第三者割当増資とは?メリットやデメリット、注意点についても解説

  • 2022年6月23日
  • 2023年7月1日
  • M&A

企業が資金を調達する方法として金融機関などからの借り入れや増資などがありますが、資本金を増資する方法の一つに第三者割当増資という方法があります。

この第三者割当増資とはどのような増資方法かや、メリットやデメリット、注意点すべき点などについて詳しく解説していきます。

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目次

第三者割当増資とは

第三者割当増資とは、企業が新たに必要な資金を調達するために、既存の株主ではなく特定の第三者に対して、新株を割り当てて発行する増資方法のことをいいます。

企業が必要な資金調達を行う方法の一つに、新たに株式を発行する増資があります。

増資の中にも株主から払込金を受け取らないで新株を発行し割り当てる無償増資と、株主から払込金を受け取って新株を発行し割り当てる有償増資とがあるのです。

第三者割当増資は有償増資の一つであり、他の有償増資の種類としては「株主割当増資」や、「公募増資」があります。

第三者割当増資の目的は様々ですが、新株を引き受ける企業や個人は、取引先や、金融機関や、親会社や、従業員などの関係者になることが多いです。

第三者割当増資の目的

第三者割当増資を行う目的には、資金調達、M&Aの実施、引受先との関係強化の3つが考えられます。

資金調達

第三者割当増資の目的として、まずは新株を発行することにより、新規の必要な資金を調達することが挙げられます。

必要な資金の調達先は、企業理念や事業内容などに共感や理解があったり、友好的な取引先などの新たな第三者の株主に新株を引き受けてもらうことになります。

M&Aの実施

株主は議決権がある株式を過半数取得することにより、取締役の選任や解任などを普通決議で決定することができます。

また、議決権がある株式の保有割合が3分の2以上になった場合には、定款の変更や解散などの企業にとっての重要な経営事項も単独で行うことができるのです。

即ち、第三者割当増資により新株を引き受けた企業が、議決権がある株式の過半数または3分の2以上保有した場合には、第三者割当増資を行った企業の実質的な経営権を手に入れることができます。

このように、第三者割当増資はM&Aを実施するために行われることもあり、株式譲渡を除いたM&Aの手法の中では、よく使われる方法です。

引受先との関係強化

第三者割当増資は、基本的には友好的な企業に対して新株を引き受けてもらうことが多いです。

友好的な企業から資金を出資してもらい、一定の議決権がある株式を保有してもらうことで、引受先企業との間に関係強化が図れます。

株式を引き受けてもらう割合が多ければ、場合によっては経営に参画してもらうことにより連携を深めていくことも考えられます。

このように、引受先企業に対して新株を発行して長期間保有してもらうことにより、関係強化を図ることも第三者割当増資の1つの目的です。

第三者割当増資と株式譲渡との相違点

この頁では、第三者割当増資と中小企業のM&A手法としてよく利用される株式譲渡との相違点について見ていきます。

株式譲渡とは、 既存の株主が保有する株式を、譲受側企業に譲渡することにより経営権を移転させる方法のことをいいます。

そのため、株式の発行数は変わらずに、既存の株主が抜けて株主構成が変わるのです。

一方、第三者割当増資は、既存の株主は変わらずに新株が発行されるため、既存の株主に新しい株主が加わった株主構成になります。

株式譲渡は既存の株主から株式が譲渡されることにより、経営権を移転させたい場合に適した手法であり、第三者割当増資は既存の株主が残ったまま新株を発行するため、資金調達に適した手法といえます。

第三者割当増資と公募増資との相違点

この頁では、第三者割当増資と増資方法の一つである公募増資との相違点について見ていきます。

公募増資とは、株式を公開している上場企業が時価を基準に新株を発行して、一般の投資家を対象に募集することをいいます。

一方、第三者割当増資は、新株を発行して特定の企業や個人に引き受けてもらうことをいいます。

株式を公開していない中小企業などは、基本的には公募増資を利用することができないため、第三者割当増資を利用することが多いのです。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資を行うことによるメリットは、以下のようなことが挙げられます。

