事業の切出しを弁護士に依頼するとき 会社分割と事業譲渡のどちらを選ぶか

  • 2026年8月31日
  • M&A

三つの事業のうち、採算の合わない一つを手放したい。あるいは、後継者に本業だけを継がせ、不動産の賃貸部門は自分の手元に残したい。こうした御相談は年々増えています。ところが、いざ具体化しようとすると、会社分割にすべきか事業譲渡にすべきかという入口で判断がつかず、方針が決まらないまま数箇月が過ぎてしまうことがあります。

二つの方法は、法律上の性質が異なります。会社分割は、権利義務が包括的に移る組織法上の行為であり、事業譲渡は、個々の財産と契約を一つずつ移す取引法上の行為です。この違いは、必要な手続、要する期間、相手方の同意の要否、そして税務の取扱いのすべてに影響します。どちらが優れているという問題ではなく、案件の事情に合う方を選ぶ問題です。

結論から申し上げます。選択を決めるのは、移したくない負債があるかどうか、相手方の同意を得られる契約がどれだけあるか、そして許認可を取り直す時間があるかどうかの三点です。この三点を先に確かめれば、方法は自ずと定まります。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

事業の切出しは、方法の選択と、選んだ方法の契約書の作成とで作業が分かれますので、次のとおり整理しています。

一部の事業だけを譲るとき、二つの方法があります

会社法第2条第29号は、吸収分割を、株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後に他の会社に承継させることと定義しています。同条第30号は、新設分割を、一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、分割により設立する会社に承継させることと定義しています。

手続の入口も条文で定められています。同法第757条は、吸収分割をする場合には、権利義務を承継する会社との間で吸収分割契約を締結しなければならないとし、同法第762条第1項は、新設分割をする場合には新設分割計画を作成しなければならないとしています。相手方が既に存在するのか、新たに受け皿の会社を作るのかによって、この二つを使い分けます。

これに対し、事業譲渡は組織法上の行為ではありません。会社法第467条第1項第1号は事業の全部の譲渡について、同項第2号は事業の重要な一部の譲渡について、効力発生日の前日までに株主総会の決議による承認を受けなければならないと定めており、同法第309条第2項第11号により、この決議は特別決議によることになります。第2号については、譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合はその割合)を超えないものは除かれます。

会社分割と事業譲渡とでは、承継の仕方が根本的に違います

最も大きな違いは、権利義務が移る仕組みです。会社分割では、分割契約又は分割計画に記載された権利義務が、効力発生日に承継会社又は設立会社へ包括的に移転します。取引先との契約も、個別の同意を得ることなく移るのが原則です。

事業譲渡では、そうはいきません。財産は個別に移転させる必要があり、不動産であれば登記、債権であれば債務者への通知又は承諾、契約上の地位であれば相手方の承諾を、それぞれ取得しなければなりません。取引先が数百社に及ぶ事業では、この作業だけで数箇月を要します。

ただし、包括承継には裏面があります。記載した債務は、相手方が望まなくても移り、記載しなかった債務は残ります。逆に言えば、事業に付随する簿外の債務が、意図せず移ってしまう危険が会社分割にはあります。承継する権利義務を分割契約に正確に記載することが、この方法の要になります。なお、事業譲渡の方法による場合であっても、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用するときは、会社法第22条第1項により、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。商号を続けて用いる場合には、同条第2項の登記又は通知による免責の手当てを検討してください。

債権者を保護する手続を要するかどうかで、日程が変わります

会社分割では、債権者の異議手続が必要になる場合があります。会社法第789条第1項第2号は、吸収分割をする場合において、分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができない債権者は、分割会社に対して異議を述べることができると定めています。同法第799条第1項第2号は承継会社の債権者について、同法第810条第1項第2号は新設分割の場合について、それぞれ同様の規定を置いています。

手続の内容も条文が定めています。第789条第2項は、官報に公告し、かつ知れている債権者には各別に催告しなければならないとし、その但書は、異議を述べることができる期間を1箇月を下ることができないとしています。同条第3項により、定款の定めに従って官報のほか日刊新聞紙又は電子公告により公告するときは、各別の催告を省略することができます。ただし、吸収分割をする場合における不法行為によって生じた分割会社の債務の債権者に対する催告は、省略することができません。

この1箇月が、日程を決める要素になります。公告の掲載の申込みから掲載までにも日数を要しますので、着手から効力発生日までに2箇月程度を見込むのが現実的です。これに対し、事業譲渡には債権者の異議手続の定めがありません。日程を優先する場合に事業譲渡が選ばれるのは、この差によるところが大きいといえます。

