この記事の位置付け
M&Aの後の競業避止義務に関するメインのページです。本ページは、M&Aの契約において売主が負う制限の期間、地域及び対象をどこまで限定できるかをご説明します。許認可の承継の段取りは別のページをご参照ください。
同じ主題を扱う関連ページ
買主から示された株式譲渡契約書の案文に、「売主は、本契約の締結日から5年間、日本全国において、対象会社の事業と同一又は類似の事業を、自ら行い、又は第三者をして行わせてはならない。本条の義務は、売主の配偶者及び二親等内の親族にも及ぶものとする。」という条項が入っていました。ここまで読んで手が止まった、というご相談を数多く頂きます。
この条項は、売主にとって代金の額と同じくらい重い意味を持ちます。会社を譲り渡した後、売主が何をして生活するのか、既に別に営んでいる小規模な事業を続けられるのか、同業に勤めている息子が職を失わないか。これらがすべて、この一つの条項の書きぶりに左右されます。ところが実務では、価格と補償の交渉に時間を使い切り、競業避止義務の条項は「定型のもの」として最後にそのまま通してしまう例が少なくありません。
結論から申し上げます。競業避止義務の条項は、期間、地域、対象事業、対象者という4つの要素に分解し、要素ごとに、買主が守ろうとしている利益の大きさに見合う範囲まで限定を求めることができます。「競業避止義務そのものを削除してほしい」という求め方は、買主が受け入れる余地がなく、交渉を止めるだけです。以下、順にご説明します。
この記事の結論と、限定を求める4つの要素
競業避止義務は、買主が支払う代金の中身そのものです。買主は、対象会社の設備や在庫だけを買っているのではなく、取引先との関係、従業員、技術、地域における信用といった、目に見えない価値を含めて買っています。売主が翌日から隣で同じ商売を始めれば、買主が買ったはずの価値は失われます。この危険を避けるための条項ですから、買主が競業避止義務を求めること自体には理由があります。
したがって、交渉の目標は「削除」ではなく「限定」です。限定の求め方には、次の4つの入口があります。
- 期間 何年間、義務を負うのか。買主が対象会社の顧客との関係を自らのものとして固めるために必要な期間はどれだけか。
- 地域 どの区域で禁止されるのか。対象会社が現に商圏としている区域はどこまでか。
- 対象事業 どの事業が禁止されるのか。「同一又は類似の事業」という文言が、実際にはどこまでを含むと読まれるのか。
- 対象者 誰が義務を負うのか。売主本人だけか、その親族か、売主が支配する他の会社か。
この4つを一覧の形に書き出し、それぞれについて「買主が示した案」「対象会社の実態」「売主が受け入れられる範囲」を並べて記載してください。交渉の場でこの一覧を示すと、議論が「厳しすぎる」「そんなことはない」という水掛け論から、事実に基づく調整へ移ります。実務上、この一覧を作るだけで期間と地域は縮まることが多いのです。
競業避止義務が生じる二つの経路
確認事項 どの根拠により義務が生じているのかを最初に特定します
競業避止義務には、法律の規定により当然に生じるものと、契約の特約により生じるものとの二つがあります。この区別を最初に確定しないまま交渉を始めると、議論がかみ合いません。
第一に、法律によるものです。会社法第21条第1項は、事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない旨を定めます。これは事業譲渡について定められた規定であり、契約書に何も書かなくても適用されます。
第二に、契約の特約によるものです。契約書に競業避止義務の条項を置けば、その条項の定めるところにより義務が生じます。
例外 株式譲渡の場合に会社法第21条は適用されません
ここが実務上、最も誤解の多い点です。株式譲渡によるM&Aには、会社法第21条の適用がありません。株式譲渡は、対象会社の株主が交代するだけであり、事業を営む主体は対象会社のまま変わらないからです。事業の譲渡が行われていない以上、「事業を譲渡した会社」という同条の要件を満たしません。
その結果、株式譲渡においては、契約書に競業避止義務の条項を置かなければ、売主は原則として競業を禁じられません。買主の側から見れば、条項を置くことが不可欠であり、売主の側から見れば、条項の範囲がそのまま義務の範囲になります。「法律に20年と書いてあるのだから、5年なら短いほうだ」という買主の説明を受けることがありますが、株式譲渡の場面ではこの説明は当たりません。同条の20年という数字は、事業譲渡についてのものです。
