなければいけないということで個別承継と言われるのですけれども、それは観念的なものであって実体は個別も包括もそんなに変わらないのです。 負債の承継は手続不要で承継されてしまう。ただ、会社分割で気をつけなければいけないのは、事業譲渡方式でも承継される資産、負債、契約、許認可、従業員というのは、事業譲渡は個別譲渡ですから手続きをやらなければ承継されない。「手続きやらなければ」というのは通常、資産、負債、契約、従業員、許認可の要素から事業はできている。事業譲渡契約書では、たいてい、資産、負債、契約、従業員について、別紙に規定して特定するわけです。 事業譲渡契約書では、承継すべきものは全部、別紙で特定するということになります。他方、会社分割契約書・会社分割計画書の一般的なフォーマットでは、承継対象を個別に特定するものはあまり使われていないという現状があります。だいたいネットで検索して出てくるものは、資産については「○○○○事業に関する○○○○一切」みたいに「一切」と書いてある。従業員も「○○○○事業に従事する従業員一切」みたいなことが書いてあって、これでは負債も従業員も全部くっついてくる。 事業譲渡方式でいちばん好ましいのは、なぜ事業譲渡方式がこんなに手続が複雑になるのに使われているかというと、承継したくないものを承継したくない、承継すべきでないものを承継しなということが可能だから、事業譲渡方式が使われる。逆に、会社分割も包括承継ではあるのですが、最初の会社法の改正、会社分割制度が導入されたときは本当に包括承継だった。ただ、現在の制度では承継対象を個別に特定できるようになっている。 「対象事業に関する○○一切」という書き方ではなく、個別に事業譲渡契約と同様、たとえば「○○の不動産だけ」とか「負債は一切引き継がない」とか、会社分割契約書・会社分割計画書においては、10個の特定の契約だけ承継するのであれば、10個の契約全部の名前を書いてかつ「その他は引き継がない」と書けば10個の契約だけしか承継されないということになりますので、詳細な別紙をつけるということも最近は多くなっている。会社分割契約書や会社分割計画書に添付される承継対象権利義務目録に、個別に記載して、包括的に書かなければ、不要なものまで承継されないのです。 ①株式譲渡 ②事業譲渡 ③④会社分割・債権者保護手続債権者保護手続に移ります。 債権者保護手続きを怠った場合はそうなる。では債権者から異議が出た場合はどうなるのかと言いますと、原則返済ということとなります。原則はその債権者に返済すればいい。ただ、返済するのは大変なので供託することでもよい。ただ、最近では途中で会社法が改正されて、払わなくても問題ないということになった。払わなくてもこの会社分割はその債権者への支払いに悪影響を及ぼさないということを、代表取締役が押印した証明書を法務局に提出するということで、これに代えられるようになった。債権者保護手続きにおいて異議が出た場合、今は一般にそういう手続きがとられると思われます。 債権者保護手続としては、官報公告・個別通知、債権者が1,000人いたら1,000人に個別通知を送るということをして、異議が出た場合に供託するなり、代表取締役の証明書を出す。会社分割の登記手続において、この書面が必要になる。登記のときに、官報公告を持って行かないといけない。そのときの官報公告は官報の原本が添付書類となる。個別通知1,000通については、個別通知のフォーマットと送付先のリストを法務局に提出する必要がある。 異議があった場合の代表取締役の証明書については、こういう異議がありましたという報告書と、異議があった場合どうしたか、供託したなら供託した証明書、債務の返済に悪影響がないということであれば代表取締役が押印した証明書を提出しなければいけないということになります。ですので、この手続きをしっかりやらないと、会社分割登記の際に添付書類が漏れて登記ができないということになってしまうので非常に気をつけなければいけない。 官報公告がボトルネックになることがあるというのは、個別通知は個別通知書を徹夜で1,000通作って送付すれば、翌日には債権者に届きます。