今回は、合併契約書について、定義や法定記載事項、作成時の注意点を中心に分かりやすく解説します。
合併契約とは
合併契約とは企業同士が合併する際に締結する契約のことです。会社法第748条において「他の会社と合併をする会社は、合併契約を締結しなければならない」旨が規定されています。
合併契約の種類
合併は、大きく「新設合併」「吸収合併」の2つに分類されます。それぞれの種類について、順番に解説します。
新設合併
新設合併は、会社法第2条28号において下記のとおり規定されています。
- 二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。
吸収合併
吸収合併は、会社法第2条27号において、下記のとおり規定されています。
- 吸収合併 会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
日本における多くの合併事例では、吸収合併の手法が選ばれます。この記事では、合併の一形態である吸収合併を中心に、合併契約の概要について説明していきます。
新設合併と吸収合併の違い
ここまでの説明を踏まえて、新設合併と吸収合併の主な違いを下表にまとめました。
相違点 | 補足 |
消滅する法人 | 新設合併の場合、M&Aに関わる全ての企業の法人格が消滅し、新しい会社が設立されます。一方、吸収合併では、一つの会社が他の会社の権利と義務を引き継ぎ、引き継ぐ側の会社の法人格のみが存続します。 |
権利・義務を承継する法人 | 新設合併の場合、新たに設立された会社が、合併によって消滅する全ての会社の権利や義務を継承します。これに対し、吸収合併では、合併時点で既に存在している会社が、消滅する会社の権利と義務を引き継ぎます。 |
免許や許認可の取り扱い | 新設合併を行う際、消滅する会社が持つ事業運営に必要な免許や許認可は自動的に引き継げません。そのため、新しく設立される会社でこれらの免許や許認可を改めて取得する必要が出てきます。これと同様に、上場企業が新設合併を行った場合、新会社は株式市場への再上場申請が必要になり、一度上場の地位を失います。 これに対して、吸収合併の場合、存続する会社は消滅する会社が持っていた免許や許認可を直接引き継げるため、事業の継続がスムーズに進みます。上場企業が吸収合併を行った場合も、特別な例外(不適当合併等に該当する場合)を除いて上場状態を保持することが可能です。 |
株主が受け取る対価 | 新設合併では、株主は新しく発足する会社から株式や社債といった証券の形でのみ対価を受け取ることができます(会社法第753条1項6号)。 これに対して、吸収合併の場合は、株式や社債の他に現金で対価を受け取ることも可能です(会社法第749条1項2号)。 |
合併契約書とは
合併契約書とは、会社同士が合併するにあたって作成・締結する契約書のことです。合併契約書は、実務上「法定合併契約書」と呼ばれることもあります。
合併契約書には、法定記載事項の記載が不可欠です。法定記載事項の内容は、合併の手法によって異なります。
もしも合併契約書において法定記載事項に漏れがあれば、合併契約が無効になってしまうおそれがあるためご注意ください。法定記載事項の具体例は、後ほど詳しく説明します。
合併契約書の締結時期
通常、合併契約書の締結は、株主総会の開催前に行われます。特に吸収合併の際には、消滅する会社と存続する会社が効力発生日の直前までに、株主総会において合併契約の承認を得る必要があります(会社法第783条第1項、第795条第1項)
取締役会のある会社では、取締役会の決議を経て合併契約を締結します。一方、取締役会のない会社では、取締役の過半数の決定を通じて合併契約を結ぶことが通例です。
合併契約書の法定記載事項
合併契約書の法定記載事項について、新設合併契約書と吸収合併契約書の2パターンに分けて順番に紹介します。
新設合併契約書の法定記載事項一覧
新設合併契約書の場合、下記のような内容が法定記載事項に指定されています。
- 消滅会社の商号・住所
- 新設会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数
- 新設会社の定款で定める事項
- 新設会社設立時の取締役の氏名
- 新設会社設立時の役員などの氏名または名称
- 新設会社が消滅会社の株主や社員に対して交付する株式などの数や算出方法・新設会社の資本金および準備金の額と割当方法
- 新設会社が新設合併に際し消滅会社の株主や社員に対して新設会社の社債などを発行する場合の金額や算出方法と割当方法
- 消滅会社が新株予約権を発行している場合は交付する代わりの新株予約権の内容および数またはその算出方法と割当方法
詳細は会社法第753条において規定されているため、確認しておきましょう。