もっとも、株式譲渡であっても、売主が競業を行う態様によっては、不正競争防止法や民法第709条の不法行為の規律が働く余地があります。営業秘密を持ち出して同種の事業を始めた場合や、従業員を大量に引き抜いた場合がこれに当たり得ます。したがって「条項がなければ何をしてもよい」ということにはなりません。
限定を求める4要素 期間、地域、対象事業、対象者
確認事項 4要素を契約書の文言から抽出します
まず、契約書の当該条項を読み、4つの要素がそれぞれどのように書かれているかを抜き出します。文言が一つの長い文にまとまっていると、要素の区別が見えにくくなりますので、必ず分解してください。
冒頭に掲げた条項の例であれば、期間は「本契約の締結日から5年間」、地域は「日本全国」、対象事業は「対象会社の事業と同一又は類似の事業」、対象者は「売主並びにその配偶者及び二親等内の親族」となります。加えて、禁止される行為の態様が「自ら行い、又は第三者をして行わせてはならない」と書かれています。この態様の部分も、実質的には第5の要素として確認する必要があります。役員に就任することの可否、株式を保有することの可否、従業員として勤務することの可否が、この文言に含まれるかどうかで大きく変わるからです。
証拠 対象会社の売上の内訳により、事業と地域の実態を示します
限定を求める根拠は、感覚ではなく数字です。直近3期の売上を、次の二つの軸で分解した資料を用意してください。
- 事業の種類別の売上(対象会社の定款の目的欄に掲げる事業のうち、実際に売上が立っているものはどれか)
- 取引先の所在地別の売上(都道府県別、可能であれば市区町村別)
この2つの表を示すと、多くの案件で次のことが明らかになります。定款の目的欄には10を超える事業が掲げられていても、売上の95%は2つか3つの事業から生じている。取引先は日本全国に散らばっているように見えても、売上の8割は本社の所在する都府県とその隣接する県に集中している。この事実を示したうえで、「対象事業は、直近3期において売上の生じた事業に限る」「地域は、本社の所在する都府県及びこれに隣接する県に限る」という限定を提案します。買主が守ろうとしている利益は、現に売上が生じている事業と地域にあるのですから、この提案は買主にとっても受け入れやすいものです。
手続 要素ごとに、代案の文言を添えて申し入れます
交渉においては、「厳しいので緩めてほしい」という要望ではなく、修正した文言そのものを示してください。要素ごとに、次の形の代案を用意します。
- 期間 「本契約の締結日から5年間」を「クロージング日から3年間」とする。起算点を締結日ではなくクロージング日とすることも、あわせて求めます。締結から決済までに数箇月を要する案件では、この起算点の差が実質的な期間の差になります。
- 地域 「日本全国」を「別紙に掲げる都府県の区域内」とし、別紙に売上の実態のある区域を列挙する。
- 対象事業 「同一又は類似の事業」を「別紙に掲げる事業(直近3期において対象会社に売上の生じた事業をいう)」とする。「類似」という評価を含む語を、列挙に置き換えることが要点です。
- 対象者 「売主並びにその配偶者及び二親等内の親族」を「売主及び売主が議決権の過半数を保有する法人」とする。親族は、売主が支配していない独立の人格ですから、売主が義務の履行を保証できません。
会社法第21条が適用される場合と、適用されない場合
事業譲渡による取引の場合には、会社法第21条が適用されます。同条の構造は次のとおりです。
- 第1項(原則) 当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内において、譲渡の日から20年間、同一の事業を行ってはならない。
- 第2項(特約による延長の限界) 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する。
- 第3項(不正の競争の目的) 前2項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。
この構造から、実務上、次の三つのことが導かれます。
第一に、第1項は「当事者の別段の意思表示がない限り」と定めますので、契約により第1項の内容を軽くすることができます。「本件については会社法第21条第1項の適用を排除し、競業避止義務の範囲は第○条の定めるところによる」と契約書に明記すれば、法律上の20年ではなく契約上の範囲が適用されます。事業譲渡の売主にとっては、この明記を求めることが最初の一手です。逆に、この明記がないまま契約を締結すると、契約書に3年と書いてあっても、契約に書かれていない区域や期間について第1項が働く余地が残り、解釈上の争いを生みます。
