M&Aの契約書:最終契約書(株式譲渡契約書・事業譲渡契約書など)について
弁護士法人M&A総合法律事務所では、M&Aにおいて取り扱う主な契約書である秘密保持の契約書・基本合意書・最終契約書・附随契約書などのM&Aの契約書について、10年来、300件以上の豊富な経験を有していますので、契約書の契約者様の権利を守り、リスクを排除するため、適切なM&Aの契約書の作成及びアドバイスを提供させて頂いております。
その中でも、このページでは、M&Aの契約書のうち最も重要な契約書である最終契約書(株式譲渡契約書・事業譲渡契約書等)について説明いたします。
M&A最終契約書(株式譲渡契約書・事業譲渡契約書など)について
最終契約書とは、M&Aの最終的な契約書のことであり、最終的に、当事者が合意した条件を盛り込む契約書です。株式譲渡方式であれば株式譲渡契約書、事業譲渡方式であれば事業譲渡契約書を、最終的に締結することになります。
最終契約書とは、英語では、Definitive Agreement(DA)と言われますので、通常、日本でも、DAと呼ばれたりします。
事業承継M&Aの実行後、契約書の内容次第では、M&Aトラブルが生ずる可能性もあり、また、事業承継M&A実施後に、何かM&Aトラブルが生じた場合には、この最終契約書の記載内容に従って判断されることになるため、最終契約書の内容については、細部にわたるまで十分に検討する必要がある。
M&A最終契約書(株式譲渡契約書・事業譲渡契約書など)の構成
最終契約書には、一般的に、以下のような項目が含まれる。
最終契約書で最も重要な条項は、M&A価格(株式譲渡価格・事業譲渡価格など)であるが、それ以外にも、特に重要な条項として、①表明保証条項、②遵守条項、③前提条件、④補償条項などが存在する。
なお、英語では、①表明保証条項はRepresentations and Warranties(レプワラ)、②遵守条項はCovenants(コベナンツ)、③前提条件はCondition Precedent(コンディション)、④補償条項はIndemnity(インデムニティ)と言われる。
表明保証条項
①表明保証条項は、売主又は買主候補企業が相手方に対して、一定の事項が真実であり正確であることを表明し、表明したことを保証する条項を意味します。表明保証条項は、この契約書(最終契約書)において、特に、重要であるのみならず、M&Aに関するトラブルのほとんどはこの契約書(最終契約書)のこの条項を巡って訴訟紛争となっていますので、特に留意が必要です。
この契約書(最終契約書)に表明保証条項が規定される理由は、すなわち、M&Aに際しては、買主候補企業はしっかりデューデリジェンス(DD)を行いますが、その調査・把握には限界があり、必ずしも全てのリスクが明らかになるわけではありません。また、特に、中小企業のM&Aではそのようなリスク情報は積極的に開示されませんので、買主候補企業としては、売主にこの契約書(最終契約書)においてしっかり表明保証条項を入れさせ、想定しないリスクが存在しないことを確認する必要があります。
また、この契約書(最終契約書)の表明保証条項には、デューデリジェンス(DD)機能と言って、表明保証条項を見た売主が、表明保証条項に違反すると後日損害賠償請求をされることを恐れて、リスクが潜在している場合には自主的に申告してくれるという付随的機能がありますので、買主候補企業としては、この契約書(最終契約書)に表明保証条項を多く入れない手はありません。
他方、この契約書(最終契約書)の表明保証条項は、売主のオーナー経営者様からすると、非常に悩ましい問題となります。
そうですので、この契約書(最終契約書)において、表明保証条項の項目は、数十項目になることが通常であり、また、対象会社の問題点やリスクを熟知している売主としては細かい文言に拘ってくることとなりますので、条項の記載文言について非常に慎重に対応する必要があり、専門家のサポートが必須です。
遵守条項
②遵守条項は、売主又は買主候補企業がM&Aに際して相手方に対して約束し遵守する事項です。
この契約書(最終契約書)における遵守条項として一般的なものとしては、この契約書(最終契約書)の締結日からクロージング日(株式譲渡実行日・事業譲渡実行日など)までの期間中における、重要な経営判断や重要な資産の処分を禁止する規定や、クロージング後(株式譲渡実行日・事業譲渡実行日など)には競業行為を行わない旨を定める競業避止条項、クロージング後適切に業務の引き継ぎをして頂く義務などがあります。
前提条件
③前提条件はこの条件を満たさない限りM&Aのクロージング(株式譲渡実行・事業譲渡実行など)を行わないという意味での前提条件です。
この契約書(最終契約書)においては、前提条件として、一般的なものとしては、表明保証条項や遵守条項に違反が無いことや、案件によっては、M&Aの前提として官公庁からの許認可が必要な場合は、独占禁止法の届出が必要な場合に、これらを前提条件としてM&Aを実施するということで、この契約書(最終契約書)に前提条件が規定されます。
この契約書(最終契約書)においてよくある規定としては、例えば、以下のような規定です。
【独占禁止法の届出】
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【業法上の届出】
