M&Aのメリット・デメリットを売り手側/買い手側の視点で分かりやすく解説!

  • 2018年10月7日
  • 2024年11月6日
  • M&A

M&Aは事業承継や事業拡大などの際に有用な方法として知られています。この他にもM&Aには買い手・売り手・従業員などそれぞれの立場の人にメリットのある方法です。メリットを知ることで、M&Aをより有効活用できるはずです。

この記事ではM&A弁護士が以下のポイントを説明します。

  • M&Aのメリット(買い手・売り手・その他)
  • M&Aのデメリット(買い手・売り手・その他)
  • M&Aを成功させるポイント

M&Aのメリット、デメリットについては売り手や買い手など視点を分けて解説します。立場が変わればメリット、デメリットも変わります。混ぜて考えないよう注意してください。

目次

M&Aとは?

M&Aとは会社の合併・買収のことです。吸収合併や事業譲渡、株式譲渡など合併・買収の方法をまとめて「M&A」と呼びます。

日本のM&Aは「買い手と売り手双方のメリットを目的に平和的にM&Aを行う」ケースが大部分です。それというのも、M&Aは大企業の事業拡大から中小企業の事業承継まで幅広く使える方法だからなのです。会社をさらに育てるため、あるいは会社を誰かに継いでもらうためなど、日本では会社の将来や問題解決のためにM&Aが使われています。

状況や事情に合ったM&A手法を用いることで、買い手・売り手・従業員や取引先などそれぞれの立場にメリットがあります。

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M&Aのメリット 買い手側

M&Aには主に3つの立場があります。売り手、買い手、その他(従業員や取引先など)の立場です。立場によってM&Aのメリットが変わってきます。

  • 事業拡大に使える
  • 事業成長に使える
  • 新規事業に使える
  • 技術向上に使える
  • 節税対策に使える
  • 弱点を強化できる
  • ライバルをおさえられる

まずは買い手側の7つのメリットから説明します。

事業拡大に使える

M&Aは会社そのものを買うだけでなく、会社の有している技術や知識、ノウハウ、権利、不動産、設備などもまとめて手に入ります。事業拡大したいときは自社でノウハウを確立して設備の準備などをしなければいけません。ですが、M&Aをすればその必要はありません。必要なものが自動的に手に入ります。

たとえば、A社は製造部門の事業拡大をしようと考えていました。A社が製造部門の事業拡大をするために必要なものは多くあります。

事業拡大のためには、まず従業員を雇わなければいけません。従業員を雇っても、事業拡大分の設備や工場がなければ仕事ができません。よって、設備や工場を増設しなければならないのです。さらに、設備や工場があっても、A社が拡大する製造部門に新たに必要になる知識やノウハウ、技術がなければ製造はできません。人員確保に工場建設、設備の購入、技術やノウハウの確立・・・簡単に考えるだけで、これだけのものをA社は準備しなければならないのです。

事業拡大のためには資金と時間がかかることでしょう。仮に準備ができても、すぐに製造が順調に進むとも限らないのです。拡大した事業を軌道に乗せるためにはさらに時間がかかることでしょう。

A社が事業拡大のために必要とする技術やノウハウ、設備や人員などを持っている会社をM&Aで買えば、あえて個別に準備する必要はありません。A社の事業拡大に必要なものをすべて備えている会社を買えば、必要なものがワンパッケージで手に入ります。あるいは、A社が事業拡大のために必要とするものをある程度持っている会社を買えば、A社が製造部門拡大のためにしなければならない準備は少しで済みます。

M&AによってA社の製造部門の事業拡大が資金的にも時間的にも、そしてプロセス的にもより簡便になるというわけです。

事業成長に使える

M&Aには同業種の会社を買うことで会社の成長に使えるというメリットもあります。

会社を成長するためには仕事に使う設備や不動産、ノウハウ、知識、従業員などが必要です。さらに、業種に応じた取引先なども必要になることでしょう。普通に会社を成長させるためには、これらをひとつずつ積み上げなければいけません。しかしM&Aを上手く使えば、一気に会社を成長させることも可能です。

B社は工業製品の中でも部品の製造を得意としていました。同業界には他にC企業があり、同じような部品を製造していました。B社は部品の製造部門を伸ばしたいと考え、同業界の会社であるC社をM&Aで買いました。B社がM&AでC社の製造部門あるいは会社そのものを買ってしまえば、C社の持っていた設備や従業員、知識などをまとめて自社のものにできます。