吸収合併契約書の法定記載事項一覧
吸収合併契約書の場合、下記のような内容が法定記載事項に指定されています。
記載事項 | 補足 |
合併の当事者 | 合併に関わる当事者は、存続会社と消滅会社を指します。会社法に基づき、合併契約書には「存続会社の商号と住所」及び「消滅会社の商号と住所」を正確に記入する必要があります。ここで言う住所は、それぞれの会社の本店所在地を指します。 |
合併後の資本金、準備金 | 吸収合併においては、存続会社が消滅会社の株主に対して対価を支払うことになります。会社法は吸収合併後の資本金および準備金について吸収合併契約書に詳細に記載することを求めています。 |
対価の支払いに関する取り決め | 吸収合併において、存続会社が消滅会社の株主へ合併対価として提供する株式の数やその計算方法を吸収合併契約書に明記します。 消滅会社が新株予約権を発行している場合、存続会社ではその新株予約権を持つ株主に対価を提供する必要があります。この場合、新株予約権の数量、価格、算定方法を具体的に記載する必要があります。 消滅会社の株主に対する対価が株式である場合は、その株式の数と算定方法を明記する必要があります。具体的には、「発行される普通株式の数」と「消滅会社の1株に対して存続会社から何株が交付されるか」を記述します。 |
期日 | 吸収合併の効力発生日と、その吸収合併について株主総会の承認を得る必要がある期日を吸収合併契約書に明記します。 |
詳細は会社法第749条にて規定されているため、こちらも確認しておきましょう。
合併契約書の任意記載項目
合併契約書には法定記載事項の他に、任意で記載できる項目があります。下表に、吸収合併契約書の任意記載項目の代表例をまとめました。
項目 | 補足 |
存続会社の定款 | 定款は会社の基本ルールを定める重要な文書であり、変更がある場合はその内容を明記することが望ましいです。 |
存続会社の取締役と役員の選任 | 存続会社の取締役や監査役などの役員選任は、株主総会の承認を得て決定されます。 |
消滅会社の株主の新会社における株主総会での議決権について | 消滅会社の株主が持つ特殊な株式(例:議決権の制限がある種類株式)について、合併後の取り扱い方針を契約書に明記します。 |
効力発生日までの増資や減資 | 合併の効力発生日までに消滅会社で増資や減資などによる資産や負債の変更などが発生した場合は、速やかに存続会社への報告が求められます。 |
人事に関する内容 | 吸収合併では、消滅会社の役員や従業員の扱いについて記載を行うことがあります。 例えば、合併に伴い退任する消滅会社の役員に対して、株主総会の決定に基づき退職金を支払うことが可能です。 また、合併で消滅会社の従業員を存続会社が引き継ぐ場合、合併契約書にその旨を記載するケースも見られます。 |
吸収合併契約書の承認 | 株主総会や官公庁の承認を得られないと合併契約が無効になる可能性があるため、この条件を合併契約書にはっきりと記載することが推奨されます。 |
消滅会社の財産の承継 | 存続会社が消滅会社の全財産(効力発生日前日までの資産、負債、権利義務を含む)を承継する旨を記載する場合があります。 |
吸収合併契約書に規定がない事項について | 合併契約書に記載されていないものの、合併の進行上必要になった事項について、存続会社と消滅会社が協議して決定する旨を合併契約書に記載することもあります。 |
ケースに応じて上記のような項目を記載すれば、合併のプロセスをスムーズに進めやすくなったり、トラブル防止につながったりします。
合併基本契約書の記載事項
合併契約の締結にあたって、合併契約書に記載しない事項を合併基本契約書に残すこともあります。合併基本契約書は、実務上「合併合意書」「合併覚書」などと呼ばれることもあります。
合併基本契約書に記載する事項について法的な定めは存在しませんが、吸収合併契約を締結するケースを例に挙げると、一般的に以下のような事項が記載されることが多いです。
記載事項 | 補足 |
合併の方法 | どのような手法で合併を行うのか、どの会社が存続会社や消滅会社となるのかなど、合併の概要について記載します。 |
従業員の処遇 | 最近は、合併後もリストラを避け、従業員の雇用を維持するのが一般的です。合併契約の交渉中に消滅会社となる企業が雇用維持を条件として提示し、存続会社となる企業がこれを受け入れるケースは珍しくありません。 しかし、存続会社となる企業が交渉時に同意したからと言って、その約束が必ず守られるわけではありません。従業員の雇用保証や待遇に関しては、合併基本契約書にしっかりと記載することが重要です。 |
