新設合併とは?吸収合併との違いや手続き、メリットデメリットを解説

  • 2022年9月13日
  • 2024年10月8日
  • M&A

新設合併とは、複数の会社を全て消滅させて新しく設立した会社に権利義務を承継する手法です。

新設合併はメリットよりもデメリットが目立つため、吸収合併が実施されることが多くなっています。

しかし、グループ内再編や海外子会社の統合などの場面では、新設合併が用いられる事例もあります。そのため、新設合併の知識を持っておいて損はないでしょう。

そこで今回は、新設合併と吸収合併との違いやメリット・デメリット、手続きの流れについて解説していきます。

実際に新設合併を行った事例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

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新設合併とは?

新設合併とは、すべての法人格を消滅させた上で権利義務を新しく設立した会社に承継する手法です。

会社法の2条28号では「二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。」と定義されています。

新設合併で承継される権利義務の内容には、株式や従業員との雇用契約・取引先なども含まれています。

新設合併を行う主な目的は、M&Aやグループの組織再編です。会社の組織を編成し直すことでコスト削減や生産性を向上させることができます。

新設合併と吸収合併

合併には「新設合併」と別に「吸収合併」があります。新設合併は新たに会社を設立して権利義務を承継する手法です。これに対し、吸収合併は存続会社に権利義務を承継する手法です。

これらの合併には共通点と相違点があります。ここからは、それぞれの共通点と相違点を分けて解説していきます。

新設合併と吸収合併の共通点

新設合併と吸収合併の共通点は「引き継ぐ財産を自由に選択できない」ことです。そのため、どちらの手法でも財産だけでなく負債も引き継ぐことになります。

新設合併と吸収合併の相違点

新設合併と吸収合併の違いは以下の表にまとめました。

新設合併吸収合併
すべての法人格が消滅する消滅会社の法人格が消滅する
新設した会社が権利や義務を承継する存続する会社が権利や義務を承継する
消滅会社から免許や許認可を引き継ぐことができない消滅会社が取得している免許や許認可をそのまま引き継ぐことができる
対価として現金の受け渡しができない対価として現金の受け渡しができる

合併をするメリット

ここからは、合併のメリットを解説していきます。合併のメリットは主に4つで以下のとおりです。

  • シナジー効果が得られる
  • 会社の規模を拡大できる
  • 買収の資金が必要ない
  • 事業承継問題の解決に繋がる

それぞれ詳しく解説していきます。

シナジー効果が得られる

1つ目のメリットは「シナジー効果が得られる」ことです。

合併によって複数の会社が1つに集まることで、今まで別々に活動していたときよりも大きな成果を生み出すことができます。

具体的には、ブランド力の強化やコスト削減・技術力の向上などの効果が期待できます。

会社の規模を拡大できる

2つ目のメリットは「会社の規模を拡大できる」ことです。

同業種同士の合併では、顧客や生産規模が増えるため売上を大きくできます。また、大量仕入れや大量生産も可能となるためコスト削減にも繋がるでしょう。

他業種同士の合併では、経営の多角化を図ることができます。事業を多角化できれば市場の変化などのリスクも軽減できます。

買収の資金が必要ない

3つ目のメリットは「買収の資金が必要ない」ことです。

合併は株主への対価として株式や社債などを利用することができます。そのため、買収の資金を準備する必要はありません。

十分な現金がないときや金融機関から資金を借りたくないときでも合併を行えるため大きなメリットと言えるでしょう。

事業承継問題の解決に繋がる

4つ目のメリットは「事業承継問題の解決に繋がる」ことです。

近年は、後継者不在により、廃業を選ぶ経営者も多くなっています。このようなときに合併は有効です。

廃業してしまうと会社の従業員が職を失ってしまいますが、合併を実施することで従業員を引き継ぐこともできます。

廃業にかかる費用や手間を省けるだけでなく、会社の技術力や従業員の雇用維持などができることはメリットと言えるでしょう。

合併をするデメリット

合併をするデメリットは、統合作業にかかる負担が大きいことです。

合併をすると、経営理念や働き方など異なる環境だった複数の会社が1つに集まることになります。そのため、従業員同士のコミュニケーションや業務がうまくいかないこともあるでしょう。