企業規模の拡大や多角化が見込まれる

第三者割当増資により新株を発行すれば、資本金を増加されることができ、事業資金の調達が行えます。

そして、その調達した資金を投入することにより、企業の規模拡大や、新規事業の立ち上げなどによる多角化のために活用することができるのです。

引受先が自由に選択できること

一般の投資家に対して新株の引受先を募集する公募増資の場合は、資金調達が目的だったとしても、意図しない引受先や、望まない引受先が株主になる可能性があります。

そのため、その株主が経営に対して批判的だったり、将来敵対的買収を仕掛けてくる可能性も排除できません。

このように、公募増資による新株の発行の場合は、株式の引受先が選べないという弊害があるのです。

一方、第三者割当増資の場合は、発行企業に対して友好的な取引先などを自由に選択してから実施することができるため、安心して資金調達を行うことができます。

そのため、第三者割当増資は、経営が不安定になったり、敵対的な企業が株主になったりするリスクが少ないのが特徴です。

信用力が強化できること

第三者割当増資により新株を発行することにより、資本金の増加を図ることができます。

また、資本金が増加することにより純資産も増加して、自己資本比率も高くなるのです。

一般的に自己資本比率が高い企業ほど、経営は安定して倒産する可能性が低い会社と言われています。

そのため、第三者割当増資を行うことにより自己資本比率が高くなり、金融機関や取引先からの信用力を強化することができます。

資金調達が容易なこと

第三者割当増資は、友好的な取引先や金融機関などが新株の引受先となり、発行企業に直接資金が投入されるため、比較的容易に資金調達ができる方法です。

同じように発行企業に直接資金が投入される公募増資と比較しても、少ない手続きで資金調達ができます。

また、金融機関などからの借り入れとは異な返済義務がないため、比較的容易に資金調達ができます。

そのため、第三者割当増資は、新規事業の立ち上げなどのすぐに資金が必要な事業展開に適した資金調達方法なのです。

引受先との関係が強化できること

第三者割当増資における新株の引受先は、友好的な取引先であることが多いため、株式を保有してもらうことで今まで以上の友好的な関係を強化することができます。

また、引受先企業にとっては株式を保有することにより、配当金を受け取ったり、株式を売却すれば売却益が期待できます。

発行会社の業績が上がっていけば、配当金が増えたり、株価も上がっていく可能性があるのです。

そのため、引受先企業にとっては、発行企業の業績向上のために、より取引を増大させることなどの協力をします。

その結果、発行企業にとっては、引受先企業との関係が強化できるのです。

敵対的買収を防衛できること

敵対的買収とは、買収企業が対象企業に対して経営権を支配することを目的に、対象企業の経営陣や株主の合意を得ないまま株式を多く集めることをいいます。

このような敵対的買収の防衛のために、第三者割当増資を活用するケースがあります。

即ち、敵対的買収と同タイミングで、第三者割当増資を実施することで、買収企業の持ち株比率を下げて敵対的買収を防衛するのです。

返済義務が無いこと

金融機関などからの借り入れによる資金調達の場合は、当たり前ですが返済義務が生じることになります。

一方、第三者割当増資による資金調達の場合は、返済義務が生じることはありません。