また、同部品を製造しているのはB社とC社のみですから、C社をM&Aで買うことで取引がB社に集中するというメリットもあるのです。取引が集中するとそれだけ利益が出る可能性も高くなるわけですから、B社の成長が見込めるというわけです。

M&Aは実際に事業成長のためによく使われています。

新規事業に使える

M&Aは新規事業をはじめたいときにもメリットのある方法です。

たとえば、A社は飲食業界の中でもラーメンを得意としている会社だったとします。A社は各地にラーメンのチェーン店を出店していました。A社はラーメンの分野ではそれなりの名の知れた会社に成長し、世間に認知されている状況です。

そんなA社は、新たに和食チェーン店を出店することにしました。ラーメンで各地にチェーン店を出店したように、和食でもA社は覇権を狙いたいと考えていたのです。しかし、ラーメンで儲かっているからといって和食で儲かるとは限りません。

和食とラーメンでは必要とする設備からノウハウ、技術まで違います。ラーメン屋で好まれる内装やコンセプトが和食屋でも好まれるとは限りません。A社はもちろん失敗したくありませんから、和食屋は和食屋で新たにコンセプトの打ち出しや料理人の雇い入れ、メニューや内装、設備の熟考などを行いたいと考えていました。しかし和食屋はA社にとって新たな分野ですから、準備しようにも知識自体がありません。

このようなケースではM&Aで和食に強い会社を買ってしまうという解決方法があります。A社が自社で調べてすべて準備することは大変です。和食関係の事業に強くノウハウや技術、経験の豊富な会社をM&Aで買えば、A社は苦心してゼロから準備を進める必要はありません。

また、仮にA社が和食屋としてすでに知名度のあるC社を買えば、C社の技術や設備だけでなく、C社の名前や評判なども合わせて手に入れることが可能です。C社を買った場合は、すでに実績のある和食屋であるC社を足掛かりに新規事業に乗り出せるというメリットがあります。

技術向上に使える

M&Aの買い手側のメリットに自社の技術向上があります。

自社の事業分野で伸び悩んでいたとします。自社の成長の停滞は技術不足にあると分析していました。このようなケースでは、技術を持った同業種の会社などをM&Aで買うことにより技術の向上をはかることが可能です。

たとえば、自社の伸び悩みが同業他社と比較して技術不足にあることに気づいたA社があったとします。A社の伸び悩みを改善する方法は言うまでもなく技術の向上です。しかし、技術不足を改善するために技術向上をはかるとしても、簡単な話ではありません。

試行錯誤しながら技術を向上させるためには時間がかかります。設備に力を入れたからといって、技術不足は簡単に解決できるような問題でもありません。技術を向上させるためには経験も関係します。経験を積むことも、短時間でどうにかなる問題ではないはずです。必要な技術を自社で分析し、研究や開発に資金や人手を割くことも時間や資金の関係で難しいケースもあります。中小企業などは、特にそうではないでしょうか。

A社のようなケースでは、技術向上のためにM&Aを活用するメリットがあります。A社は同業の会社で自社より技術力や経験を持つ会社をM&Aで買えば、技術やノウハウなどを自社で時間をかけて追求しなくても入手可能です。このように、M&Aは技術に関する問題の解決策に使えるというメリットがあります。

節税対策に使える

M&Aには買い手側が節税できるというメリットがあります。ただし、このメリットはM&Aで買う会社が繰越欠損金(赤字)を抱えていたケースです。

M&Aで会社を買うと、買った会社を引き継ぎます。引き継ぐのは設備や所有している財産だけではありません。その会社の繰越欠損金も引き継ぐのです。

買った会社の赤字を引き継ぐと言われると、マイナスの意味に捉えてしまうかもしれません。実際は繰越欠損金を引き継ぐことにより、会社の黒字を上手くコントロールして節税できるというメリットがあるのです。

買った会社に赤字があれば、その赤字は自社の黒字と7年間相殺できます。黒字の多い会社が赤字の会社を買うことで黒字と相殺する結果、買い手側の会社が節税できるというわけです。

