あさひ銀行事件
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ある会社支配権争奪裁判でのこと、
原告(弊職Client)と被告(親族)とが株式の所有をめぐる争いです。
みなさん、名義株 をご存知でしょうか。
過去、商法上、会社を設立する際は7名の株主が必要だったのです。
ですので、昭和の創業者の多くは、親せきや友人も含め必死で株主を集めて名前を借りて会社を設立したのです。
この名前を貸した株主が「名義株主」で、その株式のことを「名義株」と言います。
名義株主は、通常、名前を貸しただけですので、会社の経営や支配には興味がないことが一般です。
しかし、平成の時代になり、創業者もなくなり次の代になると、
その株主が、名義株主なのかその反対の実質株主なのかよくわからなくなってしまうことがあるのです。
また、最高裁判所の判例では、名義株は名義株主の株式ではなく、実際に出資金を拠出した実質株主の株式であるということとされており、
実際に株券を保有していてもその人は株主ではない可能性が存在するのです。
また、実際に株券を保有していなくても、実際に出資金を拠出したのであれば、株主であるのです。
そこで、この会社支配権争奪裁判でも、親族同士で、会社支配権を争うにあたり、保有する株式が、名義株なのか実質株なのかが主要な争点になりました。
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被告(親族)が言うには、原告(弊職Client)が保有する株式は、名義株であり、実際に出資金を出資したのはその被告(親族)だというのです。
原告(弊職Client)のお父様が会社を経営していた時期もあることから、我々はそんなことあるはずがないと考え有利に裁判を進めていました。
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しかし、2年以上裁判が経過し、もうそろそろ裁判も終わりに近くなったところ、
被告(親族)が「あさひ銀行の振込票」のコピーを証拠提出してきたのです。
「長らく探していたがようやく発見した」とのことでした。
その「あさひ銀行の振込票」は被告(親族)が原告(弊職Client)のお父様の代わりに出資金を振り込んだ振込票で、
被告(親族)は原告(弊職Client)のお父様の名前をを借りたのであり、
原告(弊職Client)の保有する株券は名義株であるということです。
われわれは、それまで有利に裁判を展開していたこともあり、
「そんなことがあるはずがない」「他の証拠は揃っているのに」「ほとんど勝ちそうだったのに」
とかなりの衝撃を受けました。
裁判については、絶望の淵に追い込まれました。
2年以上も続けてきた裁判の流れが一気に逆転され、弁護団は非常に暗い雰囲気になりました。
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しかし弁護士としては仕事ですので、絶望的な努力を継続していたある日、
私も絶望的な気分で、その「あさひ銀行の振込票」を眺めていました。
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そのとき、ふと閃いたのです。
「この時期にあさひ銀行は本当に存在していたのだろうか?」と。
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今となっては忘れてしまいましたが、その「あさひ銀行の振込票」には振込日付が書かれていました。
私は、書店に行って、学生用の就職本(銀行業界編)を購入し、
あさひ銀行がいつ誕生したのか、確認しました。
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すると、その振込日付には、あさひ銀行は存在しておらず、
確か、その前身の銀行のみが存在していたことが判明しました。
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裁判の流れが再度大きく変わった瞬間でした。
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その裁判が勝訴に終わったことは間違いありませんが、
そもそも弁護士年齢の浅い私には、
「裁判でこんな証拠の偽造をする人物がいるのか!!」
と非常に驚き、
「自分は子供だった」ことを実感させられ、
弁護士人生が変わったことを記憶しています。
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これを契機に、私の趣味は「偽造証拠を発見すること」となり、
次々と「偽造証拠」を発見し、逆転裁判を大量生産することとなるのですが、
おもしろいネタから随時デフォルメしつつ掲載することといたします。
※ 私が飲み会などでネタにする話題は、実際の業務に基づく衝撃的な事件ネタが多く存在します。
あまり詳細なことは言えませんが、評判がいいので、多少デフォルメして随時紹介することとします。