M&Aのクロージングを弁護士に依頼するとき 決済の当日に確認する書類と、その後に残る手続

契約書の署名を終え、決済の日が2週間後に迫っています。買主からは当日に用意すべき書類の一覧が送られてきましたが、20項目を超えており、どれを誰が用意するのか、当日の順序はどうなるのか、送金はいつ行うのかが分かりません。会議室に関係者が集まってから書類の不足に気付き、決済が翌週に延びるという事態は、実際に起きています。

決済の当日は、契約書に書かれた義務を、限られた時間の中で同時に履行する場面です。売主は書類を引き渡し、買主は代金を送金し、会社は名簿を書き換え、役員が交代します。どれか一つが欠けても、他の履行だけが先に済んでしまうという不均衡が生じます。だからこそ、当日の進行は事前に文書として確定しておく必要があります。

結論から申し上げます。決済の当日に必要なのは、書類の受渡し、代金の送金、株主名簿の書換え、役員の交代の四つを、一つの場で不可分に完了させる進行表です。この進行表がないまま当日を迎えることが、延期と紛争の最大の原因になります。以下、順にご説明します。

この記事の位置付け

同じ株式の移転でも、当日の実務と、その前提となる手続とでは検討事項が異なりますので、次のとおり分けています。

決済の当日に、何と何を同時に行うのか

当日の会議は、通常、次の順序で進みます。まず、双方の出席者と代理権を確認します。次に、前提条件の充足を示す書類を一つずつ照合します。続いて、売主から買主へ、契約書に定められた交付書類を引き渡します。その上で買主が送金の手続を行い、着金の確認をもって、株主名簿の書換えと役員交代の決議に進みます。

ここで大切なのは、送金の着金を確認するまで書類の引渡しを完了とせず、書類の照合が終わるまで送金を行わないという相互の牽制です。実務では、書類を机上に並べて双方が確認した後、着金の連絡を受けた時点で受領書に署名するという運用が採られます。

当日に持参する物のうち、代替の利かないものを事前に特定してください。会社実印と印鑑登録証明書、法人の預金通帳とキャッシュカード、法人の代表者の電子証明書に関する書類、貸金庫の鍵、許認可の許可証の原本です。これらは、後日の郵送で足りるものと、当日に現物が必要なものとに分かれます。一覧を作り、担当者名を記入しておきます。

前提条件が満たされたことを、どの書類で確認するのか

株式譲渡契約書には、実行の前提条件が列挙されます。当日の作業の半分は、その一つ一つについて、充足を示す書面を確認することです。

具体的には、譲渡の承認を証する取締役会議事録又は株主総会議事録、主要な取引先や賃貸人から取得した同意書、金融機関から取得した経営者保証の解除に関する書面、必要な行政機関への届出の受理を示す書類、対象会社の登記事項証明書と印鑑証明書、売主の印鑑証明書などです。

加えて、表明保証が実行日においても真実である旨を売主が確認する書面と、契約上の義務を履行した旨を確認する書面を取り交わすのが通常です。これらは実行日付で作成しますので、当日に署名する書類として一覧に入れておきます。前提条件のうち充足されていないものがある場合、そのまま実行するのか、放棄するのか、実行日を延期するのかを、当日ではなく前週までに決めておいてください。

株主名簿の書換えと、株券の交付又は不発行の確認

当日の中心は、株式が確かに買主に移ったことを書面で残すことです。会社法第130条第1項により、株式の譲渡は株主名簿への記載又は記録がなければ会社に対抗することができませんので、名簿の処理を後日に回してはなりません。

実務の運びは次のとおりです。売主と買主が連署した名義書換請求書を対象会社に提出し、対象会社がその場で株主名簿を書き換え、書換え後の株主名簿の写しに代表者が記名押印して買主に交付します。会社法第133条第1項は株式取得者による記載又は記録の請求を認め、同条第2項は、法務省令で定める場合を除き、名簿上の株主又はその一般承継人と共同して請求することを求めていますので、売主が同席している当日に済ませることが最も確実です。