労働者の承継について、法律が定める手続

会社分割を選ぶ場合、労働者に関する手続は法律で定められています。会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第2条第1項は、分割をする会社は、承継される事業に主として従事する労働者と、分割契約等に承継の定めがある労働者に対し、通知期限日までに、承継の定めの有無、異議申出期限日その他厚生労働省令で定める事項を書面により通知しなければならないと定めています。同条第3項第1号は、株主総会の決議による承認を要する場合の通知期限日を、その株主総会の日の2週間前の日の前日としています。

承継の効果も同法が定めます。同法第3条は、承継される事業に主として従事する労働者であって、分割契約等に承継する旨の定めがあるものの労働契約は、分割の効力が生じた日に承継会社等に承継されるとしています。同法第4条第1項は、主として従事する労働者であって承継の定めがないものは、書面により異議を申し出ることができるとし、同条第4項により、異議を申し出たときはその労働契約は承継会社等に承継されます。同法第5条第1項は、主として従事する労働者以外で承継の定めがあるものについて異議の申出を認め、同条第3項により、異議を申し出たときは承継されないこととしています。異議申出期限日については、同法第4条第2項が、通知がされた日との間に少なくとも13日間を置かなければならないと定めています。

他方、事業譲渡の場合には、この法律は適用されません。労働契約を移すには、労働者本人の同意が必要です。したがって、譲渡先への転籍に同意しない従業員が生じた場合、その者は譲渡会社に残ることになります。中核となる技術者が残ってしまえば、事業を譲り受けた意味が薄れます。従業員の同意が得られる見込みは、方法の選択に直接影響します。

許認可は、いずれの方法によっても当然には引き継がれません

許認可の承継については、誤解が多く見られます。会社分割は包括承継ですが、行政法上の許認可が当然に移るわけではありません。承継の可否は、それぞれの根拠法令が定めており、承継の届出で足りるもの、事前の認可を要するもの、新規に取得し直す必要があるものに分かれます。

建設業、産業廃棄物処理業、宅地建物取引業、旅館業、貨物自動車運送事業などは、それぞれ取扱いが異なります。事業譲渡の場合は原則として新規の取得が必要になると考えて日程を組む方が安全です。新規の取得には、要件を満たす人員の確保、事務所の要件の充足、申請から処分までの標準処理期間が関わります。

実務では、方法を決める前に、切り出す事業に必要な許認可を洗い出し、所管の行政庁に対して承継の取扱いと所要期間を確認します。この確認を後回しにすると、契約の締結後に、許可が下りるまで事業を行えない空白の期間が生じます。空白の期間を埋めるために、譲渡会社が譲受会社の名で事業を行うといった対応をしてはなりません。無許可営業として処分の対象となる危険があります。

残す会社に、どの負債と契約を残すのか

切出しの設計で最も神経を使うのが、残す側の姿です。譲る事業に直接ひも付く負債は明確ですが、複数の事業に共通する借入れ、本社の建物に係る抵当権、代表者の個人保証が付された債務の扱いは、金融機関との協議が必要になります。

共用の資産についても方針が要ります。基幹となる情報システム、特許権や商標権、取引先との包括的な枠組みの契約は、いずれか一方に帰属させた上で、他方に使用を認める契約を別に結ぶという設計が採られます。この使用許諾の期間と対価を決めておかなければ、切出しの直後に実務が止まります。

あわせて、残る会社の事業が、切出しの後も単独で成り立つかを検証してください。従業員の大半が譲る事業に属している場合、残る会社に管理の人員がいなくなります。売上の大半を譲る場合、残る会社が金融機関との財務制限条項に抵触することもあります。切り出す側だけを見て設計すると、残る側で問題が生じます。

税務上の取扱いが選択を左右する場面

方法の選択は、法務だけで決まるものではありません。会社分割については、一定の要件を満たす場合に、資産を帳簿価額のまま引き継ぐ取扱いが認められています。この要件を満たすかどうかで、課税の額が大きく変わります。要件には、対価の種類、支配関係の継続、事業の継続、従業者の引継ぎに関する事項が含まれます。

事業譲渡では、個々の資産を時価で売買することになりますので、譲渡の損益が生じます。また、資産の譲渡として消費税の課税の対象となる部分があり、不動産を移す場合には登録免許税と不動産取得税が問題になります。金額が大きい案件では、この税負担が方法の選択を決めることもあります。

当事務所では、この点について、顧問の税理士又は当事務所が連携する税理士と協働して検討します。法務の観点から会社分割が適していても、税務の観点から事業譲渡が有利となる場合があり、その逆もあります。方針を決める前に、双方の観点を並べて比較してください。順序を誤り、法務の手続を進めた後に税務の問題が判明すると、やり直しに費用と期間を要します。

