M&A契約書の遵守条項(コベナンツ)!

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遵守条項に関するメインのページです。本ページは、M&Aの契約において締結からクロージングまでの間及びクロージング後に当事者が守る約束の種類、違反の効果、競業避止の範囲の交渉の観点及び条項例をご説明します。条項の要点を短くまとめたものはM&A契約書の遵守条項の内容とポイントをご参照ください。

▶ 株式譲渡契約書の条項を売主の側から読む方法

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買主から株式譲渡契約書の案文が届きました。表明保証の条項に続いて、「売主は、本契約締結日からクロージング日までの間、対象会社をして、通常の業務の範囲内でその事業を運営させる」といった条文が何頁にもわたって並んでいます。どこまでが当然の約束で、どこからが重い負担なのかが分からないまま、署名の期日が近づいている。このようなご相談を、売主の方からも買主の方からもいただきます。

本記事は、株式譲渡契約書の案文を前にして、誓約の条項を受け入れてよいか、どこを修正すべきかを判断しようとしている売主及び買主の方に向けたものです。誓約の条項の意義を全体として把握したい方は、先にコベナンツとは?M&A契約と融資契約での意味から違反リスクまで弁護士が解説をご覧ください。本記事は、条項ごとの交渉の実務を扱います。

結論を先に申し上げます。誓約の条項は、締結からクロージングまでの誓約と、クロージング後の誓約とに分けて読むと、負担の実質が見えてきます。前者は売主の経営の自由を一時的に制約し、後者は売主の将来の事業を長く拘束します。誓約の違反は、クロージングの前提条件の不充足、契約の解除及び補償に直結します。署名の前に、範囲、期間及び例外を具体的に詰めておくことが大切です。

誓約の条項とは何か

誓約の条項とは、株式譲渡契約書の当事者が、相手方に対して、一定の行為をすること又はしないことを約束する条項です。契約書によっては「誓約事項(コベナンツ)」又は「遵守事項」と表記されます。名称が異なっても、将来の行為を約束するという性質は変わりません。

表明保証との違いを押さえておくと、条項の読み方が定まります。表明保証は、ある時点における事実が真実かつ正確であることを表明するものです。誓約の条項は、これから何をし、何をしないかを約束するものです。表明保証の考え方については、表明保証(レプワラ)とは?違反時の損害賠償・補償・解除と裁判例をわかりやすく解説で説明しています。

M&Aは、売主が株式を譲渡し、買主が代金を支払えば終わるものではありません。対象会社の経営を無事に引き渡し、買主が従前どおりの経営を続けられる状態で株式を受け取ることが必要です。買主が特別な構想を持っている場合には、それを実現できる形で経営を引き継ぐ必要もあります。これができなければ、そのM&Aは対象会社の企業価値を損なっただけで終わります。そこで株式譲渡契約書には、各種の誓約の条項が置かれます。

誓約の条項は、遵守すべき時期によって3つに分けられます。

  • 締結からクロージングまでの誓約(事業の運営の制限、後発事象の通知、承諾を要する行為など)
  • クロージングに伴う誓約(株式の譲渡の承認の取得、退任する役員の辞任届の提出など)
  • クロージング後の誓約(競業避止、従業員の勧誘の禁止、秘密保持、業務の引継ぎなど)

誓約を負う者によっても分けられます。売主の誓約が中心ですが、買主も、従業員の雇用の維持、売主の個人保証や担保の解除への協力、退任する役員の処遇などを誓約することがあります。このほか、取引先との契約に置かれた支配権の変更を理由とする解除の条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)への対応、商号の取扱いなども誓約の対象となります。何を約束すべきかは、対象会社ごとに個別具体的に異なります。

締結からクロージングまでの誓約

株式譲渡契約書の締結からクロージングまでには、数週間から数か月の期間が置かれることがあります。買主は、締結の時点の対象会社の状態を前提に価格を定めています。その間に資産が流出したり、重要な契約が解約されたりすれば、買主が想定した会社ではなくなります。この期間の誓約は、価格の前提を守るための約束です。