株券を発行する旨の定めがある会社では、株券の扱いを当日までに確定させます。株券が現に発行されている場合は、当日に現物を交付し、受領を書面で確認します。株券が発行されていない場合には、会社法第215条第4項により公開会社でない株券発行会社が株主の請求があるまで発行しないことができることを踏まえ、その状態を確認する書面を残します。買主が株券の所持を望まない場合には、同法第217条第1項の株券不所持の申出を用いることができます。同条第2項により申出は株式の数を明らかにして行い、株券が発行されているときはこれを会社に提出します。同条第3項により、会社は遅滞なく株券を発行しない旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければならず、同条第5項により、提出された株券はその記載又は記録の時に無効となります。

役員の交代を、いつの株主総会で決議するのか

買主は、実行と同時に経営の実権を得ることを望みます。そこで、名簿の書換えを終えた直後に、買主が新たな株主として臨時株主総会を開催し、役員の変更を決議するという運びになります。

会社法第339条第1項は、役員及び会計監査人は、いつでも株主総会の決議によって解任することができる旨を定めています。もっとも、同条第2項は、解任された者は、解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し解任によって生じた損害の賠償を請求することができるとしていますので、任期の途中で解任する場合には、退任の合意を書面で得ておくことが望ましいといえます。実務では、対象となる役員から実行日付の辞任届をあらかじめ徴求します。

選任と解任の決議の要件については、同法第341条が、第309条第1項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行わなければならないと定めています。定款で定足数を加重している会社もありますので、当日の議事の前に定款を確認してください。招集の手続についても、株主全員の同意による招集手続の省略を用いるのかを含め、事前に方針を決めておきます。

印鑑、通帳、電子証明書及び許認可の名義の引継ぎ

書類の受渡しの中で見落とされやすいのが、実務を動かすための道具です。会社実印と銀行印、印鑑カード、預金口座のインターネットバンキングの識別情報、法人の電子証明書、社会保険や税務の電子申告に用いる識別情報、貸金庫の鍵、車両の鍵と自動車検査証、賃借している事務所の鍵が該当します。

金融機関の口座については、代表者の変更に伴う届出が必要です。届出が完了するまで、旧代表者名義でしか出金できない状態が続きますので、給与や仕入代金の支払日を踏まえた段取りが必要です。実行日を月末や給与支払日の直前に設定することは避けてください。

許認可については、事業の継続に直結します。許可証の原本の引渡しを受けるとともに、役員の変更に伴う届出、専任の技術者や管理者の変更に伴う届出の要否と期限を確認します。届出の期限は法令ごとに異なり、変更後2週間以内、30日以内などと定められているものがあります。所管する行政庁ごとの一覧を作成し、担当者と期限を割り付けてください。

代金の一部を留保する場合の設計

調査で判明した事項の処理や、譲渡後の引継ぎの履行を担保するために、代金の一部を実行日には支払わない設計が採られることがあります。方法は三つに分かれます。

第一は、第三者に預託する方法です。一定期間の経過後、補償の請求がなければ売主に交付されます。第二は、支払の時期を分割する方法です。実行日から1年後などに残額を支払う旨を定め、その間に生じた補償の請求と相殺できるようにします。第三は、業績に連動させる方法です。譲渡後の一定期間の利益や売上が基準に達した場合に追加の代金を支払う設計で、基準の定義と算定の方法を精密に定める必要があります。

いずれの方法を採る場合でも、留保された部分について、支払の期日、利息の有無、相殺できる債権の範囲、支払を拒む場合の手続を契約書に明記してください。あわせて、留保された代金の請求権が、売主の相続や譲渡によって移転する場合の取扱いも定めておくと、後の紛争を防ぐことができます。

クロージングの後に残る登記、届出及び通知

実行の日に手続が終わるわけではありません。まず、役員の変更に伴う登記です。会社法第915条第1項は、会社において登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に本店の所在地において変更の登記をしなければならない旨を定めています。この2週間は、決議の日から起算されます。

登記の申請には添付書面が必要です。商業登記法第54条第1項は、取締役、監査役、代表取締役又は特別取締役の就任による変更の登記の申請書には、就任を承諾したことを証する書面を添付しなければならないと定めています。実行日の当日に、就任承諾書と辞任届を、押印と印鑑証明書の要否を確かめた上でそろえておけば、翌日には申請が可能になります。

次に、行政庁への届出、金融機関への届出、社会保険と労働保険の代表者変更の手続が続きます。あわせて、主要な取引先、賃貸人、リース会社、顧問の税理士や社会保険労務士に対する通知の順序と文面を決めます。従業員への説明は、実行日の当日又は翌営業日に行われることが多く、説明の内容と質問への回答をあらかじめ用意しておくことが、離職を防ぐ上で有効です。