第二に、第2項は特約の効力を30年に限っています。したがって、事業譲渡において30年を超える競業避止義務を定めても、30年を超える部分の効力は認められません。
第三に、第3項は、期間や地域の定めにかかわらず、不正の競争の目的をもって同一の事業を行うことを禁じます。期間が満了した後であっても、この規律は残ります。
他方、株式譲渡による取引には、前に述べたとおり同条の適用がありません。そこで、契約書の競業避止義務の条項が唯一の根拠となります。株式譲渡でありながら「会社法第21条に準じ」という文言が案文に入っている例を見ることがありますが、この文言は、20年・隣接市町村という同条の枠組みを契約に取り込む効果を持ち得ますので、そのまま署名してはなりません。何年、どの区域かを、条項の中に数字と地名で書き切ってください。
買主が長期かつ広域の義務を求める理由と、それに応える代替案
買主が長期かつ広域の義務を求めるのは、多くの場合、次の三つの不安によります。売主が同じ商売を始めて顧客を持って行くのではないか。売主が従業員を引き抜くのではないか。売主が取引先や仕入先との関係を私的に維持し、対象会社に流れるはずの取引を奪うのではないか。
この三つは、いずれも競業避止義務の期間と地域を広げることによってしか防げないものではありません。むしろ、それぞれに応じた別の条項を置くほうが、当事者双方にとって明確です。
手続 目的に応じた条項へ分けて提案します
- 顧客の維持 競業避止義務の期間を短くする代わりに、対象会社の既存の取引先に対する営業の勧誘を禁じる条項を置きます。禁止の対象を「別紙に掲げる取引先」と特定すれば、売主は新規の顧客に対する営業を続けることができ、買主は現に取引のある顧客を守ることができます。
- 従業員の維持 従業員の勧誘を禁じる条項を独立に置きます。この条項があれば、買主は引抜きの不安から解放されますので、競業避止義務の範囲を広げる必要が薄れます。なお、対象会社の従業員が自らの意思で応募してきた場合を除外するかどうかを明記してください。
- 取引の維持 仕入先や外注先との関係については、売主が保有する契約上の地位や名義を対象会社へ移す手続を、クロージングの前提条件として定めます。
- 信用の維持 売主が一定期間、顧問又は相談役として対象会社に関与する契約を併せて締結します。売主が対象会社の側にいる限り、競業の不安は実際上生じません。
この分解を提案すると、買主の側でも「本当に必要なのはどれか」を整理することになり、期間と地域の議論が進みます。競業避止義務という一つの条項にすべての不安を詰め込むのではなく、不安ごとに条項を分けることが、双方にとって合理的です。
確認事項 顧客名簿及び営業秘密の帰属を、あわせて定めます
競業避止義務の期間が満了した後に何が起きるかを考えると、顧客名簿と営業秘密の帰属を明記しておく必要があります。株式譲渡であれば、対象会社が保有する情報は対象会社に残りますが、売主が個人の手帳や個人の電子メールに保存している情報の扱いは別問題です。契約書において、対象会社の事業に関する記録の返還又は廃棄の義務を定め、その対象を具体的に列挙してください。この定めがあることにより、買主は競業避止義務の期間を短くすることを受け入れやすくなります。
違約金及び差止めの条項を、どのように読むか
確認事項 違約金の額が、想定される損害と釣り合っているかを見ます
競業避止義務の条項には、違反の場合の違約金の定めが伴うことが通常です。民法第420条第1項は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる旨を定めます。したがって、違約金の定めそのものは有効です。問題は額です。
実務でよく見るのは、「違反した場合、売主は買主に対し、譲渡代金の全額に相当する額を違約金として支払う」という定めです。この定めがあると、売主は事実上、期間中に一切の事業活動ができなくなります。わずかな範囲の競業であっても、代金の全額を失う危険があるからです。
そこで、次の限定を求めます。第一に、違約金の額を、想定される損害の規模に応じた定額とすること。第二に、違約金の支払により義務が消滅するのではなく、なお差止めが可能であるとする定めの当否を確認すること。第三に、軽微な違反について是正の機会を与える定め、すなわち買主が書面により是正を求め、一定の期間内に是正されない場合に初めて違約金が発生するという段階を設けることです。