このような節税方法は実際に行われています。

弱点を強化できる

M&Aの買い手側のメリットのひとつに、弱点分野の強化があります。

会社は万能ではありません。多くの会社が得意としている分野や事業を持っている反面、苦手としている分野や事業もあるのではないでしょうか。

工業部品を作っている会社があったとします。この会社が畑違いの製菓を苦手としている、あるいはノウハウを持っていないという場合は、弱点であっても特に問題ないでしょう。この会社の仕事は工業部品の製造であり、製菓ではないからです。しかし、この会社が工業部品の製造に関わる技術に弱点を持っていたらどうでしょう。自社の分野や事業に関わる部分に弱点を持っていると、それこそ社の命運に関わります。

工業部品を製造しているB社が、工業部品の細かな調整を弱点としていたらどうでしょう。B社は工業部品を製造する会社の中でも安価で部品を製造する技術を持っていました。しかし、工業製品の微調整が苦手だったため、検品で跳ねられる部品が多く、ときに取引先の工業製品組み立て・製造などをしている会社からクレームが入ります。工業製品を作る際に部品の大きさなどが狂っていると、製品の初期不良や故障、事故などにつながるはずです。B社は部品製造時の微調整が苦手であるという弱点を克服したいと考えていました。

B社の弱点を克服する方法としてはふたつの方法が考えられます。ひとつはB社が自社で研鑽を重ねて克服する方法です。もうひとつの方法はB社がM&Aで自社の弱点をフォローできる技術を持つ会社を買うという方法になります。

B社の同業会社に部品の微調整を得意とするA社がありました。A社は部品製造において細かな調整ができる技術と経験を持っており、正確性の高い工業部品の製造で知られていました。B社がM&AでA社を買えば、B社は自社で時間をかけて部品の微調整についての技術を確立することなく、A社のノウハウや経験、技術を自社のものにして、弱点部分を強化できるというわけです。

ライバルをおさえられる

同業の会社同士でシェアの奪い合いをしている場合はM&Aで同業他社を買ってしまえば、自社のシェアを増やすことが可能です。

A業種は成熟期を迎えており、市場の成長はこれ以上見込めない状況でした。その分野の市場が育ちきってしまったわけです。市場が成熟期を迎えていると、同業の会社同士でシェアの奪い合いになります。自社の業績を伸ばすためには同業他社をおさえてシェアを奪うしかないのです。このようなケースでは、M&Aを利用してライバルをおさえる方法が考えられます。

ある業種においてB社、C社、D社の3社がシェアの奪い合いをしていました。シェアはB社が40%でC社が30%、D社が30%という状態です。シェアの奪い合いが拮抗している状態だと言えるでしょう。市場はすでに成熟期を迎えていますから、3社が奪い合い以外でシェアを伸ばすことは難しい状況です。

この状況でB社がC社をM&Aで買ったらどうでしょう。B社はC社のシェアをほぼ受け継ぐと考えられますので、M&Aによって市場のシェアが変動し、B社が70%でD社が30%になります。拮抗状態だった市場でB社がライバルであるC社とD社をおさえることが可能です。B社がさらにD社を買えば、この業種においてB社はシェアを独占できます。

M&Aを使うことで伸び悩んでいる業種の市場シェアを伸ばすことができると共に、ライバル会社をおさえられるというメリットがあります。特にシェアを目的とせず、同業種のライバル会社を取り込んでしまうことを目的にM&Aをすることも可能です。

M&Aのメリット 売り手側

M&Aは会社を売る側にもメリットがあります。

  • 事業を整理できる
  • 資金調達できる
  • 経営者がリタイアできる
  • 会社や技術を承継できる
  • 後継者問題の解決に使える
  • 従業員の雇用を守れる

買い手側のメリットに引き続き、次はM&Aの売り手側のメリットについて説明します。

事業を整理できる

M&Aをすることで売り手側は自社の事業を整理できるというメリットがあります。

A社には3つの事業分野がありました。缶詰事業と缶詰以外の食品加工事業、それから製菓事業をおこなっていました。それぞれの事業は社内工場で一貫して行っていたため、3つの事業分野においてはある程度の設備やノウハウがあります。

A社は世間的には魚関係の食品加工会社、缶詰会社として認知されています。会社の売上の大部分を占めているのも缶詰やその他魚の加工食品でした。製菓部門ではあまり採算は取れていない状況です。会社もどちらかというと魚や缶詰に力を入れています。製菓部門は会社の売上に貢献しているというより、お荷物になっている状況でした。

