新設分割とは?吸収分割との違いや手続きの流れ、メリット・デメリットをわかりやすく解説

  • 2022年7月15日
  • 2024年10月8日
  • M&A

市場の変化が激しい昨今において、会社の将来を予測することは困難です。状況によっては、会社の組織再編を行わなければならないこともあるでしょう。日本では組織再編の方法として、会社分割や合併などがよく用いられています。

会社分割は、M&Aでも活用される方法のひとつです。会社分割の種類のひとつに、「新設分割」というものがあります。新設分割は組織再編やM&Aなどにおいて、有効な手段です。会社分割を検討する経営者様などは、新設分割の種類やメリット、手続きの流れや注意点についてぜひ参考にしてください。

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新設分割とは?

会社分割の場合、自社株式や社債などのように、現金以外を対価として利用することが認められています。しかし、新設分割では事業の引き継ぎ先が新設される会社であるため、対価に現金が用いられることはありません。支払いのときは、現金以外の手段を用いることがほとんどです。

なおもともと事業を保有していた会社を「分割会社」、事業を引き継ぐために新しく立ち上げる会社を「新設会社」といいます。

新設分割は大きく分けて3種類

新設分割を実施するにあたり、主に用いられる方法は3種類です。用いる手段によって、支払いの対象や支払い方が異なります。スムーズに事業を引き継がせるためには、自社に適した方法を用いることが大切です。まずはそれぞれの方法について、理解を深めておきましょう。

分社型新設分割(物的新設分割)

分社型新設分割とは、「分割会社」に対して対価が支払われる方法です。物的新設分割とも呼ばれ、新設会社が分割会社に対して支払いを行います。支払いに株式を交付した場合、新設会社の株式を分割会社が保有します。そのため株式の保有数などによって、新設会社は分割会社の子会社にあたる状態です。

例えばA社(分割会社)がB社(新設会社)へ、事業を引き継がせたとします。このとき、A社がB社の株主総会における議決権を過半数保有していれば、会社法上でもA社が親会社として認められます。

分割型新設分割(人的新設分割)

分割型新設分割とは、分割会社の「株主」に対して対価が支払われる方法です。人的新設分割とも呼ばれており、新設会社は対価として、分割会社の株主へ株式の交付などを行います。

株式の交付が行われると、株主は両会社の株式を保有している状態です。そのため株式の保有数や分割の内容によっては、兄弟会社やグループ企業のような関係となります。

共同新設分割

共同新設分割とは、複数の分割会社が共同で、事業を新設会社へ引き継がせる方法です。同一の事業を展開する複数の企業が、資本提携や事業統合を図りたいときなどによく利用されます。

例えば同一の「a事業」を展開するA社とB社が事業を統合するために、共同で新設したC社へ事業を引き継がせたとします。事業の引き継ぎが行われるとC社は、A社とB社もしくはそれぞれの株主に対して、株式を交付しなければなりません。このときA社とB社およびそれぞれの株主は、C社の株式を保有することになるため、状況によっては資本提携や事業統合の関係となります。

なお共同新設分割は、同一の事業に限らず、異なる事業を統合する際にも用いられることがあります。

新設分割と吸収分割の違い

新設分割と吸収分割の大きな違いは、引き継ぎ先となる会社の状況です。新設分割は新たな会社を立ち上げるのに対し、吸収分割は既存の会社へ事業を引き継がせます。また、許認可の引き継ぎにも違いがあります。

新設分割の場合、事業を引き継ぐとはいえ別に会社を立ち上げるため、新たに許認可を受けなければならないケースがほとんどです。新設された会社で改めて、事業に関する許認可を受ける必要があります。

対して吸収分割の場合、事業の引き継ぎ先にあたる企業はすでに存在しています。引き継ぎが行われる予定の事業をすでに展開していれば、もともと許認可を受けているはずです。現在の許認可をそのまま使用できるため、新たに申請する必要はありません。

ただし、これまでに展開してない業種の引き継ぎには注意が必要です。業種によっては、新たに許認可を受ける必要があります。

新設分割を行うメリット

新設分割は、M&Aでも活用される手段です。実際に活用された事例も存在しており、その有用性も認められています。利用するメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

