資金繰りが悪化して経営が破綻することが「倒産」であるのに対して、黒字経営にもかかわらず自主的に事業をたたむ「廃業」を選ぶ経営者が増加しています。
その要因の一つが「後継者不在」という深刻な問題です。
今回は、システム開発業者の後継者不在問題を解決するために、M&Aは有効な手段なのかについてお話していきます。
今さら聞けない?!M&Aとは?
M&Aとは「買収と合併」
M&Aを英語表記すれば、「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)となります。
簡単に説明すると、ほかの会社を買ったり(買収)、2つ以上の企業を一つにすること(合併)です。
これは丸ごと買収するだけでなく、会社の株式だけ、特定の事業だけを買うというのもM&Aのスキームの一つとなります。
外国企業が日本企業の保有する技術力に魅力を感じて、M&Aで獲得しようとしているなど報道などで聞いたことがあるのではないでしょうか。
でも、どうしてM&Aをするのでしょうか。
簡単に答えるならば、「自社を早く効率的に成長させるため」です。
会社の経営とは永遠に継続されるものです。
永久に事業をつづけるため、倒産や廃業にならないためにも、常に「成長」する必要があります。
経営者はどうすれば事業を成長させることができるのか、常に考えているのです。
ですから研究開発や工場への資金投下、製品やサービスの価値を高めることに日夜努力するわけです。
そうすることで、売上や利益を伸ばそうと考えます。
このような自社の内部資源を活用した成長は「オーガニック・グロース」と呼びます。
自立的成長という意味です。
しかしこの「オーガニック・グロース」は成長するのにかなり時間を要します。
例えば自社で新しい事業を始めようと思っても、このオーガニック・グロースだと、膨大な時間と資金が必要となってきます。
投下したリソース(人・モノ・金)が回収できないというリスクが高くなってきます。経営にまつわるリスクを最小限にするためにも、M&Aを活用するというのです。
有力な製品やサービスを持ち、すでに一定の成果を上げている会社や今後の成功が見込める事業を他社から買い取るほうが早くて効率的ですよね。
先程お話したオーガニック・グロースに対して、このM&Aなどの外部資源を活用したスキームは、イン・オーガニック・グロース(非自立的成長)と呼ばれています。
事業を成長させるために、経営者にとってこれからの経営戦略の一つとなります。
M&Aとはどんな方法があるのか?
M&Aには大きくわけて4つの方法があります。
①合併
組織も株式も負債・資産もすべて一つの会社に統合してしまう方法です。
会社法では、
★一つの会社に統合して、もう一方の会社は法律上消滅させる方法《吸収合併》
★新会社を設立してそこへすべて統合して、残った会社はすべて法律上消滅させる《新設合併》
の2つの方法があります。
新設合併のほうは手続きがかなり複雑で面倒なのであまり活用されていません。
②株式譲渡
株式を保有することで会社の経営権を得る方法です。比較的手続きが簡単なので、よく活用されるスキームです。企業名、債権債務、取引先との契約関係等はそのまま継承されます。
株式全部保有することも、株式の一部を保有することも可能です。
③事業譲渡
会社の事業の全部または一部を売買する手法です。
会社の財産のうち譲渡する部分と残す部分を明確にする必要があります。
事業譲渡では個々の資産や契約の移管という手続きが必要になります。
④株式交換
買収先の株式を現金で購入する代わりに、自社の株式で支払う方法です。
この方法ですと株式取得に現金が不要となります。買収先が非上場企業の場合は、取得した株式が現金化するのが難しいところがデメリットになります。
M&Aでの事業承継が注目されている
後継者が血族、社内で該当者がいない場合に活用されるのがM&Aでの事業承継です。
社外の第三者へ事業を譲渡して経営権を移行します。各種登記手続きが必要となってきます。
今までご説明したスキームで、株式譲渡で経営権を得たり、事業譲渡で事業を引き継ぐという形でも事業承継することができます。
まったく異業種であっても、事業に興味を持っている熱意ある経営者に自社の事業を引き継ぐことで、廃業することなく会社経営を継続することができるのです。現在では中小企業経営者の中で後継者不在を解決できるスキームとして注目されています。
M&Aのリスクとは?
ここではM&Aを行う上でのリスクについて、3つご紹介します。
その1:資金調達に伴うリスク
競合他社との買収競争になった場合、買い取り価格が高騰してしまうため、資金負担が大きく市場からの評価が低下して事業価値も低下してしまうことになります。
その2:組織と人のリスク
買収するとき、従業員も対象となります。
勤めていた会社が買収されると、経営者が交代するのですから従業員が不安に思うのも仕方ありません。
不安を感じて、離職してしまうというリスクがでてくる可能性があります。
従業員も立派事業価値です。離職によってその価値を失うというリスクが発生します。
その3取引先のリスク
これも人を介して発生するリスクです。
経営者が交代することで、従来と同じサービスが受けられるのかどうか、取引条件が変更されるのではないかなと不安が生じてきます。
永い間のお付き合いの顧客を失うという危険性もあります。
3つのリスク回避って可能なのか?