A社はこれから製菓業界に参入したいB社に製菓部門を売却しました。A社はM&Aを使った売却により、不採算部門である製菓部門を整理できるというメリットがあります。このように多くの事業を行っている会社の場合は、M&Aによって事業を売却するというかたちで整理できるわけです。

資金調達できる

M&Aは会社や事業の売却です。よって、売り手側はタダで会社や事業を譲るのではなく相応の対価を手にすることが可能です。不要な事業を売却して資金調達したり、会社そのものをM&Aで売却して経営者の老後資金を捻出したりするなど、M&Aは資金調達に使えるというメリットがあります。

A会社が経営の柱になっている工業製品部門の資金調達をしたいと考えていました。会社の資金調達方法としてよく使われるのは銀行の融資ではないでしょうか。銀行融資の他にM&Aでも事業資金の調達が可能です。A社の場合は伸ばしたい工業製品部門以外の事業をM&Aで売却するという方法もあります。

M&Aで売却するのは不採算部門以外でも、もちろん可能です。A社は工業製品部門の他に自動車部門も持っており、自動車部門でもそれなりに収益を上げていたとします。A社が工業製品部門に注力したいということであれば、整理と資金調達をかねて自動車部門を売却してしまうことも、ひとつの方法です。

また、町工場を経営していたB氏は、年齢や体調のこともあり、リタイアを考えていました。B氏がリタイアする上での問題のひとつが老後資金です。B氏は長年経営していた町工場をM&Aで売却し、老後資金を調達しました。M&Aではこのように目的に合わせた資金調達が可能です。

経営者がリタイアできる

会社の経営者にはリタイア(退職)はありません。特に中小企業の場合、亡くなるまで経営者として仕事をするケースは少なくありません。仮に会社を畳むとしても会社員のように定年で退くのではなく、体力の限界や病気などで退くケースも少なくないのです。中小企業の経営者ほど「経営者=従業員」なので、リタイアしたくても難しいのが実情になります。

M&Aは中小企業の経営者が「リタイアしたくてもリタイアできない」というときに解決方法として使えるメリットがあります。中小企業の経営者が会社をM&Aで売却すればいいのです。

中小企業であるA社を経営しているB氏は、年齢や体調面の不安もあり、会社の経営者というポジションから退くことを決意しました。しかし、会社を経営している以上「やめます」だけで会社を終わらせることはできません。

経営者のリタイア方法は主に3つ考えられます。ひとつは後継者に会社を継いでもらい、自分はリタイアする方法。ふたつ目は廃業の手続きをして会社を畳む方法。そして3つ目は、M&Aで会社を売却する方法です。

A社を経営しているB氏はどの方法でもリタイアできますが、中でもM&Aは廃業手続きを要さないため比較的迅速にでき、売却金でリタイア後の生活の備えもできます。このように、M&Aは中小企業の経営者が売り手側になることでリタイアに使えるというメリットがあるのです。

会社や技術を承継できる

M&Aを活用することで売り手側の技術や知識、ノウハウ、名前、歴史などを受け継いでもらえるというメリットがあります。

経営者のリタイアの際、廃業を選択すれば会社の歴史や名前、技術や知識はそこで潰えてしまうのです。しかし、会社をM&Aで売却すれば「知識やノウハウが必要だ」などの会社が買い手に名乗りを上げますので、苦労して築いた技術や知識、ノウハウ、経験などかたちのないものを含め買い手側の会社が引き継いでくれます。廃業が「会社の死」だとすれば、M&Aは売却による「引き継ぎ」なのです。

たとえば、工業の分野で並ぶ者のない技術を持った町工場があったとします。経営者は年齢のこともあってリタイアを考えていましたが、自分の会社が培った技術を廃業により失うことには残念さを感じていました。並ぶ者のない技術に誇りを持っていたからこそ、誰かに継いでもらいたいと思っていたのです。

次の経営者に会社と自分の立場を引き継いでもらうこともひとつの方法です。しかし経営者の息子は都会で就職し、家も家族もあります。生まれ故郷に帰ってきて父親の町工場を継ぐ意思はありません。後継者もなかなか見つからないため経営者が体に鞭を打って頑張ってきましたが、そろそろ限界のようです。リタイアしようにも廃業すれば会社の技術もノウハウも潰える。けれども後継者がいない。厳しい状況です。