民商法の原則は到達主義ですから、到達日が基準となるので、会社分割の効力発生までは、個別通知書が債権者に到達してから1ヶ月必要です。 そうでないと個別通知書が届いていない、手続きに瑕疵があると言われる。ただ、官報公告は徹夜しても無理。会社は、原則として、会社法上、決算とかを官報で公告しなくてはいけない。でもたいていの会社はやっていない、やっている会社もあるのですが。会社分割の官報公告をするときに、決算公告を普段からやっている会社であれば、10日前に官報販売所に原稿を入稿すれば官報に載せてもらえる。 決算公告を普段やっていない会社は初めてのお客さんだから官報販売所でも手続きが必要だということで、たしか15日だったと思うのですが15日前に原稿を入稿しないと掲載してもらえないということになっており、これに送れると、官報の掲載が間に合いませんでしたねということになってしまう。 ですので結局、会社法上は、債権者保護手続1ヶ月ですので、会社分割は1ヶ月あればできるはずなのですが、官報の入稿日がボトルネックになって1ヶ月に加えさらに15日必要となり、会社分割には2ヶ月弱かかってしまうというところが、基本事項なので覚えておいてください。要するに会社分割は手間のかかる手続きなのです。株式譲渡方式だったら、今日株式を譲ろうと思えば明日譲ることができるのに、会社分割方式だと最低1ヶ月半ぐらいかかってしまうということです。 契約の承継契約の承継にいきます。 会社分割方式の場合は、個別同意の取得は必要なくなる。ただ、先ほどのChange of Control条項の問題については、会社分割方式のような包括承継の場合であっても依然として残る。問題は残りますが、事業譲渡方式の場合に比べれば、この問題は深刻ではないです。 従業員の引継ぎ次は、従業員の引継ぎです。従業員の引継ぎも、結局は雇用契約の承継なので、契約のところで説明したのと同じです。すなわち、株式譲渡方式の場合は、法人と一緒に承継されてしまうので、従業員の個別同意は不要。 事業譲渡方式の場合は、個別承継ですから、従業員の個別の同意が必要。個別の同意が必要なのですけれども、ここでは2種類あって、まずは、従前の雇用契約を承継する場合ですが、この場合は雇用契約が承継されてしまう。雇用契約が承継されるときに、漫然と雇用契約を承継してしまうと、未払残業代なども一緒に承継してしまうことになる。 ですので、雇用契約を承継するとしても、未払残業代など雇用契約に基づいて既に発生している債権債務関係は承継しないと、ちゃんと契約書に書かないと、未払残業代も承継されて、買主が未払残業代を請求されることになってしまう。ですので、未払残業代を承継しないより確実な方法としては、売主が従業員をいったん解雇し、買主が新規雇用するという手続きがとられる。 ですので、M&Aの売主は、従業員について、いったん解雇し、新しい買主の方で新規雇用するとすれば、未払残業代などは買主に承継されないこととなる。買主が未払残業代を承継したいのなら、このように検討する必要はないです、漫然と従業員から転籍同意を取れば良いということになります。 会社分割方式になりますと、包括承継ですから、未払残業代を引き継ぎたくないとか引き継ぐといった議論もなく、雇用契約が承継されるわけですので、未払残業代も一緒に承継されてしまうという問題があるのです。ただ、先ほど話しました通り、承継する権利義務については、事業譲渡は個別承継なので個別に指定ができるが、会社分割は包括承継なのでということで、従前は個別に指定できなかったのですが、会社法の改正で、個別に指定することができるようになった。 会社分割方式のときも、会社分割契約書・会社分割計画書に、雇用契約に基づき既に発生した債権債務については一切承継しないと書いておけば、会社分割の場合でも、包括承継ではあるものの、負債は引き継がないことができる。未払残業代などは承継しないということになります。さらに念を押すという趣旨で、会社分割の場合も、売主が解雇して買主が新規雇用するという方式をとることがあります。未払残業代などを承継しないためには、そちらの方が良いでしょうね。 