セカンド顧問弁護士という選択 既に顧問弁護士がいる会社が専門分野を補う方法

既に顧問弁護士がおられる会社の経営者の方、又は管理部門のご担当者から、「長い付き合いの先生はいるけれども、この分野だけは別の弁護士に見てもらいたい」というご相談をいただきます。株式や事業の承継、M&A、知的財産、労務の紛争、中国及びアジア新興国との取引といった、特定の分野に関するご相談が中心です。本記事は、既に顧問弁護士がおられる会社が2人目の顧問弁護士を置く場合に、何を決めておく必要があるのかという点に限って整理したものです。

先に結論を申し上げます。セカンド顧問弁護士を置くことは、いまの顧問弁護士を替えることではありません。分野を切り分け、どちらに何を相談するのかを、依頼の前に決めておくことが要点です。切り分けが曖昧なままですと、双方の助言が食い違ったときに会社が板挟みになり、かえって判断が遅れます。

決めておくべき事柄は4つです。第1に、どの分野又はどの案件を2人目に任せるか。第2に、どこまでの情報をどちらに伝えるか。第3に、利益相反がないことを依頼の前に確かめる手続。第4に、費用が重複しない組み立てです。以下、この順に申し上げます。

この記事の位置付け

顧問弁護士という同じ主題であっても、決めなければならない事柄は場面ごとに異なりますので、次のとおり頁を分けています。

どのような場面で、2人目のご相談をいただくか

セカンド顧問弁護士のご相談には、いくつかの決まった型があります。ご自身の会社がどの型に当たるのかを見定めていただくと、任せる範囲が定めやすくなります。

既存の顧問弁護士の取扱分野と、いま生じている問題が合っていない

弁護士は、それぞれ取扱いの中心とする分野を持っています。日常の契約や労務に強い弁護士が、株式の集約やM&Aの交渉も同じ精度で扱えるとは限りません。分野が合っていない状態で無理に依頼を続けますと、双方にとって負担になります。

相手方に体制の厚い代理人が就き、こちらの体制を補いたい

相手方に複数の弁護士が就いた場合や、期間の短い手続が始まった場合には、こちらも人数と時間を確保する必要が生じます。既存の顧問弁護士が1名で対応しておられるのであれば、体制を補うという考え方は自然です。

既存の顧問弁護士に相談しにくい事柄が生じた

役員の間で意見が分かれている場合、既存の顧問弁護士が他の役員と近い関係にある場合、あるいは既存の顧問弁護士自身の業務の進め方について検討したい場合には、別の弁護士に意見を求めたいというご希望が生じます。これは不自然なことではありません。

2人目を置くことは、既存の顧問弁護士を否定するものではありません

会社が複数の弁護士に依頼することを妨げる法律上の規定はありません。医療において別の医師の意見を求めることが一般化したのと同じように、法律の分野でも、分野ごとに担当を分けることは珍しくなくなっています。既存の顧問弁護士との契約を終える必要も、通常はありません。

どの分野を2人目に任せるか 切り分けの4つの型

切り分けの方法は、大きく4つに分かれます。どの型を採るかを先に決め、書面に残してください。

切り分けの基準向く場面
分野で分ける株式、M&A、知的財産などの分野ごと専門の知見が継続的に必要な場合
案件で分ける個別の案件の単位期間の限られた大型の案件がある場合
段階で分ける予防の助言と、紛争の対応訴訟や労働審判の対応を任せる場合
相手で分ける対外の取引と、社内の関係役員間や株主間に対立がある場合

分野で分ける型が、最も争いになりにくい形です

「株式及びM&Aに関する事項は当事務所、それ以外の日常の企業法務は既存の顧問弁護士」というように、分野の名称で線を引く方法です。どちらに相談すべきかを社内の担当者が迷いませんので、運用の負担が小さくなります。

案件で分ける型では、期限のある手続に注意してください

案件の単位で分ける場合には、その案件に付いている期限を先に確かめる必要があります。例えば、譲渡制限株式の株主から譲渡の承認の請求を受けた会社は、請求の日から2週間以内に決定の内容を通知しなければ、承認をしたものとみなされます(会社法第136条、第139条第2項、第145条第1号)。令和8年10月1日に請求を受けたのであれば、令和8年10月15日までに通知を発する必要があります。誰が担当するのかを決めている間に期限が来ることのないよう、担当の決定そのものを急いでください。

段階で分ける型では、引継ぎの時点を明確にします

予防の助言は既存の顧問弁護士、紛争になった後の対応は2人目という分け方では、どの時点で引き継ぐのかを決めておく必要があります。「相手方に代理人が就いた時点」「内容証明郵便を発する時点」というように、外形から分かる出来事で定めてください。

