M&Aで弁護士の担う役割!依頼するメリットや報酬・費用相場も紹介!

  • 2021年11月19日
  • 2024年10月8日
  • M&A

M&Aで弁護士の担う役割

M&Aの実施に際して、弁護士は法的知識にもとづいて、アドバイスや代理人として交渉のサポートなどを提供する役割を担います。

検討段階から経営統合(PMI:Post-Merger Integration)の段階に至るまで、M&Aのプロセスの中には弁護士の携わる手続きが非常に多いです。なので、最近では、M&Aのサポートに特化している弁護士事務所も見られます。

本記事ではM&Aと弁護士の関係性を幅広く解説しますが、まずは本章にてM&Aで弁護士の担う役割を簡単に解説したうえで、以下の専門家との違いをまとめます。

  • 公認会計士
  • 税理士
  • 社会保険労務士
  • ファイナンシャルアドバイザー
  • 金融機関
  • M&A仲介会社

M&Aにおいて、それぞれの専門家が担う役割を順番に確認していきましょう。

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弁護士の役割

本項では、M&Aで弁護士の担う代表的な役割として、以下の4つをピックアップし取り上げます。

  • 法的リスクのチェック・対策
  • 書類作成・手続きの支援
  • M&A交渉の代理
  • M&Aアドバイザリー業務

それぞれの概要を順番に紹介します。

法的リスクのチェック・対策

前提として、M&Aは成約までに長い時間のかかる取引であり、膨大な資金や資産の移動、組織改編などが伴う規模の大きい経営戦略です。

そのため、M&Aの実施に伴い、法的なリスクを入念にチェックし対処法を検討したうえで、これを反映させた戦略のもとでプロセスを進めていかないと、将来的に想定外のトラブルが発生するおそれがあります。

弁護士は、法律の専門家としての立場から、法的リスクをチェックし対策に向けたアドバイスを提供する役割を担います。とりわけM&Aの際は、譲渡側企業に潜むリスクについて内部情報をもとに精査する「法務デューデリジェンス(DD)」および、「契約書のレビュー(法的なチェック)」について、弁護士に依頼することが望ましいです。

そのほか、必要に応じて、法的リスクを考慮したうえで弁護士にM&Aスキームを提案してもらったり、買収防衛策の導入に関してアドバイスを提供してもらったりするケースも見られます。

書類作成・手続きの支援

M&Aではさまざまな契約書を締結しますが、このときには弁護士に契約書の作成やチェックを依頼する場合があります。

M&Aを成約に導くためには、採用する手法によっては法律の定めに沿ってさまざまな手続きや書面の作成などが求められます。これらの事情を踏まえて、弁護士に対してM&Aを適切に進められるよう依頼を行うケースがあります。

M&A交渉の代理

M&Aを行う際は、相手先企業や債権者・顧客・金融機関などのステークホルダー(利害関係者)と交渉を行う必要があります。このときには、交渉力が求められるほか、多くの手間がかかるため、弁護士に依頼する場合が少なくありません。

なお、上記のような交渉は「法律事務」と呼ばれており、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務に関する代理や仲裁を行うことは弁護士法で禁止されています。

M&Aアドバイザリー業務

日本ではM&A件数が増加傾向にあり、最近ではM&Aにおける戦略策定・相手先業とのマッチング・企業価値評価(バリュエーション)・手法の選択・スケジュール管理などに関して、専門的なアドバイスやサポートを提供している機関も見られます。

公認会計士・税理士・社会保険労務士の役割と相違点

公認会計士は、企業の監査や会計を専門的に取り扱います。M&Aでは、企業価値評価や財務デューデリジェンス(DD)などを担当するケースが多いです。

次に、税理士とは、税の専門家として納税者が自らの所得を計算し、納税額を算出する申告納税制度の推進の役割を担います。M&Aでは、税務デューデリジェンス(DD)や、税制上有利な手法の提案などを行うケースが多いです。

そして、社会保険労務士とは、企業の人材に関するエキスパートであり、経営の効率化に向けて、人事・労務管理全般に関する問題点を指摘し、改善策を企業にアドバイスを行います。M&Aシーンでは、人事労務制度について特に精査が必要であると思われる場合に、買収側の立場から人事労務デューデリジェンス(DD)を行うケースがあります。

また、M&Aでは制度や文化の異なる企業同士を実質的に一体化させる作業であり、人事制度の統合作業が非常に重要かつ大変なタスクです。社労士はそこでも活躍します。

弁護士事務所と同じように、公認会計士・税理士・社会保険労務士の中にはM&Aを全般的にサポートしている専門家も存在するため、これら四者の相違点がわかりにくい場合があります。

前提として、士業事務所は、それぞれの専門分野を主軸にサービスを展開しています。そのうえで、必要に応じて外部の専門家とのネットワークを活用しながら、M&Aに関する全般的なサポートを提供しています。

以上のことから、アドバイザリー契約を締結する場合は、各事務所の強みや料金体系を念入りに確認しておくことが望ましいです。

ファイナンシャルアドバイザー・金融機関の役割と相違点

ファイナンシャル・アドバイザー(FA)とは、企業における財務状況の分析・改善および、M&Aの実施で得られるシナジーに関する検討などを行う専門家のことです。また、M&Aの手法・相手先とのマッチング方法・スケジューリングなどの提案を行うほか、チーム編成のアレンジを担うケースも多いです。そのほか、ビジネス面のデューデリジェンス(DD)を担当する場合もあります。

フィナンシャルアドバイザーの主な特徴としては、大規模なM&A案件で採用されるケースが多い点が挙げられます。多くの場合、FAは中小規模の案件には関与しません。

続いて、金融機関は、事業再生の一環としてM&Aが用いられるケースや、買収側で資金調達を伴うケースなどで協力を得ることが多いです。また、M&Aによる事業承継を行う場合、日頃より取引を行っている金融機関のイニチアチブでプロセスを進めていくこともあります。