合併の実行前提条件 | 合併基本契約書における実行前提条件とは、合併実行日において当事者が満たすべき条件のことです。当事者の一方が実行前提条件を一つでも満たしていない場合、相手方は合併を履行する義務を負いません。前提条件としては、以下の内容を記載するのが一般的です。
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表明及び保証 | 合併基本契約書では、当事者となる会社に関する重要な事項が真実かつ正確であると保証する「表明保証」の規定が記載されることもあります。 表明保証の例としては、会社の財務状況が正確に報告されているなど、重要な情報に誤りがないことを確約します。 |
解除条項 | 合併基本契約の締結後、合併実行日までの間に、重大な債務不履行や事情変更等が生じた場合に備えて、契約の解除に関する定めを置くことも大切です。合併基本契約の解除事由としては、以下の例が挙げられます。
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コベナンツ | コベナンツは、クロージング日前後の当事者の行動を保証する規定のことで、誓約条項とも呼ばれます。 コベナンツ違反した場合、損害賠償責任が問われるという点では表明保証と似ていますが、表明保証では事実の存在等の状態が保証の対象になるのに対して、誓約条項の場合、保証の対象は行動となります。具体的には、以下のような規定が設けられます。
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善管注意義務 | 善管注意義務は、引渡義務を負う者に課された善良な管理者の注意義務のことです(民法第400条参照)。合併基本契約においても、契約締結時からクロージング日までの間に、合併契約を締結した当事会社が事業価値を損なわないよう、善管注意義務を課す旨の規定を設けることが多いです。 |
秘密保持義務 | 合併の実施にあたって秘密情報を受領した者は、正当な注意を払いその情報を管理し、第三者に対して公表、開示、漏洩させてはならない旨が規定されます。秘密契約保持の締結前後に関わらず、秘密情報の定義に該当する情報は適切に管理しなければなりません。個人情報については、秘密情報である旨の明記に問わず、秘密情報として取り扱われることが通常です。 |
協議事項 | 本契約書に定める事項のほか、合併に関して必要な事項については、合併契約の当事会社による協議のうえで定める旨を規定します。 |
適用法、管轄 | 本合併基本契約書における解釈および紛争に対して適用法とする法律(例:日本法)および、管轄となる裁判所(例:東京地方裁判所)を規定します。 |
合併契約書の記載内容
合併契約書に記載する基本的な内容として以下の4つを紹介します。
- 契約書のタイトル
- 前文
- 契約内容に関する規定
- 結び
それぞれ順番に解説します。
契約書のタイトル
合併契約書には、まずそのタイトルを明記しします。会社法において合併契約書の具体的な名称についての規定はなく、関係者間での合意により自由に名付けることができます。
株主や関係者に対して合併する事実を明確に伝えるためには、内容が一目で理解できるようなタイトルが望ましいです。「吸収合併契約書」のように具体的かつ直接的な名称が推奨されます。
前文
合併契約書の冒頭、すなわち前文部分では、合併する企業の正式名称を明記します。特に吸収合併の際は、企業が「消滅会社」と「存続会社」に分かれるため、それぞれの社名をはっきりと書きます。
通常、存続会社を「乙」とし、消滅会社を「甲」と表記することが多いです。この慣習に従うことで、文書を読む人が合併によりどの企業が存続し、どの企業が消滅するのかが理解しやすくなります。
契約内容に関する規定
契約の本文部分では、具体的な契約内容を条文形式で記述します。各項目を「第1条」「第2条」といった形で整理し、契約の各条項を明確にします。
合併契約書に記載される内容は「法定記載事項」や「任意記載項目」ですが、これら双方を慎重に検討し、漏れなく記述することが重要です。
結び
合併契約書の最後にあたる「結び」の部分では、合併契約の正式な締結を証明します。合併契約書が何部作成されたのか、それらの書類がどこに保管されるかなどを明記します。通常、存続会社と消滅会社のそれぞれが、合併契約書を1部ずつ保持します。
合併契約書の最後には作成日を記入し、それに続けて存続会社と消滅会社の住所、企業名、そして代表者の名前を明記します。そして、代表者はその下に自らの署名と捺印を行い、契約の正式な締結を確認します。
合併契約書を作成する時の注意点
合併契約書を作成する際は、以下の点に注意しましょう。
- 権利義務の引き継ぎを明確にする
- 消滅会社が取引先等と締結していた契約内容をチェックする
- 合併契約の締結は株主総会の前に行う