このようなケースではM&Aで会社を売って、経営者が築いたものも含めて承継してもらうことにメリットがあります。M&Aでは技術などかたちのないものも評価してもらえるため、「技術などかたちのないものを継いでもらいたい」と考える経営者にはメリットのある方法です。

後継者問題の解決に使える

M&Aは後継者問題の解決に使えるというメリットがあります。

地方都市で会社を営んでいるA氏は自分が一線を退いた後も会社の存続を望んでいましたが、後継者が見つかりません。

ひと昔前であれば、子供が親の会社を継ぐことはよく行われていました。しかし現在は親が会社を経営していても、子供が必ず継ぐということはありません。子供は子供で自分の家や家族、仕事を持ち、都会で生活するケースは少なくないのです。会社の後継者不足は深刻な問題としてよくニュース媒体などでも取り上げられます。A氏の周辺を見ると、後継者問題で悩んでいるのはA氏だけではありませんでした。

A氏はM&Aを使って会社の技術や歴史を受け継いでくれる同業種の会社に売却することを決めました。会社をM&Aで引き継いでもらえば、後継者がいないことで悩む必要はありません。後継者問題は解決します。売り手側の会社経営者が「後継者はいないが会社を何らかのかたちで残したい。承継して欲しい」と考えるときにM&Aはメリットのある方法です。

従業員の雇用を守れる

M&Aには売り手側会社の従業員を守れるというメリットもあります。

会社を廃業すると、従業員は全員職を失います。廃業の場合は会社の死を意味しますから、働き続けることはできないのです。対してM&Aの場合は買い手側へ売却するかたちで会社が引き継がれます。よって、基本的に従業員はそのまま会社で働き続けることが可能なのです。

経営者は高齢のために会社をやめたいと考えていました。しかし、従業員のことを考えると廃業という選択肢を選ぶことは難しく、悩んでいました。従業員の中には退職に近い年齢の者もいます。会社を畳むと再就職は難しく、生活に困るのではないかと考えてしまい、高齢になるまで会社を続けてしまいました。

このようなケースでM&Aを使えば、会社の従業員の雇用を守りながら経営者がリタイアできるというメリットがあります。M&Aのときに買い手側と従業員の雇用について話し合い、雇用を守るかたちでM&Aをすればいいからです。

M&Aのデメリット 買い手側と売り手側

M&Aは上手く使うことでメリットを得られますが、活用方法を間違えるとデメリットにより後悔する可能性もあるのです。M&Aをするときは買い手側、売り手側それぞれのデメリットを参考にする必要があります。

売り手側と買い手側のデメリットを、立場ごとに分けて説明します。

M&Aのデメリット 買い手側

M&Aの買い手側のデメリットは次の通りです。

  • 買った会社と自社の融合が上手くいかない
  • 社員の反発や流出が起きてしまう
  • シナジー効果が予想していたより小さかった
  • 簿外債務や偶発債務が発覚する
  • のれんによって損が出てしまう

買った会社と自社の融合が上手くいかない

M&Aで会社を買ったからといって自社と簡単に融合するとは限りません。人間がふたりいると、価値観や仕事への姿勢、その人の倫理観などから衝突することがあります。会社も同じです。

M&Aで会社を買うということは、就業規則から仕事のやり方、歴史や経験など、すべてが異なっている会社を自社に融合するということです。M&A後のルール作りをしっかり行わないと、融合が上手くいかないばかりか、社内が混乱してしまうというデメリットがあるのです。

社員の反発や流出が起きてしまう

買った会社の従業員の雇用を継続しようとしても、社員の方から出て行ってしまうことがあります。

たとえば、A社はB社を買い、B社の社員の継続雇用を決めていました。しかしB社の社員の一部が「社風に馴染めない」「A社側の社員と相いれない」などの理由から退職してしまいました。A社がB社の従業員の知識やスキル、技術を高く評価してM&Aを行った場合は、A社側にとって大打撃にもなることでしょう。

社員が流出しないまでも、社員同士や役員同士が反発しない、社内に不満がたまってしまった結果、会社の雰囲気が悪くなったり、上手く仕事が回らなくなったりする可能性もあります。