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【後発事象の不存在】
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ただ、前提条件が多数規定されているM&Aの契約書(最終契約書)に遭遇することも多いですが、本来、前提条件のところに重複して書かなくとも、M&Aの契約書(最終契約書)においては表明保証又は遵守条項に規定されていれば足りるケースが多いのですが、M&Aの契約書(最終契約書)でわざわざ前提条項に規定するのは、そこを強調したい場合ということができます。
他方、M&Aの契約書(最終契約書)においては、必要な許認可を取得することなどの規定を、遵守条項においては努力義務に留めて(又はそもそも規定せず)において、前提条項には明確に規定することもあります。その場合、違反したとしても遵守義務違反(=損害賠償事由)にはならないものの、前提条件は充足していないのでM&Aは実行しないということとなりますので、売主と買主の利害調整としては適切な場合もあり、M&Aの契約書(最終 契約書)においては、このような規定の工夫がなされることもあります。
補償条項
④補償条項は、①の表明保証や②の遵守事項に違反した場合など相手方に対して損害賠償請求ができるという規定です。
M&Aの契約書(最終契約書)において、①の表明保証や②の遵守事項に違反した場合は、契約違反を行ったのですから、損害賠償を行うことは当然でもあります。
ただ、M&Aにおいては、①の表明保証や②の遵守事項に違反した場合、買主にいくらの金額の損害が発生したのかが明らかでない場合も多い半面、買主にいくらの金額の損害が発生したのかを証明するのは買主の立証責任です。この立証責任を果たすことが難し場合がありますので、M&Aの契約書(最終契約書)においては、そのような場合などいろいろなケースを想定し、買主の損害を推定する規定を入れることもあります。
また、M&Aにおいて、損害賠償については、売主の立場から見ると、せっかく会社を売却したのに、M&A代金を返金させられる可能性があるわけですので、その地位は不安定となるのであり、例えば、資金需要があって会社を売却した売主などにとっては、切実な問題ともなりかねませんので、損害賠償請求の可能性を限定したいというのが本音のところかと思います。すなわち、売主からすると、M&A代金よりも多額の損害賠償を行った場合、会社を売却したのに、1銭も入ってこない状態と言え、経済的に不合理な結果になります。
そこで、M&Aの契約書(最終契約書)においては、損害賠償金額については、売主が受領した本件株式譲渡代金の○%相当する額を超えないものとするとか、また、損害賠償の請求は、○年内に損害賠償を請求する旨の書面が相手方から送付された場合に限るとか、または、単一の事実に基づく請求の額が金○万円を超えたものに限り行うことができるとする場合など、合理的な範囲に限定されることとなります。
他方、買主としても、決算を行う際に、対象会社の問題点がいろいろ発見されることがありますので、1回は決算期を跨ぎたい、すなわち、決算を行った際に発見された問題点を損害賠償請求したいという意向もありますので、M&Aの契約書(最終契約書)における損害賠償請求権の条件としては、最低でも1年ということとなろうかと思います。
価格調整条項
また、M&Aの契約書(最終契約書)において、M&A価格を最終的に詰めきれず、以下のように、後日の事情を勘案してM&A価格を調整するケースがあります。
1.全般的に価格調整するケース 2.限定された項目について価格調整するケース (1)在庫調整・・・・・・・・・・時価純資産法的 ※古典的 (2)運転資本調整・・・・・・時価純資産法的 ※古典的 (3)純資産調整・・・・・・・・時価純資産法的 ※限定されていない。 (4)収益調整・・・・・・・・・・DCF法的 ※限定されていない。 (5)アーンアウト条項等・・DCF法的 ※ Signingからの短期間に経営動向が反映され易い項目=流動資産負債項目 3.特段価格調整しないケース |
通常は、特段価格調整しないケース(あったとしても、限定された項目のみについて価格調整するケース)がほとんどです。
M&Aの契約書(最終契約書)においては、表明保証条項及び遵守条項が、補償条項と連動して、実質的に「価格調整条項」的役割を担っていることが多く、かなりの部分(全てのケースかもしれません)をそちらで代用可能なのですが、わざわざ「価格調整条項」を規定するのであればそれはのM&Aでは「価格調整」が必要だということを強調したい場合が多いと言えます。
M&Aの契約書(最終契約書)における価格調整条項が設定される例としては、例えば、以下のようなケースです。
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また、M&Aの契約書(最終契約書)におけるM&Aの価格調整の方法についても、以下のとおり、各種方法があります。
1.差額精算するケース ※差額の返金が期待困難な場合あり 2.譲渡価格を分割払い(一部後払い)にするケース 3.譲渡代金をエスクローにするケース |