前提条件の消し込みの一覧をどう作るか、及び未達の場合の対応

決済の当日に不足が判明する事態を防ぐ最も確実な方法は、前提条件を一覧にして、一つずつ消し込むことです。ここでは、その一覧の様式と、期日までに条件が満たされなかった場合の対応を述べます。

消し込みの一覧の様式

契約書の前提条件の条項を、号ごとに1行に分解し、次の8つの欄を設けた表を作ります。項目が10を超える案件では、この作業を省略すると必ず漏れが生じます。

  • 番号 契約書の条と号をそのまま記載します。後日の確認の際に、契約書と一対一で対応させるためです。
  • 条件の内容 契約書の文言をそのまま写します。要約すると、充足の判断が甘くなります。
  • いずれの当事者の利益のための条件か 放棄できる当事者を特定するためです。
  • 充足を示す書類 議事録、承諾書、許可証の写し、登記事項証明書、解除の通知の写しなど、具体的な書面の名称を記載します。
  • 担当者 売主、買主、対象会社、専門家のいずれが取得するのかを氏名まで記載します。
  • 期限 決済日から逆算した取得の期限です。
  • 現在の状況 未着手、依頼済み、受領済みの3段階により記載します。
  • 原本と写しの別 決済の当日に原本を要するものと、写しで足りるものとを区別します。

この表を、毎週決まった曜日に更新し、双方の当事者と専門家が共有してください。更新の際には、状況が変わらなかった項目についても、変わらない旨を記載します。空欄のまま放置される項目こそが、当日に問題となります。

前提条件が満たされない場合の対応

期限までに条件が満たされない見込みとなった場合、採り得る対応は次の4つです。

第一に、決済日の変更です。最も安全な対応であり、変更の合意書により実行日を後ろへ動かします。この際、実行日に連動する他の日付、すなわち価格の調整の基準日、表明保証の反復の時点、補償の請求期間の起算点を、あわせて見直してください。

第二に、条件の放棄です。その条件によって利益を受ける当事者は、条件を放棄して決済を行うことができるのが通常です。放棄は書面により、条と号を特定して行います。ただし、放棄できるのは契約上の条件であって、法律上の要件ではありません。許認可のように、法令が事業の遂行の要件としているものについては、当事者が放棄しても適法にはなりませんので、注意を要します。

第三に、実行の後に履行する義務への振替えです。条件を放棄したうえで、当該の事項を実行後の誓約として定め、履行の期限と、履行されない場合の効果を書き込みます。取引先からの承諾のように、決済の前に取得することが実際上困難な事項について用いられます。

第四に、代金の一部留保との組合せです。条件を放棄して決済を行いつつ、当該の事項に対応する額の代金を留保し、事後に条件が満たされた時点で支払います。留保の額、解放の条件、解放の期限、期限までに満たされなかった場合の取扱いを定めてください。

いずれの対応を採る場合でも、口頭の了解にとどめず、書面を交わしてください。決済の当日は時間に追われますので、その場で作成した書面は不備を含みがちです。前日までに文案を確定させることを、強くお勧めします。

当日の役割の分担

一覧を作るのと同時に、決済の当日に誰が何を行うかを決めてください。書類の照合を行う者、着金を確認する者、議事録に署名を集める者、原本を受け取って保管する者の4つの役割を、氏名により割り当てます。役割を決めずに集まると、全員が同じ書類を見て、誰も次の手順に進まないという時間が生じます。あわせて、当日に出席できない関係者から、あらかじめ委任状又は署名済みの書面を受け取っておいてください。

なお、許認可の審査が決済の予定日までに終わらないと判明した場合の対応については、許認可の承継がクロージングまでに間に合わない場合に何ができるかをご覧ください。

なぜ決済の日程は、直前になって動くのか

実行日が動く原因は、ほとんどが特定の項目に集中しています。第一に、金融機関からの経営者保証の解除に関する回答が間に合わないこと。第二に、主要な取引先や賃貸人からの同意書が取得できないこと。第三に、株主の一部から書類の返送が得られないこと。第四に、行政庁への事前の届出の処理に想定より日数を要することです。