M&A仲介会社の役割と相違点

M&A仲介会社は、売却側と買収側のマッチングをサポートする専門家です。一般的に、サービスの対価は、着手金・中間報酬・成功報酬などにより支払われます。

M&A仲介会社に依頼すると相手先企業探しをスムーズに進められる可能性がある一方で、「M&A仲介会社は、売却側と買収側の双方と契約を締結する場合が多い」点に注意しなければなりません。

上記の場合、M&A仲介会社からすると、M&A当事会社の双方が顧客となり、双方から報酬を受け取ることから、利益相反が生じるおそれがあります。つまり、M&A仲介会社は自社にとって常に完全な味方とはいえないため、必要に応じて自社の利益のみを追求してくれる専門家への依頼を検討すると良いでしょう。

M&A実務を弁護士に依頼するメリット

本章では、M&Aを行う際、実務を弁護士にサポートしてももらうメリットの代表例として、以下の3つを取り上げます。

  1. 法的リスクを回避できる
  2. 交渉力を担保できる
  3. 法的トラブルをスムーズに解決できる

それぞれの概要を順番に紹介します。

法的リスクを回避できる

もともとM&Aの成功確率はそれほど高くなく、想定外のリスクが発生したことが原因となり、取引に失敗してしまうケースも少なからず見受けられます。また、たとえM&A取引が成約したとしても、将来的にリスクが顕在化すれば、大きな損害が発生するほか、相手先企業から損害賠償を請求される場合もあるのです。

そのほか、デューデリジェンス(DD)を念入りに行わないまま安易にM&A契約を締結すると、不当な条件でM&Aを行い会社と株主に損害を与えたとして、取締役が株主から善管注意義務違反で訴えられる場合もあります。

しかし、弁護士に契約書のチェックや法務デューデリジェンス(DD)を依頼しておけば、上記に挙げたリスクを最小限に抑えながらM&Aを進められます。

交渉力を担保できる

M&Aの際、弁護士に代理人としての役割を依頼しておくと、相手先との交渉を担当してもらえます。これは、交渉力に不安のある経営者の方や、自社よりも規模の大きい企業とのM&Aに臨む売却側などにとって、非常に大きなメリットです。

なお、自社においてFAや仲介会社などM&Aの専門家からサポートを受けている場合、これらの業者に対する交渉力を備えておくことも重要です。

FA・仲介会社からすると、M&Aの成約により得られる成功報酬が最大の収入源であるため、依頼者のニーズを満たすことよりも成約を優先しようとするインセンティブが働きやすいです。

また、特に仲介会社では売却側・買収側の双方から成功報酬を受け取るため、利益相反が起こりやすい(とりわけ、資金力が比較的あり、将来的に再び顧客となる可能性が高い買収側企業に寄り添った対応を行いやすい)です。

そこで、弁護士とも契約を締結しておき、仲介会社の方針に対するセカンドオピニオンを提供してもらったり、業者との協議に介入してもらったりすれば、自社の利益を守りながらM&Aを進められます。

法的トラブルをスムーズに解決できる

M&Aを行う際、相手先企業との間だけでなく、株主・債権者・従業員・顧客・取引先などとの関係で法的トラブルが生じる場合があります。

上記の場合、デューデリジェンス(DD)やM&A契約書のチェックを依頼していた弁護士に介入してもらえば、紛争をスピーディーに解決できるため、訴訟やレピュテーションの悪化などの大きな問題に発展する前に収束させることが容易になります。

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M&Aで弁護士の手掛ける業務

前提として、M&Aは以下の流れで進められるケースが多いです。

手順プロセス概要
1ノンネームシートの提供秘密保持契約の締結前に、対象企業について企業名を特定できない範囲で情報を提供します。
2秘密保持契約書の締結対象企業について、具体的な情報を得る前提として、秘密保持契約を交わします。
3基本合意書の締結譲渡対象や価格などの基本条件について合意を取り付けたら、基本合意書を交わします。デューデリジェンス(DD)への協力、独占交渉権などを定めることが多いほか、その時点で譲れない条件があれば併せて記載します。
4デューデリジェンス(DD)の実施法務・ビジネス・会計・税務・人事について監査を行います。それを踏まえて、取引を進めるか否か・譲渡の価格・条件などを検討します。
5最終契約書の締結株式譲渡契約書事業譲渡契約書など、拘束力のある合意書を交わします。譲渡の基本条件やデューデリジェンス(DD)の結果を反映し、表明保証・クロージングの前提条件などを定めます。
6クロージング最終契約書に沿って、株式や事業の譲渡と対価の支払いを行います。これにより、法律上の地位や名義が移転します。クロージングは、最終契約書の締結と同時になされるケースや、その後一定期間経過後になされるケースなどがあります。
7経営統合(PMI)制度や文化の異なる2つの企業を実質的に一体化させる作業です。

上記を踏まえて、本章ではM&Aで弁護士の手掛ける代表的な業務として、以下の6つを取り上げます。

  1. 法務デューデリジェンス(DD)
  2. M&A契約書のチェック・作成サポート
  3. 法的な手続きに関するサポート
  4. M&A交渉の代理
  5. M&Aのプランニング
  6. PMIの法務支援

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

法務デューデリジェンス(DD)

デューデリジェンス(DD)とは、売却企業における内部資料のチェック・役員およびキーパーソンとの面談・現場の視察などを通じて、M&Aに関するリスクや問題点を把握し、対応策を検討する手続きのことです。別名、買収監査とも呼ばれています。

このうち、法的リスクに重きが置かれている手続きは、法務デューデリジェンス(DD)と呼ばれます。法務デューデリジェンス(DD)の検討対象は以下のようにさまざまあり、それぞれで専門的に高度な判断が求められるため、弁護士への依頼は必要不可欠です。