さらに、労働契約承継法の問題があります。労働契約承継法というのは、会社分割で従業員が承継会社に承継されるか否かについて、従業員が異議を出せる制度です。従業員は会社分割について異議を出せるので、新しい会社に承継されたくない従業員は、異議が出せる。ただ、異議を出せる人は全員ではなく、対象事業、たとえば運送事業を会社分割する場合は、運送事業に所属しているのに、会社分割に伴って、承継会社に連れて行ってもらえない人、本来いるべきところから外されてしまって運送事業と一緒に連れて行ってもらえない従業員のみが異議が出せる。 あるいは、逆に、運送事業にまったく関与していなかったのに、このたび運送事業を会社分割するということで、運送事業と一緒に承継会社に承継されてしまう従業員です。すなわち、本来の所属事業に居たい場合、異議が出せるということです。これは条文が複雑なので読んでおいてください。異議を出したらどうなるかというと、その事業と一緒に、承継会社に雇用契約が自動的に承継されることになります。ですので、雇用契約が承継されてしまうことになります。ですので、雇用契約を承継したくない場合は、従業員から異議が出ないようにがんばらなければならない。会社分割は。労働契約承継法の適用があるので、手続きがさらに複雑です。 許認可次は、許認可の承継についてですが、株式譲渡方式の場合は法人を承継しますので、許認可も当然承継されます。 会社分割方式の場合、承継できるように書いてある業法がありますが、ほとんどの許認可は会社分割の場合でも自動的に承継されることはないです。結局、会社分割方式も、事業譲渡方式の場合とほとんど一緒で、基本的に許認可を承継することはできないのです。 たまに、一定の書類を提出すれば会社分割に伴い許認可も承継できると書いてある業法があるのですが、それらの書類は、ほとんど新規に許認可を申請するときと同じくらいの書類を提出する必要がある。ただ、会社分割に伴い許認可が承継できるかどうかは、都度、業法を確認しなければいけない。柔軟に対応していただける所轄当局もそんざいするので、諸葛当局と、都度、交渉する必要があると思います。ただ、基本的には難しい。 だいたい、事業譲渡なり会社分割なり、事業譲渡する場合、だいたい許認可取得が30日なり60日の標準処理期間が業法には定められていて、30日又は60日たてば許認可が取得できるのですが、30日又は60日前に許認可の申請をすればいいと思うですが、そうではなくて、会社を設立し、事業を承継し、会社の中に事業形態が整ってから許認可の申請ができ、許認可の申請をしてから許認可の取得まで30日又は60日が必要です。 事業譲渡を完了してから、新しい会社に事業が承継される、そうしたら新しい会社にその事業の形態が整ってそこで初めて許認可の申請ができるとなっていることが多いです。かつ、もともとの売主の方はその事業について廃業届を出さないと、新しい会社の許認可の申請を受理しませんとなります。ですので、その標準処理期間の30日又は60日の間、事業をどうすればよいのかというと、止めなくてはいけないということになることが多い。その間、事業停止です。要するに、事業譲渡方式や会社分割方式は、許認可の承継について、問題が生じることが多いのです。 前提条件 表明保証・遵守条項・補償責任次は、前提条件、表明保証、遵守条項、補償責任です。これらはM&A契約書に通常入れるものであり、この4つの項目がM&A契約書の主要な構成要件ですが、その詳細説明は、次回以降に行います。ただ、どのストラクチャーを選択する場合であっても、これら4つの項目は全部入れなくてはいけないということになります。 ④単純会社分割型の契約書については、契約書のフォーマットが法律事務所によってかなりまちまちであり、公表されているものが基本的に存在しなくて、実際の案件において相手方から提出されてくる契約書案を見ると、未だ、かなり手作り感がある原始的な契約書案が出てくる傾向があって、まだ契約書に統一感がない状況です。④単純会社分割型の契約書は、法律的には非常に難しい。いわゆる会社分割契約書・会社分割計画書のような法廷書面としての書面とはまったく違うもので、そこには、前提条件、表明保証、遵守条項、補償責任などが入っているものです。 