M&Aのメリット
目まぐるしく変動する今日の経済情勢の中、企業にとって、M&Aは避けて通れない検討課題となっています。従来のやり方を踏襲するだけでは、たちまち持続困難な状況に追い込まれかねない懸念から、M&Aによる打開に期待が高まっているのです。この記事では、M&Aがもたらすメリットを買い手と売り手の立場からそれぞれ解説します。
M&Aとは?
M&Aのメリットを知る前に、まず基本的なことを押さえておきましょう。
M&Aとは「Mergers And Acquisitions」の略称です。直訳をすれば、「合併と買収」です。買い手企業と売り手企業が存在しており、買い手は売り手企業のすべてを取得するか、一部門のみを取得します。
つまりM&Aは、組織を手早く調達する手段だといえますが、大事な点は、単に会社という組織を入手するということではなく、さまざまな要素が含まれた資産を入手するということです。
具体的には、「動産」「不動産」を始め、「従業員」「特許権」「ノウハウ」「ブランド」「債権・債務」「組織風土や文化」などです。こうした資産をどのように生かすのかによって、M&Aの真価が問われることになります。
M&A買い手側のメリット
M&Aのメリットを買い手と売り手のそれぞれの立場からみていくことにしましょう。まずここでは、買い手企業のメリットから解説していきます。
事業規模を拡大できる
M&Aは同業の会社同士で行われることがあります。
元々同じ業種であっても、ターゲットとなる客層や商圏が異なれば、双方の長所を組み合わせることで市場拡大が期待できます。単に店舗や商圏が広がったというだけでなく、新たな魅力を生み出す相乗効果が期待できるのです。
さらに不動産や設備といった資産を増やすことができるとともに、技術、取引先、顧客、流通網を広げることができます。その結果、事業規模を拡大することができるのです。
少子高齢化が進捗する今日の社会において、パイを食い合うことは、それぞれの企業を弱体化させるしまうリスクをはらんでいます。持続可能な企業とするためにも、事業拡大は避けて通れない検討課題だといえます。
事業を拡大することで、取引先に対する交渉力が強化され、仕入れのコストを大幅に下げることが可能になります。これにより、設備稼働率が上昇するといったこと、あるいは知名度がアップするという効果を生み出すことが期待できます。
単独で事業を拡大しようと思えば、莫大な設備投資や広告費用等を費やすことになりますが、M&Aであれば、売り手が既に開拓していた取引先や商圏をそのまま引き継ぐことができるため、一気に事業を拡大することができます。
事業を多角化できる
事業環境が厳しくなってきた今日、単独の事業だけでは、知らぬ間に時代の流れに取り残されてしまうリスクがあります。さらには、経済情勢の急変や斬新な技術開発によって、事業が大きな打撃を受けることもあります。長年、安定的に消費されていた商品であっても、時代の変わり目によって、あっという間に見向きもされなくなることがあるのです。
このため、企業が末永く生き残っていこうとすれば、リスクを分散させる事業の多角化を行うことが有力な手段となります。将来性のある事業を行っている企業を買収することで、事業を多角化することができ、さらなる相乗効果も期待できます。
ネット通販会社が、銀行、旅行業、クレジットカードに進出しているなど、事業の多様化は、企業が生き残るための重要な戦略とされています。しかし、別分野への進出を自社の企業努力で一から始めようとすれば、軌道に乗るまでに莫大な資金と時間を要することになります。
目指すべき事業分野で有力な営業をしている企業とM&Aを実施することで、企業の多角化が実現できることになり、持続可能な企業として生き残ることが可能になるのです。
事業展開のスピードをショートカットできる
M&Aでは、売り手企業の資源を手に入れることができます。新規事業を始める場合に比べて、売り手企業の資源を活用した方が、圧倒的に事業展開のスピードが速くなります。
新規事業を始めれば、莫大な資金を要するのはもちろんのこと、事業が成長するまでの時間や人員を投入することになります。しかも、新規事業が必ずしも成功するという保証はどこにもありません。投資がすべて損失となり、資産を食い潰すということも十分にあり得るのです。
目指すべき新規事業を行なっている会社を買収した場合、すでに基盤ができているので、事業成長の時間が不要なうえに、当初から十分な収益が期待できます。『時は金なり』ということわざがありますが、まさにM&Aによって時間を買うことができるのです。
優秀な人材やノウハウが新たな資産になる
売り手企業に優秀な人材がいる場合や優れたノウハウを有している場合、M&Aによって、それらの資産を自社の原動力として活用することが可能になります。