そのため、発行企業は、金融機関などへの返済を考えずに企業経営を行うことができます。

但し、配当金など株主に対しての還元は、必要になります。

譲渡税などの税金が発生しないこと

資金調達を行う場合、株式の譲渡であれば譲渡税がかかり、他の企業などからの贈与であれば贈与税がかかります。

しかし、第三者割当増資を実施した場合は、発行企業が新株を発行して引受先が資金を払い込む流れのため、譲渡は行われずに税金は発生しません。

そのため、発行企業は、第三者割当増資を実施することによる税金などの支出を、気にする必要はないのです。

手続きが容易なこと

第三者割当増資は、発行企業が公開会社であれば、取締役会決議において株式を発行することができますので、手続きが容易であり短い期間での資金調達が可能です。

但し、第三者割当増資を有利な株価で実施する場合は、株主総会の特別決議が必要になります。

安定株主対策を行えること

オーナー経営の企業の中には、オーナー経営者に株式が集まっていないところもあります。

このような場合は、反対株主から敵対的買収を仕掛けられる可能性もあるのです。

これを避けてオーナー経営者に株式を集中させて安定株主対策を行うためには、第三者割当増資を実施することが考えられます。

例えば、オーナー経営の企業が資金を調達するために、オーナー経営者が企業に対して個人資産を貸し付けているとします。

このようにオーナー経営者が企業に対して個人資産を貸し付けるのではなく、企業が第三者割当増資を実施してオーナー経営者がそれを引き受ける形にすることにより、オーナー経営者の株式が増えることになるのです。

オーナー経営者の株式が増えれば、反対株主の持株比率が低下して、安定株主対策ができることになります。

また、オーナー経営者自らが引受先になることができなくても、友好的な取引先などに引受先になってもらえば、同じように安定株主対策ができるのです。

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第三者割当増資のデメリット

第三者割当増資を行うことによるデメリットは、以下のようなことが挙げられます。

希薄化により既存株主の利益が減少する可能性があること

第三者割当増資を実施するということは、新株を発行するため、発行企業の発行済株式数が増えることです。

発行株式数が増えるということは、既存株主の株式の保有割合が減るとともに、1株当たりの株価が下がることになります。

これを株式の希薄化といい、第三者割当増資を実施すれば、生じる可能性があるのです。

そのため、第三者割当増資を実施する時には、株式の希薄化をできるだけ防ぐ対策が必要になります。

既存株主の持ち株比率が低下すること

第三者割当増資を実施することにより、既存株主の持ち株比率が低下します。

持ち株比率が低下するということは、企業の議決権の比率が下がり、企業に対する決定権などの権限が低下することです。

仮に、第三者割当増資の実施により、経営陣の持ち株比率が低下した場合は、企業の意思決定にも影響を与える可能性があります。

変更登記に時間を要すること

第三者割当増資の実施により新株を発行した場合は、会社法により払込期日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局に資本金の額や発行済株式数の変更登記を行う必要があります。

