
M&A契約書に記載された「コベナンツ」について、相手方から違反を指摘されたものの、どのような責任が生じるのか分からない方もいるでしょう。反対に、相手方が約束した行為を行わず、補償請求や契約解除を検討している方もいるかもしれません。
コベナンツとは、契約当事者に一定の行為をする義務またはしない義務を課す誓約事項です。M&A契約では、契約締結からクロージングまでの対象会社の事業運営・必要な承諾の取得・クロージング後の競業避止義務などが定められます。違反時には、クロージングの拒絶・補償請求・損害賠償請求・契約解除などが問題になる場合があります。
この記事では、M&A契約におけるコベナンツの意味・種類・他の契約条項との関係・違反時の法的効果・トラブルへの対応方法を解説します。融資契約上のコベナンツについても、M&Aとの関係を理解するうえで必要な範囲で取り上げます。
M&A契約のコベナンツを巡るトラブルでお困りの方へ
弁護士法人M&A総合法律事務所では、M&A契約の解釈・コベナンツ違反の有無・補償請求・契約解除・交渉・訴訟などに関するご相談を受け付けています。
コベナンツとは?M&A契約と融資契約での意味
コベナンツは英語の「Covenant」に由来し、契約上の誓約・約束を意味します。法律上の一つの定型的な制度を指す言葉ではなく、契約当事者が一定の行為をすること、またはしないことを約束する条項の総称として使われます。
コベナンツはM&A契約のほか、融資契約・社債・投資契約・株主間契約などでも用いられます。ただし、M&A契約上のコベナンツと融資契約上のコベナンツでは、目的・当事者・違反時の効果が異なります。
M&A契約におけるコベナンツ(誓約事項)
M&A契約におけるコベナンツは、売主・買主その他の契約当事者が、取引に関連して一定の行為をすること、または一定の行為をしないことを約束する条項です。「誓約条項」「遵守条項」と呼ばれることもあります。
株式譲渡契約では、たとえば次のような事項が定められます。
- クロージングまで、対象会社の事業を通常の業務過程に従って運営すること
- 重要な資産の処分・多額の借入れ・組織再編などを、買主の事前承諾なく行わないこと
- 対象会社に重大な事象が発生した場合に相手方へ通知すること
- 株式譲渡承認・許認可・取引先の承諾など、取引に必要な手続に協力すること
- クロージング後、一定の範囲で競業や従業員の勧誘を行わないこと
- 事業の引継ぎや売主の保証債務の解消などに協力すること
具体的な義務は、取引の手法・対象会社の事業・当事者の交渉結果によって異なります。
融資契約におけるコベナンツ
融資契約におけるコベナンツは、借り手に一定の財務状態の維持や行為の制限などを求める特約です。財務数値に関するものだけでなく、情報提供義務・担保提供制限・資産処分制限・追加借入制限なども含まれます。
財務に関するコベナンツは「財務制限条項」「財務コベナンツ」と呼ばれます。したがって、融資契約上のコベナンツ全体と財務制限条項は同じ意味ではありません。
融資契約上のコベナンツに抵触した場合の効果は、契約書の期限の利益喪失条項・通知の要否・違反状態を解消するための期間(契約上「治癒期間」と呼ばれることがあります)・金融機関による権利行使・ウェーバーの有無などによって変わります。抵触しただけで直ちに融資残高の一括返済が確定するとは限りません。
M&A契約と融資契約における違い
| 項目 | M&A契約上のコベナンツ | 融資契約上のコベナンツ |
|---|---|---|
| 主な当事者 | 売主・買主 | 金融機関・借り手 |
| 主な目的 | 取引の実行・対象会社の事業価値の維持・取引後の義務の確保 | 債権保全・借り手の財務状態・行為の確認 |
| 代表例 | 通常の業務過程に従った事業運営・事前承諾・通知・競業避止 | 財務指標の維持・情報提供・担保提供制限・資産処分制限 |
| 違反時に生じ得る主な問題・対応 | 前提条件の不充足・補償・損害賠償・解除・差止め | 期限の利益喪失・条件変更・追加担保・ウェーバー |
M&Aで買収資金を金融機関から調達する場合は、M&A契約と融資契約の双方にコベナンツが置かれることがあります。買主は、売主との契約だけでなく、既存の融資契約や買収ファイナンスの契約にも抵触しないかを確認する必要があります。
M&A契約におけるコベナンツの位置づけ