M&Aは、ただ会社の事業規模を大きくすればいいのではなく、自社に良い影響をもたらしてくれる企業を選ぶことが重要です。事業を担う優秀な人材や技能を獲得することができるからです。
このため、特定の優秀な人材を手に入れようとするときは、その人が退職しないような環境を整備する必要があります。また、とびぬけて優れた人材が不在だとしても、チームワークが良い、仕事が早い、人件費が安いといった利点があれば、企業に好影響を与えることになりますから、受け入れる価値は十分にあります。
M&Aによって、優秀な人材やノウハを手に入れることができれば、会社にとって大きな資産となり得るのです。
節税対策ができる
売り手が繰越欠損金を抱えている場合、買い手がそれを引き継ぐことができます。欠損金は、次年度以降7年間でゼロ円になるまで黒字と相殺できるため、結果的に節税をすることができます。
弱点をカバーできる
苦手とする部門を強化して、強みの部門をさらに強固なものにすることができるのがM&Aのメリットです。
たとえば、商品品質の定評はあるのに、営業が弱いために売り上げが伸び悩んでいる企業であれば、営業や広告に強い会社を獲得することにより、飛躍的な売り上げを実現することが可能になります。
ライバル社との無益な競争を止められる
すでに需要が飽和状態になっている商品の売り上げを伸ばそうとすれば、ライバル会社との値下げ合戦を展開することになります。このため、たとえシェアを伸ばしたとしても売上自体は、ほとんど変わらないという事態も起こり得ます。
M&Aによって、ライバル会社を獲得することで、無駄な顧客の奪い合いに腐心する必要がなくなるため、売り上げを大きく伸ばすことができます。
技術力が向上する
M&Aによって、優秀な人材や特許権を自社のものにできるため、企業の技術力や研究開発能力を大きく向上させることができます。
昨今の技術開発のスピードは目覚ましいものがあるため、一朝一夕にライバル他社と肩を並べることはとても困難です。しかも、売れる商品にするためには、さらに他社の一歩先を進む必要があるのです。
研究開発に多額の投資を続けるよりも、すでに特許等で実績を上げている企業を取り込んだ方が、確実に新製品を生み出すことができます。
また近年は製品単独ではなく、コンテンツや販売経路を含めたシステム全体を顧客が評価する傾向があります。これまで自社内になかった多様な知識を導入することで、革新的な製品やシステムを生み出す土壌が構築でき、顧客からの評価も高まります。
M&A売り手企業のメリット
次に、売り手側の企業にとってM&Aはどのようなメリットがあるのかについて解説していきましょう。
会社存続の道筋が見えてくる
M&Aは会社を存続させるための有効手段として活用することができます。売り上げが下降傾向のときに会社を手放せば、買い手企業との相乗効果による経営再生が期待できます。また経営者が高齢であったり健康に不安があったりする場合でも、後継者問題への心配が解消されます。
会社が小規模だと、経営基盤が脆弱なため、ひとつの問題を抱えるだけで、たちまち廃業が大きな選択肢として浮上してきますが、経営基盤が強固な企業に買ってもらうことで、ピンチのときであっても会社を守れる確率が高くなります。
従業員の雇用を守れる
会社経営が下降傾向であっても、M&Aによって会社を存続させることによって、従業員の雇用を守ることができます。反対にM&Aをためらって、会社を倒産させてしまえば、従業員は全員職を失うことになります。この違いは、従業員にとってまさに「天国と地獄」ほどの落差がありますから、M&Aの検討を疎かにすることはできません。
M&Aにおいて、従業員の立場は弱いものであり、希望どおりの雇用条件にすることが困難なのが実情ですが、継続的な事業運営や相乗効果の創出といった利点を最大限生かすためには、従業員の潜在能力をないがしろにすることはできません。M&Aにおいては、従業員をいかに働きやすい環境にできるかが重要な課題となります。
後継者問題を解決できる
中小企業庁の報告では、中小企業の60歳以上の経営者のうち、50%以上が廃業を予定しており、そのうちの30%は「後継者がいない」ことを理由に挙げています。
しかも廃業予定企業のうち30%の経営者が、同業他社よりも良い業績を上げており、今後10年間の将来性についても、約40%の経営者が「現状維持は可能」と回答しています。
中小企業の事業承継を目的とした経営承継円滑化法では、「事業承継税制」という特例制度を設けていますが、後継者不在では有効に機能しません。
こうした後継者不在の問題を解決するのがM&Aです。M&Aによる事業の引継ぎを行うには、ノウハウの継承など後継者人材の育成が必要になるため、ある程度計画的に進めていく必要があります。
計画的にM&Aを行うことで、会社の存続だけでなく経営者の理念を反映した事業承継が実現できます。
創業者利益を得ることができる