既存の顧問弁護士との関係をどのように保つか

最も多いご質問が、既存の顧問弁護士に伝えるべきかどうかという点です。

伝えるかどうかは、会社が決める事柄です

弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する義務を負っています(弁護士法第23条)。当事務所から既存の顧問弁護士に連絡することはありませんし、ご依頼の事実を外部に伝えることもありません。伝えるかどうか、いつ伝えるかは、会社のご判断によります。

伝えるのであれば、切り分けを先に文章にしてください

「この分野は別の事務所に相談することにした」とだけ伝えますと、範囲が分からず、既存の顧問弁護士の側も動きにくくなります。分野又は案件の範囲、連絡の窓口、資料の共有の可否を1枚の書面にまとめて示していただくと、双方が動きやすくなります。

引継ぎの資料は、会社が保有しているものから集めてください

既存の顧問弁護士から資料の引継ぎを受ける必要は、通常はありません。契約書、議事録、登記事項証明書、相手方とのやり取りといった資料は、会社が保有しているものです。まず社内にあるものを集めていただければ、検討を始めることができます。

情報の切り分け どこまでを伝え、どこからを伝えないか

2人の弁護士に依頼する場合、情報をどのように分けるかが実務上の要点になります。分け方を誤りますと、双方が異なる前提で助言をすることになります。

秘密保持の義務は、双方の弁護士が負っています

弁護士及び弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負います(弁護士法第23条)。秘密を漏らす行為には刑罰の定めがあり(刑法第134条第1項)、訴訟において証言を拒むことも認められています(民事訴訟法第197条第1項第2号)。したがって、2人に依頼したからといって、情報が外に広がるわけではありません。

会社の側でも、秘密として管理していることが求められます

不正競争防止法第2条第6項は、営業秘密を、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものと定めています。複数の外部の弁護士に資料を渡す場合には、社内で誰がどの資料を渡したのかを記録しておいてください。

電子メールの宛先の設計を先に決めてください

両方の弁護士を同じ宛先に入れて送る方法と、案件ごとに宛先を分ける方法があります。分野で切り分けたのであれば、宛先も分けるのが筋です。同じ宛先に入れ続けますと、切り分けが実質的に失われ、費用も重複します。

利益相反の確認 依頼の前に必ず行う手続

2人目の依頼で最初に行うのが、利益相反の確認です。この確認が済むまでは、詳しい事情を伺うことができません。

弁護士には、職務を行うことができない事件があります

弁護士は、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件、相手方の協議を受けた事件でその協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの、受任している事件の相手方からの依頼による他の事件については、職務を行うことができません(弁護士法第25条第1号から第3号まで)。弁護士職務基本規程にも、利益相反に関する定めが置かれています。

確認のために、最初にお伝えいただきたい事項

相手方となり得る会社及び個人の名称、関係する会社の名称、既に相談をされた法律事務所の名称の3点を、最初にお伝えください。これらを照合したうえで、受任できるかどうかを回答いたします。詳しい事情を伺うのは、その後になります。

同意があっても、受任できない場合があります

弁護士法第25条の制限は、当事者の合意によって外すことができるものではありません。「他の事務所に依頼できないので引き受けてほしい」というご要望であっても、受任を辞退せざるを得ない場合があります。その場合には、できる限り早い段階でその旨を申し上げます。

費用の重複をどのように考えるか

2人目を置くと費用が二重になるのではないか、というご懸念は当然のものです。組み立て方によって、重複は避けることができます。

切り分けができていれば、重複は生じにくくなります

同じ事柄を2人に相談すれば、当然に費用は重複します。逆に、分野又は案件で切り分けができていれば、それぞれが別の業務を行いますので、重複は生じません。費用の問題は、実は切り分けの問題です。

既存の契約の範囲を見直すことも選択肢です

2人目に一部の分野を任せるのであれば、既存の顧問契約の範囲を狭め、月額を見直すことができる場合があります。契約の期間及び解約の予告期間を確かめてください。「3か月前までに書面により通知する」という定めであれば、令和9年3月31日をもって範囲を改めたい場合には、令和8年12月31日までに申し入れる必要があります。委任は各当事者がいつでも解除することができますが(民法第651条第1項)、契約書に予告の定めがあるときは、その定めに従うことになります。