競業避止義務M&Aにおいては、いずれのストラクチャーでも、原則として、競業避止義務は生じない。例外的に、事業譲渡方式において、会社法上の競業避止義務が課されますが、同一市町村内の競業避止義務であり、同一市町村なんて非常に範囲が狭いので競業避止義務としては十分ではない。会社分割方式でも競業避止義務はありません。競業避止義務が必要な場合は、基本的に、当事者間にて、契約で定めなさいということかと思われます。 簿外債務ここまで見てくると、事業譲渡方式や会社分割方式というのは、非常に手続きが複雑であり、株式譲渡方式と比べて、事業譲渡方式や会社分割方式を選択するなどということはやっていられない、なぜこのような複雑な手続きを行うのだという話になるのですが、この点で最も重要な視点が、株式譲渡方式では、「簿外債務は当然承継」となってしまうということがあります。 株式譲渡方式では、簿外債務は当然承継です。すなわち、買主は、未払残業代などは全部承継するし、連帯保証も全部承継。前受金など、エステなどの事例で、エステなどが前売りチケットを乱発していたら、買主は全部承継です。そういうふうになるのでそれはまずいと。それで、われわれも非常に神経遣ってデューディリジェンスをやっている。 すなわち、簿外債務です。土壌汚染も簿外債務です。PL責任・製造物責任も簿外債務。IBMが東京証券取引所に取引のソフトを納入し、あれに瑕疵があった、だから注文がうまく発注できなかったとか、取消しができなかった、プログラムミスがありました、それで株式の売買注文が執行されませんでした、だからプログラムの瑕疵であり500億円損害賠償してくださいみたいな。そういうことになりますよ。 また、特許侵害も簿外債務。外国からライセンスを受けてPCを毎年100万台作っていると報告していたが、実は200万台作っていましたみたいな。それだったら、本当は200万台分のライセンス料を払わなければいけないのに払ってない、その差額が簿外債務。販売代理店は、毎年、某化粧品を1万個売らなくてはいけない最低販売義務があるのに、毎年8,000個ぐらいしか販売できていません、債務不履行ですね、来年には解除ですね、こういうのも簿外債務。株式譲渡方式はこれらの債務がそのまま存続するので、非常にリスクが高い。 事業譲渡方式だったら、これら一切承継しなくてもいいのです。事業譲渡をしたら未払残業代も退職金も一切承継しない。ですので、事業譲渡方式は、特に中小企業であればあるほど、しっかり管理がなされておらず、簿外債務が潜んでいることから、中小企業のM&Aは事業譲渡方式にした方が、このリスクがないということになる。M&Aプレイヤーは、株式譲渡方式がいちばん手続きが簡略であるがいろいろな問題がある頭ではわかっているから、そのようなリスクがある場合は、やはり事業譲渡方式や会社分割方式も考えなければいけないよねということになる。 一般的に、会社分割は包括承継だと言われている。最初に商法で導入された時点では包括承継だった。会社分割は包括承継だと言われているので、買主は未払残業代など承継してしまうのではないかとか、いろいろな偶発債務を承継してしまうのではないかと思われている。ですので、M&Aプレイヤーは、偶発債務を避けるためには、やはり事業譲渡方式しかないのかなと言っている。ただ、瑕疵は分割方式であっても、契約書を工夫すれば、契約書をしっかり個別的に作った上で、事業譲渡方式のような契約書を作成し、会社分割の手続きをしっかり行う。 例えば、先ほどの債権者保護手続の個別通知の送付漏れや個別通知の遅滞などが生ずると、包括承継のようになってしまうことがある。会社分割もしっかり手続きをやるということであれば、基本的に事業譲渡と同じように、簿外債務を承継しないことができる。 税制・消費税・登録免許税・不動産取得税税制、消費税、登録免許税、不動産取得税は、個々では解説は省略します。 瑕疵ある株主さらに今日的な問題として、瑕疵ある株主というのがあります。瑕疵ある株主とはすなわち、株式の譲渡の要件、当事者の合意と株券の交付ですが、この株券の交付がないと株式譲渡は有効とはならないのです。