例外 範囲が過大な条項は、一部が無効となる余地があります
民法第90条は、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とする旨を定めます。競業避止義務の条項についても、その範囲が、買主の保護すべき利益に比して著しく広く、売主の職業選択の自由を過度に制約する場合には、同条により効力が制限される余地があります。また、取引上の地位の格差を背景として過大な制約を課す態様によっては、独占禁止法第19条が禁じる不公正な取引方法に当たるかどうかが問題となる場合もあります。
ただし、これらはいずれも事案ごとの評価によるものであり、「範囲が広いから無効である」と断定できるものではありません。「後で無効を主張すればよい」という考えで署名することは、避けてください。無効を主張するためには訴訟を要し、その間、売主は事業活動を止めざるを得ないのが通常です。署名の前に範囲を定めることが、唯一確実な方法です。
売却の後も働くことを予定している場合の設計
手続 顧問契約又は業務委託契約と組み合わせます
売主が引退せず、何らかの形で働き続けることを予定している場合には、その働き方を契約の中に位置付けてください。設計の型は、おおむね次の三つです。
第一の型は、売主が対象会社の顧問又は相談役に就任するものです。この場合、競業避止義務は当然に受け入れることになりますが、代わりに顧問としての報酬と期間を明記します。報酬の額は、譲渡代金の一部を分割して受け取るものではなく、役務の対価として合理的な水準に設定してください。代金の後払いの実質を持たせると、税務上の取扱いについて別途の検討を要します。
第二の型は、売主が対象会社とは別の事業を続けるものです。この場合には、その別事業を競業避止義務の対象から明示的に除外する定めを置きます。「売主が本契約締結日において現に営む別紙記載の事業は、本条の適用を受けない」という形です。別紙には、事業の内容、屋号、所在地を具体的に記載してください。「現に営む事業」という抽象的な除外だけでは、後日、範囲について争いが生じます。
第三の型は、売主が期間を置いて同種の事業に戻ることを予定するものです。この場合には、期間の長短が最も重要になりますので、前に述べた売上の内訳による根拠づけを用いて、期間の短縮を求めます。
確認事項 親族が同業に従事している場合の扱い
売主の子や配偶者が既に同業の会社に勤務している場合、対象者の範囲に親族を含める条項は、その勤務を継続できなくする効果を持ちます。売主は親族の行動を法的に支配していませんので、この義務を引き受けることは、履行できない約束をすることになります。
そこで、次のいずれかの手当てを求めます。対象者を売主本人及び売主が議決権の過半数を保有する法人に限ること。親族を含める場合であっても、本契約締結日において現に従事している業務の継続を除外すること。そして、親族についての義務を、結果の保証ではなく、売主が親族に対して競業を行わないよう働きかける努力の義務にとどめることです。少なくとも、契約締結日の時点で親族が何をしているかを買主へ開示し、その事実を前提として条項を作ることが必要です。開示しないまま署名すると、後に表明保証の違反を問われる危険が生じます。
よくある誤解と、避けるべき対応
第一の誤解は、「競業避止義務は定型の条項であるから、交渉の対象にならない」というものです。実際には、期間、地域、対象事業、対象者のいずれも、案件ごとに定められるものです。定型の文例をそのまま使っている案件ほど、対象会社の実態と合っていません。
第二の誤解は、「株式譲渡でも法律により20年間の義務がある」というものです。前に述べたとおり、会社法第21条は事業譲渡についての規定であり、株式譲渡には適用されません。
第三の誤解は、「範囲が広すぎる条項は無効になるから、署名しても差し支えない」というものです。無効を主張するには訴訟を要し、その負担は売主が負います。
避けるべき対応も三つ挙げます。第一に、競業避止義務の削除のみを求め、代替案を示さないこと。買主は代金の裏付けを失いますので、この求め方では交渉が止まります。第二に、口頭で「実際には運用しませんから」という説明を受けて納得すること。契約書に書かれた文言が、後日の判断の基準になります。担当者が交代すれば、口頭の説明は残りません。第三に、既に営んでいる別の事業や、親族の勤務先を買主に伝えないまま署名すること。開示していれば除外を求められた事項が、開示していなかったために違反として扱われることになります。