調査対象例主なチェック項目
契約に関する事項
  • M&Aの実施後も効力が維持されるのか
  • 不利な条項はないか
  • 違法な内容は含まれていないか
  • COC条項(契約の一方当事者の支配権を有する者に変更が生じた場合、他方当事者が契約を解除する権利を取得したり、事前に他方当事者に対して支配権の変更を通知したりする義務を課す条項)の有無
資産・負債に関する事項
  • 担保が付いている場合やリースや賃貸の場合、M&A実施後も継続して使用できるのか
  • 不動産の場合、不動産登記簿謄本から所有権の帰属と担保の状況
  • 動産の場合、占有状態や固定資産台帳の記載
  • 特許など知的財産権の場合、特許(登録)証や特許登録原簿
  • 負債は、借入金の額や買掛金や未払い金の状況など
法令順守(許認可)に関する事項
  • 業務に関する各種法律や会社法・税法・労働関係法などを順守しているか、許認可等を適切に取得しているか
紛争・訴訟に関する事項
  • 紛争を抱えていたり、すでに訴訟係属中であったり、過去に裁判になっていたりする場合、その内容
株主の状況に関する事項
  • 対象会社の株主構成や株主の状況(真の株主は誰なのか)
労務に関する事項
  • 従業員の長時間労働や未払い残業代
環境問題に関する事項
  • 対象企業の不動産の汚染状況

M&A契約書のチェック・作成サポート

多くの場合、M&Aでは、交渉を始めるタイミングで「秘密保持契約」、初期交渉がまとまったタイミングで「基本合意書」、最終条件の合意を取り付けたタイミングで「最終契約書」をそれぞれ締結します。

上記の契約書を締結する際は、自社にとって不利な内容や将来的にトラブルを起こしかねない内容を条項に盛り込まないように注意しなければなりません。また、会社法により、M&Aの手法ごとに最終契約書に記載すべき事項が定められており、これを把握したうえで適正に盛り込む必要があります。

契約書を正確にチェックするには専門的な知識と経験が求められるため、弁護士への依頼が必要不可欠です。中には、弁護士に契約書の起草・作成を依頼する場合もあります。

秘密保持契約書

秘密保持契約書とは、相手先企業に開示する自社の秘密情報について、契約締結時に予定している用途以外の使用や他人への開示などを禁止したい場合に締結する契約書のことです。英語では「Non-Disclosure Agreement」と表記され、頭文字を取り「NDA」と呼ばれることもあります。

NDAにはテンプレートが存在するものの、細部は実情に即して盛り込む必要があります。弁護士には、プロジェクト全体の流れを踏まえたうえで各条項をチェックしてもらうと良いです。

基本合意契約書

基本合意契約書とは、最終契約前に、基本的な事項について売却側と買収側が合意できたことを確認する書面です。M&Aの基本条件(手法や譲渡価格、役員・従業員の引継ぎなど)に関する条項と、以降のプロセスの進め方を定めた条項が盛り込まれます。

このうち、前者は暫定的な共通認識を定めるに留まることから、法的拘束力を持たせないのが一般的ですが、後者ではデューデリジェンス(DD)における売却側の協力義務や買収側への独占交渉権の付与などを定めるため、法的拘束力を持たせるケースがほとんどです。

これらの条項を盛り込む際は、法的リスクを慎重に検討したうえで、M&A当時者の利害を調整する必要があることから、弁護士の関与が重要視されます。

デューデリジェンス(DD)への協力義務

多くの場合、基本合意書締結後にデューデリジェンス(DD)が実施されるため、デューデリジェンス(DD)への協力義務も基本合意書に盛り込まれます。

買収側からすると、「M&Aを進めるかどうか」や譲渡価額の算定などを判断する際、デューデリジェンス(DD)の結果は非常に役立ちます。そのため、売却側のデューデリジェンス(DD)に応じる義務について、法的拘束力を持たせておくことが望ましいです。

なお、買収側側では協力義務を広範囲に定めて具体的な拘束力を持った規定にしたい一方で、売却側では協力義務を限定的なものに留めておく方が有利です。ここには、法的な利害の対立があるため、交渉を行い調整しなければなりません。

独占交渉権

買収側からすると、多くの時間や費用をかけてM&Aの検討プロセスを進めていたにも関わらず、突如として売り手側が他者とM&Aを進めてしまえば、多大な損害を被りかねません。

そこで、買収側側は売却側に対して、他社との間でM&Aに関する交渉を行わないよう求める条項を入れることを望みます。その一方で、売却側からすると、より良い条件を示す他社がいた場合、そちらとの交渉を進めたいとの思惑が生まれます。

こうした事情から、売却側では、独占交渉権を認める場合であっても、その期間を短くするよう要求します。具体的に、この期間は2カ月〜半年程度に設定されるのが一般的です。

独占交渉権を定めると法的拘束力を持たせることが通常であるため、これに違反した場合には損害賠償請求や差止請求が問題とされます。

適時開示

状況企業では投資家などの判断に影響を与えるような重要事実が取締役会で決定されたタイミングで適時開示を行う必要があります。そのため、一般的には、基本合意契約書の締結に関する取締役会決議を行ったタイミングで、その内容を公表します。

なお、以下の場合、適時開示は不要です。

  • 基本合意が単なる準備行為であり、M&Aに関する重要事実の決定に至っていないと考えられる場合
  • M&A成立の見込みが立っていない場合

上記の事情を踏まえて、基本合意契約書を締結する際、あえてM&Aの具体的な条件に関する合意を避けて、M&A交渉に関する一般的な規定のみを盛り込むケースも見られます。こうした対応を取りたい場合、証券取引所の上場規程やガイドラインに精通した弁護士に相談したうえでアドバイスを受けることが望ましいです。