事業に関する全てをまとめて引継ぎできる

新設分割では、事業に関連があるものを包括的に引き継げます。事業に必要な設備だけでなく、関係する人員や資本準備金、資本剰余金なども引き継ぎが可能です。事業の引き継ぎを行う方法には事業譲渡なども挙げられますが、包括的な引き継ぎはできません。個別に引き継ぎをしなければならないため、手続きなども複雑です。

事業を包括的に引き継げると、その後の事業展開もスムーズに行えます。ただし許認可に関しては、新たに取得が必要となる場合があります。

事業ごとに分割が可能

新設分割では、事業ごとに分割させることが可能です。株式移転や株式交換などもM&Aで用いられる手段ですが、事業ごとの分割はできません。会社ごと承継するしかないため、目的とする事業以外を引き継ぐ必要があります。

新設分割では、目的の事業のみを承継できるため、不要なコストや手続きに関する労力を抑えられます。そのため「特定の新規事業を展開したいとき」、「特定の事業を拡大させたいとき」などに有効です。

現金が必要ない

現金を準備する必要がないこともメリットです。事業譲渡などでは、対価として現金が用いられるケースもよくあります。規模が大きい場合には、多額の現金を準備しなければなりません。

対して新設分割の対価としては、株式を交付することがほとんどです。そのため、現金を準備する必要がありません。現金を準備するのに必要な費用、手続きの手間などをかけずに済みます。

新設分割を行うデメリット

メリットがある一方で、新設分割にはいくつかのデメリットも挙げられます。会社分割の実施は、手法ごとのメリット・デメリットを把握したうえで、自社に適した手法を用いることが大切です。メリットだけでなく、デメリットも理解しておくことで、判断を誤るリスクを減らせます。想定されるデメリットには、以下のようなものがあります。

吸収分割と比べると時間とコストがかかる

吸収分割の場合、既存の会社へ事業を移転させるため、新たに会社を設立する必要がありません。承継に必要な手続きを済ませるだけで、事業の引継ぎができます。

一方の新設分割は、新たに別会社を立ち上げることが必要です。会社の設立には、役所への届け出や資本金の準備などを行わなければなりません。そのため吸収分割と比べると、承継を行う際の時間とコストがかかってしまいます。

簿外債務を引き継ぐリスクがある

簿外債務とは、何らかの自由により帳簿に記載がない債務のことです。代表的なものとしては、仕入れや費用の計上漏れや残業代の未払いなどが挙げられます。このような簿外債務は、新設会社が負担しなければなりません。

また簿外債務には、「偶発債務」と呼ばれる将来的な債務も含まれます。例えば商品に不良が発見され、取引先からの損害賠償請求が予想されるケースなどです。損害賠償義務は、状況によって新設会社が負わなければならない場合もあります。

新設分割では、上記のような簿外債務を引き継ぐリスクがあります。リスクを減らすには、分割を行う前にデューデリジェンス(DD)などを行うことが大切です。

新設分割は適格要件を満たすと税金の優遇措置を受けられる

日本では事業や財産を引き継いだときなどは、法律によって税金が課せられます。納税は義務とされているため、会社分割を行うときも納付しなければなりません。不動産を取得したときは不動産取得税、資産を引き継いだときは、保有資産に対する評価損益(含み損益)への税金が課せられます。

ただし会社分割では適格要件が設けられており、要件を満たすことで税金が優遇されます。新設分割に適用できるのは、「不動産承継の適格要件」と「組織再編税制における適格要件」の2つです。

不動産承継の適格要件

一般的に不動産を取得した場合、取得した者には不動産取得税が課せられます。しかし、会社分割には不動産承継に関する適格要件があり、要件を満たせば非課税の扱いを受けることが可能です。適格要件は、用いる方法によって異なります。

分社型新設分割の場合

分社型新設分割の適格要件は、以下の通りです。

  • 株式交付のみを対価として使用
  • 分割する事業の主な資産と負債を新設会社に引き継がせている
  • 分割する事業が新設会社にて今後も継続予定
  • 分割する事業における担当者のうち、80%以上が新設会社へ移籍予定