M&A契約上のコベナンツは、表明保証条項・補償条項・クロージングの前提条件・解除条項などと関係します。コベナンツだけを読んでも、違反時にどのような請求ができるかは確定しません。契約書全体を確認する必要があります。
表明保証条項との違い
表明保証条項は、契約締結時やクロージング時などの一定時点において、特定の事実・状態が真実かつ正確であることを表明し、保証する条項です。
これに対し、コベナンツは、当事者が一定の行為をする義務またはしない義務を定めます。
たとえば、「対象会社に未開示の訴訟が存在しない」という内容は表明保証として定められます。一方、「契約締結後に訴訟が提起された場合は、直ちに買主へ通知する」という内容はコベナンツとして定められます。
M&A契約の主要条項については、M&A契約書に関する総合案内もご確認ください。
補償条項との関係
M&A契約では、表明保証違反やコベナンツ違反によって相手方に損害・損失・費用などが生じた場合に、補償請求を認める条項が置かれることがあります。
コベナンツ違反が補償対象とされている場合は、補償条項に定められた対象範囲・請求期間・上限額・基準額・請求手続などを確認します。契約上の補償請求と、民法上の債務不履行に基づく損害賠償請求は、根拠・要件・損害の範囲が異なる場合があります。
補償条項については、補償条項(インデムニティ)の解説もご参照ください。
クロージングの前提条件との関係
契約締結日とクロージング日が異なるM&A取引では、クロージングを行うための前提条件が定められるのが一般的です。コベナンツが重要な点において履行されていることを、相手方のクロージング義務の前提条件とする場合があります。
コベナンツ違反によって前提条件が充足されず、その条件が免除されていない場合、相手方がクロージング義務を負わないことがあります。ただし、前提条件の文言・違反の重要性・違反状態が解消されたかどうか・条件を免除できる当事者などは契約ごとに異なります。
解除条項との関係
コベナンツ違反が契約上の解除事由として定められることもあります。ただし、違反があれば常に解除できるとは限りません。
解除の可否は、契約上の解除条項に加え、違反の内容・催告の要否・違反状態を解消するための期間・クロージングの前後・民法上の解除要件などを踏まえて判断します。M&A契約では、クロージング後の解除を制限し、補償請求などによって処理する旨を定める場合もあります。
コベナンツ違反を指摘された方・相手方の違反を追及したい方へ
コベナンツ違反の効果は、当該条項だけでなく、補償条項・前提条件・解除条項・責任制限条項などによって変わります。契約書と通知書等を確認したうえで対応をご案内します。
M&A契約におけるコベナンツの種類
M&A契約のコベナンツは、主にクロージング前の誓約事項とクロージング後の誓約事項に分けられます。また、義務の内容によって、作為義務と不作為義務に分けることもできます。
クロージング時に行う書類の交付・株式の移転・譲渡代金の支払いなどは、コベナンツとは別に「クロージング時の履行事項」として定められることがあります。
クロージング前のコベナンツ(プレクロージング・コベナンツ)
クロージング前のコベナンツは、契約締結日から取引の実行日までの期間に、対象会社の状態を大きく変えないことや、取引の実行に必要な対応を進めることを目的として置かれます。
主な内容は次のとおりです。
- 対象会社の事業を通常の業務過程に従って運営する義務
- 重要な資産の取得・処分・担保設定に関する事前承諾義務
- 多額の借入れ・保証・設備投資・配当等に関する事前承諾義務
- 役員・従業員の報酬や雇用条件を大幅に変更しない義務
- 重要な契約の締結・変更・解除を制限する義務
- 重大な事象が発生した場合の通知義務
- 株式譲渡承認・許認可・取引先の承諾等を取得するための協力義務
「通常の業務過程に従って事業を運営する義務」は、民法・会社法上の善管注意義務と同じものではありません。違反の有無は、契約書に定められた基準と対象会社の過去の運営状況などを踏まえて確認します。
また、対象株式が譲渡制限株式である場合は、株式譲渡について会社の承認を取得する義務が定められることがあります。
クロージング時の履行事項
クロージング時には、売主と買主が同時にまたはあらかじめ定めた順序で、契約上の履行を行います。