また、勿論、当事者の合意なく、株主の変動が生じた場合も、株式譲渡は有効になりませんので、瑕疵ある株主となります。 なお、今日、株式会社は株券発行会社でないケースが多いので、そういう会社だったら株券の交付についてはあまり気にする必要はない。ただ、昭和の時代に設立された会社であれば、通常は株券発行会社であり、特に事業承継M&Aの対象になっている会社は、和に設立されているため、たいていが株券発行会社であり、株券が存在しないのであれば、それはどこか途中で定款を変更して株券を不存在にしただけであり、平成16年頃までは、株券があったはずですが、株式譲渡の際に株券は交付していない。株券を交付していないので、株式譲渡に瑕疵がある状態のままであり、それが瑕疵ある株主の問題を引き起こしている。 その他、名義株主と言って、実質株主は名前を表に出せないため、他人の名前を使いたいということで、名義株主と実質株主が分かれてしまっているケースがあります。名義株主が株主名簿に書かれていて、実質株主は株主名簿に出ていない。実質株主は誰かわからないのです。いわゆる西武の堤さんの件です。愛人を名義株主にしていて会社はその愛人が株主だと思っていたが、本当は自分が株主だった。愛人が反乱を起こして、他人に株式を売却してしまった。堤さんは愛人と名義株主覚書は結んでいなかったので、みすみす株式を譲渡され、外資系ファンドが取得してしまい、裁判をやったけど勝てなかったという報道がありましたよね。結局、名義株主と実質株主の問題があり、株主名簿に書かれている株主が真実の株主でないケースがけっこうあるのです。 その場合、いちばん影響が大きいのは、株式譲渡方式の場合です。なぜ株式譲渡方式の場合、影響が大きいかといったら、まさに取引の対象物が株式だからであり、株主が真実の株主ではなかったり、株主が瑕疵ある株主であったりすると、買主は株式を有効に取得できなくなってしまう。トラブルの元であり、買主は、後日、真実の株主から損害賠償請求されてしまいます。他人物売買ですから。 ですので、このリスクを回避するために何か良い方法がないかということで、近時、事業譲渡方式がまた見直されている。事業譲渡方式は、株式を譲渡するわけではなく、事業を譲渡するだけだから、事業を譲渡したら譲渡代金は会社に入ってくる。会社に譲渡代金が入ってきた場合、その問題の瑕疵ある株主はその会社の株主に過ぎないのですから、会社としては、必ずしも、株主に譲渡代金を渡す必要はなくいのです。 株主に譲渡代金を渡す必要がないのだから、渡した株主が真実の株主なのかどうかということを考える必要がないのです。譲渡代金は会社の中に溜め込んでおけばいいし、配当する場合は、株主に渡さないといけないのですが、配当しなければ良いわけなのです。すなわち、事業譲渡方式では、取引の対象物が株式ではないため、こちらの方が良いのではないかという話があるのです。 しかし、事業譲渡方式では、株式総会の特別決議が必要なので、瑕疵ある株主がいた場合、いちおう形の上では株主総会の特別決議は通っているのだけれど、その株主総会の特別決議を通した株主が瑕疵ある株主ですということもあるのです。その場合、その事業譲渡は有効なのか。事業譲渡も個別承継であり、通常の取引の集合体ですので、組織再編行為ではなく、通常の売買取引ですから、株主総会の特別決議を通した株主が瑕疵ある株主ですという場合は、その事業譲渡自体が無効となるものと思われます。 ただ、そのような瑕疵ある株主が3分の1以下だったら、もう1回株主総会をやり直したとしても、株主総会の特別決議は通りますということとなり、そうであればそれ程の問題はないはずです。トラブルに巻き込まれる可能性があるものの、裁判所としては株主総会の決議に影響ないですねということで、おそらく株主総会の決議までは無効にならないと思われます。 他方、非常に多くの瑕疵ある株主がいた場合や、株主が全く分からない場合や、株主は敵対的株主ばかりである場合など、問題が発生します。 