シナジー効果が予想していたより小さかった

シナジー効果とは相乗効果のことです。かみ砕いて説明すると「違った事業や部門同士を組み合わせることで起こる会社にとってプラスになる効果」のことです。

たとえば、ラーメンチェーン店を出店しているA社が食材卸売のB社をM&Aで買いました。ラーメンチェーン店であるA社が食材卸売のB社を買うことにより、A社には「食材を安く入手できる」「食材の仕入れと料理、提供を一貫してできる」というプラスの効果が生まれます。これがシナジー効果です。

シナジー効果を期待してM&Aを行っても、期待したほど効果を得られないことがあります。

簿外債務や偶発債務が発覚する

M&Aをしてから予想外の簿外債務や偶発債務が見つかるケースもあります。M&Aをして負債を背負い込んでしまうことで、買い手側に思わぬ損失が出てしまう可能性があるのです。

簿外債務とは帳簿に記載のない債務のことになります。偶発債務とは、現状まだ発生していないが、将来的に一定の条件を満たすことによって発生する債務のことです。簿外債務に気づかずM&Aをしてしまったり、M&A後に偶発債務が発生したりと、マイナスを背負ってしまう可能性はゼロではありません。

のれんによって損が出てしまう

のれんとは「会社の収益性を評価したもの」です。

のれんの計上ルールは会計基準により違っています。日本の会計基準では、のれんは20年以内に均等に費用に計上するというルールです。しかし国際会計基準では、のれんの収益性が低下したと判断される場合は、のれんの評価を引き下げた上で減損処理をしなければいけません。

会計基準によってのれんの扱いが変わってくるため、のれんがM&A後の会社の足を引っ張ってしまうことも考えられます。

M&Aのデメリット 売り手側

M&Aの売り手側のデメリットは次の通りです。

  • M&Aの買い手が見つかるとは限らない
  • 従業員の不満や離反が起こることがある
  • 取引先から契約を切られることがある
  • 経営に関する権限が小さくなる

買い手が見つかるとは限らない

M&Aで会社を売却しようとしても、買い手が絶対に見つかるという保証はありません。売却の条件が会社の価値より高いと判断されれば、買主候補から「高い買い物だ」と思われるかもしれません。

不動産を想像してみてください。立地や築年数など、不動産のスペックと比較して設定価格が高いと思えば買わないのではないでしょうか。M&Aでも同じことが起こる可能性があります。

買い手が見つからないと、買い手探しのために売却条件を下げるしかありません。結果、売り手側としては納得できない売却になる可能性があるのです。

従業員の不満や離反が起こることがある

売り手側に関しても従業員の不満や離反というデメリットが考えられます。

たとえば、M&Aをすることが決まり、経営者から従業員に周知されました。しかし従業員はM&Aに納得できません。労働環境や条件が変わってしまうからです。M&Aの買い手側は従業員のスキルや知識なども評価してM&Aに乗り気になっていましたが、従業員たちはM&A自体に不満があるため、このまま手続きを進めてもM&A後に離反や反発があることが予想されました。

M&Aを巡って社内に不和が起きるリスクが考えられます。

取引先から契約を切られることがある

M&A後も取引先と契約を継続したいと考えても、契約を切られてしまう可能性があります。

たとえば、A社の経営者はB社に自社を売却しようと考えていました。B社はA社の技術力や知識なども評価していましたが、新規参入する業者だったため、A社の販路や取引先などにも魅力を感じているようでした。B社にとってはゼロから取引先や販路を作るより、A社の取引先や販路を承継した方が新規事業に参入しやすいからです。

しかし、A社の取引先はA社の現経営者だからこそ取引をしているという事情がありました。A社がB社に売却されてA社の現経営者が離脱するのであれば、取引先はあえてM&A後の会社と取引する義理はないというわけです。

M&Aを取引先に知られた結果、取引の継続に難色を示されることは考えられます。取引継続が難しい場合は、それだけでM&Aの売り手側に痛手になる可能性があります。買い手側は取引先も含めて受け継ぐことを目的にM&Aをすることがあるからです。取引先の契約が継続されなければ、買い手側は魅力が半減したと感じることでしょう。

取引先から契約を切られることは売主側のデメリットとして取り上げましたが、買主側のデメリットにもなる可能性があります。

経営に関する権限が小さくなる

M&A後は売り手側の役員の経営における権限が縮小されるというデメリットがあります。

M&Aをした後は基本的に買い手側の人事や経営方針などに従わなければいけません。売り手側会社の役員は自分たちの経営方針や人事を思うように通せなくなってしまいます。M&Aをするとどうしても売り手側の権限は小さくなることが多いため、覚悟の上でM&Aをする必要があります。

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M&Aのメリット・デメリット!その他の視点!