通常の事業の過程の維持

中心となるのは、対象会社の事業を従前と同様の方法で、通常の業務の範囲内で運営させるという誓約です。資産の維持、従業員や取引先との関係の維持も、あわせて求められることが多くあります。

売主の側で問題となるのは、「通常の業務の範囲」が曖昧である点です。季節的な大量の仕入れ、以前から予定していた設備の更新は、通常の業務といえるのか。判断が分かれるおそれのある行為は、あらかじめ事業計画や予算を別紙として添付し、その範囲内の行為は誓約に反しないと明記しておくと安心です。

条文の主語にも注意が必要です。株主である売主が、自ら対象会社の業務を執行するわけではありません。そのため条文は「売主は、対象会社をして……させる」と書かれるのが通例です。売主が経営に関与していない株主である場合には、結果を約束することはできません。その場合は、「議決権の行使その他売主が合理的に可能な範囲で」と限定することを検討します。

対象会社の企業価値に影響する事象(後発事象)を知った場合に、相手方へ通知する誓約も置かれます。通知したことで直ちに責任を免れるのか、通知しても補償の対象となるのかは、補償の条項との関係で確認しておく必要があります。

承諾を要する行為の一覧

通常の事業の過程の維持に加えて、一定の行為について買主の事前の承諾を要すると定めるのが一般的です。代表的な行為と、売主の側から見た留意点を整理いたします。

承諾を要するとされる行為売主の側から見た留意点
定款の変更、株式や新株予約権の発行、自己株式の取得通常は受け入れやすい事項です
剰余金の配当締結前から予定していた配当があれば、例外として明記します
一定額以上の借入れ、保証、担保の設定金額の基準を設けます。既存の借入れの借換えは除外を求めます
一定額以上の資産の取得や処分、設備投資予定済みの投資は別紙に記載して除外します
重要な契約の締結、変更及び解約「重要な」の意味を、金額又は取引先の名称で特定します
役員の選任及び解任、役員の報酬や退職慰労金の変更売主自身の役員退職慰労金の支給を予定している場合は、額と時期を契約に書き込みます
従業員の給与体系の変更、多数の採用や解雇定期の昇給や欠員の補充は例外とします
訴訟の提起及び和解時効の完成を防ぐための提起などは例外とします

一覧が長くなるほど、売主は日々の経営の都度、買主に伺いを立てることになります。承諾の手続にも工夫が必要です。「買主は承諾を不合理に拒絶しない」「一定の期間内に回答がなければ承諾したものとみなす」「緊急の場合は事後の通知で足りる」といった定めを求めることが考えられます。

クロージング後の誓約

クロージングが済めば、売主はもはや対象会社の株主ではありません。それでも、クロージング後の誓約は売主個人を長く拘束します。買主が支払った代金には、対象会社の顧客や従業員、事業上のノウハウの価値が含まれています。クロージング後の誓約は、その価値を売主が持ち出さないようにするための約束です。

取引の内容や対象会社の情報を第三者に開示しないという秘密保持の誓約も、ここに含まれます。秘密保持の期間と、法令上の開示や専門家への相談が例外として認められているかを確認します。

競業避止

売主が、クロージング後の一定の期間、対象会社と競合する事業を行わないという誓約です。長年の経営者が同じ地域で同じ事業を始めれば、顧客の多くがそちらへ移るおそれがあります。買主にとっては、最も重要な誓約の1つです。

事業譲渡であれば、会社法第21条第1項が、譲渡会社は当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内で、事業を譲渡した日から20年間は同一の事業を行ってはならないと定めています。株式譲渡の場合、株式を譲渡した株主にこの規定が当然に適用されるわけではありません。株式譲渡における競業避止は、契約の定めによって初めて生じるのが原則です。