敵対的株主とは、例えば、兄弟で会社を相続していたケースで、3人兄弟の3番目が言うことを聞かない、とりあえず反対する、とりあえず攻撃してくるみたいな敵対的株主の場合も、会社としてはその人を呼ばずに株主総会をやってしまうおうと。株主総会決議の取消原因となります。取消原因があるとして取り消されたら無効になってしまう。 株主総会に瑕疵があるということで、その事業譲渡は取引無効となってしまうでしょう。特に事業承継M&Aの対象となるちゅう所企業において、戦後まもなく設立されたような会社は、相続が絡んだり譲渡が絡んだりして、株主の状態が全く明らかではない状態になっているというケースが多く、株式譲渡方式が使えないのだけれども、事業譲渡方式でも問題があるということになる。 では、会社分割方式の場合はどうかと考えると、④単純会社分割型を見てみましょう。「株主総会の帰趨に影響ある場合」、すなわち、3分の1以上が瑕疵ある株主の場合は、その株主総会自体が無効でしょう、また、会社分割も無効でしょうねということになるのですけれども、会社分割無効の訴えという制度があって、会社分割の無効は、会社分割無効の訴えでしか主張できないとなっているわけです。しかも裁判でしか主張できないこととなっている。 かつ、会社分割無効の訴えの提訴期間は6ヶ月ですので、6ヶ月我慢すれば、いくら瑕疵ある株主が株主総会で決議をしたとしても、その会社分割は有効になってしまうのです。という意味で、④単純会社分割の方法が見直されていて、ファンドなどは、けっこうこれで事業を買っているようです。 また、③会社分割株式譲渡型ではダメなのかというと、会社分割のところは良いのですが、最初にあったように、株式譲渡のところで株主総会の特別決議が必要なのです。会社分割をするところで株主総会が必要なのだけれども、そこが無効であっても6ヶ月たてば有効ということになるのですが、さらに、株式譲渡をしなければならない。 株式譲渡の株主総会の特別決議については、事業譲渡と同じ条文ですから、株式総会の帰趨に影響があるような場合、3分の1以上が瑕疵ある株主の場合は、その株主総会自体が無効となり株式譲渡も無効になってしまう。会社分割は無効にならないけれども、その後の株式譲渡が無効になってしまう可能性がある。 契約書契約書についてですが、①株式譲渡方式の株式譲渡契約書が一般的な契約書で、②事業譲渡契約書は個別に承継対象資産などを特定しなければいけないなので複雑になり、③会社分割方式の場合も、事業譲渡方式の場合と同様、承継対象権利義務を特定する場合は複雑となるし、④単純会社分割型の場合は、世間的にも契約書の一般的な形態が確立していないものと思われる。 デューデリジェンス(DD)デューデリジェンス(DD)も、M&Aのストラクチャーごとに対象範囲が異なる。株式譲渡方式がいちばん広範にデューデリジェンス(DD)をやらなければいけない。株式譲渡方式の場合は、対象会社に含まれる簿外債務を全部チェックしないといけないので、いちばん広範になってしまう。 事業譲渡方式や会社分割方式であれば、契約書はこの10本だけ承継します、というように承継対象権利義務を特定することができ、その場合は、承継するものだけをデューデリジェンス(DD)すればいいということになるのですが、株式譲渡方式の場合は、対象会社が契約している契約書すべて、いらないものも含めて、「これ30年前の契約でもう終了しているのではないのですか?」というものでも、契約書は全て承継してしまうので、全部デューデリジェンス(DD)しなくてはいけない。 実際は、重要なもの上位いくつかに絞ってデューデリジェンス(DD)したりしますが、本来はそれだけだは足りないということとなる。株式譲渡方式の場合、不動産も関係のない不動産までデューデリジェンス(DD)しなくてはいけない。従業員も関係ない従業員までデューデリジェンス(DD)しなくてはいけない。社長が浪費家でフェラーリとかに乗っている場合、フェラーリとかもなんとかしなくてはいけない。事業譲渡方式や会社分割方式の場合、フェラーリは承継しなければいい話なので。株式譲渡方式は手続きは複雑ではないのですが、複雑な考慮が必要なのです。 