当事務所の契約の類型と月額の水準

当事務所の顧問業務は、随時の指導及び助言(口頭、電話、電子メール又は面談によるもの)であり、契約書の作成、具体的な紛争への対応及び訴訟への対応は含まれません。月額の費用は消費税別途で、最も軽い簡易顧問は70,000円です。特定の分野について「相談だけを別の事務所に」という組み立てであれば、この水準から始めることができます。専門の弁護士が対応する専門顧問は月額600,000円です。顧問契約を締結いただいている場合、弁護士の時間制報酬による請求はプランに応じて15パーセントから30パーセントの割引となりますが、実費、事務手数料、スタッフの費用及び事前の預り金は割引の対象ではありません。分野に応じて、事業承継顧問契約(月額500,000円、期間は12か月を予定)、敵対的株主(株式買取業者)防衛顧問契約(月額500,000円、期間は12か月を予定)といった類型も設けています。弁護士費用の詳細は弁護士費用一覧をご覧ください。

なぜ既存の顧問弁護士が、2人目に消極的なことがあるのか

2人目を置くことをお伝えになった際に、既存の顧問弁護士から難色を示されることがあります。理由は3つに整理できます。

理由の1 助言が食い違ったときに、責任の所在が不明確になるため

同じ事柄について2つの助言が出た場合、会社がどちらを採ったのかによって結果が変わります。後から責任を問われる立場からは、範囲が不明確な状態は避けたいところです。切り分けを書面にすることは、この懸念に対する最も有効な答えになります。

理由の2 情報が部分的にしか届かなくなるため

会社の事情の一部だけを知らされる状態では、助言の精度が下がります。既存の顧問弁護士が心配しているのは、多くの場合これです。切り分けた範囲については報告を要しないと明確にしていただければ、この懸念も解消します。

理由の3 業務の量と収入の見通しが変わるため

事務所の側の事情として、業務の量が減ることへの懸念があることも事実です。もっとも、専門の分野が異なる案件を無理に抱えるより、得意な分野に集中できるほうが、双方にとって望ましい結果になることが多いところです。

いま確認していただきたいこと

  • いま生じている問題が、既存の顧問弁護士の取扱いの中心とする分野に含まれるかどうかを確かめてください。過去に同種の案件を依頼したことがあるかどうかが、最も分かりやすい手掛かりです。
  • 2人目に任せる範囲を、分野、案件、段階、相手のいずれの基準で切り分けるかを決めてください。
  • 既存の顧問契約書を取り出し、契約の期間、更新の方法、解約の予告期間の3点を確認してください。
  • 相手方となり得る会社及び個人の名称、関係する会社の名称、既に相談をされた法律事務所の名称を書き出してください。利益相反の確認に必要です。
  • 期限の定められた手続が既に進行しているのであれば、その期限を先にお伝えください。担当を決める前に期限が来ることを避ける必要があります。

よくあるご質問

既存の顧問弁護士に知られずに相談することはできますか

できます。弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務を負っていますので(弁護士法第23条)、当事務所から既存の顧問弁護士に連絡することはありません。ただし、訴訟の代理人として裁判所に書面を提出する段階になりますと、外形上明らかになりますので、その時期までに整理をしていただくことになります。

2人目の弁護士に、既存の顧問弁護士の対応の当否を判断してもらえますか

これまでの経緯と資料を拝見したうえで、法律上の観点から評価を申し上げることは可能です。もっとも、事案の当時に得られていた情報を前提に判断する必要がありますので、結果だけを取り出して当否を論じることは差し控えます。今後どのような対応が考えられるかという形で、ご説明いたします。

顧問契約を結ばずに、案件ごとに依頼することもできますか

できます。特定の案件のみをご依頼いただく形でも差し支えありません。継続的に同じ分野の相談が生じる見込みがあるかどうかで、顧問契約とするか個別の依頼とするかをご判断ください。まず1件をご依頼いただき、その後に顧問契約を検討されるという順序でも構いません。

おわりに

2人目の顧問弁護士を置くという判断は、既存の関係を壊すためのものではなく、会社が扱う問題の幅が広がったことの表れです。大切なのは、どちらに何を相談するのかを先に決め、書面に残しておくことです。切り分けさえできていれば、助言が食い違うことも、費用が重複することも避けられます。

どの分野を切り分けるべきか、いまの契約をどう見直すべきかについて、ご事情を伺ったうえで一緒に整理いたします。利益相反の確認だけでも承りますので、お気軽にお電話ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

セカンド顧問弁護士に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間:8:00~21:00(土日祝含む)

出典

弁護士法第23条(秘密保持の権利及び義務)、第25条第1号、第2号及び第3号(職務を行い得ない事件)

弁護士職務基本規程(秘密の保持及び利益相反に関する定め)

民法第651条第1項(委任の解除)

会社法第136条(株主からの承認の請求)、第139条第2項(譲渡等の承認の決定等)、第145条第1号(承認をしたものとみなす場合)

刑法第134条第1項(秘密漏示)

民事訴訟法第197条第1項第2号(証言拒絶権)

不正競争防止法第2条第6項(営業秘密の定義)

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

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