上記の適格要件を全て満たすことで、不動産取得税が非課税となります。

分割型新設分割の場合

一方の分割型新設分割の適格要件は、以下のようになっています。

  • 株式交付のみを対価として使用
  • 対価として交付する株式の交付比率が、分割会社の株主が保有する「分割会社の株式所有比率」と同等
  • 分割する事業の主な資産と負債を新設会社に引き継がせている
  • 分割する事業が新設会社にて今後も継続予定
  • 分割する事業における担当者のうち、80%以上が新設会社へ移籍予定

分割会社の株主に対する株式の交付比率が、適格要件として追加されます。適格要件の全てを満たすことで、不動産取得税を非課税とすることが可能です。

組織再編税制における適格要件

組織再編税制とは、会社分割や株式交換など、組織再編成における税務上の取り扱いに関する制度です。組織再編成などで資産の移動が発生した場合、移動前の資産は帳簿価格で計上され、移動後の資産は時価で計上されます。このとき帳簿価格と時価の差額に対しては、法人税が課せられます。

しかし資産を移動する度に税金が課せられていては、企業の負担が大きくなってしまい、事業の展開などにも支障をきたしかねません。負担が大きいようでは、組織再編成を実施する企業も少ないでしょう。

上記のような企業における経済活動を阻害しないよう、設けられた制度が組織再編税制です。適格要件を満たすことで、税金に対する優遇措置を受けられます。新設分割ではパターンごとに、以下のような適格要件が規定されています。

分割会社と新設会社が「完全支配関係」にある場合

完全支配関係とは、分割会社が新設会社の株式を100%保有する状態のことです。直接保有することに限らず、別の法人と併せて100%保有するような、「間接的」に保有する場合も含まれます。

また当事者間において、完全支配関係にあるとみなされる「法人相互の関係」も同様です。例えば分割会社の経営者とその家族などが、新設会社の株式を100%保有しているケースなども、完全支配関係に該当します。お互いが完全支配関係にある場合は、以下の項目が適格要件です。

  • 新設会社が分割会社への対価として、株式以外を用いていないこと

上記の要件を満たすことで、税金の優遇措置が受けられます。

分割会社と新設会社が「支配関係」にある場合

支配関係とは、分割会社が新設会社の株式を50%以上、100%未満保有している状態のことです。完全支配関係と概念は同じですが、新設会社の株式を「100%保有しているかどうか」が異なります。分割会社と新設会社が「支配関係」にある場合の適格要件は、以下の通りです。

  • 新設会社が分割会社への対価として、株式以外を用いていないこと
  • 分割会社の資産・負債を新設会社が引き継いでいること
  • 分割する事業が新設会社にて今後も継続予定
  • 分割する事業における担当者のうち、80%以上が新設会社へ移籍予定

税金の優遇措置を受けるには、上記の適格要件を全て満たす必要があります。

資本関係がない企業と共同事業の場合

組織再編税制における共同事業とは、資本関係がない会社同士が共同で事業を展開することです。主には、資本関係がないグループ企業以外の企業などが該当します。共同事業の場合、以下の項目が適格要件です。

  • 新設会社が分割会社への対価として、株式以外を用いていないこと
  • 分割会社の資産・負債を新設会社が引き継いでいること
  • 分割する事業が新設会社にて今後も継続予定
  • 分割する事業における担当者のうち、80%以上が新設会社へ移籍予定
  • 分割する事業が分割会社の関連事業であること
  • 分割する事業が分割会社の展開する事業規模と同等、もしくは5倍までの範囲である
  • 共同事業に参加する会社の役員が、新設会社の経営陣に加わること
  • 対価として交付された株式を継続して保有すること

税金の優遇措置を受けるには、上記の適格要件を全て満たす必要があります。

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新設分割を行うときの手続きの流れ

新設分割を行うときは、さまざまな手続きが必要です。取るべきアクションや作成すべき書類も複数あるため、不備がないように注意しなければなりません。

一般的には、以下のような手順に沿って進められていきます。詳細については会社ごとに異なりますが、大まかな流れを把握しておくと、自社が新設分割を行う際に効率よく手続きを進められます。