最終契約書

最終契約書とは、正式なM&Aの契約書のことです。株式譲渡であれば株式譲渡契約書、合併であれば合併契約書のように、手法ごとに名称が異なります。

最終契約書には手法ごとに一般的な条文構成のテンプレートが存在するものの、具体的な内容は個々のケースにより異なります。そのため、各条項の内容とリスクを弁護士に隅々までチェックしてもらわなければなりません。

具体例を挙げると、表明保証・取引保護・合意管轄などは、とりわけ法的な利害調整が求められる条項です。

表明保証条項

表明保証条項とは、売却側が買収側に対して、M&Aの取引対象となる企業の事業や株式などに関して表明および保証する条項のことです。最終契約書において表明保証条項を定めておくと、取引対象となる企業に問題が生じた場合に各当事者がいかなる範囲まで責任やリスクを負担するかを明確化できます。表明保証した内容が事実ではなかった場合、買収側が被った経済的な損失を売却側が損害賠償する形で対応します。

弁護士にデューデリジェンス(DD)を依頼したとしても、時間や情報源の制約があることから、売却側企業の抱えるリスクをすべて洗い出すことは不可能です。そこで、想定外のリスクによる損害を回避する目的で、M&Aの支障になると考えられるポイントを列挙し、それに関して重大なリスクが存在しないことを売却側に表明・保証してもらうのです。ただし、デューデリジェンス(DD)で判明したリスクは除外します。

一般的には、クロージングのタイミングで表明保証への違反がないことが、クロージングの前提条件として設定されます。

取引保護条項

取引保護条項とは、買収側の立場として、売却側が他の買収候補者との取引を選択することを防ぐための条項のことです。条項の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • ブレークアップ・フィー条項・・取引から離脱する際、売却側が買収側に対して一定の金銭を支払う義務を課す条項
  • ノートーク条項・・交渉や情報提供をすべて禁じる条項
  • ノーショップ条項・・自発的に他の買収候補者を探す行為を禁じる条項
  • ゴーショップ条項・・取引相手の確定前に、自発的に買収候補者を探して交渉を行う期間を設ける条項
  • ウインドウショップ条項・・取引相手の確定前に、買収候補者による提案があった場合は交渉を行う期間を設ける条項

取引保護の必要性を考慮しながら、弁護士と十分に協議したうえで、取引保護条項を設定することが望ましいです。

合意管轄条項

合意管轄条項とは、M&Aの当事者間で発生したトラブルにより裁判に発展した場合、どこの裁判所で争うかを定めた条項のことです。実際に記載する際は、「本契約で起こった一切の争訟は、〜〜裁判所を専属管轄裁判所とする。」といった文言を盛り込むのが一般的です。どの地域の裁判所で争うのかは、当事者が納得したうえで定めましょう。

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法的な手続きに関するサポート

M&Aを進めていく際は、契約書の締結後も、さまざまな手続きを済ませる必要があります。ここでは、弁護士以外の専門家によるサポートも求められますが、複数種類の法律が関係し条文内容が複雑であることから、弁護士への依頼も検討することが望ましいです。

会社法・労働契約承継法に関するサポート

M&Aの中でも、事業譲渡・会社分割・合併・事業譲渡・株式交換・株式移転の手法を採用する場合、会社法の定めに沿って、株主と債権者の権利を保護する手続きが必要です。具体位的には、事前開示書面の作成および開示・株主総会の開催・反対株主の株式買取請求への対応・債権者異議申立てに関する対応などが求められます。

上記に加えて、会社分割を採用する場合、労働契約承継法の定めに沿って、分割される事業に関する従業員との協議などが必要です。これらの手続きの内容・期間・期限などは法令で細かく規定されているため、弁護士は手続きの適正さをチェックしたり、適切なスケジュールを設定したりするなどしてサポートを行います。

金融商品取引法・独占禁止法・各種業法に関するサポート

M&Aにおいて、会社分割・合併・株式交換・株式移転の手法を採用する場合、金融商品取引法の定めに沿って、財務局への有価証券届出書の提出が求められることがあります。

もしもM&Aの当事者が属する企業グループの国内売上高が一定の水準を超えていれば、事前に公正取引委員会に届出を行い、独占禁止法の定めに沿った審査を受ける必要性が生じ、クロージングまでのスケジュールに遅延が発生してしまいかねません

また、M&Aに関する許認可の取り扱いは各業法で異なっています。業種によっては、M&Aで許認可を承継できず、買収側企業による許認可の取得が求められます。さらに、売却側企業が事業に必要な許認可を取得していなかったり更新していなかったりする場合、クロージングまでに申請しておかなければなりません。

こうした事情を踏まえて、M&Aに際して弁護士に依頼しておけば、許認可申請の要不要の検討・当局との交渉・提出書類のチェックおよび作成・申請代行などを行ってもらえます。

M&A交渉の代理

弁護士に代理人としての役割を依頼すれば、相手先企業や債権者などと直接交渉を行ってもらえます。

相手先との条件交渉

もともとM&Aの条件交渉では、FA・公認会計士・税理士などもアドバイスやサポートを手掛けているものの、これらの専門家に対する交渉力を担保する目的で依頼された弁護士は、相手側と直接交渉する役割を担う場合が多いです。

なお、一般的に、M&Aでは初期の段階に経営トップ同士の面談が実施されますが、ここでは弁護士が仲介しアレンジなどを行うことでプロセスをスムーズに進められます。

債権者との交渉

弁護士は、M&Aの実施に際して影響が及ぶ債権者などの利害関係者との交渉も担う場合があります。金融機関などの債権者との交渉はとくに弁護士が活躍する場面です。

具体例を挙げると、売却側に中小企業が立つM&Aでは、引退を望むオーナー経営者の個人保証の取り扱いがしばしば問題となり、売却側企業ではM&Aの実施に際して譲れない条件として個人保証の解消を要求するケースが多いです。

