M&A価格をアップするための「交渉術」とは?交渉のポイントを徹底解説します

  • 2015年7月25日
  • 2025年6月3日
  • M&A

企業のM&A(合併・買収)において、譲渡価格を少しでも高くしたいと考えるのは当然のことです。しかし、価格は単なる企業の業績だけで決まるわけではありません。

買い手企業との交渉を有利に進めるためには、事前準備が何より重要。その中でも「企業概要書の質」と「社内体制の見直し」は、価格アップを左右する大きな要素です。

本記事では、M&Aの価格アップにつながる要素や注意点、さらにはメリット・デメリットについても詳しく解説します。

交渉を行うための事前準備

交渉を円滑に進めるためには、十分な事前準備が欠かせません。準備不足のまま交渉に臨むのは危険。損失を招いたり、信頼関係を損ねたりする可能性があります。

M&A価格アップのためには「交渉力」がポイントになります。
M&A会社売却における「交渉」の重要性は論を待ちません。少しでも高く売りたいときに、どのように「交渉」を行えばよいのでしょうか。

交渉時の声が大きければよいのでしょうか、態度がデカければ良いのでしょうか。踏ん反り返って偉そうにすればよいのでしょうか。相手を威圧すればよいのでしょうか。相手を圧迫的言辞で追い詰めればよいのでしょうか。

昔ながらの弁護士の中には、やたらとこのような交渉方法に固執する者がいます。昔はこれで通用していたのでしょう。

ですが、今では、欧米のビジネススクールの「交渉理論」の授業では、これらは前近代的な交渉方法として、愚かなものとされています。現在においては、交渉は「交渉理論」という科学の領域になっているのです。

価格を上げるためには、情報収集と相手へのプレゼンテーション能力、そして、相手の心理を読んだ駆け引きがカギになります。

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交渉の前提としての情報収集・情報分析

「交渉理論」においては、交渉の前提としてまずは情報収集・情報分析が非常に重要とされています。交渉するためには少しでも多くのことを知っておくにこしたことはありません。

特に、交渉の場で情報はときに重要なカードとして機能することがあります。

では、どのような情報が特に必要なのか。もちろん、会社の種類や業種によっても異なりますが、一般的にはM&Aで有益な「情報」とは以下のものが想定されます:

  • 売主に関する情報
  • 買主候補者に関する情報
  • 売却する対象会社に関する情報
  • 対象会社の属する業界に関する情報
  • 商品の市場に関する情報
  • 社会経済情勢

このような様々な情報を収集し分析することが非常に重要です。こうした情報は交渉カードとして機能する可能性があります。

優先順位を決める

まず、優先順位をしっかりと決めましょう。
交渉の現場では、すべての条件を満たすことはほとんど不可能です。そのため、「何を得たいのか」「どこまでなら譲歩できるのか」という交渉の軸をあらかじめ明確にし、社内の関係者と共有しておくことが極めて重要です。

たとえば、価格重視なのか、条件(雇用継続・取引先維持など)重視なのか、将来の経営体制やブランドの存続など、交渉対象の中でも優先すべき項目は企業ごとに異なります。

このような方針を明確にすることで、交渉中に判断がぶれたり、社内で意見が割れて混乱を招いたりするリスクを軽減できます。
また、交渉相手に一貫した姿勢を見せることで、信頼を得やすくなるというメリットもあります。

「この条件は絶対に譲れない」「ここは柔軟に対応できる」といった“交渉の許容範囲”を、文書化して整理しておくこともおすすめです。
複数の候補者と交渉を並行して進める場合でも、判断基準をブレさせない指針となります。

全体のスケジュールを把握

交渉は長期戦になることもあります。
そのため、事前に全体のスケジュールを見通し、各フェーズごとに必要な準備や対応を整理しておくことが重要です。

  • ノンネーム資料やティーザーの作成
  • 企業概要書(IM)の準備
  • 意向表明(LOI)提出への対応
  • デューデリジェンス(DD)の実施
  • 最終契約書(SPA)の締結

といった一連の流れを、誰が担うのかを見える化して情報を共有しておくといいでしょう。

また、急な交渉条件の変更やスケジュール調整が生じても、役割分担があれば迅速な対応ができます。

とくに中小企業のM&Aでは、社内のリソースが限られているため、「誰がいつ何をするか」を事前に整理し、トラブルや不足の事態のためのフォロー体制も整えておくと安心です。