株式譲渡では、たとえば次のような事項が定められます。
- 株券発行会社である場合の株券の交付
- 株主名簿書換請求書その他の必要書類の交付
- 譲渡代金の支払い
- 役員の辞任届や新任役員の選任に必要な書類の交付
- 対象会社の通帳・印章・契約書・許認可関係書類などの引渡し
- 売主または買主が取得すべき証明書・承諾書の提出
許認可の取得やチェンジ・オブ・コントロール条項への対応は、その内容に応じて、クロージング前のコベナンツまたはクロージングの前提条件として定められます。
チェンジ・オブ・コントロール条項とは、対象会社の支配権が変わった場合に、取引先が契約を解除できる、事前承諾が必要になるなどの効果を定めた条項です。対応を怠ると、重要な取引先との契約を継続できないおそれがあります。
クロージング後のコベナンツ(ポストクロージング・コベナンツ)
クロージング後のコベナンツは、取引実行後の引継ぎや、買主が取得した事業・顧客・人材などを守るために設けられます。売主だけでなく、買主に義務が課される場合もあります。
代表例は次のとおりです。
- 売主の競業避止義務
- 売主による従業員・取引先の勧誘禁止義務
- 売主による事業・顧客・取引先等の引継協力義務
- 売主や旧経営者の個人保証・担保の解消に関する買主の協力義務
- 従業員の雇用・待遇に関する買主の義務
- 商号・商標・ウェブサイト等の使用停止または変更義務
- クロージング後に必要となる許認可・届出・税務対応等への協力義務
競業避止義務の範囲は、期間・地域・対象事業・禁止される行為などによって異なります。広すぎる制限については有効性が争われる場合があるため、契約文言と実際の行為を確認する必要があります。
作為義務と不作為義務
コベナンツは、義務の方向によって次のように分けられます。
| 区分 | 内容 | M&A契約での例 |
|---|---|---|
| 作為義務(アファーマティブ・コベナンツ) | 一定の行為をする義務 | 通常の業務過程に従った事業運営・必要な承諾の取得・通知・引継協力 |
| 不作為義務(ネガティブ・コベナンツ) | 一定の行為をしない義務 | 重要資産の無断処分・無断借入れ・競業・従業員の勧誘などの禁止 |
作為義務では、必要な行為を期限までに行ったかが問題になります。不作為義務では、禁止された行為に該当する事実があったかが問題になります。
M&Aの資金調達に関連する融資契約上のコベナンツ
本記事の中心はM&A契約上のコベナンツですが、「コベナンツ」という言葉は融資契約の文脈でも広く使われます。M&Aの買収資金を借入れで調達する場合や、対象会社に既存借入れがある場合は、融資契約上のコベナンツも確認が必要です。
財務コベナンツの代表例
財務コベナンツは、借り手に一定の財務指標を維持することを求める条項です。代表例は次のとおりです。
| 指標・条項 | 概要 |
|---|---|
| 純資産維持条項 | 純資産額を一定額以上または前期末の一定割合以上に維持する条項 |
| 利益維持条項 | 経常利益等について一定期間の赤字を回避することなどを求める条項 |
| レバレッジ・レシオ | 純有利子負債等をEBITDA等で除した比率に上限を定める条項 |
| DSCR | 元利金返済に充てられるキャッシュフローと元利金返済額の比率に下限を定める条項 |
| ICR | 営業利益等と支払利息の比率に下限を定める条項 |
レバレッジ・レシオは上限を超えた場合、DSCRやICRは下限を下回った場合に抵触する設計が一般的です。ただし、純有利子負債・EBITDA・キャッシュフロー・支払利息等の定義や計算期間は契約ごとに異なります。
非財務コベナンツの代表例
非財務コベナンツには、財務数値以外の行為・状態に関する義務が含まれます。
- 決算書・試算表・事業計画等の情報提供義務
- 重要な訴訟・事故・法令違反等の通知義務
- 担保物の維持・管理義務
- 追加借入れ・保証・担保提供の制限
- 重要資産の処分・組織再編・M&Aの制限
- 配当・自己株式取得・役員報酬等による資金流出の制限
M&Aの実行そのものが、既存融資契約上の事前承諾事項に該当する場合もあります。売主・買主の双方が、対象会社や自社の借入契約を確認する必要があります。
LBOファイナンスにおけるコベナンツ