上記のケースでは、保証解除のための協議・手続きは買収側の責任で行われるものの、弁護士は金融機関との交渉などを担う専門家として役立ちます。なお、M&Aにより事業再生を図る際も、金融機関との交渉を成功させるうえで弁護士の存在は大きいです。

取引先との交渉

売却側企業の抱える取引先との契約にCOC条項が盛り込まれていると、経営統合がスムーズに進まなくなるおそれがあるため、取引先から事前に取引継続の同意を得ることが望ましいです。

また、特に中小企業では契約関係を明確化させないまま取引関係を構築しているケースが多く、M&Aを契機にして取引のキャンセルや見直しが行われる場合があります。

上記のようなケースにおいて弁護士に依頼すると、取引の継続に向けた交渉を通じて、将来を見据えた契約関係の整備を行ってもらえます。

事業再生スキームの構築

債務超過企業を再生する目的でM&Aを行う場合、大まかに「資金力のある企業の傘下に入って再生を図る方法」および、「優良事業のみを会社分割・事業譲渡で切り出してスポンサー企業に売却し、残った事業を債務整理し解散させる方法」の2つがあります。

これらの方法を用いる場合、M&Aの手法や事業再生の見とおし・債務の弁済方法・債権放棄などの金融支援を巡り、売却企業・スポンサー・金融機関(債権者)などとの間で複雑な利害調整が求められます。

そこで、弁護士に依頼すれば、スポンサー・金融機関と利害調整に向けた交渉を行い、債務整理の手続きをサポートしてもらえます。また、事業再生スキームの構築など、全般的なアドバイザリーを提供する弁護士も見られます。

取引中止時の支援

M&Aでは、さまざまな要因によって取引の中止(ディールブレイク)が起こる場合があります。具体的には、基本合意契約書や最終契約書の締結段階になって、重大なリスクが明らかになったり見解の対立が生じたりした場合、取引の中止が検討される可能性が高いです。

このときは、M&A契約書の解釈に関してトラブルが生じたり、相手先企業より契約違反として損害賠償を請求されたりするおそれがあります。また、M&A成立後に表明保証に反する事実が判明すれば、補償を請求されかねません。

上記のような場合、弁護士は法的知識を駆使して紛争を処理し、穏便な形での解決を図ります。とりわけM&A契約や法務デューデリジェンス(DD)を担った弁護士にサポートを依頼することで、さらにスムーズな解決を目指せます。

M&Aのプランニング

弁護士によっては、M&Aのスキーム構築や買収防衛策の導入に関するアドバイスなど、M&Aに関する戦略的なプランニングを手掛けている専門家も存在します。ここからは、それぞれの概要についてまとめました。

M&Aスキームの構築

M&Aスキームの構築を弁護士に依頼すると、売却側企業の抱える法的リスクを評価したうえで、リスクを最小限に抑えつつM&Aのメリットを最大化できるような提案を行ってもらえます。これは、買い手側企業だけでなく、少しでも有利な条件で譲渡を行いたい売却側企業にとっても大きなメリットです。

具体例を挙げると、売却側企業における債務の一部を承継対象から外す目的で、事業譲渡や会社分割のスキームを検討する場合があります。事業譲渡・会社分割では基本的には承継する権利義務を選別できるため、承継対象から外した債務は買収側企業で履行する必要はありません。

とはいえ、買収側が売却側の商号を引き継ぐ場合や、売却側企業に残される債務の債権者が損するおそれのあることを知りながら事業譲渡・会社分割を行った場合などには、買収側に履行義務が生じる可能性があるのです。

そのほか、事業譲渡では、権利義務を個別に承継する手続きが求められるため、コストが大きくなりやすく、考慮すべき点です。こうした点を総合的に勘案し、具体的なスキームに落とし込むにはM&Aスキームに関する専門的な判断が必要です。

買収防衛策の導入アドバイス

もともと会社買収は、友好的買収と敵対的買収に分けられます。友好的買収とは、両社の協議の結果としてお互いが同意した状態で行う会社買収であり、一般的に行われているM&Aの形態です。

その一方で、敵対的買収とは、売却側の同意を得ずに会社買収を行うことです。主な買収方法としては、TOB(株式公開買い付け)などが挙げられます。敵対的買収に対し、売却側では買収防衛策を取ることが可能です。

買収防衛策とは、相手企業が買収を行わないように対策を行うことですが、その方法には多くの種類があります。主な防衛策の種類と、それぞれの特徴を下表にまとめました。

防衛策の名称概要
ライツプラン、ポイズンピル「事前に定めておいた条件を満たした場合、時価よりも安い価格で新株を購入できる」権利を、既存の株主に付与しておく手法。
黄金株株主総会で重要議案(例:会社合併)を否決できる特別な株式のこと。黄金株を保有する株主は、決議に対して拒否権を行使できる。
ゴールデンパラシュート、ティンパラシュートゴールデンパラシュートは、事前に取締役と退職金契約を高額にしておく手法。ティンパラシュートは、企業買収に伴い解雇される従業員に対し、割高な退職金を支払ったり、就職のあっせん・健康保険契約などを保証したりする旨の契約を事前に締結しておく手法。
プット・オプション特定の株式を特定の期日までに、その時点の市場価格に関係なく、事前に決められた特定の価格で売却できる権利のこと。
非公開化マネジメント・バイアウト(MBO)やレバレッジド・バイアウト(LBO)などによる株式の非公開化。

買収防衛策は買収側企業を排除する効果のみを検討するのではなく、株主の権利や市場に対する透明性なども考慮したうえで慎重に導入しなければなりません。また、防衛策を平時から十分に開示しておくなど、公平性・透明性を確保するための手続きも必要です。