M&Aが影響を及ぼすのは売り手と買い手だけではありません。従業員や取引先、顧客などにも影響を及ぼします。買い手と売り手以外の立場の人や会社にとって、M&Aにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

M&Aにおける従業員のメリット・デメリット

M&Aをすると従業員はそれまで働いていた環境が変わります。M&Aには従業員にもメリットとデメリットがあると言えるでしょう。M&Aにおける従業員のメリットとしては「雇用の継続」が考えられます。従業員にとってもM&Aのデメリットは、「労働環境の変化」「M&A後の会社に馴染めるとは限らない」などです。

たとえば、A社の経営者は高齢であることから会社を廃業しようと考えていたとします。しかし、廃業すると従業員の勤め先がなくなることから、同業種の会社にM&Aで自社を売却することを決めました。廃業すると従業員は勤め先を失ってしまいます。もちろん、給与をもらうこともできません。新しい勤め先を探さなければなくなります。廃業とは会社の死だからです。

A社の経営者がM&Aにより会社を売却する際に社員の雇用についてもしっかり条件を付けておけば、社員たちの雇用は守られますから、勤め先を失うことはありません。M&Aの場合は社員たちの雇用が守られるというメリットがあります。

ただ、仮に社員の雇用が守られても、当の社員が労働環境に馴染めるかどうかは別問題です。社員にとっては労働環境が変わってしまうわけですし、社風や労働の条件なども違ったものになることでしょう。そうすると、従業員が社風や労働条件に馴染めず、M&A後の会社を去ってしまうことがあります。もともと違った会社であるA社の従業員が入り交じることにより、職場内に反発や不和が生まれることもあります。

従業員の視点では、雇用が守られることが最大のメリットです。ただし、M&A後は労働環境が変わるため、馴染めないという問題やルールやM&A相手会社・相手会社の従業員への反発が生まれがちであるというデメリットがあります。

M&Aにおける顧客のメリット・デメリット

M&Aは顧客側にも影響があります。M&Aにおける顧客のメリットは「商品・サービスを引き続き購入できること」です。顧客のデメリットは「サービスや商品の質が変わる可能性があること」や「社名や連絡先で混乱すること」などになります。

廃業すると顧客はその会社が作っていた商品や提供していたサービスを受け取ることはできなくなります。ある顧客はA社製品の基礎化粧品を愛用していたとします。A社製品はその顧客の肌に合うため、今後も使いたいと考えていました。しかし、A社の廃業が決まってしまいました。廃業は会社の死ですから、その顧客は今後A社の基礎化粧品を購入することはできなくなります。

M&Aの場合は商品が受け継がれる可能性があります。A社が同業他社にM&Aで買われた場合は、絶対とは言えないまでも、今後も基礎化粧品を購入できる可能性が高いと考えられます。今後も商品を買え、サービスを受けられるという点でM&Aは顧客にメリットがあるわけです。

ただし、M&Aをすると他社とくっ付くわけですから、商品が廃盤になる可能性もゼロではありません。同じ名前の基礎化粧品が出ても、品質が変わってしまうこともあります。また、他社とM&Aをすることにより、基礎化粧品を購入していた窓口がなくなってしまうことや、連絡先が変わってしまうこともあります。顧客にとって連絡先や窓口の変更は面倒です。

M&Aは顧客にとって「商品やサービスを今後も購入できる」という反面、「品質が保たれるとは限らない」「商品が廃盤になることもある」「社名や連絡先、窓口が変わって困る」などのデメリットがあります。

M&Aにおける取引先のメリット・デメリット

M&Aは取引先にもメリットとデメリットがあります。取引先のメリットは「取引を継続できること」で、デメリットは「取引関係が変わってしまうこと」です。

M&Aをするともとの会社からは変わってしまいますが、取引関係の継続自体は可能です。M&Aの買い手や売り手にとって、取引関係を継続できることはメリットだと考えられます。また、取引先にとっても、M&A売却会社が重要な取引先の場合や大口の取引先の場合は、契約を継続できるメリットは大きいことでしょう。