LBO(レバレッジド・バイアウト)ファイナンスでは、対象会社の事業から生じるキャッシュフローを主な返済原資として買収資金を調達します。借入額・財務構成・担保・返済計画などに応じて、通常の事業融資より詳細な財務・非財務コベナンツが置かれることがあります。
財務指標の維持・月次・四半期の情報提供・追加借入れ・資産処分・配当等の制限のほか、余剰キャッシュフローの一定割合を期限前返済に充てるキャッシュスイープ条項が定められることもあります。キャッシュスイープは返済方法に関する条項であり、財務指標を維持する財務コベナンツとは区別して確認します。
財務上の特約に関する開示制度
2023年12月に公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正は、2024年4月1日に施行されました。有価証券報告書等の提出会社について、一定規模以上のローン契約・社債に付された財務上の特約の開示が拡充されています。
有価証券報告書等への記載については、財務上の特約が付されたローン契約・社債の残高が連結純資産額の10%以上である場合に、契約等の概要と財務上の特約の内容を開示する制度が設けられています。同種の契約・社債については、負債の額を合算して判定します。原則として、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されています。
詳しくは、金融庁の公表資料をご確認ください。
M&Aに伴う契約関係を一括して確認したい方へ
M&A契約上のコベナンツだけでなく、対象会社の重要契約・チェンジ・オブ・コントロール条項・既存借入契約などが問題になる場合があります。契約書の確認や相手方との協議についてご相談ください。
M&A契約でコベナンツ違反が問題になる主なケース
M&A契約上のコベナンツ違反は、契約締結後の事業運営・通知・承諾手続・クロージング後の競業・引継ぎなどを巡って発生します。対象会社の価値が下がったという結果だけで違反になるわけではなく、契約上の義務に反した行為または不作為があったかを確認する必要があります。
事前承諾を得ずに重要な行為を行った
売主が、買主の事前承諾を必要とする行為を無断で行った場合、プレクロージング・コベナンツ違反が問題になります。
たとえば、契約締結後に次のような行為を行った場合です。
- 重要な資産を売却した
- 多額の借入れや保証を行った
- 多額の設備投資を決定した
- 重要な取引先との契約を変更・解除した
- 役員や主要従業員の報酬・雇用条件を大幅に変更した
- 配当や自己株式取得を行った
違反の成否は、承諾の対象となる行為・金額基準・例外・承諾方法などによって変わります。口頭のやり取りが承諾に当たるか、承諾を求める資料が十分だったかなどが争われる場合もあります。
重要な事象を通知しなかった
対象会社に重大な事故・訴訟・行政調査・取引先の離脱・業績悪化などが発生した場合に、売主に買主への通知義務が課されていることがあります。
通知しなかったこと自体がコベナンツ違反となるほか、表明保証違反・クロージングの前提条件・重大な悪影響に関する条項などが同時に問題になる場合があります。
対象会社の価値低下そのものが直ちにコベナンツ違反になるわけではありません。通常の業務過程に従った運営義務・事前承諾義務・通知義務に違反したかを個別に確認します。
必要な承認・承諾を取得できなかった
譲渡制限株式の譲渡承認・許認可・取引先の同意・チェンジ・オブ・コントロール条項に基づく承諾などが、コベナンツまたはクロージングの前提条件として定められることがあります。
必要な承認・承諾を取得できない場合、クロージングを実行できない、重要契約を継続できない、相手方から契約解除を主張されるといった問題が生じます。
ただし、当事者に求められる義務が「必ず取得する義務」なのか、「合理的な範囲で取得に努める義務」なのかによって、違反の判断は異なります。
競業避止義務・勧誘禁止義務に違反した
クロージング後に売主が対象会社と競合する事業を始めた場合や、対象会社の従業員・取引先へ移籍や取引変更を働きかけた場合は、競業避止義務・勧誘禁止義務の違反が問題になります。
契約上禁止される事業の範囲・地域・期間・直接・間接の行為・例外として認められる投資などを確認します。また、条項による制限が広すぎる場合は、その有効性が争われることもあります。