M&Aのストラクチャーについては、四者四様の特徴があり、われわれはここからストラクチャーを選んでいくのですが、やはり株式譲渡方式がいちばん簡単なので、リスクは当事者が取ればいいのでということで、M&A仲介業者としては、株式譲渡方式がいちばん簡単である。デューデリジェンス(DD)も弁護士が面倒くさいだけなら弁護士にやらせておけばいいということで株式譲渡がとられることが多い。 税制弁護士が知っておかなければならないM&Aの税税についてですが。 当初、事業を買収したのであれば、買収したときから売却したときの差額、創業したのであれば創業したときの原価から売却するときの差額に税金がかかる。会社分割も同じです、これはそんなに変わらない。 消費税M&Aのストラクチャーごとに消費税はけっこう変わる。株式には消費税がかからないので、株式譲渡の場合は消費税はなし。事業譲渡の場合は、先ほど申し上げましたように個別の譲渡ですから、不動産の譲渡や債権の譲渡とか動産の譲渡とか負債の譲渡の集まりですから、1個1個それぞれに消費税が発生します。 というのは語弊があって、不動産は土地には消費税は発生しないけれども建物には発生します。動産はたいてい発生する。書非税が10%になり軽減税率が導入されると、今後はちょっと面倒くさくなります。食品については8%だけれどもほかについては10%とか、今後相当面倒くさくなりそうですね。ただ、負債についてはもちろん消費税は発生しないですし、のれんについては発生します。債権には消費税発生しないです。すなわち、消費税が発生する課税財産と発生しない非課税財産があるので、課税財産と非課税財産を区別して計算しないといけない。 1億円の事業の譲渡をしたときに、「わかりました、消費税ですね」と8%を掛けると間違えるわけです。よくご相談があるのですが、「8%払ってしまいました」という相談があるのです。課税財産と非課税財産に分けて、課税財産にだけ8%掛けて非課税財産は掛けない。ですので、事業譲渡価格の8%ではないのです。1,000個も2,000個も個別財産があるのであれば、それを1つずつ計算しなくてはいけない。 会社分割は消費税の課税がないです。会社分割だったらいい。東芝も東芝メモリを分離するときはちゃんと、契約書の移転や従業員の同意をとるのが難しいのでそれはそうなのでしょうけど、事業譲渡などをせずに会社分割しています。 登録免許税次は、登録免許税。登録免許税というのは、法務局に払う税金です。会社分割をしたときも会社分割の登記費用を払わなければいけない。ほかには不動産登記。不動産売買したときは多額の登録免許税が発生する。 抵当権設定したりするときも不動産の価格、固定資産評価額に応じてけっこう登録免許税がかかる。以前、会社の会社分割をやったときに、会社分割により気軽に60億円ぐらいの不動産を動かしたら、普通に6,000万円とか登録免許税がかかってびっくりしたことがありました。 けっこうかかる。事業譲渡は個別財産の移転の集合ですから、登録免許税が容赦なくかかる。会社分割の場合は、登録免許税に軽減措置がありかなり安くなっている。 不動産取得税もう1つ不動産取得税というのがあって、不動産を取得した場合は地方税がかかる。それも事業譲渡の場合は個別財産の移転の集合なので、軽減税率はない。会社分割の場合は軽減税率がある。これもかなり軽減されている。そういう意味で、対象会社が不動産を多く保有している場合は、事業譲渡ではやりにくいです。 まとめなお、M&Aのストラクチャーは別に4つだけではないです。この4つが主要なストラクチャーなのですが、これらを組み合わせることもあります。いくつか会社があって、株式譲渡をした上で事業譲渡をするとか。会社分割をした上で、分割した2つの会社で合併させてさらに事業譲渡をするようなこともある。 また、これらのストラクチャーに加えて、売主であるオーナー経営者に対して退職慰労金を支払うとか、いったん剰余金の配当をしてから株式譲渡するとか。自己株式取得をしてから譲渡するとか、ストラクチャーの組み合わせでかなり税金が変わってくる。 M&Aのストラクチャーは、そういうこともふまえて決定するので、そういう意味では皆さん相当勉強しないといけない。 |