そうなると、合併によるシナジー効果も生まれずメリットがありません。統合前から計画を立て、企業理念や業務のやり方などを浸透させておく必要があります。

その上で、合併後は従業員の不満や不安を解決していけばこのようなデメリットは抑えることができるでしょう。

新設合併特有のメリットとは?

新設合併のメリットは、「対等に合併できる」ことです。

吸収合併は片方の会社に吸収する形で合併されます。吸収された会社側の従業員は立場の弱さを感じることもありネガティブなイメージを抱きがちです。

しかし、新設合併であれば新しく会社を設立するため、吸収合併と比べて対等な合併ができます。

そのため、従業員にとっても良いイメージを持ってもらいやすく不満が起きることが少なくなります。

対等に合併できるという点は、新設合併特有のメリットと言えるでしょう。

新設合併のデメリット

新設合併はメリットもありますが、デメリットが大きいことからあまり使われない手法だと言われています。

ここからは新設合併のデメリットを解説していきます。新設合併のデメリットは主に3つで以下のとおりです。

  • 現金を対価にできない
  • 吸収合併に比べて手続きが多い
  • 吸収合併よりもコストが大きい

それぞれ詳しく解説していきます。

現金を対価にできない

1つ目のデメリットは「現金を対価にできない」ことです。

新設合併は、合併の対価に株式や社債などが交付され、現金を対価として受け取ることができません。

株式や社債を保有することで利益を得られる可能性もありますが、未上場になってしまうと株価の変動が大きくなります。

新設合併は退職金代わりに現金を受け取ったり、新しい事業の資金が欲しかったりする場合には適していません。

現金で対価を受け取りたいときは、他の手法を実施しましょう。

吸収合併に比べて手続きが多い

2つ目のデメリットは「吸収合併に比べて手続きが多い」ことです。

新設合併は新しく会社を設立するため、免許や許認可・資格などを再度取得する必要があります。また、上場企業の場合は再び上場審査を受けなければなりません。

新設合併は吸収合併に比べて手続きが多くなっており、手間や時間がかかることはデメリットになるでしょう。

吸収合併よりもコストが大きい

3つ目のデメリットは「吸収合併よりもコストが大きい」ことです。

新設合併は新しく会社を設立するため、会社の設立に関する費用がかかった分だけコストは大きくなります。

会社設立には、定款の認証や登録免許税などの費用が最低でも20万〜30万円ほど必要です。専門家に会社設立のサポートを依頼するのであればその分の費用もかかってきます。

また、登録免許税に関しては計算方法が吸収合併と異なるため注意しておきましょう。

吸収合併では、合併によって増えた資本金のうち0.15%が課税対象となります。しかし、新設合併では新設会社全体の資本金のうち0.15%が課税対象となり、資本金の範囲が広くなります。

新設合併は、資本金の規模が大きいほど支出も大きくなる可能性があるため、予算には余裕を持って行うようにしましょう。

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新設合併における手続きの流れ

新設合併における手続きの流れは以下のとおりです。

  • 新設合併契約の締結
  • 事前開示書類の備置
  • 官報への公告
  • 消滅会社の株券などの提出公告
  • 株主総会の招集通知
  • 株主通知
  • 株主総会決議
  • 債権者保護手続き
  • 新設合併の登記申請
  • 事後開示書類の備置

それぞれ解説していきます。

新設合併契約の締結

新設合併を行うために合併契約を締結します。その際に、新設合併契約書を作成しなければなりません。記載項目は主に以下のとおりです。

  • 合併会社と被合併会社の商号と住所
  • 合併会社の目的や発行可能株式総数
  • 定款で定める事項
  • 新設会社の役員氏名
  • 合併対価と割当に関する事項