クロージング後の引継義務を履行しなかった
売主や旧経営者が、顧客・取引先・従業員への引継ぎ・許認可手続・契約名義の変更・資料の提供などに協力する義務を負うことがあります。
引継ぎが行われないことで、取引先との関係が悪化した、売上げが減少した、必要な手続ができなかったといった場合は、義務違反と損害との因果関係が争点になります。
M&Aの実行が既存融資契約に抵触した
対象会社や当事者の既存融資契約に、組織再編・株主変更・重要資産の処分などについて金融機関の事前承諾を求める条項が置かれていることがあります。
承諾を得ずにM&Aを実行すると、融資契約上のコベナンツ違反や期限の利益喪失事由への該当が問題になる場合があります。M&A契約を締結する前に、既存借入契約の確認が必要です。
コベナンツ違反の法的効果
コベナンツ違反によってどのような効果が生じるかは、契約書の文言・違反の内容・重要性・違反状態が解消されたかどうか・相手方による通知・権利行使・クロージングの前後などによって異なります。
クロージングの前提条件が充足されない
コベナンツの履行がクロージングの前提条件とされている場合、違反によって前提条件が充足されず、相手方がクロージング義務を負わないことがあります。
ただし、軽微な違反を除外する定め・違反状態を解消するための期間・前提条件の免除などが定められている場合もあります。契約書の条件を確認せずに、クロージングの拒絶が当然に認められると判断することはできません。
履行請求・違反状態の解消を求められる
相手方は、未履行の義務を履行することや、違反状態を解消することを求める場合があります。
たとえば、未提出の資料を提出する、無断で締結した契約を解消する、必要な承諾を取得する、競業行為を停止するといった対応です。契約に違反状態を解消するための期間が定められている場合は、その期限内に必要な対応を行えるかを確認します。
補償請求・損害賠償請求
契約上、コベナンツ違反が補償対象とされている場合は、補償条項に基づく請求が問題になります。
補償条項では、次のような事項を確認します。
- 補償対象となる違反・損害・損失・費用の範囲
- 基準額・バスケット・補償上限額
- 請求できる期間
- 請求通知の方法・記載事項・提出期限
- 第三者から請求を受けた場合の防御手続
- 違反当事者の故意・過失等の帰責事由が必要とされているか
補償条項の適用がない場合でも、民法上の債務不履行に基づく損害賠償請求が問題になることがあります。ただし、契約で責任の範囲・上限・請求方法を定めている場合があるため、契約全体の確認が必要です。
契約解除
コベナンツ違反が契約上の解除事由に該当する場合や、民法上の解除要件を満たす場合は、契約解除が問題になります。
民法第541条は催告による解除、第542条は催告を要しない解除について定めています。違反が契約および取引上の社会通念に照らして軽微である場合、原則として催告による解除は認められません。
契約が解除された場合は、民法第545条に基づく原状回復が問題になります。ただし、M&Aでは多数の関係者や対象会社の事業が関係するため、クロージング後の巻き戻しが困難なことがあります。そのため、クロージング後の解除を制限し、補償請求などに救済方法を限定する契約もあります。
民法の条文は、e-Gov法令検索「民法」で確認できます。
差止め・仮処分
競業避止義務・勧誘禁止義務などの違反が続き、損害の拡大が懸念される場合は、違反行為の差止めを求めることがあります。
訴訟の判決を待つことが難しい場合には、仮処分を申し立てることも検討されます。仮処分が認められるためには、差止請求権などの被保全権利と、保全の必要性を示す必要があります。
融資契約上の期限の利益喪失
融資契約上のコベナンツ違反が期限の利益喪失事由として定められている場合、期限の利益喪失や一括返済請求が問題になります。
契約によっては、一定の事由が発生すると自動的に期限の利益を失う場合と、金融機関からの請求によって失う場合があります。通知の要否・違反状態を解消するための期間の有無も確認が必要です。シンジケートローンの場合は、多数貸付人の意思決定手続も確認します。
金融機関が特定の違反について権利を行使しないことや、違反を免除することは「ウェーバー」と呼ばれます。基準値・返済条件などの契約内容自体を変更する合意とは区別されます。