しかし、経営陣だけでは専門性に欠ける場合があることから、専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。買収防衛策は関係する法律や判例、各種ガイドラインなどに精通した弁護士などのアドバイスのもとで導入することが望ましいです。

PMIの法務支援

弁護士によるデューデリジェンス(DD)で把握された法的リスクの中には、M&A成立後のPMIで解消が求められる内容が含まれる場合があります。また、就業規則や各種規程などの労働条件の整備をはじめ、法的な問題に関する施策を講じなければならないケースもあります。

こうした課題に関しては、企業法務に詳しい弁護士からサポートを受けることが望ましいです。特に法務デューデリジェンス(DD)を担当した弁護士にM&A成立後も継続してサポートを依頼すれば、よりスムーズに対応してもらえます。

M&A実務を弁護士に依頼する際のタイプと報酬・費用相場

前提として、M&Aを弁護士に依頼した際にかかる費用は、相談先ごとに異なります。例えば、「初回の相談のみは無料」や「成約時には報酬が発生」など、弁護士によって採用している料金体系は大きく異なるのです。

まずは、発生する費用名目の代表例を以下で確認しておきましょう。具体的な費用は、弁護士事務所および弁護士に事前に確認しておくことが望ましいです。

費用名目概要
相談料最初に依頼内容を相談した際にかかる費用です。

まずは、初回相談を利用し、弁護士への依頼の可否を判断します。

価格帯は、無料から数万円程度です。

着手金相手先企業をリサーチしてもらったり、法的支援を行ってもらったりする際、事前にかかる費用です。

価格帯は、無料から数百万円程度です。

成功報酬M&A成約時に発生する費用で、譲渡金額によって異なります。

弁護士とクライアントの協議により決められるケースや、M&A仲介会社の報酬体系で広く採用されている「レーマン方式」を用いるケースなどがあります。

料金体系は事務所や弁護士によって大きく異なっており、時間あたりの費用が請求される場合もあります。

ここからは、以下3つのタイプに分けて、M&A実務を弁護士に依頼する際の費用を取り上げます。

  1. スポット依頼
  2. 顧問契約
  3. アドバイザリー契約

それぞれの概要を順番に紹介します。

スポット依頼の報酬・費用相場

まずは、1度で完結するスポット依頼時の相場です。作業にかかる時間数に応じて料金が請求されるケースと、内容や規模に応じて1件ごとに固定料金が設定されているケースに分かれます。相談先ごとに料金体系が大きく異なる点が特徴です。

費用名目時間制固定制
契約書作成料数万円~10万円程度/1時間50万円〜数百万円程度
デューデリジェンス(DD)費用M&Aの規模や調査対象の範囲・深さごとに異なる

  • 小規模案件は50万円~数百万円程度
  • 中規模案件は数千万円程度
  • 大規模案件は1億円程度~

顧問契約の報酬・費用相場

月額報酬の費用です。毎月支払うのが一般的で、業務内容によってはその都度支払う場合もあります。価格帯は、月額で最低数万円〜数十万円程度が目安です。

アドバイザリー契約の報酬・費用相場

アドバイザリー契約の報酬体系は、依頼する弁護士・弁護士事務所などによって大きく変動します。ほとんどのケースで発生する成功報酬を除くと、各事務所によって報酬体系は異なっているため、事前にアドバイザリー契約における報酬体系をチェックしておきましょう。

アドバイザリー契約で発生する報酬の代表例は、着手金・企業価値の算定費用・中間報酬・月額報酬・成功報酬などです。なお、相談・ヒアリングについては、無料で行われるケースが珍しくありません。

一般的に、成功報酬の計算には、レーマン方式が採用されています。レーマン方式とは、移動した資産の価格に対し、一定の割合を乗じて算出する方式のことです。 M&A仲介会社の成功報酬をする際に一般的に用いられており、リーマン方式と呼ばれる場合もあります。

具体的にいうと、下表のようにM&A取引金額を5つの部分に分けて、これに応じて報酬料率が逓減する仕組みです。

例えば、10億円のM&A取引を行った際は、「5億円×5%+(10億円-5億円)×4%=4,500万円」と算出されます。ここで、算出の基準となる取引金額には、「移動総資産(株式価格+負債総額)」や「企業価値(株式価格+有利子負債)」を設定するケースもあれば、「株式譲渡対価」を設定ケースもあるため、契約内容には注意しておきましょう。

レーマン方式の算出表の一例を以下にまとめました。

取引金額の区分手数料率
5億円以下の部分5%
5億円超10億円以下の部分4%
10億円超50億円以下の部分3%
50億円超100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

なお、上表のような成果配分方式は、ドイツの経営学における権威「レーマン博士」の学説を応用したものです。

M&A実務が得意な弁護士事務所の特徴

もともとM&Aの法的なサポートは弁護士からすると一般的な業務とはいえず、通常の業務よりも対応力が強く求められます。M&A実務が得意な弁護士を見つけるには、幅広い法的問題への対応力・M&Aに関する実績・交渉力・他の専門家とのネットワーク・コミュニケーション力などの観点で弁護士事務所を比較することが望ましいです。

ここでは、M&A実務が得意な弁護士事務所の主な特徴として、以下の6つを取り上げます。

  1. 幅広い法的トラブルに対応する
  2. M&A実績を豊富に持つ
  3. 交渉力が高い
  4. 他の専門家とのネットワークが豊富
  5. M&A以外の分野にも幅広く精通している
  6. 人柄が良い

それぞれの概要を順番に紹介します。

幅広い法的トラブルに対応する

前提として、M&Aでは、会社法・金融商品取引法・独占禁止法・知的財産権法・労働法・各種業法および規制など、非常に広範囲の法令が問題となります。そのため、状況に応じて法的知識を組み合わせながら、総合的な解決を図る必要があるのです。