その1のリスク対応策としては、購入金額が高くなった場合に、この価格になったら撤退するということを事前にシュミレーションしておくことです。
株式投資などでも「損切」という手法があります。この金額まではがんばるけどあまりにも株価が低下したら撤退するという考え方と同じです。
その2のリスク対応策としては、対象企業の従業員間コミュニケーション、労務管理プロセスを事前にしっかり分析しておくことです。
従業員の雇用継続と待遇改善などを譲渡条件としてしっかり盛り込んでおいた方が良いでしょう。
その3取引先のリスクとしては、取引先との関係を踏まえた統合プロセス(Post Merger Intergration=買収後の事業統合 頭文字をとってPMIと呼びます)を検討する必要があます。
PMIとは、簡単にご説明すれば、買収した会社の今までの取引条件を考慮して、新しい経営者も取引先にとっても従来よりも、もっと有益な条件で今まで通り、それ以上の取引を継続しましょうということです。
システム開発業者がM&Aを検討する背景
この項目では、どうしてシステム開発業者がM&Aでの事業承継を検討することになったのか?その理由をご紹介していきます。
後継者不在問題
実子はもうすでに違う仕事に就いてしまっているし、社内の中から選抜するとしても従業員として優秀だったとしても、それが経営者としても優秀かどうかは非常に難しい問題です。
また、中小企業の場合は従業員が多数在籍するわけでもありませんから、今まで従事していた現場の作業も続けながら経営面も対応することにもなりかねません。どんな優秀な人材でもつぶれてしまいますよね。
実子、社内から後継者が見つからないとなるとM&Aでの事業承継で新しい経営者を迎える方法が中小企業の間で増加しているのです。
事業内容の多様化
システム開発業者とは、経済産業省での情報サービス業に区分されて、その中でも「受注ソフトウェア」に該当します。主に業務用のシステム開発行う事業です。
しかし、最近の顧客の要望は多様化しており、システムを構築、開発するだけではなく、運用、サポートまでトータルなサービスが求められるのは普通となってきています。
それらの充実したサービスを提供するためには、マーケティング力、コンサルティング能力も向上させなければいけません。それらの能力を向上させるのは他社との差別化できる技術力を保有することができるからです。これには経営者だけでなく、役員、従業員の意識改革が必要です。
目まぐるしい技術革新の中で、長年経営してきたシステム開発業の先行きを不安視する経営者は少なくありません。このまま続けるよりそろそろ会社をたたんだ方がいいのかもしれないと考えてしまいます。
後継者がいない、先行きが不透明だと思ったら、廃業ではなく、このM&Aでの事業承継を検討していただきたいのです。
熱意のある第三者に、あなたの大切な事業を引き継ぐこと、それが「M&Aによる事業承継」です。
次の項目からは、M&Aを成功させる秘訣をご紹介していきます。
システム開発業者が「M&A事業承継」を成功させる秘訣とは?!
「M&A事業承継」を成功させるポイントは4つあります。具体的にご説明していきましょう。
自社の強みを知る
あなたの会社の強みとはなんでしょうか。
会社を売却したいと考えたら、一番にこの「強み」について再認識していただきたいのです。
なぜなら、「事業の強み」=「事業価値」となるからです。
事業価値はそのままあなたの会社の値段となります。とても重要な確認事項なのです。
システム開発業者であるなら、たとえば、次の項目など強みになるのではないでしょうか。
・クライアントに対して徹底的にヒアリングを行い、その会社にあったプランニングができる
・システム構築に関して品質に自信がある
・クライアントが求める成果を上げる施策に関して、すべて自社内で完結できること
などなど、他にも多数あるとは思いますし、そんなことはシステム開発業者としては当たり前でしょ?と思われた方もいらっしゃるでしょう。
しかし、クライアントが求めていることは、そんな「当たり前のこと」なのです。
同じ業界でシステム開発を行ったことがある場合、既存のシステムを上書きしたような開発をしてしまうことはありませんか。十分なヒアリングを行うというのはかなり時間と手間がかかります。その会社にあったプラニングを行うということは、簡単なことではありませんよね。
だからこそ、最初のヒアリングに時間をかけて、その会社にあったシステムを開発するということは、クライアントから絶大な信頼を勝ち取ることになるのではないでしょうか。そしてそんな太い絆で結ばれているクライアントが存在する企業というのは、かなり企業価値が高いといえます。
買収を希望する企業は、どんな顧客が存在するのか、技術力が高い従業員をどれだけ在籍しているか、そこを徹底的に調査してきます。
普段から、従業員の技術力、コンサルティング能力、マーケティング力などを育てておく必要がありますし、リピート率の高い顧客を多く作っておく必要があります。
当初はオーナーが単独で動くこと?!