事前開示書類の備置

新設合併によって消滅する会社では、合併の効力発生日までの期間、事前開示書類を備えておく義務があります。

事前開示書類の内容は以下のとおりです。

  • 新設合併契約書
  • 合併比率に関する見解を記載した書面
  • 法定事前開示書類の写し

官報への公告

新設合併は、官報公告によって合併する旨や新設会社の商号や住所などを掲載する義務があります。

また、債権者に個別の催告もしなければなりません。ただし、これに関しては官報公告と電子公告で告知すれば、手続きを省略することができます。

消滅会社の株券などの提出公告

消滅会社の株主が保有している株式を提出してもらい、その対価を受け渡すことの公告・通知をしなければなりません。

株券発行会社の株主が少数の場合であれば、株主全員に株券不所持の申し出をしてもらえば公告・通知をしなくてもよくなります。

株主総会の招集通知

新設合併は株主総会で承認を得る必要があります。株主総会の1週間前までに株主へ招集通知を送らなければなりません。株式公開会社の場合は2週間前までとなっています。

書面や電子投票のときは、株式非公開会社であっても2週間目に通知を送らなければなりません。

また、反対株主への通知も必要になるため、忘れないようにしましょう。

株主総会決議

株主総会の特別決議によって賛成を得る必要があります。株主総会の特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席し、株主の議決権2/3以上の賛成を得ることです。

この株主総会で承認が得られれば新設合併が認められます。そのため、株主総会は新設合併の効力発生日までに行わなければならないのでスケジュールには注意しましょう。

債権者保護手続き

新設合併により債権者に不利益が生じる場合には、事前開示書類に記載したり、債権者に個別で通知をしたりする必要があります。

債権者保護手続きの時期については、特に定められていません。ただし、債権者が異議を述べる期間として最低でも1ヶ月を確保する必要があります。

新設合併の効力発生日までに、以下の債権者保護手続きは完了させておかなければなりません。

  • 公告
  • 個別催促
  • 債権者に対する弁済

新設合併の登記申請

新設合併の効力発生日から2週間以内に登記申請の手続きを行わなければなりません。

登記申請に必要な申請書類は主に以下のとおりです。

  • 新設合併契約書
  • 変更登記申請書
  • 債権者保護手続き関係書面
  • 合併に関する株主総会議事録
  • 株券提供公告をしたことを証する書面
  • 資本金の計上証明書
  • 被合併会社の登記事項証明書
  • 株主の氏名又は名称、住所及び議決権数などを証する書面
  • 登録免許税に関する証明書

事後開示書類の備置

新設合併の効力発生日から6ヶ月間は新設会社の本店に事後開示書類を備置しなければなりません。

備置する事後開示書類は以下のとおりです。

  • 効力発生日
  • 消滅会社の法定手続きについて
  • 変更登記日
  • 承継した権利義務について

適格合併と非適格合併

ここからは、適格合併と非適格合併について解説していきます。

合併における法人税の取り扱いは「適格合併」と「非適格合併」の2つです。要件を満たしていれば適格合併、要件を満たしていなければ非適格合併となります。

適格合併は、帳簿価額によって資産を引き継ぎますが、非適格合併は時価によって資産を引き継ぎます。

同じグループの会社同士が合併する場合は原則、適格合併となります。M&Aの場合は原則、非適格合併となるため覚えておきましょう。

適格合併の要件

適格合併の要件は以下のとおりです。

(1)被合併法人と合併法人(新設合併の場合には、被合併法人と他の被合併法人。)との間に完全支配関係がある場合の合併

(2)被合併法人と合併法人との間に支配関係がある合併のうち、次の要件の全てに該当するもの

  1. 被合併法人の従業者のおおむね100分の80以上が合併法人の業務に従事することが見込まれていること
  2. 被合併法人の合併前に行う主要な事業が合併後に合併法人において引き続き行われることが見込まれること