以上のことから、M&Aに関して有効な支援を提供するには、幅広い法的問題について横断的に対応できる力が弁護士事務所に求められます。

M&A実績を豊富に持つ

どれほど法務関連の知識を持っている弁護士だとしても、M&Aの実績や経験がなければ、想定外のトラブルに対処できないおそれがあります。そのため、弁護士にM&Aのサポートを依頼する場合は、M&Aの実績の有無を事前に確認しておくことが望ましいです。

なお、M&Aのサポートを依頼する際は、個々の弁護士の経歴だけでなく、弁護士事務所のチームとしての実績も重要なポイントだといえます。

交渉力が高い

M&A交渉時に代理人としての役割を担う弁護士には、さまざまな局面でさまざまな相手(M&A当事会社の担当者・経営陣・金融機関・取引先・顧客・株主・監督官庁・従業員など)と接触し、積極的に交渉を展開するための高度な能力が必要です。

他の専門家とのネットワークが豊富

たとえ実績豊富で高度な知識を有していても、弁護士1人のみではM&Aを進めていくことは不可能です。

M&Aを成約させるまでには、税務・許認可・会計・環境などに関して精通している各専門家の協力が必要不可欠です。そのため、他の専門家とのネットワークを豊富に有している弁護士事務所であれば、M&Aをスムーズに進められる可能性が高まります。

M&A以外の分野にも幅広く精通している

M&Aを依頼する弁護士には、M&Aの分野以外に、企業法務の実績の豊富さも求められます。M&A実績はもちろんのこと、日頃の企業法務でさまざまな紛争やトラブルを解決している弁護士であれば、M&Aを進めるうえで法務トラブルが発生しても、スムーズな解消や交渉を期待できます。

人柄が良い

M&Aを進めていくうえで、企業の担当者と弁護士は何度も打合せを行う必要があり、協力しながら相手先企業と交渉を進めていかなければなりません。

もしもM&A実務を依頼した弁護士が、ビジネスマナーに欠けていたり、相性が悪かったりすると、M&A交渉のスムーズな進行が困難となり、関係を悪化させてしまうおそれがあります。

そのため、満足いくM&Aを行うには、自社の希望条件や経営者の意図を汲み取ってくれるなど、弁護士の人柄や、高度なコミュニケーション力も重要視されます。

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M&A実務を依頼する弁護士事務所の選び方

M&A実務を担う弁護士事務所は、大まかに以下の4種類に分けられて、対象とする企業規模や費用などに差が見られます。M&A実務を依頼する前に、それぞれの特徴を把握しておくと、弁護士事務所選びに役立ちます。

  1. 大手弁護士事務所
  2. 外資系弁護士事務所
  3. 中堅弁護士事務所
  4. 小規模な弁護士事務所

それぞれの概要を順番に紹介します。

大手弁護士事務所

大手弁護士事務所では、主に企業を顧客としており、総合的なリーガルサービスを提供している点に大きな特徴が見られます。大型案件を主な対象としており、数億円から数百億円規模の案件も取り扱っているため、弁護士報酬も高額になる傾向があり、数千万円から数億円程度が1つの目安です。

大手弁護士事務所の中でも特に知名度の高い四大法律事務所は、以下のとおりです。

  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所
  • 長島・大野・常松法律事務所
  • 西村あさひ法律事務所
  • 森・濱田松本法律事務所

外資系弁護士事務所

外資系法律事務所では、海外M&A(クロスボーダーM&A)を含めたM&Aのサポートを手掛けています。傾向として、日本と海外の大型案件M&Aに必要な専門知識や実績を豊富に備えているため、安心して依頼できる点にメリットがあります。

また、海外案件の規模は大きい傾向にあり、費用や弁護士報酬などが高額になるケースが多いことから、主に大企業をサポート対象としています。

中堅弁護士事務所

中堅法律事務所では、小規模・中規模の企業案件を請け負っている機関が大半であり、比較的相談しやすい点にメリットがあります。

とはいえ、M&Aの取り扱いを行っていない機関や、実績の少ない機関もあるため、M&Aのサポートを依頼する場合は、どれほどの実績を持っているのか事前に確認しておくことが望ましいです。

M&Aサポートを手掛けている代表的な中堅弁護士事務所は、以下のとおりです。

事務所名(一部、イニシャル表記)主な業務・サポート内容
弁護士法人M&A総合法律事務所M&A、相続・事業承継業務、渉外法務、中国法務、アジア新興国法務、企業法務、知的財産業務、倒産・法人破産・民事再生業務、債権回収・未収金回収・売掛金回収業務、訴訟・紛争解決業務、法律顧問など
PS法律事務所相続・遺産分割協議、債務整理・破産、刑事事件、交通事故、残業代請求、ネット誹謗中傷削除など
弁護士法人KG一般企業法務(各種契約書の作成およびレビュー、クレーム対応、債権回収、株主総会対応、取締役会手続、コンプライアンス・危機管理・不祥事対応、知的財産・著作権トラブル、人事労務、独占禁止法、下請法、景品表示法)、ベンチャー企業支援(会社の設立