- 合併契約書に貼る印紙の金額を把握しておく
- 存続会社の登記に必要な書類を準備する
- 商号の変更時は変更登記を確実に行う
- 無対価合併の判断は専門家に相談する
それぞれの注意点を順番に解説しますので、自社で合併契約を締結する際にお役立てください。
権利義務の引き継ぎを明確にする
合併契約書には、権利と義務の引き継ぎに関する条項をはっきりと記述することが重要です。これは、権利と義務および資産の承継に関する明確な取り決めがない場合、将来的に予期せぬトラブルが発生するリスクを回避するためです。
会社法には権利と義務の承継についての規定が存在しており、これらの項目を具体的に合併契約書に記載しなくても合併自体は法的に成立します。ただし、権利と義務の承継がいつ発生するのかを合併契約書に明記しておくことで、将来的な誤解や紛争が発生するのを防ぐことが可能です。
消滅会社が取引先等と締結していた契約内容をチェックする
合併契約書の準備時には、消滅予定の会社が結んでいる契約書を丁寧にレビューすることが重要です。特に重要なのは、「チェンジ・オブ・コントロール条項」の存在を確認することです。
チェンジ・オブ・コントロール条項は、合併や買収などによって会社の支配権が変わるとき、契約の一方の当事者が契約を変更または解除できる権利を保有する条件を設けたものです。
消滅会社がチェンジ・オブ・コントロール条項を含む契約を結んでいる場合、合併がその契約関係に影響を及ぼし、取引相手により契約を解除される可能性があります。したがって、合併計画の段階でこれらの契約内容を確認し、必要な場合は対処策を検討することが求められます。
合併契約の締結は株主総会の前に行う
通常、合併契約は株主総会が行われる前に結ばれます。合併を正式に進めるためには、株主総会での特別決議を通じて承認を得る必要があります。取締役会が設置されている企業の場合、合併契約は取締役会の決議を経た後に締結されます。
一方で、略式合併や簡易合併といった特例が適用される場合、株主総会を省略して合併を進めることが可能です。ただし、この方法が株主や存続会社に不利益をもたらすと判断される場合は、例外として株主総会での決議が求められることもあります。
合併契約書に貼る印紙の金額を把握しておく
合併契約書の作成時には、印紙代が発生することを覚えておきましょう。国税庁のWebサイトに掲載されている情報によると、合併契約書には印紙税が適用され、文書1通あたり40,000円が必要です。
なお、上記の規定は、会社法に基づく合併契約書(保険業法に基づく合併契約書も含む)に限定されています。つまり、会社以外の組織が作成する合併契約書には、この印紙税の規定は適用されません。
参考:国税庁「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」
存続会社の登記に必要な書類を準備する
合併を成立させるためには、存続会社の登記が必要です。合併契約書は、登記時に必要な書類の1つです。以下に、吸収合併における存続会社の登記に必要な書類をまとめました。
- 合併に関する株主総会の議事録
- 株主の氏名または名称、住所および議決権数などを証する書面
- 取締役会議事録
- 略式合併または簡易合併の要件を満たすことを証する書面
- 公告および催告をしたことを証する書面
- 異議を述べた債権者に対し弁済若しくは担保を供し若しくは信託したことまたは合併をしてもその者を害するおそれがないことを証する書面
- 消滅会社の登記事項証明書
- 株券提供公告をしたことを証する書面
- 新株予約権証券提供公告をしたことを証する書面
- 資本金の額の計上に関する証明書
- 登録免許税法施行規則第12条第5項の規定に関する証明書
- 取締役および監査役の就任承諾書
- 印鑑証明書
- 本人確認証明書
- 認可書
- 委任状
商号の変更時は変更登記を確実に行う
合併によって企業の商号が変わる場合、法的手続きとして変更登記が必要になります。
商号の変更を正式に行うには、まず株主総会での承認が必要です。その後、商号変更が決定した日から2週間以内に法務局への変更登記を完了させなければなりません。この手続きを怠ると、法的なトラブルにつながる可能性があるため、注意が必要です。
無対価合併の判断は専門家に相談する
無対価合併とは、合併に際して株式の発行や資本金の増加を行わず、株主に対して何ら対価を交付しない形で行われる合併のことです。無対価合併では、特に税務上の取り扱いに注意が必要です。無対価合併が適格要件を満たさない場合、合併を行った企業に法人税が課せられるリスクがあります。例えば、債務超過の状態にある企業を無対価で合併する場合、これらの適格要件を満たしていないと税金が発生する可能性が高まります。