従業員の勧誘の禁止

売主が、対象会社の役員や従業員に対して退職を勧誘し、又は自らの下へ引き抜くことを禁じる誓約です。中小規模の会社では、売主の個人的な信頼で従業員がつながっていることが少なくありません。買主が特に気にする点です。

従業員には職業選択の自由があります。この誓約が禁じるのは、売主の側からの勧誘です。売主の側としては、特定の者を対象としない一般的な募集広告に従業員が自ら応じた場合は対象外とするよう求めることが考えられます。取引先の勧誘の禁止も、同じ観点から範囲を確認します。

引継ぎ

オーナー経営者が売主となる場合、クロージング後も一定の期間、取締役や顧問として残り、取引先への挨拶や業務の引継ぎに協力する誓約が置かれることがあります。売主にとっては、次の事項を明確にすることが重要です。

  • 引継ぎの期間と、週に何日程度関与するのかという稼働の程度
  • 報酬の額と、それを株式譲渡契約書で定めるのか、別の顧問契約で定めるのか
  • 買主の都合で途中で関与を終えた場合の取扱い

引継ぎは、クロージング後の統合の作業と一体で進みます。その全体像については、譲渡の後の統合 売主が引き継ぐ義務と、引継ぎの期間の定め方をあわせてご覧ください。

誓約の違反が生じさせる効果

誓約の違反の効果は、クロージングの前後で異なります。

クロージングの前であれば、まずクロージングの前提条件との関係が問題となります。株式譲渡契約書では、相手方の誓約が重要な点において履行されていることを、クロージングの前提条件として定めるのが通例です。誓約の違反があれば、相手方はクロージングを拒むことができます。違反が重大な場合には、契約の解除事由とされていることも多くあります。前提条件や解除の条項の全体は、株式譲渡契約書(SPA)とは?記載事項と作成時やテンプレート利用時の注意点を解説で説明しています。

クロージングの後であれば、補償の条項に基づく補償が中心となります。契約の定めとは別に、債務不履行による損害賠償(民法第415条)が問題となる場面もあります。ここで確認すべきは、補償の上限額や請求期間が誓約の違反にも及ぶかという点です。買主は誓約の違反を上限の対象外とすることを求め、売主は上限を及ぼすことを求めるのが一般的です。

競業避止や勧誘の禁止に違反した場合、損害の額を証明することは容易ではありません。そのため、違約金の条項が置かれることがあります。民法第420条は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額を予定できると定め、違約金は賠償額の予定と推定されるとしています。違約金の額が過大であれば、その効力が争われることもあります。

1つの事実が、表明保証の違反と誓約の違反の双方に当たることもあります。たとえば締結後に隠れていた債務が判明し、その通知も怠っていた場合です。どちらの条項で責任を問われるかによって、上限や期間が変わることがあります。

競業避止の範囲を交渉する際の観点

競業避止は、期間、地域及び事業の範囲の3つを軸に交渉します。会社法第21条は事業譲渡に関する規定ですが、この3つの軸で考えるという発想は、株式譲渡の交渉にも参考になります。同条第2項は、同一の事業を行わない旨の特約は事業を譲渡した日から30年の期間内に限り効力を有すると定めています。同条第3項は、前2項にかかわらず、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならないと定めています。

期間は、売主にとって最も重要な交渉事項です。対象会社の顧客との関係が買主に移るまでに必要な期間を基準に考えます。期間が長すぎる競業避止は、売主の職業選択の自由を過度に制約するものとして、公序良俗(民法第90条)の観点から効力が争われることがあります。

地域は、対象会社が実際に営業している地域に限定することを検討します。もっとも、インターネットを通じて全国で取引する事業では、地域の限定が意味を持たないこともあります。その場合は、事業の範囲や顧客で絞り込みます。

