M&Aにおいての株式譲渡は、事業譲渡や合併などのM&Aの他のスキームに比べれば、契約面・申請面などの手続きが簡素であるということが大きなメリットして挙げられます。
ただ、大きなデメリットは、株式を取得するには多額な資金を用意しなければいけないところです。過半数の株式を取得することで経営権を取得することが可能ですが、中小企業においても、保有株式の過半数の取得のために数百万から数千万単位の資金を調達する必要もでてくるかもしれません。
株式譲渡をするにあたっては、上記のようなメリット・デメリットを踏まえたうえで、手続きに沿って進める必要があります。今回は、この株式譲渡について、そもそも株式譲渡とは?ということから、メリット、デメリットを詳細にご説明していき、手続きの流れや契約書についての注意点についても弁護士が徹底的に解説していきます。
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- 1 株式譲渡をわかりやすく解説
- 2 株式譲渡のメリットとデメリット
- 2.1 譲渡企業のメリット①:会社経営の存続が可能
- 2.2 譲渡企業のメリット②:株式保有比率を調整することができる
- 2.3 譲渡企業のメリット③:経営者個人にお金が入る
- 2.4 譲受企業のメリット④:会社の経営権を取得できる
- 2.5 譲受企業のメリット⑤:許認可を引き継ぐことができる
- 2.6 譲受・譲渡企業の共通のメリット⑥:税金面でコストを抑えることができる
- 2.7 譲受・譲渡企業の共通のメリット⑦:手続きが簡単といえる
- 2.8 譲渡企業のデメリット①:経営者が保有する以上の株式を求められることがある
- 2.9 譲渡企業のデメリット②:不採算事業があると譲渡価格が下がることがある
- 2.10 譲受企業のデメリット③:すべての株式の取得が困難な場合がある
- 2.11 譲受企業のデメリット④:負債や簿外債務を含めて引き継ぐ必要がある
- 2.12 譲渡企業・譲受企業共通のデメリット⑤:負債額によっては購入に多額の資金が必要になる
- 3 株式譲渡のメリットとデメリットをまとめてみた
- 4 株式譲渡を行うにあたり抑えておきたいポイント
- 5 まとめ
株式譲渡をわかりやすく解説
この項目では、知っているつもりの「株式譲渡」について詳しく解説します。
「株式譲渡」について、おさらいも含めてご説明していきます。
株式譲渡とは?
簡単にご説明しますと、株主が法人(譲受希望企業)もしくは個人に自社の保有株式を譲渡する手続きということになります。この場合、過半数の株式を譲り渡すことで、会社の経営権が譲受先に移転することになります。
株式譲渡と事業譲渡の違い(会社は株主のもの、事業は会社のもの)
M&Aのスキームで、混同されやすいものに、事業譲渡が挙げられます。
株式譲渡というと、何かとこの事業譲渡と比較されるのですが、株式譲渡と事業譲渡の大きな違いは、株式譲渡の場合ですと、譲受先が、法人もしくは、経営者(個人)であり、それに対して事業譲渡は、譲渡先が法人のみであるということです。
事業譲渡は、事業を譲るわけですから、法人に譲ることはご理解いただけると思います。
一方で、株式譲渡は、過半数の株式を譲渡して経営権を得るということになります。
つまり、会社は株主のもの、事業は会社のものであるという考え方につながっていきます。
株の過半数を所有する株主になれば、会社の経営権を手に入れ、経営に関して大きな影響力を持つことになり、筆頭株主になるということは、会社そのものを手にいれるわけです。
過半数の株を購入するには様々な手続きが必要です(後の項目で手続きに関してはご説明します)。株主総会での承認が必要とはなってきますが、そこをクリアすれば、過半数の株を購入することで、スピーディーに経営権を手に入れる手法となるのです。
株式譲渡と合併の違い(事業が存続するか、消滅するか)
合併も、株式譲渡と混同されやすいです。
合併は、複数の企業を1つに統合することをいいます。株式譲渡の場合、会社の経営権が譲受希望会社に移転するのみで、対象企業自体は存続します。しかし、合併では譲受希望会社に吸収される、または新たに会社が設立されることになるので、対象企業の法人格は消滅することになります。
株式譲渡のメリットとデメリット
【メリットは7つ】
譲渡企業のメリット①:会社経営の存続が可能
株式譲渡は、会社をそのままの形で存続することができます。自分が持てるほとんどの時間を会社の経営につぎ込んできたわけですから、経営者にとって、会社をそのまま存続できるのは、大切なポイントではないでしょうか。