これらはいずれも、第三者の判断や事務処理に依存しており、当事者の努力だけでは短縮できません。したがって、実行日の設定に当たっては、これらの項目について着手日と回答の見込み日を先に把握し、そこから逆算して日を決めるべきです。

してはならないのは、日程を先に決め、その日に間に合わせるために前提条件を安易に放棄することです。放棄した条件は、実行後に売主の義務として残るのか、それとも消滅するのかをめぐって争いになります。日を動かす方が、条件を落とすよりも損害は小さく済みます。延期する場合には、延期後の日と、その間に双方が負う義務を書面で確認してください。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

当事務所が行う作業は、次のとおりです。前提条件と交付書類の一覧の作成。当日の進行表の作成と、双方の担当者への事前配布。名義書換請求書、株主名簿、株主総会議事録、辞任届、就任承諾書、受領書の起案。当日の立会いと、書類の照合。実行後の登記と届出の期限の管理表の作成です。司法書士との連携により、翌営業日の登記申請まで一続きで進めることができます。

依頼の時期は、契約書の署名の直後です。署名から実行までの期間は、短い案件で2週間、長い案件で2箇月程度ですが、この間に第三者からの同意や行政の手続を並行して進める必要があります。既に実行日が迫っている場合であっても、書類の一覧と進行表を作るだけで、当日の混乱は大きく減ります。

いま確認していただきたいこと

まず、株式譲渡契約書の前提条件の条項を開き、項目ごとに、誰が、いつまでに、どの書面を用意するのかを書き込んでください。担当者の名前が入らない項目は、当日に不足する項目です。次に、対象会社の定款を確認し、株主総会の招集の期間、役員の員数、定足数に関する定めを把握してください。

あわせて、実行日の候補について、給与の支払日、社会保険料の納付日、主要な仕入代金の決済日と重ならないかを確認してください。口座の名義変更の手続が完了するまでの数日間に支払期日が来ると、実務が滞ります。この確認は、日を決める前に行う必要があります。

よくあるご質問

決済の当日は、どこに集合するのが通常ですか

買主の本店、対象会社の本店、いずれかの代理人の事務所、又は金融機関の会議室が用いられます。送金の確認を確実に行える環境と、書類を広げて照合できる場所が必要です。遠方の当事者が含まれる場合には、書類を事前に預託した上で、当日は通信の方法によって確認を行う運用も可能です。

送金をしたのに、その日のうちに着金が確認できませんでした

金融機関の営業時間や取扱いの締切りにより、着金の確認が翌営業日になることがあります。この場合に備え、契約書において、着金の確認をもって実行とするのか、送金の手続の完了をもって実行とするのかを定めておきます。定めがない場合は、当日に覚書を作成して取扱いを確認してください。

旧代表者に、実行日の後も会社に来てもらう必要はありますか

取引先への挨拶、業務の引継ぎ、金融機関の手続への同席のために、一定期間の関与を求めることが一般的です。関与の期間、頻度、報酬、費用の負担を、実行日までに書面で定めてください。口頭の約束のまま始めると、後に条件をめぐる争いが生じます。

役員の変更の登記は、いつまでに行う必要がありますか

会社法第915条第1項により、変更が生じた日から2週間以内です。実行日に決議を行った場合、その日から起算します。添付書面の準備に日数を要することがありますので、実行日の前に司法書士と打ち合わせておくことをお勧めします。

実行の後に、前提条件が実は満たされていなかったと分かりました

契約書における前提条件の位置付けによって取扱いが変わります。実行の条件にすぎないのか、売主の義務としても定められているのか、表明保証の対象に含まれているのかを確認します。義務又は表明保証としても定められている場合には、補償の請求の対象となり得ます。

おわりに

決済の当日は、それまでの数箇月の作業が一つの机の上で完結する日です。進行表と書類の一覧があれば、当日は淡々と進みます。逆に、これらがないまま集まると、確認のたびに手が止まり、信頼関係が損なわれます。日程を決める前に、必要な手続の所要日数を把握してください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 会社法第130条第1項
  • 会社法第133条第1項及び第2項
  • 会社法第215条第4項
  • 会社法第217条第1項、第2項、第3項及び第5項
  • 会社法第339条第1項及び第2項
  • 会社法第341条
  • 会社法第915条第1項
  • 商業登記法第54条第1項

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