(3)被合併法人と合併法人とが共同で事業を行うための合併で、次の要件の全てに該当するもの

  1. 被合併法人の主要な事業と合併法人のいずれかの事業とが相互に関連性を有するものであること
  2. 関連するそれぞれの事業の売上金額、従業者数、被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額若しくはこれらの準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと又は被合併法人の特定役員のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれること
  3. (2)①及び②の要件
  4. 合併により交付される合併法人又は合併親法人のうちいずれか一の法人の株式であって支配株主に交付されるもの(対価株式)の全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていること

※新設合併における被合併法人は消滅会社のことです。

非適格合併の方が有利になることもある

適格合併は繰越欠損金を引き継ぐことができたり、資産に含み益が出そうな場合に課税の繰延ができたりするというメリットがあります。

しかし、状況によっては非適格合併の方が有利になることがあります。

それは、被合併法人の資産に含み損があり、合併前の事業年度で営業上の利益が出そうな場合です。

このときに非適格合併であれば、資産の含み損と営業上の利益を相殺できます。

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新設合併の事例

ここまで、新設合併について解説してきましたが、最後に事例の紹介もしていきます。

紹介する新設合併の事例は以下のとおりです。

  • 三越
  • 富士ゼロックス
  • 東洋製罐グループホールディングス

それぞれ詳しく解説していきます。

三越

株式会社三越は2003年9月に新設合併を行っています。消滅会社は以下のとおりです。

  • 三越
  • 千葉三越
  • 名古屋三越
  • 福岡三越
  • 鹿児島三越

新設合併により「新・三越」として再上場もしています。実施した目的は、高い収益力の確保と安定的な財務基盤の確立です。

また、2011年には株式会社伊勢丹と吸収合併もしており、「株式会社三越伊勢丹」となりました。この時の存続会社は三越となっています。

三越は新設合併をグループ内再編を目的として行っているため、おそらく適格合併と思われます。

富士ゼロックス

富士ゼロックスは2010年1月に新設合併を行っています。消滅会社は以下のとおりです。

  • 富士ゼロックスイメージングマテリアルズ
  • 鈴鹿富士ゼロックス
  • 新潟富士ゼロックス
  • 富士ゼロックス竹松工場

持続的な成長を目指すために、新会社として「富士ゼロックスマニュファクチュアリング」を設立しています。

新設合併を行った目的としてはグループ内再編によって事業構造の加速化や優秀なエンジニアの補強による技術力の向上です。

富士ゼロックスの新設合併はグループ内再編であるため、おそらく適格合併と思われます。

東洋製罐グループホールディングス

東洋製罐グループホールディングスは2013年11月に新設合併を行っています。消滅会社は以下のとおりです。

  • Wel l Pack I nnovat i on Co. , Lt d
  • Toyo Pack I nt ernat i onal Co. , Lt d.
  • Toyo Sei kan ( Thai l and) Co. , Lt d.

東洋製罐グループホールディングスは、タイにある上記の子会社同士で新設合併を行い、新たに子会社を設立しました。

事業内容は、プラスチック製品の製造販売やペットボトルの製造販売・グループ会社への技術支援とされています。

新設合併を行った目的としては、グループ内再編によって主力事業の効率化を進めることです。

東洋製罐グループホールディングスが行った新設合併もグループ内再編であるため、おそらく適格合併と思われます。

まとめ

新設合併は、新たに会社を設立して消滅会社の財産を引き継ぐ手法です。経営者や従業員にマイナスなイメージを持たれにくいことが1番のメリットと言えるでしょう。

吸収合併と比べてデメリットの多さが目立つため、実際に活用されることは多くありません。それでも状況に合わせて用いることで、メリットを得ることはできます。

新設合併は、グループ内再編や海外子会社の統合などで実施される事例があります。概要や手続きの方法はこの記事を参考にしてみてください。

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