無対価合併を検討しているものの、その選択が適切なのか自信が持てない場合は、合併における税務の専門家に相談することを推奨します。専門家の助言により、無対価合併の適用可能性や税務上のリスクを適切に評価し、最良の決定を下す支援を受けられるでしょう。
合併でのトラブル事例
合併契約の締結にあたってトラブルが発生した事例を3つ紹介します。それぞれの事例のポイントを順番に解説しますので、合併契約の締結における注意点・リスクについて改めて認識しておきましょう。
A社とその子会社であるB社の合併事例
A社は数年前に設立した子会社(B社)の業績が振るわないため、税理士の提案で節税目的も含めて合併を決定しました。
しかし、この合併を社内に発表した際、予期せぬ大混乱が発生しました。A社は重要な意思決定を少数で行う文化があり、合併の情報が大多数の社員に伝わっていなかったためです。
B社の従業員は、突然の合併発表に戸惑いました。合併の噂は耳にしていましたが、公式発表が突然来るとは予想外で、自分の仕事の将来や立場について具体的な情報がなく不安が増す一方です。
一方のA社側でも混乱が広がっています。特に人事部は、突然多数の新しいスタッフを迎えることになり、給与体系や手続きの流れ、システムへの情報入力など、対応に追われています。
この一連の混乱はやがて取引先にも伝わり、両社の組織内だけでなく、外部関係者にも不安を招く結果となりました。
本件合併には節税効果はあったものの、その間に生じた時間のロス、追加コスト、失った信用を考えると、得られたメリットは大きく見劣りします。
本件合併のトラブル要因は、合併の計画を従業員に伝えるタイミングと方法にありました。合併の計画が不確定な段階で公開するべきではありませんが、突然伝えると従業員はそれを他人事と感じてしまいやすいです。伝達する情報の内容、時期、対象者、方法を慎重に計画することが極めて重要です。
C社とその買収先であるD社の合併事例
IT企業C社は、成長を促進するため、競合他社のD社を買収する計画を立てました。
買収の話は合意に達するまで内密に進められ、公表時には投資家からは好評価を得たものの、C社内部からの反応は薄い状況でした。
買収発表後、半年後の合併計画を社内に通達しても関心は薄く、部署によっては具体的な対応を進める動きも見られましたが、全体としての意識は高まりませんでした。
予定通り合併は実行されましたが、部門間の統合が十分に進まず、期待したシナジー効果も実感できないまま、合併の意義に疑問を持つ状態に終わりました。
合併を成功させる要因の一つに、明確に定められた合併スケジュールがあります。
合併スケジュールは固定されたものではなく、状況の変化に応じて柔軟に更新されるべきものです。
スケジュール作成の責任者は合併の成功を左右する重要な役割を担うため、合併の責任者を指名し、その人が計画を統括することが不可欠です。
小売業E社とその同業であるF社の合併事例
小売業を営む上場企業のE社は、同業他社のF社を買収しました。この買収は、F社が持つ魅力的な店舗立地に焦点を当てたもので、買収完了後、迅速にF社の店舗をE社ブランドに改装する計画が策定されました。
F社の買収は無事に完了し、その後に合併して店舗の改装を進めようとしたところで予期せぬ障害に直面しました。まず、F社の店舗の大家から、過去に下げた家賃の引き上げを要求されました。さらに、F社と取引していた仕入先の中で、取引終了を決め込む仕入先が現れ、商品の供給に支障をきたしました。
F社の店舗の現場でも混乱が生じました。従業員には新しい接客マニュアルが導入され、突然の会社の変化に戸惑いを隠せませんでした。これらの混乱は顧客にも伝わり、結果として売上が大幅に減少しました。
本件合併のトラブル要因は、事前の準備と調査が不十分であったことです。その結果、家賃交渉、取引先との関係、従業員の混乱など、多くの問題が生じました。デューデリジェンス(DD)として広範にわたる調査を行うこと、そして経験豊かな専門家やコンサルタントの助言があれば、適切な対策を講じることができたでしょう。
E社のM&Aにおける経験不足が、大きなトラブルを引き起こす結果となりました。
合併契約書のまとめ
「吸収合併」や「新設合併」などを行う際に作成する合併契約書には、会社法が定める様々な項目を記載します。項目によっては合併契約書に明記されていないと合併契約が無効になるものもあるため注意が必要です。また合併後の円滑な経営のためには、必要に応じて任意の項目も記載すると良いでしょう。
M&Aによる企業間の合併をお考えであれば、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談ください。合併に関する疑問点や不安を解消し、合併のプロセスをサポートすることが可能です。