なぜ買主は、会社分割ではなく事業譲渡を求めるのか

切り出した事業を譲り受ける側から見ると、事業譲渡には明確な利点があります。引き受ける財産と債務を契約書に列挙するため、把握していない債務を引き継ぐ危険が小さいことです。包括承継では、記載の漏れや解釈の幅によって、想定しない義務が移ってくる可能性が残ります。

また、簿外の債務や、過去の労務に関する問題が疑われる案件では、買主は切り離しの明確さを重視します。売主にとっては手続が煩雑でも、買主にとっては安心できる方法である、という構図が生じます。

売主としては、この理由を理解した上で交渉することが有効です。買主の懸念が特定の債務にあるのであれば、会社分割を用いた上で、その債務を分割契約から明示的に除外し、加えて補償の条項で手当てするという解決が可能です。方法そのものを譲る前に、買主が何を恐れているのかを聞き出してください。手続の負担が小さい方法を採りながら、買主の懸念に応えられる場合があります。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

当事務所が行う作業は、次のとおりです。切り出す事業の範囲の特定と、移す権利義務の一覧の作成。会社分割と事業譲渡の比較検討と、方法の選択に関する意見の提出。吸収分割契約書、新設分割計画又は事業譲渡契約書の起案。株主総会の招集手続と議事録の作成。債権者の異議手続に係る公告と催告の文案の作成。労働者への通知書及び異議申出の書式の作成と、説明会の設計。許認可の承継に関する行政庁との事前の協議です。

依頼の時期は、方法を決める前です。方法を決めてから相談を受けると、既に選択の前提となる事実確認が済んでいないまま日程が動いていることが多く、選び直しの費用が生じます。効力を生じさせたい日が決まっている場合には、その日から逆算して、着手すべき日をお示しします。

いま確認していただきたいこと

まず、切り出そうとする事業に属する資産、負債、契約、従業員、許認可を、それぞれ一覧にしてください。どれを移し、どれを残すのかについて、現時点での希望を書き添えます。この一覧が、方法の選択の出発点になります。

次に、借入金について、金融機関ごとに残高、担保、保証の状況を確認してください。会社分割では債権者の異議手続の要否が、事業譲渡では債務引受けの同意の要否が、それぞれ金融機関との協議事項になります。あわせて、切り出す事業に必要な許認可の種類と、所管する行政庁を書き出してください。この三つがそろえば、初回の御相談で方法ごとの日程の概要をお示しすることができます。

よくあるご質問

会社分割をした後、すぐにその会社の株式を売ることはできますか

可能です。受け皿となる会社を新設分割によって設立し、その株式を買主に譲渡する方法は広く用いられています。ただし、分割の直後に株式を譲渡することを予定している場合、税務上の要件の判定に影響することがありますので、方法を決める段階で税理士と検討してください。

取引先に知られずに切出しを進めることはできますか

会社分割の場合、債権者の異議手続として官報への公告が必要になる場合があり、労働者への通知も法律上の義務です。事業譲渡の場合、契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要ですので、いずれの方法によっても、一定の範囲には事前に伝わることになります。伝える順序と時期を設計することが現実的な対応です。

債権者の異議手続を省略できる場合はありますか

分割の後も分割会社に対して債務の履行を請求することができる債権者は、会社法第789条第1項第2号の異議を述べることができる債権者に当たりません。したがって、その債権者に対する催告は要しません。もっとも、どの債権者が該当するかの判定は慎重に行う必要があり、判定を誤ると手続の瑕疵となります。

従業員が転籍に同意しない場合、解雇することはできますか

事業譲渡において転籍への同意が得られないことを理由とする解雇は、その有効性が厳しく判断される領域です。まずは残る会社での配置の可能性を検討し、労働条件の維持について具体的な説明を行うことが先決です。方法の選択の段階で、この点を織り込んで判断してください。

切り出した事業の屋号や商号を、そのまま使ってもらう予定です

その場合は、会社法第22条第1項による譲受会社の責任が問題になります。同条第2項は、事業を譲り受けた後遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には適用しないとしており、第三者への通知による方法も定めています。商号を続けて使用する予定がある場合には、この手当てを忘れないでください。

おわりに

事業の切出しは、方法の選択さえ誤らなければ、日程どおりに進めることができる手続です。移したくない負債、同意を得るべき相手方、許認可の取り直しの三点を先に確かめることが、遠回りに見えて最も早い道になります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

事業の切出しの方法の選択に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 会社法第2条第29号及び第30号
  • 会社法第757条、第762条第1項
  • 会社法第789条第1項第2号、第2項及び第3項
  • 会社法第799条第1項第2号
  • 会社法第810条第1項第2号
  • 会社法第467条第1項第1号及び第2号
  • 会社法第309条第2項第11号
  • 会社法第22条第1項及び第2項
  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第2条第1項及び第3項第1号
  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第3条
  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第4条第1項、第2項及び第4項
  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第5条第1項及び第3項

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