買主会社の情報収集・分析

買主会社の情報を収集と分析することは、戦略を練るうえで非常に有効です。相手のニーズや立場を理解すれば、より効果的な提案やこちらの譲歩のポイントと範囲を見極めやすくなります。

資金力の調査

買主会社の資金力や財務状況の把握は、買収価格の妥当性や、実際の支払い能力を知る上で重要です。どのくらいであれば「買いたい」のかを見極める大切な判断材料となります。

相手がどの程度の予算で、どのくらいであれば買収できるなかを知ることは、買収価格の妥当性を見極めるための基盤となります。

中小企業のM&Aでは、提示された買収価格を本当に支払えるのか、価格は現実的かどうかを確認することが大切です。

資金繰りに不安がある企業の場合、契約締結後に支払いが滞ったり、条件変更を申し入れてきたりするリスクもあります。

このようなリスクを防ぐためにも、相手の財務諸表や資金調達の方法、直近のキャッシュフロー状況などを丁寧に確認しておく必要があります。

過去の実績

買主会社が過去にどのようなM&Aを行ってきたか、その規模や目的を分析することで、今回の交渉の背景と相手の交渉の傾向が見えてきます。

買収件数ではなく、買収した企業の規模や業種、買収後の状況、という結果まで含めて総合的に分析することが大切です。

たとえば、買主がこれまでに積極的に同業種の企業を買収している場合、対象企業とのシナジーを重視している可能性があります。逆に、過去に異業種を中心に買収してきた実績があるなら、経営多角化を狙っている傾向が浮き彫りになります。

情報収集方法

売主や買主候補企業にストレートに聞いてもはぐらかされてしまうのがオチでしょう。

そのような場合でも、

  • 受領した資料から客観的に分析する
  • 打ち合わせの際に本題を聞くようなそぶりをしつついろいろ聞いてみる

といった方法もあります。

実は、交渉や情報収集においては弁護士に相談するという方法があります。現在置かれている状態を、弁護士法人M&A総合法律事務所の弁護士に話して頂きましたら、このM&A交渉の交渉力の状況はどのような状況なのか、どのような情報をどのような方法で収集することが良いのか、そして、M&A交渉戦略についてもご相談に応じています。

考えてみてください。裁判や訴訟も、交渉の一種です。ですので、交渉理論を修得したM&A弁護士は裁判・訴訟にも非常に強いということとなります。

売主の情報取集・分析

売主として交渉に臨む場合でも、自社の情報を客観的に整理することで、相手に対してどのようなアピールができるかを客観的に把握できます。

会社の売りと弱点となる部分をチェック

自社の強みや独自性、成長性といった「売り」となる部分を説明できるように言語化しておくことで、説得力のある提案ができます。

加えて、魅力だけでなくリスクや弱点についても隠さず話せるようにして、弱点をカバーするためのポイントまでチェックしておくと安心です。信頼関係の構築につながります。

売主自身に関する情報としては、たとえば以下のようなものがあります:

  • オーナー経営者の健康問題の有無
  • 交渉にかけられる時間の長短
  • 売り急ぎかどうか
  • 銀行融資返済期限など資金繰りの事情

こうした情報を把握することで、相手の立場や限界を知り、交渉の流れに活かすことができます。

必要書類を添えて内容を把握

買主から提示を求められる可能性が高い資料、とくに財務に関する資料はすぐに提示できるように事前に整理して用意しておきましょう。必要な資料が提示されないというストレスを相手に与えずに交渉することがポイントです。

買主は、買収対象となる企業の経営状況や将来性を判断するために、さまざまな資料を確認する必要があります。特に以下のような資料は、高い確率で提示を求められます。

  • 貸借対照表や損益計算書
  • 税務関係の書類
  • 就業規則などの人事関連資料
  • 知的財産や特許に関する情報

これらをあらかじめファイリングし、すぐに提示できる状態にしておくことで、交渉のテンポが崩れず、相手にも誠実な印象を与えることができます。

起業概要書とは

M&Aにおける「企業概要書(IM:Information Memorandum)」は、売り手企業の魅力を伝えるパンフレットやカタログのようなものです。財務状況や事業内容、将来の成長戦略など、企業の価値を客観的に伝えるための資料であり、買い手候補はこの書類をもとに買収の検討を行います。