コベナンツ違反の通知・請求を受けた場合は、早めに契約書をご確認ください
回答期限・違反状態を解消するための期間・請求通知の要件・解除やクロージングに関する期限が定められている場合があります。相手方への回答前に、契約内容と事実関係を確認することが大切です。
コベナンツ違反を指摘されたときに確認すること
相手方からコベナンツ違反を指摘された場合は、違反を認めるか否かを直ちに回答するのではなく、契約書・事実・証拠・期限を確認します。
どの条項の違反を指摘されているか
まず、相手方が根拠としている条項を特定します。コベナンツだけでなく、表明保証・前提条件・補償・解除・通知・責任制限などの条項が同時に主張されていないかを確認します。
契約書の条番号だけでなく、定義条項・別紙・開示資料・修正契約書なども確認が必要です。
指摘された行為と契約文言が一致するか
実際に行われた行為が、契約で禁止または要求されている行為に該当するかを確認します。
たとえば、事前承諾が必要な「重要な契約」の範囲・通常の業務過程に含まれる行為・競業に当たる事業・勧誘に当たる働きかけなどは、当事者間で解釈が分かれることがあります。
承諾・免除・例外がなかったか
相手方が書面・メール・会議等で承諾していた場合や、特定の行為がコベナンツの例外として認められている場合は、違反が成立しない可能性があります。
また、相手方が違反を知りながら取引を進めた場合でも、当然に権利を放棄したことになるとは限りません。ノー・ウェーバー条項や権利放棄の要件を確認します。
違反状態を解消できるか
契約に違反状態を解消するための期間が定められている場合は、その期限内に解消できるかを検討します。そのような期間の定めがなくても、相手方との合意によって対応方法や期限を決められる場合があります。
必要な承諾の取得・未提出資料の提出・競業行為の停止・契約の変更・解消など、違反内容に応じて対応を検討します。
通知・請求の手続が守られているか
補償請求・解除・前提条件の不充足などを主張する際に、通知期限・送付方法・記載事項が契約で定められていることがあります。
相手方の通知が契約上の要件を満たしているか、自社から反論・留保・違反状態を解消するための対応案をいつまでに提示すべきかを確認します。
証拠を確保する
契約締結前後の交渉経緯・メール・チャット・議事録・稟議書・取締役会資料・財務資料・相手方へ提出した資料などを確保します。
担当者の退職・メールの保存期限・システムの更新などによって資料が失われることがあります。関係資料を削除・変更しないよう、社内で保存方法を定める必要があります。
コベナンツトラブルで弁護士に相談する利点
コベナンツを巡るトラブルでは、契約文言だけでなく、契約締結時の経緯・当事者間のやり取り・対象会社への影響・損害の有無などを確認する必要があります。
違反の有無を契約全体から確認できる
弁護士は、コベナンツだけでなく、定義条項・表明保証条項・補償条項・前提条件・解除条項・責任制限条項などを確認します。
相手方の主張が契約文言に沿っているか、自社に反論の余地があるか、承諾・例外・違反状態の解消によって対応できるかを検討します。
請求できる範囲・請求される範囲を検討できる
違反があっても、相手方が主張する損害のすべてが補償・損害賠償の対象になるとは限りません。
因果関係・損害額・契約上の上限・基準額・請求期間・損害の拡大を防ぐために講じられた措置・第三者からの回収・保険金などを確認します。対象会社の価値低下や逸失利益が問題になる場合は、必要に応じて公認会計士・税理士等と連携して検討します。
相手方との交渉・通知に対応できる
違反通知への回答・補償請求書・解除通知・違反状態を解消するための対応案・和解案などは、後の訴訟で証拠として使われる可能性があります。
不用意に責任を認める表現を避けながら、必要な事実・法的主張・留保事項を記載し、相手方との交渉に対応します。
訴訟・仮処分を見据えて証拠を確認できる
交渉で解決しない場合は、訴訟や仮処分が必要になることがあります。契約書・交渉記録・社内資料・財務資料などを確認し、主張を裏付ける証拠を確保します。
競業避止義務違反の差止めなど、時間の経過によって損害が広がるおそれがある案件では、早期に手続を検討する必要があります。
M&Aの関連分野を含めて確認できる
