株式譲渡契約書の逐条解説 役員の選解任と退職慰労金
弁護士法人M&A総合法律事務所のM&A契約書類のフォーマットはメガバンクや大手M&A会社においても、頻繁に使用されています。
ここに弁護士法人M&A総合法律事務所の株式譲渡契約書のフォーマットを掲載しています。
M&Aを検討中の経営者の皆様でしたらご自由にご利用いただいて問題ございません。
ただし、M&A案件は個別具体的であり、このまま使用すると事故が起きるものと思われ、実際のM&A案件の際には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。
また、このフォーマットは弁護士法人M&A総合法律事務所のフォーマットのうちもっとも簡潔化させたフォーマットですので、実際のM&A取引において、これより内容の薄いDRAFTが出てきた場合は、なにか重要な欠落があると考えてよいと思われますので、やはり、実際のM&A案件の際には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。
なお、詳細な解説につきましては、以下の弊所書籍「事業承継M&Aの実務」をご覧ください。
株式譲渡契約書の逐条解説 役員の選解任と退職慰労金
第14条 (臨時株主総会開催)売主は、クロージング日に対象会社をして、以下の決議事項を株主総会の目的事項とする臨時株主総会を開催せしめ、当該事項について決議せしめるものとする。 (1) 買主が指名する対象会社の新取締役及び新監査役の選任 (2) ____氏に対する役員退職慰労金の支給 第14条は、新役員の選任等に関する遵守条項である。 新役員の選任等に関する遵守条項について事業承継M&Aにおいて、対象会社は、クロージング日におけるクロージングをもって、売主の所有から買主の所有に移るわけであるから、買主としては、クロージング日に、対象会社に対して、新役員を派遣することとなることが多い。 そこで、買主としては、クロージング日のクロージング終了後、対象会社に臨時株主総会を開催させて、新役員を選任させる必要がある。また、買主は、クロージング日に、対象会社に臨時株主総会を開催させて、新役員を選任した後、対象会社に取締役会を開催させて、新代表取締役を選任することとなる。 新役員の選任等の必要性理論的には、株式譲渡のクロージング日におけるクロージングが終了したばかりの段階では、対象会社の役員には、旧役員がそのまま在任していることとなる。また、株式譲渡契約書において、対象会社の旧役員は、クロージング後退任するものとされていたとしても、クロージング後に開催される株主総会の終了をもって退任とされることが一般的であるため、旧役員は、株式譲渡のクロージング後においても、しばらく役員として在任していることとなるのである。 また、会社法346条[1]上、役員は、定款上の定足数を欠くこととなる場合は、退任したとしても、新役員等が就任するまで、権利義務取締役として、役員としての権利及び義務を負うものとされているため、株式譲渡において、旧役員が辞任したとしても、引き続き役員としての責任を負ってしまうこととなることが多く、株式譲渡においては、クロージング後、速やかに、新役員を選任する必要があるのである。 また、会社法296条[2]3項上、株主総会の招集や開催は、取締役の権限とされており、株式譲渡のクロージング後、旧役員が辞任して対象会社に協力しないような場合、理論的には、対象会社の株主総会を招集・開催することができなくなり、新役員の選任もできなくなるという関係にある。この点、売主としては、株式譲渡のクロージングが完了し、買主が対象会社のオーナーになったのだから、買主が株主総会を招集・開催してほしいと考えることも多いが、そうはいかないのである。 このような理由もあり、株式譲渡のクロージング後の円滑な株主総会の招集・開催及び新役員の選任のため、株式譲渡契約書において、売主の義務として、対象会社に臨時株主総会を開催させる義務を規定することが必要なのである。 クロージング前の新役員の選任等また、売主としては、対象会社の株主総会を招集・開催して、新役員を選任する必要があるのであれば、株式譲渡のクロージング前に行えばよいと考えることもある。 ただ、その場合、株式譲渡のクロージング時における役員は新役員ということとなり、売主が所有する対象会社の株式譲渡のクロージングを、買主が派遣する新役員が行うこととなり、売主のガバナンスの問題が生ずることや、新役員としても他人の会社である売主から、対象会社のクロージングの実務を任されたとしても、責任は持てないであろう。また、新役員は、役員就任からクロージングまでの間、売主が所有する対象会社において、何らかの経営問題が発生した場合、経営責任を負うこととなるが、他人の会社の経営責任を新役員が負うことには抵抗があることが多いと思われる。 また、新役員とともに、クロージングまでは旧役員も在任し、クロージングとともに旧役員が辞任するということも考えられなくはないものの、この場合も、上記の他人(売主)の所有する会社の経営責任を、買主が派遣した新役員が負うことになってしまう。 