「新設分割計画書」の作成

まずは「新設分割計画書」の作成です。新設分割計画書とは、実施する新設分割の内容を定めた書類をいいます。取引先や債権者などは、この新設分割計画書によって、実施される新設分割の内容を把握できます。仮に反対するのであれば、異議を申し立てることが可能です。

新設分割計画書には、新設分割に関する基本的な事項を記載します。記載が必要となる項目には、以下のものが挙げられます。

  • 新たに設立する会社(新設会社)の本店所在地と商号および定款
  • 新設会社の資本金ならびに準備金
  • 新設会社が発行可能な株式数
  • 分割会社から移転させる資産や権利、債務に関する事項
  • 新設会社の役員に関する事項
  • 新設会社で交付する対価に関する事項
  • 新株予約権についての事項など

新設分割計画書には、上記の項目を記載しなければなりません。

規定で定められた書類の開示と本店への備え置き

新設分割計画書後は計画の詳細に加えて、分割会社と新設会社の債務履行見込みなど、法律で規定された内容を盛り込んだ「事前開示書類」の作成が必要です。事前開示書類に記載が必要となる項目は、以下のものが挙げられます。

  • 日付、住所、企業の正式名称、代表者名
  • 新設分割計画書の内容(別紙にて開示可能)
  • 新設分割に関して交付する株式数、またはその数の算定方法の相当性に関する事項
  • 資本金および準備金に係る定めの相当性に関する事項
  • 最終事業年度において重要な財産の処分、および財産へ影響を与える事項について
  • 新設分割後における分割会社の債務の履行見込みについて
  • 新設分割後における新設会社の債務の履行見込みについて
  • 定款                          など

事前開示書類は、作成後に本店へ備え置きしなければなりません。備え置き開始日は、以下にある日のいずれか早い日付です。

  • 株主総会の2週間前
  • 分割計画書の作成日より、2週間が経過した日
  • 株式買取請求・債権者の異議に関する公告を行った日

備え置き期間は上記の開始日より、「会社分割の効力が発生して6ヶ月が経過した日」までとなります。上記の期間は、事前開示書類を本店所在地にて、備え置きしなければなりません。

株主総会にて特別決議の承認を得る

事前開示書類の備え置きが済んだら、株主総会にて特別決議の承認を得る必要があります。特別決議とは、「発行済株式総数の過半数」を保有する株主の出席し、議決権における3分の2以上の賛成を必要とする決議のことです。要件を満たすことで、株主総会の承認を得られたことになります。

なお略式組織再編や簡易組織再編の条件を満たす場合は、株主総会にて特別決議の承認を得ることは不要です。

株主への通知

会社は株主に対して、会社分割を行ったことを公告・通知する必要があります。反対する株主は、会社に対して保有する株式の買い取りを請求することが可能です。これを「株式買取請求権」といいます。

なお会社側は「効力発生の20日前まで」に反対株主に対して、通知または公告が義務付けられています(会社法116条2項)。通知を受けた株主は、「通知を受けた日から効力が発生する前日」までに請求を行う必要があります。

債権者への公告および催告

新設分割では、債権者も異議を唱えることが可能です。会社側は債権者が異議を唱える一定の期間を確保するために、効力が生じる日の1ヶ月前までに債権者へ、官報などで公告しなければなりません。これを「債権者保護手続」といいます(会社法810条1項)。

また「知れたる債権者」と呼ばれる組織再編に関わる債権者に対しては、個別の催告が必要です。公告や催告に掲載する内容は、以下などの項目が挙げられます。

  • 新設分割を含む組織再編に関する事項
  • 新設分割に関わる会社の名称、商号、住所
  • 資本金の額、負債の変動額
  • 新設分割に関わる会社の計算書類
  • 債権者は異議の申し立てができる旨など

通知を受けた債権者は、定められた期日までに異議を申し立てる必要があります。なお債権者から異議の申し出があった際、会社は以下の対応が必要とされています(会社法810条5項)。