変更登記を行うには、手間もかかり時間も要するため、デメリットになります。

増資により納税額が増える可能性があること

資本金が1,000万円未満の企業は、消費税の免除事業者です。

また、資本金が1億円以下の企業は、年800万円以下の所得部分に対して、通常の法人税率ではなく15%の軽減税率が適用されます。

このように、第三者割当増資を実施して資本金が1,000万円以上、または1億円を越えた場合には、増資により納税額が増える可能性があります。

そのため、第三者割当増資を実施する場合は、増資による資本金の金額を注意する必要があるのです。

既存株主の株式が残るため100%の議決権の獲得は難しいこと

第三者割当増資は、新株を発行して友好的な取引先などに引き受けてもらう方法のため、既存株主が株式を手放すわけではありません。

第三者割当増資により議決権の獲得が増えたとしても、既存株主の株式が残っているため、100%の議決権の獲得は難しいです。

発行価格が低いと既存株主が損をすること

第三者割当増資の実施により発行された新株の株価が、発行企業の株式の時価よりも高い場合は問題はありません。

しかし、新株の株価が発行企業の株式の時価よりも低い場合は、既存株主が損をしてしまうため、既存株主を保護する必要があるのです。

そのため、第三者割当増資の実施により新株を発行する場合は、株価にも注意をする必要があります。

多額の資金が必要

安定株主比率を上げるためには、第三者割当増資で株式を取得する方が、株式譲渡で株式を取得するよりも多額の資金が必要です。

なぜなら、同じ安定株主比率にする場合に、株式譲渡の場合は既存の発行済株式数の中で必要な株式割合分を取得することになります。

一方、第三者割当増資の場合は、既存株主の株式数は変わらないため、同じ安定株主比率にするには株式譲渡よりも多くの株式を取得する必要があるのです。

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第三者割当増資の手続きの流れ

第三者割当増資の手続きの流れについては、会社法に定義されている手続きに沿って進める必要があります。

第三者割当増資の手続きの流れは、以下の通りに進められます。

募集要項の決定

第三者割当増資を実施する場合に、まずは会社法に定められている以下の募集要項について決める必要があります。

  • 募集株式の数
  • 募集株式の払込金額またはその算定方法
  • 金銭以外の財産を出資の目的の場合、その内容および価額
  • 払込期日または払込期間
  • 増加する資本金および資本準備金に関する事項等

これらの募集要項は、公開会社の場合には有利発行に該当する場合を除いて、取締役会決議によって決定することができます。

一方、株式譲渡制限会社などの非公開会社の場合は、株主総会の特別決議による決定が必要です。

既存株主に対する通知又は公告

取締役会決議または株主総会の特別決議により決定された第三者割当増資の募集要項は、払込期日の2週間前までに、既存株主に対して通知または公告をする必要があります。

引受申込先への通知

第三者割当増資の募集要項が決まったら、引受の申込みの対象先に対して、以下の項目を通知する必要があります。

  • 株式会社の商号
  • 募集事項
  • 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  • その他法務省令で定める事項

引受けの申込み

第三者割当増資の募集に対する引受けの申込み希望先は、期日までに以下の事項を記載した書面を交付する必要があります。

  • 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
  • 引受け予定の募集株式の数

割当増資の決議による割当先決定と引受申込者への通知

新株の引受けの申込み希望先の中から、株式の割当てを受ける人や企業と、発行新株数を決定します。

この手続きについては、基本的には株主総会の特別決議で決定しますが、取締役会設置企業であれば取締役会決議により決定することができるのです。

引受先の出資金の払い込みと株式の発行

第三者割当増資の募集株式の引受先は、払込日または払込期間内に、決められた払込金額を払い込む必要があります。

登記変更手続き

払込期間内または払込期日から2週間以内に、法務局での登記免許税の支払いと必要書類の提出をすることにより、登記の変更申請手続きを行う必要があります。

第三者割当増資を行う前に確認すべき注意点

第三者割当増資を活用する前に、確認しておかなければならない注意点について見ていきます。

既存株主の持ち株比率低下による影響

第三者割当増資を実施することで新株が発行されれば、株式総数は増えることになりますが、既存株主の持ち株比率が低下します。

そのため、場合によっては議決権の獲得ができなくなってしまう恐れがあります。

さらに、持ち株比率の低下は、発行企業と既存株主との関係性の弱体化にも繋がりますので、十分な注意が必要です。

一定以上の持株割合を得るためには多額な資金が必要なこと

企業の経営権を獲得するためには、一定以上の持株割合が必要です。

第三者割当増資を実施することによりこの一定以上の持株割合を獲得するためには、既存株主の株式が残るために、株式譲渡と比較して多額な資金が必要になります。

資本金が増えることにより税金が課される可能性かあること

資本金が1,000万円を越えた場合、消費税が課されることになります。

また、資本金が1億円以上になった場合には、法人税の軽減税率が適用できなくなります。

第三者割当増資により資本金が増えることによりこの基準を越えた場合には、税金が課される可能性かありますので注意が必要です。

変更登記の申請に期限があること

第三者割当増資を実施した場合の変更登記の申請期限は、払込日の翌日から2週間以内と定められています。

仮に2週間を越えてしまったとしても変更登記の申請は可能ですが、取締役に過料が科される可能性があります。

さらに長い時間変更登記が未申請だった場合には、休眠会社とみなされ強制的に解散させられることがあるため注意が必要です。

有利発行になっていないか

有利発行とは、新株を時価よりも低い金額で発行する行為のことをいいます。

有利発行を行うことは既存株主が保有している株式の希薄化が起こりますが、既存株主に経済的損失を与えてもよいとまでは認められてはいません。

しかし、発行会社にとっては、有利な株価で発行しないと資金調達ができないという現実があります。投資家としては、時価で株式を購入しても100万円で100万円のものを購入するわけですから特段利益にならないためです。時価より低い価格で株式を購入できるのであれば、低ければ低いほど多くの投資家を集めることができ多くの資金を調達できるためです。