株式譲渡方式における退職慰労金の支給と税効果また、本条では、第2号において、旧役員に対して、退職慰労金の支給を決議することが規定されている。 この退職慰労金の支給の対象となる旧役員は、オーナーである売主個人の場合も多い。 事業承継M&Aにおいて、株式譲渡代金を、実質的に、株式譲渡代金と役員退職慰労金の2つに分けて支給することはよく行われる。 売主と買主としては、対象会社の株式価値について、特定の額(例えば5億円)と決めたとしても、売主がその5億円をどのように受け取るかによって、売主の株式譲渡代金の手取額が大きく異なるのである。 買主としては、株式譲渡代金が5億円と決まったからには、いずれにしろいずれかの形で5億円を支払わけなればいけないのであり、比較的関心は薄いものの、売主としては、適用される税制により税金が大きく異なり、その結果、手取り額が大きく異なるため、非常に関心の濃い分野である。 株式譲渡代金については、ご存知の通り、適用される税制としては、譲渡所得として株式譲渡益課税であり、税率は株式譲渡益の20%(プラス復興特別税)であり、課税としてはそれ自体低い部類に入るが、退職慰労金については、退職所得となるため、退職金控除が存在し、一定以下の役員退職慰労金には所得税が発生しない。 また、退職所得では、退職金というものはその者がその後その資金で生活してゆかなければならないということで税制が優遇されており、控除後の金額の2分の1の額のみが課税所得とされるため、税金が少なくなることが多い。ただ、総合課税であることから、課税所得の合計額の多い人に対しては、累進課税により高い税率が適用されるため、課税所得の合計額が多い場合は、最終的には、譲渡所得よりも課税負担が重くなることがある。 売主としては、この2つの税制のはざまで、対象会社の株式価値を、株式譲渡代金と役員退職慰労金の2つにどの程度ずつ配分して、事業承継M&Aに伴って湯量することが、最も課税負担が少なくなるのかを考えるのであるが、これについては、よくよく検討する必要があるのである。 また、買主としても、買主から売主に対して株式譲渡代金を支払うのであれば、対象会社の株式価値分の出費がそのまま生ずるものの、対象会社の株式価値の一部を、対象会社から売主に対して退職慰労金として支払うのであれば、対象会社の手持ち資金で賄うことができるのであり、買主の資金を使用することなく事業承継M&Aを実行することができるのであり、半面、売主についても、対象会社において損金処理をすることができ、クロージング後の対象会社の税務負担の軽減につながるため、無関心ではいられない。 株式譲渡方式におけるその他の支払いの税効果その他にも、事業承継M&Aに伴い、売主に対して、対象会社の株式価値を、株式譲渡代金と配当金の2つに分けて支払う場合もある。特に、売主が法人の場合、対象会社からの配当金の支払いが、受取配当金の益金不算入になることから、対象会社から法人である売主に対して配当金が支払われたとしても、売主においては、益金とはされず、課税対象にもならない。 また、対象会社が売主から自己株式取得を行うことにより、法人である売主に対して、自己株式取得代金を支払う場合、売主の株式の譲渡益は、配当とみなされ、配当金と同様、益金不算入になることから、対象会社の株式価値を、株式譲渡代金と、自己株式取得代金の2つに分けて支払うスキームもしばしば採用される。 なお、配当金の支払いも自己株式取得も、会社法上の資本規制があるため、また対象会社の資金繰りの問題にも直結するため、無制約に行うことはできない点に留意が必要である。 その他にも、対象会社の株式価値を、株式譲渡代金と商標買取代金の2つに分けて支払う場合や、株式譲渡代金と不動産譲渡代金の2つに分けて払う場合など、いろいろなスキームが存在する。いずれも、実質的に、買主から売主に対する株式譲渡代金の支払いを、異なる支払いに変更することによって、適用される税制を変更し、税負担の最小化を狙っているのである。 事業譲渡M&Aと一般役員に対する役員退職慰労金の支給また、本条では、第2号において、旧役員に対して、役員退職慰労金の支給を決議することが規定されている。この場合の旧役員は、オーナーである売主個人であることもあれば、一般役員であることもあろう。 このような場合、通常は、旧役員に対して役員退職慰労金を支給することにより、対象会社の企業価値が減少するため、株式譲渡代金をその分減額調整することがあり得る。 [1] 会社法346条(役員等に欠員を生じた場合の措置)1 役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。 2 以下略 [2] 会社法296条(株主総会の招集)定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。 2 株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。 3 株主総会は、次条第四項の規定により招集する場合を除き、取締役が招集する。 |