  1. 債権者に対しての弁済
  2. 債権者に対して相当の担保を提供
  3. 信託銀行などに相当の財産を信託

だたし、新設分割を行っても債権者を害する可能性がないときは、異議への対応は必要ありません(会社法810条5項ただし書き)。

登記

主な手続きが完了したあとは、それぞれの会社にて登記が必要です。分割会社は変更登記、新設会社は設立登記を行います。登記の申請には、2つの方法があります。

分割会社と新設会社が同じ登記所の管轄内にある場合は、「同時申請」を行いましょう。管轄の登記所にて、変更登記と設立登記を同時に申請できます。

分割会社と新設会社で登記所の管轄が異なる場合は、「経由申請」が必要です。新たに設立した会社(新設会社)を管轄する登記所へ申請を行います。また分割会社の変更登記も、同じ登記所にて申請を行わなければなりません。

なお新設分割の登記では、以下のような書類が必要です。ただし状況によっては、他の書類が求められることもあるため、専門家や管轄の登記所に確認しておきましょう。

【必ず必要な書類】

  • 設立する会社の定款
  • 設立する会社における役員の就任承諾書
  • 設立する会社における役員の印鑑証明書
  • 設立する会社の資本金が法律に従って計算されていることを証する書類
  • 新設分割計画書
  • 分割会社の株主総会議事録
  • 官報公告の写し
  • 新設分割に異議を申し出た債権者がいない旨を記載した上申書

【状況によって求められる可能性がある書類】

  • 分割会社の登記事項証明書
  • 分割会社の印鑑証明書など

新設分割では、登記にも期限が設けられています。以下にある手続きのうち、完了した日がもっとも遅い日から2週間以内に、登記をしなければなりません。

  • 株主総会の特別決議が行われた日
  • 種類株主総会における決議の日
  • 反対株主に対する買取請求の通知または広告を行って20日以上経過した日
  • 新株予約権を行使する者へ買取請求の通知または広告を行って20日以上経過した日
  • 債権者保護手続きが完了した日

期限内に登記を行わなかった場合、過料などの対象となることがあります。

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新設分割に関する3つの注意点

新設分割では会社法だけでなく、他の法律が適用されることがあります。該当する場合には、適用される法律の規定に従わなければなりません。

法律違反や規定に反してしまうと、手続きのやり直しや過料などの対象となるため注意が必要です。悪質性があると判断された場合には、決定した取り決め事項であっても無効となってしまいます。

新設分割を行うときは、以下にある3つのポイントに注意しましょう。

新設分割を行うときは「労働契約承継法」に定められた手続きも必要

新設分割を行うときは、労働者や労働組合に関する手続きも必要です。会社分割に関わる労働者および労働組合への手続きについて、定めたものを「労働契約承継法」といいます。加えて、労働契約承継法で定められた手続きも行わなければなりません。

また労働契約承継法の規定は、会社が雇用する全ての労働者に適用されます。そのため非正規雇用者に対しても、労働契約承継法へ明記されている通りに、手続きを進めていくことが必要です。労働契約承継法に定められた手続きに関しては、以下のような流れで進めています。

従業員と労働組合への通知

新設分割を行うときは、分割事業の担当者および新設会社へ移籍予定の従業員に対して、以下の事項を通知する必要があります。

  • 現在の労働契約が新設会社へ引き継がれるか
  • 移籍後の待遇、労働条件、業務内容などに関する事項
  • 債務の履行見込み
  • 異議の申し出方法と期間

従業員への通知に加え、労働組合に対しても以下の事項を、通知するように義務付けられています。

  • 新設会社へ労働協約が承継されるかどうか
  • 承継される労働が部分的な場合、その範囲と内容
  • 新設会社へ移籍予定の従業員リスト

労働協約とは、会社と労働組合などが結ぶ、労働に関する取り決めのことです。

労働組合法に則って締結されます。この手続きは、株主総会が開催される2週間前の前日までに行わなければなりません。ただし通知日に関して法律では「事前開示書類の備え置き開始日」、「株主総会招集通知の発送日」のいずれか早い方が望ましいとしています。