譲渡企業のメリット②:株式保有比率を調整することができる
株式譲渡では譲渡する株式の比率を設定できるのです。保有比率を調整できますから、過半数を持って、経営権をすべて譲渡するか、三分の一以上で、株主総会においての特別議決権を単独で否決する権利を譲るかなどを選ぶことができます。
譲渡企業のメリット③:経営者個人にお金が入る
事業譲渡の譲渡金は法人すなわち譲渡企業に入るのに対して、株式譲渡の譲渡金は株主(経営者個人)の手元に現金が入ってきます。これにより創業者利得を得ることでハッピーリタイアを実現ができます。次の事業を行う上での資金を作ることができます。
譲受企業のメリット④:会社の経営権を取得できる
株式譲渡を行なって譲渡企業の50%以上の株式を取得した場合、会社の経営権を取得できます。また、すべての株式を取得した場合、会社の支配権を完全取得することになり、経営方針などに他者から影響を受けることがなくなります。
譲受企業のメリット⑤:許認可を引き継ぐことができる
事業譲渡と異なり、株式譲渡では会社をそのまま引き継ぐため、従業員との雇用契約や勤務体系などの許認可もそのまま引き継ぐことができます。
ただし、役所への変更届などが必要とはなってきます。
譲受・譲渡企業の共通のメリット⑥:税金面でコストを抑えることができる
消費税や印紙税、登録免許税が非課税であるため、余計なコストを抑えられます。事業譲渡の場合、売り手となる株主に対して譲渡益の約30%の法人税がかかりますが、株式譲渡の譲受人が個人だった場合は、所得税、住民税あわせて20.315%の固定税率で分離課税が適用されるため、税金が比較的安く抑えられます。
譲受・譲渡企業の共通のメリット⑦:手続きが簡単といえる
他のM&A手法と比較すると、株式譲渡の手続きは簡単といえます。
他の手法では、特別決議や債権者保護手続きが必要となります。時間がかかる上に、反対株主が多い場合にはM&A自体実行できないということも考えられます。
ただし、上場企業が株式譲渡を実施する際には、TOB(株式公開買い付け)と呼ばれる手続きが義務となるケースが大半です。
TOB(株式公開買い付け)とは、会社が事前に「期間・株数・価格」を提示し株式を取引所に通さずに買うことを言います。
よって、特に非上場企業にとってメリットが大きいです。
【デメリットは5つ】
譲渡企業のデメリット①:経営者が保有する以上の株式を求められることがある
譲受企業から自身の保有割合以上の株式取得を求められた場合、株主が複数おり株式が分散している場合には、自己保有以外の株式を取りまとめた上で譲渡を行う必要があります。
譲渡企業のデメリット②:不採算事業があると譲渡価格が下がることがある
株式譲渡は事業譲渡と違い、一部の事業だけを切り離して譲渡することはできません。よって、譲渡企業に不採算の事業があると、譲渡価額が下がることがあります。
より良い条件で売却するには、会社分割などによる不採算事業の切り離しなどを検討する必要があります。
譲受企業のデメリット③:すべての株式の取得が困難な場合がある
デメリット①のとおり、譲渡企業の株式が分散している場合があります。株式が分散している場合、それぞれの株主と個別に交渉し購入する手続きが譲渡企業で必要になりますが、反対する株主や所在不明の株主がいると、すべての株式の取得が困難になるリスクがあります。
譲受企業のデメリット④:負債や簿外債務を含めて引き継ぐ必要がある
事業譲渡と異なり経営権の承継となるため、対象企業そのものの財産状態に変更はなく譲受する資産を選別することができないため、負債や簿外債務を受け取るリスクがあります。
譲渡企業・譲受企業共通のデメリット⑤:負債額によっては購入に多額の資金が必要になる
譲渡企業が抱える負債が大きすぎる場合、株式を購入することに多額の資金が必要になります。譲受企業側からしたら、場合によっては多額の借入を行う必要になるでしょう。結果として、いつまでも買い手が現れないおそれがあるので、譲渡企業にとってもリスクとなります。
なお、贈与による株式譲渡の場合、多額の資金を調達する必要はなくなりますが、贈与税の発生が問題となります。そのため、「贈与」と「売買」のどちらが有利になるかの判断は一概にはできません。
株式譲渡のメリットとデメリットをまとめてみた
株式譲渡のメリット | 株式譲渡のデメリット |