そのため、発行会社としては、時価よりも低い金額で新株を発行したいのです。

日本証券業協会の「第三者割当増資の取扱いに関する指針」という証券会社向けの指針では、取締役会の直前の日の株価に0.9をを乗じた額以上の株価を払い込み金額とするように求めています。

第三者割当増資における新株の発行が有利発行かどうかは、この基準が下級審判決においては一定の判断基準になっています。

そのため、株価に0.9をを乗じた額以上の金額で新株の発行をすれば問題がないのですが、それ未満の場合は有利発行と判断されます。

当然ながら、新株の発行が有利発行になれば既存株主から苦情がでることが予想されますので、新株が有利発行の場合は、会社法で株主総会の特別決議を行うことが必要と定められているのです。

仮に株主総会の特別決議により有利発行が認められたとしても、不満が残る少数株主も少なからずいるかもしれません。

このような場合には、株主損害賠償請求を起こすことができ、実際に不公正発行として認められた判例もあります。

具体的に有利発行が利用されるケースとしては、急いで多額の資金調達をすることに迫られている場合や、会社の業績が悪化していて時価では十分な資金調達ができそうにない場合などがあります。

新株発行差止請求を起こされないか

企業が法令や定款に違反したり、著しく不公正な方法で株式の発行をすることで、株主が不利益を受ける恐れがある場合には、株主は新株発行差止請求を請求することができますので注意が必要です。

違反の例としては、株主総会の特別決議を行わない有利発行や、 取締役会の決議のない新株の発行や、既存株主に対する公告や通知を行わない新株発行などが挙げられます。

著しく不公正な方法で株式を発行したかどうかを判断するために、主要目的ルールといわれる判断基準があります。

主要目的ルールとは、資金調達などのために第三者割当増資を実施する正当な目的と、企業の支配権の維持目的とを比較して、支配権の維持目的の方が優越している場合に著しく不公正な方法で株式を発行したと判断されるものです。

不公正な方法の例としては、取締役が自己や地位を維持するための特定の人に株式を割り当てて、特定の株主の持株比率を下げるような場合や、支配目的のため企業の利益を無視して新株の発行を行うことなどが挙げられます。

新株発行差止請求は新株の発行前に行わなければならないものであり、新株発行の効力が発生した場合には行使することができません

また、新株発行差止請求や新株発行無効の訴と異なり会社法上に定められたものではありませんが、民事保全法上の仮処分に基づき新株発行差止の仮処分の申立を起こされる可能性があります。

新株発行差止請求を発行会社が受け入れない場合、新株発行無効の訴により訴えられることもありますが、新株発行無効の訴は新株の発行後に行われ、周囲への影響が大きいために認められないケースも多いです。

このような場合、新株発行差止の仮処分の申立を起こされる可能性があるのです。

この新株発行差止の仮処分が起こされた場合は、新株を発行してはいけないという仮の処分が設定されます。

新株発行無効の訴を起こされないか

新株発行差止請求は新株発行前に行われる請求ですが、新株発行後に行われる無効の主張である新株発行無効の訴を起こされる可能性があります。

新株発行無効の訴は、新株発行の日から6ヶ月以内(譲渡制限会社においては1年以内)に行う必要があります。

新株発行無効の訴は、新株の発行後に行われる分影響が大きいため、新株発行差止請求よりも要件が厳しいものです。

新株発行が無効になると考えられる要件としては、以下のケースが考えられます。

  • 発行可能総数を超えて新株を発行した場合
  • 非公開会社にもかかわらず株主総会による特別決議をせずに新株を発行した場合
  • 新株発行差止の仮処分に違反して新株を発行した場合