当事務所では、これまでに400件以上のM&A案件に関与してきました。財務・会計・税務分野については公認会計士・税理士と、人事労務分野については社会保険労務士と協働しています。
コベナンツ違反に加え、表明保証・補償・競業避止義務・役員・従業員・株式価値・既存融資契約などが関係する場合もご相談いただけます。当事務所の対応分野は、取扱業務一覧でご確認ください。
コベナンツ違反トラブルの解決方法
解決方法には、当事者間の交渉・民事調停・裁判外紛争解決手続(ADR)・訴訟・仮処分などがあります。必ずしも順番に進むものではなく、請求内容・緊急性・相手方の対応・証拠の状況などに応じて選択します。
当事者間の交渉
まず、違反の有無・違反状態の解消が可能か・損害の範囲・今後の契約履行などについて交渉することがあります。
クロージング前であれば、承諾取得の期限延長・契約条件の変更・価格の再協議・前提条件の免除などが問題になります。クロージング後であれば、補償金の支払い・競業行為の停止・引継ぎの実施・和解契約の締結などを検討します。
融資契約上のコベナンツに抵触した場合は、金融機関とウェーバー・基準値の変更・返済条件の変更・追加担保等について協議することがあります。
民事調停・裁判外紛争解決手続(ADR)
民事調停は裁判所で行われる手続です。調停委員会を介して、当事者間の合意による解決を目指します。
裁判外紛争解決手続(ADR)は、裁判所以外の機関が関与する手続です。利用できる機関や手続内容は案件によって異なります。
いずれも合意による解決を基本とするため、相手方が参加しない場合や合意に至らない場合は、訴訟等を検討します。
訴訟
交渉等で解決しない場合は、補償金・損害賠償金の支払い・解除の有効性・債務の不存在などを巡って訴訟を行うことがあります。
訴訟では、契約条項の解釈・違反行為の有無・承諾・免除・違反状態が解消されたかどうか・因果関係・損害額などが争点になります。契約締結時の交渉記録や、違反前後の社内資料・相手方との連絡が重要な証拠になる場合があります。
仮処分等の保全手続
競業行為や従業員の勧誘が継続している場合など、判決まで待つと回復しにくい損害が生じるおそれがある場合は、差止めを求める仮処分を検討します。
また、金銭請求について相手方の財産が処分されるおそれがある場合は、仮差押えを検討することもあります。保全手続では、権利の存在と保全の必要性を疎明し、裁判所から担保の提供を求められる場合があります。
交渉・訴訟・仮処分への対応をご検討中の方へ
相手方へ通知する前、または相手方から届いた通知へ回答する前に、契約条項・期限・証拠を確認することをおすすめします。
当事務所に依頼した場合の弁護士費用
M&Aのコベナンツトラブルは、契約内容・請求額・当事者数・証拠の量・交渉・訴訟・保全手続の要否などによって、必要な対応が異なります。そのため、弁護士費用は、ご相談内容と対応範囲を確認したうえで個別にご案内します。
具体的な料金体系・追加費用・適用条件などの最新情報は、弁護士費用一覧をご確認ください。ご相談時には、想定される対応と費用についてご説明します。
費用やご依頼の範囲についてご相談ください
契約書・相手方からの通知書・これまでの経緯が分かる資料をご用意いただくと、必要な対応を検討しやすくなります。
ご相談からご依頼後の対応まで
お問い合わせ
まずはお問い合わせフォームからご連絡ください。
コベナンツ違反を指摘された場合は、M&A契約書・修正契約書・開示資料・相手方からの通知・関連するメール等をご用意ください。相手方の違反を追及したい場合は、違反行為が分かる資料や損害に関する資料も必要です。
ご相談
ご相談では、提供いただいた資料と経緯を確認できる範囲で、主な問題点・追加で必要な資料・検討できる対応をご説明します。
回答期限・クロージング予定日・競業行為の継続など、時間の制約がある場合は、お問い合わせ時にお知らせください。
対応方針と費用のご案内
交渉・通知書の作成・契約履行の請求・補償請求・訴訟・仮処分など、案件に応じた対応を検討します。対応範囲を確認したうえで、弁護士費用をご案内します。
ご依頼後の対応
ご依頼後は、契約書・証拠の確認・相手方への通知・回答・交渉・必要に応じた裁判手続などを進めます。事実関係や相手方の対応が変わった場合は、その内容を踏まえて対応を見直します。
コベナンツに関するよくあるご質問
コベナンツと表明保証は何が違いますか?