事業の範囲は、対象会社がクロージングの時点で現に営んでいる事業に限定します。「将来営む可能性のある事業」まで含める案文は、売主の側から修正を求めるべきです。売主が別に経営している会社の事業や、上場会社の株式の少数の保有なども、例外として明記します。

対象者にも注意が必要です。売主の親族や売主が支配する会社にまで競業避止を及ぼす案文があります。売主は親族の行動を法的に支配できません。対象者を売主本人と売主が支配する会社に限ることを求めます。

買主の側から見れば、範囲を狭めすぎると、代金を支払って取得した顧客や従業員の価値が流出するおそれがあります。売主と買主のいずれの立場でも、対象会社の事業の実態に即して、守るべき価値の範囲を具体的に議論することが合意への近道です。

条項の記載例

以下は、説明のための一般的な条項例です。実際の契約では、対象会社の事業、取引の構造及び当事者の事情に応じた調整が必要です。期間や数値は例示にすぎません。そのまま用いることは避けてください。

条項例1 締結からクロージングまでの事業の運営

「売主は、本契約締結日からクロージング日までの間、対象会社をして、本契約締結日以前と実質的に同一の方法により、通常の業務の範囲内でその事業を運営させるものとする。ただし、別紙に記載する事業計画に基づく行為及び買主が事前に書面により承諾した行為については、この限りでない。」

条項例2 承諾の手続

「買主は、前項の承諾を不合理に拒絶し、留保し、又は遅延させてはならない。売主が書面により承諾を求めた日から5営業日以内に買主が回答しない場合、買主は当該行為を承諾したものとみなす。」

条項例3 競業避止

「売主は、クロージング日から3年間、対象会社がクロージング日において現に営む事業と競合する事業を、自ら又は売主が支配する会社をして行ってはならない。ただし、上場会社の発行済株式の総数の5パーセント以下の株式を保有することは、この限りでない。」

条項例4 従業員の勧誘の禁止

「売主は、クロージング日から2年間、対象会社の役員又は従業員に対し、対象会社からの退職を勧誘してはならない。ただし、特定の者を対象としない一般的な募集に自ら応じた者を雇用することは、この限りでない。」

署名の前に確認する事項

案文を受け取られたら、署名の前に、次の事項をご確認ください。

  1. 誓約の条項を、締結からクロージングまで、クロージングに伴うもの、クロージング後の3つに分けて書き出してください。
  2. クロージングまでに予定している配当、借入れ、設備投資、役員退職慰労金の支給などを列挙し、例外として明記されているかを確かめてください。
  3. 取引先の承諾の取得など、自らの力だけでは実現できない事項が、結果を約束する形になっていないかを確かめてください。努力する義務にとどめる修正を検討します。
  4. 競業避止の期間、地域、事業の範囲及び対象者を、具体的な事業に当てはめて読んでください。
  5. 誓約の違反に補償の上限額と請求期間が及ぶか、違約金の定めがあるか、その額はいくらかを確かめてください。
  6. 従業員の雇用の維持、個人保証の解除への協力など、買主に求めたい誓約が記載されているかを確かめてください。

最終契約書の条項全体の読み方については、株式譲渡契約書の交渉 表明保証、補償及び誓約条項において売主が確認すべき事項も参考になります。

当事務所の関与

当事務所は、株式譲渡契約書の案文の審査のご相談をお受けしています。誓約の条項について、売主又は買主のお立場から、負担の実質と修正すべき箇所を整理いたします。修正案の作成、相手方やM&A仲介会社への説明の方法についても助言いたします。

誓約の条項は、表明保証や補償の条項と組み合わさって初めて負担の大きさが決まります。1つの条文だけを見て判断すると、思わぬ責任を負うことがあります。署名の期日が迫っている場合でも、まずは案文をお手元にご用意のうえ、お早めにご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍の後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻いたしました。不動産投資信託の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する裁判において逆転判決を得ました。主として取り扱う分野は、M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務であります。詳しくは執筆者紹介を御覧ください。

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