企業概要書の質が高ければ、「この企業には価値がある」と評価されるため、譲渡価格に反映されやすくなります。逆に情報が古かったり、曖昧な表現が多かったりすると、リスクとみなされてしまうかもしれません。

したがって、情報の正確性や見せ方の工夫が、価格アップの第一歩といえるでしょう。

また、M&Aの際に買い手「引き継いだ後にスムーズに運営できるか」「組織体制に無理はないか」など、事業の安定性も重要視されます。

たとえば、業務プロセスがマニュアル化されていたり、システムが優れていたりという点があれば価格交渉にもプラスに働くでしょう。

このように、M&Aの際には業績や規模だけでなく社内の体制やシステムを見直すことも重要です。

M&Aのメリットとデメリットを正しく理解しよう

M&Aには多くのメリットがある一方で、リスクやデメリットも存在します。価格交渉に臨む前に、以下の点を整理しておくことが重要です。

<メリット>

  • ビジネスチャンスの拡大
  • 従業員や取引先を継承できる
  • キャピタルゲイン

<デメリット>

  • 愛着がある会社を売却するストレス
  • 従業員や顧客の反発
  • 情報漏洩のリスク
  • 交渉決裂

M&Aにはメリットもデメリットもあるため、売り手自身がM&Aの目的を正しく理解し、すべての交渉で一貫性のある姿勢を保つ必要があります。

M&Aで株価は上がるのか?

M&Aでは、「買収発表が株価に影響」します。

これは、価格が上がるか下がるかは市場の動きに左右されますが、買収される企業のイメージと買い手企業のイメージによって期待値は異なります。

買収企業にはコストやリスクが生じますが、買収後の統合が成功し、シナジー効果が明確になれば、買収側の株価も中長期的に上昇しやすくなります。

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弁護士に相談するメリットとは?

M&Aを成功させ、適正かつ高い譲渡価格を実現するためには、法的な観点からのリスク回避と交渉戦略の明確化が欠かせません。そのため、弁護士への相談は非常に有益です。

まず、弁護士は契約書の作成やチェックを通じて、売り手に不利な条件が含まれていないかを精査します。また、秘密保持契約(NDA)や基本合意書(LOI)、最終契約書(SPA)など、各ステージで必要となる書類にも対応可能です。

さらに、交渉段階では、弁護士が同席またはサポートすることで、法的根拠に基づいた価格や条件の主張が可能になり、買い手側とのパワーバランスを保ちやすくなります。

交渉の成功例と失敗例

M&Aでは失敗してしまうケースと成功するケースがあります。

失敗してしまう理由は多様ですがよくあるのは「依頼した弁護士がM&A「調査不足」になれていない」「交渉力や経験不足」というケースです。

調査不足が原因でM&Aに失敗した事例としては、DeNaが買収したキュレーションサイトで外部コンテンツのリライトや無断使用が発覚してサイトを閉じることになった事例や、市場調査不足で買収後に損失を出したキリンホールディングス株式会社の海外M&Aの事例、そして、LIXILのM&Aで買収後に債務超過が発覚した事例などがあります。

他にも、交渉になれていないがために、依頼した弁護士が高圧的に出てしまい、法律的な視点での意見が相手の揚げ足をとるような形になり結果として交渉が上手くいかなくなってしまうこともあります。

一方で、成功するケースもあります。それは、交渉力がありM&Aになれている弁護士が、法律的な文章の作成や調整を行い双方が安心して取引ができる土台を構築しているという場合です。特に、法律的な問題に関しては、弁護士がいれば「気づくことができる」というケースも少なくありません。

つまり、M&Aの経験が豊富で交渉力がある弁護士に依頼することには大きなメリットがあると言えます。

とくに中小企業のM&Aでは、オーナー経営者が自ら交渉を担うケースが多いため、専門家によるサポートが交渉力の差につながることも少なくありません。

加えて、M&Aは税務や労務、知的財産など複雑な領域が絡むため、弁護士と他の専門家(税理士・公認会計士・中小企業診断士など)と連携することで、多角的なアドバイスを受けながらリスクの少ない進行が可能になります。

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