従業員の代表者・労働組合との事前協議

分割会社は、従業員の代表者および労働組合と事前協議を行う必要があります。協議を行うべき項目は、以下のようなものです。

  • 新設分割の目的と理由
  • 分割事業に関係する者の判断基準(主に移籍予定の従業員など)
  • 労働協約の承継について
  • 未払い賃金などの債務が新設会社で履行される見込みなどについて
  • 新設分割実施の際、従業員と係争に至った場合の解決方法

労働契約承継法では、事前協議は新設分割計画書を作る前に、済ませておくことが望ましいとしています。

労働協約の合意

新設分割では、労働組合に対して労働規約の通知が必要なことに加え、「債務的部分」に関しては労使合意も必要です。債務部分とは組合の運営や団体交渉、会社からの便宜供与などを定めた内容をいいます。

新設分割を行う際は、債務部分の取り扱いについて取り決めなければなりません。具体的には「新設分割により分割会社は労働協約から外れるか」、もしくは「新設分割をしても分割会社を労働協約の対象とするか」などです。

なお労働契約承継法では、労働協約の労使合意についても、新設分割計画書の作成前が望ましいとしています。

従業員との個別協議

取り決めた内容を実施していくにあたり、分割会社は新設会社へ移籍予定の従業員に対して、個別協議を実施しなければなりません。なお労働契約承継法では、通知の期限内に全員が納得のいく協議ができるよう、時間的な余裕をもって協議を開始するのが望ましいとしています。

加えて労働契約承継法は個別協議前より、「労働者の理解と協力を得る努力」を開始することが望ましいとしており、協議後も必要に応じて適宜行うべきと定めています。

異議を申し出た従業員への対応

新設分割における取り決めや処遇について、異議を申し出た従業員がいる場合には、分割会社は状況に応じた対応を講じなければなりません。想定される異議とは、従業員が自らの処遇を拒否するケースなどです。

よくあるケースとしては「分割事業の担当者が分割会社への残留を拒否」、「新設会社へ移籍予定の従業員が移籍を拒否」などが挙げられます。このような異議を申し出られたときは、その措置は撤回を含め検討し直す必要があります。

なお異議申し出の期間については、会社側が決めることが可能です。ただし従業員・労働組合への通知をした翌日から、最低でも13日間を設けなければなりません。加えて株主総会の開催日より前に設定する必要があります。

新設分割の手法・企業の規模によっては他の規定・法律への対応が必要となる

新設分割には、実施する手法や企業の規模によって、さまざまな規定や法律が定められています。自社の新設分割に該当する法律があれば、適切に対応しなければなりません。新設分割において、関連する法律には以下のようなものがあります。

上場企業は情報開示が義務付けられている(会社法)

証券取引所に株式上場をしている企業は、情報開示が義務付けられています。そのため新設分割を行った際にも、速やかに情報開示をしなければなりません。

情報開示のタイミングとしては、取締役会で新設分割の実施が決定されたときなどです。その後も状況に応じて、情報開示が必要となる場合があります。

金融商品取引法でも状況に応じた情報開示義務が定められている(金融商品取引法)

金融商品取引法では、企業における組織再編成の情報開示を充実させるため、開示義務を定めています(金融商品取引法4条1項)。組織再編成には新設分割も含まれており、条件ごとに必要となる書類を通じて、情報を開示しなければなりません。開示に必要な書類とそれぞれの要件は、以下のようになっています。

必要な書類提出が必要となる要件
臨時報告書
  • 有価証券報告書を提出している会社において、新設分割や吸収分割が行われることが業務執行機関により決定された場合(金融商品取引法24条の5第4項)。
  • 会社分割契約の内容の変更・臨時報告書記載事項に変更が生じた場合、訂正報告書を提出(金融商品取引法24条の5第5項・24条の7)。
有価証券届出書新設分割によって、分割会社に新設会社から有価証券が交付された場合、次の要件に該当するときは、新設会社が有価証券報告書を提出(金融商品取引法2条、5条1項)。

  • 分割会社の株主等が多数
  • 分割会社が開示会社で、交付される有価証券の情報開示が行われていない
  • 株式の発行価額または売出価額の総額が1億円以上のとき