取引先のデメリットとしては、取引関係が変わってしまうことが考えられます。M&Aをすることでやり取りをする担当や部署が変わってしまうことは、珍しいことではありません。今まで良い関係を築いていた担当が別の担当に変わってしまうことで、取引関係が悪化する可能性もあります。

さらに、契約を切られるというデメリットも考えなければいけません。

A社が同業のB社にM&Aで売却されたとします。A社と取引関係にあっても、B社が今後変わらず取引をするとは限りません。A社と同業のB社にも独自に取引している先があることでしょう。B社は契約を切り、自社が取引している会社へ取引を集中させるかもしれません。

取引先には契約を継続できるメリットがある反面、M&A後の会社の方針によっては契約を切られるデメリットや、取引関係が悪化するデメリットがあります。

M&Aを成功させてメリットを享受するためのポイント

M&Aをすれば必ずメリットを得られるというわけではありません。M&Aを成功させ、なおかつメリットを享受するためには以下のようなポイントを意識してM&Aを進めることが重要です。

M&Aのメリットを意識して手法を選択

M&Aには吸収合併や新設合併、株式交換、株式移転、株式引き受け、会社分割、事業譲渡、株式譲渡などさまざまな方法があります。M&Aの手法によってメリットやデメリットが変わってくるため注意が必要です。M&Aをする際は手法ごとのメリットやデメリットを意識して選択する必要があります。

たとえば、株式譲渡の場合は対象会社の株式の譲渡を受けるM&Aの手法であり、手続きが簡便であるというメリットがあります。株式の譲渡を受けることにより経営権を取得するわけですから、会社はそのまま存続します。株式の譲渡ですから、売り手側と買い手側どちらにとっても手続きが分かりやすいというメリットもあります。

ただ、株式譲渡にはデメリットもあります。株式が分散している場合は株主ごとに交渉をしなければならないため、手間や時間がかかります。加えて、会社の株式の譲渡を受けるだけですので、会社に簿外債務などがあれば引き継いでしまうというデメリットがあります。

M&Aをする際はM&Aの手法ごとのメリットやデメリットを比較して、自社にとってメリットのある最良の方法を検討することが必要です。

M&Aのメリットを意識して契約書(基本合意書及び最終契約書)を作成する

基本合意書とは「M&Aの基本的な条件を確認する書面」です。

M&Aでは買い手と売り手の間で多くの条件の調整が行われます。そのため、M&Aの最終契約をする前に買い手と売り手が書面で条件を確認するわけです。これが基本合意です。

最終合意書とは、「M&Aについて最終的に合意した条件を記した契約書」です。

M&Aの当事者としては、このM&Aで得たいメリットを実現するため、基本合意書や最終契約書に必要な条件を盛り込まなければいけません。株式譲渡の合意や事業譲渡の合意だけでは株式や事業の譲渡だけが定められますので、特段メリットの実現に向けた条件は盛り込まれていないのです。

基本合意書および最終契約書には実現したいM&Aのメリットを意識して作成することが必要です。

M&Aのメリットを意識して対象会社を調査(デューデリジェンス(DD))

M&AではM&Aで得たいメリットを意識して、対象会社をよく調査(デューデリジェンス(DD))したうえで進めることが必要です。

売り手側は対象会社をより良い条件で買ってもらいたいと考えます。そのため、買い手側が対象会社に魅力を感じるように説明をすることとなります。買い手側が対象会社を十分に調査せずにM&Aを行ってしまうと、売り手側の実態を見誤ってしまいます。

M&Aは大きな買い物です。買い手としてはM&Aの前に対象会社を十分に調査する必要があります。「時間がかかる」「手間がかかる」「費用が掛かる」などの理由で対象会社の調査を怠ると、M&Aの後、対象会社が想定と異なっていることが判明し、M&Aが失敗に終わる可能性があります。

M&Aのメリットを実現するため、対象会社を調査することが必要です。

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まとめ

M&Aは、売り手側、買い手側、従業員や取引先など、それぞれの立場にメリットがあります。同時に、M&Aにはそれぞれの立場にデメリットもあります。M&Aのメリットを実現するためにも、事前にメリットをしっかりと認識し、M&A手法の選択や基本合意書・最終契約書や調査(デューデリジェンス(DD))にてメリットを意識しつつ対応することが必要です。

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