事業譲渡と会社分割の内容とメリット・デメリット!

事業譲渡と会社分割の違いについて

会社の事業を他社にM&A売却する場合、事業譲渡というM&Aスキームか会社分割というM&Aスキームのいずれかを使用することとなります。

事業譲渡というM&Aスキームと会社分割というM&Aスキームは、法的には全く異なります。

事業譲渡は、単に事業(資産など)を売買するという個別の資産・負債・契約関係などの売買契約です。これに対して、会社分割は、会社法に規定された組織再編行為であり、本来、会社の事業再編を容易にするための法制度です。ですので、会社分割の場合は、会社分割だけでM&A売却は終了せず、会社分割に基づいて設立した子会社の株式の譲渡を行うことにより、M&A売却を行うこととなります。

いずれも、会社の事業を譲渡して、譲渡対価(譲渡代金)を受領するという点では同じですが、この法的性質の違いにより、M&Aの実務においても、法的にも税務的にも、いろいろ取り扱いに相違が生じます。

事業譲渡←事業譲渡

会社分割+株式譲渡←会社分割

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事業譲渡での個別同意の取得と会社分割での債権者保護手続き

事業譲渡の場合、個別の資産・負債・契約関係などの売買契約ですので、個別の資産・負債・契約関係など移転手続が必要になります。すなわち、不動産(資産)であれば引渡や変更登記、債権であれば債権譲渡通知などの手続き、契約関係であれば相手方の個別の同意が必要となります。
ただ、事業譲渡会社は、総資産の5分の1以上の大きな事業譲渡を行わない限り、事業譲受会社は事業のすべての事業譲受を行わない限り、株主総会決議の必要はありません(取締役会決議は必要です)。

他方、会社分割は、会社法上の組織再編行為ですので包括承継であり、個別の移転手続きが無くても、分割手続きを完了することができます(ただし、個別契約にチェンジオブコントロール条項等がある場合は、個別の手続きが必要になります)。しかし、各種組織再編の手続き(事前開示・債権者保護手続(債権者異議催告通知公告)・株主通知手続・株式買取請求手続・事後開示)などの手続きが必要となり、特に、債権者保護手続きにおいて、官報や日刊紙に会社分割公告を行い、1ヶ月の待機期間を経ないといけません。

M&Aの実務において、事業譲渡の場合は契約関係の承継に相手方の個別同意が必要になってしまうのに対して、会社分割の場合はそれが必要ないものの、債権者保護手続きに1ヶ月の待機期間が必要になってしまうため、一概にどちらが良いとも言えないのですが、それぞれのM&A案件において、契約相手方の個別同意か債権者保護手続きの1ヶ月の待機期間かいずれが大きな問題なのかなどを斟酌して、いずれのスキームを採用するかを決定することとなります。

特に、債権者保護手続きでは、債権者異議催告通知公告(この会社分割に意義がある債権者は異議を申し出ることを求める通知公告)を行います。この通知公告から1ヶ月以内に債権者が異議を申し出ると、会社は債権者に対して債務を弁済したり、担保の提供などを行わなければならなくなる可能性があります。

許認可はいずれも承継されない

事業譲渡によっても会社分割によっても、許認可は承継されません。許認可については、事前に所轄当局と協議し、事業譲渡や会社分割を行った場合、事業譲渡の効力発生日・会社分割の効力発生日の初日までに許認可が取得できるよう調整しつつ、スケジュールを調整して、事業譲渡・会社分割を実行しなければいけません。

ただ、業法によっては、会社分割の場合において、許認可の承継を認める場合や、一定の要件を充たすことを前提に許認可の承継を認める場合がありますので、関連業法の確認が必要です。

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従業員の承継方法にも大きな違いがある

事業譲渡の場合、従業員を承継する場合は、従業員個人と個別に交渉し、転籍同意を得る必要があります。

他方、会社分割の場合は、労働契約承継法に基づき、全体説明会・個別説明会・労働者通知を行うことにより、従業員を承継することができます。従業員個人の転籍同意は必要ではありません。従業員に対する説明会は、事業譲渡の場合でも実務上行うわけですので、これが特段の負担というわけではありません。ただ、説明項目などにおいて、労働契約承継法の要件を充たす必要がありますので留意が必要です。

なお、会社分割による従業員の承継の場合、従業員の差別的取り扱いを防止するため、分割事業に主として従事していた従業員は「当然に承継」となりますが、それ以外の従業員は、会社分割に異議を出すことができ、その場合、その従業員はもともとの会社に留まることができます。

課税関係も大きく異なる

その他、事業譲渡と会は分割では、課税関係も大きく異なります。

消費税は、事業譲渡には課税されますが、会社分割には課税されません。事業譲渡は資産などの売買なので消費税が課税されるのです。しかも、資産によっては、消費税の課税資産と非課税資産がありますが、事業譲渡の場合においても、課税資産にだけ消費税がかかりますので、事業譲渡代金に単純に1.08を掛けてしまわないように留意が必要です。

また、不動産取得税についても、事業譲渡においては課税されますが、会社分割には課税されません。不動産を多く保有する会社の会社分割の場合、事業譲渡の場合は、巨額の不動産取得税がかかることになりますので、やはり会社分割を採用することとなろうかと思います。

また、不動産については、不動産登記の際に発生する登録免許税も悩ましい問題です。事業譲渡は資産などの売買なので登録免許税はそのまま課税されます。会社分割においては、不動産登記をしなくても、会社分割可能なのですが、やはり不動産登記が譲渡会社の名義のままだとのちのちいろいろ問題が生じますので、不動産登記の変更登記を行います。この時、登録免許税は発生してしまうのですが、会社分割の場合は、軽減税率が設定されており、かなり税率が低くなっています。

その他、会社分割は、会社法上の組織再編行為ですので、会社分割が効力発生した場合には、会社分割の商業登記を行う必要があります(がこの登録免許税はそれほど高額ではありません)。

表明保証違反の補償責任について

事業譲渡契約書には、表明保証が規定され、承継資産などに瑕疵があったりした場合、事業譲渡者に対して、表明保証違反の補償責任を追及できます。会社分割をして子会社を設立し、その子会社の株式を株式譲渡した場合も、株式譲渡契約書に、表明保証が規定され、承継資産などに瑕疵があったりした場合、株式譲渡者に対して、表明保証違反の補償責任を追及できます。

しかし、会社分割で、分割会社から分割承継会社に対して、直接、事業を承継させた場合、通常、会社分割契約書には表明保証は規定されませんので、承継資産などに瑕疵があったりした場合といえども、分割会社に対して、表明保証違反の補償責任を追及できません。そのような場合、会社分割契約書のみならず、会社分割覚書などを別途締結して、そこに表明保証を規定するなどの工夫をしておくことが必要になります。

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まとめ

以上のとおりですので、一概に、事業譲渡と会社分割のいずれが有利か不利かということは断定できず、M&A案件ごとに検討するほかありませんが、一定規模以上のM&Aであれば、事業譲渡は資産承継の個別手続きが必要ですので手間がかかる(M&A案件によっては個別手続きを取ることが不可能という)こととなり、会社分割のほうが簡易ということとなりそうですが、中小規模のM&Aの場合は、資産承継の個別手続き自体あまり手間ではなく、むしろ会社分割は組織再編行為の手続きの方が手間であることもあり、やはり、M&A案件ごとに検討するほかありません。

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