新設会社が設立されていない場合、分割会社が新設会社の代わりに有価証券届出書を提出

有価証券通知書新設分割によって、分割会社に新設会社から有価証券が交付された場合、次の要件に該当するときは、新設会社は有価証券通知書を提出(金融商品取引法4条5項)。

  • 分割会社の株主等が多数
  • 分割会社が開示会社で、交付される有価証券の情報開示が行われていない
  • 発行価額または売出価額の総額が1千万円超から1億円未満のとき

上記の要件に該当する場合、対応する書類の作成・提出が必要です。

共同新設分割は公正取引委員会へ届け出が必要な場合がある(独占禁止法)

共同新設分割については、独占禁止法の規定が適用される場合があります。規定に該当する場合、公正取引委員会へ届け出を行い、審査を受けなければなりません。届け出が必要となるのは、以下の事項に該当する場合です。

  • 共同新設分割に加わる会社のうち、いずれかの会社が国売連結上高200億円超で全ての事業を分割予定、かつ他の1社が国内連結売上高50億円超で全ての事業を分割予定
  • 共同新設分割に加わる会社のうち、いずれかの会社が国売連結上高200億円超で全ての事業を分割予定、かつ他の1社が承継の対象部分に係る国内売上高が30億円超である
  • 共同新設分割に加わる会社のうち、いずれかの会社が国売連結上高50億円超で全ての事業を分割予定、かつ他の1社が承継の対象部分に係る国内売上高が100億円超である
  • 共同新設分割に加わる会社のうち、いずれかの会社が承継の対象部分に係る国内売上高が100億円超、かつ他の1社が承継の対象部分に係る国内売上高が30億円超である

なお同一グループ企業のみで共同新設分割を行うときは、届け出は必要ありません。

債権者への対応について

新設分割では従業員だけでなく、債権者にもいくつかの権利が認められています。そのため会社側も債権者の権利を把握し、適切に対処しなければなりません。債権者が行使できる権利には、以下のようなものが挙げられます。

新設分割を不承認とした債権者は裁判所に「新設分割無効」の提起ができる

新設分割を不承認とした債権者は、裁判所に対して「新設分割無効」の提起が認められています。提訴ができるのは、新設分割の内容や手続きに関して瑕疵がみられるときなどです。無効の訴えが裁判所に認められると、登記変更などが行われることになり、分割前の状態へと強制的に戻されます。

なお新設分割無効にした場合、関係者へは重大な影響が生じてしまいます。そのため新設分割無効の主張には要件が設けられており、規定に沿って提起を行わなければなりません。新設分割無効で定められている要件は、以下の通りです。

【提起できる債権者の範囲】

新設分割を承認しなかった債権者(会社法828条2項10号)。

【手続き】

新設分割の効力発生日より6カ月以内(会社法828条1項10号)。ただし株主総会の取り消し事由に基づく場合は、決議後3ヶ月以内。

【判決の効力】

新設分割の無効は、第三者にも効力を及ぼす(会社法838条)。ただし効力は、将来についてのみ生じる(会社法839条)。

個別催告を怠ると債権者は「債務履行請求」が可能

個別催告を怠ると債権者は裁判によって、債務履行請求を行うことが可能です。債権者保護手続きの通知を受けられなかった債権者は、債務の支払い請求などが認められています。債務履行請求を行う対象は、状況によって異なります。

新設分割の実施後、新設会社の債権者となるときは「分割会社」が債務履行請求の対象となり、分割会社の債権者となる場合は「新設会社」が債務履行請求の対象です。債務履行請求が認められると、会社側は債権の支払いなどに応じなければなりません。

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まとめ

新設分割には税金の優遇、現金を要せず事業承継ができるなど、さまざまなメリットがあります。複雑な手続きがあるにもかかわらず活用されるのは、会社側がメリットの大きさを実感しているからといえるでしょう。

一方で手続きのなかには、専門的な知識を必要とする部分もあります。適切な手法で実施しないと過料や無効となる恐れもあるため、自社のみで対応が難しいときは、弁護士などの専門家へ相談してみましょう。

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