①会社経営の存続が可能 ②株式保有比率を調整することができる ③経営者個人にお金が入る ④会社の経営権を取得できる ⑤許認可を引き継ぐことができる ⑥税金面でコストを抑えることができる ⑦手続きが簡単といえる | ①経営者が保有する以上の株式を求められることがある ②不採算事業があると譲渡価格が下がることがある ③すべての株式の取得が困難な場合がある ④負債や簿外債務を含めて引き継ぐ必要がある ⑤負債額によっては購入に多額の資金が必要になる |
株式譲渡を行うにあたり抑えておきたいポイント
株式譲渡とは何かをご理解いただいた上で、次は、株式譲渡を行うべきかどうか、どこで判断するかをご説明していきましょう。
株式譲渡を行うかを判断するためのポイントは5つあります。
株式譲渡する場合の譲渡範囲の認識
株式譲渡の場合は、経営権そのものの譲渡となるため、事業を区切って譲り渡すわけにはいかず、会社全体を譲り渡すことになります。
この会社全体を譲り渡すということを、忘れないでいただきたいのです。
この後、株式譲渡のメリットやデメリット、流れ、注意すべきポイントとご説明していくのですが、後述する記事を読んでいく際も、「会社全体を譲り渡す」ということを頭に入れておいていただきたいのです。
株式譲渡にかかる税金
株式譲渡は消費税の対象にならないものの、譲渡益に対して20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)が課税されます。また、譲渡側企業の場合、対象企業が資産として不動産を所有している場合には、不動産取得税および登録免許税がかかることになります。
雇用移転の同意
株式譲渡では、会社全体を譲渡することになるとお話しました。
法人はそのまま存続する形になるため、従業員に個別の同意を得る必要はなく、そのまま雇用を継続することになります。株式譲渡についてのメリットは、次項でまたご説明しますが、雇用などの契約を一つ一つ見直す必要がないというところです。
簿外債務を含む負債の状況
さきほど、比較した「事業譲渡」では簿外債務を引き継がないことが可能ですが、株式譲渡は簿外債務を含めた負債に関しても包括的に引き継ぐことになります。事業譲渡の場合は、譲渡の条件を取り決めるときに、簿外負債は引き継がないと明確にしておけば、引き継ぐ必要はありません。
ですから、株式譲渡を行う場合は、譲渡契約を行う時、すなわちデューデリジェンス(DD)の段階で、退職引当金、リース債務など現段階では帳簿に乗ってこないが、将来的には出現する可能性が高い負債(簿外負債)について、詳細に確認する必要が出てきます。その確認をしたうえで、譲渡条件を取り決める必要があります。
役所、法務局への変更登記が不要?!
株式譲渡は会社の機関構成や株式数の変更ではないため、役所などへの手続きや法務局へ変更登記の申請は不要です。
大きな特徴として挙げられるのは、基本的には会社内部で完結することができるという点です。しかし、この届け出が不要、もしくは簡易的だというのは本当に基本的で書面上での話であり、実際に株式譲渡を社内で完結させようと思ったら、かなり税務面、会社法に精通した社員が存在する必要があります。会社法上では厳格な手続きが規定されているからです。
株式譲渡の手続の流れ
株式を譲渡するためにはまず、譲渡する株式が譲渡制限を設けているかどうかを、会社の定款や登記簿謄本で確認する必要があります。中小企業では、譲渡制限を設けているところが多いです。
譲渡制限を設けている場合、取締役会が設置されているなら取締役会での承認、取締役会が設置されていないなら株主総会での承認を得なければなりません。
会社の承認機関により手続きは若干異なりますが、一般的に株式譲渡は以下の流れで手続きが進みます。
①取締役会もしくは、株主総会において譲渡する株式数、相手の氏名などについて承認請求
↓
②承認が得られたら株式譲渡契約書を作成
↓
③会社に株主名簿の書き換えを依頼
↓
④その後、株主名簿記載事項証明書の発行を会社に依頼
↓
⑤株主名簿記載事項証明書交付をもって手続き完了
まとめ
株式譲渡の7つのメリットと5つのデメリットを挙げてきたのですが、メリットを最大限に活かす、またはリスクを回避するためには、専門家によるサポートを受けることが重要になります。
たとえば、税金面でコストを抑えることができる点や、手続きが簡単な点がメリットではあるものの、実際にはさまざまな法的知識が必要になります。また、譲渡すべき株式のとりまとめ、不採算事業の切り離し、負債や簿外負債を見極めるためのデューデリジェンス(DD)についても、専門的によるアドバイスが欠かせません。
株式譲渡のサポートに関して経験値が高い税理士、公認会計士、弁護士が在籍しているM&A総合法律事務所へご相談ください。株式譲渡に関するあらゆるお悩みに対応させていただきます。