いま確認していただきたいこと
お手元の契約書の案文について、次の6点を確認してください。
- 競業避止義務の条項の期間、地域、対象事業、対象者、禁止される行為の態様の5点を書き出しましたか。
- 直近3期の売上を、事業の種類別と取引先の所在地別に分解した資料を作りましたか。
- 株式譲渡であるにもかかわらず、会社法第21条を援用する文言が入っていませんか。事業譲渡である場合、同条第1項の適用を契約により調整する旨の明記がありますか。
- 違約金の額と、是正の機会を与える段階の定めを確認しましたか。
- 現に営む別の事業、及び親族の勤務先を、除外の対象として書面により買主へ伝えましたか。
- 顧客の勧誘の禁止、従業員の勧誘の禁止を、競業避止義務とは別の条項として分けましたか。
よくあるご質問
競業避止義務の期間として、何年であれば妥当といえますか
一律の基準はありません。買主が対象会社の顧客との関係を自らのものとして固めるために要する期間が基準となりますので、取引の周期が短い事業では短く、設備や許認可を伴い取引の周期が長い事業では長くなります。交渉においては、年数そのものを争うのではなく、「なぜその年数が必要か」を買主に説明してもらい、その理由に対応する範囲まで縮めるという進め方が有効です。
買主から示された条項に署名した後で、範囲を狭めることはできますか
契約の変更には買主の同意を要しますので、署名の後は事実上困難です。買主にとって、既に代金を支払った後に義務を軽くする理由はありません。署名の前が唯一の交渉の機会であると考えてください。
対象会社の従業員が退職して、売主の新しい事業に加わることは違反になりますか
条項の書きぶりによります。従業員の勧誘を禁じる条項が置かれ、その対象に「対象会社の従業員であった者」が含まれている場合には、退職後の採用も違反となる余地があります。他方、売主からの働きかけがなく、従業員が自らの意思で応募した場合を除外する定めが置かれていれば、その範囲では違反となりません。契約書において、この除外の有無を必ず確認してください。
売主が保有する不動産を、対象会社の競合他社に賃貸することは競業に当たりますか
「自ら行い、又は第三者をして行わせてはならない」という文言の解釈の問題となります。単なる不動産の賃貸は事業を行うことそのものではありませんが、競合他社への便宜の供与を禁じる文言が併せて置かれている場合には、抵触する余地があります。売主が対象会社の事業と関連する資産を保有している場合には、その資産の扱いを契約書に明記してください。
事業譲渡の場合、契約書に競業避止義務を書かなければ、義務は生じませんか
生じます。会社法第21条第1項により、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内において、譲渡の日から20年間、同一の事業を行うことができません。書かなければ義務がないのではなく、書かなければ法律の定める範囲が適用されるという関係にあります。
まとめ
競業避止義務は、売却の後の売主の生活を直接に左右する条項です。削除を求めるのではなく、期間、地域、対象事業、対象者の4つの要素に分解し、対象会社の売上の実態という事実に基づいて、要素ごとに限定を求めてください。買主が抱える不安は、顧客の勧誘の禁止、従業員の勧誘の禁止、顧問への就任といった別の条項によって手当てすることができます。株式譲渡には会社法第21条の適用がなく、契約書の文言がすべてであることを、常に念頭に置いてください。署名の前であれば、範囲は動かせます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
競業避止義務の条項に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 会社法第21条第1項、第2項及び第3項
- 会社法第356条第1項第1号
- 会社法第365条第1項
- 民法第90条
- 民法第420条第1項
- 民法第709条
- 不正競争防止法第2条第1項第7号
- 不正競争防止法第3条第1項
- 不正競争防止法第4条
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第19条
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。