設立手続・資本政策、資金調達、ファイナンス、ストックオプションの発行、株式分割、減資等の各種手続、新規ビジネスの法的規制に関する調査)など

TS法律事務所契約法務、新規事業法務、アプリ・ウェブサービス、SaaS・サブスク法務、人事労務問題、企業間紛争など
UV法律事務所一般企業法務(ワンストップサービス、顧問業務、労務管理、対外契約交渉)、裁判・審判(訴訟対応、損害賠償、発信者情報開示請求)、労使紛争(退職・残業代請求対応、団体交渉対応、労働事件訴訟対応)、著作権侵害(盗作および転売対応、漫画・アニメ映像作品)国際法務(渉外案件)など
弁護士法人SY企業法務(顧問契約、債権回収、労働問題、明渡訴訟、削除請求)など
O法律事務所企業法務(顧問契約、知的財産、労働トラブル、債権回収、契約書関連、風評被害)など
G法律事務所企業法務全般(契約書の作成・チェック、組織体制の整備)、知的財産権(活用方法、侵害に対する防御・解決方法)、労働紛争(すでに発生しているものへの対応、労働紛争へ発展させないためのアドバイス)、債権回収(売掛金の回収)、誹謗中傷への対応など
弁護士法人S顧問契約、企業法務、労働問題、破産・再生、刑事事件など
弁護士法人KS企業顧問、債権回収、不動産・建築、法人破産、労働問題への対応、インターネット問題など
弁護士法人A企業法務全般(紛争の未然防止、契約書のレビュー(チェック)、契約書の作成、契約交渉、案件の法的リスク確認、企業内規則の整備)など
IG法律事務所企業法務全般(ジェネラル・コーポレート、M&A、金融関連分野、紛争解決・危機管理、経済法・競争法分野、知的財産法・IT法分野、倒産法・企業再生分野、労働法分野、環境法分野・大型環境訴訟、不動産関連分野、税務分野、非営利法人・公法人・公益活動、渉外関連分野)など
NS法律事務所企業法務、訴訟・紛争解決、M&A・事業再編、コンプライアンス・危機管理・不祥事対応、名誉毀損・

プライバシー・個人情報等、労働法務、知的財産・

エンターテインメント・IT、金融法務、独占禁止法・競争法、消費者法、事業再生・倒産、行政法務、税務、刑事弁護、国際法務など

F法律事務所企業法務全般(契約法務、紛争予防、コンプライアンス ベンチャー企業・経営法務、労働法務、債権管理、株主総会指導、事業承継、事業組織構築・再編、金融法(株式・社債・私募債)、ファンド法(LLP・LLC・投資事業組合・SPC etc.) その他企業法務全般に関する助言の提供など)、不動産関連案件、知的財産権、労働関連案件、債務整理・破産、消費者問題など
M法律事務所契約法務、M&A・事業継承、人事・労務、知的財産・特許、倒産・事業再生、渉外法務など
B法律事務所企業法務一般(契約・取引法務、経営法務、トラブル対応)、専門分野(医療関係法務、芸能・エンターテイメント)、顧問契約など

上表のとおり、一般的な中堅法律事務所では、幅広い業務を手掛けている点が特徴的です。

これに対して、弁護士法人M&A総合法律事務所では、M&A関連のサービスに特化している点に大きな特徴が見られます。代表弁護士は、弁護士でありながら米国ビジネススクールに留学し、経営理論・財務理論・交渉理論を専攻し、弁護士業務に応用しながら、自身で300件以上のM&A案件および大型裁判を手掛けてきた経歴を持っています。そのため、一般的な中堅弁護士事務所とは違い、M&A・相続事業承継・相続紛争・事業承継紛争・企業間紛争などに特化したサポートを提供可能です。

もしも「M&Aに特化していて、多くの実績を持つ弁護士にサポートを依頼したい」という場合には、弁護士法人M&A総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

小規模な弁護士事務所

M&Aをサポートする法律事務所の中には、小規模の事務所も見られます。事務所の規模が小さくても、大手法律事務所で多くのM&A案件を取扱ってきた弁護士が独立し、事務所を立ち上げているケースも少なくありません。

そのため、大手企業での勤務経験を持つ弁護士に、比較的安価で依頼できる点はメリットです。とはいえ、独立後も継続してM&A案件を取扱っていない場合、知識が更新されていないおそれがあることから、依頼前に確認しておくことが望ましいです。

M&A実務を弁護士に依頼する流れ

最後に、M&A実務を弁護士に依頼する流れを以下の3項目に分けて取り上げます。

  1. 弁護士に接触する
  2. 初回相談を利用する
  3. 委任契約書を結ぶ

それぞれの概要を順番に紹介します。

弁護士に接触する

M&Aのサポートを依頼したい弁護士を選んだ後は、まず弁護士との接触を図ります。多くの場合、弁護士事務所のWebサイトから問合せ方法を把握できるため、それに沿って連絡するとスムーズです。

初回の連絡時は、自社の状況について詳細な内容を伝える必要はないため、大まかな概要を伝えたうえで初回相談の予約を取り付けましょう。

初回相談を利用する

初回相談では、M&Aの実施可否の判断や、今後の具体的な計画・方針などに関するアドバイスを提供してもらえます。もしも料金体系などの質問事項があれば、このタイミングで尋ねておくことが望ましいです。

委任契約書を結ぶ

M&Aサポートに関して依頼を行うことが決まったら、弁護士(弁護士事務所)との間で委任契約書を締結します。委任契約書を結んだ後は、その弁護士が自社のM&Aに関する担当アドバイザーとなるため、より深く具体的な話を進めていけるようになります。

なお、弁護士には守秘義務があるため、秘密保持契約書を締結しなくとも情報漏洩の心配はありませんが、念のため書面で残しておくことで安心感が強まるためおすすめします。

まとめ

この記事では、M&Aで弁護士の担う役割のほか、具体的な業務内容や報酬・費用相場を中心に紹介しました。

M&Aを行う際は、初期段階から経営統合プロセスに至るまで、さまざまな局面で専門的に高度な判断が求められます。

とりわけ、M&Aの契約書作成と法務デューデリジェンス(DD)において、弁護士によるサポートは必要不可欠です。そのほか、法的な手続きに関するサポート・M&A交渉の代理・M&Aのプランニング・PMIの法務支援など、弁護士の専門的な手腕が生きる場面は数多いです。

弁護士にM&Aのサポートを依頼する企業側では、予算や時間の制約を考慮しつつ、依頼する業務の範囲・深さを慎重に検討したうえで、自社のニーズに沿った強みを持つ弁護士事務所を選ぶことが望ましいです。

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