この項目もとても重要です。
早い段階で、従業員に「M&Aを行うこと」を公表することはおすすめできません。
先程の項目でもお話しましたが、システム開発業者の場合、従業員自体が事業価値です。
プログラミング言語を理解したスキルの高い人材ですから、いくらでも転職ができてしまうのです。
今でこそM&Aというビジネスモデルもポピュラーにはなってきましたが、「買収」というワードを聞くと、経営状態が悪化したのかな?と誤解されることも多々あります。
従業員たちに余計な心配をかける必要はありません。当初は経営者が単独でM&Aを検討して、早い段階で、まずM&Aアドバイザーの選定を行い、良き相談相手を見つけることからお勧めします。
多忙な経営者ですから、日ごろの業務とM&Aにまつわる作業を並行して行うのはとても大変ですよね。
M&Aの専門家であるアドバイザーに強力にサポートしてもらいましょう。
M&Aがほとんど完了して、従業員の雇用継続と待遇改善をしっかり取り決めてからで、従業員に公表しても遅すぎるということはありません。
M&A成功の秘訣「案件化」
M&Aというのは、企業間の結婚とたとえられます。
事業同士の相性がよい、統合した後に両社が幸せになれるというところが結婚と通ずるところです。
結婚する場合、特にお見合いなどの場合は、釣書というものを最初に取り交わします。
M&Aの場合ですと買い手に紹介するための「資料」ということです。
この資料がきっちりと作成できていなくて、後になって「聞いてないよ!」という事実や条件が出てきたら、恋愛関係でも、ビジネスでも信頼関係なんて簡単に壊れてしまいます。
この最初に作成する資料作りのことを「案件化」と言います。
案件化の資料収集にはコツがあります
コツ1★過去3期分の決算書、税務申告書類、直前6か月の試算表は日ごろからすぐ見られるよう手元にファイリングしておくこと→これだけあれば何とかなります!
コツ2★自社ビルなど不動産を所有している場合、権利書、登記簿謄本、公図、固定資産税課税証明書、建築確認申請書、建築確認済書なども1か所にファイリングしておくこと→所有不動産がどれくらいあるのかを把握しておけば、最新の謄本はネットでも取得可能です。
コツ3★従業員の退職金手当ての資金作りについては、中退共、養老保険に加入するなどいろんな方法があります。しかしそれだけでは足りなくて、追加の支出がある場合、これは簿外負債として計上されます。簿外負債というのは、帳簿上はわからない負債ですから、M&Aの現場ではとてももめる要素となります→どれくらいの退職金が必要かあらかじめ認識しておくことが重要です。
コツ4★労務、財務、契約関係書類がどこにあるか、経営者も把握しておくこと→総務担当者に丸投げするのではなく、書類管理はオーナーもきっちり確認しておいてください。そうすることでいざとなって慌てふためくことはありません。
どうやって買い手企業を探せばいいのか?
自社の事業内容をよく知ってくれいている、知り合い、取引先にお願いしようと考えている方は多いのではないでしょうか。
それも間違いというわけではありません。旧知の仲の方だから信頼関係がある分、安心できるところはあります。
しかし心配なのは、途中でうまくいかなくなって、交渉が決裂してしまったときなのです。
先程、M&Aは企業間の結婚にたとえられるというお話をしました。結婚だって、うまくまとまらなくて破談ということは少なからずあります。
そうなった時、旧知の中だとしたら、会社の内情などもろもろのことを知り尽くされたうえで、合併の話がなくなるということを認識していただきたいのです。今後の取引にも支障が出てきます。
少し怖い話ですよね。
何度もお話していますが、まずM&Aを検討したら専業のアドバイザーを見つけてもらって、相談していただきたいのです。
特に、同じ業界でのM&A経験があるアドバイザーならあなたの会社の事業価値、そして相性の良い買い手企業を見つけてくれます。
そして万が一、やっぱり今回は、M&Aはやめておくということになったとしても、ビジネスライクな付き合いですから、交渉決裂したことが後をひくということはありません。つまり取引先などではないわけですから、今後のビジネスに影響がないということです。
まとめ
今回は、システム開発業者のM&Aでの事業承継を成功させるポイントについてお話しました。システム開発業には、まずシステムを構築するノウハウと、技術力を持った従業員が在籍しています。
それがそのまま事業価値に反映されます。つまり売れる事業だということです。
買収されるというと、事業に失敗したというイメージがまだまだぬぐい切れません。
しかし、それは誤解です。事業が売れるということは、ビジネスに成功した証なのです。
そのことをお忘れなくM&Aでの事業承継を検討していただきたいと思います。
弁護士法人M&A総合法律事務所の強み
弁護士法人M&A総合法律事務所では、これまでに300件以上ものM&A案件・株式譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡・資本業務提携・グループ内組織再編案件を取り扱っており、M&Aに関する高い専門性と豊富な経験がございます。
また、M&A総合アドバイザーズには、M&A総合法律事務所・M&A総合会計事務所が併設されています。弁護士・公認会計士・税理士とも協働してM&Aに対応いたしますので、ここでも信頼と安心が違います。
システム開発会社のM&Aにおいても、非常に数多くの実績がございます。