表明保証は、一定時点の事実・状態が真実かつ正確であることを表明し、保証する条項です。コベナンツは、当事者が一定の行為をする義務またはしない義務を定める条項です。
たとえば、契約締結時に重要な法令違反がないことは表明保証として定められます。契約締結後に法令違反が判明した場合の通知義務は、コベナンツとして定められます。
コベナンツに違反すると必ず契約解除になりますか?
必ず解除になるわけではありません。解除の可否は、契約上の解除事由・違反の内容・重要性・催告の要否・違反状態を解消するための期間・クロージングの前後・民法上の解除要件などによって判断されます。
契約によっては、クロージング後の解除を制限し、補償請求などに救済方法を限定している場合もあります。
対象会社の業績が悪化しただけでコベナンツ違反になりますか?
業績が悪化したという結果だけで、直ちにM&A契約上のコベナンツ違反になるわけではありません。
通常の業務過程に従った運営義務・重要事項の事前承諾義務・通知義務などに違反していないかを確認します。重大な悪影響に関する条項や表明保証が別に定められている場合は、それらも問題になる可能性があります。
コベナンツ違反を後から解消することはできますか?
違反内容によっては、違反状態を解消できる場合があります。未提出資料の提出・必要な承諾の取得・違反行為の停止・無断で行った行為の解消などが考えられます。
ただし、すでに損害が発生している場合や、契約上の期限を過ぎている場合は、違反状態を解消しても補償請求等が残ることがあります。解消後の法的効果は契約内容によって異なります。
相手方が口頭で承諾していた場合も違反になりますか?
契約で承諾方法を書面や電子メールに限定している場合、口頭の承諾が契約上の承諾として認められるかが問題になります。
口頭のやり取りの内容・参加者・議事録・後日のメール・相手方の対応などを確認します。承諾があったと考えていても、証拠がなければ争いになることがあります。
M&Aファイナンスのコベナンツにはどのような特徴がありますか?
LBOファイナンスなどでは、対象会社のキャッシュフロー・財務構成・借入額などに応じて、レバレッジ・レシオ・DSCR・情報提供義務・追加借入制限・資産処分制限などが定められることがあります。
指標の算式・基準値・判定日・抵触時の対応方法は契約ごとに異なるため、契約書に沿った確認が必要です。
一度合意したコベナンツを変更できますか?
契約当事者が合意すれば、コベナンツの内容を変更できます。M&A契約では修正契約書を締結する方法などが考えられます。
融資契約では、基準値や返済条件などの契約内容を変更する場合と、特定の違反について金融機関が権利を行使しないウェーバーを行う場合があります。両者は異なるため、合意書の内容を確認する必要があります。
コベナンツを巡るM&Aトラブルは当事務所へご相談ください
M&A契約上のコベナンツ違反では、条項の文言・契約全体との関係・当事者間のやり取り・違反行為の有無・損害の範囲などを確認する必要があります。相手方から違反を指摘された場合も、相手方の違反を追及したい場合も、契約書だけを見て直ちに結論を出せるとは限りません。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、これまでに400件以上のM&A案件に関与し、M&A契約・M&Aトラブルに関するご相談に対応しています。財務・会計・税務については公認会計士・税理士と、人事労務については社会保険労務士と協働しています。
M&Aトラブル全般については、M&Aトラブルに関する総合案内をご確認ください。弁護士費用については、弁護士費用一覧でご案内しています。
コベナンツ違反を指摘する通知を受けた方・クロージングを拒否されている方・競業避止義務・勧誘禁止義務の違反にお困りの方・補償請求・契約解除をご検討中の方は、お問い合わせフォームからご相談ください。