違法な新株発行による損害賠償や、株主代表訴訟にまで発展しないか

第三者割当増資を実施することは、既存株主の持ち株比率を下げて、場合によっては議決権の減少による影響力を下げる可能性もあります。

そのため、違法な新株発行による取締役の任務懈怠による損害賠償責任を請求されることや、株主代表訴訟、取締役の解任などに発展する可能性もありますので注意が必要です。

この場合の違法な新株発行とは、定款に記載されている発行可能総数を超えて新株を発行した場合や、特定の既存株主に対して株主総会招集通知をせずに違法な特別決議を行い有利発行を行った場合などが考えられます。

また、取締役の任務懈怠とは、法令等に違反する行為をするなど取締役としての任務を怠った場合にその企業に対して損害賠償責任を負うことをいいます。

例えば、第三者割当増資により有利発行を実施する場合であっても、株主総会の特別決議があれば適法に新株発行ができます。

既存の少数株主は、株式の総数の3分の1を保有しているケースはほとんどなく、3分の2以上の承認で可決する株主総会の特別決議に影響を及ぼすことができません。

そのため、既存株主は、持ち株比率の低下の目的による新株発行差止請求を起こすことができますが、これは新株の発行前に起こす必要があり、時間的に難しい場合が多いです。

このようなケースであっても、発行企業およびその役員に対して、不公正発行として株主損害賠償請求が認められた判例もありますので、発行企業は注意が必要です。

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第三者割当増資の株価算定方法

第三者割当増資における株価の算定方法には、「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」「コストアプローチ」の主に3つの方法があります。

これらの複数の方法から株価を算定することで、より客観的に株価の評価額を算出することができるのです。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、株式市場やM&A市場での取引価額や、類似企業などと比較することによって株価を決定する方法です。

具体的には、類似した公開企業の株価指標より算出する類似企業比較法や、市場株価を基にした平均株価により算出する市場株価法などがあります。

また、新株発行企業の業績と類似した公開企業の株価を基準として株価を求める類似業種批准法や、新株発行企業と規模、顧客属性、事業構造、製品サービスなどが類似した公開企業の株価を基準として株価を求める類似会社批准法や、M&Aの株式価値の算定によく使われる方法で類似企業のキャッシュを生み出す力をベースとして企業価値(株価)を算定するEV/EBITDAマルチプル法もマーケットアプローチによる株価算定方法です。

マーケットアプローチは、客観性が高いことが特徴の評価方法です。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、新株発行企業の今後に見込まれる収益性を基準に株価を決定する方法です。

具体的には、キャッシュフローからリスクに応じた割引率を差し引いた企業価値から株価を算定するDCF法が使われることが多いです。

また、将来の事業計画に基づきどのくらい利益がでるかを予測して株価を算定する収益還元法や、非公開企業の株価を算定する方法で株式の配当金を基準に株価を求める配当還元法もインカムアプローチによる株価算定方法です。

インカムアプローチは、将来的に成長することが見込まれる企業に適した評価方法になります。

コストアプローチ

コストアプローチとは、財務諸表上の資産や負債を基準に株価を決定する方法です。

具体的には、貸借対照表に記載された企業の資産や負債をそのまま使用して株価を算出する簿価純資産価額法と、資産や負債を時価に直してから算出する時価純資産価額法などがあります。

コストアプローチは、公開していない株式譲渡制限会社などの株価を算出するのに適した方法です。

まとめ

このように、第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を割り当てて発行する増資方法です。

第三者割当増資にはメリットデメリットも沢山ありますが、実施することで既存株主の持ち株比率が下がり、様々な問題が発生する可能性もありますので注意が必要です。

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