M&Aでは主たる株主である創業者が利益を得ることができます。会社や事業を売却すると相当に大きな金額になります。いわば創業したことへの報酬ともいえます。さらに状況によっては経営者の退職金の上限をアップすることも可能です。
会社の価格は、保有資産や将来予測される利益などから総合的に判定されますので、高い売却額を目指すのであれば、企業価値をしっかりと理解しておくことが大切です。事業売却の場合は法人が取引の主体となるので、創業者利益は売り手企業から得ることになります。
M&Aには税金が伴います。事業売却では、法人税の支払い義務が発生しますが、会社売却は、創業者が直接利益を得られるため所得税と住民税が対象となり、多少税率が安くなります。
将来の不安から解消される
M&Aでは、一般的に買い手企業の方が売り手企業より規模が大きいため、強固な経営基盤を背景にすることができます。従前感じていた経営不振や後継者不在に対する不安から解放されることは、精神的に大きなメリットがあります。
赤字決算や債務超過が続いていた場合であっても、買い手企業に債務を引き受けてもらえることになります。中小企業の特徴として、法人の債務に経営者が連帯保証人となっていることが多いという点があります。また経営者の親や配偶者といった親族が連帯保証を負っているケースもよくあります。
まだ現役意識が強い若いときであれば耐えられるのですが、高齢になると相続や自分が病気になってしまったときのことを考え、連帯保証が大きなプレッシャーとしてのしかかってきます。それが原因となって精神状態が不安定になってしまうことも、ないとはいえないのです。
そうした状況で、M&Aによって会社を売却することができれば、債務や経営に対するプレッシャーから解放されることになります。
若い経営者であっても、自社の所有に強いこだわりがなければ、M&Aによる売却を行い、早期にリタイヤをすることができます。その後は、売却資金を元手に新たな事業を行ったり、投資家になったりすることができますから、自由を得るというメリットは、年齢に関わりなく享受することができます。
不採算事業を売却し、収益性の高い事業を残せる
不採算事業があれば、存在しているだけで会社の資金は目減りしていきます。なんとか黒字を維持しているような状態でも、何かのトラブルでたちまち赤字に転落する不安要素があります。そのような場合でも事業譲渡によって、不採算事業だけを切り離して売ることができます。
事業譲渡は会社そのものを残す方法で、詳細の内容は契約によって決められます。事業の範囲が不明確な場合、手続きが煩雑になってきますが、事務的な整理を施し譲渡を実現すれば、収益性の高い事業に集中することができるので、経営改善ができる合理的な選択肢だと言えます。
自社にとって不採算事業であっても、他の企業から見れば「宝の山」に見えることがあります。要は、それを生かすノウハウがあれば、不採算部門を再生させることが可能なのです。評価をしてくれる企業があれば、思い切って不採算部門を切り捨て、得意の部門に集中するのも、経営状況の反転に繋がる有力な方法です。
売却益を得ることができる
M&Aによる売却を行うと、多くの場合、現金で売却益を受け取ることができます。その場合、買い手が売り手企業の価値をどのように評価しているかによって、売却益が異なってきます。
株式には上場株式と非上場株式がありますが、中小企業の非上場株式は、売り手の経営者が実質オーナーであることがほとんどであるので、買い手と売り手の経営者の話し合いで金額が決まります。
一方、上場株式の場合、売り手の株主は不特定多数です。このため、売り手の経営者と買い手の希望金額が一致していても、買い手は希望どおりの金額で買収することができません。買い手は専門家と相談をしながら、多数の株主が納得する金額に設定する必要があります。
従業員の待遇向上が期待できる
M&Aでは、買い手企業の方が、従業員の待遇が良いことが多いため、給与や福利厚生の面で待遇が向上することが期待できます。また、それまで実績を高く評価されなかった従業員も社風が変化することによって、大きく評価をあげる可能性が広がります。
まとめ
ここまで、M&Aのもたらすメリットについて、買い手企業、売り手企業の立場からみてきました。
買い手は、「新たな業務展開をするための時間と労力を大幅に削減できる」という点が大きなメリットして挙げられます。「時間」という、本来お金では購入できないものを手にすることができるのですから、M&Aを実施する意義は非常に大きいといえます。
一方、売り手は、「後継者問題」という積年の課題を解決できるという大きなメリットがあります。近年、中小企業の後継者問題は社会問題化していますから、M&Aによって解決の糸口がつかめるのであれば大きなメリットだといえます。
最善の相手とタイミング、さらには手法を見極めて、M&Aのメリットを最大限に生かしましょう。